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ユニクロを利用 ヘッジファンドが“乱高下3本の矢”を駆使してボロ儲け! (ZAKZAK) 
http://www.asyura2.com/13/hasan80/msg/417.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 6 月 11 日 19:11:00: igsppGRN/E9PQ
 

             乱高下が収まらない東京株式市場。波乱を呼ぶ正体は…


ユニクロを利用 ヘッジファンドが“乱高下3本の矢”を駆使してボロ儲け!
http://www.zakzak.co.jp/economy/investment/news/20130611/inv1306111811005-n1.htm
2013.06.11 夕刊フジ


 日経平均株価が600円を超す今年最大の上げ幅を記録した10日の東京株式市場。注目された11日の日銀の金融政策決定会合で追加緩和策は見送られ、市場の波乱要因はなおも残る。暴騰と暴落を繰り返す相場に生きた心地のしない個人投資家も多いなか、ヘッジファンドなど海外の投機筋は「先物」「ユニクロ」「アルゴリズム」の“乱高下3本の矢”を駆使してボロ儲けしている。そのカラクリと、投機筋暗躍の元凶はどこにあるのか。

 日銀は4月に決めた大規模な金融緩和策の継続を決め、景気判断を「持ち直している」に上方修正したが、追加緩和策は見送った。市場では長期金利の上昇抑制策として金融機関に年0・1%の固定低金利でお金を貸し出す期間を現行の最長1年から2年に延長するなどの手法が予想されていた。

 日銀の金融政策については「国債市場の不安定化や株価急落を受けて、市場の日銀に対する期待が必要以上に高まっており、現状維持にとどまれば失望売りリスクもある」(市場筋)との見方もあった。

 実際に金融政策の現状維持が発表された直後、東京外国為替市場の円相場が、1ドル=98円台後半から一時97円台まで円高ドル安が進行。日経平均先物も1万3500円台から1万3200円まで急落する場面もあった。

 このところの日経平均の乱高下についてカブドットコム証券チーフストラテジストの河合達憲氏は「大型連休明けの上げすぎの反動で下落し、今度は下げすぎの反動で上昇したと考えるべきだろう」と解説する。

 乱高下を演出しているのが、ヘッジファンドやCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)と呼ばれる商品投資顧問業者など投機筋だ。「CTAが主に取引するのは現物株ではなく、日経平均の先物やオプション。欧米系の証券会社を通じて先物を売り崩すことで、現物の日経平均も押し下げられる」(準大手証券ストラテジスト)という。

 先物が売られる際、現物株の最大の標的となるのが、ユニクロで知られるファーストリテイリング株だ。同社の株価は3万円台と高く、日経平均への寄与度が高い。つまり、ユニクロ株を上げれば日経平均が上がり、ユニクロ株が売られれば日経平均も下がるという展開になっている。

 「ヘッジファンドは現物株の売買ではユニクロを中心打者にしてうまくやっている」(河合氏)

 ヘッジファンドやCTA、機関投資家が取引する際、株価や出来高などに応じてコンピューターのプログラムによる売買を行うことが多い。それが「アルゴリズム取引」だ。

 「テクニカル分析で重要な下値抵抗を下回ると、損切り防止の見切り売りを自動的に出すといったプログラムが組まれている。こうした売りが大口の投資家から一斉に出るので、下落局面では下げが一段と加速し、上昇局面では一段と上げることになる」(前出の準大手証券)

 アルゴリズムのプログラムが作動するように、わざわざ売り込むヘッジファンドもあるというから蛇の道は蛇というべきか。

 こうした取引は相場操縦と紙一重の部分もあるが、海外の投機筋に対する規制当局の動きは及び腰だ。「外資系の投機筋に対して甘く、国内系の投機筋に厳しい点は否めない」(前出の市場筋)との批判もある。

 あるベテラン証券マンはこう指摘する。

 「投機筋を規制するとマーケットの活力が失われるのは事実だ。ただ、普通株の値刻みを10銭単位にすることが検討されていることを考えると、取引所がどちらを向いているのかよくわかる。大量の資金による超高速取引なら銭単位の利ざやでもガッポリ儲けられる」

 一方、前出の河合氏は「HFT(超高速取引)が乱高下を増幅させた要因にはなっているが、あくまでもトレードの手法にすぎない。相場の方向性を決めるのは投資家心理。7月の参院選ごろまでは個人投資家の警戒心は強く、上値はやや重いだろう」とみる。

 岩井コスモ証券投資調査部副部長の有沢正一氏は「マーケット経験則を頼りに動くが、このところの市場の混乱は日銀の異次元緩和や米国の量的緩和の出口戦略など“未体験ゾーン”に免疫がなかった要因が大きい」と語る。

 そして個人投資家に対してこうアドバイスする。

 「投機筋と同じ土俵で戦ってはいけない。今回の下げでトヨタ自動車が一時6000円を割り込むなど、企業の実態に比べると驚くほど安い銘柄がいくつか出てきた。ここが個人投資家にとっての本当のチャンスだ」

 米著名投資家のジョージ・ソロス氏のファンドは今回のアベノミクスによる円安株高で10億ドル(約980億円)以上を稼いだと言われるが、5月に大半の日本株を売却したとされる。そのソロス氏が先週末、日本円売りと日本株買いを再開させたとの観測が報じられた途端、東京市場は反発機運を高めている。

 「海外投機筋を清濁併せのんで、うまくコントロールするのが規制当局の役目」と前出の準大手証券ストラテジストは述べる。取引所や監督官庁はどんなメッセージを打ち出せるのか。


 

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コメント
 
01. 2013年6月12日 17:29:40 : e9xeV93vFQ
【第1回】 2013年6月12日 
いまなぜ解雇規制の緩和なのか
その背景&論点を整理する
ダイヤモンド・オンラインでは今回から、装いも新たにシリーズ連載「日本のアジェンダ」をスタートする。このシリーズでは、いまの日本の経済、政治、社会が直面している旬のテーマを取り上げ、各分野の専門家に賛成・反対の立場から記事や論考を寄せていただき、議論を深めていく。各テーマの初回は読者が議論を理解しやすいように、編集部が論点を整理する。テーマ1は「解雇規制の緩和」の問題だ。

なぜ解雇規制の緩和なのか


 現在、日本の労働市場では多くの人が、正社員として働くか、非正規社員として働くかの二者択一を迫られている。そうしたなか安倍政権は、日本の成長戦略と新しい雇用のあり方を考える上で、「成熟産業から成長産業への“失業なき労働移動”」と「(勤務地、時間、職種などを限定した)多様な正社員モデルの確立」を打ち出した。その目標自体には賛同する人も多いが、それを実現する方法論をめぐっては、様々な議論が巻き起こっている。その代表が、「解雇規制の緩和」だろう。

 6月14日に閣議決定される中で作成される成長戦略には、盛り込まれない方針となったものの、大企業を中心とした経営者の多くには解雇規制緩和指向が今も根底に残る。なぜいま雇用制度改革が争点となっているのか。また、解雇規制の緩和を行えば、日本経済は再び成長し、私たち労働者が働きやすい国になるのだろうか。

「解雇規制」が注目される背景

 現在、正社員と非正規社員は、それぞれ3281万人と1870万人(総務省統計局『労働力調査』2013年1〜3月期平均)。労働者に占める非正規社員の割合は36.3%で、3人に1人以上が非正規社員として働いていることになる。その正社員と非正規社員の平均賃金(年収)を比べると、正社員が317万円に対し、それ以外では196.4万円と、大きな格差がある(厚生労働省「平成24年賃金構造基本統計調査」)。

「正社員」とは仕事内容を限定しない、期間の定めのない雇用契約で働いている社員、「非正規社員」は仕事内容を限定した契約社員や、パートタイマー・アルバイト・派遣社員などのように期間を定めた雇用契約で働いている社員を指す。言い換えれば、安定的な雇用と相対的な高賃金を代償に、転勤・残業もいとわない無限定な労働を強いられるのが正社員で、正社員ほど無限定な労働は強いられないものの、雇用は不安定で賃金は低いというのが非正規社員と言えるだろう。

 非正規社員は一般的には正社員よりも短い時間で働くことが多い一方で、待遇面で正社員と大きな格差がある。例えば、給与が少ない(退職金、ボーナスがない)、雇用が不安定、キャリアアップがしづらい、といった点だ。

 バブル崩壊直後の1992年の非正規社員数は、958万人で現在の半分程度。一方の正社員は3705万人と、今より500万人も多かった。あれから20年。なぜ正社員がこれほど減少し、非正規社員が倍増したのか。それは、バブル崩壊後の低経済成長期において、企業が不況期を見据えて、解雇がしやすい非正規社員を雇用の“調整弁”として活用した点が大きい。正社員は解雇規制が厳しく、雇用調整が難しかったからだ。

 もともと非正規雇用は、主婦や学生などを主な担い手とするパートやアルバイトのように、世帯を支える正社員の働き手(一般的には成年男子)がいて、補助として収入を得る働き方の1つとして認知されてきた働き方だ。しかし、今では「正社員として働けない、就職できないから非正規をやむなく選ぶ」という若者が激増し、深刻な“若者の就職難”は社会問題化している。

 しかも一度、非正規社員になれば、再び正社員として働くことは難しい。したがって、出産や子育てによって時間的に制約される女性が、「正社員」をあきらめるか、出産をあきらめざるを得ないケースは非常に多い。こうした現象が起きるのは、日本の労働市場には大きく、正社員と非正規社員という2つの働き方しか用意されていないためだろう。

 では、低成長時代において、多くの人の雇用を確保しつつ、各々が自分のライフスタイルにあった働き方のできる社会にするには、どうすればよいのか。そこで安倍政権が雇用改革として打ち出したのが、「成熟産業から成長産業への“失業なき労働移動”」と「“多様な正社員”モデルの確立」である。

論点1.「金銭で解雇」を可能にしてよいか

 では、安倍政権の掲げる「成熟産業から成長産業への“失業なき労働移動”」を実現するには、何から始めればよいか。そこで出てくるのが、「労働市場の流動化」。要は、解雇規制が厳しいため、成熟・衰産業から成長産業への労働移動が進まないという問題意識だ。その際、論点の1つ目となるのが、「金銭によって解雇を可能にする仕組みをルール化するかどうか」だ。

 経済同友会の長谷川閑史代表幹事が3月15日の政府の産業競争力会議において、解雇を原則自由にするよう労働契約法の改正、再就職支援金の創設を提案した。その背景にあるのが、現行の解雇ルールがあいまい、かつ経営側には厳しいという問題意識である。

 現在、日本には正社員の解雇を規制する「解雇規制」がある。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められている。また、判例によって「合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」という解雇権濫用の法理が確立され、「整理解雇の4要件」(@人員整理の必要性、A解雇回避努力義務の履行、B対象者の人選の合理性、C手続きの妥当性)から、その妥当性が判断されることになっている。

 この要件を証明する手続きは非常に煩雑で、時間がかかるだけでなく、この法律の下では、「合理的な理由かどうか」が司法判断に委ねられ、裁判となった場合には最終的に金銭解決ができない(裁判で解雇無効になると現職復帰しか方法がない)。それでは、企業の側は結果を予測することが非常に難しいため、最終的に裁判で解雇無効の判決が出た場合に、金銭解雇できることをルールとして明確にすべきであるというのが、産業競争力会議での意見だ。

 解雇規制の緩和を主張する識者などからは、正社員が解雇しやすくなれば、終身雇用・年功序列といった日本型雇用慣行が崩壊し、これまであおりを受けてきた若者、女性、非正規社員の雇用が改善するという賛成意見が挙がっている。

 その一方で、解雇規制の緩和に反対する識者からは、失業者が増えるだけで雇用が不安定化する、雇用が短期化するという懸念も噴出している。

論点2.「多様な正社員」制度をつくる

 こうした解雇規制の緩和を主張する側、反対派ともに、日本人の働き方を見直すうえで「多様な正社員」の重要性を訴えている。これは、具体的には「ジョブ型社員」あるいは「限定社員」といわれるもので、正社員と同様に、無期労働契約を結びながら職種、勤務地、労働時間等が限定的な働き方である。

 一度、非正規社員になってしまったら、なかなか正社員になれない、戻れない。そんな現状から、非正規社員の働き方に希望を見いだせない若者や、出産・子育て等で追い詰められる女性社員は少なくない。そこで、今、政府内でも検討が進められているのが現状の正社員でも非正規社員でもない中間的な雇用形態の「ジョブ型社員」、「限定社員」だ。

 もし実現すれば、非正規社員にとっては正社員転換の機会に、正社員にとってはワーク・ライフ・バランス実現の方策となり、1人1人が満足する働き方を選択できる可能性が高まる。また、企業側は、地域や職種、労働時間を限定して採用した場合、その仕事がなくなれば解雇できるという契約も結べるため、解雇しづらいリスクを恐れずに人を雇うことができるようになる。

 一方、「ジョブ型社員」、「限定社員」には批判も広がっている。なぜなら、職種や勤務地、労働時間を限定するので、この条件が満たされなくなれば解雇ができる、つまり「解雇しやすい正社員」をつくることにならないかということだ。

「解雇規制緩和」は必要か、否か

 成熟産業から成長産業へ労働力を移動させ、個々人が自分のライフスタイルに合った働き方ができるように雇用制度を改革する。この目的に異論を唱える人は、ほとんどいないだろう。問題は、その実現に当たって、解雇規制の緩和に効果があるかどうかだ。

 だが、政府は参院選を意識してか、最も大きなこの問題を正面から取り上げず、金銭による解雇、限定社員という個別論から入ろうとしている。大きな方向性の議論を避けて、個別論を行えば、議論は錯綜してしまう恐れがある。

 雇用制度改革に向けて最も大きなカギとなるのは、「解雇規制の緩和」を進めるかどうかである。そこで、本アジェンダでは、解雇規制を(1)緩和すべき、(2)緩和すべきでない、との立場をご登場願う専門家に明らかにしていただいたうえで、次回以降、雇用制度改革議論を展開していく。

(ダイヤモンド・オンライン 林恭子)


【第9回・最終回】 2013年6月12日 山田 久 [日本総合研究所調査部長 チーフエコノミスト]
成長戦略の「後工程」
賃金引き上げをどう実現するか
――日本総研調査部チーフエコノミスト 山田 久
第2次安倍内閣発足から約半年、「アベノミクス」は家計・企業のマインドを変え、日本経済の縮小均衡トレンドに歯止めをかけた。この点は高く評価できる一方、これまで見てきた通り、副作用が心配される面や未着手の政策課題も多く残されている。

その意味で、第1回に述べた通り、真の経済財政の再生を目指すには現段階でのアベノミクスは「未完の政策体系」である。とりわけ非伝統的金融政策に重点を置いたいわゆるリフレ政策が大きく先行した現在の状態を、よりバランスのとれたものとするには、@第3の矢である成長戦略を効果的なものとすること、および、A第4の矢として財政再建の道筋を示すこと、の2点が喫緊の課題である。

このシリーズでは、このうちAの財政再建について基本的な考え方については河村が論じ、財政再建のための個別分野として最大のポイントになる社会保障制度改革については西沢が述べてきた。そこで、最終回となる本稿では、@の成長戦略をいかに効果的なものとするか、という点について考えよう。

政府の成長戦略を
どう評価するか

 成長戦略に対する、安倍内閣のこれまでの取り組みを振り返ると、3月中旬にTPPの交渉参加表明が行われ、産業競争力会議や規制改革会議において民間有識者による議論が精力的に行われてきた。

 そこでの議論を踏まえ、安倍首相は、4月に成長戦略第1弾として医療・女性・若者にフォーカスをあてた施策を進める方針を示し、5月には民間設備投資の1割増や農業・農村の所得倍増に取り組む第2弾を発表した。さらに、6月5日には「国際戦略特区」の創設や、エネルギー、医療、インフラ整備といった「官業」の開放方針を謳った第3弾を明らかにし、同日の産業競争力会議で「産業再興」「市場創造」「国際展開」を3つの柱とする成長戦略・素案が示された。この素案をもとに6月14日には正式に現政権の成長戦略が公表される段取りである。

 これまでの取り組みを評価すると、何よりもTPP交渉参加を表明した意義は大きい。人口減少・貯蓄率低下という資源制約に直面するわが国が、今後潜在成長率を引き上げていくには、グローバルな産業連関ネットワークの中に国内産業活動を位置付け、比較優位分野・戦略分野にヒト・カネをシフトすることが不可欠である。

 そのためには、日本にとってはつながりの深いアジア・太平洋地域で比較優位が活かせるよう、知的財産権などの関税以外も含めた広い分野で経済連携協定を広げていくことが重要な政策課題となる。そうした文脈からすれば、日本のTPP交渉参加表明は、それがRCEP(東アジア地域包括的経済連携)をはじめとしたその他の広域FTAの交渉の導火線となったという点でも、極めて大きな意義があったといえる。

 成長戦略への取り組みも、次々に首相自らメッセージを発してきたことには意気込みを感じられる。個別施策をみても、「日本版NIH」の創設や「国家戦略特区」の設置など、既得権の壁を破るための仕掛けを工夫していることも歓迎される。その一方で、法人税率の引き下げは見送られており、農業などの規制改革も踏み込み不足の感が否めない。

 だが、そもそも成長戦略とは策定すること自体が目的ではなく、いかに取り組みを継続して実行していくかが重要である。その意味で、定期的に政策の成果をチェックし、必要に応じて施策を修正・追加していく、いわゆるPDCAサイクルを作り出すことが求められる。素案には「常に進化し続ける成長戦略」を目指す、とあるが、その有効な仕組みづくりが本当にできるかどうかが最大のポイントといえる。

 しかし、その点がうまくいったとしても、不十分な点が残っている。これまで幾度となく策定されてきた成長戦略に共通する弱点であるが、それは基本的には供給力強化の発想に立ったもので、需要力の強化という視点が弱いという点である。

 そもそも経済成長とは供給サイドの強化と需要サイドの拡大が相まって持続的なものとなる。金融財政政策が需要サイド拡大策ということかもしれないが、それはあくまで一時的な効果である。経済成長のメカニズムからすれば、最大の需要主体である家計の購買力=所得が増えていかなければ、持続的な経済成長は不可能である。端的に言えば、賃金が持続的に増えていく状態が生み出されなければ、中長期的な経済成長は期待できず、デフレの完全脱却も達成できない。従来型の供給力強化策が成長戦略の「前工程」とすれば、「後工程」として需要力強化策=家計所得増加策に取り組む必要がある。

賃金下落の底流には
「攻めのリストラ」の停滞

 では、そもそもなぜ賃金の下落基調が続いてきたのか。これには2つのファクターが考えられる。一つは付加価値労働生産性の低迷、もう一つは労働分配率の低下、である(賃金=人件費÷労働者数=付加価値額×労働分配率÷労働者数=付加価値労働生産性×労働分配率)。

 付加価値労働生産性の低迷からみてみよう。製造業のケースで、付加価値労働生産性と物的労働生産性の関係を80年代と2000年代で比べてみると、物的生産性の上昇ペースは大きく変わらない一方、付加価値生産性の低迷が目立ってきている(図表1)。これは、日本企業の品質向上や製品開発へ取り組み自体は必ずしも従来比劣っているわけではないが、端的にいえば事業が儲からなくっているということを意味する。


 この背景には、収益性を犠牲にしても一定の販売量を確保しようという日本企業の行動様式がある。そうした日本企業の行動様式を底流で規定しているのが、労働市場・雇用慣行の在り方である。わが国では10年以上にわたって平均賃金が下落しているが、実は世界的にみれば異例である。欧米では労働組合は賃上げに固執する一方、雇用契約が特定職務を前提にしているため、事業再編に伴う整理解雇は受け入れやすい。これに対し、わが国労働組合は雇用維持が最優先であり、雇用が守られるならば賃金引き下げを比較的容易に受け入れるというスタンスがある。さらには、欧米の組合であれば強く反対する、非正規労働者の増加や正規・非正規の賃金格差を黙認してきた。

 そうした状況下、企業は低収益事業について撤退の決断をするよりも、人件費を削減して雇用を守ってきたのである。否、雇用を守るというのは逃げ口上で、将来を見越した事業戦略が描けず、コスト削減にかたよった経営戦略を安易に選択してきたということかもしれない。さらには、政府も、既得権者への配慮から様々な参入規制を温存し、経営不振企業の延命措置を講じてきた。

 こうして、不採算事業からの撤退や経営不振企業の退出が必要最小限にとどめられ、国内では過当競争状態が温存させられる一方、グローバル市場では価格競争に巻き込まれる状況が生まれてきた。そうしたなかでの、賃金の引き下げが国内消費を低迷させ、ますます値下げ競争を激化させ、それがコスト削減のための賃金引き下げをもたらすという、悪循環が生まれてきたのである。

 こうした構図を打破するには、企業が不採算事業から撤退し、高収益事業に経営資源をシフトできる状況を作り出す必要があり、それには労働市場の流動性向上が重要な課題になる。ただし、ここで留意すべきは、それが解雇規制を緩和すればよい、という乱暴な主張にはなりえないことである。

 そもそもわが国では従来、成文法が制限する解雇規制は必ずしも厳しくはなかったが 、1970年代に解雇権濫用法理と呼ばれる判例法理が確立され、2000年代に入って法律上明文化された。解雇のうち、経営上の理由による「整理解雇」については、@人員削減の必要性、A解雇回避の努力、B人選の合理性、C手続きの妥当性という、「整理解雇の4要件」が満たされなければならないという「整理解雇法理」が形成され、今日まで慣例として整理解雇は回避すべきという社会的な規範が存在する。

 ただし、それは主に大手企業の間の話であり、中小・零細企業の間では、事実上の整理解雇はかなり自由に行われている。さらに、大企業では整理解雇が難しいとされているが、90年代末以降、割増退職金をインセンティブとした「希望退職」という、少なくとも形式的には「解雇」を避ける形で、不況期にはかなり自由に人員リストラは行われるようになってきている。

 しかし、好況期の企業業績が良い時にいわゆる「攻めのリストラ」を行うことは容易ではなく、ここに問題の所在がある。本来、景気拡大期には新たな雇用の受け皿が生まれ、労働移動が活発化する。しかし、90年代末以降、景気悪化時に労働移動が増加し、逆に景気回復時には低迷している。低成長が続き、景気回復時でも雇用の受け皿が少ないためでもあるが、企業・働き手ともに、守りの姿勢を強めていることの影響が見落とせない。

 とりわけ2000年代半ばには息の長い景気回復が続き、90年代後半期に問題化した構造的な不採算事業を整理し、新たな成長分野にヒト・カネを移動させる好機が訪れていた。しかし、景気回復によって危機感が薄れ、2000年代初めの大規模人員削減のトラウマもあって、リストラクチャリングの取り組みは弱まった。この時期の労働移動率は、2000年代初めに比べてむしろ低下したのである(図表2)。その後、世界金融危機で再び構造問題が吹き出し、大規模な人員削減を余儀なくされるケースが発生している。


官民共同出資の
「人材ブリッジ会社」創設を

 このように、本来は好況期に整理解雇を認めることが経済的には合理的なのであるが、現実には生身の人間が関わる問題であり、簡単には進まない。好況期だからといっても、中高年の新たな就職口が見つかるかは不確実であり、とりわけ大手企業に残る年功賃金を考えれば、物理的に就職口が見つかっても、賃金面で受け入れられないケースも多い。

 そこで、こうしたジレンマを打破する手法として、官民共同出資の「人材ブリッジ会社」の創設を提案したい。この共同出資会社は、不採算事業から撤退する企業から人材と出資を受け、政府からの支援を得つつ、必要に応じて職業訓練も提供しながら、受け入れた人の能力を活かす業務請負を行う。この間、人材を提供した企業は戦略分野の強化に注力し、経営再建後の再雇用を目指す。ブリッジ会社は、転職希望者の支援も行うこととすればよいだろう。

 このように、政府が積極的に関与すると同時に企業も十分な責任を果たすことにより、失業なき労働移動を目指すべきで、労働組合も雇用流動化を受け入れていく姿勢に転じることが望まれる。もちろん、こうしたスキームを活用する前に検討すべきことがある。企業が事業構造転換を行うに際し、企業内で人員再配置と職業再訓練を行うことをまずは考えるべきである。事業交換や事業売買で企業が各々の得意分野に経営資源を集中させ、事業譲渡に伴って従業員もそのまま企業間を移動するのも重要な選択肢であろう。しかし、日本経済全体の活力が低下している現状、ダイナミックな産業構造転換を進めるには官民共同出資のブリッジ会社を創設し、衰退事業整理と成長事業促進の間のタイムラグを埋め合わせることで、失業なき労働移動を実現することが必要となる。

 そのほか、職種や勤務地が選べ、その限りで雇用が保障される「限定型正社員」が普及すれば、企業は事業の撤退・新規参入が容易になり、企業成長の促進と新たな雇用増につながる効果が期待できる。ただし、この「限定型正社員」を働き手にとって一方的に不利なものとしないことが重要である。今の正社員は職種や勤務地が選べないが、限定型正社員の場合はそれが選べるというメリットがある。半面、企業が限定型正社員の従事する事業から撤退したり、事業所を閉鎖する場合、雇用契約が解除されることが想定されるが、この時、再就職先が見つかるかどうかは不確実である。

 したがって、再就職支援や退職金制度の整備といった企業責任を明確化する必要があり、これを支える政府支援も充実させることも求められる。そのほか、従来型正社員との均等待遇が保障されることが必要不可欠であり、従来型正社員との相互転換ができるようにもしなければならない。そうなれば、@非正規として働く若者の正規化の受け皿や、A子育てと仕事を両立したい従業員の受け皿、そのほか、B65歳までの雇用延長とセットとしたシニア従業員の受け皿など、ライフステージに応じて働き手が働き方を選択できるようにもなるだろう。

 以上のように、好況期の事業再編がしやすくなり、企業の収益性が向上しても、それは賃金引き上げの必要条件であって十分条件ではない。なぜならば、わが国では企業収益向上を賃金上昇に反映させるメカニズムが壊れているからである。つまり、「付加価値労働生産性の低迷」と並んで賃金下落のもう一つのファクターである「労働分配率の低下」が問題なのである。この問題が顕在化したのは2000年代半ばの局面である。企業が史上最高益を上げるなか、賃金は上昇しなかったのである。

 この原因は、生産性に見合って賃金を引き上げるという、80年代までは存在していた労使間のコンセンサスが、バブル崩壊以降崩れてしまったからである。90年代は景気の急激な悪化で労働分配率が高止まりし、企業は非正規比率の引き上げや賃金決定の個別化(いわゆる成果主義)により、「春闘」で賃金を底上げするという仕組みを崩してしまった。転職市場が未成熟なわが国では、米国のように人材の取り合いで好況時に賃金が上がるというメカニズムが働かない。賃金の持続的上昇を実現するには、やはり生産性に見合って賃金を決めるという、80年代までにあった労使間の合意を復活させる必要がある。

短期の痛みを受け入れ
長期の成果を得る「政労使合意」

 このように、「付加価値生産性の低迷」と「労働分配率の低下」の双方に賃金下落の要因があるが、前者は労働組合の雇用維持スタンスに、後者は経営の賃金抑制スタンスにそれぞれ起因する問題である。

 そこで、仲介役として間に政府が入って、労働組合には失業なき雇用流動化のための施策、経営には事業再編への支援策をそれぞれ強力に支援することを提案すべきである。そのうえで、労働組合は雇用流動化を、経営サイドは賃金引き上げを、それぞれ同時に受け入れるという、政労使の三者合意を形成することを期待したい。そうした政労使合意を結ぶことができれば、生産性向上に裏打ちされた持続的な賃金上昇の展望が開けるであろう。

 以上のように考えれば、手続き論として、成長戦略の立案・実行にあたって労働組合にも積極的な関与を求めることが重要である。具体的には、産業構造ビジョンの策定および労働市場改革についての「政労使協議会」を、首相直属の機関として設置すべきである。この協議会を通じ、中長期的な産業構造の在り方のビジョンが共有され、その実現に必要となる働き手のスキル転換・労働移動を支える現実的な解決策が得られ、改革が進みだす。

 もはや個別の政策を巡って経営側と労働側が対立し、改革が停滞することは許されない。より包括的視点に立ち、短期的には痛みを受け入れても長期的な成果を得るというダイナミックな発想のもとで、持続的賃金引き上げのための取り組みが本格化することを期待したい。
http://diamond.jp/articles/-/37279


【第100回】 2013年6月12日 森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
「ダム論」の再検討
〜賃金上昇を伴うデフレ脱却を目指して〜
――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト
デフレ脱却を見通す上で
「ダム論」を再検討

 日銀は「総合CPI(消費者物価指数)で前年比2%」という「物価安定の目標」の下、「量的・質的金融緩和(QQE)」を行っている。ただし、単にCPIが上がればよいというものではない。実体経済の改善に裏付けられる形で、賃金が上がらなくてはならない。

 2000年代初頭のゼロ金利解除時に盛んに使われた「ダム論」に立つのであれば、ダムを超えて川が下流に流れるように、企業の利益が家計に分配され始める(=賃金増)のはいつだろうか。そのために我々は、「ダムの水量」(企業の利益)、「ダムの高さ」(損益分岐点売上高比率)、「ダムの水圧」(設備投資)を見る必要がある。

経常利益(ダムの水量):
リーマンショック前に近づいたが
構図は「引き算型」

「ダムの水量」である日本企業の利益(ここでは経常利益)から見てみよう。今月、財務省より発表された『法人企業統計』(1〜3月期)によると、経常利益は昨年7〜9月期の年率48.7兆円(季節調整済み)を底として、今年1〜3月期には同53.0兆円まで増加した(図表1参照)。これは、リーマンショック前の2007年10〜12月期の同58.0兆円に迫る水準だ。


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 ただし問題は、利益の増加が売上高の伸びを伴う「足し算型」か、コスト削減による「引き算型」かだ。そこで経常利益の前年比変化率を@売上要因、A人件費要因(逆符号)、B中間投入など要因(逆符号)、という3つの要因に分解してみた。

 すると、足下で利益を押し上げているのがBの「中間投入など要因」であることがわかる(図表2参照)。要するに、人件費以外のコストを圧縮することで利益を創出する構図であり、足下の増益はコスト削減が主導する「引き算型」の色合いが濃い。


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損益分岐点売上高比率(ダムの高さ):
大企業は低下、中堅・中小企業はまだ高い

 企業の利益がダムを超えて家計に分配され始める時期を探る上では、「ダムの高さ」も知る必要がある。

 ダムの高さを左右する重要な要因として、損益分岐点売上高比率が挙げられる。たとえば同比率が高いとき、売上高が少し減るだけでも、当該企業は赤字に陥りやすい。そのような状況では、多少売上高が伸びたとしても、賃金など固定費の増加に踏み切れないであろう。

 つまり、その企業にとって「ダムはまだ高くて超えられない」ということになる。したがって、損益分岐点売上高比率が高い(低い)とき、ダムは高く(低く)、売上が賃金として分配されにくい(やすい)と解釈できる。

 前出の「法人企業統計」に基づいて、損益分岐点売上高比率を計算した(図表3参照)。まず目に付くのは、大企業(資本金10億円以上)、中でも製造業で同比率が下がっているということだ。実際、1〜3月期の大企業・製造業の同比率は79.9%(当社による季節調整値)と、約5年ぶりに80%を下回った。


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 一方、中堅・中小企業(資本金10億円未満)は91.7%と高い。大企業のような下落傾向も見て取れない。中堅・中小企業では、人件費を主な「原材料」とする非製造業の割合が高いため、大企業のように柔軟に損益分岐点を引き下げるのは難しいであろう。

 現在の損益分岐点比率を所与とすると、大企業は今後、売上高の増加に歩調を合わせて人件費を増やす(=川がダムを超える)ことは可能と見られる。しかし、中堅・中小企業の場合、売上高が伸びたとしても、人件費などの固定費を増やすことには当面、慎重にならざるを得ないであろう。「金融緩和によって物価が上がるとしても賃金も上がるから心配ない」と言える状況に至ってはいない(注1)。

(注1)なお「物価と賃金のどちらが早く上がるか」というのは実質概念(ここでは実質賃金)についての議論である。金融緩和によって物価や賃金という価格変数が上がる可能性はあるが、「物価より賃金の方が早く上がる(実質賃金の増加)」ということを金融政策で確定的に論じることはできない。労働分配率を一定とすると、実質賃金の増減率は労働生産性の変化率に一致する。したがって、労働市場に触れないで物価と賃金を相対的に語ることはできない。
設備投資(ダムの水圧):
「下値抵抗線」に接したまま

 最後に「ダムの水圧」だが、それは設備投資で代理することができよう。設備投資が積極的に行われているときは、企業が強気の将来見通しを立てている可能性が高い。その場合、同じ利益(ダムの水量)、同じ損益分岐点売上高比率(ダムの高さ)でも、労働需要の強まりを通じて賃金の増加を期待できる。

「法人企業統計」によると、企業は1〜3月期にかけて設備投資に慎重であった。日銀短観における業況判断DIを「企業マインド」とすると、設備投資は「企業行動」と解釈できる。足下で見られる特徴は、設備投資が出遅れるという形で企業マインドと企業行動が大きく乖離していることだ(図表4参照)。


 企業の設備投資に対する慎重姿勢は、別の角度からも見えてくる。日本の設備投資については(i)キャッシュフローが「先行指標」、(ii)減価償却費が「下値抵抗線」、という関係が見られる(図表5参照)。しかし、先行指標であるキャッシュフローがすでに反発しているにもかかわらず、設備投資は下値抵抗線である減価償却費に接したままだ。


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 ここから、設備投資について@多額のキャッシュフローが生じている中、資本コスト(長期金利など)は大きな制約にはなっていない、A企業は減価償却を上回る設備投資(生産能力増強型の設備投資)の必要性を認識していない、という点が推察される。

 現行の「量的・質的金融緩和」は、デフレ期待に終止符を打とうとする点において意義が大きい。しかし、「賃金(厳密には実質賃金)の増加を伴う」という条件を満たすには、「第3の矢」である成長戦略を果敢に進める必要がある。とりわけ労働市場の流動性向上が欠かせない。

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