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ユーロ圏:もう1つの欧州債務危機 (The Economist) 
http://www.asyura2.com/13/hasan83/msg/532.html
投稿者 赤かぶ 日時 2013 年 10 月 30 日 11:16:00: igsppGRN/E9PQ
 

ユーロ圏:もう1つの欧州債務危機
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39030
2013.10.28 The Economist :JBpress


(英エコノミスト誌 2013年10月26日号)

問題は政府の債務だけではない。ゾンビ企業や払いきれない借金を負う家計があふれている。

 今から15カ月前の2012年7月、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、単一通貨ユーロを守るためなら「何でもする」と約束した。この約束を果たすために創設された債券購入制度が実際に試されたことはまだないが、ソブリン債の利回りは下落した。

 ユーロ圏の混乱は、急性の危機から慢性的な危機へと移行した。

 ドラギ総裁は10月下旬、ユーロを巡る大河物語で2度目の大きな転機となり得る計画を発表した。ECBが2014年後半から監督することになっているユーロ圏の128の大手銀行を対象として、バランスシートの審査を行うというのだ。

 ECBの担当者は「資産内容の査定」の一環として、外部の専門家とともに銀行のバランスシートを精査し始め、融資の質に関する共通の基準を適用する。この手続きの目的は、現時点で存続可能な銀行、資本増強が必要な銀行、つぶすべき銀行を見極めることにある。

 ドラギ総裁は厳格な姿勢で臨まなければならない。ユーロ圏諸国の政治家は、用心深いと言われるドイツの政治家でさえ、銀行のバランスシートをあまり深く調べたがらない。まして銀行に不良債権処理を強いることには消極的だ。銀行がここ数年で購入したすべての国債については、もちろん問題にすべき点がある。

 だが、これまで欧州で見えないところに隠されてきた最たる危険な資産は、民間の資産だ。つまり、家計や企業に対する不良債権である。

■ドイツにも隠れた大きな危険がある

 欧州はずっとソブリン債務危機にあると考えられてきたし、実際それは間違っていない。しかし、ユーロ圏が惨事を招いた起源をたどってみると、政府の浪費より民間の過剰な借金に大きな要因がある。

 確かに、ギリシャが苦境に陥ったのは、政府の歳出が多過ぎ、税収が少な過ぎたためだった。しかし、ほかの国では、民間部門の浮かれ過ぎが破綻につながっている。アイルランドとスペインでは住宅ローン、ポルトガルと、こちらもスペインでは、企業の借り入れが原因だった。

 この3カ国は危機の前、家計と企業の債務を合わせると、国内総生産(GDP)の200%をはるかに超えていた。米国(175%)、さらには英国(205%)よりも多かったのだ。

 残念ながら、ユーロ圏はほかの地域と比べ、民間債務の負担軽減が進んでいない。米国では住宅ローンが減損処理され、他国より成長が速いおかげで、家計は好景気の数年間に積み上げた過剰債務の約3分の2を解消した。

 一方、ユーロ圏諸国の大部分は、3つの理由から民間部門の「デレバレッジング(負債圧縮)」がはるかに難航している。1つ目の理由は、緊縮政策を課された周縁国で景気後退が深刻化し、民間の債務を減らすのが難しくなったことだ。2つ目に、体力の弱った銀行が不良債権の存在をなかなか認めようとせず、その結果、引当金の計上にも後ろ向きになっている。

 3つ目として、欧州の破産法は米国より債務者に厳しく、債務を再編しにくい。米国では、住宅ローンの多くは「ノンリコース(非遡及)」型で、債務者は家の鍵を渡して出て行けば済む。一方、欧州では通常、住宅ローンの返済義務が免除されることはない。企業が破産する時も、多くの場合、手続きに時間と費用がかかる。イタリアでは平均7年を要する。

 企業債務問題が最も深刻なのはポルトガル、スペイン、イタリアだ。国際通貨基金(IMF)によれば、ポルトガルで債務の50%、スペインで40%、イタリアで30%が、税引き前利益から利息さえ支払うことができない企業のものだという。こうした企業は投資も成長も不可能だ。1990年代の日本に漂っていたようなゾンビ企業なのだ。

 家計の債務負担が特に重いのはアイルランド、そして驚くことにオランダだ。両国とも家計債務がGDPの100%を超えている。住宅ローンの返済が家計を圧迫し、個人消費の妨げになっている。米国では、家計の所得に対する債務返済額の平均的な割合がここ数十年で最も低い水準にある。一方、スペインでは、好景気の頃より高いくらいだ。

■今回は米国に隠れた問題はない

 もしユーロ圏の回復を確固たるものにしたいのであれば、民間の債務負担を軽減しなければならない。IMFによれば、欧州の成長の障害となっているのは、政府の債務以上に民間の債務だという。

 必要なのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相さえも認め始めているように、厳格な緊縮政策を和らげることだ。政府が債務を減らそうとしている時に民間部門が債務を減らすのは、事実上不可能だ。

 もう1つの必要条件は、銀行が不良債権の存在を認め、減損処理に踏み切ることだ。この点で、ECBによる資産査定は極めて重要な役割を果たす。徹底的かつ信頼できる評価を下さなければならない。

 指摘される可能性のある資本の不足を最小限に抑えるために、不良債権の規模を小さく見せようとする政治的な圧力がかかるだろうが、ドラギ総裁は断固とした姿勢を貫くべきだ。同様に、各国政府は必要に応じ、銀行の資本増強に必要な資金を積極的に提供すべきだ。

 最後に、銀行のバランスシートの評価をもっと誠実に行うことで、銀行も、住宅ローンや企業融資の売却や再編に積極的になるはずだ。メルケル首相はギリシャに対して、ギリシャに大金を貸し付けた自国の銀行に対するよりも、はるかに厳しい態度を取ってきた。

 各国政府は「バッドバンク」や専門の資産管理会社を作って不良債権の管理や処理を任せ、税制や規制に例外を設けて不良債権の流通市場を作らせることができる。破産や税金に関する法律を見直し、企業や個人の債務を再編しやすくすることもできる。

 大部分の国はすでにこうした改革の一部を実行に移している。スペインとアイルランドには「バッドバンク」がある。破産法を合理化した国もいくつかある。ポルトガルは裁判所によらずに調停を行う道を開いた。それでも、なすべきことはまだある。

 イタリアでは、1220億ユーロの不良債権を抱えながら、年間20億ユーロしか売却されていない。ドイツ連邦銀行はあらゆることについて金融界に小言を浴びせたがるが、自国の地方銀行の混乱にだけは触れようとしない。

■ドラギ総裁の双肩にかかる問題

 これらすべてを解決するには時間がかかる。ユーロ圏が一夜にして米国のようになり、債務者に有利な法制度や不良資産の大きな市場ができるわけではない。それでも、欧州の指導者が優先すべきは、民間債務という落とし穴に対処することだ。

 銀行の資本が健全化すればもっと融資ができる。銀行同盟も実現しやすくなるだろう。ゾンビ企業や破綻した家計だらけの大陸が繁栄するはずがない。不良債権の処理に取りかかれるかどうかは、ドラギ総裁の肩にかかっている。

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コメント
 
01. 2013年10月31日 13:41:00 : e9xeV93vFQ
JBpress>海外>The Economist [The Economist]

欧州の政治:民主主義の悪夢

2013年10月31日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年10月26日号)

EU懐疑派の台頭と対峙し、民主主義の赤字を埋める試み

EUのCO2排出権取引サイトにフィッシング攻撃
欧州連合(EU)に対する信頼は過去最低水準に落ち込んでいる〔AFPBB News〕

 批判的な向きに言わせると、欧州連合(EU)は罪の中で生まれた。民主的な正当性のない、エリートによって考案された、エリートのためのプロジェクトだ。

 1970年代に作られた用語である「民主主義の赤字」を埋めるための試みはことごとく失敗した。欧州議会(EP)の直接選挙はどうか? 1979年に直接選挙制度が導入されて以来、投票率は下がり続けている。

 EPに本当の権限を与えたらどうか? EPがこれほど影響力を持ったことはかつてなかったが、EUに対する信頼は過去最低水準にある。

 欧州の経済危機は、こうした慢性的な問題を急性のものにしている。1つの理由は、特にユーロ圏で、欧州委員会が各国の国民生活にかつてないほど深く立ち入り、予算から年金、賃金設定に至るまであらゆることに口を挟んでいることだ。

 もう1つの理由は、来年5月のEPの議員選挙で有権者からの反発が予想されることだ。辛辣な発言をする移民排斥主義の「英国独立党」から悪党のようなネオナチのギリシャの「黄金の夜明け」に至るまで、あらゆる種類の反EU、反移民政党が大きく躍進するだろう。

 EU懐疑派の政党は、フランス、英国、オランダで最も多くの票を獲得する可能性がある。フィンランドやイタリアでも健闘するだろう。ドイツでは、より穏健な装いのEU懐疑派政党が初めて議席を獲得する可能性がある。

反EU、反移民政党が来年の欧州議会選挙で躍進へ

 警戒感は明白だ。フランスのフランソワ・オランド大統領は、国家主義者とユーロ懐疑派の台頭は「後退と麻痺」をもたらすだろうと話している。イタリアのエンリコ・レッタ首相は、EU懐疑派が最大で3分の1の議席を獲得する可能性があると見ている。

 急進派とポピュリストは異質な集団であり、政策に影響を与えるより演説することを好むため、中道派はまだ議会の仕事をこなすことができるはずだ。こうした勢力がもたらすより大きな影響は恐らく、民主政治に毒を盛り、それが各国政府の意思決定を阻むことだろう。

 どのように対処すべきなのだろうか? レッタ首相は、EP議員選挙を欧州委員会の次期委員長を目指す争いに変えることで、EU支持派勢力を活気づかせたいと考えている指導者の1人だ。

 EPで多数を占める各国政党の幅広い連合体である主要な政治「会派」は、それぞれに「委員長」候補を応援する選挙運動を展開すると話している。社会主義系の会派は、気骨のあるドイツ人のEP議長マルティン・シュルツ氏を選ぶ可能性が高そうだ。緑の党系は、開かれた予備選を計画している。選挙後も最大会派にとどまる可能性が高い保守派は、まだ決めかねているように見える。

欧州議会、温暖化対策包括案を可決
フランス・ストラスブールの欧州連合(EU)の欧州議会〔AFPBB News〕

 支持派は、EP議員選挙の投票が不人気な各国政府に対する抗議に変わるのを避けるため、刺激を吹き込み、欧州委員会の民主的権限を強化し、欧州の問題に関する議論に焦点を当て、利害を大きくしたいと思っている。

 ある程度激しい政治がなければ、国民はポピュリストの方を向いてしまうと彼らは言う。

 だが、EUは国家ではないし、欧州委員会は政府ではない。欧州委員会は、新たな法律を提案するほぼ独占的な権利を持っているが、法案は欧州理事会(各国政府の代表で構成される)とEPの双方から承認を受けなければならない。しかし、欧州委員会は行政組織でもあり、単一市場の警察官でもあり、競争の番人でもある。

 英国のシンクタンク、欧州改革センター(CER)は新たな調査報告書の中で、欧州委員会は「どこかのチームのキャプテンとしてではなく、政治ゲームの審判として行動する必要がある」と主張している。

欧州委員会の委員長選び

 各国の指導者は、これまでずっと欧州委員会の委員長と他の27人の委員を任命してきたし、ほとんどの人が厄介者として見なしているEPによって指図されたくないと思うだろう。

 リスボン条約は、このプロセスをいたずらに混乱させた。条約は、各国の指導者はEP議員選挙の結果を「考慮して」委員長を提案すべきだと定めている一方、候補者はEPによって「選出されるもの」と規定しているのだ。

 欧州委員会の委員長を誰が選び、監督するのかを巡る議論はブリュッセルで、騒々しいユーロ懐疑派が絶対にできないほどの膠着状態を引き起こすかもしれない。

 党派色の強い欧州委員会は、国を支援する場合(銀行救済策など)の判断や独占禁止規則の実施など、半司法的な機能に対する信頼を失う恐れがある。欧州委員会は、各国の予算や経済政策を精査したり、制裁を提言したりする権限も強化された。銀行を整理する最終権限を持つ機関になることも提案している。

 だが、各国の首相や大統領は、党派政治的だと自認する欧州委員会の委員長に弾丸を込めた銃を渡したいと思うだろうか?

 EUはもっと優れた欧州委員を必要としているが、委員長の選挙はその対象範囲を狭めることになる。現職の各国首相は、欧州のコンテストに出るために国家の仕事を危険にさらすことはしないだろう。そのため選択肢は、結局、仕事のない政治家とブリュッセルの内部関係者ということになる。

 有権者は失望する運命にある。欧州委員会の委員長は、有権者が最も気に掛けている問題を決定するわけではない。EPで緊縮財政に反対票を投じても、債権者が救済条件を設定するという事実が変わるわけではないのだ。

解決不可能な難問

 EUは、部分的に国際組織であり、部分的に連邦組織であるハイブリッド組織だ。民主主義の難問に対する整然とした解決策は存在しない。

 半ば選挙で選ばれるEUの大統領は、最悪の組み合わせを提示する可能性がある。各国指導者の信頼をつなぎ留めるには党派的すぎる一方、欧州の大統領を選んでいると思っているかもしれない市民が弱い事務局長しか得られず、彼らの忠誠心を得るには力がなさすぎるのだ。

 直接選挙は、欧州委員会が徴税権限のような連邦権限を与えられた場合には意味を成す。その場合でも、欧州委員会は、規制面の機能や実務面の機能を部分的に放棄することが必要になるかもしれない。

 今のところ財政はまだしっかりと各国に属したままだ。だが、正当性の問題は急を要する。これに対する1つの対応策は、各国議会がもっとしっかり、ブリュッセルで行った決定について自国閣僚に責任を負わせることだ。CERは、例えば救済策策定など、EPが発言権を持たない分野でEUの行動を精査する各国議会議員の「フォーラム」創設を提案している。

 欧州を代表する政治家は、正当性と一般市民の関心という点で、国を代表する政治家には決して勝てない。そのため、EU懐疑派との戦いを先導するのは各国の指導者の役目となる。あらゆる災難をEUのせいにするのをやめ、統合の有益性を擁護し、欠点を是正し、そしてユーロ圏では単一通貨にとどまるために必要な改革を説明するのだ。

 EU懐疑派が自国の国旗を自分たちだけのものだと主張するに任せることは、大きな誤りだろう。EUの金色の星の輪は国旗に代わるものではないのだ。 
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39059


JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]

イングランド銀行総裁の危険な賭け
慎重になった方が安全な時に大胆に「親シティー」に転換

2013年10月31日(Thu) Financial Times
(2013年10月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

野村証券英国法人を元女性従業員2人が性・人種差別で訴え
英ロンドンの金融街シティー〔AFPBB News〕

 イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は先週、ロンドンの金融街シティーを喜ばせた。金融を力強く擁護し、「我々の窓口は開いている」と言い切ったことは、同行がマーヴィン・キング前総裁の体制から急激に変わったことを示している。

 金融セクターがカーニー総裁を慕うことは間違いない。総裁の見解はすがすがしいほど明快だ。しかし、これは1つのギャンブルでもある。

 英フィナンシャル・タイムズの創刊125周年を祝う講演でカーニー総裁が最も伝えたかったポイントは、「適切に組織化されれば、活気に満ちた金融セクターは多大な利益をもたらす」というものだった。

 総裁はこの中でロンドン市場の規模に言及した。ロンドンに進出している外国銀行の数は1913年当時の4倍近くに増えており、英国の銀行が抱える資産の対国内総生産(GDP)比は40%から400%超に高まったという。

「活気に満ちた金融セクターは多大な利益をもたらす」

 しかし、総裁は次のように付け加えた。「世界全体の金融活動における英国籍の銀行のシェアが同じ水準で推移し、外国における金融の深化がこれまでの標準的なペースで進むと仮定しよう。その場合、英国の銀行の資産は2050年までにGDPの9倍以上に膨らむ可能性がある。外国銀行やロンドンを拠点とするシャドーバンキング(影の銀行)が急激な成長を遂げる可能性があることは言うまでもない」

 総裁はさらに続けた。「この見通しを聞いて、恐ろしいと感じる方もいるだろう」。その通りだ。これでは英国が2007年のアイスランドと同じになってしまうからだ。

 総裁はこの懸念に対して、「活気に満ちた金融セクターは多大な利益をもたらす」と述べた。そして、これは英国のみならず世界全体にとっても言えることだと主張したうえで、「英国の金融セクターは、強靱であれば、英国の資産になると同時に世界全体の資産にもなることができる」と言い切った。

 カーニー総裁は、銀行をさらに強靱にするために講じた施策と、近々講じられる施策の概要を説明した。銀行の自己資本や流動性に関するルール、そして国境をまたいで活動する銀行が破綻した時に納税者に負担を求めることなくこれを「処理」する手続きなどのことだ。

 総裁は「経済の規模よりも何倍も大きくなってしまっている銀行システムを英国という国が支えることはできない」と述べた。また市場の新しいルールについても語り、担保価値の変化がどのように不安定性を生じさせるかを力説した。ただ、2008年に市場が停止する原因となったこうした弱さは修正されつつあると強調した。

英、0.5%利下げ ECBは据え置き
ロンドンのイングランド銀行〔AFPBB News〕

 総裁はさらに、イングランド銀行の補完的な役割を強調する一方で、「我々の仕事は(金融セクターが)安全であるようにすることだ」と論じた。資金と高品質な担保の市中銀行への供給について同銀がこれから採用するアプローチについても力を込めて語った。

 「我々が(市中銀行への貸し出しと)引き換えに受け入れる資産の範囲は拡大される。実際、融資の原債権や、我々がリスクを査定できるあらゆる資産に拡大されるだろう。また、我々の流動性供給ファシリティーの利用コストも安くなる。利用料がこれまでの半額以下になる場合もある」

新生イングランド銀行は分別のある中央銀行か?

 これが新しいイングランド銀行である。では、この新生イングランド銀行は分別もあると言えるだろうか? 

 まず、流動性の新しいルールは賢明だと言えるだろうか? そもそも中央銀行というところは、国内で流通するマネーを際限なく創り出す能力を持っている。しかしその能力を必要以上に利用すると、銀行や市場に満期変換*1をさらに行うよう促すことになり、銀行や市場のみならず経済全体をパニックに陥りやすくしてしまう。

 ビクトリア時代に活躍した評論家のウォルター・バジョットは、その危険は中央銀行が懲罰的な金利で貸し出しを行うことで抑制されると考えた。この懲罰が軽くなればなるほど、流動性管理の新しい規制の重要性は高くなるが、これらの規制は果たして機能するのだろうか? それはまだ分からない。

 第2に、銀行と市場はこれから適用される新しいルールによって十分に強靱なものになるのだろうか? これには疑いの目を向けるのが妥当だろう。英国がアイスランドのようになりうるのであれば、英独立銀行委員会(ICB)が提案しているリテール銀行業務のリングフェンス*2の重要性はさらに高まることになる。

 これ以外にも、保有資産にリスクウエイトを乗じて自己資本比率を計算するという手法に引き続き依存していることには不安を覚える。30対1を超えるレバレッジ比率は過大だ。自己資本をもっと厚くすることが必要だ。

 この点に対するカーニー総裁の対応は、大雑把に言えば、負債を資本に転換することによって銀行を「破綻処理」できれば問題は解決するというものだ。なるほど、破綻させれば納税者は負担を免れるかもしれない。しかし、その国の経済が負担を免れることにはならないだろう。危機の際に負債が資本に転換されてしまえば、その銀行が貸し出しを伸ばす能力は抑制される。これは重要なポイントだ。

*1=短期の資金を預金などで集めて長期の貸し出しや運用などを行うこと

*2=個人顧客向けのリテール業務を法人向けのホールセール業務や投資銀行業務のリスクから切り離す施策のこと

英国にとって良いとは限らないカーニー総裁のビジョン

 カーニー総裁が描く未来は英国にとって良いものだろうか? この点では、総裁は正しい。金融セクターは所得と雇用の極めて重要な源泉になった。だが、金融業界は不安定さと所得格差の拡大ももたらす。少なくとも、英国は「大きな香港」になることの意味を理解する必要がある。

 しかし、最大の問題は、果てしなく進む金融の深化と国境をまたぐ金融統合が良いことなのかどうか、だ。様々な兆候を見る限り、こうした見方は分が悪い。国際決済銀行(BIS)のエコノミスト2人は最近の論文で「金融の成長率と全要素生産性(TFP)の伸び率の間には負の相関関係がある」と論じた。金融が「担保が多く生産性の低いプロジェクト」を過剰に優遇することが、その理由の一端だ。

 2013年8月時点で、英国の居住者に対する銀行融資の残高は2兆4000億ポンド(GDP比160%)だった。このうち34%は金融機関向け、42.7%が住宅を担保とした家計向け、別途10.1%が不動産・建設向けだった。製造業が受けた融資は残高全体の1.4%だった。英国の銀行業界は、既存の不動産資産をテコに債務を増やすことを主たる活動とする、密に相互接続されたマシンなのだ。

 金融の拡大がなぜ、業界自身の成長以外に成長を促すのだろうか? 金融の拡大はむしろ主に、債務を原因とする英国経済の脆弱性を悪化させるだけかもしれない。

 金融の深化は確かに繁栄を促すが、それには限界がある。多くの高所得国はその限界を超えている。1980年以降の金融の著しい拡大は、業界の成長に見合う経済的利益をもたらさなかった。多くの新興国は、自国の利益になる形で金融を成長させる余地がある。インドがその一例だ。だが、金融がもう十分な国もある。

金融統合に伴う危機のリスク

 また、国境を越えた金融統合を是とする論拠が、財の貿易のそれをなぞるかどうかも全く定かでない。新興国が学んだように、金融統合には危機のリスクが伴う。危機に対する自己保険のコストは高い。外国銀行は支店ではなく子会社を設立せよと主張することで国内の金融の安定を守ろうとする願望は賢明だ。

 カーニー総裁は新たなビジョンを打ち出した。筆者はその華麗さは賞賛するが、その見識については疑いを持っている。たとえ改革されたものであれ、金融システムの著しい拡大が大きな世界的利益をもたらすという考えは疑わしい。ミスター・カーニー、どうか熱意はほどほどに。

By Martin Wolf 

[12削除理由]:無関係な長文多数


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