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阪急阪神ホテルズ、髙島屋、近鉄旅館システムズと有名企業ばかり〔PHOTO〕gettyimages
「食材偽装」緊急役員会議 三越伊勢丹そごう・西武髙島屋阪急阪神 近鉄帝国ホテルほか一流企業の迷走と困惑
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37553
2013年11月18日（月）週刊現代 ：現代ビジネス
「発表するべきか否か」「カネは客に返すべきか」「誰が責任をとるべきか」「他社もやっているのに」「後出しのほうが得では」「何エビだっていいじゃないか」「分からない客が悪い」
侃侃諤諤の臨時役員会で何が話し合われたのかほか
過去、これだけ集中して謝罪会見が行われたことがあったろうか。日々明かされる食の嘘、頭を垂れる幹部たち。その裏側には、消費者そっちのけで、保身に走る企業トップたちの駆け引きがあった。
「議事録に載せるなよ!」
都内の高層ビルの一室に、スーツ姿の男たちが集められていた。部屋の一番奥に座った男は苦りきった表情のまま、口を開こうとしない。男の目配せを受け、立ち上がったのは、この集団の中で最も若い営業部の部長である。
「では、営業部のほうからご説明いたします。先の阪急阪神ホテルズのメニュー誤表示事件を受け、当社でもテナントや社内レストランの調査を始めました」
「ちょっと待ってよ。それは不正の根拠というか、何かウチでも誤表示があるというアテがあってやってるの?」
「阪急阪神はあれ、内部告発でもあったんですか?それともマスコミに嗅ぎつけられて?」
「会見は自主的に開かれたと聞いております」
「『フレッシュジュース』が搾りたてじゃなかったとか、『手ごねハンバーグ』は全部が全部手ごねじゃなかったとか、そんなの、どこだってやってるんだろ。客だって分かってない。分からないほうが悪い」
「調査したことでかえって、不正が見つかったらどうするの?藪ヘビでしょ」
阪急阪神ホテルズが「食材偽装」で会見(10月24日)を開き、集中砲火を浴びた2日後。日本人ならば、誰もが知っている一流企業では、本社営業部から全国の各ブロックに担当マネジャーを派遣していた。
現場を直接まわって、レストランのメニュー表示と実際に出されたものが違っていないか、表示通りの食材が弁当に入っているか、確認をさせたのだ。
特に気を使ったのは産地。「鹿児島産の黒豚」と書かれていたら、本当に鹿児島の黒豚が入っているのかどうかを、出入りの業者も含め確認した。
その結果―。
「……間違いないのか?」
「やはりエビか……」
「エビなんて何を使ったっていいじゃないか。客は気づいてないんだから。おい、君、いまの発言は議事録には載せるなよ」
「ウチはテナントのレストランに騙された被害者じゃないのか。ウチに責任がないんだから、わざわざこちらから発表して謝る必要はないだろう」
「こうして報告があがってきている以上、見て見ぬふりはできません。万一、握りつぶしたことが外に漏れでもしたら、それこそ我が社の問題になります。マスコミに『隠蔽だ』『コンプライアンスがなっていない』と袋叩きにあう。社長の進退問題に発展しますよ」
「弁護士は?何と言ってるんだ、弁護士は!?」
「景品表示法に抵触する可能性はありますね。けして楽観はできません」
「誰か消費者庁とは、話はしたのか?」
「景品表示法違反となる可能性があるとのことでした」
「発表……するしかないでしょう」
「様子を見たほうがいい。いまは国民の関心があつまっているから、ほとぼりが冷めたころに、後出しでいいんじゃないか」
「わかっている事実はすべて公表する。それが世の中の流れです。隠しごとをしたって、いまの時代、ツイッターもありますし、内部告発ですべて暴露されるリスクが高い……」
いま日本全国の食品を取り扱う企業で「食材偽装」に関する緊急役員会議が開かれている。きっかけとなったのは、阪急阪神ホテルズが明らかにした「レストランメニューの誤表示」だ。
車エビ→ブラックタイガー、レッドキャビア→トビウオの卵といった食材の偽装が行われていたことが発覚。月末には、ミシュラン掲載の旅館を含む近鉄系の9ホテルと旅館で、クズ肉を集めて結着剤で固めて一枚肉にした成型肉を、「和牛」として出していた悪質なケースも報告された。
「近鉄さんの発表を受けて、本社会議室に営業、商品統括、企画部門の各担当役員や、お客様相談室の担当者が集められた」と言うのはさる一部上場企業の役員だ。
■頭を下げるのは社長
それでも、まだこのころは、多くの企業も消費者もどこか他人事だった。高級ホテルで食事をするエグゼクティブたちの世界での出来事―だが11月5日、事態は一変する。髙島屋とそのテナントが食品偽装に関与していたことを発表したのである。「パンドラの箱」が開いた瞬間だった。前出の役員の企業でも、髙島屋の会見を見て、社内が騒然となったという。当然、〝髙島屋後〟の役員会議はより深刻さを増した。
「髙島屋の不祥事を受け、我が社でも内部調査を行いました。今日は現場責任者に来てもらっています」
早速、役員の一人が現場責任者を叱責する。
「報告書にある『●●県××農場直送の野菜サラダ』だけど、1年通じて野菜を供給できる農場なんて存在しないよね。どうしてこんな無理なネーミングをしたの?」
「××農場から野菜を仕入れられるのは年間数ヵ月ですが、生産者名を挙げたほうがお客様に喜ばれます。それに、この生産者の名前自体に松阪牛のようなブランド力は無いですから、だましたというより、メニューを書き換えるのを怠っていたわけで、いま騒がれているような食材の偽装とは違うかと……」
「ウソをついていることは間違いないんだから。そのウソで頭を下げるのは社長なんだよ。それを君はわかっているのか」
「営業担当として、今後の対策は練っていますか」
過去をさかのぼって調べれば、もっとボロが出るかもしれない。だが、事実を把握した以上は公表せざるを得なくなる。この企業は過去の調査はせず、未来にのみ対応することにした。直近の課題は、予約を受け付け始めたおせち料理。幸い、まだ製造は始まっていないので誤表示があった場合、食材を替えるのではなく、表示のほうを合わせることを決めた。
「他に偽装、誤表示の証拠が出てきた場合、レシートや領収書が残っていたらどうするの」
「返金に応じるほかないんじゃないか」
「過剰反応じゃないですかね。被害者が出ているわけじゃなし」
「仮に返金するとしてそれは全額、一部?」
「同業他社と足並みをそろえようと、横のつながりで話し合っています。お客様から返金について問い合わせがあった際は、『返金する方向で考えています』と回答するよう指導します」
「想定問答集、はやく回さないと」
「カネ……返す必要あるかね?言われるまでわからなかったのに」
「まだ名前が出ていないデパートやホテルもいずれ、誤表示、偽装問題が明らかになるでしょう。そしておそらく、返金に応じると見ています。弊社だけ違う対応をすると、かえって目立ってしまいませんか」
「テナントやレストランの責任はどう考えていますか」
「誤表示、偽装が発覚した場合、即座に改善命令を出します。ただ、取引の停止までは考えていません。そんなことをすれば、テナントスペースが穴だらけになってしまうかもしれませんので」
関係者への取材をもとに緊急役員会議の内容を2ケース再現したが、共通しているのはいずれも消費者を軽視しているということだ。
前消費者庁長官で中央学院大教授の福嶋浩彦氏が解説する。
「ホテルやデパートなど巨大組織になると、どうしてもお客さん一人一人の顔が見えづらくなる。そのぶん、消費者への責任感が希薄になっているように思います。今回明らかになった食品業界の体質を見ていると、たとえ消費者の健康にかかわるような問題でも、都合が悪いことは隠されてしまうのではないかと危惧しています」
たとえば、加工肉を和牛ステーキと偽る背景には、小売業と違い、レストランなどで提供される食品には加工食品のような表示義務がないことが挙げられる。福嶋氏の解説はこうだ。
「レストランでは、シェフなどから材料や産地について、客が直接聞くことができる、というのが表示義務のない理由のひとつです。しかし、お店の人と客が親しいケース以外は、実態と乖離しているように思います。私が長官の時から取り組んでいた新しい食品表示法では、まず加工食品の栄養表示の義務化を実現しましたが、あらためてレストランをはじめ外食などの表示のあり方を真剣に議論していく必要があるでしょう」
今回発覚したような、ブロイラーを地鶏と表示するなど、実際よりも優良な製品に見せかける行為は景品表示法の「優良誤認」にあたり、処分の対象となる。消費者庁の措置命令に従わない場合、代表者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金、事業者は3億円以下の罰金が科せられるれっきとした犯罪だ。
■「注意書き」で逃げておく
だが、ジャーナリスト・椎名玲氏は「景表法は穴だらけ」だと嘆く。
「景表法で問題になっても、一時期騒がれるだけで、『もうやめました』『改善しました』と言えば、実際にはお咎めなし。やりたい放題なのです。原材料をそのまま顧客に売っているスーパーはまだ気を付けているほうで、外食産業はザルです。チェーン居酒屋などはそのあたりよくわかっていて、『九条ネギ』と書かれたメニューを良く見たら、小さい字で『シーズンによっては他の材料に切り替えることがあります』と書いてありますよ」
産地や成分表示を厳しくチェックされてきたスーパーなどの小売りに比べ、法の網の目が緩かったのが外食産業だった。農産物流通コンサルタントの山本謙治氏はこう分析する。
「バナメイエビだとか、加工肉の話は昔からあった話です。それが表示厳格化の流れのなかで表に噴出してきたということ。肉に脂を注入して人工のサシを作る技術をインジェクションと言って、これ自体は悪くない。大手弁当チェーンのステーキ弁当には『やわらか加工を施しています』と注意書きがされています」
これが加工肉である。インジェクションは豚や馬肉にも応用されている。
「結婚式ではたいてい、コース料理のメインに丸い筒状の牛のヒレ肉が出てきますよね?あれ、かなりの割合で成型しているはずです」(山本氏)
本来、ヒレ肉はヒモ状の部位で厚みがまちまちなので、2本のヒレ肉を結着剤でくっつけてから、形を整えているという。
どこまで客をだます意思があったかはともかく、表示と違う食材はあらゆる食品に入っている可能性があると見ていい。髙島屋の後にも三越伊勢丹、そごう・西武、東武、西武、松屋、丸井、東急、帝国ホテルにホテルオークラでも同様の問題が発覚した。これがスーパーやコンビニ、ファーストフード、食品を扱うネット通販に拡がれば、日本全国で謝罪返金騒動が起きることになる。
本誌は外食チェーンと大手スーパー、コンビニチェーンを10社ピックアップし、食材の仕入れ、チェックについて質した。そのうち半数が今回の問題を受けて、食材の再確認を行っていた。
「阪急阪神さんの問題が発覚した時点からリスク管理の一環として、原材料を含めて再確認をしております。特別な銘柄であったり、高級食材を扱う場合は取引先に商品指定をし、なおかつ証明書を確認しています」(大手スーパー広報)
「当社でも全店で誤表示はないか確認調査を実施しています」(大手外食チェーン)
騒動拡大の発端となった髙島屋はどう考えているのか。同社代表取締役専務の松本靖彦氏は本誌の取材にこう答えた。
―突然の発表に見えたが、きっかけは阪急阪神ホテルズの問題だったのか。
「それまでもいろいろな形で商品の検査はしていたのですが、阪急阪神ホテルズさんの話が出たとき、あらためて自主検査をしようということになったのです。そして、ご迷惑をおかけするような事実が出てきた。悪い調査結果が出ている以上、可及的速やかに発表しないといけないだろうと、その場ですぐ担当者から説明を聞き、社外の方にご報告することにしました。ただ、あの日は確か日曜で月曜も振り替え休日でお休みだったので、5日の火曜日になったのです」
―なぜ、誤表示を見落としていたのか。
「毎回毎回、商品は替わりますし、メニューも変わる。その都度、チェックはしていたはずなんですが、そこの徹底を欠いていた……ということです」
―チェック体制がある?
「もちろんです。景表法、JAS法もそうですが、髙島屋は成分表示、原産地表示、アレルギー表示など、ひとつのスタンダードをもってチェックはしておりましたが……」
―10店舗中9軒は髙島屋ではなく、テナントのミスだったがそれでも責任を取る必要があるのか。
「社員によく言うのですが、どこで作っているとか、どこのテナントで売っているとか、それはお客様には通じない話です。お客様は髙島屋を信じて買っていただいているのですから」
松本氏は最後に「ずるいことはしちゃいけない」と言い残し、迎えのハイヤーに乗り込んだ。
■初めは小さなウソだった
次々と行われる謝罪会見、トップの辞任。消費者が被害者なのは間違いないが、ここまで毎日、同じ光景を見せられると、この騒動の結果、誰が得するのかという疑問も湧いてくる。
「この事件が収束したら、食べ物の価格は高くなっているだろうと思います。虚偽表示ができなくなるから、採算がとれるまっとうな値段設定になる。普通に考えれば、和牛弁当が数百円で食べられるわけがないんです」(前出・山本氏)
企業コンプライアンスに詳しい、郷原信郎弁護士が解説する。
「阪急阪神ホテルズの件で偽装とされた47品目のうち、景品表示法違反に当たる可能性があるのは、産地が異なるのに『霧島ポーク』とした件と津軽鶏を『津軽地鶏』とした件くらいだと思います」
ではなぜここまで大騒ぎになってしまったのか。
「阪急阪神ホテルズのコンプライアンスと危機対応があまりに拙劣だったためです。たとえば47品目を一覧表にしてしまったので、高級レストランでたくさん偽装が行われている印象を与えてしまった。実際はほとんどなかったのに、です。お客の申告に基づいて返金したり、食事券などを渡しているようですが、完全にやりすぎ。そもそも、自分たちの料理の価値が損なわれたのではなく、表示の問題だったわけですから。髙島屋のテナントが偽装したことにより、髙島屋の幹部が頭を下げましたが、これもテナントが個別に対応する問題です」(郷原氏)
しかし、一社が過剰対応し、それが前例になると、続く各社はたとえ大して反省していなくても、とりあえず発表して頭は下げておこう、うるさい客にはカネを返そうという発想になりがちだ。
京都大学名誉教授の竹内洋氏は「横並び謝罪によって問題の本質が覆い隠されてしまった」と指摘する。
「それでいて絶対に自らは偽装したとは言わない。社長が何人か辞任しましたが、本当に悪いのは誰なのか、責任の所在がはっきりしない。これは学校が絶対にいじめを認めないのと同じ。認めると処罰を受けることになるので、何が悪いのかをはっきりさせない。ようは横並びで身を守ろうというわけです」
日本中に偽装食品が拡がったのもこの横並び意識が原因ではなかったか。
「ここ15年間のデフレが、食品を扱う関係者の間に、このような習慣を定着させてしまったんだと思います。バブルのころはよりいいものを求める文化があった。それが、どれだけ高級感を出して、値段の手ごろ感を出すかに移っていった。そして、ごまかしとなり、やがて誤表示となり、偽装となっていったのです」(元JPモルガン証券流通部門のベテランアナリスト・塚澤健二氏)
他もやっているからという横並び意識でついた小さなウソが、エスカレートして起きた今回の騒動。謝罪会見で見られているのは、その企業が本気で反省しているかどうかだ。食材偽装は見抜けなかったが、消費者の企業を見る目は節穴ではない。
「週刊現代」2013年11月23日号より
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