【ニューヨーク＝杉本貴司】米大手製造業で、雇用を維持するために、実質的な賃下げを要求する動きが目立ってきた。一部の労組には容認する動きもある。航空機大手ボーイングは主力拠点の従業員に次世代機生産の条件として年金などの削減を提案。建機大手キャタピラーも一部工場で昇給凍結を打ち出した。収益が悪化すると一時解雇に踏み切るという、米企業に多く見られる雇用形態にも変化が出てきた。
　ボーイングが本拠を置くシアトル郊外。同地区の国際機械工労組（ＩＡＭ）とボーイングが対立した。その発端は次世代型大型機「777Ｘ」の生産だ。納入開始は2020年の予定だが、すでに259機の受注が決まり、早くもベストセラーの評判が高い。
　ＩＡＭの地区代表らは、777Ｘの生産が始まれば「２万人の新規雇用が創出される」とそろばんをはじいたが、ボーイングは従業員に異例の提案をした。777Ｘを生産する条件として現在の年金契約を変えるというものだった。
　ＩＡＭによると、今の確定給付型年金を廃止し、企業負担が少ない確定拠出型に移行する案が柱で、一部の退職手当も削られる。地元紙によると、会社にとっては数億ドル単位のコスト削減になる。結局、11月に組合員による投票の結果、会社提案を反対67％で否決した。
　ＩＡＭはボーイングに新たな労使契約を提案し交渉したが、決裂した。同社は代わりの生産拠点を探す構え。ロイター通信によると、入札には少なくとも12自治体から応募があった。今の拠点があるワシントン州政府も補助金の大盤振る舞いで次世代機の生産をつなぎ留めようとしているが、かなりの雇用が州内から失われる恐れもある。
　キャタピラーは工場ごとに労使契約を更改するタイミングで「工場廃止か、昇給凍結か」の選択を迫り始めた。シカゴ郊外の部品工場では３カ月に及ぶストライキに発展したが、最終的に従業員は昇給凍結を受け入れた。一方、カナダなど複数の工場は閉鎖か一時休止となった。
　米製造業で生産拠点を国内に回帰する動きが目立つが、背景には労働コストの低下がある。
　ケンタッキー州にあるゼネラル・エレクトリック（ＧＥ）のルイビル工場。約１千人を新規採用した上で温水器の生産を中国から移管したが、その条件は４割の賃下げだった。時給13ドルは米大手製造業の給与としては異例の安さだ。オーチス・エレベータもメキシコからサウスカロライナ州に生産を移管する際、労働コストを切り詰めた。

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