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銀行の融資先選別強化で悲鳴上げる中小企業…貸せない理由をなすり付け合う金融庁と銀行(Business Journal) 
http://www.asyura2.com/13/hasan82/msg/315.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 9 月 06 日 08:22:00: igsppGRN/E9PQ
 

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130906-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 9月6日(金)6時10分配信


 中小企業円滑化法が2013年3月末で終了した。4月以降、企業への貸出は減り、倒産件数が増えるのではないかという見方が強かった。しかし、四半期を過ぎ、7月8日に発表された「日銀の貸出・預金動向」(http://www.boj.or.jp/statistics/dl/depo/kashi/kasi1306.pdf)によると、実際の貸出は4〜6月期の貸出が前年同期比で1.8%増加した。1〜3月期が1.4%で、月別に見ても4月1.7%、5月1.8%、6月1.9%と緩やかながらも貸出は伸び続けている。

 結果的には大きな混乱はなかったといえるだろう。しかし、個々の対応では変化が出てきたというのが、融資の現場の声だ。経営コンサルタントの佐藤真言氏は、「追加融資の審査が厳しくなった」と言い、その理由を次のように説明する。

「金融庁は『円滑化法の期限到来後においても、金融機関は貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努める』としています。しかし、銀行側は円滑化法施行中に返済期限をリスケジュール(後ろ倒し、以下「リスケ」)した企業の業績が改善されなければ、いずれ格付けを要管理先に落とさなければならなくなります。金融庁が作成した金融検査マニュアルによる債務者区分が正常先(業績が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がない債務者)であれば、金融機関は貸倒引当金を引き上げなくてもいいですが、要管理先になってしまうと大きく引き上げなければならなくなります」

 債務者区分については、厳密に言えば各行で表示や区分付は異なるが、りそな銀行やみずほ銀行など、webで公開している銀行もある。

●融資先の選別強める銀行

 金融庁は円滑化法施行中に返済期限をリスケした企業について、同法終了後も、当面は債務者区分を不良債権先(要管理先以下)にしなくてもよいとしている。しかし、金融機関はすでに融資をする企業と、融資を打ち切る企業とに選別を始めているというのだ。

 近い将来、返済期限をリスケするような企業は、要管理先以下に区分しなければならなくなる時期がくる。その時、貸倒引当金は一気に跳ね上がる。そうならないためにリスケ対応を打ち切り、銀行の決算内容がよいうちにできる限り過去の貸出金を回収し、損失に計上してしまおうという思惑ですでに動いている、というのが佐藤氏の感触だ。

 なぜなら、債務者区分が正常先であれば貸倒引当金は全貸出債権の0.3%ほどだとしても、要注意先になると2.5〜10%ほどに上がり、さらに要管理先になると20〜30%程度に引き上げられるからだ(この割合は各行によって異なる)。

 債務者区分を円滑化法以前に戻す時期がくれば、要管理先になってしまい、突然、貸倒引当金が跳ね上がる可能性があるのだ。例えば、1億円の貸出先であった場合、貸倒引当金を30万円から3000万円に引き上げなければならなくなる。貸倒引当金はそのまま融資した支店の損失だ。そのため、リスケの対応を打ち切り、できる限り早期に過去の貸出金を回収してしまおうという判断をするようになるというわけだ。

●責任をなすりつけ合う銀行と金融庁

 こうした銀行の“早期回収”が融資先企業へ与える影響について、佐藤氏はこう説明する。

「銀行からおカネを融通してもらい、それを仕入れや雇用に使い、収益を上げて、そこから得たお金から返済していくという循環をしていかないといけないのに、銀行は返済ばかりを要求するどころか、返済した分すら貸さないという状況です。当然、資金繰りが難しくなる。そうなると仕入先の支払いを遅らせたり、給料を遅らせたりすることになる」

 仕入れを遅らせればモノが入ってこなくなるし、給料を遅らせれば従業員の士気に影響する。銀行が貸してくれないからとノンバンクや消費者金融などといった金融機関に手を出す経営者も中小企業では少なくないが、もちろん、利息はかさむ。さらにはノンバンクからの借入は、さらに銀行が貸さなくなる理由になるという。

「500万円借りて月末にお金が入るから返すという経営者は少なく、利息だけを払い続けるという人が大半なのです。そして気がつけば枠が増額されて700万円借りられるようになり、そこでまた枠いっぱい借りる。そういう会社や社長は、足りなくなれば2社3社とノンバンクから借りるようになる。そういうことを銀行は経験則として知っています。だからノンバンクと取引している会社や社長とはあまりお付き合いしません」(佐藤氏)

 銀行は融資に関しては、金融庁が決めた金融検査マニュアルを厳格に守ろうとする。その実態について、ある銀行員はこう言う。

「確かに、『中小企業向けには企業の実態を見て柔軟に対応するように』と書かれていますよ。でも、金融庁は突然支店に査察に入ってきて、融資から金融商品の取引記録まで、洗いざらい調べていくわけです。そして、『なんでこんなに業績に悪い企業に貸し出すのか?』と問い詰められるわけです。だから、なるべく悪そうな企業には貸さないようになるのです」

 こうやって、中小企業におカネが回らない理由をお互いがなすり付け合っているのが、日本の金融行政と銀行の姿なのだ。

●“貸せない”銀行の言い分

 銀行側も企業に融資をする意思はある。各支店に融資のノルマがあるからだ。

「貸したいけど、貸出先は正常先であってほしいわけです。しかし、世の中の中小企業のほとんどはギリギリ正常先であるか、要注意先ですから、貸したい企業ではないわけです。一方、大企業や中堅企業になると自己資金も十分あるし、借りる先もすでにたくさんあるため、新規で金融機関から借りる必要がないところが大半です。貸したい企業に資金需要はなく、貸したくない企業に資金需要があるので、どうやって貸出先を見つければいいのかというのが、今の金融機関の正直な悩みだと思います。

 しかし、ギリギリで踏ん張っている企業にとって、追加融資が下りるかどうかは死活問題です。企業が銀行から追加融資を受けられないことで債務者区分が下がり、業績が悪化し倒産してしまうと、最終的に金融機関にも返済されません。金融機関は中小企業と膝を付き合わせて資金繰り表を一緒に作り、今は赤字だけど融資をすることで再生可能な会社には積極的に貸すべきだと私は思います」(佐藤氏)

 今の金融機関にそういう態度を望むのは難しい。融資に関しても、信用保証協会の保証付きだったりしないと、銀行は融資になかなか踏み出さない。金融機関が独自に判断するプロパー融資が増えないのが現状なのだ。この体質が変わらない限り、日銀が金融緩和を続けても、中小企業にお金がまわるのには時間がかかるだろう。

 ある日銀職員は、「銀行はなかなか貸し出しを増やさないからウチが悪者扱いされる」と冗談交じりに筆者に言ったことがある。

 金融とは、「お金を融通する」という意味であり、「今はお金がないけれど、将来的には利益創出を見込める企業に資金を融資する」というのが金融業の本来の姿ではないか。だからこそ、金融が経済活動の動脈といわれ、銀行が破綻しかければ公的資金として税金が注入されることも許されている。

 血液が回らなければ、末端から壊死がはじまる。“血液”であるマネーは日銀により大量に出回っている。これを滞らせずに、末端まで持続可能な形で行き渡らせることができるか――。金融機関と金融庁は、今こそ本来の存在意義を問われている。
.
島田健弘/ライター


 

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コメント
 
01. 2013年9月06日 10:17:11 : e9xeV93vFQ
焦点:信金・信組の道険しい「本業回帰」、届かないアベノミクスの恩恵
2013年 09月 6日 07:09 JST
[稚内 6日 ロイター] - 信用金庫や信用組合などの地方の中小金融機関が、融資拡大という「本業回帰」への壁に直面している。安倍政権が推進する景気浮揚策の恩恵が届かないまま、地方での資金需要が停滞しているためだ。

国債など有価証券投資に依存する経営が続く中、アベノミクスの負の効果ともいえる金利上昇のリスクも現実味を帯び始めた。地域金融機関が新たな再編の波に直面する可能性も消えていない。

「前向きな資金需要、新しい事業や設備投資といったのものはほとんどない」──。日本最北端の町、北海道稚内市を基盤とする稚内信用金庫(稚内市中央)の増田雅俊理事長は、地元経済の厳しい現状にため息をつく。

同信金の預金残高は2013年3月末時点で3791億円。しかし、このうち貸出できているのは865億円にとどまり、残る預金の大半は地方債や国債で運用している。稚内市における同信金の貸出金シェアは5割を超えているのに、預貸率は22.8と低迷しているのが実情だ。増田理事長は、貸出需要そのものがなくなっていることを理解して欲しい、と強調する。

かつてタラバガニやスケトウダラ漁の拠点として潤った同市はいま、地元産業衰退という窮状に直面している。1977年、旧ソビエト連邦(当時)による200海里漁業専管地域の設定で、同市を拠点とする底びき網漁などの水揚げ量は激減、現在は40年前の7分の1に落ち込んだ。

住民の流出にも歯止めがかからず、現在の人口は約3.8万人。頼みの綱は観光業だが、道内には札幌、函館、旭川などトップクラスの観光地が目白押し。1日に2本の羽田からの直行便があるものの、稚内まで足を延ばす来訪客の数は過去10年でおよそ半減した。

地場経済の縮小と貸出ニーズの長期的な減少が続く中、同信金は早々と運用先を国債、共同発行市場公募地方債などリスクウェートの低い有価証券にシフトさせた。同理事長は、金利上昇の懸念について、運用益の増加につながるため、経営の直接のハードルではない、と自信を見せる。

<企業に潤沢な自己資金、借入拡大は期待薄>

資金需要が盛り上がらず融資拡大ができない、という稚内信金の現状は、国内の信金・信組の多くが同様に抱える問題だ。日銀の貸出・資金動向によると銀行の貸出は7月に前年同月比2.3%増と、今年に入り回復の兆しを見せているが、信金の貸出はわずかながらではあるが前年同月比マイナスに沈んだままだ。

昨年末の第二次安倍政権の発足は、地方の中小金融機関にとって現状打開の後押しになるはずだった。「アベノミクス」の大きな柱として、日銀は新規に発行される国債の約7割にあたる量を買い取り、市中に資金を供給する異次元の金融緩和策を発表。企業の資金需要が高まれば、稚内信金のような地域金融機関や地銀、大手行にとっては、預金を国債運用ではなく貸出業務に回す、という本業回帰の経営シナリオが描ける。

しかし、中小企業を主要な貸出先とする信金・信組の多くは、アベノミクスの恩恵を全く実感していない。

農林中金総合研究所の理事研究員、渡部喜智氏は「企業の資金需要の増大には限界がある。余資運用は増やすことはできても、減らせる展望は開けにくい」と、引き続き運用に頼らざるを得ない現状を指摘する。国内の事業法人(金融機関を除く)は、バランスシートに225兆円という潤沢な現預金を抱えている。借入れが本格的に拡大すると予想するのは少数派だ。

例外がないわけではない。今年4月の信用金庫法の施行令改正により、信金は取引先の海外子会社に対し直接融資をできるようになった。規制緩和を活かし、浜松信用金庫(静岡県浜松市)は9月、古山精機のインドネシア現法に国際協力銀行(JBIC)と計1億円の協調融資を実施。取引先の海外事業の拡大をJBICと共同で後押しするのは信金として初の事例となった。

しかし、こうしたビジネス拡大を後押しする政策支援の枠組みがあるにもかかわらず、浜松信金のような取り組みは全国的な広がりをみせていない。融資対象の中小企業に海外進出のニーズが少ないという事情と同時に、長期のデフレ経済下で防衛的な経営姿勢が定着し、融資リスクを積極的に取れなくなった信金・信組の企業体質も背景にある。

一方で、4月の日銀による大規模緩和で国債マーケットのボラティリティ―が一時的に急上昇し、一部の信金は国債頼みの運用のもろさを痛感した。「期初に予定していた国債の購入を半分にせざるを得なかった」と首都圏の信金の企画担当者は打ち明ける。

最近は金利の動きも落ち着いてきたものの、「金利が低いならば低いままで安定してくれればいいが、一方で日銀は(物価安定上昇率)2%と言っているし、わからない」(同担当者)。多くの金融機関が「安全弁」としてきた国債運用の先行きに不安が生じてきたことは否定できない。

今年3月末までの過去10年間、全国の信金の国債保有残高は69%増の10.6兆円に膨らんだほか、社債の保有残高は50%増の16.2兆円に膨らんだ。三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306.T)、みずほフィナンシャルグループ(8411.T)、三井住友フィナンシャルグループ(8316.T)の3メガにいたっては、13年3月期に国債運用で3社合算で業務純益の24%にあたる約6660億円を稼ぎ出した。それほどまで国債依存が進んでいたことの証でもある。

<高まる業界再編へのプレッシャー>

金融機関に求められるのは、企業に事業展開の血液となる資金を円滑に補給することだ。この役割を果たさず、国債運用に偏重している現状について、批判は絶えない。

「5割以下の預貸率なんて銀行と言えるのか。彼らは努力をしなくても、国債を買っていれば自動的に収益を得られているのだ」──。自民党の金融通と知られ、アベノミクスの推進役である山本幸三・衆院議員(自民)はこう切り捨てる。そして、預貸率に目標を設定させ、一定量の貸し出しを促す政策を国として打ち出す必要があると訴える。

都市銀行は1980年代に20行あったが、小泉政権の下で強行した不良債権処理をきっかけに、現行の3メガバンク体制に落ち着いた。一方、信金・信組は1990年代に計400超あったが、この22年間でおよそ半減した。

しかし、体力が小さい地域金融機関にとって、将来の経営拡大や生き残りをかけた提携や買収・合併という大胆な選択を迫られる状況はなお続いている。八千代銀行(8409.T)と東京都民銀行(8339.T)は2014年の経営統合を視野に交渉を開始した。融資拡大という本業の立て直しが進まなければ、これに続く再編の動きがさらに広がる可能性も否定できない。

(浦中大我 取材協力:江本恵美 編集:北松克朗)


02. 2013年9月07日 20:57:32 : niiL5nr8dQ

http://www.iima.or.jp/Docs/newsletter/2013/NLNo_24_j.pdf

欧州銀行同盟の進捗状況
〜ユーロ危機の解決策となるか?〜
公益財団法人 国際通貨研究所
経済調査部 上席研究員
山口 綾子
yamaguchi@iima.or.jp

<要旨>
 銀行同盟とは:@銀行健全性規制、A銀行監督、B銀行破綻処理、C預金保険制度
の 4つの側面について、欧州全体での統一化・共通化・ハーモナイゼーションを図
ることで、欧州の銀行セクターの規制・監督制度を統合しようとするもの。
 なぜ銀行同盟が必要か:当面の危機への対処(=銀行危機と財政危機のリンクを断
つ)と中期的なユーロ体制の安定化(先行した通貨統合を安定的に運営するための
金融統合の推進)の双方が狙い。
 単一ルールブック:銀行の健全性規制を欧州連合(EU)域内で統一化。
 単一銀行監督制度(SSM):ユーロ圏の銀行の監督権を各国当局から欧州中央銀行
(ECB)に移し、ECB が監督責任を負う。ユーロ圏主要行約 150 行については、
ECBが直接監督業務を行う。
 単一銀行破綻処理制度(SRM):銀行破綻処理について、意思決定を中央で行い、
各国の破綻処理の調和を図る。
 預金保険制度のハーモナイゼーション:付保預金の対象、払い戻し手続き、預金保
険基金の目標規模、保険料率などについて、統一した基準を設ける。
 今後のプロセス・課題:最も早く実現が期待される SSM は当初予定より手続きが
遅れていたが、早ければ 9 月にも欧州議会で採択され、その場合 2014 年後半には2
稼働開始が期待できる。SSM 稼働開始に先立ち ECBが行う対象銀行の資産評価は、
監督当局としてのECBへの信認を占う重要な一歩となる。

<本文>
1. 銀行同盟とは

銀行同盟とは、@統一された銀行健全性規制、A単一の銀行監督機関、B統一された
銀行破綻処理制度、Cハーモナイズされた預金保険制度の4 本柱によって、現状では国
ごとに異なる欧州の銀行セクターの規制・監督制度を統一化しようとするものである。
こうした動きは、バーゼル銀行監督委員会や G20 で議論されている新しい金融規制の
国際的な流れと一貫している。

欧州銀行同盟を巡る動き
2012/5/5 バローゾ欧州委員会委員長が経済通貨同盟の強化には銀行同盟が必要と欧州理事会の
非公式会議で言及。
2012/6/6 欧州委員会「銀行再生・破綻処理指令(BRRD)」案を提案。
2012/6/26 欧州理事会ファンロンパイ常任議長「真の通貨同盟に向けて」と題する提案で銀行監督
の統一、共通の預金保険および破綻処理制度が必要と言及。
ユーロ圏首脳会合において、単一の銀行監督制度が確立した後、欧州安定メカニズム
(ESM)から銀行への直接資本注入を認めること、欧州委員会の提案を待ち、2012年ま
でに単一監督制度を確立することに合意。
欧州理事会声明でユーロ圏首脳会合の決定を支持。
2012/9/12
欧州委員会が単一銀行監督制度(SSM)導入を提案:単一の銀行監督制度の導入に関す
る欧州連合(EU)理事会規則、欧州銀行監督機構(EBA)を規定する欧州議会および
EU理事会規則の改正の提案。
2012/10/18 欧州理事会声明で単一の銀行監督制度の導入のスケジュールを合意(2013年1月1日まで
に監督の枠組みについて合意、2013年中に導入)。
2012/11/28 欧州議会の経済通貨委員会(ECON)が欧州委員会の提案に対して議会意見を決議。
2012/12/3 欧州議会がEBA改革について議会案を合意。
2012/12/13 欧州閣僚理事会がSSM提案およびEBA改革について理事会案を合意。
2012/12/13 EU経済・財務相理事会(ECOFIN)、SSM法案について合意。ECBによる監督開始は
2014/3または規制の発効から12カ月後のいずれか遅い方の日付。
2012/12/13
欧州理事会合意:SSMが実効的に監督を行うには、適切な権限と手段を備えた単一銀行破綻処理制
度が必要。欧州委員会はSSMに参加する国の単一銀行破綻処理制度に関する提案を2013年中に
提出。
2013/3/19 EU理事会と欧州議会がSSM法案について合意。
2013/6/20
ユーロ圏財務相会議(ユーログループ)、ESMによる銀行への直接資本注入について合
意。上限金額は600億ユーロ、遡及適用(Legacy Assets)についてはケースバイケースで
対応。
2013/6/27 ECOFIN、BRRD案に関する検討方針について、ベイルインにおける優先順位や各国の裁
量権の範囲等で合意。
2013/7/10 欧州委員会、単一破綻処理制度(SRM)提案を公表。
2013/7/17 必要資本指令および規則(CRDW/CRR)発効。
欧州中央銀行(ECB)による単一銀行監督制度の実施(予定)
ESMによる銀行への直接資本注入解禁(予定)
2014年1Q ECBによるSSM傘下銀行の評価(含むバランスシート評価)(予定)
2014年2Q EBAによるストレステスト実施(全EU対象)(予定)
*(注)当初予定。手続き遅れにより、現時点では早くても2014/9以降とみられる。色つき部分は今後の予定。

2012/6/29
(資料)欧州委員会資料などにより作成
2014/3以降*3


2.銀行同盟提案の背景:「金融」と「財政」の悪循環をいかに断ち切るか

欧州委員会は銀行同盟提案の目的として、@金融危機と財政危機の悪循環を断ち切る、
A金融セクターの信認を回復する、B納税者負担を軽減する----をあげている。
ユーロ危機の深刻化に伴い、ユーロ圏国債を保有する銀行の経営悪化と、その救済の
ための財政による資本注入が財政の悪化を呼び、国債価格が下落、さらに銀行のバラン
スシートを劣化させるという「金融」と「財政」の悪循環をいかに断ち切るかが重要な
課題となってきた。問題国の銀行は資金調達の制約から、貸出能力が大きく削がれ、こ
のことは欧州中央銀行(ECB)による単一金融政策が、ユーロ圏全体に十分に影響を与
えられないことを意味した。スペインの銀行の経営悪化が深刻化するなかで、「金融」
と「財政」の悪循環を断ち切るために、欧州共通の救済ファンドである欧州安定メカニ
ズム(ESM:European Stability Mechanism)の資金を銀行に直接資本注入できるように
すべきとの議論が高まった。現行システムでも ESM の資金を銀行への資本注入に使う
ことは可能であるが、その資金はあくまで政府に対して貸し付けられる。このため、銀
行の資本強化のため ESM から資金融通を受けると政府債務が増加してしまい、金融と
財政の悪循環のもととなる。
現在のEUの銀行監督システム下では、銀行免許は各国レベルで付与されるが、一カ
国で免許を得た銀行は他の加盟国でも自由に業務を行うことができる。銀行業務が多国
間にまたがるなかで、一行の経営悪化は、複数の国に影響を及ぼす。にもかかわらず、
監督業務は国ごとに行われており、その統一化が課題であった。ベルギー、オランダ、
ルクセンブルグで事業を行っていたフォルティス、フランスとベルギーで事業を行って
いたデクシアの経営破綻のケースは、国境を挟んで各国がそれぞれの処理を行い、調整
に時間がかかったことが問題視された。
以上のような課題への対応として、2012 年 5 月、欧州委員会は銀行同盟の創設を提
唱した。2012 年 6 月末の欧州首脳会議では、2012 年末までに統一した銀行監督システ
ムを創設することと、その設立を前提に、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)もしく
はESM から直接銀行への資本注入を行うことが合意された。2013 年 6月には、ユーロ
圏経済財務相理理事会(ECOFIN)で、ESM による直接資本注入は 600億ユーロを上限
に、遡及適用についてはケースバイケースとすることが決められた。4


3.銀行同盟の4本柱

(1)統一された銀行の健全性規制:単一ルールブック(Single Rulebook)

EUの金融機関にかかわる健全性規制の統一化を図るため、2009年に欧州理事会の合
意で単一ルールブックの検討が開始された。現在欧州銀行監督機構(EBA:European
Banking Authority)がその作成の責任を負っている。
現状欧州での域内金融機関の健全性規制共通ルールには資本要求指令(CRD:Capital
Requirements Directive)がある。この指令そのものは 2006年にできたものだが、バーゼ
ル銀行監督委員会による必要自己資本ルールの改定、グローバル金融危機を受けたG20
での合意など国際的な金融規制の見直しの動きを踏まえ、改定が重ねられてきた。2011
年7 月に欧州委員会は第 3 次改定(CRDW)を提案。これはバーゼルVに対応、資本の
量・質の向上、資本バッファー要件の導入、カウンターパーティリスク捕捉の強化など
を内容としたものである。今回の改正では指令の改正(CRDW)と新規則(CRR:Capital
Requirements Regulation)の 2つに分けられ 1
、CRRには、@資本、A流動性、Bレバレ
ッジ、Cカウンターパーティリスク、D大口債権、Eディスクロージャーなどの規制が
盛り込まれている。この規制をより具体的、詳細化したものが単一ルールブックである。
CRDWとCRRは2013 年7 月に発効した。実施は2014 年1月からの予定である。
EBAは「単一ルールブックの Q&Aプロセス」を進め、関係当事者とのコミュニケー
ションを図ることで、より良い、効果的な規制ルールの構築を目指している。

(2)単一銀行監督制度(SSM:Single Supervisory Mechanism)

2012年 9月に欧州委員会より単一銀行監督制度(SSM)についての提案がなされた。
根拠法はEUの機能に関する条約(以下EU機能条約)127条 6 項 2
。主な内容は、以下の通りである。

〇 欧州中央銀行(ECB)がSSM加盟国のすべての銀行の健全性監督機関となる。ただ
し、中小の銀行については、免許や買収に係る事項以外の監督業務を各国の監督当
局に委ねることができる。なお、重要な銀行については、ECBが直接健全性監督を
担う。具体的には、銀行の許認可、健全性規制(自己資本、流動性、レバレッジな
ど)の遵守、金融コングロマリットの監督など。重要な銀行とは、以下の条件のい
ずれかを満たす約 150 行で、ユーロ圏の銀行資産の約 80%を占める。@資産規模
が300億ユーロ超、A資産規模が50 億ユーロ以上で設立国GDPの 20%超、B国内
経済にとって重要性が高いと各国監督当局が判断し、ECBが認めた銀行、C国境を
越えた活動が大きいとECBが判断した銀行、D公的支援を受けた/もしくは申請し
た銀行、E特別な場合でない限り参加国において重要な上位 3 行 3

〇 各国当局は引き続き日常の監督業務を行うほか、ECB に付与された監督業務の準
備・実行段階を担う。
〇 ECBは資本不足のおそれのある銀行に対して、早期介入を行う。
〇 ECB内部に監督理事会(Supervisory Board)を新設し、金融政策との分離を図る。
監督理事会は、SSM の規則や ECBの監督政策に関する重要事項の決定を行う。
〇 ユーロ圏以外の EU加盟国も希望すれば、SSMによる監督を受けることができる。
ECB における銀行監督体制
ECB が中核となることで、銀行監督と金融政策の利益相反を懸念する声も根強い。
たとえば利上げの局面で、銀行の健全性が問題となった場合の対応、また金融システム
の安定を図るために、健全性に問題のある銀行に流動性を供給することはないかなど。
しかしこの点については、国際的にみても何が最良かのコンセンサスはない。実例でみ
ると、この2つの業務を部分的に分離している国(米国、日本)、完全に別組織の国(オ

ーストラリア、カナダ、中国、スウェーデン、スイス)、一つの機関の下に金融政策と
銀行監督の機能を集中しているケース(香港、サウジアラビア、シンガポール)もある。
英国では銀行監督業務は1980 年代後半に中央銀行(BOE:Bank of England)から金融
サービス機構(FSA)に移されたが、2013 年には再び BOE に統合された。なおユーロ
システムに参加している中央銀行17行のうち11行は銀行監督業務を兼務しており、ノ
ウハウ、人材の面で十分なリソースがある。

1
EU法において、指令(directive)は加盟国に対してある目的を達成することを求めるものの、その方法
までは定めないような法の形態。加盟国は指令を受け国内で適切な法令を採択するが、その際に一定の裁
量を与えられる。一方規則(regulation)はそれ自体が執行力を持ち、国内において立法手続きを必要とし
ない。
2
EU機能条約 127条 6項:EU 理事会は、欧州議会と欧州中央銀行に諮問したうえで、銀行を含む信用機
関およびその他金融機関(保険会社を除く)の健全性監督に係る政策に関して特別な役割を欧州中央銀行
に対して、全会一致による特別立法手続きにより付与する。5
3
当初の欧州委員会案ではユーロ圏の全銀行 6,000行あまりをすべて監督対象とすることになっていたが、
事務量などの物理的問題や、政治的配慮(国内に多くの中小銀行をかかえるドイツは反対)などもあり、
ECB が直接監督するのは大手行のみとなった。ただし、ECB は SSM加盟国すべての銀行の監督機関であ
り、必要に応じて、いつでも各国当局に委託した中小の銀行の監督権限を ECBに戻すことができる。
(出所)井上(2013)6

(3)単一銀行破綻処理制度(SRM:Single Resolution Mechanism)

グローバル危機を受けた国際的な金融監督見直しの一環として、金融安定化理事会
(FSB:Financial Stability Board)は「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特
性」(2011 年 10 月)を公表した。このなかで、破綻処理は民間負担 4
により実施すべき
との原則が示され、それを反映する形で、2012 年 6 月欧州委員会は銀行再生と破綻処
理の枠組みに関する指令案(BRRD:Bank Recovery and Resolution Directive)を提案し
た。BRRDは破綻処理に対する統一ルールによって、各国の破綻処理システムのハーモ
ナイゼーションを狙ったものである。各国の破綻処理当局のネットワークを前提に、当
局間の調整・協力を通じて、銀行の破綻処理時の他国への影響を抑え、金融の安定につ
なげようとするものである。主な内容は以下の通り。
@ 銀行の再建・破綻処理計画の策定義務付け
A 当局に対する早期介入権限の付与
B 破綻処理方式の共通化・当局に対するベイルイン 5
権限の付与
C 各国当局の協調・破綻処理基金の設立
(目標積立額は付保預金残高の 1%、10年かけて銀行からの負債の規模やリス
クに応じた拠出金によって積み立てる 6
。預金保険基金との合同管理も可。)
2013 年 6 月の ECOFIN では、ベイルインにおける優先順位や各国の裁量権の範囲な
どの細かな点が決められた。
2013 年 7 月欧州委員会は単一破綻処理制度(SRM)の枠組みに関する規則案を提案
した。SRMは、BRRDより一歩進んだ、より中央集権的なシステムであり、@中央での
意思決定、A単一破綻処理基金創設により、破綻処理をより迅速かつ低コストで行い、


4
銀行破綻処理に必要なコストを、公的資金を使わずに、銀行の株主や債権者の負担あるいは銀行業界が
自ら拠出する破綻処理基金や預金保険基金などで賄う。
5
ベイルインとは、減資、債務の減免または自己資本への転換などを実施し、債務者のかかえた損失を株
主および債権者の負担によって処理すること。ベイルインは 2018年より適用。
6
2013年 6月の ECOFINでは目標積立額は付保預金額の 0.8%に引き下げられた。7
処理に必要な資金をより多くプールすることを可能にし、金融安定化という目的により
近付くことを目指す。現行条約では破産処理は加盟国の専管事項となっている 7


。SRM
の根拠法はEU機能条約 114 条(単一市場の設立およびその機能のために必要な措置を
認めた条項)。具体的な機能は以下の通りである。
@ ECBによる警告
ECBはSSM 傘下銀行の経営状況が著しく悪化し、破綻処理が必要と判断した
場合、警告を発する。
A 単一破綻処理理事会(Single Resolution Board)の設置
ECB、欧州委員会および関連する当局(当該銀行が本店や子銀行、支店を有す
る国)をメンバーとする単一破綻処理理事会が、破綻処理の方法や基金の活
用などを検討する。
B 欧州委員会による最終的な破綻処理の決定
単一破綻処理理事会の提案に基づき、欧州委員会が最終的な決定を行う。
C 当該国当局による破綻処理実施
D 単一破綻処理理事会による破綻処理の監視
単一破綻処理理事会は当該国当局による処理を監視、当局が適切な処理を行
わない場合には単一破綻処理理事会が直接介入することができる。
E 単一破綻処理基金の設置
SSM に参加する国(ユーロ国+任意で参加する非ユーロ国)のすべての銀行の
拠出によって積み立て、BRRD に基づく各国の破綻処理基金を置き換える。
基金の目標積立額は、加盟国全体の銀行の付保預金残高の1%、2011 年時点の
数値でみると約550億ユーロとなる。発効後 10年間で積み立てる。
欧州理事会は SRM案について 2013 年末までの合意を目指す。
(4)預金保険制度のハーモナイゼーション(DGS:Deposit Guarantee Scheme)
EUでは1994 年の預金保険指令(DGSD:Deposit Guarantee Scheme Directive)によっ
て、各国の預金保険制度に最低限のハーモナイゼーションが求められている。2009 年
の指令で保護限度額は、当時の 2 万ユーロから 2010 年 6 月に 5 万ユーロ、2010 年 12
月に 10 万ユーロに引き上げられた。現行制度は各国の裁量範囲が大きく、国による制
度の差が金融市場の安定を阻害することから、2010 年7 月にはDGSDの改正案が出され
7
米国では破産処理は数少ない連邦政府の専管事項の一つである。8
た。この改正は、@各国の制度のハーモナイゼーション(対象範囲、払い戻し手続きな
ど)、A預金者への払い戻し期間短縮(5 営業日以内、2016年までは 20日以内でも選択
可。その場合でも 5,000 ユーロは 5 営業日以内)、B十分な規模の預金保険基金の確保
(付保預金の 1.5%、積立期間は15 年。リスクを反映した可変保険料率の導入 8
)など
が主な内容であった。この改正は、欧州議会とEU理事会の間で合意ができておらず、
まだ実現はしていない。
なお、DGSD改正案提出時の欧州委員会のレポートによれば、汎EUの預金保険制度に
ついては、@単一預金保険機関の創設、A追加的にEUレベルの預金保険スキームを作
る、B既存の各国システムのネットワーク化(相互借入の制度を含む)の3つが検討さ
れた。同レポートは、「@はコスト面で効率化が期待され、最も有力な候補であるが、
法的な問題が残るため、2014 年までにさらに議論を進める 9
。Aは制度をさらに複雑に
するだけで望ましくない。Bは@より制度創設にかかわる法的ハードルは低く、第 1ス
テップとしてはBが望ましい。相互借入制度が認められれば、預金者の信認も高まる」
としている。なお、欧州委員会の改正案には 2020 年の実現を目指し、相互借入制度が
含まれている。


4.銀行同盟に期待される効果

欧州の金融機関のバランスシートが劣化し、金融システムへの信認が揺らいでいるな
かで、銀行監督の一元化は各国の監督当局への信認の違いから分裂の危機に陥っている
金融市場を救うことになる。ECB の監督理事会が各国の監督当局との協力のもと、厳
しい資産評価を行い、適正に処理することで、投資家や預金者の金融機関への信頼を回
復し、金融市場を再統合する。それにより、金融機関の貸出能力も回復し、ECB の金
融政策の波及を可能にする。
EU の非ユーロ国にとっても、金融市場の統合を進め、より効率的で安定的な金融シ
ステムを作り上げる効果が期待される。特に国内で、ユーロ圏の銀行のプレゼンスが高
い東欧諸国にとっては、国として銀行同盟に参加するしないにかかわらず、影響を受け
ることになろう。


8
「汚染者負担原則(polluter pays principle)」に基づき、リスクが高い銀行は普通の銀行より高い保険料率
を求められる。
9
欧州委員会によれば、単一預金保険機関を創設した場合、管理コストの削減は EU全体で年間 4,000万ユ
ーロにもなる。また預金保険基金の規模が大きくなることで、大型の銀行破産があってもそのインパクト
は個別国の預金保険基金の場合より相対的に小さいことがメリットである。9

5.今後のプロセス・課題:より完全な銀行同盟にむけて

4本柱 項目 対象 欧州委員会
提案
加盟国
合意
欧州議会
採択 実施時期
規制 必要資本指令/規則(CRDW/CRR) 全EU 2011/07 2012/05 2013/04 2014/01
監督 単一銀行監督制度(SSM) ユーロ国+
非ユーロ国(任意) 2012/09 2012/12 2013/9(予) 2014後半
銀行再生・破綻処理指令(BRRD) ユーロ国+
非ユーロ国(任意) 2012/06 2013/06 2013末(予) 2015/01
単一銀行破綻処理制度(SRM) 全EU 2013/07 2013末(予) 2014春(予) 2015/01
預金保険 預金保険指令(DGSD) 全EU 2010/07 2011/06 ?? ??
(資料)欧州委員会リリースその他各種報道より作成

破綻処理

銀行同盟:今後のスケジュール

銀行同盟の主要な柱のうち、最も早く実現が期待されていた SSM については、当初
の予定では2012年末までに手続きを終え、2013 年初から稼働の予定であったが、手続
きは遅れている。今後SSM 協定案が欧州議会で審議され、早ければ 2013年 9 月にも採
択が期待されている。採択されれば、その1年後の2014年後半には ECBによる銀行の
直接監督が開始される。
それに先立ち、ECBはSSM監督傘下に入る予定の銀行の事前資産評価の準備を進めて
いる。事前資産評価は 2014 年第 1 四半期に予定され、その後第 2 四半期にはEBAによ
るEU全体の銀行へのストレステストが予定されている。過去にEBA(およびその前身
である欧州銀行監督委員会:CEBS)の下で行われたストレステストが、その後の対象
銀行の破綻を予見できず、投資家や預金者の銀行監督・銀行セクター全体への懸念につ
ながったことは記憶に新しい 10
。ECBが行う資産評価は、監督当局としてのECBへの信
認を占う重要な一歩となろう。ECBの資産評価の結果次第では資本不足となる銀行が出
てくる可能性があり、その場合に資本補填するバックストップの存在が大変重要である。
SRMが早期に機能を開始し、破綻処理基金からの資金融通が速やかにできることが望ま
れる。
SRM については、2013 年内に合意に達することが目途とされ、欧州議会の現会期中
(2014 年春)に採択、2015 年 1月から稼働開始が可能とされている(2013 年 6 月、欧
州理事会)。しかし、解決すべき問題はまだ残る。たとえば欧州委員会案について、ド
イツは意思決定に関しての欧州委員会の役割が大きすぎると反発している。欧州委員会
は、破綻処理理事会は法的に最終決定を行う権限を持たないためと説明している。
国内に脆弱な金融機関をかかえ、ESMからの支援に頼りたい南欧を中心とした諸国は
10 EBAには金融機関に対する直接監督権限が与えられておらず、ストレステストについても各国当局の情
報に頼らざるを得なかったこと、また各国政府から EBAに政治的圧力があったとの見方もある。10
迅速な銀行同盟の稼働開始を望んでいる。他方、EUの最大の支援者であるドイツ国内
では、銀行同盟は南欧の銀行を北部の納税者の犠牲によって救済するものとの批判も強
く、9 月 22 日に総選挙を控えたメルケル政権にとっては頭の痛い問題である 11。非ユ
ーロ国では、銀行同盟によりユーロ圏が結束を強めることに伴う自国の不利を懸念する
英国と、ユーロ圏の銀行との結びつきが強い東欧諸国では立場を異にする。今後の交渉
にはまだ紆余曲折があろう。
また、預金保険制度を統合するための単一預金保険基金を安定的に運営するには、最
終的なバックストップとして財政による裏付けがあることが望ましく、EU レベルでの
財政資金もしくは各国の負担についての事前コミットメントが必要である。この点につ
いての合意は非常に困難が予想される。こうしたなか、前述のように欧州委員会では単
一預金保険機関の創設が効率的で望ましいとしつつも、当面の目標を各国の預金保険制
度のハーモナイゼーションにおいている。このため、銀行同盟は不十分だとの批判(フ
ィナンシャル・タイムズ紙)もある。
SSMについては、手続きの迅速化を図るため、根拠法としてEU機能条約 127 条 6 項
が適用された。この条項はECBに金融政策の枠組みのなかで監督権限を付与することを
規定したもので、この結果、厳密には金融政策と監督政策との分離ができていない。こ
の点は今後問題化・訴訟に発展するおそれもあり、長期的には条約改正にまで踏み込む
べきとの指摘(国際通貨基金:IMFレポート)もある。また、SSMへの非ユーロ国の参
加については、SSMの意思決定に際し、非ユーロ国の声が十分に反映されない(非ユー
ロ国は監督理事会には参加できるが、ECBの最高意思決定主体である政策理事会には非
ユーロ国は参加できない)という問題も残る 12

* * * * *
長い目でみれば、銀行同盟は、欧州が目指す、@金融枠組みの統合、A予算枠組みの
統合、B経済政策の統合、C民主政治の正当性と説明責任という統合の深化 13にむけて
のプロセスのなかで、@の金融統合の根幹部分となる。ゴールはまだ遠い先かもしれな
いが、まず一歩を踏み出した欧州のリーダー達の努力は称賛に値しよう。パズルのピー
スを埋めるように一つずつ積み上げていくことで、当初は到底無理に見えていたことを
実現していく。それが欧州の歴史だったことを忘れてはならないのではないか。


11 銀行同盟を巡るドイツ国内の議論については、国際通貨研究所国際金融トピックス No.226 「ユーロ圏の
銀行同盟をめぐり二分されたドイツの論調」参照。http://www.iima.or.jp/Docs/topics/2012/226.pdf
12 なお、非ユーロ国からは、SSM創設に伴い、EUの銀行監督機関である EBAの機能が形骸化し、SSMに
入らない非ユーロ国の発言権が低下するとの懸念もある。これに対しては、今回の EBA規則改正で、EBA
の意思決定において、SSM参加国と非参加国それぞれで単純多数決を求める二重多数決が採用されること
になる。
13 ファンロンパイ欧州理事会議長「真の経済通貨同盟にむけて:Towards a genuine Economic and Monetary
Union」2012/6/2611

銀行同盟 統一監督 統一破綻処理 統一預金保険


オーストリア 支持。非ユーロ国にも開放すべ
き。 支持 安定的な危機管理のインフラが
必要 支持
ベルギー 支持 銀行同盟の基本 政府債務管理の協力が必要 支持
キプロス 必要 支持 破綻回避の仕組みが必要
エストニア 支持。非ユーロ国の参加が望ま
しい。
支持。すべての銀行をECB傘下
に。 安定を維持するために効果的
フィンランド 支持だが、慎重に進めることを望
む。 支持 制度は支持。統一基金は支持し
ない。 自国での保証への影響を懸念
フランス 好意的 支持 支持。預金保険の統一とともに必
要。
支持。破綻処理の統一とともに必
要。
ドイツ 支持だが、慎重に進めることを望
む。
支持。金融政策との分離が不可
欠。
支持だが、慎重に進めることを望
む。
支持だが、慎重に進めることを望
む。
ギリシャ
アイルランド 好意的。消費者にフレンドリーな
ものとすべき。 支持 支持 支持。自国の銀行は資本増強が
喫緊の課題。
イタリア 好意的 支持 理論的には支持。より民主的な
手続きを。 支持
ルクセンブルグ 慎重ながら好意的。目指すものを
もっと明確にすべき。 支持 再生より予防を重視すべき。 必要資本の上乗せが銀行の収
益に与える影響を懸念。
マルタ 財政への悪影響を懸念。 支持
オランダ 支持だが、段階的に進めることを
望む。 支持 条件付きで支持 財政移転によるモラルハザードを
懸念。
ポルトガル 支持
スロバキア 支持 好意的
スロベニア 支持。まずは国際的な大銀行か
ら。
スペイン 強く支持 強く支持 好意的 支持
ブルガリア 概ね支持、参加には意見が分か
れる。
ユーロ圏の大銀行のプレゼンス
高く、影響を受けざるを得ない。
チェコ 将来の参加の可能性を排除しな
い。
ユーロ圏の大銀行のプレゼンス
高く、影響を受けざるを得ない。
リスクの相互負担に伴う危機伝
播を懸念。 資本逃避を懸念。
デンマーク すべての選択肢を考慮中。 非ユーロとして参加することの不
利を懸念。
定期的に保険料を支払うなら支
持。
ハンガリー 将来の参加の可能性を排除しな
い。
ラトビア 概ね支持、参加には懸念。
リトアニア 発言力低下を懸念。 懐疑的。オブザーバーであれば
参加を検討。
ポーランド
概念には反対しないが、自国へ
の影響を懸念。自国にメリットあ
れば参加。
懐疑的 不可欠。自国当局にも規制権限
を残すべき。
より豊かな国の預金を保護するこ
とに後ろ向き。
ルーマニア 立場は不鮮明。自国の銀行の競
争力悪化を懸念。
スウェーデン 現段階では参加せず。 参加せず。EUの分裂を懸念。
コストの相互負担、議会の自国
財政コントロールがきかなくなる
ことを懸念。
資源が十分ある国にとっては差
別的。
英国 支持するが、参加せず。 合意を歓迎。SSM部外者の利益
も守られるべき。
既存のEU危機管理策との関係に
ついて疑問。 CRDWの必要性について疑問。
コメントはないが、EUへの依存を考慮すれば、銀行同盟に入らないことは考えにくい。
(資料)The CityUK, European Banking Union, 2013/1より作成。

(参考) 銀行同盟に対する各国の見方


<参考文献>
IMF Staff Team, A Banking Union for the Euro Area, IMF Staff Discussion Note, 2013/2
Nicolas Veron, A Realistic Bridge Toward European Banking Union, Bruegel Policy
Contribution 2013/6
鈴木敬之「EUにおける銀行同盟の議論」預金保険機構 2013/5
井上武「欧州における銀行監督を巡る最近の動向」金融庁金融研究センター2013/6
Joeg Asmussen, Member of the Executive Board of the ECB, Building Banking Union (Speech)
2013/7
欧州委員会プレスリリース各号。12
 


03. 2013年9月07日 21:01:16 : niiL5nr8dQ
9月ECB政策理事会:経済見通し上方修正も政策金利の下方バイアスは維持
2013/09/06


伊藤 さゆり
経済研究部
電話番号:03-3512-1832
e-mail:ito@nli-research.co.jp

経済・金融フラッシュ2013/09/06全文ダウンロード(230KB)
欧州中央銀行(ECB)は、5日の9月政策理事会で7月に導入したフォワード・ガイダンスを確認し、政策金利を据え置いた。スタッフ経済見通しは僅かに上方修正されたが、緩やかなペースでの景気回復とインフレ圧力の抑制という見通しに変わりはなく、見通しのリスクも「下方」で据え置いた。

ECBのガイダンスにも関わらず、金利は上振れやすくなっていることから、ドラギ総裁は景気に対する慎重な判断を強調して、市場の過剰な反応を牽制した。過剰流動性の水準も「適正」とし、「必要に応じて行動する用意」があることも強調した。

ECBは2015年まで超低金利政策を継続する見通しである。

 
( ガイダンスを確認、政策金利は据え置き )

欧州中央銀行(ECB)は、5日に9月の政策理事会を開催した。7月に導入したフォワード・
ガイダンス(政策金利は長期にわたり(an extended period of time)、現在の水準か、それより
も低い水準に留まる)を確認、政策金利の据え置きを決めた。
ECBのフォワード・ガイダンスは、「長期」が念頭に置いている期間や、ガイダンス停止の目安
となる指標や水準を特定していない。先月、7日に英国の中央銀行・イングランド銀行(BOE)
が採用した「失業率7%」を閾値とし、四半期毎に作成する「インフレ報告」で向こう3年間の失
業率予測を公表するガイダンス(注1)に比べると、ECBのガイダンスはあいまいである。7〜8
月の理事会後の記者会見ではガイダンスの解釈を巡って多数の質問が出た。
今回の記者会見でも、ガイダンスの明確化に関する議論の有無が問われたが、ドラギ総裁は「フ
ォワード・ガイダンスには質的なガイダンスと量的なガイダンスがあり、政策理事会は質的なガイ
ダンスを維持することで全員一致している」と述べ、失業率など特定の指標を政策金利の下方バイ
アス解除の条件として採用する意思がないことを明言した。
(注1)概要については、Weekly エコノミスト・レター 2013-08-09「イングランド銀行のフォワード・ガイダンス−
失業率7%が超低金利政策解除の目処」をご参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2013/we130809eu.html

( スタッフ経済見通しは僅かに上方修正 )

ユーロ圏の経済指標には、先月 14 日公表の4〜6月期GDPが前期比 0.3%と7四半期ぶりのプ
ラスに転じるなど、ようやく下げ止まりの兆候が表れて来た。4〜6月期の成長率は、天候要因の
反動などで実勢以上に強めの数値となった部分があるが、7〜9月期に入っても、実質GDPと連

動性が強い総合PMI(購買担当者指数)が活動の拡大と縮小の分かれ目となる 50 を上回るなど
回復基調は続いていると思われる。
5日に公表されたECBのスタッフ経済見通しは、成長率見通し(以下はレンジの中央値)は 13
年前年比マイナス 0.4%、14 年同プラス 1.0%で、前回6月の同マイナス 0.6%、同プラス 1.1%か
ら 13 年は上方修正、14 年は下方修正された。インフレ見通しは、13 年が前年比 1.5%、14 年同 1.3%
であり、前回6月の同 1.4%、同 1.3%から 13 年は上方修正、14 年は据え置きであった(図表)。
修正幅はいずれも僅かであり、緩やかなペースでの景気回復とインフレ圧力の抑制という見通しに
変わりはない。経済見通しに対するリスクも「下方」で据え置いた。

図表1 ECB/ユーロシステムのスタッフ経済見通し
下限 上限 中央値 下限 上限 中央値
実質GDP成長率 前回(13年6月) -1.0 -0.2 -0.6 0.0 2.2 1.1
前回(13年9月) -0.6 -0.2 -0.4 0.0 2.0 1.0
インフレ率(HICP) 今回(13年6月) 1.3 1.5 1.4 0.7 1.9 1.3
今回(13年9月) 1.4 1.6 1.5 0.7 1.9 1.3
2013年 2014年

(注)3月と9月はECB、6月と12月はユーロシステムのスタッフによる予測
(資料)ECB

( ドラギ総裁は市場の金利上昇期待を牽制。3年物資金前倒し返済でも過剰流動性の水準は「適正」 )

政策金利のバイアスを下方とするガイダンスにも関わらず、ユーロ圏の金利は経済指標の改善に
よって上振れやすくなっている。ドラギ総裁は、「私は景気の回復に対してとてもとても慎重であ
る」、「熱狂に加わることはできない」、「景気回復の芽はまだとてもとても若い」といった表現で景
気の先行きに対する慎重姿勢を強調、市場金利の過剰な動きを牽制した。
金利上昇は3年物オペ資金の前倒し返済などで過剰流動性の削減が進みつつあることも関係して
いると思われる。ECBは2月の月報に「過剰流動性が 1000 億ユーロから 2000 億ユーロのレンジ
を下回ると短期市場金利の低位安定効果が薄れる」との見方を示している。この点について、ドラ
ギ総裁は、「過剰流動性は(2度目の3年物資金供給後の)ピークの 8000 億ユーロから 2500 億ユ
ーロに減少」しているが、その水準は「適正」であり、域内の金融市場の分断が緩和しつつあるこ
との表れとして前向きに評価した。また、過剰流動性の水準と市場金利の関係については必ずしも
「安定的ではない」し、「必要に応じて行動する用意がある」ことも改めて強調した。
( OMT成功の鍵は目標設定と制度設計 )
ECBの非標準的手段の縮小は、資金供給残高の縮小以外でも進みつつある。国債の買い入れ残
高は、1年前に導入を決めた新たなプログラム・OMTの導入で新規買い入れを停止したSMPの
残高が償還によりピーク時の 2193 億ユーロから8月末には 1907 億ユーロまで減少、金融機関が発
行するカバード・ボンドの買い入れ残高もピークの 707 億ユーロから 599 億ユーロまで減少している。

OMTについては、未実行のままユーロ圏の国債市場の安定化という目的を遂げたことになる。
OMTがこのような形で効果を発揮した理由について、ドラギ総裁は「ユーロ崩壊というテール・
リスクに対するプレミアムに対処するという現実的な目標設定と、条件付きで金額無制限の買い入
れを行うという制度設計に対する信頼」を挙げた。
( ECBの政策金利据え置きは 2015 年まで続く見通し )
ECBは 2015 年まで超低金利政策を継続すると見ている(注2)。今回公表されたECBのスタッフ
見通しのとおり、ユーロ圏経済の回復は極めて緩やかなペースに止まり、内生的なインフレ圧力は
弱い。債務危機国を中心とする金融システム健全化への取り組みも道半ばであることなどが理由で
ある。
(注2)ユーロ圏の経済見通しについては、9月 10日発行予定のWeekly エコノミスト・レター をご参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/flash/2013/flash13_114.pdf


04. 2013年9月09日 15:45:47 : niiL5nr8dQ

【第5回】 2013年9月9日 丸山貴宏 [株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役]
キャリアコンサルタントがイラッとした
絶対に落とされる転職希望者の「迷言」

 35歳前後の転職希望者であれば、皆さんビジネスの世界で経験を積んできた方ばかりです。若手の転職希望者と比べ、それほどおかしな事態は生じません。しかし、それでもたまにご自身の立場を勘違いした「迷言」を聞かされ、苦笑したりイラッとすることがあります。今回は迷言のパターンを分類し、その背景を考察しましょう。

実力もないのに年収アップを希望
「自分本位系・報酬要求型」

 転職希望者の迷言で多いのは、やはりお金に関する事柄です。先日、面談した方に現在の年収と転職先でどれだけ欲しいかお伺いしたところ、「いまの会社は800万円で、転職したら1000万円は欲しい」との答えが返ってきました。そこで私はさらに質問してみました。

「なぜ、1000万円なんですか。何か理由や根拠はあるのでしょうか?」

「今の会社で、僕の同期はみんな1000万円もらっているんです!」

 同期入社の同僚と比べ年収が200万円低いということは、それだけこの方に対する会社の評価が低いという話であって、決して年収が増える根拠にはなりません。もちろんそんなストレートな伝え方はしませんが、このケースのようにおかしなことや自分に不利になることを言っているのに、まったく自覚していないケースが少なからずあります。

「転職というリスクを取るからには、その分収入を増やしたい」

 これもしばしば聞く話で、私も転職経験がありますから気持ちはよくわかりますし、心情として我々にお話していただくのは何の問題もありません。ただ、それが年収の増える根拠になるかといえばまた別の話です。ところが、こうした話がふとした会話のなかで出てくるのではなく、企業側に年収アップを要求するメインの理由として主張する人がいます。

 そこには自分が出せるパフォーマンスに対する謙虚な相場観もなければ、マーケットにおける相対的な自分の位置づけを見る視点もありません。一言でまとめれば自分本位。こういうタイプを「自分本位系・報酬要求型」としましょう。

英語を使えるようになりたいから転職?
「自分本位系・スキルアップ型」

 これと似たようなタイプに、面接でこんな志望動機を言う方がいます。

「英語を使う環境に身を置いて、英語を使えるようになりたいので応募しました」

 これも気持ちはよくわかりますし、我々にお話しいただくのは構いません。しかし、30代半ばになって「英語を使えるようになりたい」というだけで応募してくる人を企業が採用するでしょうか。現時点で語学力は足りないけれど別の能力が評価されて採用され、猛勉強して語学力を上げていくケースはありますが、企業に貢献できる「別の能力」がないのにこんなことを言っても、あまり相手にしてもらえません。

 英語に限らず「こんな能力を身につけたいから」を志望理由に挙げる人はたくさんいます。もちろん能力向上に意欲的なのは良いことですが、新卒でも第二新卒でもない経験者採用では一方で、「あなたはその会社で何ができるのですか?」という問いへ明確に答えられなければなりません。

 つまり、「こんな貢献ができます」と提供できるものがあってはじめて、新たな職場環境から吸収できる何かを求めることが可能になる。このバランスが取れていない人に遭遇したとき、我々や面接官はイラッと感じ、迷言リストが増えていくわけです。このタイプは「自分本位系・スキルアップ型」と名付けておきましょう。

“ありのままの自分”に妙な自信
「オレ様系・人間力信奉型」は速攻NG

 40歳を超えたあたりから増えてくるのが、過度に過去の経歴や業績を自慢し、自己に対する評価が異様に高い人です。「自分の人間力で何でも解決できる」「相手に会いさえすれば何とかできる」と思い込んでいて、まだ書類選考の段階なのに「まずその会社の社長に会わせろ!」といった要求をしてきます。

「いきなりお会いするのは無理ですからちゃんと段階を踏みましょう」と言おうものなら「お前ごときが無理なんて言うな!」と威圧されたりもします。こうした「オレ様系・人間力信奉型」の人たちは、よく調べると職務経歴書にかなりの誇張があったりすることもあります。

 これと似たタイプに、我々コンサルタントのサポートを拒絶する人がいます。いま、景気が良くなってきているとはいえ、企業側は誰でも採用したいというわけではなく、厳しく候補者をジャッジする傾向にあります。したがって面接には万全の準備が必要で、我々は候補者の方が持っている力を発揮できるよう面接指導をしたり、「こんな点に注意してください」と情報提供をしたりします。

 ほとんどの人はそうしたサポートを喜んでくださるのですが、「そういうのは一切いりません。ありのままの自分を見せるだけです」と拒絶する人もいるのです。

 ありのままの自分を見てもらうことは大事ですが、転職活動では相手に合わせて自分を見せていくことも必要な努力です。よほど自分に自信があるのかもしれませんが、独りよがりな転職活動は自ずとうまくいきません。こうした「オレ様系・独りよがり型」の方はたいてい、面接で速攻NGが出されます。

自分本位な要求を叶えてくれる会社は
たいてい「自社本位」な危ない会社

 このように見ていくと、迷言を語るのは「自分本位系」「オレ様系」、すなわち自分と他者、あるいはマーケットとの関係性がまったく見えていない人たちです。数は少ないですが、こういう人たちはなかなか転職活動がうまくいきませんし、とくに法外な報酬を要求するタイプは自分で危険を引き寄せてしまう場合があります。

 たとえば未経験職種へのキャリアチェンジ転職の場合、年収は現状維持であれば御の字で、特殊な事情がない限り通常は下がります。未経験の仕事ですから当たり前です。しかし、それでも大幅な年収アップを要求してくる人がいます。以前も年収850万円の方が未経験職種への転職に際し、採用の最終フェーズで1100万円の年収を要求してくるケースがありました。

 こうした法外な要求はまず通りませんが、まれに受け入れる会社があります。多くの場合、そうした会社には何らかの問題が潜んでいます。

 先日、当社が紹介した保険会社から内定の出ていた候補者から、辞退の連絡をいただきました。この方はそれまでの年収が500万円で、保険会社からは600万円のオファーが出ていました。理由をお尋ねしたところ、知人の紹介で別の会社から年収1000万円のオファーがあったそうです。ポジションは副部長で、一気に年収は2倍にアップです。

 しかし、この方はわずか3ヵ月で転職先の会社を退職しました。入社してわかったことですが、この会社は過労やパワハラによる精神疾患が多発する職場環境で、自殺者も発生していました。トップが傍若無人で遺族対応もひどく、早く辞めなければ自分も危険だと感じたそうです。

 結局、転職市場の相場とかけ離れたオファーを出すような会社は、ブラックな職場環境や退職者の多発など、何らかの問題を抱えていることが多いのです。自分本位な要求をかなえてくれる会社は「自社本位」な会社であって、一瞬は法外な要求が満たされても、長い目で見れば無用な経歴が履歴書に増えるだけの結果に終わります。

 法外な要求をする候補者は、「通ればラッキー」と思っているのかもしれません。しかし、まともな会社ほどそうした要求は通らないものですし、通ったとしても、かえって自分が不幸になる可能性が高いことを考えるべきです。


 


 

 

【第1回】 2013年9月9日 上野光夫
1年で3割が廃業!?
起業家が陥る落とし穴とは?

起業したあと1年後に27%の経営者が廃業し、とくに個人事業主は38%が商売をやめるほど、経営を続けることは難しい。成功している経営者と失敗する経営者では何が違うのか――。日本政策金融公庫で3万人以上の経営者を支援してきた上野光夫氏にそのポイントを聞いた。

起業でうまくいく人、ダメな人の違いは何か

「いつかは起業したいと考えていますが、どうしたらいいでしょうか?」

 私の事務所には、連日このような方が相談に来られます。年齢層は10代の学生から60代の方まで幅広く、男性だけではなく女性もいます。

 相談の内容は、資金調達に関することをはじめとして、ビジネスプランのつくり方、マーケティングなど多岐にわたりますが、その根底には、「私って起業してうまくいくだろうか?」という不安を解消したい気持ちがあるようです。

 起業したい気持ちはあるのだけれど、一方では「失敗したらどうしよう」という根強い心配があって、起業に踏み出せないわけです。それでも、なんとか起業を実現させたいという思いが強い人は、「どうやったら起業してうまくいくのでしょうか?」と真剣な眼差しで質問してきます。

 数多くの起業家に接してきた経験から、起業でうまくいくポイントを一言で述べるとすれば、「しっかりと事前準備をしたかどうか」に尽きます。事前準備をしないで起業するのは、トレーニングをせずにマラソン大会に出場するのと同じです。途中で倒れる羽目になるのがオチで、完走なんてできないでしょう。

 起業そのものを実現するのは度胸さえあれば誰にでもできることですが、事業を軌道に乗せるのはとても困難で、いかにして会社をつぶさず経営するかが大きな課題です。そのためには、入念な事前準備が欠かせません。ところが、起業した人の中には、事前準備が不足している状態でスタートしたために、すぐに破たんしてしまう人がとても多いのが実態なのです。

 ただし、起業はマラソン大会と大きく異なる点があります。それは、「ゴールがない」ということです。

 起業はゴールではなくスタートであり、続けていくことがとても難しいのです。また、起業しても、「何歳まで続ける」とか「1億円を貯めたらおしまい」というように、ゴールを設定している人はほとんどいません。うまくいけば、たとえ起業した本人がいなくなっても、老舗企業のように長年続くこともあります。起業家は、起業した瞬間から、「終わりのない旅をできるだけ長く続けたい」と思って延々と経営努力をすることになります。

 ところが、起業を志している人は、事業を長く続けていくことを視野に入れた事前準備を忘れがちです。多くの起業志望者が、あたかも起業そのものをゴールのように勘違いし、そのための準備しか行っていないのです。だから、いざ起業しても、短期間で倒産や廃業という事態に追い込まれてしまうわけです。

 そこで、ぜひ知っていただきたいのは、ただ単に起業を実現するためだけではなく、起業して少なくとも5年は続けられるようにするための事前準備の方法です。それ以上長く続けるには、経験を積んだ上での経営努力も必要になりますが、その前につぶれてしまっては仕方がありません。長年にわたって続けるためにも、起業前にしっかり準備することが重要なのです。

 それでは、首尾よく起業して5年以上事業を継続している起業家は、どんな準備をしているのでしょうか。

 もちろん、起業は千差万別ですから、人によってさまざまです。でも、うまくいっている人が準備しているもののなかに共通する項目がいくつかあります。また、いくら「起業前にしっかりとした準備が必要」といっても、何年も前からコツコツやればいいというものでもありません。経済環境の変化が激しいので、5年前に得た情報は陳腐化してしまいますし、年月が過ぎるうちに今やっている仕事に流されてしまい、いつまでたっても起業ができず、夢が夢で終わってしまうこともよくあります。

 起業を決意したなら、1〜3年後にターゲットを定めて、集中的に準備していくことが重要です。この連載では、このような観点から、起業前に必ずやっておいていただきたい事前準備に焦点を当ててお伝えします。

手書きのノートが強力なツールとなる

 起業準備のためにお勧めしたいのが、手書きのノート(起業ノート)を活用することです。

 そのノートには、ビジネスのアイデア、経営ノウハウ、行動計画など、起業準備をしている過程で発生するさまざまな情報を記録していきます。とても原始的な方法のようですが、ノートをつけることによって、起業の計画を徐々にブラッシュアップしていくことができます。

「ノートなんかに書かなくても頭の中に入っているから大丈夫」という人もいますが、よほど記憶力が優れた人はそれでもいいでしょう。でも、ほとんどの人は覚えたことの大半を忘れてしまいますし、頭で考えているだけでは発想がぐるぐるとめぐるだけで、なかなか定まらないものです。起業するまでにせっかく十分な期間をかけて準備を行ったつもりでも、その過程で得た情報を記録していなければ、準備の効果はきわめて乏しいものとなってしまいます。

 事実、起業して事業を軌道に乗せている起業家は、なんらかの形で起業の準備過程を記録しています。逆に、いつまでも起業できない人や起業してもうまくいっていない人は、記録を残していないことがほとんどです。起業準備の記録は、起業を実現させるまで、あるいは起業したあとでも、トラブルに直面するなど窮地に陥ったときに、自らを助けてくれる心強い指針となってくれるものなのです。

 ノートをつけることによる効果は、主に3つあります。

 1つは、頭でモヤモヤと考えていることを文字で可視化することによって、思考が整理できることです。起業を考えていると、多くのアイデアが浮かんできますが、それを書いて冷静に見返すという作業を繰り返すと、使えるか使えないかが判断できるようになります。また、多くの自己啓発の書籍などに書いてあるように、「目標は書くことによって実現する」ということもいえます。

 2つ目は、起業準備に関する情報を一元化することによって、不足しているスキルやノウハウが明確になるということです。起業してしまうと、忙しくなり、スキルアップのための時間がとりづらくなります。できるだけ準備段階で、事業運営のために必要なスキルとノウハウを身につけておくことが重要です。

 3つ目は、起業準備の進捗状況を確認できるということです。起業を実現するためには、計画的にさまざまな行動を起こすことが必要ですが、今どこまでできているのかをチェックすることによって、着実に起業実現に近づくことができるのです。

 最近は、記録するツールとして、紙のノートではなくパソコンやiPadなどのIT機器を活用する人も増えていますが、私は手書きのノートがもっとも有効だと考えています。なぜなら、自分の手で文字を書くという行為が脳の活性化につながり、クリエイティブな発想が生まれやすいからです。

 iPadやスマホのアプリには、手書きでメモが書けるものもありますが、使い勝手はノートのほうが勝ります。さらに、手書きのノートにはデジタルツールにない優位性があります。それは、あとで見返した場合に、書いたときの気持ちをまざまざと思い出させてくれるということです。

 実は、起業に関しては、この「気持ち」、つまりマインドの保ち方がとても重要な要素になります。起業に二の足を踏む原因の1つが、「失敗して路頭に迷ってしまったらどうしよう」というような不安ですよね。起業準備の過程では、不安と、起業への熱い思いが交錯して、悩んでしまう日々が続くものです。その気持ちの葛藤を乗り越えた人だけが、起業という夢を実現することができます。

 さらに、起業したあとも、常に高いモチベーションを保つことが、事業を継続するカギとなります。だからこそ起業準備では、ノートを活用し、手書きの文字を通じて自分の気持ちを整理することが非常に有効なのです。

次回は9月10日公開予定です。

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起業は1冊のノートから始めなさい


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