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STAP騒動の置き土産:成果偏重の科学の危うさ
http://www.asyura2.com/13/nature5/msg/774.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 3 月 11 日 17:21:14: Mo7ApAlflbQ6s
 


[核心]STAP騒動の置き土産
成果偏重の科学の危うさ

編集委員 滝順一

 「STAP細胞」をめぐる研究不正問題で、理化学研究所は2月10日に関係者の処分を発表した。理研を辞めた小保方晴子氏に対しても「懲戒解雇相当」との判断を示し、およそ1年間にわたって国民的な関心を集めた問題に終止符を打とうとしている。
 しかし問題にけじめがつけられたとはいえない。

 不正を調査した理研の調査委員会は昨年12月26日、STAP論文の内容をほぼすべて否定し、「STAP細胞」と称された細胞は実は既知の万能細胞(ES細胞)だったとした。
 そこにあるはずのないES細胞が実験試料に繰り返し混じっていた。混入は過失によるのではなく、故意の「疑いをぬぐえない」。ただ調査委員会は「能力と権限の限界」から、不正な手段による細胞の入手や試料の調製があったと結論づけるのは避けた。

 事件の核心部分が未解明のまま関係者の処分だけは決まった。不自然な事態が今も放置されている。
 理研の加賀屋悟・広報室長は、小保方氏に対する告訴や研究費の返還請求の可能性を示唆している。司法による捜査となれば新たな事実が明るみに出る可能性がある。口先だけの発言でないことを願いたい。

 「生命科学の研究室は競争的資金をとるために必死だが、そこに夢中になって肝心の科学の基本が忘れられてしまう」
 調査委の桂勲委員長(国立遺伝学研究所所長)は昨年末の記者会見で警鐘を鳴らした。STAP騒動を通じ今の科学が抱える根深い問題がいくつかみえた。

 大学や研究機関は研究を支えてきた定常的な資金を毎年減らされている。代わりにアイデアの提案競争で手にするお金(競争的資金)の割合が増す。座しているだけでは研究ができない。さらに研究は目に見える成果が求められる。成果とは「ネイチャー」など著名科学誌への論文掲載や特許だ。
 ある大学の副学長は「毒まんじゅうだ」と言う。競争的資金を得て研究をするようになると、もうそれなしでは生きていけない。
 日本だけのことではない。世界の主要国は産業競争力を高めるため科学研究を重視しイノベーションの種をより早く、多く生むよう科学者に発破をかける。
 もとより科学は、社会に対し有形無形の恩恵をもたらすという暗黙の約束を前提にして、社会からの支援を得てきた歴史がある。
 これが近年「科学と社会の契約関係が(制度として)形式化し、不確実性やひらめきが排除されている」。ノーベル賞関連行事で先ごろ来日したヘルガ・ノボトニー・スイス連邦工科大学名誉教授は指摘する。
 金を出すから結果を出せと、科学の成果を予見可能にしようとする「出口志向」はおそらく世界共通なのだろう。科学は今や21世紀の「富国強兵策」の一部である。

 もちろん、より独創的で投資効率のよい研究を促すのは悪いことではない。
 ただ政策誘導の結果、現実にイノベーションが生まれ社会が豊かになるのならまだしも、提案のうまい研究者が重宝されたり、短期で成果が出る研究ばかりがもてはやされたりするのでは、元も子もない。

 STAP騒動でもそんな危ない傾向が見え隠れしてきた。
 科学界で深刻なポスドク(博士号をもつ若手研究者)の雇用問題は政策誘導の失敗に数えられるだろう。
 政府は1990年代後半「ポスドク1万人計画」を掲げて大学院を拡充し、研究の即戦力として高度な知識と技能を備えた博士を増産した。
 実験に人手がかかる生命科学はとくに多くのポスドクが必要で、数年間続く研究プロジェクトの間、有期雇用するのが習わしだ。
 STAP騒動の舞台となった理研の研究所(神戸市)はほぼすべての研究者が有期雇用だという。
 博士増産の一方で、大学のポストは増えず、安定した職がない若手研究者を多数生み出している。その数は約1万6千人とされる。
 ポスドク自身の資質を問題にする声もある。しかし「大学に残る以外の多様な進路選択を促す教育を怠り、結果的に若手研究者をアカデミア(科学者の世界)に閉じ込めてきた」(浅島誠・東京大学名誉教授)政策の責任は大きい。
 問題は以前から指摘されてきたが、改善の兆しがない。むしろ年齢を重ねて有期雇用の職も得られない研究者がたくさん生まれる事態も懸念される。

 STAP騒動に懲りて若手登用に二の足を踏むのでは困る。理研に欠けていたのは適切な人材評価だ。若く優秀な頭脳を育てる長期的な方策がなくては息の長い科学の発展は望めない。
 研究不正への厳罰化もSTAP騒動の置き土産だ。文科省の新研究倫理指針が4月から施行される。
 新指針では研究者の不正の責任を所属組織に対し問う。不正の疑いに対し迅速、厳正な調査を求め、研究データや細胞など試料も5〜10年の保存を規定した。「研究機関の負担が増す」と嘆く声を耳にする。
 不正抑止への真摯な取り組みは当然だ。本来は科学者自身が自浄作用を発揮すべきところへ行政が介入してきた。
 野依良治理事長ら指導的な人々がリーダーシップを示せなかったことも、STAP騒動であらわになった課題だった。

[日経新聞3月9日朝刊P.4]

 

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