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景気が良いのは、円安で潤う大企業のみ なぜマスコミは日銀短観の事実を曲げて伝えるのか (週刊東洋経済) 
http://www.asyura2.com/13/hasan81/msg/272.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 7 月 22 日 10:24:00: igsppGRN/E9PQ
 

景気は本当によくなっているのか(撮影:今井 康一)


景気が良いのは、円安で潤う大企業のみ なぜマスコミは日銀短観の事実を曲げて伝えるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/15647
2013年07月22日 野口 悠紀雄 :早稲田大学 ファイナンス総合研究所顧問 東洋経済オンライン


日本銀行の6月短観(全国短期経済観測調査)は、「企業の景況感が大幅に改善されたことを示す」と報道された。そして、安倍政権が参院選で政策効果をアピールする材料に使われるだろうとも報道された。しかし、内容を詳細に見ると、こうしたトーンの報道とは大分異なる姿が浮かび上がる。

上の報道は、業況判断指数(DI)が、大企業製造業で4となったことを根拠としている。3月調査ではマイナス8だったので、12ポイントの改善だ。2期連続で改善し、2011年3月調査(6)以来の高水準になった。

これは事実である。しかし、大企業製造業は全体の中の一部分であることに注意しなければならない。中小企業のDIは、製造業がマイナス14、非製造業がマイナス4だ。

日本経済全体の姿を示す「全産業、全規模」で見ると、6月のDIはマイナス2だ。3月のマイナス8に比べれば改善したものの、マイナスである。つまり、景気が「悪い」と答えた企業のほうが、「良い」と答えた企業より、依然として多い。

業況判断の3項目からの選択肢別社数構成比で見ると、さらにはっきり分かる。圧倒的に多いのは、「さほど良くない」との回答なのである。この選択肢が、製造業でも非製造業でも、大企業で74%となっている。「さほど良くない」と「悪い」を合わせると、製造業では大企業で85%、中小企業で86%、非製造業では大企業で81%、中小企業で84%だ。

つまり、6月の短観を虚心坦懐に読めば、「日本企業経営者の圧倒的多数は、景気の先行きについて悲観している」ということだ。新聞等の報道は、ミスリーディングだ。

なお、3月短観の際にも、新聞の見出しは「景況感が大幅に改善」というものだった。この時は、改善したのは事実だが、ほとんどの指数がマイナスだった。この時も虚心坦懐には、「DIは依然マイナス」というべきだったのである。短観をめぐる報道には、意図的なバイアスがあるように思えてならない。多くの人は、新聞やテレビの報道だけを見て、原資料を確かめない。そうすると、誤った判断を持つことになる。

■円安恩恵を受ける企業と受けない企業の大きな差

大企業製造業のDIがプラスになった原因は、円安が進んだため、輸出企業を中心に利益が増加したことだ。なおこの背景を、「輸出の回復」としていた報道が多いが、輸出量は減少していることに注意しなければならない。円安によって、円建ての輸出価額が増加しただけのことだ。他方で中小企業は、円安の恩恵をあまり受けない。DIがマイナスなのは、そのためだろう。

大企業非製造業のDIがプラスになるのは、建設、不動産の影響が大きい。これは消費税引き上げ前の駆け込み需要のためと考えられる。だからアベノミクスの効果ではない。

13年度の経常利益(計画値)の前年度に対する増加率を見ると、全規模では、全産業5.2%、非製造業1.2%であるのに対し、製造業が11.9%となっている。輸出産業を中心として製造業が利益を伸ばしているのが分かる。

ただし、その傾向が著しいのは大企業である。製造業を規模別に見ると、大企業が14.6%(うち素材産業6.0%、加工産業18.8%)、中堅企業が3.4%、中小企業が6.1%だ。規模によってこうした著しい差が生じるのは、円安による売上増を享受できるのが主として大企業であること、円安による原材料価格高騰の影響を受けるのが中堅、中小企業であることを示している。

http://tk.ismedia-deliver.jp/mwimgs/4/3/570/img_4339aa4c92e52768e5f6087018fcb89344083.jpg


この点を確かめるために価格判断を見ると、次のとおりだ。

業種や規模によらず、仕入れ価格については「上昇」が「下落」を上回り、販売価格については逆になっている。つまり、円安によって原材料価格が高騰したが、それを販売価格に転嫁できないのだ。

ただし、詳しく見ると、「上昇」−「下落」は、仕入れ価格で中小企業の数字が大企業を上回る。また、販売価格の差の絶対値は、大企業ほど小さい。製造業、素材産業の大企業は、販売価格について「上昇」が上回っている。

つまり、円安による原材料価格の高騰を、大企業は中小企業に対してある程度転嫁できるが、中小企業は販売価格に転嫁できないのだ。

雇用の面を見ると、円安で利益が増えた大企業製造業も、雇用を増やす姿勢を見せていない。12年3月と13年6月を比較すると、雇用人員判断(「過剰」−「不足」)は11から8に低下している。つまり、過剰感が減少しているものの、依然として過剰判断だ。新卒採用計画(前年比)は、12年度の6.5%から13年度2.6%に低下している。

中小企業は原材料価格の上昇を価格に転嫁できにくいので、企業収益が大きく改善せず、これが賃金、雇用減につながるだろう。中小企業・小規模事業者は国内企業全体の99.7%を占め、雇用者数は7割に達するので、影響は大きい。これは、法人企業統計に見られる状況と同じだ。中小企業が多い地域では、景況感は改善しないだろう。

これから大企業と中小企業の「二極化」が拡大する可能性がある。

政府は、飼料や漁船用燃料の価格高騰に補助策を講じることとした。これは、円安が問題だと認めたことを意味する。今後、原料価格高騰対策の政治的要求が強まるだろう。

■設備投資総額が増加するとは考えにくい

設備投資計画は、大企業製造業で13年度は前年度比6.7%増、中小企業では10.5%増だ。これを見て、「今後設備投資が増加する」とする考えもあるのだが、次の4点に注意が必要だ。

第一に、例年6月調査の数字は、年内で最高の値を示す傾向がある。大企業製造業の6月の値を12年6月と比べると、かなり低い(ただし、中小企業の値は、12年より13年が高くなっている)。つまり、円安によって利益が大幅に増えた大企業製造業も、設備投資を本格的に増やそうとはしていないわけである。

第二に、生産・営業用設備は依然として過剰判断だ。「過剰」−「不足」の指数が、製造業は規模によらず10以上のプラスだ(全規模は12)。

したがって、製造業における設備投資は、生産能力増強や新規事業のための本格的な設備投資でないと考えられる。これまで先送りしてきた古い設備の更新や、省エネルギー化や防災に関する投資が増えたためだと言われる。製造業の多くの企業が海外シフトを既定方針にしている。こうした中で企業が収益を国内の設備投資に向けるか、大きな疑問だ。

第三に、非製造業の13年度計画は前年度比マイナス0.2%だ。中小企業はマイナス17.1%だ。現在の日本では、非製造業の設備投資が製造業の約2倍になっている。設備投資の総額が増加するとは考えにくい。

第四に、資金の借入金利水準判断が上昇している(全産業、全規模で、「上昇」−「低下」が、3月のマイナス8から6月にはマイナス1になり、「先行き」は13になった)。金利の先高観が意識され始めたわけである。貸付金利が今後上昇すれば、設備投資に対して抑制的な効果が生じるだろう。

(週刊東洋経済2013年7月20日号)


 

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コメント
 
01. 2013年7月22日 19:52:50 : niiL5nr8dQ
2013年 7月 22日 17:46 JST
円安対策に乗り出した各国企業 
By NICOLE HONG
[image]
Hawaiian Airlines
ハワイアン航空では、日本市場への依存を軽減するため、オーストラリアやニュージランドへの便を増やしている

 海外でビジネスをしている企業は通常、金融商品を利用して為替の変動をヘッジしている。しかし、今年に入って円の下落基調が続いており、企業の多くは製品の値上げやコスト削減、業務の見直しなど追加的措置を取っている。

 経済再生に向けて日本銀行が今年始めた大規模な刺激策によって、円の価値は他の通貨に対して急落した。ここ最近で、最も弱含んだ5月後半には、円はドルに対して7カ月で31%も下落した。主要通貨がこれほど急落したのは前例がない。円はそれ以来、やや回復したものの、足元では依然年初と比べて対ドルで約16%も低い。

 「われわれはあらゆる種類のヘッジを行っている。しかし、日本円については、かつてないほど下落するという現実に直面している」。医療機関向けのにきび治療薬などの美容医薬品の製造・販売を手掛けるイスラエルのシネロン・メディカルのヒューゴ・ゴールドマン最高財務責任者(CFO)はこう話す。円の下落によって、それら製品のドル建ての売上高は目減りしている。「とにかく効率化と節約に努めるしかない」とゴールドマン氏。

[image]
円の対ドル価格の推移(単位:円)

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 ゴールドマン氏によると、日本の売り上げは同社の売上高の約10%を占め、円安で1−3月期の売上高は70万ドル(約7000万円)減ったという。同期の総売上高は6120万ドルだった。

 米高級衣料大手ラルフローレンや米高級宝飾品大手ティファニーなど、円安に対応して日本での小売価格を値上げしている企業もある。しかし、ゴールドマン氏は、シネロンの場合は、競争力を維持するためには値上げはできないため、日本での一部雇用やマーケティングキャンペーンの延期などによってコストを削減していると話す。

 一方、ハワイアン航空を運営するハワイアン・ホールディングスのマーク・ダンカーリー最高経営責任者(CEO)は、日本の顧客にとっては円安の影響で同社の航空運賃は値上がりしているが、それら顧客からの需要は変わらないと話す。それでも同社にとって円での売上高の価値は目減りしているため、円よりも通貨の下落率が低いオーストラリアやニュージーランドの往復便を増やし、日本向けの便の同社ビジネスに占める比重を減らしているという。日本が現在同社のビジネスに占める割合は11%と、昨年の14%から減っている。


 

 


 


 


 

2013年 7月 22日 08:42 JST
日本の投資家にとっての次の疑問点 
By KANA INAGAKI AND YUMI OTAGAKI
 【東京】21日の日本の参議院選挙で与党自民党が圧勝したことで、今後数カ月間は株式が下支えされ、円の為替レートも抑制されるだろうが、投資家の信頼をもっと根本的に高められるかは、安倍晋三首相が市場に受け入れてもらえる経済計画をやり遂げられるかどうかにかかっている。

 自民党と連立を組む公明党が過半数を制し、衆参両院を支配することで政府は経済成長戦略などの法案を通過させることが可能になるため、市場にとってはプラスだ。

画像を拡大する
image
Bloomberg News
東京証券取引所

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 しかし、安倍首相率いる自民党は単独過半数には及ばなかったため、アナリストは、ヘッジファンドなどの一部の外国投資家が失望し、円相場が一時的に上昇する可能性があると指摘している。一部の投資家は、自民党の単独過半数によって、景気を押し上げ、円安をもたらし、企業利益を高めるという安倍氏の政策実行が円滑にできるようになると期待していた。

 野村証券のチーフ為替ストラテジスト、池田雄之助氏は投票日直前に行われた同社の投資家調査に言及し、「多くの海外勢が自民党の単独過半数の確率がそれなりにあるとみていた。そういうことを踏まえると、多少利益確定の円買戻しが出てくると思う」と述べた。同氏は22日のアジア市場で円は1ドル=99円に上昇する可能性があると見ている。先週末19日遅い時点でのニューヨーク市場の円は100円64銭だった。同氏は年末には100〜105円になると予想。これは他のアナリストと同じ見通しだ。

 一部のファンドマネジャーは株式について、参院選の結果が若干の強材料になるが、大きな上昇はないとみている。ただ弱気市場に入っていた日経平均は、わずか1カ月であと2.4%で強気市場というところまで戻した。投票日が近づくにつれて6月半ばの安値から17%上げている。強気と弱気は通常、市場のターニングポイントから20%の幅で上下に動いた場合を言う。

 今後の関心は、税制改正、貿易など規制の緩和という、長い間避けられてきた政策を安倍首相がどう進めるかに集まっている。大和住銀投信投資顧問のファンドマネジャー、窪田真之氏は「選挙前のリップサービスが色々あった」とし、主要先進国の中でも最も高い部類に入る法人税率の引き下げ問題を指摘。選挙後は「何がリップサービスで何が本音だったのかは選挙後の政策を見ないといけない」と述べた。

 投資家はまた、大勝を受けて、既得権を守ろうとして安倍首相の計画に反対する人たちの勢いが強まり、自民内部に対立が勃発する可能性があると懸念している。

 バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのストラテジスト、神山直樹氏は、先週末19日に1万4589円91銭で終わった日経平均は年末までに1万5500円にしか値上がりしないと予想。「マーケットのフォーカスはアベノミクスや日本の国内問題からグローバル、アメリカの経済に移ると考えている」と指摘した。

 投資家は特に、安倍首相が5%の消費税を来年から2段階で倍に引き上げる計画を実行するかどうかに注目している。この増税の延期はいかなるものでも、現在日本の経済規模の倍以上に膨れ上がっている日本の公的債務への懸念から、日本国債の売りにつながり、利回りは急上昇すると広く予想されている。

 今のところ、債券市場での選挙後の反応は小さいと見られている。これは選挙の結果、首相は消費税引き上げに果敢に取り組めるからだ。みずほ証券のシニア債券ストラテジスト、早乙女輝美氏は、財政再建の第一歩は消費税引き上げの実行だ、選挙結果が債券売りの理由にされることはないだろうと述べた。

 安倍首相の顧問の1人であるエール大学の浜田宏一教授が今増税すれば初期の段階にある経済成長が行き詰まる恐れがあると警告しているため、首相は増税時期を先延ばしするかもしれないとの見方が出ている。首相は21日、「非常に難しい判断になるだろう。景気はやっと今入り口に入り、15年続いたデフレを脱却できるかもしれないチャンスをつかんだ。何とかこのチャンス逃したくない。同時に、財政再建をマーケットは見ている」と語った。

 投資家は、増税が政府債務の不安を鎮める一方で、景気を鈍らせ、日本株式の売りにつながる可能性もあるもろ刃の剣であるため、どのような決定をするにせよ、首相が市場を満足させるのは難しい挑戦となるとみている。東京海上アセットマネジメント投信のシニアファンドマネジャー、久保健一氏は、消費税引き上げ計画が進められれば、年末にかけて日本株を売る公算が大だとし、日経平均は来年初頭には1万2000円〜1万3200円周辺まで下落すると予想し、この問題ですべてが丸く収まる「百点満点の選択はない」と語った。


02. 2013年7月23日 00:46:50 : niiL5nr8dQ
円安は4−6月期の企業収益の押し上げにも寄与

「Jカーブ」で見る国際収支

2013年7月23日(火)  権田 直

 2012年11月末以降、ドル円レートは約20円程度減価し、急激な円高修正の動きがみられる。しかしながら、我が国の2012年1−3月期の貿易収支は、約3.1兆円の赤字となっており、赤字幅が拡大している。2011年の東日本大震災以降、原油やLNGといった鉱物性燃料の輸入が増加したこと、海外経済の減速などを背景として輸出が低迷したことなどが背景にあると言われている(図1)。

 一般に、円安になれば、輸出品の価格を引き下げやすくなるため、海外での販売競争力が高まり、日本の輸出産業に有利になる。また、海外からの輸入品の価格は上昇するため、国内では国内産業に有利になり、輸入は減少する。このため、輸出が増え、輸入が減ることから、貿易収支を改善させると考えられるが、逆の現象が起きているのはなぜだろうか。

 これは「Jカーブ効果」という現象で説明できる。以下では、為替レートの変化が貿易収支に対して与えるメカニズムとして「Jカーブ効果」を紹介するとともに、企業収益にどのような影響を及ぼすか考える。

図1 我が国の貿易収支の推移

円安は貿易収支の赤字幅を一時的に拡大させる

 「Jカーブ効果」とは、どのような現象のことを指すのだろうか。

 まず、円安になれば、外貨建ての輸出価格は不変でも、円換算した輸出額は増加するため、当初、輸出金額は増える。また、輸入品の円建て価格が上昇するため、一時的に輸入金額は増加する。我が国の輸出の外貨建て契約比率は約6割であるのに対し、輸入は約8割である。このため、輸出価格よりも輸入価格の上昇幅が大きくなる。

 一方、円安になると、円建て取引額を維持しつつ、外貨建て契約価格をある程度切り下げて価格競争力を上げ、現地での販売数量の増加につなげることができる(輸出数量の増加)。また、円安により輸入品の価格が上昇すると、競合する国内産品の価格競争力が増すため、徐々に輸入品は国内品に代替されるようになる(輸入数量の減少)(図2)。

 当初は数量が変化せず、価格の変化が起きるので、これによる輸入金額の増加が輸出金額の増加を上回り、むしろ円安は貿易赤字を拡大させる。このように、為替レートが変動した時に、短期的に予想される方向とは逆の現象が起こることを「Jカーブ効果」と呼ぶ。時間の経過に伴う貿易収支の推移をグラフに表すと、いったん下がってから上がり、グラフ上に描かれる曲線がJの字を描くことから「Jカーブ」呼ばれる(図3)。

図2 円安が輸出入に影響を与えるメカニズム(概念図)

図3 Jカーブ効果(概念図)

円安約9カ月後から赤字幅縮小に寄与

 我が国の貿易収支は、「Jカーブ効果」により赤字幅が拡大していると考えられるが、昨年末以降の円安方向への動きが貿易赤字幅縮小に寄与するのはいつ頃だろうか。

 内閣府では、2012年11月の水準で円ドルレートを一定とした場合の貿易収支をベースラインとし、2012年12月から2013年3月まで実際の為替水準(11月の水準から14円、約15%の円安)を与え、4月以降は3月の水準で一定とした場合の貿易収支をインパクトケース(円安効果が発現したケース)として、その差から最近の円安の貿易収支への影響を試算している。

 それによると、当初、鉱物性燃料などの円建ての輸入価格が上昇し、貿易収支の赤字幅拡大に寄与するが、価格競争力向上により、徐々に輸出数量が増加し、逆に国内での輸入数量が減る(収支にはプラス)ことによって、2013年4月には反転し、8月には貿易収支の赤字幅縮小に寄与するという(図4)。

図4 最近の円安の貿易収支への影響(内閣府による試算)

(備考)佐藤亮洋、中島岳人(2013)「経常収支の黒字縮小の要因と最近の円安の影響」マンスリートピックNo.18、により作成。
工作機械分野ではより早い時期から数量効果が現れる

 このように、円安の動きは、当初貿易赤字幅を拡大させるが、徐々に輸出数量の増加に伴って赤字幅縮小に寄与する。この輸出数量効果は、業種ごとに異なるだろうか。我が国の輸出総額に占めるシェアの高い工作機械、具体的には自動車などの輸送用機器、半導体やテレビなどの電気機器、建設機械や産業用機械などの一般機械について、業種別のJカーブ効果を試算した(注1)

(注1) 各産業の推計値には、他部門(原油価格上昇など)の影響は含まれていない

 輸入よりも輸出の多い業種では、輸入価格の増加を通じた短期的な赤字幅拡大の影響が小さく、当初から輸出増加に伴う赤字幅縮小の効果のみが寄与するため、貿易収支への影響は必ずしもJの形にはならないと推察される。

 実際に、試算結果を見るといずれの業種においても、2011年11月以降の円安方向への動きは、2013年1−3月期から赤字幅縮小に寄与している。これは、我が国の工作機械の輸入金額は、輸出金額に比べて相対的に大きいためである(図5)。

 また、円安による貿易収支改善額の水準を業種別に比較すると、輸送用機器が最も大きく、次いで電気機器、一般機械となっている。電気機器や一般機械に比べて輸出金額の多い輸送用機器では、相対的に収支改善効果が大きくなっていると考えられる。

図5 工作機械3分野(輸送用機器、電気機器、一般機械)におけるJカーブ効果(試算)

近年では所得収支を含めて影響をみる必要

 以上が従来のJカーブ効果の議論であるが、近年では企業のグローバル展開が進み、企業が海外から得られる収益の源泉は、輸出だけでなく、海外子会社からの受取配当金などの投資収益が相対的に大きくなっている。

 ここで、投資収益が外貨建てで決まっている場合、円安分だけの評価益が発生することとなるが、これはタイムラグなしに直ちに現れるはずである。これは、企業のグローバル化が進展した現在では、円安方向への動きの国際収支への影響を、貿易収支だけについて見るのではなく、投資収益(所得収支)を含めた経常収支で見るべきであるということを示している。

 最近の経常収支の動きを見ると、2013年1−3月期の貿易収支赤字幅は拡大している一方、所得収支の黒字幅が拡大していることから、経常収支の黒字幅は貿易赤字ほどに悪化しておらず、上記の想定通りの動きとなっている。

図6 我が国の経常収支の推移

2013年1−3月期は製造業加工業種を中心に増益

 円安方向への動きの影響は、当初、Jカーブ効果により貿易収支を悪化させる一方、所得収支を改善させる。では企業収益にはどのような影響があるだろうか。2013年1−3月期決算における上場企業の経常利益額を見てみよう。

 まず、上場企業全体で見た経常利益の合計額は、前年同期比13.3%と大幅な増益となっている。これは、個人消費の持ち直しなどを背景とした内需の底堅さ、新興国などとの競争激化や国内市場の縮小を意識した企業が収益重視の堅実な経営姿勢を維持したことなどに加え、一部業種では円安による収益押し上げ効果が現れていると考えられる。

 業種別の動向を見ると、非製造業に比べて製造業の増益幅が大きかったことが分かる。特に、電気機械や輸送機械を含む加工系業種の収益改善幅は、化学や鉄鋼といった素材系業種に比べて大きい。

 このように、足下の企業収益は、円安の動きを受けた数量効果が現れたこと、海外子会社からの円建ての受取配当金の増加などを通じて、加工系業種の収益増加につながっている側面があると考えられる。

 また、今後Jカーブ効果が、さらなる輸出数量の増加につながれば、2013年4−6月期以降の収益押し上げ要因になると考えられる。

図7 業種別に見た上場企業の経常利益額

 以上見てきた通り、最近の円安方向への動きは、Jカーブ効果により、短期的に我が国の貿易収支を悪化させていると考えられる。ただし、輸出産業については、円建ての輸入価格の増加に伴う短期的な赤字幅拡大の影響が全体と比べて小さいため、数量効果の発現により、収支改善時期は早まると考えられる。

 また、ここで紹介した試算は、あくまで簡易的に試算した結果であり、赤字幅縮小への寄与に転じる時期やその大きさについては幅をもってみる必要があるが、今後、数量効果が現れることで、全体の貿易収支についても赤字幅縮小に転換していくものと考えられる。

 また、既に述べたように最近の円安方向への動きは、貿易収支よりも早く所得収支の改善につながる。このことは、グローバル時代における為替レートの国際収支への影響は、貿易収支だけなく、所得収支を含めた経常収支で見るべきであることを示している。

 さらに、これを企業収益の観点から見ると、数量効果や投資収益の改善は、加工業種を中心に2013年1−3月期の収益押し上げ要因になっていると考えられる。今後、の円安方向への動きは、さらなる数量効果を通じて、2013年4−6月期以降の企業収益押し上げ要因になると考えられる。

(本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、内閣府の見解を示すものではありません)

このコラムについて
若手官庁エコノミストが読む経済指標

内閣府の若手エコノミストがさまざまな経済指標を読み解き、日本経済や日本経済を取り巻く状況について分かりやすく分析する。多くの指標を精緻に読み解くことで、通り一遍の指標やデータだけでは見えてこない、経済の姿が見えてくる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130717/251191/?ST=print


 


 


 

「会社が儲かる理由って何?」に経営学者が出した答え

大切なのは産業構造なのか、それとも個々の戦略なのか

2013年7月23日(火)  入山 章栄

 本連載では、米ビジネススクールで助教授を務める筆者が、海外の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、私は昨年『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)という本を刊行し、大きな反響をいただきました。そして複数の方々から「この本を書くにあたって、影響を受けた経営書はあるのですか」という質問を頂戴しました。

 拙著を書くにあたって私が影響を受けたのは、経営書ではありません。それは東京大学の宇宙物理学者、吉井譲教授が2006年に書かれた『論争する宇宙』(集英社新書)という、宇宙物理学の歴史をわかりやすく紹介した本です。

 物理学はド素人の私ですが、数年前にたまたま手に取って感銘を受けたのです。そして、経営学で似たような本が書けないだろうか、と考えるようになりました。

 『論争する宇宙』で印象深かったことが、宇宙物理における「理論と実証のせめぎあい」です。

 宇宙物理の世界では、たとえばアインシュタインのような理論家が、彼の信じる宇宙法則を記述した「理論」を構築します。他方でその理論が本当に正しいのか、宇宙の実態はどうなっているのかを「実証」する必要もあります。宇宙物理なら、たとえばそれは高性能の望遠鏡を使って星や銀河の動き・明るさ・色などを丹念に「観測」することです。

 このように、多くの「科学」と名のつく学問では、観測・実験・フィールドワーク・統計分析などを通じて、地道な実証研究が行われます。そしてこれは、社会科学であることを目指す世界の経営学者が行っていることでもあるのです。

 今回はそのような地道な、 しかしとても興味深い、実証分析に関する話題を紹介しましょう。それは「結局のところ、儲かる要因って何?」という、経営の根本を問う疑問なのです。

重要なのは、産業か、企業そのものか

 企業の「儲かる・儲からない」を決める要因とは、結局は何なのでしょうか。

 まず、産業による違いは大きいかもしれません。たとえば米国では、製薬業は全体的に収益率が高いと言われます。他方、航空業界は過当競争といえる状態にあり、多くの企業が厳しい経営を強いられています。

 とはいえ、同じ産業でも会社ごとに業績は違います。全体的には厳しい米航空業界でも、サウスウェスト航空やジェットブルー航空は、それぞれ固有の戦略を背景に高い利益率を出しています。

 では、おしなべてみると企業の収益率を決めるのは「どの業界にいるのか(=産業効果)」なのでしょうか、それとも「企業ごとの特性・戦略(=企業効果)」なのでしょうか。

 この問いに答えるため、世界の経営学では、企業収益性の要因を地道に「測定」する実証分析が積み重ねられてきました。

 エポックメーキングだったのは、1985年に経済学のトップ学術誌である「アメリカン・エコノミック・レビュー」に掲載された、マサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・シュマレンジー教授(以下シュレマンジー)の論文です。シュマレンジーは企業業績を決める要因を測定するために、Components of Variance(COV)という、当時としては画期的な統計手法を用いました。

 ここではCOVの仔細には立ち入りません。「大規模サンプルをもとに、企業収益のバラツキ(分散)の要因を分解する手法」とご理解ください。

 シュマレンジーが75年の米企業1775社の資産利益率(ROA)データをもとに、COV手法を使って得た結果は驚くべきものでした。彼の分析では利益率のバラツキの約20%だけを説明できたのですが、その20%のほぼすべてが「企業がどの産業にいるか(=産業効果)で規定される」という結果になったのです。

経営戦略には意味がない?

 この結果に衝撃を受けたのは、経済学者より、むしろ経営学者だったといえるでしょう。

 考えてみてください。この結果が本当なら、「儲かるかどうかは『企業がどの業界にいるか』でほぼ決まってしまう」ということになります。そもそも企業独自の特性とか戦略とか、そういったことは意味がないと言っているようなものです。

 経営学の存在意義を否定したようにすら思えるこの結果が確かなのか、さらに検証することが経営学者に求められました。より大規模なデータや分析手法の改良を通じて、この測定結果を「追試」することが盛んになったのです。

 そしてその牽引者こそが、あのハーバード大学のマイケル・ポーター教授(以下ポーター)、そしてカルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のリチャード・ルメルト教授(以下ルメルト)だったのです。

ルメルトの追試

 この連載で何度も登場しているポーターについては、説明の必要はないでしょう。他方、ルメルトも黎明期の経営学を支えてきた大物です。昨年は『良い戦略、悪い戦略』(日本経済新聞出版社)という本を出版し、日本でも話題になりました。

 そのルメルトが91年に「ストラテッジク・マネジメント・ジャーナル(SMJ)」に発表した論文は、まさにタイトルも「産業効果はどのくらい重要か?」(筆者訳)という、シュマレンジーの結果に挑戦するものでした。

 ルメルトは、「シュマレンジー手法」の問題点を指摘し、さらに75年の1年だけのデータを使ったことを問題視しました。1年だけの分析では、その年の景気の影響などを考慮できません。そこでルメルトはCOV手法を精緻化し、74年から77年の複数年データを使い、観測数を6931に拡張して再分析をしました。

 その結果、シュマレンジーが20%しか説明できなかった企業利益率のバラツキを、ルメルトの分析では 63%も説明できる、という結果になりました。そして63%の内訳の約8割が企業効果である、という結果になったのです。産業効果は2割に留まりました。

 この結果は、経営学者を勇気づけるものでした。「企業ごとの経営特性・戦略は収益率を決める上で重要である」といえるからです。 やはり経営学は意味がある、というわけです。

 他方で一部の学者からは、ルメルトの結果に対して、「いくらなんでも産業効果が小さすぎる」という批判も出てきました。たしかに現実には、儲かる業界と儲からない業界の間には、かなり差がある気もします。産業効果が企業効果の4分の1しかないというのは本当でしょうか。

 そこでさらなる追試を行ったのが、ポーターです。

 ポーターが現カナダ・トロント大学のアニータ・マクガハン教授と97年にSMJ誌に発表した論文では、さらに包括的なデータベースから85年から91年の米企業データを取り出し、観測数約5万8000の大規模サンプルで測定しました。

 そしてこの分析により企業利益率のバラツキの約50%を説明できること、その内訳は産業効果が4割ぐらいで、企業固有の効果は6割ぐらいに留まる、という結果を得たのです。2人が2002年に「マネジメント・サイエンス」に発表した論文でも、同じような結果を得ています。

ポーターの追試とSCP理論

 興味深いのは、このポーターの結果は、まさに彼の生み出した経営理論にぴったりあてはまるものだったことです。

 ポーターが中心となって80年代に確立したSCP理論(Structure Conduct Performance Model)では、「企業の競争優位には二重のポジショニングが重要である」とされます。第1に「収益性の高い産業を選ぶべき」というポジショニングであり、第2に「その産業内で、自社が他社と比べてユニークなポジショニング(競争戦略)をとるべき」というものです。

 SCP理論はこのように「産業も、戦略も重要」と主張しているわけで、まさにポーターが自ら得た「産業効果が4割、企業効果が6割」という測定結果と整合的です。みなさんも、この結果には肌感覚として納得できるかもしれません。

多角化は効果がないのか?

 ところが、話はこれで収まりませんでした。今度は「コーポレート効果があまりにも小さいのではないか」という批判が出てきたのです。

 「コーポレート効果」とは、企業が複数の産業をまたいでビジネスをすることで得られる追加効果(=多角化の効果)のことです。実はルメルトやポーターの研究は、このコーポレート効果も測定していました。そしてその結果は、どちらも「コーポレート効果はほとんど存在しない」というものだったのです。

 これは、とくに多角化戦略の重要性を説く学者には納得できないものだったでしょう。2001年にペンシルベニア大学のエドワード・ボウマン教授達がSMJ誌に発表した論文では、過去の研究手法に疑問を呈し、これまでの研究はコーポレート効果を過小評価しているのではないか、と主張しています。

 さらに、「国の違いによる効果」もあるのではないか、という研究も出てきました。

 この論文を2004年にSMJ誌に発表して話題を読んだのが、香港中文大学の牧野成史教授、慶応ビジネススクールの磯辺剛彦教授という、2人の国際的に活躍する日本人経営学者です(香港大学クリスティン・チャン教授との共同論文)。

 牧野氏たちは、 観測数2万8000の多国籍企業の海外子会社データでCOV分析を行いました。この分析では、海外子会社の利益率のバラツキの50%強を説明することができて、「国の違いによる効果」だけでその2割を占めるという結果となっています。

日本企業の「儲かる要因」についての研究

 日本企業についてはどうでしょうか。私の知っている範囲では、青山学院大学ビジネススクールの福井義高教授と牛島辰男教授が、2011年に『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・アンド・インターナショナル・エコノミーズ』という経済学の学術誌に掲載した論文があります。

 この研究では、1998年から2003年までの日本企業データ(観測数約2万4000)について、COV分析で測定をしています。そして、この分析では企業利益率のバラツキの70%弱を説明できて、内訳は企業効果が7割を超え、産業効果とコーポレート効果は比較的小さいという結果となっています。日本でもやはり各企業の特性・競争戦略は重要なようです。

地道な実証こそ、経営学者の役割である

 今回は「収益率を決める要因は何か」という根本的な問いに対して、経営学者が地道に蓄積してきた実証研究を紹介してきました。多くの学者がデータを充実させ、分析手法を改良することで、より精度の高い結果を求めようとしているのです。

 本稿を読んで「こんな研究、私のビジネスには何の意味もない」という方もいらっしゃるでしょう。

 たしかに、こういった研究はみなさんのビジネスに直接は役立たないかもしれません。しかし、「企業経営を科学的にとらえる」のなら、このような根本的な問いを地道に測定する作業はやはり重要なはずです。

 前出の『論争する宇宙』によると、1930年代に天文学者のハッブルが地道に天体の観測を続け、「宇宙は膨張している」という事実を発見したことが、アインシュタインに彼の宇宙理論を放棄させるきっかけとなりました。そして数十年後、今度は別の天文学者の地道な観測によってダークマターという正体不明の物質が宇宙に満ちていることがわかり、それがアインシュタインの放棄した「宇宙定数」を理論に復活させる動きの契機となったのです。

 経営学でも、ポーターの測定結果が彼自身の理論の下支えになったことは想像に難くありません。そもそも、ポーターやルメルトがシュマレンジーに対抗する結果を出したことが、企業の特性や戦略に注目する「経営学」の重要性を裏付けてきたともいえます。

 みなさんの中には、ポーターやルメルトの経営書をお読みなった方もいるかもしれません。一見華々しい本を書く著名経営学者が、実はこういう地道な研究もしてきたということは、知っておいて損はないのではないでしょうか。

このコラムについて
米国発 MBAが知らない最先端の経営学

ピーター・ドラッカー、フィリップ・コトラー、マイケル・ポーター…。日本ではこうした経営学の泰斗は良く知られているが、経営学の知のフロンティア・米国で経営学者たちが取り組んでいる研究や、最新の知見はあまり紹介されることがない。米ニューヨーク州立大学バッファロー校の助教授・入山章栄氏が、本場で生まれている最先端の知見を、エッセイのような気軽なスタイルでご紹介します。

 


 

 

中堅企業の目に映る日本経済の今
英EIU報告書〜日本の中堅企業 その競争力と成長の条件(2)
2013年07月23日(Tue) Economist Intelligence Unit
国内経済の見通し

 主要海外市場での需要低迷による輸出企業の収益減少や、競合国の台頭による市場競争力の低下、対中外交関係の悪化など、日本経済は世界金融危機の発生後、国外で様々な課題に直面してきた。また国内でも、デフレや政治的混乱や未曾有の大震災をはじめとするマイナス要因に直面した。


 日本のGDPは、世界的な景気低迷のあおりを受けた2009年の翌年に4.7%の回復を見せたものの、2011年には実質GDPが0.5%のマイナス成長を記録。復興需要の後押しを受けたにもかかわらず、2012年の成長率も1.8%にとどまり、年末にかけて過去5年に3度目となる景気後退の懸念が広まった(表2.1参照)。

 しかし、新たな自民党政権が掲げる経済政策などを背景に、2013年に入ると国内では楽観的ムードが強まった。

 緊急経済対策や日本銀行によるデフレ対策のさらなる強化、様々な構造改革など、政府が打ち出した一連の経済政策(いわゆる“アベノミクス”)は、過去数十年に例を見ないほど市場の期待感を高めている。

 これまで輸出企業の頭を悩ましてきた円高は、2012年11月から2013年5月の間に見られた対ドル為替レートの27%下落により大幅に改善され、日経平均株価も今年最初の4カ月で37%上昇した。これにより、日本経済の先行きには明るさが戻ったように見える。


 だが、EIUによる予測では実質GDP成長率がわずか1.2%にとどまるなど、マクロ経済分野での2013年の見通しはそれほど明るいものではない。

 中国との緊張関係や、政府の新たな景気刺激策が膨大な財政赤字に与える影響など、依然として大きな懸念材料も残っている。またアベノミクスがもたらした市場の楽観ムードは、今回の調査結果に反映されていない。

 しかしEIUが作成した「国内中堅企業の景況感指数」によると、国内中堅企業は今後の業績や経済動向に関し、過去数年よりも楽観的な見通しを持っている。

主要な調査結果

【良好な収益見通しは中堅企業の柔軟な対応能力を反映】

 今回の調査結果によると、日本の中堅企業は企業全体と比べて優れた業績を上げているようだ。中堅企業による2011年の平均収益は、損益分岐点である指数100を下回るレベルまで低下した。しかし、2012年には100をわずかに上回るところまで回復し、2013年の収益予測指数は103.3まで上昇している。この背景の1つとして考えられるのは、新政権の積極的な経済政策に対する好感ムードだ。

 また中堅企業は、日本企業の中でも非常に柔軟な対応力を持っているようだ。今回調査の対象となった企業幹部の多くは、過去3年間の自社製品・サービスに対する需要(そして業界全体の景況)が経済全体の傾向と比較して良好だったと考えている(表2.3参照)。

 これは、全ての指標が100を下回るマイナスとなっていることを考えても興味深い結果だ。第1章で明らかにしたように、2008〜10年に中堅企業が上げた収益の平均値は大企業を上回るものだった(名目平均値は大企業・中堅企業共にマイナス値)。上述の結果は、こうしたトレンドに沿ったものだろう。


■国内中堅企業の景況感指数:調査方法について■

 国内中堅企業の景況感指数は、今回EIUが実施したアンケート調査の結果から作成したものだ。同調査では回答者に対して、収益や雇用水準など数値化可能な業績評価指標が過去3年に増加・減少したのか、あるいは2013年に増加・減少するかといった質問への回答を求めた。さらに、総需要や市況、業界あるいは経済全体の景気動向などの質的要因が過去3年に改善したか悪化したか、2013年にどのように変化するかといった質問も行った。

 調査対象者は、こうした全ての設問に1から5の5段階評価で回答している(1=大きく改善(増加)、2=ゆるやかに改善(増加)、3=変わらない、4=ゆるやかに悪化(減少)、5=大きく悪化(減少))。

 この調査結果から1年毎に単一の指数を導き出すために、1から5までの数字を選択した回答者の割合にそれぞれ1.5・1.25・1・0.75・0.5を掛け、その結果にさらに100を掛けた数値を求めた。例えば100以上の指数[最大150]は、その年の(例えば成長に関する)センチメントがプラスであったことを示している。また100以下の指数[最低50]は、ある項目に対するその年のセンチメントがマイナスであったことを示している(例えば景気後退など)。

 標準的な調査方法によって導き出されたこれらの指数は、サブグループごとに比較可能だ。ただし、2010〜12年までの指数が実際のパフォーマンスから導き出された値であるのに対し、2013年の指数は同年1月時点での予測であることに留意されたい。今回の調査結果では、2013年に関する指数の多くが、予想に反して大幅なプラスになっている。この理由の1つとして考えられるのは、調査対象となった経営幹部の多くが、今後の見通しに対して希望的観測を行っていることだ。

【輸出収益は増加の見込み】

 今回の調査結果によると、輸出を行う中堅企業(全体の42%)は2013年の業績見通しに楽観的で、海外収益指数(104.2)が国内収益指数(102.6)を上回った(表2.4参照)。この結果の理由の1つとして考えられるのは、2011〜12年のほとんどの期間で、競合国の通貨(特に韓国ウォン)と比べた日本円の割高感が強かったことだ(表2.5参照)。

 しかし、日本銀行にさらなる金融緩和を求める政府の圧力が強まったことなどを背景に、円が調査実施直前の数週間で大きく下落した。楽観ムードの背景には、この円安傾向によって国内企業の輸出競争力が向上したことがあると考えられる。


【雇用水準は横ばい状態】

 しかし中堅企業の収益増加が、雇用拡大につながる見込みは低いようだ。2012年を通じて雇用水準は大きな変化を見せておらず、2013年も横ばい状態が続く可能性は高い(指数100.8)。これは、2013年は有能な人材の新規採用を重点的に行うとした回答者が全体の47%に上ったという調査結果と相反するものだ(重点的に行わないとした回答者は9%)。

 有能な人材の新規採用が重点事項であるかないかにかかわらず、中堅企業の雇用水準が大幅に改善する可能性は低い。仮に期待に見合った収益拡大が実現しても、この傾向は変わらないようだ(表2.6 )。


【資金調達環境は改善の兆し】

 外的要因が及ぼす影響に関して、中堅企業による2013年の見通しは控え目だ。2011〜12年のセンチメントと比較すると改善が見られる。しかし競争・規制環境が2013年をつうじて変化しない、あるいは悪化すると答えた調査対象者は、依然として半数を超えている(表2.7参照)。

 一方で、資金調達環境に対するセンチメントには明らかな改善の兆しが見られた。2012年・2013年の両方で、楽観的な回答者がそうでない回答者の割合を上回っている(指数は101.8から103.9に上昇)。

 今年3月の中小企業金融円滑化法の失効を考えれば、これはある意味で予想に反する結果だ。2009年12月に施行された同法は、中小企業が返済期間延長や利息軽減といった形で返済負担の軽減を要請した場合に、可能な限り貸付条件変更の努力を行うよう金融機関に求める法律だ。小企業だけでなく、同法の恩恵を受けた中堅企業も少なからず存在することが想像できる。

 今回調査を実施したのは、同法の失効が目前に迫る時期だったが、新たなマクロ経済政策により資金調達環境の改善を期待するムードが広まったのも確かだ。日本では超低金利が長年続いているものの、実質金利はデフレによる高止まりの状態にある。

 しかし2013年に入り、日本銀行がさらなる量的金融緩和政策やデフレ対策強化の姿勢を打ち出したことで、市場の期待感は急速に高まっている。今後の資金調達環境について、中堅企業がより楽観的な見方を示しているのはこのためだ。

【製造業は今後の見通しに悲観的】


 調査参加企業で全体の24%と最も多くの割合を占めた製造業は、2011〜12年にかけて最も大きな業績低迷を経験したグループだ。2013年の見通しについても、最も悲観的な見方を示している。

 2010年に98だった製造業の平均年間売上高指数は、2011年には96、昨年は93と継続的に下落している。

 2013年の見通しに関しては98.6とやや上向きの傾向も見られるが、依然として収益低下を予想する回答者が半数を上回っている。製造業は2013年の指数が100を下回った唯一の業種だった(表2.8参照)。

 これは、ある意味で予測可能な結果だといえるかもしれない。過去3年間、日本の製造業は様々な困難に直面してきた。特に円高が続いたことで、輸出競争力は大きく削がれる結果となっている。

 また製造業の中堅企業は、他業種と比較しても海外市場への依存度が高い。海外市場で収益を上げる中堅企業は全体の42%であるのに対し、製造業では59%に上っている。また今回の調査では、収益全体の10%以上を海外市場で上げている中堅製造業が全体の37%に上る一方で、中堅企業全体ではその割合が26%にとどまった。

 しかし、直接輸出による収益の落ち込みは理由の1つにすぎない。日本の中堅製造業の多くは、(例えば自動車産業など)多くのセクターで大企業のサプライヤーとして機能している。円高や中国など一部主要市場での反日感情の高まりを背景に、大企業の輸出が近年落ち込んだことで、中堅企業が大きなあおりを受けた可能性は高い。

 しかし海外市場で収益を上げる企業の半数以上が、輸出環境に関して楽観的な見通しを示していることは好材料だ。製造業では依然として100を割り込んでいるものの、海外収益に関する2013年の指数は全体で102.4とプラス値になっている。

【最も良好な業績を上げ、今後の見通しに楽観的なのはヘルスケアセクター】

 製造業とは対照的に、国内中堅企業の中で最も楽観的な見通しを示したのは、ヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界だ。同セクターに属する企業の総収益指数は、過去3年連続でプラスとなっており、2013年も収益の伸びを予想する回答者が半数以上を占めた。

 今年の指数は107と金融サービスや建設・不動産業界と並んで最も高い値だが、2012年・2011年の指数(109・112)に比べると若干見劣りする。しかし、楽観的な見方を示した回答者が半数を大きく上回っている点は変わらない。

 こうした楽観ムードは、基本的に国内経済の状況を反映するものだ。急速に進む人口の高齢化やイノベーション・投資促進に向けた政府の施策を背景に、同セクターは最も有望な成長分野の1つとなっている。このことは、自社製品・サービスに対する需要の伸びを期待する中堅企業の多さからも明らかだ。製造業の指数が99だったのに対し、同セクターでは108となっている。


 またヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー分野では、2012年の厳しい状況と比べ今年の競争環境が改善するという見方を示した回答者が最も多かった。

 雇用水準の分野では、同業界とその他業界の差が特にはっきりと現れている。ヘルスケア・セクターでは、過去3年間の指数が連続して108を上回っているのに対し、他のセクターが記録した最高数値は104にとどまった(表2.9参照)。

 2013年に有能な人材の新規採用に力を入れると答えた同セクターの回答者は約60%で、全体平均の47%をはるかに上回っている。

 また、「当社は自社でキャリアを全うする若い人材の育成に真剣に取り組んでいる」という記述に同意した回答者も、同セクターでは約52%に上っている(全体平均は41%)。

■オンコセラピー・サイエンス:独自の道を切り拓くために■

 オンコセラピー・サイエンスは、東京大学医科学研究所から派生した創薬ベンチャー企業で、ヒトゲノム解析をベースに副作用の少ないガン治療薬の開発を専門に行っている。2011〜12年度に約63億円の売上を予想する同社は、2003年に東証マザーズへ上場。自ら治験は行わず、自社が開発するガン治療新薬の製造・販売権を製薬会社に供与するというモデルに基づいてビジネスを展開している。これまでのところ、ライセンス供与の対象は日本企業に限られているが、海外の製薬企業とも現在交渉を行っている。

 同社が本社を構えるのは、神奈川県を含む官民の共同出資によって設立され、主に創業まもないベンチャー企業の拠点となっている「かながわサイエンスパーク」(川崎市)だ。同社の代表取締役社長をつとめる角田卓也氏によると、中堅企業が対象となる金融支援策も存在する。しかし、あまりに数多くの義務や制限事項があるため、実際にこうした支援策を活用することはきわめて難しいという。

 「例えば政府や自治体から支給された助成金は、3月の年度末までに全て使い切らなければならない。もし助成金から利益が上がれば、速やかに返納する必要がある。我々が必要としているのは、研究活動に再投資できるような資金だ」と角田氏は語る。

 他の中堅企業やベンチャー企業と同じく、オンコセラピー・サイエンスも有能な人材の確保という課題に直面している。しかし日本最高の学術機関の1つである東京大学と共同研究を行っているため、同学の人材を比較的雇用しやすい環境にある。角田氏によると、バイオテクノロジー企業ではテストで高い点数を獲得する能力よりも、既成概念にとらわれない発想力が重要になることが多いという。

 同氏は、パイプラインと成長力強化に向けたM&Aを視野に入れている。しかし「大企業」になることには関心がなく、今後も革新的治療薬の開発企業という立場でビジネスを行う意向だ。同氏によると、日本のバイオベンチャーが直面する問題の1つは、大企業へと成長を遂げたロールモデル(手本)となるような企業が存在しないことだ。「我々は政府の手を借りずに、他企業の手本となるような企業を目指したい」と同氏は語る。

【建設・不動産セクターも今後の見通しに楽観的】

 今後の見通しに楽観的なもう1つのセクターは、2013年の総収益予測で2番目に高い指数107.7を記録した建設・不動産業界だ(1位はヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界)。また同セクターに属する中堅企業は、業界を取り巻く2013年の環境についても指数106と、ヘルスケアセクターを上回る最も楽観的な見通しを示している。

 しかし復興需要の後押しにもかかわらず、過去3年間の市場環境に関して「悪化した」と考える回答者は「改善した」と考える回答者を大幅に上回った。

 同セクターで見られる楽観ムードの背景の1つとして考えられるのは、自民党の政権復帰という短期的な要因だ。建設・不動産業界は、歴史的に見ても自民党と密接なつながりを持っており、先の総選挙で同党が大勝したことがセンチメントを改善させた可能性は高い。1月に政府が発表した10.3兆円規模の緊急経済対策では、予算のかなりの部分がインフラ整備や建設などの公共事業に充てられている。

 こうした背景を考えれば、建設・不動産業界が今年の雇用拡大に積極的なのは当然のことかもしれない。雇用水準に関する同業界の指数(104)は、ヘルスケアセクターに次いで2番目に高い値となっている。

【金融・専門的サービス業界は海外収益の持続的な伸びを予測】


 今回の調査結果によると、海外市場で収益を上げる中堅企業は、全体として今年の輸出収益の見通しに楽観的だ(最近の円安傾向が理由の1つであることは間違いない)。

 最も楽観的な見通しを持っているのは、調査対象企業のうち35%が海外で収益を上げる金融・専門的サービス業界だ。

 非常に好業績だった昨年の数字には見劣りするものの、2013年の指数は107で、海外収益の拡大を予想する回答者が半数を大幅に上回っている(表2.10参照)。

 同業界は過去数年、(例えば製造や小売など)他業界の輸出企業よりも優れた業績を上げているようだ。その理由の1つとして考えられるのは、日本の大企業が積極的にM&Aを行ったことだ。

 2012年初頭からEIUがアンケート調査を開始した12月中旬にかけて、日本企業は489社の海外企業を買収している(1990年の463件を上回る記録)。M&Aアドバイザリー企業レコフのデータによると、買収総額は6.89兆円(約80億米ドル)と過去3番目に多い。それぞれの案件には金融・専門的サービス企業が関与するため、海外案件の支援能力を持つ中堅企業が恩恵を受けた可能性は高い。

【小規模中堅企業のセンチメントは比較的低調】

 近年の業績や今後の見通しに関する小規模中堅企業(年間売上高10億〜100億円)のセンチメントは、より規模の大きな中堅企業と比べて低調だった。この結果は、日銀短観をはじめとする景況調査と同様の傾向を示している。

 またEIUの調査結果では、大規模中堅企業(500億〜1000億円)による2012年の指数が、中規模中堅企業(100億〜500億円)を下回った。しかし大規模企業は2013年の見通しにより楽観的で、総収益に関する指数(109)は小規模・中規模企業(約102)を上回っている。

【新興企業の見通しはより楽観的】

 創業10年以内の新興中堅企業とそれ以上の歴史を持つ中堅企業を比較すると、前者は今年の見通しについてはるかに楽観的で、2012年の業績も大幅に上回っている(表2.11〜2.14参照)。


■ライフネット生命:成熟市場がもたらす機会■

 2008年に創業したライフネット生命は、日本に戦後初めて誕生した独立系生命保険会社だ。日本の生命保険市場では、世帯加入率が約90%に達しており、膨大なリソースを持つ老舗大企業が圧倒的なシェアを誇っている。一見すると、新規参入企業に有利な条件が整っているとはいいがたい環境だ。

 しかしネット専業の生命保険会社である同社は、革新的なビジネス戦略をつうじて急速な成長を実現している(2012年12月31日現在の保有契約に基づく年換算保険料は約63億円)。

 同社の共同創業者で現在代表取締役社長をつとめる出口治明氏によると、日本経済が低迷する中で「低廉な価格の保険商品に対する需要は(特に若者世代で)大きい」という。このニッチ市場を開拓するため、同社はインターネットを主な販売チャンネルとし、保険価格を大幅に引き下げるとともに、ネット利用率の高い若者世代をメインターゲットに据えた。出口氏によると、同業界の既存大企業は「急速な経済成長と人口増加を背景に、膨大な販売ネットワークをつうじて高価な商品を販売するという20世紀のビジネスモデルに未だに依存している面がある」という。

 世帯加入率90%と飽和状態にある生保市場の現状にも関わらず、同社は先行きに楽観的な見通しを持っている。出口氏によると、「当社の契約件数は約17万件で、顧客数にすると約10万人だ。しかし、今年の新成人が約120万人いることを考えれば、ごくわずかな値に過ぎない」という。「当社にとって、日本の生保市場はブルーオーシャンだ」と同氏は語る。

 新興企業の楽観ムードは、国内・海外収益、所属業界全体の動向、自社製品・サービスへの需要といった分野でも明らかだ。また規制・競争環境や、(歴史の長い企業が優位だと考えられる)資金調達環境などの外的要因についても、新興企業ではより楽観的なセンチメントが見られた。

 しかし新興中堅企業の楽観ムードについては、いくつかの点に留意する必要がある。その1つは、こうした調査の結果が、比較的小さなデータセットの傾向に基づいていることだ。調査対象企業に占める新興企業の割合は、7.3%と少数にとどまっている。また新興企業・産業では収益の増減幅がより大きいため、楽観的な見通しが現実を反映しているとは限らない。

 (大企業になるのではなく)中堅企業としての規模を維持する企業で、急速な成長を遂げる見込みが低く、非常に楽観的な見通しを持つ経営者の数も少ないのはある意味自然なことだ。しかし創業50年以上の企業は、2013年を通じた日本経済全体の先行きに最も明るい見通しを持つ傾向が見られた。

 この結果は、自民党の政権復帰に対する楽観ムードを反映しているのかもしれない。戦後の自民党政権下で創業した中堅企業の経営者にとっては、同党の返り咲きが期待感を抱く要因になっているのかもしれない。

【地方の中堅企業にはより悲観的な傾向が見られるものの東北企業のセンチメントは改善の兆し】

 日本銀行による最新の地域経済報告[さくらレポート]によると、北海道は地方の中で唯一、景気低迷から脱却の兆しを見せている。しかし同地域を拠点とする中堅企業のセンチメントは楽観的とは言いがたい。北海道と九州・沖縄は、今回の調査で2013年の収益予測指数が100を下回った(つまり悲観的な見方が優勢な)唯一の地域だった。

 一方、東北地方を拠点とする中堅企業の景況感には、好転の兆しが見られるようだ。東日本大震災の被災地であるという明白な理由もあり、東北企業のセンチメントは楽観的とはほど遠い状態で、2012年の収益・雇用水準指数では最も低い数値を記録している。

 しかし企業のムードは最悪の状態から好転しつつある。同地方の中堅企業は、2012年の国内収益指数で最高の値を記録し(107.4)、総収益の分野でも2番目に高い指数(106.1)を示した。また、2013年の資金調達環境についても110.8と非常に楽観的な傾向が見られ、2番目に高い関西地方の指数(104.8)をはるかに上回っている。

(第3章は明日へ続く)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38263


03. 2013年7月23日 01:34:22 : niiL5nr8dQ
11都道府県に拡大=生活保護下回る「逆転現象」―最低賃金
時事通信 7月22日(月)11時46分配信
 最低賃金で働いた場合の手取り額が生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」が11都道府県に拡大していることが22日、厚生労働省の調査で分かった。2012年度の最低賃金引き上げで宮城、神奈川など6都道府県に減ったが、最新の数値で計算したところ、生活保護受給者への住宅扶助の増額などで青森、埼玉、千葉、京都、兵庫の5府県が加わった。厚労省が同日開いた中央最低賃金審議会の小委員会で報告した。
 11都道府県の生活保護費との差は、時給換算で1〜22円。北海道が最大の22円で、東京の13円、広島の11円が続いた。
 最低賃金法は、勤労意欲を低下させないため、最低賃金が生活保護費を下回らないよう配慮することを定めている。13年度の最低賃金の目安を決める審議会の協議は8月上旬にヤマ場を迎える見通しで、逆転現象の解消が焦点の一つとなる。最低賃金の全国平均は749円。12年度の引き上げ額は12円だった。 

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〔写真特集〕現金ざくざく! 脱税摘発
最終更新:7月22日(月)12時57分時事通信

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最低賃金と生活保護、5府県が再び「逆転」(読売新聞)22日(月)23時7分
最低賃金が生活保護費下回る「逆転」全国11自治体で映像(テレビ朝日系(ANN))22日(月)20時55分
最低賃金が生活保護費未満、11都道府県に増加(朝日新聞デジタル)22日(月)18時13分
最低賃金、11都道府県で生活保護下回る映像(TBS系(JNN))22日(月)12時34分
<最低賃金>生活保護水準を下回るのは11都道府県(毎日新聞)22日(月)11時57分
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04. 2013年7月23日 07:11:43 : niiL5nr8dQ
長期金利2カ月ぶり0.8%割れ 生保の運用、国債に傾斜
2013/7/22 23:26 
 長期金利がじりじりと低下してきた。22日には指標の新発10年物国債利回りが0.785%と約2カ月ぶりの水準まで低下(価格は上昇)。債券相場の乱高下はひとまず収まってきた。一方、日銀が2%の物価上昇目標を打ち出してから半年。国債から株式、外債などリスク資産に資金をシフトさせようとするもう一つの狙いは道半ばだ。

 日銀がこの日通知した6500億円の国債買い入れでは、金融機関の応札額が計約1兆7000億円となった。応札額を落札額で割った「応札倍率」が前回を下回ったことで、「国債の売り圧力の低下が確認できた」(BNPパリバ証券の藤木智久チーフ債券ストラテジスト)という。

 日本証券業協会が22日発表した6月の投資家別公社債売買動向によると生命保険会社や損害保険会社は8122億円の買い越しだった。日銀は生損保などが国債に代わって外債や株式への投資を拡大し、円安・株高が進む効果を期待した。

 だが「生保の運用は引き続き国内債券中心」(佐藤義雄・生命保険協会会長=住友生命保険社長)。生保各社の新規契約の予定利率は1%前後とされる。足元の20年債利回りは1.7%台にあり、予定利率を上回る「順ざや」を確保できる水準だ。

 一方、大手銀行が日銀に預ける当座預金残高の推移を見ると、4月と5月は2カ月連続で8兆円程度増えた。6月の増加幅は9000億円弱にとどまり、大手銀行の日銀への国債売却がペースダウンした。

 日銀は国債から企業や個人への貸し出しにも資金がシフトすることを期待している。しかし日銀の7月の貸出動向アンケート調査では、企業向けの資金需要は1年ぶりの低水準に沈んだ。大手行幹部からは「そんなに簡単に貸し出しは増やせない」との声も漏れる。

 日銀の佐藤健裕審議委員は22日の講演で「2年程度で2%の物価安定目標をピンポイントで達成する可能性は必ずしも高くない」との見通しを表明。日銀が期待した通りには金融緩和の効果が働いておらず、2%の物価上昇にも耐えられるほど力強い景気回復が実現できるかはなお不透明だ。

 


 

欧米ヘッジファンドの背中を押す「アベ信任」
2013/7/22 7:46日本経済新聞 電子版
 参院選の与党大勝は、欧米ヘッジファンドの「日本株買いモメンタム」を加速して、リアル・マネーの日本株買いを「調査」の段階から「実行」の段階へ進めるだろう。

 5月にウォール街で会った市場関係者たちから、昨晩筆者に送られてきた様々なメールの文面から感じることだ。

 「安倍政権右傾化=チャイナ・リスク」「構造改革実施の難しさ」「JGB(日本国債)の長期的脆弱性」など慎重な見方は多い。

 しかし、これらのリスクがただちに顕在化するわけではない。

 まずは、「頻繁に首相が変わる国」が「安定化」に向かう流れが確認できたことで、日本株に対する安心感が醸成されつつあることが重要だ。Stability(安定化)は、日本株投資へ社内コンセンサスをまとめる際に、極めて重要視される要素だ。

 さらに、日本への期待感の水準が決して高くはない。Low expectation(期待のハードルが低い)ことも感じる。

 彼らが、成長戦略の結果を短期的に期待しているわけでもなく、チャイナ・リスクが年内に解消されると期待しているわけでもない。

 ただ、国会のねじれ現象が解消され、多くの日本国民が、アベノミクス実現へ信任票を投じたことで、彼らの期待感はかなり満たされつつあるのだ。

 日本国民は本当にアベノミクス実現に向けて動き始めるのか、との疑念に対して、その「本気度」が選挙結果で伝わったことはたしかだ。

 日本が参院選一色の間にグローバルな投資環境は日本株有利な方向に動いていることも重要だ。

 高値更新を続けるNY株だが、高値警戒感に加え、マクロ経済指標の悪化が緩和縮小を遅らせるゆえ買い材料とされるという特殊な解釈が一般化しつつあることは、投資家心理として必ずしも「心地良い」ものではない。

 マイナス成長が続く欧州株は買いにくい。

 中国は、経済成長より綱紀粛正を優先させ、経済減速を容認の姿勢が鮮明だ。新興国株は、売りモードにある。

 このような世界的投資環境では、アベノミクスが信任された日本の株式が相対的に最もポジティブなシナリオが描けるわけだ。

 それでも、まずは業績をにらみつつ米国株へのマネー回帰。その次の選択肢が日本株。

 参院選の結果は、一位と二位の差を縮めた。


豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。
業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp


05. 2013年7月24日 11:16:31 : niiL5nr8dQ
JBpress>海外>Economist Intelligence Unit [Economist Intelligence Unit]
成長へ向けたチャレンジ
英EIU報告書〜日本の中堅企業 その競争力と成長の条件(3)
2013年07月24日(Wed) Economist Intelligence Unit
 今回の調査では、成長実現に向けた自信と不安が入り交じる中堅企業経営者の心理状態が明らかになるとともに、国内中堅企業が直面するユニークな状況が浮き彫りになっている。本章では(規制・政策環境を含む)マクロ環境・戦略・人材・財務管理という4つのテーマに注目し、日本の中堅企業が成長実現に向けて描く戦略、そして直面する課題について検証を行う。

マクロ環境

【低迷する国内経済への対応】


 日本の中堅企業は、マクロ環境がビジネスにもたらす課題に明らかな懸念を示している。今回の調査結果によると、国内需要の低迷が今年最大の課題だと答えた回答者は、全体の4分の3にも上った(表3.1参照)。

 また、業界内での競争激化を課題の1つとして挙げた回答者も、半数を上回っている。この結果からも、2013年が様々な面で困難と挑戦を伴う年になると予想していることが見て取れる。

 最も多くの回答者が課題として挙げたのは、国内需要の低迷による収益低下や、縮小傾向の顧客ベースをめぐる競争激化を背景とした値下げ競争といったシナリオだ。

 経済的な課題として上記2つに次いで回答が多かったのは、増税とインフレーションだ。また商品原価を消費者価格に転嫁できないと考える回答者も半数を上回った。一方、為替レートや輸出需要の低下、対中外交関係の悪化を懸念材料として挙げる回答者は、比較的少数にとどまっている。

 こうした様々な課題に対する見方は、業種によって異なるようだ。例えば、国内需要の低下を懸念材料として挙げる製造業の企業は73%に上っている。その大きな背景の1つは、価格競争力が高い海外企業との競争激化に伴う国内製造業の“空洞化”だ。

 高知県土佐市に拠点を置き、電子部品・液晶装置などの開発・製造を行う土佐電子(年商約16億円)で代表取締役社長を務める辻韶得氏によると、製造業の空洞化は同社のような企業にとって「目の前に存在する深刻な問題」だという。「次世代の経営チームが、生き残りをかけた海外移転を真剣に考えざるを得ないような時期が来るかもしれない」という見方を同氏は明らかにしている。

 今回の調査では、製造業企業の多くが為替レート(44%)や輸出需要の低下(30%)を懸念材料として挙げている。その一方で、対中外交関係の悪化を懸念材料として挙げた回答者は18%にとどまった。その理由としては、回答者の多くが中国を主要市場とは考えていない、あるいは外交関係の悪化が企業間の良好な関係に大きな影響を与えると思っていないといった要因が考えられる。

 一方、製薬企業が経済面で最大の懸念材料と考えているのは増税だ(同業界に所属する回答者の71%が2013年の課題として選択)。業界内での競争激化を懸念材料として挙げる回答者も同様に多かった。同セクターの回答者は、国内市場の状況により大きな関心を持っているようだ。為替レートや輸出の減少など外的要因を懸念材料として挙げる回答者は、それぞれ13%・4%と少数にとどまっている。

 大規模中堅企業(年間売上高500億〜1000億円)では、競争激化(44%)や事業リスク(14%)を挙げる回答者が全体平均より少なく、輸出需要の低下(35%)を懸念する傾向がより強く見られた。この結果には、成長を遂げるに伴い市場で優位を確立していくことで、事業展開・運営リスクの緩和が行いやすくなるという中堅企業の特徴が反映されているようだ。

【規制環境への対応】


 成長実現に向けて直面する規制面での課題として、約3分の2の回答者が挙げているのは、日本政府の経済政策だ(表3.2参照)。

 また、ほぼ同じ割合の回答者が不安定な政治情勢を課題として選択している。国内規制の変化(税制を除く)への対応が、成長の阻害要因になりかねないと答えた調査対象者は、全体のほぼ半数に上った。

 今回の調査と総選挙の実施時期(2012年12月)が重なったことで、調査対象者の不安感が強まった可能性はある。

 それにしても、過去5〜7年間に日本が経験した不安定な政治情勢により、事業環境に関する先行き不透明感がきわめて深刻なレベルに高まっていることは確かだ。中堅企業には大企業のような経済的影響力はなく、小企業ほどの政策的支援も受けていない。したがって、政治情勢や政策面で生じる急激な変化の影響をより受けやすい立場にあるのかもしれない。

 また、「政府が自社の事業・業界に対して好意的だ」と答えた回答者は3分の1を下回った。同様の回答をした消費財セクターの調査対象者は、わずか23%にとどまっている(実施時期が近づく消費税率の引き上げが、少なからず影響を与えたと考えられる)。

 安倍晋三首相が打ち出した経済政策により、企業のセンチメントは改善の兆しを見せている。しかし中堅企業が持つ政治・規制面での不安感を和らげるには、長期間にわたって安定的な環境が確保される必要があるようだ。

 このテーマに関する調査対象者の回答を業界・企業レベルで検証すると、興味深い傾向が見られる。例えば、地方自治体レベルでの政策を危惧する建設会社は、ほぼ半数と全体平均をはるかに上回っている。この背景の1つとして考えられるのは、同セクターの景気が地方での政治的関係に大きく左右されることだ。

 一方、地方税の要件への対応を規制面の課題として挙げた新興企業の回答者は約40%に上った。この結果からは、税制面で最も効果的な組織体制と戦略を模索する新興企業の姿が垣間見える。

戦略

【成長戦略の策定】

 中堅企業は、マクロ経済分野でも様々な課題に直面している。しかし、マーケティング、市場でのポジショニング、成長戦略といった面で置かれている状況は企業によって異なるようだ。今回の調査で、自社が明確な成長戦略を持っていると答えた調査対象者は半数以下だった(表3.3参照)。

 またニッチ分野をターゲットとしていると答えた回答者は40%以下で、自社が革新的な新製品・サービスを開発しているとした回答者も全体の3分の1以下にとどまっている。


 この結果から明らかになるのは、長期的な成長サイクルの狭間で、今後の方向性を模索する中堅企業の姿だ。中堅企業の多くは、新興企業や小企業、業界のニッチプレーヤーからスタートし、現在の規模にまで成長を遂げている。しかし、中堅企業からさらなる規模の拡大を目標に掲げている、あるいはその準備を行っている企業は比較的少ない。

 官民出資の投資ファンド、産業革新機構で執行役員を務める西口尚宏氏によると、中核的なビジネス分野のみに注力することは、中堅企業に大きなリスクをもたらす恐れがあるという。「企業が既存ビジネスばかりに気を取られていると、急激な変化に対応できず、ある時点から業績不振に陥ってしまう可能性が高い」と同氏は指摘する。「中核事業がうまく回っている時期に、次のステップに向けた準備を進めることが重要だ」という。

 一方で、中堅企業という立場に特有のメリットを見いだしている経営者も多く見られる。その一例が、神奈川県を拠点としビニール向け安定剤などを製造するサンエース(2011〜12年度 年商約172億円)だ。

 同社で取締役社長を務める吉田耕次氏は、「多角化して色々な事業を展開する大企業では、各分野で提供する製品・サービスの質にばらつきが生じることもある。しかし我々は大企業と違い、競争力を持つ専門分野に注力する専業メーカーだ。そのために顧客の信頼を得られている部分もある」と指摘している。

 今回の調査結果を見ると、中堅企業は成長すればするほど戦略が明確になり、イノベーション能力も向上し、幅広い製品・サービスを提供できるようだ(表3.4参照)。2013年の製品開発投資に関する質問では、「投資を拡大する」と答えた大規模中堅企業の回答者が43%と、全体平均の31%をはるかに上回った。


 この背景の1つとして考えられるのは、海外企業との価格競争を迫られている現状だ。特に、一般的なサプライヤーやサービスプロバイダーとして事業を行っている中堅企業の場合は、厳しい競争圧力にさらされているケースが少なくない。

 土佐電子の辻氏も、競争で生き残るために企業価値の向上を図ることの重要性を指摘している。「下請け企業として質の高い製品やサービスを提供するだけでは、今後長い期間にわたって収益性の高い事業を維持することはできない。当社が技術力を活かせる自社製品の開発強化に取り組んでいるのはそのためだ」と同氏は語る。

 東京大学の元橋氏も、下請けから独自製品の開発能力を持つ企業への移行が、中堅企業の生き残りにとってきわめて重要だと指摘している。同氏は成功を収める中堅企業の特長として、迅速な意思決定と顧客ニーズに沿った製品の開発能力などを挙げている。

【変化する需要への対応】

 今回の調査結果を見ると、変化する顧客ニーズへの対応は多くの中堅企業にとって重要な課題となっている。しかし、徹底的な市場調査を現在行っている企業は、それほど多くないようだ。「現在あるいは将来の顧客ニーズを理解するために市場調査を行っている」と答えた回答者は、3分の1以下にとどまっている(表3.5参照)。

 また、「新たな顧客コミュニケーション手法への適応に苦労している」と答えた回答者は3分の1を超え、需要の変化を予測することが難しいと答えた回答者も40%を上回った。


 規模別に見ると、市場調査を行う企業が最も多いのは大規模中堅企業だ。「新たな顧客コミュニケーション手法への適応に苦労している」と答えた大規模中堅企業の回答者がほぼ半数に上っていることは、こうした傾向が見られる理由の1つかもしれない。

 一方で、同様の回答をした小規模中堅企業は約4分の1にとどまっている。小規模企業は、顧客とのコミュニケーション手法の変化へより機敏に対応する能力を持っているのかもしれない。

 顧客のフィードバックを製品・サービス開発に活かす能力が、イノベーション推進にきわめて重要な役割を果たしている企業も存在する。千葉県幕張市を拠点とするウェザーニューズ(2011〜12年度 年商約129億円)は、15カ国40都市に事業拠点を置く世界最大の民間気象サービス企業だ。同社は単に気象予測を行うだけではなく、海運業・運輸業・メディア・エネルギー産業など様々な業界に属する顧客企業のニーズに沿った形で気象情報を提供している。

 同社で代表取締役社長を務める草開千仁氏は、「当社の大きな強みの1つは、顧客との密接なコミュニケーションを行い、継続的な顧客フィードバックとサービスイノベーションというプラスのサイクル(同社では「感謝のリサイクル方程式」と呼ぶ)を実現する能力だ」と語っている。同社のこうした能力は、インターネットやソーシャルメディアの普及によってさらに強化されたという。

人材

【有能な人材の確保と育成】

 優秀な人材の確保は、日本の中堅企業が抱える大きな問題の1つだ。今回の調査で、「自社が求める有能な人材を確保できている」と答えた回答者の割合は、全体の約3分の1にとどまった。これは、新卒の一括採用という仕組みの中で、大企業が影響力を誇る現状を反映する結果かもしれない。

 また、「当社は自社でキャリアを全うする若い人材の育成に真剣に取り組んでいる」という記述に同意する回答者の割合も41%にとどまった。

■モンベル:機能美という強み■

 1975年に辰野勇氏が創業したモンベル(2012年度 年商約420億円)は、衣料・用品、旅行代理サービス、保険などアウトドアに関する様々な製品・サービスを提供する日本最大の総合アウトドアメーカーだ。

 現在、同社で代表取締役会長を務める辰野氏によると、アウトドアは景気動向に左右されにくい産業だ。だが同社の競争力の決定的な源泉となっているのは、日本の伝統に裏打ちされた“機能美”(一切の無駄を省いて機能を突き詰めたところに美が宿るという考え方)だという。「“モノづくり”の能力は、モンベルの大きな強みになっている」と同氏は語る。

 また辰野氏は、企業が社会的責任感覚を持ちながら事業を展開する重要性を強調している。この考え方は、同社のCSRプログラムや約40万人が加入する会員組織“モンベルクラブ”を通じた活動に反映されているという。「成熟が進む市場では、価値観というものが重要な意味を持つようになる。消費者は単なるジャケットではなく、その背後にあるストーリー性・メッセージ性に注目している」と同氏は指摘する。

 大企業と同様に優秀な人材といった経営資源を確保する一方、創業者が代表を務める経営体制の下でベンチャー精神を維持するなど、モンベルはマーケットリーダーとしてのポジションを確立した中堅企業という立場がもたらすメリットを享受しているようだ。今後の課題について、「これから規模が大きくなっていく中で懸念されるのは、社内コミュニケーションの問題だ」と同氏は指摘する。「これから会社の理念や文化を受け継いでいくために、今まで私と直接かかわりを持ってきた従業員の役割がますます重要になるだろう」と同氏は語っている。


 こうした傾向が見られる理由の1つは、他企業への一時的な出向が増加するなど、終身雇用からより多様な雇用形態への移行が日本で進んでいることだ。

 しかし、雇用に対する新たな考え方や習慣の広まりは、中堅企業に組織的な課題をもたらす恐れがある。今回の調査では、成長を妨げる組織的な課題として「従業員の志気低下」「有能な人材の確保」を挙げた回答者が最も多かった(表3.6参照)。

 日本の中堅企業は、こうした問題に対して真剣に取り組む姿勢を見せている。最も重要な2013年の組織的重点課題として有能な人材の採用を挙げた回答者は、全体の半数近くに上った。

 一部の業界では、有能な人材の確保が特に重要な課題と考えられているようだ。例えば、この項目を最大の組織的課題として挙げた製薬業界の回答者は60%に上っている。また同セクターの回答者は、自社でキャリアを全うする若い人材の育成に真剣に取り組んでおり、有能な人材の採用をより重視する傾向も見られた。

 調査で明らかとなった様々な指数を見ても、同業界は成長志向が強いだけでなく、最も優れた業績を収めており、今後の見通しに関しても非常に楽観的なことが分かる。製薬業界が有能な人材の確保に熱心な理由の1つは、ここにあるのかもしれない。

 日本人の安定志向を反映してか、大規模中堅企業の調査対象者には求める人材を確保できていると回答する傾向がより強く見られた。しかし、必ずしも創業年数の長い企業が有利というわけではない。有能な人材を確保できていると答えた新興企業(創業10年以下)の回答者は約半数と、全体平均の34%を大幅に上回っている。

 ライフネット生命の出口氏が、大企業と競合して有能な人材を確保するための重要な鍵として指摘するのは、ダイバーシティーを推進し、働きやすい職場環境を実現することだ。男性・女性社員の両方を対象とした育児休暇制度を設け、年齢制限を設けない人材採用を行うなど、同社はきわめて柔軟な人事ポリシーを取り入れている。

 「経営者がダイバーシティーを本当に重視しているということを、言葉だけでなく行動で示すことは重要だ。ダイバーシティーに富み元気で明るい職場を作りたいという経営陣の考えが本音か建前かは、だいたい感覚で分かってしまう」と同氏は指摘している。

【事業継承という課題】

 今回の調査対象となった中堅企業の経営幹部は、現在の経営チームに関して概ね満足しているようだ。「当社には効果的に会社を主導する経営陣がいる」という記述に同意した回答者は半数を超え、「当社の経営陣は、直面する課題に対応できるスキルセットを備えている」という記述に同意しなかった回答者は全体の約5分の1にとどまった(表3.7参照)。

 一方で、「自社は明確な後継者育成プランを用意している」と答えた回答者は、30%を下回っている。小規模中堅企業の多くがオーナー企業である現状を考えれば、これは大きな懸念材料といえる。


 強く確かなリーダーシップが維持されることが企業の成長にとってプラスとなることは、回答者の多くが現在の経営陣に満足だと答えている点からも明らかだ。

 1978年創業のアパレル企業ハニーズ(2012年度 年商600億円)で代表取締役社長を務める江尻義久氏が、これまでの実績にあぐらをかくことなく様々な模索を続ける背景には、自身が創業者であることも関係している。「成功を実現する次のビジネスモデルを模索することは、我々にとって重要な課題だ」と同氏は語る。こうした起業家精神の色濃い経営姿勢は、創業者が経営するオーナー中堅企業の興味深い特徴の1つだ。

■ナカシマプロペラ:世界は1つの市場■

 岡山県に拠点を置くナカシマプロペラは、レジャー用小型船舶からタンカーや貨物船まで、あらゆるタイプの船舶をターゲットとした様々なサイズのプロペラを製造する企業だ。2011〜12年度に約250億円の売上高を達成した同社は、国内最大のプロペラメーカーであり、世界の大型プロペラ市場で約30%のシェアを誇っている。

 同社の成長戦略にはいくつかの側面があるが、その柱の1つとなっているのは顧客ベースの多様化だ。同社で代表取締役社長を務める中島基善氏は、「下請けという役割に甘んじて(特定の顧客の)言われたことだけに従事していれば、会社の先行きは危うくなってしまう。これは、企業の規模に関係なくいえることだ」と指摘する。

 中島氏によると、同社は社内の意識として常に顧客企業を対等のパートナーと考えてビジネスを行うという。「我々は、供給先を1〜2社に限定するようなことはしないし、国内市場だけに注力することもない。中国や韓国など、国境を越えて契約先を探しに行く。我々の市場は世界にある」と同氏は語る。

 戦後の時代を通じて圧倒的な繁栄を享受した日本の造船業界の世界シェア減少に伴い、海外市場の重要性は高まりつつある。中島氏によると、従業員の全てが海外事業に関わることは極めて重要だという。同社では国内市場と海外市場に境界線を設ける組織構造を廃止し、全従業員が世界中のビジネスに関与する事業体制を目標としている。

 海外市場を視野に入れる中堅企業にとって、国際的な事業展開に対応する経営体制を整えることはますます重要となりつつあるようだ(特に次世代への事業継承という側面を考える場合はそうだ)。中島氏がこの点で将来的な不安を感じていないのは、自身の息子が同社で働いているからだけではない。「当社の若手従業員は(国際的なビジネスに)密接に関わっており、日常業務をこなすことで様々な経験やスキルを身につけるよう努力している」と同氏は語る。

 高いレベルの起業家精神・リーダーシップ能力を維持することが中堅企業の強みとなるという点に関しては、産業革新機構の西口氏も同意している。「中堅企業の場合、創業者が今も代表を務めるケースは珍しくない。新規事業の展開が成長の推進力となることを考えれば、こうした企業は有利な立場にいる」と同氏は指摘する。

 同時に、西口氏は創業者が経営する企業にとって事業継承が重要な課題になっていることを指摘している。「創業者の引退前に、創業者がいなくても事業継承後に企業の成長力や競争力を維持・向上できるような体制を整えることがきわめて重要だ。例えば、イノベーションを推進したり、それをサポートする有能な人材の確保、外部のリソースをうまく活用する経営能力が必要」と同氏はいう。

財務管理

【資金調達源の確保】

 日本の中堅企業は、全体として周到な財務管理を行っているようだ。今回の調査結果によると、「運転資金を効果的に管理できている」あるいは「コストを効率的に管理できている」と答えた回答者はそれぞれ全体の40%程度に上った(表3.8参照)。

 一方、こうした分野で課題に直面していると答えた調査対象者は、それぞれ全体の4分の1以下にとどまっている。また「手ごろな資本コストで資金調達ができている」とした回答者は約45%に上った。


 しかし、自社の成長実現に向けて直面する最大の課題として、「十分な運転資本の確保」「予測可能なキャッシュフロー」「低コストの融資の確保」を挙げた回答者はそれぞれ約54%・49%・46%に上っている。この結果を見ると、日本の中堅企業は概して安定的な財務基盤を確保しているが、将来的な不安を感じているようだ。

 ある意味自然なことだが、大規模中堅企業の回答者は、コスト管理や資金調達を比較的容易だと感じているようだ。しかし、「有利な融資条件を確保することが難しい」と答えた回答者は29%と、全体の平均値(19%)を大幅に上回っている。

 この理由の1つとして考えられるのは、融資条件に関する大規模中堅企業の期待値が高い、あるいは金融機関が(一定分野の事業に特化した小規模中堅企業と比べて)成長性を判断しにくい大規模中堅企業への融資に慎重な姿勢を見せているといった要因だ。

 一方で、創業年数が少ない新興中堅企業は、手ごろな資本コストで資金調達を行うことにより大きな困難を感じている。困難を感じると答えた新興企業の調査対象者は38%と、全体平均の16%をはるかに上回った。前述のとおり、新興企業では有能な人材の確保ができていると考える回答者が多い。しかし日本の資本市場では、創業年数の短さが資金調達面での足かせとなる面もあるようだ。

 しかし、こうした日本の現状を機会として活用している起業家も存在する。個人投資家を主な対象としたマイクロ投資の運営会社ミュージックセキュリティーズで、代表取締役社を務める小松真実氏はその一例だ。個人参加型ファンドを通じて様々な企業の資金調達を支援する投資プラットフォーム“セキュリテ”は、資金面で苦しむミュージシャンをファンが直接支援する仕組みとして、自身もドラマーである小松氏が考案したものだ。

 同氏によると、資金調達の問題を抱える中堅企業は特に地方で多く見られるという。「日本では銀行からの借り入れが最大の資金供給経路になっているが、特に地方企業には十分な資金が行き渡っていない。また、ベンチャーキャピタルによるエクイティファイナンスの規模も依然として小さく、多くの小規模中堅企業はそもそも上場を目指していない。そのため、日本には大きな需給ギャップが存在するのが現状だ」と同氏は指摘している。

 現在同社は、将来性のある地方企業の支援を単独では行えない地方銀行から支援先の紹介を受けるなど、様々な形で他の金融機関との連携を深めている。こうした地銀の多くは、同社ファンドの販売窓口となることにも積極的だ。また小松氏によると、政府も日本の膨大な個人貯蓄を活用する「第3の資金経路」としてマイクロ投資に注目し始めており、地方活性化に向けた取り組みの中でこうしたタイプのファンドの活用を模索しているという。

(第4章は明日へ続く)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38264


06. 2013年7月24日 11:20:52 : niiL5nr8dQ
JBpress>海外>Economist Intelligence Unit [Economist Intelligence Unit]
日本の中堅企業 その競争力と成長の条件(1)
英EIU報告書〜日本における中堅企業の特色
2013年07月22日(Mon) Economist Intelligence Unit
はじめに

 零細・小規模企業には、起業家精神を体現する存在としてメディアの関心が集まることが多く、様々な政策的支援も行われている。こうした傾向は、日本でも他の先進国と同様に見られる。一方、大企業は自らの成功と影響力を活かしてメディア露出の機会を多く作り出すとともに、主要産業団体や業界内外で大きな発言力を発揮している。

 その狭間にある中堅企業の存在は、ともすれば見過ごされてしまうのが現状だ。しかし日本の中堅企業は、労働人口の約4分の1を雇用し、総売上高の約3分の1を占めるなど、きわめて重要な経済的役割を果たしている。

 本報告書では、中堅企業の定義を世界全体で10億円から1000億円の年間売上高を持つ企業と定めた。これは、企業の経済活動や産業構造等に関する最新の公的データや、約130万社を対象とした民間データベースなど、様々な情報の分析を行った結果定められたものだ。またこの定義は、ヨーロッパ諸国や米国で主に用いられているものと大枠で一致している(相当する収益額を日本円に換算した場合)*1。

 年商10億〜1000億円という範囲には、日本経済の将来を左右する様々な業種や事業形態の企業が存在している。規模が比較的小さな中堅企業の中には、様々な産業で最先端の取り組みを行う革新的な急成長企業が含まれている(個人事業主や家族経営のサービス企業など、日本に数多く見られる零細企業は対象外)。若い起業家が経営するリブセンスやオイシックスなどの新興企業はその一例だ。

 また比較的規模の大きな中堅企業の中には、ハニーズやナカシマプロペラなど、各業界で主導的なポジションを確立している企業も少なくない。本報告書では、こうした企業が日本経済の中で果たす役割、直面する課題、将来的に大企業となる可能性といった点について検証を行う。

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国際的にも高いレベルの生産性

 日本の中堅企業が全企業数に占める割合は、2.1%と比較的少数だ。しかし総従業員数の4分の1以上、そして総売上高の約3分の1を占めるなど、日本経済の中できわめて重要な役割を果たしている(表1.1〜1.3参照)。


 主要先進国と比較すると、中堅企業の従業員が労働人口に占める割合は若干低い(大企業が持つ圧倒的な雇用能力が影響を及ぼしていることは想像に難くない)。だが興味深いのは、生産性つまり従業員1人あたりの売上高が、他の先進国より優れている点だ(表1.4参照)。


*1=この定義を用いた研究の例としては下記の2つが挙げられる:US middle-market firms and the global marketplace, Economist Intelligence Unit, 2012, The Mighty Middle: Why Europe’s Future Rests on its Middle-market Companies, and Leading from the Middle, The Untold Story of British Business, GE/Essec Business School, 2012大企業と比べて柔軟な対応能力

 今回エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が実施した調査によると、日本の中堅企業の多くは安定した経営基盤と市場ポジションを確立しているようだ。調査対象企業の中で10年以内に創業された企業はわずか7%にとどまり、創業11〜50年の企業が58%、創業50年以上の企業は35%を占めている。

 また中堅企業の多くは、日本が近年直面した経済的問題に対しても柔軟な対応力を示している。2008年から2011年にかけて、日本経済はリーマンショックや東日本大震災など様々な非常事態に直面した。しかし、同期間に日本の大企業が経験した平均収益の落ち込みは10%に上っているのに対し、中堅企業では7.5%にとどまっている(表1.5参照)。


雇用レベルの維持は大きな課題

 一方、日本の中堅企業は雇用面で課題に直面している。2008年から2011年にかけての平均従業員数は、大企業で5%減にとどまっているのに対し、中堅企業では14.5%減と大幅に落ち込んだ。この数字からも、利益維持のためにコスト削減面で厳しい決断を迫られた中堅企業の姿が浮き彫りになっている。

 同時期に最も良好な数字(9.3%増)を示したのは、個人事業主を除く小企業だ。これは、厳しい経済情勢の中で、多くの労働者が新たな雇用先を求めた結果だと考えられる。また多くの小企業は、事業規模のより大きな中堅企業が対象とならない政府支援策(特に景気低迷が深刻化した近年に多く見られた)の恩恵を受けた可能性が高い。

変化を遂げる中堅企業の産業構造


 国内中堅企業の産業構造を見ると、製造業が占める割合は4分の1超に上っている。

 それに次いで多いのは、金融・専門的サービス*2・建設・不動産・IT・テクノロジー・電気通信といった業種だ(表1.6参照)。

 しかし中堅企業の産業構造は変化を遂げつつある。創業11年以上の企業で見ると、製造業は最も大きな割合を占めているものの、創業10年以下の新興企業を見ると上位3業種に入っていない(表1.7参照)。

 また製造業は、今回の調査で最も悲観的な見通しを示した業種の1つだった(第2章を参照)。


*2=専門的サービス=専門知識を必要とするサービスの総称(例:弁護士事務所・会計事務所・コンサルティング企業・人材会社・PR会社など)

中堅企業:3つのタイプ

 日本の中堅企業は、事業規模に応じて3つのカテゴリーに分けることができる。日本経済全体の傾向と同様に、小規模中堅企業(年間売上高が100億円未満)は最も多く、全体の88%に上っている。本報告書では、中堅企業を小規模・中規模・大規模という3つのカテゴリーに分類した(各グループの定義と特徴については表1.8を参照)。


 各カテゴリーの比較により明らかとなった興味深い点の1つは、規模の経済性がもたらす収益率の差だ。

 大規模中堅企業(平均年間売上高700億円)では、平均収益率がほぼ5%と、他のグループに比べて高い。

 第2章で後述するように、近年の業績と今後の見通しに関する中堅企業のセンチメントは、事業規模によって大きく異なっている。例えば大規模中堅企業は、近年の景気低迷がもたらすマイナスの影響に対して、より柔軟な対応力を示した。2012年には、このグループに属する企業の50%が収益の拡大に成功している。一方、小規模中堅企業ではその割合が38%にとどまった。

 また3つのグループには、事業戦略や適性という意味でもある程度異なった傾向がある。例えば小規模中堅企業には、ニッチ市場をターゲットとするケースがより多く見られた(このグループのほぼ半数)。しかし小規模企業は、自社のイノベーション能力に対する評価が比較的低いようだ。今回の調査では、「自社は革新的な新製品やサービスを開発している」という記述に同意しない小規模企業の回答者が、同意した回答者を大きく上回った。

 一方、大規模中堅企業(年間売上高500億〜1000億円)では、自社のイノベーション能力に対する肯定的な回答が最も多かった。また市場機会を捉える能力や、変化への対応能力に関しても、同様の傾向が見られる(表1.9参照)。

 しかし小規模中堅企業は、イノベーションの新たなトレンドを最大限活用できる柔軟性を持ち合わせていることが多い。東京大学大学院で教授をつとめ、21世紀政策研究所(経団連のシンクタンク)の研究主幹として中堅企業のイノベーションに関する報告書を取りまとめた元橋一之氏は、外部企業や学術機関との連携をつうじたオープンイノベーションの推進という面で小規模中堅企業が果たす役割の重要性を指摘している。

 「高度な技術力を持つ中堅企業が、ネットワーク型イノベーションの推進に果たす役割は大きい」と元橋氏は言う。また同氏は「大企業と比べてリソースが限られている中堅企業は、イノベーションに対する目的意識が明確なため、より効率的にアウトプットを行う傾向が見られる」と指摘している*3。

 日本の中堅企業は、規模や業種などによって様々な特色が見られる。EIUは、多様な見方や傾向を理解するため、日本全国の中堅企業に所属する経営幹部約1000名を対象としたアンケート調査を実施した。同調査では、業績や景況感、成長に際して直面する課題への対応能力、海外展開の計画といったテーマに沿って質問が行われた。こうしたテーマに関する調査の分析結果は、第2〜4章でそれぞれ明らかにされる。

 また第5章では、成功を収める中堅企業の戦略・経営について検証を行う。今回の調査によって浮き彫りになったのは、柔軟な対応力を備え、安定した事業基盤を持ちながらも、国内市場の先行きに不安を感じ、海外展開を視野に入れているという中堅企業の実像だ。


*3=この点に関しては、下記報告書を参照:元橋一之 他著「外部連携の強化に向けて – 中堅企業に見る日本経済の新たな可能性」 21世紀政策研究所、2012年6月(同報告書では製造業を主な研究対象に、年間売上高1億〜10億円の企業を中堅企業と定義している)

(第2章は明日へ続く)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38254


07. 2013年7月26日 00:55:16 : niiL5nr8dQ
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優良中堅企業の成功の秘訣
英EIU報告書〜日本の中堅企業 その競争力と成長の条件(5)
2013年07月26日(Fri) Economist Intelligence Unit
 日本の中堅企業は、全体として安定した経営基盤を築いているようだ。しかし、全ての企業が成功を収めているわけではなく、過去数年特に目覚ましい業績を上げた企業も存在する。本章では“優良中堅企業”を特定し、その成功の一端を担う経営体制や戦略について検証を行う。

 本報告書で用いる“優良中堅企業”の定義は、日本経済が様々な困難に直面した2010〜12年にかけて、3年連続で世界的な増益を達成した企業だ。この条件に当てはまる企業は、中堅企業全体の17.6%とそれほど多くない。


 業種別でこうした企業が一番多いのは、景気サイクルの影響を比較的受けにくいヘルスケア・製薬・バイオテクノロジー業界だ。同セクターでは、3分の1以上の企業がこの条件を満たした(表5.1参照)。

 一方で、市場変動の影響をより受けやすい金融・専門的サービスやIT・テクノロジー・電気通信といった業界でも、それぞれ5分の1以上が“優良中堅企業”となっている。条件を満たす企業が最も少なかったのは製造業だ。

 この分析結果で興味深いのは、事業規模あるいは創業年数別に見た“優良中堅企業”の分布状況があまり変わらない点だ。言い換えれば、特定の事業規模や創業年数が、成功に有利な条件となっている可能性は低い。過去数年の厳しい経済環境の中で成長を実現した企業と、そうでない企業を分けたのは、むしろ経営体制や戦略といった要因だ。

柔軟性と多様な製品・サービス展開

 ある意味当然のことだが、優良中堅企業には明確な成長戦略を持つ企業が多く見られた。3年連続増益という条件を満たす企業の71%が、「明確な成長戦略を持っている」と回答する一方で、その他の企業では同様の回答が32%にとどまっている。

 また優良中堅企業は、より柔軟な事業体制を構築しているようだ。「市場変化を捉えるポジションを確保している」とした回答者の割合が、こうした企業では3分の2に上っている(その他企業では3分の1)。

 優良中堅企業が優れた柔軟性を備えている理由の1つは、多様な製品・サービスを展開していることだ。中堅企業には、ニッチ市場でビジネスを展開する企業が多く見られる。しかし優良企業の52%は「幅広い商品ラインアップを揃えている」と回答している(その他企業では31%)。

 もう1つの重要な点は、こうした企業が顧客ニーズの変化をよく理解していることだ。「顧客ニーズを理解するためマーケットリサーチを行っている」という記述に同意した優良中堅企業の割合が47%に上ったのに対し、その他企業ではこの割合が22%にとどまった。

 また興味深いことに、優良中堅企業はサプライチェーンのパートナー企業とより良好な関係を保っている(「サプライチェーン・パートナーとの関係は良好だ」とした回答者は、優良中堅企業の59%に対しその他企業では30%)。この結果は、自動車やその他の製造業でよく見られる“系列”の重要性を示しているのかもしれない。

 たしかに系列は、安定的な取引関係の実現というメリットを持つ仕組みだ。しかし事業環境が悪化した際には、顧客との取引条件の交渉をやりにくくしてしまうというマイナス面も見られる。優良中堅企業で「原価の上昇を顧客に転嫁できない」とした回答者は53%と、その他企業の44%を上回った。

 産業革新機構の西口氏は、中堅企業がこうした面で柔軟性を欠くことの危険性を指摘している。同氏によると、「バリューチェーンの中だけで事業を展開する下請け企業は、より独立してビジネスを行う企業と比較して、市場変動の影響を受けやすい傾向がある」という。

 しかし上記の調査結果を見ると、日本の優良中堅企業はこうしたマイナス面の影響をあまり受けていない。むしろ、その他企業と比べて景気動向のインパクトを柔軟に吸収しているようだ。過去数年の厳しい経済環境の中で、優れた業績を上げてきた理由は、ここにあるのかもしれない。

柔軟な経営体制


 優れた業績を上げる企業で、経営幹部が尊敬を集めるのは自然なことだ。

 優良中堅企業とその他企業には、経営チームの能力に対する評価という意味で対照的な傾向が見られる。

 前者では、「効果的に企業をリードする経営陣がいる」という回答が71%に上ったのに対し、後者ではわずか3分の1程度にとどまっている。ここでも鍵となっているのは柔軟性だ。

 自社の成功や対応能力の要因として、「官僚的でない経営スタイル」を挙げた回答者は前者で57%、後者で29%と大きな開きが見られた(表5.2参照)。

イノベーション・IT・人材への投資

 優良企業は、多様な製品・サービスを展開するために、積極的なイノベーションを推進しているようだ。今回の調査で、「自社は革新的な新製品・サービスを開発している」と答えた優良企業の回答者(43%)は、その他企業(22%)のほぼ2倍に達している。

 優れた日本企業の特長として長年評価されてきた、プロセス・効率化のイノベーションも重要な要素だ。優良企業のほぼ半数(48%)はこうした分野でイノベーションを推進していると回答している(その他企業は29%)。

 また優先的な投資分野という面では、イノベーションの有望分野にリソースを投入する傾向がより顕著に見られる(表5.3参照)。また優良中堅企業は、2013年を通じて製品開発やビジネスプロセス・イノベーションへの投資を積極的に行う姿勢を見せており、有能な人材の採用やITシステム向上も重視している。

 「2013年は有能な人材の新規採用に重点を置く」と答えた優良中堅企業の回答者は約59%と、その他企業の33%を大幅に上回った。また「今年は技術や設備のアップグレードに重点を置く」とした前者の回答者は約3分の1と、後者の2倍近くに上っている。

コスト・運転資本の管理


 再投資資金の十分な確保が、収益性の向上に重要な役割を果たすことは言うまでもない(成功は成功の呼び水となる)。

 しかし持続的成長を実現するためには、徹底した財務管理も欠かせない。今回の調査結果によると、優良中堅企業には効率的なコスト・資本管理という基本に忠実な企業が比較的多く見られた(表5.4参照)。

 その結果、より手頃な資本コストで資金を調達できているようだ。国内銀行の融資に対する慎重姿勢を背景に、多くの中堅企業が慢性的な資金調達の問題に直面していることを考えれば、これは大きな強みだろう。

■リブセンス:起業家精神と成長の実現■

 インターネットメディア運営事業を手がけるベンチャー企業リブセンスは、日本の中堅企業が持つ高い成長力を象徴する存在だ。代表取締役を務める村上太一氏は、2006年に19歳の若さで同社を創業した。それ以来リブセンスは急速な成長を遂げている。2012年度の売上高は約23億円と、前年度の11億円から倍増し、利益率も49.9%と異例の高収益体質を誇る。また村上氏は史上最年少での上場を達成し、2012年10月には東証1部への市場変更を行った。

 すでに市場を確立した日本の大企業と競争するのは決して容易でない。しかし村上氏によると、既存企業の強みを弱みに変える戦い方をすれば、それは十分に可能だという。「当社の競合企業は、営業力を駆使してこれまで成功を収めてきた。そこで我々はインターネットを使い、営業部隊に頼ることなくサービスを提供するビジネスモデルを考えた。人的資源を武器にする既存企業と競争することができるのは、このモデルを通じて大幅なコスト削減を実現しているからだ」と村上氏は語る。

 しかし、同社もさらなる成長に向けた課題に直面している。同氏が特に大きな課題として挙げるのは、優秀な人材の確保と組織的な活力の維持だ。同氏によると「常識にとらわれない発想力と、自分が会社を成長させるんだという情熱を併せ持つ人材を見つけるのは容易でない」という。

国際的な事業戦略

 今回の調査結果を見ると、海外展開を行う優良中堅企業とその他企業の割合は大きく変わらない。しかし前者は、海外市場を戦略的に活用するという意味で一歩先んじているようだ。

 日本経済の先行きに関して、優良企業は若干楽観的な見通しを持っている。国内需要の低迷を、経済面で最大の課題の1つとして挙げた優良企業の割合は3分の2で、その他企業の5分の4を下回っている。しかし、前者に海外展開を行う企業が多いわけではない。「海外市場からの売り上げが全体の10%以下だ」とした優良企業は4分の3に上っている。

 また中堅企業が海外展開を行う理由には、共通点が見られる。海外展開の主な理由として「長期的な成長見通しの向上」を挙げた回答者の割合は、両者で大きく変わらなかった。

 しかし、海外投資を行っている、あるいは予定している優良中堅企業の割合は、今回の調査で挙げられた投資対象国の全てでその他企業を上回っている(表5.5参照)。この結果を見ると、海外展開という意味で優良企業は一歩先を行っているようだ。


 しかし海外投資にまつわる課題に関しては、ある意味予想外の結果も見られた。海外投資を成功させる経営陣の能力について、楽観的な回答をした優良企業の割合は、その他企業の割合と変わらない。一方で、「これまで思ったほどの効果が上がっていない」ことを課題として選択した回答者は少なかった(優良企業の回答者は37%、その他企業では30%)。

 メガネの製造販売を手がけるZoff(2011年度 年商約97億円)は、国内需要低迷への対応策として海外進出を行った中堅企業の1つだ。同社の創業者で代表取締役社長を務める上野剛史氏によると、国内市場は過去10年で20%も縮小したという。

 しかし、海外収益の増加を中核的戦略の1つとして据える同社は、依然として成長を続けている。同社は2010年に中国で第1号店舗をオープンし、今年末までに合計29店舗を構える予定だ(国内では合計142店舗)。「我々のビジネスモデルは、世界中で通用すると信じている。中国は我々にとってアジア最大の市場で、近い将来日本の売り上げを追い抜くだろう」と同氏は語る。

■PDFのダウンロードについて■

本稿未掲載の付録を含む本報告書全文は以下よりPDFでダウンロードできます:

●日本の中堅企業〜その競争力と成長の条件
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