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アングル:「アベノミクス」が強いる高齢者の痛み
http://www.asyura2.com/13/senkyo145/msg/257.html
投稿者 eco 日時 2013 年 3 月 16 日 08:17:09: .WIEmPirTezGQ
 

アングル:「アベノミクス」が強いる高齢者の痛み
2013年 03月 15日 19:07 JST
[東京 13日 ロイター] 安倍晋三首相は、内閣の任命を経て20日に誕生する黒田東彦次期日銀総裁とともに、デフレ脱却と成長復活に向けた経済政策「アベノミクス」を今後さらに加速させていく。一方、戦後日本の高度経済成長を支えてきた高齢者が今、そのアベノミクスから痛みを強いられようとしている。

アベノミクスはまさに今の日本経済が必要としていることかもしれないが、それは日本を輸出主導型の経済大国へと押し上げ、貯金や年金での生活に向けて準備していた高齢者の負担の上で成り立つとも言えるからだ。

都内で今川焼屋を半世紀にわたって営む70代の夫婦は、ロイターの取材に「引退後に備えて貯金を殖やそうとしているが、簡単ではない。将来どうなるか分からない」とため息まじりに語った。

バブル経済が崩壊してからの20年間、日本経済は停滞が続いていたが、緩やかなデフレによって高齢者の購買力も緩やかに右肩上がりが続いてきた。インフレを起こしてそれを逆回転させようとしているアベノミクスは、成長に向けた財源を捻出するため、比喩的にも実質的にも高齢者に重い負担をかけようとしている。

ただ、インフレ上昇や増税の見通しで高齢者が持つ700兆円を超える資産の流動化が始まれば、アベノミクスが効果を発揮する前に財政危機に火が点くことになりかねないと一部のアナリストやエコノミストは警戒する。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの櫨浩一氏は「将来的にお年寄りは貯金を崩していく。その観点から追加的な国債の発行が難しくなる」と指摘する。

東京五輪が開催された1964年以降の四半世紀で、日本の1人当たり国内総生産(GDP)は3倍に増えた。それを実現させた要因の1つは、金融緩和や大規模な財政出動など、現在の安倍政権の経済政策と多くの点で似通っている一連の政策だった。第2次安倍政権では、向こう15カ月間で100兆円をインフラに投じる計画。そして黒田次期日銀総裁は、積極的な金融緩和姿勢を明確にしている。

アベノミクスによるインフレ期待を背景に、円の対ドル相場は昨年11月以降で約20%下落した。円の1%の下落は、日本企業の利益を1%押し上げる要因になるとされる。

しかし、1960年代に比べ、日本社会は大幅に高齢化し、国は巨額の借金を抱えている。日本の公的債務残高は、対GDP比2倍以上と世界最高水準に膨らんでいる。

ニッセイ基礎研究所の櫨氏は「財政出動と金融緩和は今まで何回かやってきたが、その効果はいつも一時的だった」とし、「今回の刺激策が恐らく最後になるだろう。公的債務は大き過ぎであり、社会は高齢化が進んでいるからだ」と語る。

日本国債の約9割は国内貯蓄でまかなわれているが、その多くは直接的もしくは間接的に高齢者の貯蓄によるものだ。日本の60歳以上は人口の約25%だが、日銀統計によると、家計金融純資産1156兆円の約60%は彼ら高齢者が保有する。

そして、高齢者が人口に占める比率は高まるばかりだ。日本政府によれば、2035年までに全人口の30%が65歳以上になるという。

高齢者の金融資産の大部分は銀行預金という形で保有されており、金融機関は低成長やローン需要の停滞により、こうした預金の多くを国債に投資する。同じことは、安全性を重視する年金基金や生命保険にも当てはまる。

安倍政権のギャンブルは、インフレ期待が高齢者やその家族の消費拡大を誘発し、国内需要が増大して雇用と所得が伸びるという好循環をもたらし、結果的に税収が伸びて借金を減らすというものだ。

エコノミストらは、アベノミクスによって消費や税収がどれほど伸びるか予測するのは極めて難しいと指摘する。その一方で、インフレは高齢者の購買力を落とし、引退に備えた貯金の切り崩しは増えることになるだろう。

これについて小野日子内閣副広報官は、ロイターへの文書による回答で、年金給付額は消費者物価の動きにリンクしているので、年金生活者の購買力は低下しないとの考えを示し、政府は貧困層への年金給付増額にも取り組んでいるとした。

どんなリスクがあるにせよ、多くのエコノミストが口をそろえるのは、日本にインフレ政策以外の選択肢はほとんど残されていないという点だ。少子高齢者は進む一方であり、向こう10年以内に政府が債務を減らせなければ、財政危機は確実に顕在化するだろう。

年金給付額の削減計画は安倍政権によって中断したが、インフレは、高齢者から若年層への富の自然な移行をスピードアップさせることにもなる。

安倍政権は税制改正にも踏み込んでいる。2016年からは国債売却益にも20%課税される計画であり、2015年には相続税の最高税率が50%から55%に引き上げられる予定だ。一方、祖父母が孫に教育資金を一括贈与した場合、贈与税の一定額を非課税にする特例を検討している。

企業のマーケティング担当者は早速、新たな税制に後押しされた祖父母世代の支出拡大を狙った動きを見せており、博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏は「消費拡大につながる可能性がある」と指摘する。

アベノミクス支持派は、消費拡大こそが日本には必要だと主張する。一方、アベノミクスに懐疑的な論客は、政府は高齢者の虎の子の資産をインフレから守ろうとしないなら、彼らの消費拡大をあてにすべきではないと反論する。

投資助言会社フジマキ・ジャパンの藤巻健史氏(62)は「古い人間」はハイパーインフレが起きて、築き上げた資産が消えることを考えると語る。藤巻氏は顧客に対し、インフレに備えて資産を外債や外国通貨に移すよう助言している。

30年債利回りは足元で2010年半ばの水準にまで低下している。その理由の1つには、「高齢者貯蓄」が国債を売り始めたとしても、日銀の買い入れがそれを吸収すると投資家が考えていることがあるかもしれない。ただ一部には、投資家がアベノミクスの失敗を見込んでいることもその背景にあると指摘する声もある。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE92E05820130315  

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01. 2013年3月16日 08:23:24 : xEBOc6ttRg
安倍首相がTPP交渉への参加表明、経団連は全面的に支援
2013年 03月 15日 21:26 JST

TPP・通商問題
首相がTPP交渉参加表明「最善の道を実現」、GDP試算で意義強調
TPP交渉に参加、関税ゼロでも日本経済にはプラス効果=安倍首相
首相、TPP交渉参加表明
TPP交渉入りを与党幹部に伝達

[東京 15日 ロイター] 安倍晋三首相が15日、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明したことを経済界は歓迎している。

日本経団連の米倉弘昌会長(住友化学(4005.T: 株価, ニュース, レポート)会長)は「総理の強いリーダーシップと交渉力の賜物」と高く評価。経団連として政府の交渉を全面的に支援する姿勢を示した。

産業界からも好意的なコメントが相次いだ。日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車(7203.T: 株価, ニュース, レポート)社長)は「幅広い分野での共通したルールづくりなどビジネス環境の整備が期待される」と指摘。日本鉄鋼連盟(鉄連)の友野宏会長(新日鉄住金(5401.T: 株価, ニュース, レポート)社長)も「わが国の経済の競争力強化はもとより、国内における投資促進、雇用の維持・拡大を実現する上で極めて大きな意味を持つ」とコメントをした。

昨年末の安倍政権の発足以降、為替の超円高は是正されてきたものの、高い法人税率や電力不足などは変わらず、事業環境は依然として厳しい。TPPに参加して自由貿易協定の遅れを取り戻せば、競争不利となっていた要因が一つ緩和される。

TPPに対しては、関税撤廃や引下げに加え、国際貿易・投資ルール整備の進展にも期待が大きい。世界貿易機関(WTO)で進めてきた貿易ルール作りが暗礁に乗り上げている中、TPPのルールは今後の貿易や投資、知的財産権などの基本として、TPPに参加を表明していない中国など新興国との貿易交渉でもベースとなる可能性があるからだ。

政府の産業競争力会議のメンバーであるローソン(2651.T: 株価, ニュース, レポート)の新浪剛史社長は6日、ロイターとのインタビューで、TPPについて「将来的には中国にも入って欲しいという狙いはあると思う」と述べた。仮に、日本がASEAN(東南アジア諸国連合)や中国などと自由貿易交渉を行う際にも「TPPで作られた一つのルールが大前提になると思う」という。


首相がTPP交渉参加表明「最善の道を実現」、GDP試算で意義強調
2013年 03月 15日 23:56 JST
[東京 15日 ロイター] 安倍晋三首相は15日夕の記者会見で、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を正式に表明した。日本の主権は断固として守るとしたうえで、国益を踏まえて最善の道を実現するとの決意を示した。

政府は同時に、TPP参加の経済効果として、実質国内総生産(GDP)を3.2兆円押し上げるとの試算を発表。交渉参加の意義を強調した。

安倍首相は「TPPはアジア太平洋の未来の繁栄を約束する枠組みであり、アジア太平洋地域の新たなルールを作り上げることは日本の国益となるだけでなく世界に繁栄をもたらす」と指摘。「今がラストチャンスだ。この機会を逃せば日本が世界のルール作りから取り残される」と参加表明の理由を説明した。

さらに、「いったん交渉に参加すれば、必ず重要なプレーヤーとして新たなルール作りをリードできると確信している」とした。

TPP参加の日本経済への影響については、「すべての関税をゼロとした前提でも、日本経済には全体でプラス効果が見込まれる」と指摘。「今後の交渉でセンシティブ品目への配慮などにより、悪影響を最小限にとどめるのは当然だ」とし、投資活性化など今回の試算に含まれないプラス効果も想定されると説明した。

具体的な交渉について安倍首相は「国民皆保険制度を守るなど、5つの判断基準を掲げている。交渉の中でしっかり守っていく」とした。聖域が守れない場合は交渉から離脱すべきとの決議を自民党が行ったことに関しては「われわれは国益を中心に交渉する。離脱するかどうかを言うのは国益にも反するので適切でない」と述べた。さらに「日本の主権は断固として守り、国益を踏まえて最善の道を実現する」との決意を示した。

国内農業への支援策については「強い農業、攻めの農業、多面的機能を守るための対策・メニューについてはしっかり議論していきたい」と語った。

<甘利氏がTPP担当相に、農林水産業の生産は4割減>

TPP交渉参加に関する総合調整を手掛ける担当相に就く甘利明経済再生相は、記者会見で「首相の決断は様々な国民の声を踏まえ、国益を総合的に判断したもの。交渉参加は成長戦略実行の第一弾となる」と強調した。

甘利担当相が発表した政府の統一試算によると、相手国の関税撤廃などで輸出は2.6兆円増加するが、輸入も増加するためGDPを2.9兆円押し下げる。輸出増が生産の増加などを通じて所得を増やすとして消費が3.0兆円増え、投資も0.5兆円増加する。差し引きの増加額は3.2兆円。実質GDPを0.66%押し上げる。

TPPへの参加で大きな影響を受ける農林水産業の生産減少額は3.0兆円と予測した。コメや砂糖など試算対象33品目の生産合計額は7.1兆円で、4割超の国内生産が減少する計算となる。食糧自給率はカロリーベースで39%から27%程度へ低下する。

甘利担当相は試算について「中長期の効果を示した。幅を持ってとらえる必要がある」としながらも、差し引きすればGDPを押し上げることから「経済全体へのプラス効果がある」と指摘。「経済連携が(参加した国の)GDP押し上げ効果があることは、日本や他国の発展の歴史を見れば、理解されるものだ」として、関税撤廃効果のみに着目した今回の試算以上の効果が生じることに期待を示した。

さらに担当相は「太平洋を中心にそれを取り巻く国々が、太平洋を『内海』として自由に行き交うことがスタートする。極めて魅力的な話」だとして、TPPが東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)など、今後の経済連携が「発展する際のたたき台になる」側面も強調した。

(ロイターニュース 石田仁志、基太村真司;編集 伊賀大記)
http://jp.reuters.com/article/jpTrade/idJPTJE92E00720130315


02. 2013年3月16日 08:26:07 : xEBOc6ttRg
【NY市場】円買い広がる、米ミシガン大消費者信頼感の悪化などで
2013/03/16 (土) 06:17


15日のNY市場では、円買いの動きが広がった。

NY株式はダウ平均が連騰記録を10日でストップさせるなど軟調にスタート。ミシガン大指数の発表で一段と下げ幅を拡大している。この動きを受けて為替市場でも調整色が強まり、円買いの動きが優勢になった。ドル円は95円台半ばを割り込んで一時95.08レベルまで下落、3月8日以来、約1週間ぶりの安値水準となった。その後は、日経新聞電子版で黒田日銀が初会合で緩和へ、との記事を報じたことで円買いの勢いは一服している。ただ、戻りは95円台半ばに限定され、引けにかけては再び95.30近辺へと押し戻された。週末を控えて調整ムードが広がった面もあったようだ。

クロス円も同様で、ユーロ円は124円台前半、ポンド円は144円割れ、豪ドル円は一時99円割れまで下押しされた。ただ、強弱は各通貨でまちまち。豪ドルは対ドルで1.04台乗せと堅調だったのに対し、欧州通貨は冴えない動きだった。ユーロドルは1.30台後半での揉み合い。特に弱かったのがポンドで、対ドルでも1.5080近辺まで下落、戻りも1.5110程度までに限定されている。ポンドに関しては、キング英中銀総裁がテレビ番組で、追加緩和策の可能性に言及したことが売りを誘った。

この日は数多くの米経済指標が発表されている。2月消費者物価指数は前月比0.7%上昇、約4年ぶりの高い伸びだった。主にガソリン価格の上昇が寄与した。3月NY連銀製造業景気指数は9.24と前回や予想から小幅に下振れもプラス圏は維持した。1月対米証券投資は1109億ドル買い越しで、中銀など公的部門の米国債需要が急増していた。2月の鉱工業生産は前月比+0.7%、設備稼働率は79.6%など前回や予想から上振れている。そして、3月ミシガン大消費者信頼感指数・速報値は71.8と2011年12月以来の低水準だった。

(Klugシニアアナリスト 松木秀明)


03. 2013年3月16日 08:48:08 : xEBOc6ttRg
http://www.murc.jp/thinktank/economy/overall/japan_reg/watch_1303.pdf
2013 年3 月15日
調査レポート
日本経済ウォッチ(2013 年 3 月号)
【目次】
1.今月のグラフ·································································· p.1
〜住宅ローン減税の拡充で着工は平準化
2.景気概況······································································· p.2
〜持ち直しの動きがみられる
3.今月のトピック:円安が景気に及ぼす影響······························· p.3〜17
〜円安は景気にとってメリットかデメリットか?
(1)足元の円安の意味するもの〜実質実効為替では歴史的な円安水準
(2)円安のメリット〜日本経済はメリットを享受しづらくなっている
(3)円安のデメリット〜誰がコストを負担するのか?
(4)円高と円安のどっちが徳なのか?
(5)なぜ円安をメリットと感じてしまうのか?
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
調査部 小林 真一郎、尾畠 未輝 ( )
〒105-8501 東京都港区虎ノ門5-11-2
TEL:03-6733-1070ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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1.今月のグラフ 〜住宅ローン減税の拡充で着工は平準化
1 月 29 日に閣議決定された 2013 年度税制改正大綱において、住宅借入金等を有する場合の所
得税額の特別控除、いわゆる「住宅ローン減税」の拡充が示された。具体的には、2013年末だっ
た適用期限を2017年末まで4年間延長するとともに、消費税率が8%へと引上げられる2014年4
月以降、最大控除額が拡大されることとなった(図表 1)。さらに、住宅ローンの減税分が所得税
で控除しきれない場合には、住民税において控除が受けられる。これらの措置は、持家など住宅
取得者に対して増税後の負担を軽減させるとともに、増税前後の駆け込み需要とその反動減を緩
和させる狙いがある。
持家について新設住宅着工戸数の推移をみると、1989 年の消費税率 3%導入時には、バブル経
済を背景に景気が過熱気味に推移していたこともあり、消費税導入にかかわらず着工は堅調な推
移が続いていた(図表 2)。一方、1997 年の消費税率 5%への引上げ時には、増税の 1 年半から半
年ほど前を中心に駆け込み需要が発生し着工を押し上げたとみられる。もっとも、1997年時点で
は、住宅ローン減税の最大控除額は従来の 160 万円から 180 万円にしか拡大しておらず、最大控
除額が大幅に引上げられたのは、住宅市場が大きく悪化した後の1999 年のことであった(最大控
除額は 587.5 万円)。さらに、注文住宅では増税の半年前(1996 年 9 月末)までに請負契約を結
んでいれば、引渡しが増税後になっても引上げ前の税率(3%)が適用される仕組みだったが、こ
うした情報について販売などの現場で周知徹底が十分ではなかったことも、駆け込み需要を発生
させた一因と考えられる。
2014年の増税にあたっては、前もって消費者の負担軽減のための措置が講じられていることも
あって、駆け込み需要やその反動減は比較的軽微にとどまる可能性がある。現時点では、契約等
の詳細についてはまだ決まっていないが、おそらく1997 年と同様の対応が採られるとみられてお
り、着工は均されることになるだろう。実際、消費税の負担が増す前に住宅を購入するか、住宅
ローン減税の拡充を待って増税後に購入するかのどちらが得かは、住宅の購入価額やローン借入
金額などによってケース・バイ・ケースである。さらに、足元では復興需要や公共工事の増加に
よって建設業の人手不足が続いており、供給制約が増税前の着工の増加を抑制する可能性がある。
(尾畠 未輝)
図表1 住宅ローン減税最高控除額 図表2 新設住宅着工戸数(持家)
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
-3 -2 1 0 1 2
1989年4月
1997年4月
2014年4月
(万戸)
(注)季節調整済、年率換算値。
   消費税率導入および引上げ時点を0とする。
(出所)国土交通省「建築着工統計調査報告」
(年、月次)
0
100
200
300
400
500
600
1995 2000 05 10 15
(注)2007、2008年は選択制。
   2001年は7月1日以降は500万円、2014年は3月31日までは200万円。
(出所)財務省ホームページなど
(年)
(万円)
予定ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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2.景気概況 〜持ち直しの動きがみられる
景気に持ち直しの動きがみられる。公共投資が順調に増加していることに加え、自動車
の増産などを背景に生産が持ち直しつつあり、改善が遅れていた輸出も世界経済の回復ペ
ースの高まりを背景にようやく下げ止ってきた。
法人企業統計によれば、10〜12 月期の企業の経常利益(全規模全産業、季節調整値)が、
前期比+2.4%と 3 四半期ぶりに増加に転じるなど、企業部門にも持ち直しの動きが現れ始
めた。非製造業では減益が続いているものの、製造業が増加に転じて全体を押し上げた。
製造業では、生産活動も持ち直している。1 月の鉱工業生産指数は、前月比+1.0%と 2
ヶ月連続で上昇した。内外の需要が底固い自動車の増産が続いているほか、在庫調整が一
巡してきた鉄鋼業、化学工業などにも持ち直しの動きが広がっている。生産予測調査によ
れば 2、3 月とも上昇が続き(それぞれ前月比+5.3%、+0.3%)、回復傾向が一段と鮮明
となる見込みである。
低迷が続いていた輸出も、1 月の実質輸出が前月比+2.2%となるなど、ようやく回復の
兆候が出てきた。世界経済の回復ペースが高まっていることを受けて、今後は増加基調に
転じると期待され、鉱工業生産の押し上げに寄与するであろう。
弱含んでいた設備投資も底入れしつつある。実質GDPベースでは減少しているが、法
人企業統計でみると、10〜12 月期は前期比+0.9%と 1 年ぶりに増加した。先行する機械
受注(船舶・電力を除く民需)は 10〜12 月期に同+2.0%と増加した後、1 月に前月比
−13.1%と減少したが、建築着工床面積(非居住用)が、小売業や運輸業といった非製造
業を中心に順調に回復してきており、設備投資の増加に寄与すると予想される。
明るい動きが出てきた企業部門と比べると、家計部門は力強さに欠ける。1 月の消費者
態度指数が急上昇するなどマインドは急改善し、自動車販売の落ち込みは一巡しつつある
が、総じてみると個人消費は横ばい圏内での動きにとどまっている。12 月の一人当たり現
金給与総額が前年比−1.7%と 4 ヶ月連続で減少するなど、所得面での回復の遅れが背景に
ある。
一方、公共投資は増加が続き、景気全体の押し上げに寄与している。1 月の公共投資請
負額が前年比プラスを維持していることに加え、2012 年度補正予算および 2013 年度政府
予算案で公共事業関係費が増額されており、今後も景気を押し上げる効果が続くと期待さ
れる。
輸出、生産、公共投資の増加を背景に、景気は持ち直しの動きが強まって行くと予想さ
れる。円安・株高によって高まっている景気の先行きへの期待感がこのまま維持できれば、
個人消費や設備投資も改善してくるであろう。しかし、円安は輸入物価の上昇を通じて、
企業の調達コストを上昇させ、利益を圧迫する要因にもなる。また、実質賃金を減少させ、
個人消費にマイナスの効果をもたらせる。こうした円安のマイナス効果の浸透も勘案する
と、高まっている期待感もいずれは落ち着いてくると予想される。 (小林 真一郎)ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
3/17
-20
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
72 75 78 81 84 87 90 93 96 99 02 05 08 11
(3ヶ月前比、%)
(出所)日本銀行ホームページ (年、月次)
95年6-9月
3.今月のトピック:円安が景気に及ぼす影響
〜円安は景気にとってメリットかデメリットか?
円安と、それを受けての株高によって、景気の先行きに対して明るい見方が広がっている。
円高の進行時に景気に対して悲観的な見方が高まっていたため、ちょうど逆の反応になって
いるわけだが、なぜ円高になれば景気にマイナスで、円安になればプラスと一般には考えら
れるのだろうか。実際には、円高のメリットや円安のデメリットも存在するはずである。そ
こで今月は、円安・円高のメリットとデメリットについて改めて整理してみた。
(1)足元の円安の意味するもの〜実質実効為替では歴史的な円安水準
最初に、足元の円安の速度、水準について確認しておこう。今回の円安トレンドは、昨年
11 月半ばの衆議院解散決定後から始まったものであり、円は対ドルで 80 円をやや下回る水準
から、2 月半ばまでの 3 ヶ月間で一気に 94 円台まで下落した。ドル円レートの月中平均値を
3 ヶ月前と比べてみると(2012 年 11 月と 2013 年 2 月の比較)、その下落幅は 15.0%となり、
これは過去 2 番目の大きさである。いかに短期間のうちに急激な円安が進んだかがわかるだ
ろう(同様に対ユーロでの下落幅は 19.8%で、過去最大の下落幅である)。なお、対ドルでの
3 ヶ月間の過去最大の下落幅は 1995 年 6 月から 9 月にかけての 18.9%であり、これは 95 年 4
月に円が対ドルでの史上最高値を記録した後、8 月に円高阻止のためにG7で協調介入が実施
され、急速に円高が是正されたタイミングで記録されたものである。
図表1.過去と比較しても円安の速度は極めて早い
次に、円安水準についてみてみよう。対ドルでみると、1 ドル=90 円台の水準は 2010 年 6
月以来、たかだか 2 年半ぶりの円安であり、過去の水準と比較しても決して安過ぎる水準で
はない。これに対して名目実効為替レートでは、足元の水準は 2008 年秋以来の安値である(図ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
4/17
20
40
60
80
100
120
70 75 80 85 90 95 00 05 10
(2010年=100)
(注)2013年2月は円/ドルのスポットレートを参考に試算
(出所)日本銀行ホームページ
(年、月次)
50
70
90
110
130
150
70 75 80 85 90 95 00 05 10
(2010年=100)
(年、月次)
1986年〜2012年平均
(注)2013年2月は円/ドルのスポットレートを参考に試算
(出所)日本銀行ホームページ
表2)。その当時のドル円レートが 100 円程度であったことを考えると、対ドルよりも他の主
要通貨に対して円が売られていることがわかる。
一方、実質実効為替レートでみると、足元の水準は 2008 年夏と同レベルまで売られている
ことがわかる(図表3)。実はこの水準は、歴史的な円安レベルである。2008 年夏よりも前と
なると、プラザ合意前の 1985 年夏にまで遡らないと相当する水準がないのだ。プラザ合意直
前の 1985 年 8 月の月中平均レートは 1 ドル=237.20 円であり、足元の 1 ドル=90 円台半ば
と実質ベースで同水準といわれても分かりづらいかもしれない。しかし、そもそも最近の円
高でさえ、プラザ合意以降(1986 年〜2012 年)の平均レートよりも安い水準にあり、決して
極端な円高の状態にあったわけではないのだ。
以上のように考えると、昨年 11 月半ば以降の円安は、その下落速度、下落後の水準ともに、
極めて異例なものだったといえよう。
図表2.名目実効為替レートの推移
図表3.実質実効為替レートではプラザ合意直前の水準まで下落ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
5/17
(2)円安のメリット〜日本経済はメリットを享受しづらくなっている
このように歴史的な円安が進んでいる下で、景気に対してどのようなメリットが生じるの
か考えていこう。
@輸出企業の業績好転〜景気拡大につながるのか?
企業が外貨建てで輸出している場合、獲得した外貨を円に交換した時に受け取る金額が膨
らむ。これは、売上高の増加を通じて輸出企業の業績を改善させることになる。また、業績
改善期待から輸出企業の株価が上昇するであろう。
ただし、これだけでは国内経済へのメリットはない。業績が改善した企業が、国内での設
備投資を増加させる、従業員の賃金を引き上げる、新規雇用を増加させるといったことを行
わない限りは、企業の利益を押し上げるだけの効果にとどまるためだ。
さらに、総合家電メーカーのように、輸出入の外貨建て取引額を相殺させ、業績に対して
為替の変動を中立にしている場合には、円高のデメリットを被らない一方で、円安のメリッ
トを最初から放棄している。このため、円安になっても業績が改善するわけではない。
また、輸出企業においては、これまでの円高下での国際市場での競争の激化によって、国
内での生産を海外に移転させるケースが増えている。中には、薄型テレビのように競争力を
失って国内生産から撤退を余儀なくされた製品もある。こうした場合には、もはや円安にな
ったからといって、国内に生産設備がない以上、輸出を再開することはできない。
それでは、輸出環境の好転を受けて、生産拠点の国内回帰が進むのだろうか。一般的には、
企業が経営計画を短期間のうちに変更することは難しい。ましてや、円安に転換してからあ
まり時間がたっておらず、このまま円安トレンドが続くのか正確には予測できない状況であ
る。このため、経営計画を短期間のうちに変更し、これまで積極的に進めてきた現地生産化
を中止して国内の能力増強投資に切り替えるとは考えづらい。実際に、円高・株高が進んだ
後の今年 1 月に実施された内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」によれば、今後も
海外現地生産比率を引き上げていくことが計画されている(図表4)。同様に、雇用の増加や
賃金の引き上げにも、輸出企業は慎重な姿勢を崩さないと考えられる。
このように、そもそも輸出企業の供給能力に限界があることに加え、業績が改善しても国
内の設備投資、雇用、賃金の増加に結びつきづらいことから、円安効果が短期間のうちに景
気にプラス効果をもたらせることは、あまり期待できないであろう。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16
(%)
(年度)
2012年度見込み
17.7%
2017年度見通し
21.3%
(出所)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」
図表4.海外現地生産比率の見通し(2013 年 1 月調査)
A海外での価格競争力の向上〜すぐに値引きできるのか?
円安が進むことによって期待されるのが、輸出企業の価格競争力の回復である。この競争
力の回復とは、外貨建ての販売価格を従来よりも安い値段で販売することを意味している。
すなわち、円安によって得た利益の一部を使って販売価格を値引きすることにより、海外市
場での販売量(輸出数量)を増やしていくことである。外貨建て価格を据え置いたままで輸
出数量が増えた場合、それは円安効果ではなく、外需の拡大による効果であると考えられる。
輸出数量が増えれば、企業の売上高が増加するばかりでなく、国内生産量も増加するので、
景気の押し上げに寄与することになる。それでは、今後は期待通りに値引き販売によって輸
出数量が増えていくのだろうか。
図表5は、現地通貨建ての輸出物価指数、円建ての輸出物価、円/ドル相場を、2005 年 1 月
時点を 100 として指数化したものである。これをみると、外貨建ての輸出物価はほとんど変
化していない。たとば、1 万ドルで輸出されていた製品は、その後も 1 万ドルで輸出されてい
るのである。一方、円建ての輸出物価は、円/ドル相場と連動して動いており、円高に進むに
つれて低下している。これは、最近の円高局面において、輸出企業が円高による利益の目減
り分を外貨建て価格に十分に転嫁していない(値上げしていない)ことを意味している。
図表6にある通り、輸出企業の採算ラインは平均で 1 ドル=84 円程度(2012 年度)である
ことから判断すると、輸出企業は 80 円を割り込む円高が続いた状況の中で、採算ギリギリや
採算割れの状態で輸出を続けていたことを示している。このため、輸出についてはこれまで
相当の赤字を計上してきたと考えられる。現在の円安水準は、輸出してもようやく採算が取
れるようになってきたということであり、積極的に値引き攻勢をかけられる状態ではない。
累積した赤字を取り戻すのはこれからであり、十分な値引き原資が確保されているわけでは
ないのだ。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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05 06 07 08 09 10 11 12
輸出物価(円建て)
輸出物価(外貨建て)
円/ドル
(出所)日本銀行ホームページ (年、月次)
(2005年1月=100)
83.9 84.1
91.9
88.0
82.3
81.3
85.5
90.2
82.5
87.8
83.6 83.2 83.3 82.4
85.3
75
80
85
90
95




























































(円/ドル)
(出所)内閣府
「企業行動に関するアンケート調査」
もちろん、すでに指摘したように、輸出数量を増やしていこうとしても国内の生産能力に
限界があるという問題も抱えている。
このように考えると、円安による輸出数量の急増という期待は、あまり膨らませない方が
よさそうである。
図表5.輸出物価と円/ドル相場の動向
図表6.企業の輸出採算レート(2012 年年度)
B国内製品の価格競争力の向上〜国内で代替生産が増加するのか
これまで円高によって安く海外から流入していた輸入品については、円安によって国内品
との価格競争力が低下することになる。このため、輸入品が減少し、その代替品の国内生産ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11
消費財
生産財
全体
(年度)
(%)
(注)輸入浸透度=(輸入指数×輸入ウェイト)÷(総供給指数×総供給ウェイト)
(出所)経済産業省「鉱工業総供給表」
が増加すれば、景気にとってプラスに寄与する。
それでは、具体的にどのような製品の国内生産が増加すると考えられるのだろうか。まず、
家電製品などの逆輸入品や部品類は、生産拠点の海外移転の結果や、為替リスク軽減の目的
で海外調達に切り替えているものであり、円安になったとしてもすぐに輸入が増加するもの
ではない。さらに、繊維製品、軽工業品、雑貨類などは、そもそも競争力を失って海外に生
産を移転するか、日本企業が生産から撤退した製品である。短期間のうちに国内生産が復活
するとは考えづらい。
そうであれば、実際には輸入品から国内生産に切り替えることは簡単ではないうえ、現状
程度の円安では依然として価格競争力が劣っている可能性がある。日本経済は、付加価値の
低いものについては国内での生産をあきらめ、輸入品に頼る構造になっており、輸入浸透度
は着実に上昇している(図表7)。こうした構造をすぐに変化させることは難しく、輸入品の
価格が上昇しても、必要なものは引き続き輸入に頼らざるを得ないのである。
図表7.着実に高まる輸入浸透度
C日本経済は円安メリットを享受しづらくなっている
以上述べてきた以外にも、円安が景気に及ぼすメリットとして、外国人観光客が増えるこ
とが挙げられる。また、外貨建て配当金を円換算したときに手取りが増加することになるが、
それが設備投資などに使われなければ景気への影響はない。さらに、輸出企業の業績が好転
することで、下請け企業などに値下げ圧力がなくなる可能性がある。この場合、企業マイン
ドの改善につながるが、値上げさせてくれなければ実態面では何も変わらない。
このように、円安が進んでも、日本経済は徐々にメリットを享受できなくなっていること
がわかる。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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10
輸入物価指数(左目盛)
国内企業物価指数(右目盛)
(前年比、%)
(出所)日本銀行「企業物価指数」 (年、月次)
(前年比、%)
(3)円安のデメリット〜誰がコストを負担するのか?
次に、円安による景気へのデメリットについて考えていこう。
様々な経路を通じて影響があったメリットと比べると、デメリットについては、外貨建て
輸入を円換算した時のコストが増加するという一点に集約される。問題となるのは、誰がそ
のコストを負担するかであり、それによって実体経済への影響度合いが変わってくる。
@企業の負担〜企業業績の悪化要因
最近の円安に加えて、原油価格などの国際商品市況が上昇傾向にあることから輸入物価に
上昇圧力がかかっており、2 月の輸入物価指数はすでに前年比+13.2%まで上昇している(図
表8)。3 月になっても円安傾向が続いており、今後も伸び率が高まると予想される。一方、2
月の国内企業物価は同−0.1%と引き続きマイナス圏内にあり、川下への波及効果が遅れてい
るが、いずれ伸び率はプラスに転じるであろう。
図表8.輸入物価指数と国内企業物価
こうしたコストの増加分は、まずは企業部門で負担されることになる。これまでも企業、
中でも製造業では輸入物価の上昇を十分に販売価格に転嫁することができておらず、売上原
価の増加が業績を圧迫する材料になってきた。製造業の交易条件指数(産出価格÷投入価格)
の推移をみると、最近ではリーマン・ショック後の国際商品市況の下落と円高によるコスト
の減少を背景に低下に歯止めがかかっているが、過去と比べると水準は低いままである。今
後は輸入物価の上昇を受けて再び低下していく可能性があり、その結果として限界利益率の
低下が進むと考えられる(図表9)。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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交易条件(製造業、左目盛)
限界利益率(右目盛)
(2010年=100)
(注)交易条件は1年先行、限界利益率は4四半期移動平均
(出所)日本銀行「企業物価指数」、財務省「法人企業統計」
(年、四半期)
(%)
95
97
99
101
103
105
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
17.0
17.5
18.0
18.5
19.0
交易条件(非製造業、左目盛) 19.5
限界利益率(右目盛)
(2010年=100)
(注)交易条件は1年先行、限界利益率は4四半期移動平均
(出所)日本銀行「企業物価指数」、財務省「法人企業統計」
(年、四半期)
(%)
図表9.交易条件と限界利益率の推移(製造業)
一方、非製造業については、販売価格の低下が続いているが、それを上回ってコストが低
下してきたため、図表 10 にあるように限界利益率は上昇傾向にある(製造業と同様、リーマ
ン・ショック後の国際商品市況の下落と円高によるコストの減少がその背景にある)。企業物
価を投入価格、消費者物価指数を産出価格として、非製造業の交易条件を想定すると、比較
的高い水準で横ばいとなっている。しかし今後は、国内企業物価の上昇が見込まれるなどコ
ストの増加が予想され、販売価格に転嫁できなければ限界利益率の低下を通じて、業績を圧
迫する材料になるであろう。
図表 10.交易条件と限界利益率の推移(非製造業)ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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07 08 09 10 11 12 13
最終財(企業物価指数・消費財)
財(消費者物価指数)
(前年比、%)
(出所)日本銀行「企業物価指数」 (年、月次)
-3
-2
-1
0
1
2
3
07 08 09 10 11 12 13
エネルギー寄与度
食料寄与度
消費者物価指数(総合)
(出所)総務省「消費者物価指数」
(前年比、%)
(年、月次)
A家計の負担〜個人消費の減少要因
企業がコスト増加を負担せざるを得ないとはいえ、ある程度は最終消費者にも負担が転嫁
されることになる。中でもガソリン、電気料金といったエネルギー価格、多くの輸入品を材
料とする食料品価格は、工業品と異なり製造工程が複雑ではなく、製造コストに占める原材
料費の割合が高いため、固定費などのコスト削減効果を得づらく、輸入価格の上昇が最終財
の価格にも反映されやすい(図表 11)。
実際に消費者物価指数の動向に影響を及ぼす企業物価指数の最終財(国内品に加え輸入品
も含まれており、消費者物価指数の財により近い段階の企業物価である)の動きをみると、
すでに 2008 年に近い伸び率にまで高まっており、今後消費者物価指数の押し上げ要因として
確実に効いてくるものと思われる(図表 12)。
図表 11.エネルギー、食料の消費者物価指数への寄与度
図表 12.最終需要財(企業物価指数の消費財)と財(消費者物価指数)ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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実質雇用者報酬
名目雇用者報酬
(兆円)
(出所)内閣府「四半期別GDP速報」 (年、四半期)
56
58
60
62
64
66
68
70
72
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
-8
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-4
-2
0
2
4
6
8
10
12
労働分配率(左目盛)
名目雇用者報酬(右・逆目盛)
(%) (前年比、%)
(年、四半期)
(注1)労働分配率は後方4四半期移動平均
(注2)労働分配率=人件費÷(人件費+経常利益+支払い利息・割引料+減価償却費)
(出所)財務省「法人企業統計」、内閣府「四半期別GDP速報」
こうした消費者物価の上昇は、実質所得の減少を通じて個人消費にマイナスの効果をもた
らせる。図表 13 は、名目、実質の雇用者報酬の動きをみたものである。名目雇用者報酬は、
リーマン・ショックをきっかけとして急減し、その後の回復もわずかにとどまっている。一
方、実質雇用者報酬は、いったん水準は切り下がったものの、物価下落の恩恵により増加基
調に転じ、2012 年 7〜9 月期には過去最高額に達している。
名目雇用者報酬は、一部の企業で賃上げの動きがあるものの、企業の人件費を増加させる
ことには慎重な企業が大半を占める状況下では、順調な増加は期待できない。このため、物
価が上昇することにより、実質雇用者報酬も今後は減少基調に転じる可能性が高い。特に 2014
年度に消費税率が引き上げ時に消費者物価が上昇すると(上昇幅は、課題対象品目の構成比
から判断して前年比で+2%程度と見込まれる)、減少幅が拡大すると思われる。労働分配率
との関係で考えれば、名目雇用者報酬が増加していくためには、企業利益の回復が進んでか
らとなると考えられ、今しばらくは時間を要しそうだ(図表 14)。
図表 13.雇用者報酬の推移
図表 14.労働分配率と名目雇用者報酬ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
外貨建て輸出
外貨建て輸入
(兆円)
(注)貿易取引通貨比率をもとに試算
(出所)財務省「外国貿易概況」、「貿易取引通貨比率」
(年、四半期)
(4)円高と円安のどっちが徳なのか?
以上みてきたように、円安のデメリットについては、その負担が企業に偏れば業績悪化を
通じて、設備投資の抑制や賃金・雇用の削減につながり、景気にマイナスの影響をもたらせ
る。また、負担が家計にしわ寄せされることになれば実質所得が低下し、それが消費行動を
抑制することで景気にマイナスとなる。企業と家計の負担比率がどの程度となるのかは状況
によるであろうが、いずれにしても円安による輸入物価の上昇は、国民所得の減少という形
で景気を押し下げる要因となる。一方、円安のメリットの項で述べたように、輸出企業にと
っては所得の増加をもたらせ、それをどう使うかによって景気へのプラス効果が変わってく
る。
そう考えると、「景気にとって、円安のメリットとデメリットのどちらが大きいのか」とい
う問題は、「円安によってネットで所得が増えるのか、それとも減るのか」と言い換えても大
きな違いはなさそうである(正確には、これまで述べてきたように、名目所得の変化によっ
て生産、と水、消費などの実質値がどの程度影響を受けるかによって、実質GDP成長率へ
のインパクトは決まる)。
一見すると、貿易赤字国に陥っている日本の現状においては、輸入品を安く購入できた方
が所得の流出を防ぐことができるため、円高の方が得であると思えるが、はたしてそうだろ
うか。それというのも、貿易取引には円建てのケースと外貨建てのケースがあり、為替レー
トの変動が所得の増減に影響するのは外貨建て取引に限られるためである。
そこで、外貨建て輸入額と外貨建て輸出額を比べてみると、輸入が輸出を上回る状態が 2005
年頃から続いていることがわかる(図表 15)。これは、円高が進んだ方が国民所得にとってメ
リットが大きいということである。特に、東日本大震災以降は、発電のためのエネルギー輸
入、中でもLNGの輸入が増加しており、以前にも増して円高のメリットが拡大していると
考えられる。
図表 15.外貨建て輸出入の推移ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
14/17
なお、残りの円建てでの貿易取引部分は、為替変動リスクを貿易の相手方が負っていると
いうことである。このため、円高になれば、日本へ輸出している外国企業にとっては手取り
が増加し、日本からの輸出先である外国企業にとっては日本の製品を買うときのコストが増
えることになる。したがって、円高になれば、日本の輸出を抑制し、輸入を促進する要因と
なり、ネットで国民所得を流出させる、つまり外貨建て取引とは逆の効果をもたらせること
になる。ただし、円建て取引は海外現地法人との場合も多く、この場合には輸出入への影響
は限定される。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
15/17
(5)なぜ円安をメリットと感じてしまうのか?
これまで述べてきたとおり、円安は景気にとってプラスとの連想がはたらきがちであるが、
必ずしもプラス効果ばかりではない。むしろ、国民所得の観点からはマイナス要因であり、
特にエネルギー輸入量が増加し、貿易収支が赤字に転落している現状では、円安のデメリッ
トの方が大きいといえる。しかも、円安に転じたことで、すぐに景気にプラス効果が広まる
わけでもなさそうだ。
それなのになぜ、多くの人は円安をメリットと感じ、円安を歓迎するのだろうか。その原
因として、以下の 3 点が考えられる。
@企業業績に現れるまでの時間差の存在
一般に、輸出企業は売上として得た外貨を手元に保有している。このため、円安になれば
円換算額が即座に変動する。すなわち、売上高が膨らみ、自動的に利益が押し上げられるこ
とになる。
一方、輸入企業は、手元に保有している資金は基本的には円である。輸入代金を決済する
にあたって必要な額の外貨を手当てし、支払いに当てることになる。つまり、円安になって
も売上高に変動はなく、すでに輸入済みのものについては安い値段で仕入れたものであり、
とりあえず利益が減ることはない。また、今後、コストが増えてきても、販売価格に転嫁で
きれば業績の悪化を緩和することができるかもしれない。将来的なコスト負担は着実に増え
ていくため、いずれ利益は減少していくことになるが、業績が悪化するまである程度のタイ
ムラグが存在する。
このように、円安になれば輸出企業の売上高が即座に膨らむ一方、輸入企業ではコストが
増えるという形で緩やかに業績に影響する。このため、円安になった方が景気にとってプラ
スであるかのようにみえてしまうのだ。
A円高デメリットは特定企業に集中、円安デメリットは広く薄く負担
円高のデメリットは、自動車工業や精密機械工業などの特定の業種や企業に集中して現れ
ることになる。これらの輸出企業は、資材や部品を主として国内での調達に頼っているとい
う特徴や輸出比率が高い傾向があり、円高による売上高の目減り分を海外製品の調達コスト
の削減などで補いづらい体制になっている。一方、同じ製造業であっても、電気機械工業な
ど海外への事業展開が進んだ企業については、為替の影響を中立にしていることはすでに指
摘したとおりである。
もっとも、こうした円高に弱い輸出企業でも円高のメリットを得ることはできる。たとえ
ば、電気料金などエネルギー・コストが低下する、一部の部材が国内で安く調達できるよう
になる、などが挙げられよう。しかし、こうしたメリットを享受できるまでには時間が必要
である。また、直接的にメリットを得ることは難しく、円高メリットを得た企業から間接的ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
16/17
にメリットを分配してもらうことになる。具体的には、円高メリットを得ている鉄鋼メーカ
ーに対し、自動車メーカーが鋼板の値下げを要請し、受け入れられるといったケースである。
このため、値下げ交渉を進めるにあたって、円高のデメリットを強く主張する必要がある。
これに対し、円安のマイナスの影響は、多くの企業や家計で分担することになる。たとえ
ば、電力料金、ガソリン価格の上昇は利用者全体に幅広く悪影響を与えることになるが、そ
の分、一人当たりの負担が軽くなる。このため、多少電気料金が上がっても、それを痛感す
る人が少なくて済むのである。
このように、円高のデメリットが特定の企業に偏って現れる半面、円安のデメリットは日
本全体で広く薄くカバーすることになるため、円安になった方が景気にとってプラスである
かのようにみえてしまうのだ。
B円高デメリットは価格転嫁しづらいが、円安デメリットは受け入れざるを得ない
世界的なシェア、付加価値、専門性などが高く、他では代替が効かないような、いわゆる
非価格競争力が高い輸出品であればともかく、多くの場合は円高が進んでも目減り分を輸出
価格に転嫁することは容易ではない。中でも、韓国や中国などの新興国の輸出と国際市場で
競合する自動車、電気機械、鉄鋼、化学、造船などの分野では、値上げできないばかりか、
競争相手国の通貨安が進んでいる場合には値下げ攻勢に直面することになる。このため、輸
出の危機という形で円高のデメリットが強く認識されることになる。
一方、円安になった場合、日本は輸入に頼らざるを得ないものが多いため、輸入コストが
上がっても輸入量はそう簡単には減少しない。原油、LNGといったエネルギーや、小麦、
大豆といった食料品が典型的な例であり、価格によって輸入数量を増減させるのではなく、
輸入数量を確保することが重要となる。このため、供給側はコスト増加分を国内販売価格に
転嫁しやすく、需要側もこれを受け入れざるを得ない(ただし、輸出と比べて相対的に転嫁
しやすいだけであり、需要量の減少につながる懸念があるため、実際には十分に転嫁するこ
とはできていない)。さらに、最終的に輸出品に組み込まれる素材や部品といった生産財につ
いては、輸出時の円安メリットと相殺されるので、企業業績への影響は軽微である。
このように、円高時に輸出価格に転嫁しづらい半面、円安時には国内販売価格への転嫁が
ある程度進むため、円安になった方が景気にとってプラスであるかのようにみえてしまうの
だ。
それでは、円高になればなるほど日本経済にとってメリットが拡大するかといえば、そう
でもない。行き過ぎた円高が定着すると、本来、淘汰されるべきではない輸出産業も淘汰さ
れてしまうリスクがあるためである。いくら非価格競争力を高めて対抗していくといっても
限界はあり、1 ドル=70 円台半ばの円高水準は多くの輸出企業にとって限界を超えていたと
考えられる。ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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しかし、円安に転じたことで、すぐに景気へのプラスの効果が広まると期待することも、
楽観的過ぎる。むしろ、エネルギー輸入量が増加し、企業の円高への対応が進んでいる状況
下では、円安によるマイナス効果が次第に高まってくると考えられる。
(小林 真一郎)
− ご利用に際して −
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http://www.iti.or.jp/kikan91/91tanaka_n.pdf

季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●65
EU の財政規律とドイツの財政
田中 信世 Nobuyo Tanaka
(一財) 国際貿易投資研究所 客員研究員
研 究 ノ ー ト
要約
EU の財政規律は欧州債務危機の深刻化を受けて大幅に強化された。財
政赤字基準の順守を定めた EUの安定成長協定(SGP)の運用を厳格化す
るとともに、ユーロセメスターの導入により、加盟国の財政政策などの事
前の調整が図られることになった。また、2013 年 1 月には協定参加国の
財政の均衡を義務付ける財政協定も成立した。ドイツは、EU の財政規律
の枠内で財政均衡を目指し、債務ブレーキ制度などの制度的な枠組みの整
備をいち早く行うとともに、「将来のための財政再建パッケージ」などの
財政赤字削減策を進めている。その結果、ドイツの財政は 14 年には均衡
すると期待されている。しかし、ドイツが長期的に財政の均衡を維持する
ためには、欧州債務危機に対する資金負担問題や人口の高齢化に伴う歳出
増大への対応が大きな課題になるものとみられる。
ドイツはユーロ圏の主要構成国の
ひとつであり、主要構成国としての
立場から EU やユーロ圏内における
財政規律に向けた議論をリードして
いる。ドイツは他の加盟国と同様、
EU の財政規律を順守することが義
務付けられており、その財政政策は
EU の財政規律の目標達成に向けた
具体的な方策に重点が置かれている。
本稿では、2010 年のギリシャの財政
危機に端を発した欧州債務危機以降
大幅に強化された EU の財政規律に
http://www.iti.or.jp/66●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
ついて概観するとともに、財政規律
の目標達成に向けたドイツの財政政
策を概観する。
T EU の財政規律
1 安定成長協定の運用強化
ドイツのヴァイゲル財務相(当時)
の提唱で1997年に成立したEUの安
定成長協定(Stability and Growth Pact
=SGP)は EU 加盟国の財政規律の
ための枠組みを提供することを目的
としている。SGP では、93 年 11 月
発効の EU のマーストリヒト条約
(現リスボン条約)に定められた財
政赤字の 2 つの基準(単年度の財政
赤字が GDP 比 3%以下、公的債務が
同 60%以下)を順守することを加盟
国に義務付けるとともに、加盟国の
財政を監視することが取り決められ
た。
しかし、ギリシャなど一部の加盟
国の財政赤字が欧州債務危機を引き
起こしたことから、EU は SGP の運
用をより厳格化する必要に迫られる
ことになった。そのため、EU は経
済・財務相理事会(ECOFIN)など
で SGP 運用の見直しを行い、マクロ
経済の過度なインバランスを監視す
るための新たな手続きを導入するこ
とになった。
その結果、安定成長協定(SGP)
は 5 つの EU 規則と 1 つの指令(い
わゆるシックスパック「six-pack」)
によって 2011 年 12 月から運用が大
幅に厳格化された。財政赤字を予防
する観点から中期的な財政目標に大
きな力点が置かれるようになり、債
務比率を引き下げるための義務的な
要件が定められた。また、違反国に
対しては強化された制裁システムが
適用されることになり、ルールに違
反した加盟国に対しては、新たに設
けられた自動決定プロセスにより、
迅速かつ簡単に制裁を課すことが出
来るようになった。
SGP では、過剰赤字に陥った加盟
国に対して過剰赤字手続きがとられ、
同手続きは、予防措置と是正措置の
2 つの段階で進められる。
<予防措置>
予防措置では、まず各加盟国は長
期的な公的財政の持続性を確保する
ための財政ポジションを示す構造的
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●67
な財政赤字 ( 注 1 ) の中期目標
(medium-term objective;MTO)を
国内総生産(GDP)の 1%を超えな
いように設定することが要請される。
構造的な財政赤字が中期目標
(MTO)を上回った場合、当該国は
構造的赤字を年平均で GDP の 0.5%
削減する調整過程に入ることを約束
させられる。当該国が MTO または
MTO 達成に向けた調整過程から大
きく外れた場合、欧州理事会は、こ
れらの乖離を最長で 5 カ月以内に取
り除く方法を勧告することができる。
加盟国によって効果的な措置が取ら
れなかった場合、欧州理事会は、欧
州委員会の勧告に基づき加盟国に対
して制裁を課すことができる(欧州
理事会は欧州委員会の制裁勧告を特
定多数決によってのみ覆すことがで
きる)。欧州理事会で制裁が決定され
ると、当該国は GDP の 0.2%に相当
する有利子の預託金を支払われなけ
ればならない。
<是正措置>
是正措置は、財政赤字の GDP 比
3%という基準値への違反が明らか
になったときに発動される。また、
公的債務の是正措置は、加盟国の債
務が、a)GDP 比 60%の基準値を超
えたとき、b)過去 3 年間に基準値か
らの超過が年平均で少なくとも 20
分の 1 削減されなかった場合、ある
いは c)加盟国が債務比率の削減を
前年およびその後の 2 年間に行うこ
とが困難と欧州委員会がみなした場
合に発動される。
加盟国には是正措置が開始された
時点で制裁金が課される。まず、予
防措置のもとで課された有利子の預
託金が無利子の預託金に転換される。
さらに欧州理事会の勧告に沿って有
効な措置が取られなかった場合には
GDP の 0.2%に相当する罰金が課さ
れる。制裁は欧州委員会の勧告に基
づき欧州理事会が決定する。その後
も加盟国が有効な措置を取らず赤字
が拡大した場合は、GDP の 0.5%以
下の罰金が課される。
安定成長協定(SGP)における過
剰赤字手続きの発動要件および発動
後のプロセスは以上のとおりである
が、欧州委員会の資料によれば、現
在、EU において過剰赤字措置が進
行中の国は、欧州債務危機の発端と
http://www.iti.or.jp/68●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
なったギリシャをはじめ、アイルラ
ンド、ポルトガル、スペイン、イタ
リア、キプロスなど EU27 カ国中実
に 20 カ国に及んでいる。
本稿第U章で取り上げるドイツに
ついては、欧州理事会が 2003 年と
09 年の 2 回、過剰赤字の決定を下し
たが、いずれもその後の財政収支の
改善により、過剰赤字の存在を取り
消す決定が行われており、現在進行
中の過剰赤字手続きは存在しない。
2 EU/ユーロ圏の財政政策の
調和
1)欧州セメスターの導入
上記のような安定成長協定(SGP)
の運用強化と並行して、EU 加盟国
の経済・雇用・財政政策をより効率
的に調整する目的で 2011 年に導入
されたのが欧州セメスターである。
その狙いは次年度の加盟国の財政
のあり方について早い段階で議論し、
加盟国の次年度予算を欧州の状況に
合わせることにある。すなわち、欧
州セメスターは、以前はばらばらに
行われてきた加盟国の財政政策を暫
定的に調整し統合するとともに、10
年 6 月に採択された EU の成長戦略
「Europe 2020」に沿って構造政策を
調整することを目的としている。
その手順は以下のとおりである。
毎年 3 月、欧州理事会は、欧州委員
会と閣僚理事会が作成した水平的な
経済政策、雇用政策および財政政策
のガイドラインを採択する。4 月に
加盟国はこのガイドラインに基づい
て、安定/収れんプログラムと国別
改革プログラムを作成し欧州委員会
に提出する。
これを受けて欧州委員会は各国の
プログラムに盛り込まれた政策に対
する勧告のドラフトを作成する。こ
れらは関係する閣僚理事会(安定/
収れんプログラムは主として
ECOFIN)で議論され、必要な場合
には修正される。最終的な各国別の
勧告は ECOFIN と雇用・社会政策・
健康・消費者問題相理事会(EPSCO)
で採択され、6 月末に欧州理事会で
承認される。
加盟国は自国の予算案を作成する
ときには、この勧告を考慮に入れな
ければならないことになっている。
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●69
2)新たな協定の締結
<ユーロプラス協定>
2010 年春のギリシャ財政危機に
端を発した欧州債務危機が深刻化す
る様相を呈したことから、ユーロ圏
諸国は、既存の EU の経済ガバナン
ス(Europe2020、欧州セメスター、
安定成長協定など)への取り組みの
強化にとどまらず、優先度の高い政
策分野でも一層の協調を強める必要
に迫られた。その結果、ユーロ圏諸
国と非ユーロ圏 6 カ国(注2)の首脳は
11 年 3 月の欧州理事会で「ユーロプ
ラス協定;競争力と収れんのための
経済政策の協調の強化」を採択した。
この協定はドイツのメルケル首相
の提唱によるもので、協定では、優
先度の高い政策分野として、@競争
力の強化、A雇用の促進、B財政の
持続可能性の強化、C金融市場の安
定強化、の 4 分野を挙げ、それぞれ
について取り組み方針を示している。
この協定に基づき協定参加国は、
これらの分野で具体的な対策をとる
ことになり、取り組み内容を「安定
/収れんプログラム」や「国別改革
プログラム」に盛り込むことになっ
た。
<財政協定>
さらに EU はその後も欧州債務危
機の一層の深刻化に直面したことか
ら財政規律のさらなる強化を迫られ
ることになった。英国とチェコを除
く EU25 カ国は、2012 年 3 月に新た
に政府間協定として財政協定(正式
名称は「経済通貨同盟の安定・協調・
ガバナンスに関する条約」)を締結し、
協定は 13 年 1 月発効した。
協定の目的は、締結国において協
定の内容を国内法化し、これをベー
スに財政の均衡を実現して経済通貨
同盟安定のための条件をつくり出す
ことにある。同協定の主な内容は以
下のとおりで、SGP と比べてより一
層厳しい内容となっている。
@協定に参加する国は、財政均衡も
しくは財政黒字が求められる。
Aただし、GDP 比 0.5%以下の構造
的財政赤字(公的債務比率が GDP
比 60%以下の場合は同 1%以下)
は認められる。この均衡財政ルー
ルからの一時的な逸脱は、急激な
景気下降といった例外的な経済環
境の場合にのみ認められる。
B参加国が均衡財政ルールから外れ
た場合には、自動是正メカニズム
http://www.iti.or.jp/70●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
が発動される。参加国は決められ
た期間内に逸脱を是正しなければ
ならない。
C参加国は財政規律のための義務規
定や自動是正メカニズムを国内法
制(できれば憲法レベル)に組み
込まなければならない。国内法制
化の期限は、協定発効から 1 年以
内である。
D欧州委員会は、加盟国が協定発効
後 1 年以内に国内法で新財政規則
を制定したかどうかについて監視
する。国内法で新財政規則が制定
されない場合、欧州司法裁判所が
当該国で国内法化が行われなかっ
たことを確定する。欧州司法裁判
所に対して控訴が行われない場合、
当該国に GDP の 0.1%を超えない
罰金が課される。
E赤字基準が順守されない場合、過
剰赤字手続きの開始およびそれ以
降の決定は、自動的に行われる。
なお、協定の法的拘束力は、ユー
ロ圏諸国については発効日から、ユ
ーロ圏外の EU 加盟国についてはユ
ーロ導入後に発生する。
3)ユーロ圏諸国・EU 加盟国によ
る安定/収れんプログラムの
提出
欧州委員会の資料によれば、安定
成長協定(SGP)の予防手続きの下
で、ユーロ圏諸国は中期的な財政戦
略を盛り込んだ安定プログラム(ユ
ーロ圏以外の EU 加盟国は収れんプ
ログラム)を作成し、欧州委員会お
よび経済・財務相理事会(ECOFIN)
に提出することが義務付けられてい
る。
安定/収れんプログラム作成の狙
いは、ユーロ圏諸国および EU 加盟
国の財政政策の監視と調整を通じて
より厳格な財政規律を確保すること
にある。
加盟国が作成する安定/収れんプ
ログラムには、@長期的な公的財政
の持続性を確保するための財政的ポ
ジションを示す構造的財政赤字の中
期目標(MTO)および MTO が達成
されるまでの年次別の目標数値、お
よび公的債務の GDP 比の削減過程、
Aプログラムの目標を達成するため
の政策の内容と評価、などの情報が
含まれなければならないとされてい
る。
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●71
一方、欧州理事会は、加盟国から
の安定/収れんプログラムの提出を
受けて、その内容を検証し、欧州委
員会と経済・財政委員会(Economic
and Financial Committee=EFC)によ
る評価をベースに意見をとりまとめ
て各加盟国に伝える。また欧州理事
会は、必要に応じて当該国が取るべ
き政策やアクションを提案する。
U ドイツの財政と財政政策
1 安定プログラムで財政目標
の達成を明記
第T章で述べたように、ユーロ圏
諸国は安定成長協定(SGP)の予防
手続きの下で、「安定プログラム」の
提出を義務付けられている。ドイツ
は「12 年版安定プログラム」を 12
年 4 月に閣議決定した。この中でド
イツは、安定プログラムの中に盛り
込まれた一連の財政政策を遂行する
ことによって、欧州およびドイツが
定めた財政目標を完全に達成するこ
とになるとしている。そして、SGP
の運用強化や財政協定の発効などに
加えて、独自の財政政策によって、
ドイツは欧州経済通貨同盟の安定に
重要な貢献をするとしている。
以下に、「2012 年版安定プログラ
ム」により、ドイツの財政規律の達
成状況や今後の見通し、ドイツが実
施している財政政策などについて概
観しよう。
安定プログラムでは、まず、ドイ
ツの財政規律の達成状況および今後
の見通しについて次のように述べて
いる。
ドイツの財政赤字は、債務ブレー
キ制度をはじめその他の財政強化策
の導入により、2011 年にすでに、
GDP 比で 1%と前年に比べ 3.3%ポ
イント改善し、「11 年の財政赤字を
GDP 比 3%以下にする」というユー
ロプラス協定の下での自発的なコミ
ットメントをクリアした。一方、安
定プログラムに盛り込まれた 12 年
の自発的なコミットメントは「12 年
の構造的な赤字を GDP 比で 0.5%以
下にする」という中期目標(MTO)
を達成することである。安定プログ
ラムでは、12 年に GDP 比 0.5%とい
う中期目標(MTO)を満たすことは
可能であり、14 年からは構造的な財
政収支も一般財政赤字もほぼ均衡す
http://www.iti.or.jp/72●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
ることになろうとの見通しを示して
いる。
一方、安定プログラムは、公的債
務の GDP 比も 12 年の 82%から 16
年には 73%へと大幅に縮小するこ
とになろうとしている。
表1 ドイツの公的部門の財政収支の推移
2011 2011 2012 2013 2014 2015 2016
財政収支
(10億ユーロ)
GDP比(%)
公的部門全体 -25.8 -1.0 -1 -1/2 -0 0 0
連邦政府 -27.0 -1.0 -1 -1/2 -1/2 -0 -0
州政府 -14.8 -0.6 -1/2 -1/2 -1/2 -0 -0
市町村 0.8 0.0 0 1/2 1/2 1/2 1/2
社会保障費 15.1 0.6 1/2 0 0 0 0
(出所)ドイツ連邦財務省、German Stability Programme, 2012 Update
表2 ドイツの債務比率の推移

(GDP比、単位;%)
2011 2012 2013 2014 2015 2016
2012 年 4月の予測 81.2 82 80 78 76 73
(出所)ドイツ連邦財務省、German Stability Programme, 2012 Update
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●73
上記のような安定プログラムに盛
り込まれた財政規律の目標の達成に
向けて、ドイツは財政均衡化に向け
た制度的な枠組み条件の整備をはじ
めとして、様々な財政政策を展開し
ている。
2 制度的な枠組み条件の整備
1)基本法で均衡財政を義務付け
EU の経済・財務相理事会
(ECOFIN)は、2009 年 12 月、EU
機能条約第 26 条に基づき、ドイツが
過剰赤字に陥っているとし、13 年ま
でに赤字を削減するよう要求した。
このため、ドイツは 09 年に憲法に
相当する基本法を改正して「連邦お
よび州の財政は、原則として、借り
入れによる収入なしに、これを均衡
させなければならない」(基本法 109
条 3 項 1 文)とする均衡財政を憲法
上義務づけた債務ブレーキ制度を実
現した。第T章で述べた EU の財政
協定における均衡財政ルールとその
国内法制(できれば憲法)への組み
込みの義務化は、このドイツの債務
ブレーキ制度をモデルにしたものと
されている。
制度的な枠組み条件の整備は持続
的で質の高い公的財政を達成するた
めの基本的な要素であり、将来の中
期財政目標(MTO)の達成を保証し、
EU の安定成長協定(SGP)に基づく
過剰赤字手続きを予防するうえでの
要となっている。
ただし、09 年に導入された債務ブ
レーキ制度は、制度の導入時にみら
れた経済・金融危機の財政に与える
深刻な影響を考慮して、連邦政府の
場合には 2015 年まで、州政府の場合
には 19 年までの暫定期間が設けら
れた。その結果、連邦政府は 10 年以
降毎年、構造赤字を GDP の約 0.3%
ずつ引き下げ、16 年以降は GDP 比
で 0.35%の上限が適用されることに
なった。
また、債務ブレーキ制度では自然
災害などの緊急事態のほか、「平常の
状態を逸脱する景気動向がある場合
も、好況および不況時における財政
への影響を対称的に(symmetrisch)
顧慮しなければならない」(基本法
115 条 2 項 3 文)という規定が設け
られた。
その方法について、基本法 115 条
2 項 5 文は「構造的」赤字幅の上限
http://www.iti.or.jp/74●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
を調整する方式(景気調整)による
としており、施行法では、「経済全体
の生産能力の活用過少または過多」
(GDP ギャップ)が予期される場合
に、均衡からの逸脱が認められると
規定し、「景気調整」は、次の計算式、
すなわち「GDP ギャップ(GDP−潜
在 GDP)×財政被影響性」で求めら
れるとしている(連邦財務省はこの
「財政被影響性」を基本的に 0.16 と
して計算)。こうした景気循環に関連
した例外規定により、景気循環に基
づく財政の悪化への対応が可能とな
っている。
一方、州財政の場合、各州は 2019
年までは、州法の規定に沿って、基
本法に定められた要件からの逸脱が
認められるが、基本法の規定により
20 年からは構造収支のバランスを
達成するように予算案を編成するこ
とが義務付けられている。各州は 10
年に記録された構造的な赤字額を
20 年までに段階的に等分に解消し
なければならないとされている。
その際、ドイツ 16 州のうち特に困
難な財政状況にある 5 州(注3)は合計
で年間 8 億ユーロの財政再建支援を
受けることが認められており、この
財政再建支援金は連邦政府と、5 州
を除いた残りの州が半分ずつ負担す
ることになっている。
2)安定評議会の創設
債務ブレーキ法の導入と並んで、
ドイツの連邦制度改革の一環として、
2010 年 4 月に、連邦と州の財政の長
期的な持続可能性を確保するための
第 2 の制度的な基盤である安定評議
会(Stabilitaetsrat)が創設された。
安定評議会は、連邦財務相および
各州の財務相と、連邦経済相で構成
され、主要な任務は、@連邦や州の
財政状況を定期的にモニターするこ
と、およびA財政上の非常事態が生
じた場合に財政を適切なレベルに修
復する措置について合意し、それに
より、B非常事態を回避して財政を
持続的な回復軌道に乗せることであ
る。
安定評議会は、10 年 10 月の会合
でベルリンなどの 4 州を財政的に非
常事態に陥る危険性のある州と認定
し、11 年 12 月の会合で、これら 4
州との間で 12〜16 年の財政再建プ
ログラムについて合意した。
財政再建支援を受けるこれらの州
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●75
は、赤字削減のために実施する措置
について事前に報告する必要があり、
また同意された赤字削減が行われた
ことを事後的に立証することが求め
られている。
3 多様な財政政策で財政均衡
の達成を後押し
1)将来のための財政再建パッケ
ージ
ドイツの財政政策の基盤づくりは
すでに2010年と11年に始められた。
その中心は 10 年に決定された「将
来のための財政再建パッケージ」
(Zukunftspaket)で、@航空機利用
者に対する利用税の新設、A環境税
における補助金の廃止、B子ども手
当ての引き下げ、C低所得者に対す
る住宅賃貸料補助金の暖房コスト部
分のカットなどを通じて、11 年から
の 4 年間で 800 億ユーロの財政赤字
削減をめざしたものである。
財政再建パッケージの狙いは、@
安定成長協定(SGP)を確実に順守
することであり、A09 年の基本法改
正による新財政規則を政府が順守す
るための条件を作り出し、16 年以降
の財政規則への完全かつ永続的な順
守のための条件を創造することにあ
る。
財政再建パッケージが策定されて
以降、特に@2011 年に閣議決定され
たエネルギーシフトや、A12 年に設
立されたユーロ圏の欧州安定メカニ
ズム(ESM)に対するドイツの資金
負担によって、追加的な財政負担が
生じた。しかし他の分野における財
政支出の圧縮などにより、14 年の財
政均衡の達成は引き続き可能とされ
ている。
各州もまた財政均衡に向けて進展
を示した。各州は 2011 年に財政赤字
を大幅に減らすために積極的な税収
増に取り組み、12 年も財政再建路線
を継続した。各州は財政政策の目標
達成に向けて持続的な努力を行うこ
とをコミットするとともに、遅くと
も 20 年までに基本法で定められた
「債務ブレーキ」を順守すべく努力
している。
2011 年にエネルギー戦略転換を
打ち出した連邦政府はエネルギーシ
フトに関連した活動をファイナンス
するため、エネルギー気候基金
(Energie- und Klimafonds=EKF)を
http://www.iti.or.jp/76●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
設立した。そして 12 年以降、温室効
果ガスの排出枠のオークションから
得られる収益はすべて EKF に繰り
入れられることになり、エネルギー
戦略のための政府の追加的な対策に
EKF 資金が使われることになった。
エネルギー戦略の重点はエネルギー
効率を高める施策と再生可能エネル
ギーの利用を拡大する施策に置かれ
ることになっている。
連邦財務省が作成した 2011〜16
年の中期財政計画において政府は、
成長を重視した財政再建という枠組
みの中で、歳出面でいくつかの優先
事項に目標を絞っている。
優先事項のひとつが「教育と研究」
であり、政府は教育と研究に 120 億
ユーロ以上の資金を投入することを
計画している。その結果、教育・研
究に対する高い資金援助の水準が
14〜16 年にも続くものと見られて
いる。これにより、R&D の GDP 比
3%への上昇に向けて連邦政府の貢
献が期待されており、また、各州や
民間企業も R&D 比率の上昇への貢
献が期待されている。
連邦予算に占める投資支出のシェ
アも今後増加するものと見込まれて
いる。政府は連邦の輸送ルートのた
めのインフラ加速プログラムを採択
し、輸送インフラ強化のために 12〜
16 年に総額 10 億ユーロの予算を手
当てしている。
2)欧州債務危機への対応も
ユーロ圏を安定させるための EU
の包括的な支援策へのドイツのコミ
ットメントも財政政策に組み込まれ
ている。
例えば、2012 年 2 月の条約で合意
され、同年 10 月に発足したユーロ圏
の常設の金融支援機関「欧州安定メ
カニズム」(ESM)への対応が挙げ
られる。ESM は金融困難に陥ってい
るユーロ圏諸国に、厳格な条件の下
で支援を行う機関である。ESM によ
る支援の裏付けとなる資金規模は前
身の欧州金融安定基金(EFSF)と合
わせて総額7,000億ユーロにのぼり、
うち 800 億ユーロがユーロ圏諸国か
らの払込資本金( eingezahltes
Kapital)、残り 6,200 億ユーロが償還
可能な資本金(abrufbares Kapital)で
ある。
ESM設立条約には、危機国の安定
化に向けた支援方法として、次の 4
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●77
つが明記されている。
@危機国への直接融資。
A危機発生予防のため、問題国に対
する信用枠の設定。
B危機国銀行への資本注入。
C国債の発行市場や流通市場での購
入。
ドイツ連邦財務省の資料によれば、
ユーロ圏諸国の ESM への出資は欧
州中央銀行(ECB)への出資比率に
準じて行われることになっており、
ドイツの ESM への出資比率は
27.1464%である。すなわち、ESMに
対するドイツの負担は支払い資本金
が約 220 億ユーロと償還可能資本金
が約 1,680 億ユーロ、合計 1,900 億ユ
ーロということになる。ESM 設立条
約によりドイツの負担は「“いかなる
場合も”1,900 億ユーロを超えること
はない」とされている。
資本金は 5 回に分けて振り込むこ
とになっており、このうち 2 回分は
12 年に払い込まれた。その後 13 年
に 2 回、14 年に最後の 1 回分が振り
込まれる予定である。
4 ドイツの安定プログラムに
対する欧州委員会の勧告
ドイツが提出した 2012 年安定プ
ログラムに対して、欧州委員会は 12
年 5 月に「2012〜13 年の期間に取る
べきアクションについての勧告」文
書を作成し欧州理事会に提出した。
同勧告文書に盛り込まれた主要な内
容は以下のとおりである。
1.2012 年までに中期財政目標を達
成するための健全な財政政策を
継続する。健康保険および長期介
護への公的支出の効率を高める
追加的な努力を行い、税制度の効
率を改善する。一方、教育・研究
など経済成長を高めるための支
出を増やすなど、経済成長と財政
再建の両立を目指す。
すべての州において、適切な財
政監視手続きと是正メカニズム
を実施することによって、債務ブ
レーキを着実に実施する。
2.金融部門に残る構造的な脆弱性の
克服に取り組む。特に、州立銀行
の成長ビジネスモデルに十分な
資金を提供することによって更
なる構造改善を行う。
http://www.iti.or.jp/78●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
3.財政に中立的な方法で低賃金所得
者の税負担を軽減する。そして、
特に長期の失業者に対して、適切
な活性化策や労働市場への統合
対策を維持する。また、生産性に
見合って給与を増やすための条
件をつくり出す。さらに、教育や
職業訓練への平等な機会提供を
通じて、特に不利な条件の人々の
教育水準を引き上げる。副次的な
所得者に対する金銭的な意欲阻
害要因を段階的に取り除き、全日
制の託児所や学校を増やす。
4.電力やガスネットワークの国内お
よび国境を越えた拡大を加速す
るなど、エネルギーシフトに伴う
コストを最小限にする努力を継
続する。
制度的な改革によって鉄道市
場で効果的な競争が確実に行わ
れるようにする。また、建設部門
や特定の手工業などのサービス
部門の競争力を高めるための政
策を実施する。
5 財政の持続性に向けた課題
(まとめ)
上記の欧州委員会の勧告文書の中
で指摘されている問題点に加え、今
後ドイツが健全財政を維持するうえ
で大きな課題になると思われるのは、
前述の欧州債務危機に対する資金負
担問題と今後急速に進展すると予測
されている人口の高齢化への対応で
あろう。
欧州安定メカニズム(ESM)への
資金負担では前述のように 2012 年
に 2 回分の払い込みが終わったが、
まだ 13 年と 14 年の支払分が残って
おり、今後のドイツ財政への圧迫要
因になるものとみられる。
ドイツの ESM への資金負担は、
前述のように ESM 設立条約では上
限の 1,900 億ユーロを超えることは
ないとされている。
しかし、現在小康状態を保ってい
る欧州債務危機が再燃した場合、危
機国からはドイツに対して負担の増
大を求める声が再び高まってくる可
能性も考えられる。ESM 設立条約で
は、加盟国の資金負担の変更など重
要事項の決定は、ESMの統括理事会
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●79
(締結国の財務相で構成)での全会
一致の決定によるとされており、ま
た統括理事会での重要事項の決定に
おいてドイツの財務相が意思表示を
行う場合、ドイツ連邦議会の事前の
承認が必要とされている。したがっ
て現行のシステムの下ではドイツが
これ以上の負担を迫られることは考
えにくいが、債務危機がさらに深刻
化した場合、ドイツがより一層の資
金負担について“政治的な決断”を
迫られるような局面が出てくる可能
性が全くないとは言い切れない。
高齢化社会への対応も深刻である。
ドイツの老齢人口比率(年金受給年
齢層の人口と生産年齢人口の比率)
は 2060 年までに顕著に上昇するも
のと予測されている。EU 統計局や
連邦統計局による人口推計によれば、
ドイツの老齢人口比率は 10 年の
30%を少し超えた水準から 60 年に
は59%と約2倍に上昇すると予測さ
れている。
EUが行ったモデル計算によると、
ほぼすべての EU 加盟国で高齢者関
連コストの顕著な上昇がみられ、07
年から 60 年にかけての高齢者関連
コストの増大は EU 加盟国平均で
GDP の 4.75%ポイントであった。こ
の数字は加盟国間でかなりのばらつ
きがあるが、ドイツの高齢者関連コ
ストの増加は EU 平均とほぼ同じ水
準である。
こうした高齢者関連コストの増大
に対処するためには、社会保障制度
の改革に加え、長期的な構造改革が
重要になる。
「安定プログラム」では、連邦政
府は社会保障制度の改革にすでに着
手したと述べている。公的年金に関
しては、受給年齢を 2012 年 1 月 1
日以降、29 年までに段階的に 67 歳
に引き上げることになった。これは
年金制度の持続性のかなりの強化を
もたらすと考えられている。加えて、
政府は企業年金を通じた追加的な積
み立て年金制度の確立やいわゆる
Riester 年金(国がスポンサーとなっ
た民間年金制度)を推進している。
公的健康保険制度については、政
府は 2011 年に「持続的で社会的に均
衡のとれた資金調達のための法律」
を通じてより健全な資金調達のシス
テムをつくったとしている。
さらに政府は介護保険の抜本改正
のための法案の審議に入っている。こ
http://www.iti.or.jp/80●季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91
の法案は、老衰を含む諸条件によって
苦しんでいる人びとにニーズに基づ
いた支援を提供し、長期的な家族の負
担を軽減することを狙いとしている。
このプロジェクトをファイナンスす
るために、長期介護に対する政府の寄
与率は 13 年初めに 0.1%ポイント引
き上げられた。長期的な介護が必要な
人に提供される任意個人保険も、現行
の積み立て年金制度とともに課税イ
ンセンティブをつけることによって
促進される予定である。
表3 ドイツの高齢者関連支出の長期見通し
2007 2020 2030 2040 2050 2060
支出(対GDP比、%)
年金支出(1
) 10.4 10.5 11.5 12.1 12.3 12.8
*保険料収入(2
) 7.2 6.9 7.8 8.3 8.4 8.6
健康保険支出(3
) 7.4 8.1 8.5 9.0 9.2 9.2
長期介護支出(4
) 0.9 1.2 1.4 1.8 2.2 2.4
教育関連支出(5
) 3.9 3.2 3.3 3.4 3.4 3.5
失業保険(6
) 0.9 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
前提条件
生産性上昇(%) 1.5 1.7 1.7 1.7 1.7 1.7
潜在成長率(%) 1.4 1.5 1.3 1.1 1.0 1.0
就業率(%)
−男性(15〜64歳) 82.1 83.9 83.2 83.3 82.9 83.0
−女性(15〜64歳) 70.2 74.1 75.3 77.0 76.5 76.5
失業率(%) 8.7 6.2 6.2 6.2 6.2 6.2
老齢者依存率(%) 29.9 35.3 46.2 54.7 56.4 59.1
総人口(100 万人) 82.3 81.5 80.2 77.8 74.5 70.8
65歳以上人口(100万人) 16.3 18.6 22.1 24.2 23.6 23.0
(1)法定老齢年金保険および公務員年金、(2)法定老齢年金保険、(3)法定健康保険、
(4)社会的長期介護、(5)連邦雇用エージェンシーによる教育支出を除く、(6)給与代替支払い
(出所)2009年版高齢報告書の中で提示された EUの経済政策委員会(EPC)
と欧州委員会(DG ECFIN)のモデル計算による(ドイツ連邦財務省、German Stability
Programme, 2012 Update)
http://www.iti.or.jp/EU の財政規律とドイツの財政
季刊 国際貿易と投資 Spring 2013/No.91●81
構造改革の面では、例えば、人口
の高齢化は生産年齢人口の減少をも
たらすため、長期的に熟練労働者の
供給を増加させるための更なる努力
が必要となる。競争力をさらに強化
するとともに、高齢者や女性の労働
参加をさらに増やし、長期的な失業
をさらに減らすための政策を実施す
ることも重要である。この点で、12
年初めに開始された年金受給年齢の
67 歳への段階的引き上げや幼児保
育の更なる拡大は高齢者や女性の雇
用率の上昇につながることが期待さ
れている。
また政府は、11 年から、既存の労
働市場政策をより効率的に活用する
ことによって、人々を雇用(特に社
会保険の支払いに結びつくような雇
用)に結びつけることを目指してい
る。そのほか、教育や職業訓練も、
特に高齢者の雇用促進や長期的な失
業対策に貢献することが期待されて
いる。
さらに政府は高い技能を持つ労働
者のドイツへの入国を増やすために、
移民法を改正し、高技能労働者に対
してドイツをより魅力的な国にする
ことも検討している。
(注 1)財政赤字は、税収や失業給付の増
減を通じて景気の好不況に応じて
変動する「景気循環的」財政赤字
と、景気循環的赤字部分を実際の
財政収支から取り除いた「構造的」
財政赤字の 2 つに分れる。景気循
環的な要因による赤字は、好況期
になれば税収が増え黒字化するが、
構造的な赤字は景気が良くなって
もなくならない。
(注 2)ブルガリア、デンマーク、ラトビ
ア、リトアニア、ポーランド、ル
ーマニアの 6カ国。
(注 3)ベルリン、ブレーメン、ザールラ
ント、ザクセンアンハルト、シュ
レスビヒホルシュタインの 5州。
http://www.iti.or.jp/

[削除理由]:この投稿に対するコメントとしては場違い。別の投稿にコメントしてください。
04. 2013年3月16日 08:50:53 : xEBOc6ttRg

日本銀行総裁 白川 方明
日本経済の競争力と成長力の強化に向けて
── 日本経済団体連合会常任幹事会における講演 ──1
1. はじめに
本日は、日本経済団体連合会常任幹事会でお話しする機会を頂き、誠に光
栄に存じます。話を始める前に、本連合会の会員企業の皆様には常日頃より
経済・金融の現状や政策運営に関し、様々な情報やご意見を頂いていること
に対し、心よりお礼を申し上げます。
本日は、私にとって、日本銀行総裁としての最後の講演となりますが、テ
ーマは、迷うことなく、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けて」とする
ことに決めました。と言うのも、競争力と成長力の強化こそが現在の日本経
済にとって最も重要な課題だと考えるからです。このテーマは日本銀行にと
っても極めて重要です。ご承知のように、日本銀行は先月の金融政策決定会
合において、金融政策の目的である物価安定について、その具体的な数値目
標を2%とすることを決定しました1。この「物価安定の目標」は、日本経済
の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組みが進展するという認
識に立った上で、導入したものです(図表1)。それだけに、そうした取り組
みが現実に進展するかどうかは、金融政策運営上、極めて重要です。以下で
は、マクロ経済的な視点、企業行動の視点、そして、経済政策の視点を意識
しながら、このテーマについて考えていることをお話ししたいと思います。
2. 経済政策の目的
現在、わが国の経済運営を巡って活発な議論が行われていますが、最初に、
経済政策の目的は一体何であるのか、我々は日本経済についてどのような状
態を実現したいのか、ということについて考えてみたいと思います。経済政
策の目的は、最終的には国民一人ひとりの生活水準の向上を図ることにある
ことは言うまでもありません。国民の生活の豊かさを測る単一の尺度は存在
1 「物価安定の目標」の導入を含め、2013 年1月 22 日の金融政策決定会合における決定内
容については、白川方明「中央銀行の役割、使命、挑戦」、日本記者クラブにおける講演、
2013 年1月 25 日を参照。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130125a.pdf 2
しませんが、近似的に言うと、国民一人当たりの消費水準、あるいはこれと
密接な関係がある実質GDPの水準を持続可能なかたちで高めることがマク
ロ経済政策の重要な目標です(図表2)。そう申し上げた上で、日本経済の置
かれた状況に則して経済政策のあり方を考える際には、もう尐しきめ細かな
議論が必要です。
第1に、急速な高齢化による労働人口減尐の影響を考慮する必要がありま
す。日本の実質GDPは、今もリーマン・ショック前の水準を下回っていま
すが、人口一人当たりの実質GDPをみると、欧州諸国と比べ、落ち込み幅
は相対的に小さくなっています(図表3)。さらに、生産年齢人口一人当たり
の実質GDPをみると、日本はリーマン・ショック前の水準を上回っており、
米国よりもパフォーマンスは良好です。「人口の減尐」は日本経済を語る時の
常套句であるにもかかわらず、景気論議においてはこの重要な事実は意外に
忘れられがちです。もちろん、四半期とか1年という期間ではどの数字でみ
ても大勢に違いはありませんが、日本経済の中長期的な経済政策のあり方を
考える時には、「一人当たり」という視点も重要です。
第2に、経済のグローバル化の進行という事実を踏まえる必要があります。
具体的に申し上げると、実質GDP(国内総生産)だけでなく、実質GNI
(国民総所得)もみていく必要があるということです。実質GNIは実質G
DPに以下の2つの調整を加えた所得概念です。ひとつは、わが国の居住者
が海外で稼ぐ所得です。2012 年の数字でみると、海外で稼ぐ所得は、14.3
兆円と、名目GDPの 3.0%であり、近年は対外証券投資に伴う収益に加え、
対外直接投資に伴う収益も増加しています(図表4)。もうひとつの調整は、
対外的な交易条件の変化に伴う実質的な購買力の変化です。近年は新興国経
済の高い成長を背景に資源価格が上昇していることなどから、日本の交易条
件は悪化方向にあり、交易利得、すなわち、交易条件の変化に伴う実質購買
力は減尐傾向にあります(図表5)。交易条件は資源価格だけでなく、日本企
業の輸出品の非価格競争力を通じた価格支配力によっても変化します。為替3
レートの変化、例えば、円安は輸出増加を通じて実質GDPを増やすととも
に、交易利得には逆方向に作用する場合があります。実質GNIへの影響は、
こうしたふたつの調整を加味したネットの効果に依存します(図表6)。2000
年を基準とすると、実質の海外所得の水準は、2012 年に約 2.5 倍にまで増加
し、2012 年の実質GDPを 2000 年対比で 1.9%押し上げました。一方、交易
利得は、5.8%押し下げ方向に作用しました。
第3に、名目GDPと実質GDPをどのように位置付けるべきかというこ
とも議論されます。この点、経済が持続的に成長する時には、両方とも増加
するため、中長期的に目指す政策の方向は異なりません。ここで申し上げた
いことは、両者の因果関係です。まず実質GDPが増加することによって需
給ギャップが逼迫し、これに伴う物価上昇の結果として、名目GDPは増加
するというのが基本的な因果関係です(図表7)。もちろん、石油ショックの
時のように、物価が先に変動するというケースもありますが、この場合は景
気が悪化し、我々が望んでいる姿とは違います。我々が経済政策で実現しよ
うとしているのは、実質GDPを高め、その結果として名目GDPが高まる
という状況です。
この点に関し、興味深いのは日本銀行が個人を対象に四半期毎に実施して
いる「生活意識に関するアンケート調査」です。この調査結果をみると、性
別・年齢別・職業別のいずれでみても、過去から一貫して、物価の上昇につ
いて8割程度の方が「どちらかと言えば困ったことだ」と答えています(図
表8)。この調査結果の背後には、物価が上昇しても賃金は増加しないかもし
れないという不安があります。多くの国民は単に物価が上がることを望んで
いる訳ではありません。給料が増加し、雇用も確保され、収益も増加すると
いう状態、つまり、経済がバランスよく改善し、その結果として物価の上昇
が実現する状態、これが国民が「デフレ脱却」という言葉で望んでいる姿の
実相です。
第4は、成長の果実をどう分配していくかという問題です。経済が成長す4
る上で市場メカニズムの果たす役割は大きいものがありますが、そうしたメ
カニズムを基本的には受け入れる社会としての価値観がその前提となります。
この点では所得分配の状況も重要な要素のひとつです。米国では、リーマン・
ショック前の景気拡大期、すなわち 2002 年から 2007 年にかけて、所得上位
1%の家計の実質所得が 86%、家計の平均所得も 20%伸びたのに対し、中位
所得、すなわち、所得の高低で並べて丁度中間に位置する家計の所得の伸び
は平均所得の伸びの半分である 10%にとどまっています(図表9)。所得分
配の状況は所得を稼ぐことのない高齢者の割合にも依存するため、単一の指
標で捉えることは困難ですし、また、わが国はここまで極端ではないでしょ
うが、中間所得層を中心に、バランスのとれた経済成長を実現していくべき
との問題意識は、世界的に高まっています。
3.競争力と成長力強化の必要性
以上の経済政策の目的に関する議論を踏まえた上で、次に、わが国の競争
力と成長力強化の必要性に話を移します2。
一国の経済成長率の動向はやや長い目でみると、資本ストックや労働力、
技術革新といった実体的要因、ないし供給サイドの要因に規定されます。こ
のことをいわゆる成長会計の枠組みで説明すると、成長率は就業者数の伸び
と就業者一人ひとりが生み出す付加価値、すなわち付加価値生産性の伸びに
分解できます(図表 10)。現在の男女別、年齢別の労働参加率を前提に、先
行きの就業者数の伸びを機械的に計算しますと、年平均で 2010 年代は−
0.6%、2020 年代は−0.8%と減尐していきます。一方、付加価値生産性の伸
び率ですが、比較的良好な時期である 2000 年から 2008 年の伸び率は、年平
2 成長力強化やサプライサイドの重要性は多くの中央銀行が強調している点であるが、例え
ば、イングランド銀行のキング総裁によるスピーチ("Speech given by Mervyn King,
Governor of the Bank of England, The CBI Northern Ireland Mid-Winter Dinner,
Belfast," Bank of England, 22 January 2013)を参照。
http://www.bankofengland.co.uk/publications/Documents/speeches/2013/speech631.pdf5
均で+1.4%でした。この数字を、先程の就業者数の伸びの数字にそのまま加
えたとしても、2010 年代の成長率は平均で+0.8%、2020 年代は+0.6%にと
どまります。この先 20 年間、何とかプラス成長を維持できる程度にしかなり
ません。労働力人口の減尐は、日本経済にとって実に強い「逆風」であり、
我々は、この「逆風」の意味をもっと深刻に受け止める必要があります。も
ちろん、付加価値生産性の伸びをさらに高められると、問題の程度は緩和し
ます。しかし、日本は過去 10 年間のG7諸国の平均を若干上回る伸び率は実
現しており、これを一挙に1%以上も高めることができると考えることは現
実的ではありません(図表 11)。
いずれにせよ、日本の成長力を将来に亘って引き上げていくためには、就
業者数と付加価値生産性の両方に働きかけていく必要があり、相当に思い切
った努力が必要です。その際、幅広い主体の取り組みが不可欠ですが、何と
言っても主役は民間企業です。現在、企業は家計と並んで貯蓄超過部門であ
り、そうした状態が 1998 年以降続いています(図表 12)。もっとも、企業が
大幅な貯蓄超過の状態にあるというのは、今や日本だけの現象ではなく、2000
年代に入って、主要先進国に共通してみられる現象です。因みに、企業の貯
蓄超過幅の対GDP比をみると、英国は 6.1%、日本は 4.6%、米国は 4.1%
となっています。こうした貯蓄超過の最大の要因は、新興国における投資機
会が拡大する中で、国内における魅力的な投資機会が不足していることです
が、最近は金利低下などによる企業年金の積立不足とこれに伴う追加拠出に
備えた資金確保といった要因も指摘されています。
手元に豊富な資金があるにもかかわらず、国内投資に積極的になれないと
いう状況は本席におられる経営者の皆様が日々実感されていることだと思い
ます(図表 13)。因みに、東証1部・2部上場企業のうち、有利子負債以上
の現預金を手元に抱えている企業、すなわち、実質無借金企業の割合は、最
近時では 43%にも上っており、手元現預金は増加の一途を辿っています。
もちろん、企業が手元流動性を潤沢に保有すること自体は、バブル崩壊後6
の金融危機、あるいはリーマン破綻後のドル資金不足やCP市場の機能低下
といった経験を踏まえると、ある程度までは合理的な行動です。しかし、現
在の手元流動性の水準はそうした予備的需要を遥かに上回っているように思
えます。余剰資金の使い道は、国内外の実物投資や金融投資、賃金支払いと
いう従業員への還元、配当や自社株の買入れといった株主への還元の3つの
選択肢しかありません。いずれにせよ、このルートのいずれかを通じて、増
加した流動性に何らかの変化をもたらさない限り、経済への好影響は生まれ
ません。その意味で、企業経営を取り巻く環境を変え、インセンティブを変
えていくことが非常に重要です。物価安定のもとでの持続的成長の実現のた
めには、金融政策が重要であると同時に、競争力と成長力の強化に向けた取
り組みが求められる所以です。
4.今後の取り組みの基本的な方向性
そこで、次に、競争力と成長力の強化に向けた基本的な方向性を述べてみ
たいと思います。
増大する海外需要の取り込み
第1の方向性は、増大する海外需要を海外進出というかたちで取り込んで
いくことです。こうした取り組みは、新興国を中心に海外経済がわが国に比
べ格段に高い成長を遂げている以上、「空洞化」としてネガティブに捉えるこ
とは、適当ではありません。国際分業体制のもと、海外において加工・組立
の量産拠点を拡張する一方、国内からの中間品輸出を増やしたり、より収益
力の高い研究開発分野を強化していくことは、わが国の実質GDPの底上げ
に繋がります。また、企業部門に蓄積した余剰資金が、より高いリターンを
生む国への投資に向かい、これが利子や配当というかたちで国内に還元され
れば、実質GDPの伸びには直接貢献しませんが、実質GNIを伸ばすこと
はできます。経済のグローバル化が進展する中、国内生産と輸出の組み合わ7
せだけでなく、対外直接投資や現地生産との組み合わせにも、国全体として
バランスよく取り組んでいくことは不可欠です。
実際、日本企業の海外投資は、アジアを中心に増加してきています。また、
海外進出の動きは、製造業大企業だけでなく、非製造業や中堅・中小企業に
まで広がっています(図表 14)。しかし、それでも、日本の対外直接投資の
残高は、他の先進国に比べ低い水準にとどまっています(図表 15)。証券投
資と直接投資を合わせた対外投資の収益率という点でも、日本は、収益率の
高い直接投資のウェイトが小さいこともあって、米国などに今一歩及ばない
状況となっています(図表 16)。
この点、新興国、中でもアジアには、交通輸送やエネルギー供給、通信手
段といった基幹インフラに対する巨額の潜在的需要が存在しており、アジア
開発銀行の調査によれば、その規模は 2010 年から 2020 年にかけて約8兆ド
ルにも達すると推計されています(図表 17)。都市の高度化や環境・省エネ
対策はもちろん、人手不足や賃金上昇に対応したファクトリー・オートメー
ション化などを含め、日本が長年培ってきた世界最高峰の技術とノウハウを
活かせるビジネス・チャンスが溢れています。中間所得層の拡大とともに消
費需要が爆発的に増加する中、これまでもっぱら国内市場をターゲットにし
ていた小売やヘルスケア、教育などの分野でも、広大なアジア市場を相手に
より大きなビジネス戦略を立てることが可能となってきています。
高齢化への対応
第2の方向性は、急速に進む高齢化への対応です。平均寿命が長いという
ことは、健康という人間の幸福にとって最も重要な条件が高い水準で満たさ
れているということですが、高齢化の進行に合わせて経済や社会の仕組みを
見直していかなければ、現在の高い生活水準を維持すること自体が難しくな
ります。時折誤解されますが、高齢化という人口動態の変化自体が問題を引
き起こしているのではありません。真の問題は、そうした変化にわが国の経8
済や社会の仕組みが十分に追いついていないことです。
高齢化の進行は、経済に様々な変化をもたらします。まず、労働力の減尐
という経済の供給サイドのルートを通じて、成長率の下押し要因となります。
これを跳ね返すためには労働参加率、特に、高齢者と女性の労働参加率を引
き上げることが不可欠です3。この点、60 歳から 69 歳までの労働参加率はこ
こ数年で着実に上昇してきました(図表 18)。女性の労働参加率も上昇して
いますが、まだ他の先進国と比べて低い水準にとどまっています(図表 19)。
高齢化の進行は、需要面でも大きな変化をもたらします。その典型例は医
療・介護分野です。実際、米国では、2000 年以降の 10 年間で、65 歳以上の
高齢者人口が 13%増加し、医療・介護関連の支出は 82%も増加しました。一
方、日本の場合、同じ期間に高齢者人口が 29%も増加したにもかかわらず、
医療・介護関連の支出の伸びは 17%にとどまっています(図表 20)。この点、
日本では、各種の規制や現場の人手不足などから、需要に見合うサービスが
十分提供できていないとの指摘が多く聞かれます。財政負担とのバランスを
踏まえる必要はありますが、適切な制度設計や規制改革が図られれば、医療・
介護サービスや医療機器・設備への潜在需要が開花する可能性が高いと思い
ます。同時に、医療・介護分野は、日本企業の海外進出が進む中、国内雇用
の有力な受け皿のひとつとなると考えられます(図表 21)4。
高齢化は住宅市場における需要拡大ももたらします。子育て世代において
は、広い住宅に対する潜在需要が強いと考えられますが、都市部を中心に、
現状、そうしたニーズは十分に満たされていません。一方で、高齢者は、現
役時代に購入した広い住宅に居住しています。実際、日本では、新築住宅と
合わせた全流通量に占める中古住宅の割合は 12%に過ぎず、米国の 79%、英
国の 86%に比べて遥かに低い水準となっています(図表 22)。今後、住宅市
3 女性の労働参加率の引上げの重要性については、Chad Steinberg and Masato Nakane
(2012) "Can Women Save Japan?", IMF Working Paper 12/248 を参照。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2012/wp12248.pdf
4 米国では、海外生産シフトの加速などにより、1990 年以降、製造業の雇用者は約 600 万
人減尐したが、同時に、ヘルスケア産業の雇用者が 600 万人増加した。9
場の整備が進められていけば、ライフ・ステージの変化に応じた潜在的な需
要が掘り起こされ、それに伴い家電や生活用品、リフォームといった周辺市
場も活発に動き出すはずです。金融面でも変化が期待されます。日本の場合、
個人の金融資産は現預金に集中していると指摘されますが、これには個人の
資産全体のうち、住宅という価格変動が大きく流動性の低い実物資産の占め
る割合が高いことを反映している面もあります(図表 23)。個人の資産が現
預金以外の金融資産に向かえば、長期的なリスクマネーの供給が増加すると
いうメリットも期待できます。
資源の円滑な移動促進
第3の方向性は、資源の円滑な移動を促進することです。今述べた医療や
住宅分野では、需給ギャップというよりも、潜在的な需要と現実の供給がう
まく対応していないという点で、需給のミスマッチがより本質的な問題とな
っています。ここ数年、高齢者向けのパック旅行や健康ビジネスの売上げが
急増していますが、これは、企業が人材や資金をそうした事業に振り向け、
新たな売れ筊商品の開発に努めたことで、潜在していた需要の掘り起こしに
成功したからです。
変化は必ず新しいニーズを生み出し、新しい商品やサービスの誕生を促し
ます。需要構造の変化に合わせ、企業内、企業間、産業間、地域間で、労働
や資本といった資源を移動させ、最適な配分を実現していくことが不可欠で
す。一言で言うと、経済成長を実現するためには新陳代謝も重要であるとい
うことです。因みに、株式時価総額上位 300 社の設立時期をみると、日本の
場合、米国よりも伝統的企業が多いことがわかります(図表 24)。これは、
企業自身が自己変革に取り組み、度重なる環境変化をうまく乗り越えてきた
ことの証左とも言えますし、新しい企業がダイナミックに誕生していないと
も言えます。ただし、変化も確実に生じています。例えば、リーマン・ショ
ック以降の株価の動向をみると、最近は相対的に小規模な企業が健闘してい10
ます(図表 25)。ここ数年、大きく落ち込んでいた新規株式公開件数も、徐々
に回復傾向にあり、その動きは地方にも拡大しています。このような新しい
芽にも大いに期待したいと思います。
5.規制・制度改革、コーポレート・ガバナンス改革、社会の価値観
以上、競争力と成長力強化の基本的方向性について述べてきましたが、本
来、個々の企業の合理的な行動の結果、そうした方向に経済は向かう筈です。
現実にそうなっていないのは、そこに経済的、制度的ないし社会的理由があ
るからです。そのように考えると、そうした障害を取り除く環境の整備が必
要となります。
規制・制度改革
第1に必要なことは、変化を目指す企業の取り組みを可能にする政府によ
る環境整備です。特に、企業のチャレンジ可能な領域を広げるための思い切
った規制改革や、成長力の高い事業や産業への人材移動をより円滑にする、
労働市場の制度整備が不可欠です。同時に、環境変化への対応を過度な社会
的ストレスを伴わずに進めていくため、転職サポートやセーフティー・ネッ
トの充実も求められます。
コーポレート・ガバナンス改革
第2に必要なことは、株主や投資家によるコーポレート・ガバナンスが適
切に機能することです5。この点でドイツの事例は参考になります。ドイツは
2000 年代初頭まで構造改革の遅れが指摘され、事実、2000 年代前半は低成長
を余儀なくされていましたが、そうした中で、柔軟な雇用調整を可能とする
5 コーポレート・ガバナンスの態様を含む各種法制度が企業収益に及ぼす影響等については、
木下信行「わが国企業の低収益性等の制度的背景について」IMES ディスカッション・ペ
ーパー・シリーズ 2012-J-12、日本銀行金融研究所、2012 年を参照。
http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/12-J-12.pdf 11
制度整備や投資家に対する情報開示の強化など、企業活動を巡る様々な改革
に取り組みました。ドイツとの比較で言えば、日本の場合、特に事業再生や
企業買収といった企業法分野の改革が遅れており、これがダイナミックな企
業再編を妨げ、産業全体の国際競争力の低下をもたらす可能性が指摘されて
います。また、こうした状況が、法的整理への脅威や他者からの買収圧力の
欠如に繋がり、企業内に過剰な現預金が蓄積される一因になっているとも言
われています。
社会の価値観
第3に必要なことは、安定と変化のいずれを優先するのかという社会の選
択の問題です。わが国ではこれまで、どちらかと言えば安定重視の価値観が
支配的でした。既存の国内市場の中で、消費者ニーズに合わせて、自社の商
品を段階的に「改良」していく手法も、安定重視の経営スタイルといえます。
しかし、人口が減尐する中で、国内市場に焦点を当てた「改良」だけでは、
経済は縮小均衡に陥る惧れがあります。雇用確保の要請に応えながら、同時
に熾烈な価格競争を続けていけば、長期的に企業の収益環境はますます厳し
くなっていきます。やや大胆に言えば、企業は、過去からの連続である「改
良」か、非連続的な「イノベーション」かの選択を迫られています。経済に
対するショックが一時的なケースでは、「改良」によって当座の苦境を凌ぎ、
長い目でみた安定を優先する意味はあります。しかし、グローバル化や高齢
化のような永続的なショックに対し、従来同様の「改良」だけで立ち向かっ
ていては、大きな変化への対応が遅れる可能性があります。
改革は、国民の納得や合意なしに進めることはできません。イノベーショ
ンを実現していくためには、企業のチャレンジ精神と、それに必要な経営資
源の移動や再配分が不可欠です。その過程では摩擦的現象も起きます。一概
に答えの出る話ではありませんが、環境変化が永続的なものであるとすれば、
そうした変化を受け入れ、新しいことへのチャレンジを応援する価値観を社12
会全体で共有することも、成長力強化に向けた改革を実現する上で非常に重
要なポイントです。
6.物価との関係
ここまで競争力と成長力強化に向けた取り組みについてご説明してきまし
た。次に、やや脇道に逸れますが、成長と物価の関係についてお話ししたい
と思います。
消費者物価の前年比上昇率は、現在はゼロ%近傍となっていますが、2014
年度には 0.9%に高まっていくというのが日本銀行の現在の見通しです。こ
れは海外経済の緩やかな回復を前提に、わが国経済も潜在成長率を上回る成
長を続け、需給ギャップが解消していくとの見通しに基づくものです。しか
し、需給ギャップはピークに比べかなり縮小しており、また需給ギャップに
対する物価上昇率の感応度を前提とすると、この先、需給ギャップの解消だ
けで直ちに2%の物価目標が達成できる訳ではありません。物価上昇率が
2%となる経済とは、どのようなイメージの経済で、そこに至る過程では、
どのようなメカニズムが作動するのでしょうか。論理的には幾つかのケース
が考えられます。
第1は、円安や国際商品市況の上昇により、輸入物価が先行的に上昇する
ケースです。第2は、賃金が上昇するケースです。中長期的には、賃金と物
価は密接に関連しています。第3は、予想物価上昇率が高まるケースです。
第4は、企業や家計の成長期待が高まるケースです。
我々はどのケースを望んでいるのでしょうか。輸入物価が先行的に上昇す
るケースでは、家計の実質所得は圧迫されます。望ましいのは、賃金の上昇、
予想物価上昇率の高まり、企業や家計の成長期待の高まりが同時進行的に進
んでいくという姿だと思います。ここでのポイントは、賃金と物価の関係で
す。わが国の物価上昇率が海外に比べて低いひとつの大きな理由は、日本の
雇用慣行にも求められます。すなわち、1990 年代後半以降、日本の社会は、13
雇用確保を優先し、主として賃金の引き下げによってコスト削減を図ってき
ましたが、物価は、その反射効果として下落しました(図表 26)。因みに、
景気回復期における企業収益や賃金、物価のパターンをみると、高度成長期
には、3者が同じ方向に動きました(図表 27)。現在は、労働分配率は景気
後退期には高まり、回復期には低下するかたちで、企業収益がバッファーと
なっており、回復期において、賃金も物価もあまり変化していません。この
根本的な原因は、企業の収益力が低下していることであり、さらに遡れば潜
在成長率が低下していることです。この点、中長期的な予想物価上昇率と潜
在成長率の関係を見ますと、わが国の場合、明確なプラスの相関関係が観察
されます(図表 28)。今後、企業や家計の成長期待が回復していけば、賃金
や物価にも持続的な好影響が及んでいきます。こうしたことを通じて、長年
に亘って定着した「デフレ期待」が払拭されていくと考えられます。
7.改革に必要な意識
ところで、競争力と成長力強化に向けた取り組みの必要性にしても、また、
それがデフレ克服と物価安定のもとでの持続的成長という課題の達成に不可
欠であることも、一般論としては認識されていると思います。それにもかか
わらず、そうした取り組みがなかなか進まないのは何故でしょうか。この点
で鍵を握るのは、改革の必要性に対する切迫した意識だと思います。現在日
本経済が直面している急速な高齢化やそれに伴う問題は決して一時的なもの
ではありません。その影響は慢性症状のようなかたちで着実に日本経済に及
んでいます。財政悪化はそうした問題の典型例です。財政の持続可能性を維
持するためには、成長力を高めるとともに、歳出・歳入構造を見直していく
必要があります。成長率が高まらない限り、物価上昇率だけが多尐高まった
としても、財政バランスはほとんど改善しません。しかし、わが国では、こ
のような慢性症状はあっても、急性症状は発生していません。その大きな理
由は、長年続いた経常黒字を反映し、巨額の対外純資産を有していることで14
す。このため、世界的な経済ショックが起きた場合でも、安全資産を求める
海外からの資金流入により、長期金利は安定し、為替相場も円高が進行する
など、危機によって円が急激に売られるという事態は経験していません。
この点に関連して、最近の金融市場の動きにも一言触れたいと思います。
過去数年間のグローバル金融市場の動きを表すキーワードは、リスク・オン、
リスク・オフでした。先行きに対する不確実性が非常に大きい時にはリスク
を外す、つまりリスク・オフとなり、不確実性が小さくなったと判断する時
にはリスクをとる、つまりリスク・オンとなります(図表 29)。昨年夏まで
の円高の基本的な背景は、欧州債務問題が深刻化するもとでの投資家の安全
資産選好でした。実際、円の名目実効為替レートが最近において最も円高の
水準となったのも、スペインやイタリアの国債金利が最も上昇したのも、い
ずれも昨年7月下旬のことでした。その後、欧州で欧州債務問題に対する様々
な「安全弁」が整備されたことや、米国において「財政の崖」が回避された
ことを背景に、グローバル投資家のリスク回避姿勢は大きく後退しています。
わが国における最近の円安や株高も、大きく捉えると、こうしたグローバル
投資家のリスク回避姿勢の変化の中で生じています。逆に言うと、投資家の
リスク回避姿勢が変化すれば市場の状況も変化します。このことは、10 年近
くにわたって、ユーロ加盟国の国債金利がほぼ同じ状況が続いたという事実
を思い起こすことで容易に理解頂けると思います。最終的に市場の状況を決
めるのはファンダメンタルズです。わが国でも過去 15 年近くの間にも何度か
の円安局面があり、その局面では輸出や生産は増加しましたが、残念ながら、
潜在成長率の引き上げに成功した訳ではありませんでした(図表 30、31)。
重要なことは、現在の好環境を活かして、競争力と成長力強化に向けてしっ
かりと取り組むことです。
8. 日本銀行の金融政策運営
最後に、日本銀行による最近の金融政策運営についてお話しします。冒頭15
で述べたように、日本銀行は先月の金融政策決定会合において、今後、日本
経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組みの進展に伴い、
持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくという認識に立
った上で、「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率で2%とすること
を決定し、発表しました。日本銀行の金融政策の運営理念は、日本銀行法に
規定されているとおり、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発
展に資する」ことです。言い換えると、日本銀行は経済が持続的にバランス
良く成長するようなかたちでの物価安定を目指しており、こうした金融政策
の運営理念のもと、物価目標をできるだけ早期に実現するよう、強力な金融
緩和を推進することとしています。本年中も、「資産買入等の基金」を通じて、
国債を中心に新たに 36 兆円程度の金融資産を買い入れます。さらに、来年以
降も、期限を定めず、長期国債2兆円を含め、毎月 13 兆円程度の資産の買入
れを続けていくことを決めています。これは、「物価安定の目標」の実現を目
指し、手綱を緩めることなく、強力な金融緩和を推進していくことを約束す
るものです。
デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長の実現のため、適
切な金融緩和政策と並んで、以下の理由から、政府の取り組みも重要です。
第1の理由は、政府の競争力、成長力強化の取り組みが進展すれば、緩和
的な金融環境がより広範に活用されることになり、金融緩和の効果はさらに
大きくなるからです。現状では、日本銀行の供給する通貨、流動性は著しく
増加していますが、それに見合うかたちで物価が反応している訳ではありま
せん(図表 32)6。民間金融機関も貸出というより、国債保有を増加させて
いる状況です(図表 33)。この点、政府は大胆な規制・制度改革を始めとす
る思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図ることを明らかにしてい
6 この点について、FRBのバーナンキ議長は、2012 年 12 月 12 日の記者会見において
"There's no effect on inflation expectations from the size of our balance sheet."と述べ
ている。詳しくは FRB, "Transcript of Chairman Bernanke's Press Conference
December 12, 2012"を参照。
http://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20121212.pdf 16
ます。日本銀行としては、そうした取り組みが強力に進められることを期待
しています。
この間、日本銀行自身も、企業や金融機関の前向きな活動を金融面から後
押しするため、「貸出支援基金」を設けています7。先程の「資産買入等の基
金」と合わせ、この2年間で新たに 60 兆円超の資金供給を行う予定であり、
その残高は、名目GDPの約3割に相当する 130 兆円を上回る見込みです(図
表 34)。中央銀行の金融緩和は、言わば明日の需要を今日に前倒しすること
によって現在の景気を刺激する効果を持ちますが、その明日になると、明後
日の需要をさらに前倒ししない限り、効果が減衰します。いずれにせよ、前
倒しする需要の大きさ自体は、先行きの潜在成長力に規定されます。それだ
けに、潜在成長率自体を引き上げる努力が不可欠です。こうした日本銀行の
金融面での取り組みと、政府による成長力強化に向けた取り組みがプラスの
好循環、相乗作用をもたらすことになれば、その政策効果は大きくなると考
えています。
第2の理由は、強力な金融緩和を推進していくためには、財政運営に対す
る信認確保が欠かせないことです。日本銀行は、強力な金融緩和の一環とし
て多額の国債買入れを行っていますが、財政が厳しい状況にあるだけに、国
債の買入れが内外の市場で、「財政ファイナンス」と受け取られると、それが
原因となって長期金利が上昇するおそれがあります。特に、成長力強化の取
り組みが進展せず、日本銀行の国債保有だけが増加する場合、そうしたリス
クは高まります。そうなれば、金融緩和効果が低下するだけでなく、多額の
国債を保有する金融機関の経営を通じて実体経済に悪影響を与えます8。その
意味で、政府にも日本銀行にも規律、ディシプリンが求められます。日本銀
7 日本銀行は、2010 年6月に導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」と 2012
年 10 月に導入した「貸出増加を支援するための資金供給」を統合し、「貸出支援基金」
を設置した。
8 財政の持続可能性と金融システムや物価の安定との関係については、白川方明「財政の
持続可能性の重要性」、フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにお
ける講演の邦訳、2012 年4月 21 日を参照。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120422b.pdf 17
行の規律を規定するのは、物価の安定と金融システムの安定を通じて持続的
な成長に貢献するという中央銀行に課せられた目的です。政府に求められる
のは財政規律です。この点、政府は「財政運営に対する信認を確保する観点
から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進する」方
針を明確にしています。一旦信認が低下し経済が混乱してしまうと、その時
点では、中央銀行の採り得る政策の余地は限られてきます。エコノミストは
そのような状態をフィスカル・ドミナンスという言葉で表現していますが、
そうした事態を未然に防ぐためには、財政改革に取り組み、中長期的な財政
規律を維持することが重要です。
9. おわりに
現在、わが国の経済運営を巡って活発な議論が行われていますが、私とし
ては、「デフレ克服」というしばしば用いられる言葉で我々が本当に実現した
いことは何であるのか、そのために我々は何をなすべきかという問題を真剣
に議論する必要があると思います。現在は、そのための格好のチャンスだと
思っています。その上で、行動が必要です。
日本銀行は、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長の実
現に向けて全力を挙げていきます。中央銀行の仕事は経済の持続的な成長を
支える安定的な経済・金融環境をしっかりと整えることです9。その際、先行
きの経済・物価見通しと持続的成長を脅かすリスク要因を丹念に点検してい
くことは言うまでもありません。やや長い目でみた場合の政策の効果やコス
トを説明していくことも独立した中央銀行には当然求められることです。そ
れがアカウンタビリティーの意味することだと思います。
2000 年代半ばの世界的な信用バブルの経験が示すように、ひとつの問題へ
の対応に全力を挙げている時に、新たな問題や予想外の危機の種が蒔かれて
9 この点については、白川方明「中央銀行の役割、使命、挑戦」、日本記者クラブにおける
講演、2013 年1月 25 日を参照。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130125a.pdf 18
いたという例には事欠きません。改めて、歴史に学ぶ謙虚さや中長期的な視
野に立った安定の重要性を意識させられます。日本銀行としては様々なご意
見に耳を傾けた上で、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的な
経済成長の実現のために、自らの責任と判断において適切な政策運営に努め
て参りますので、ご協力をお願いします。
本日はご清聴ありがとうございました。
以 上日本経済の競争力と成長力の強化に向けて
―日本経済団体連合会常任幹事会における講演―
2013年2月28日
日本銀行総裁
白川方明
構成
1.はじめに
2.経済政策の目的
3 競争力と成長力強化の必要性 3.競争力と成長力強化の必要性
4.今後の取り組みの基本的な方向性
5.規制 制度改革 ポ ガバ 改革 社会 値観 規制・制度改革、コーポレート・ガバナンス改革、社会の価値観
6.物価との関係
7.改革に必要な意識
8 日本銀行の金融政策運営 8.日本銀行の金融政策運営
9.おわりに図表1
競争力と成長力の強化に向けた取組みが進展するとの認識に立った上で、
日本銀行は2%の「物価安定の目標 を導入 日本銀行は2%の「物価安定の目標」を導入
「物価安定の目標」の導入(2013年1月)
● 日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主
体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高
まっていくと認識している この認識に立って 日本銀行は 物価安定の まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の
目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。
● 日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをで
きるだけ早期に実現することを目指す。その際、日本銀行は、金融政策の
効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積
を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、
問題が生じていないかどうかを確認していく。
1
実質GDPの水準を持続可能なかたちで高めることが
マクロ経済政策の重要な目標
図表2
日本の実質GDP
135
(1990年=100)
130
120
125
110
115
105
95
100 実質GDP 人口一人当たり実質GDP 生産年齢人口一人当たり実質GDP
2
(注)1. 生産年齢人口は15〜64歳の人口。
(注)2. 2012年の人口、生産年齢人口は2011年の同じ伸び率として試算。
(資料)内閣府、World Bank
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
年人口減少の影響を調整すると、リーマン・ショック後の
日本の実質GDPのイメージは異なってくる
図表3
実質GDP
人口一人当たり
実質GDP
生産年齢人口一人当たり
実質GDP
106
(2007年=100)
106
(2007年=100)
106
(2007年=100)
104
106
104
106
104
106
100
102
100
102
100
102
96
98
96
98
96
98
92
94
92
94
92
94
90
92








90
92








90
92








3
(注) 2007年を100とした場合の2012年4Qの値。2012年の人口、生産年齢人口は2011年と同じ伸びとして試算。生産年齢人口は15〜64歳の人口。
(資料)内閣府、BEA、ONS、Eurostat、World Bank
本 国 ー
ロ圏
国 本 国 ー
ロ圏
国 本 国 ー
ロ圏

日本の対外投資収益は増加している
図表4
対外投資残高と所得収支 所得収支の内訳
(兆円) (兆円) (兆円)
25
600
700 外貨準備高
その他投資残高
証券投資残高
直接投資残高
(兆円) (兆円)
所得収支グロス
受取(右目盛)
25
その他
証券投資収益
(兆円)
20
500
直接投資残高
所得収支(右目盛)
15
20 直接投資収益
所得収支
所得収支

10
15
300
400
10
15 グロス受取
5
10
200
5
10
0
5
0
100
0
5
(資料)日本銀行 4
0 0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
年日本の交易条件は悪化傾向にある
図表5
交易条件の変化
170
(2000年=100)
150
160 輸出物価
輸入物価
130
140 交易条件(輸出物価/輸入物価)
100
110
120
80
90
60
70
5
(注)輸出入物価は、GDPデフレータベース。
(資料)内閣府
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年
実質GNIは対外投資収益と交易利得の動向に依存
図表6
115
450
500(実質、2000年=100) (実質、2000年=100)
2012/4Q(2000年=100)
@GDP 109
110
300
350
400 @GDP:109
AGDP+海外純所得:111
BGDP
+海外純所得+交易利得:105 @
A 海外
純所得
交易
105
200
250
300
B
交易
利得
100
50
100
150
0 95
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年
海外からの所得受取−海外への所得支払(海外純所得、左目盛)
@GDP(右目盛)
AGDP+海外からの所得受取−海外への所得支払(右目盛)
BGDP+海外からの所得受取−海外への所得支払+交易利得(GNI、右目盛)
6
(注)交易利得とは「交易条件(輸出価格/輸入価格)の変化に伴う実質所得(購買力)の変化」を捉えたもの。
例えば、資源価格上昇によって輸入価格が輸出価格対比上昇した時には、交易条件は悪化し、交易利得は減少する。
具体的には「交易利得=名目純輸出/輸出・輸入デフレーターの加重平均−実質純輸出」と定義される。
(資料)内閣府図表7 景気が改善し需給が逼迫することによって、物価は上昇し、
その逆ではない
消費者物価と需給ギャップの時差相関
4 10 (前年比、%) (%) 1.0
(時差相関係数)
6
8
2
3
0.8
0.9
0
2
4
0
1
2
0 5
0.6
0.7
-4
-2
0
-1
0
0 3
0.4
0.5
需給ギャップ
先行
消費者物価
先行
-8
-6
4
-3
-2
消費者物価
(総合除く生鮮食品、左目盛)
需給ギャップ(右目盛) 0.1
0.2
0.3
-4 -10
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11
需給ギャッ ( 目盛)

0.0
-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6
四半期
7
(注)1. 消費者物価は、消費税の導入(1989年、3%)とその引き上げ(1997年、3%→5%)の影響を調整している。
(注)2. 需給ギャップは日本銀行調査統計局の試算値。
(注)3. シャドー部分は景気後退局面。
(注)4. 時差相関係数は、1990年1Q以降のデータを基準に試算。
(資料) 総務省、内閣府等
多くの国民は単に物価だけが上がることを望んでいる訳ではない
図表8
物価 対する家計 受 め方
80%
100%
物価上昇に対する家計の受け止め方
40%
60%
0%
20%
04/6月 05 06 07 08 09 10 11 12
どちらかと言えば、好ましいことだ どちらとも言えない どちらかと言えば、困ったことだ
男女別 年齢階層別 職業別
男性 84.0
85.5
87.1
40・50
歳代
20・30
歳代
86 3
86.2
79.2
臨時 日雇
常雇
農林漁・自営
・自由業
85.8
0% 20% 40% 60% 80% 100%
女性
83.3
0% 20% 40% 60% 80% 100%
60歳
以上
歳代
85.0
86.3
0% 20% 40% 60% 80% 100%
その他
臨時・日雇
0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100%
8
(注)1. 3月、6月、9月、12月調査(2005年の6月は調査なし)。 2006年6月調査までは訪問留置法、2006年9月調査からは郵送調査法。
(注)2. 男女別、年齢階層別、職業別は2012年12月調査の個別データを用いて新たに集計したもの。
(注)3. 職業別のその他は、主婦、学生、無職など。
(資料) 日本銀行所得分配の状況に対する問題意識も高まっている
図表9
米国家計の平均所得と中位所得
125
(2002年=100)
120
115
120
平均所得
中位所得
110
105
110
95
100
85
90
75
80
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
9
(注)1. 中位所得(Median Income)とは、所得の高低で並べて丁度中間に位置する家計の所得。
2. 所得は、物価の変動や政府からの移転所得、税金を調整している。
(資料)米国議会予算局「Trends in the Distribution of Household Income Between 1979 and 2007」
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07

労働力人口の減少は日本経済にとって強い「逆風」となっている
図表10
6
(年平均変化率、寄与度、%)
4
5
付加価値生産性(就業者1人当たりの実質GDP)変化率
就業者数変化率
2
3
実質GDP成長率
試算値
+0.9%
1
+0.8%
2
+0.5% −0.2%
−0.6% −0 8%
-1
0
0.8%
−1.2%
-2
1970年代 1980年代 1990年代 2000年代 2010年代 2020年代 2030年代
10
(注)2013年以降の就業者数変化率は、将来人口の推計値(出生中位、死亡中位のケース)と労働力率の見通し(各年齢層・各性別の労働力率が2012年
の値で横ばいで推移と仮定したもの)から試算した労働力人口の年平均変化率。
(資料)内閣府、総務省、国立社会保障・人口問題研究所日本の付加価値生産性の伸びは他の先進国と遜色ない
図表11
生産性の伸び率(2000年以降の平均)
2.0
(前年比、%)
1.5 G7の2000年以降の平均:0.9%
1.0
0.5
0.0
-0.5
日本 米国 ドイツ 英国 ランス イタリア カナダ G
(注)1. 就業者1人当たり付加価値生産性=GDP/就業者。
2. G7の生産性変化率は、7か国の伸び率の単純平均値。
(資料)OECD 11
日本 米国 ドイツ 英国 フランス イタリア カナダ G7
企業部門の貯蓄超過は今や先進国に共通する現象
図表12
企業部門の貯蓄超過
12 (対名目GDP比率、%)
8
10
日:4.6%
米:4 1%
英:6.1%
4
6
米:4.1%
独:1.1%
0
2
-4
-2
-8
-6 日本 米国 英国 ドイツ
12
(注) 企業部門は、国内部門から一般政府と家計の2部門を控除することにより算出。
(資料)内閣府、BEA、Eurostat、ONS
8
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 年企業の手元資金は増加。国内投資には慎重。
図表13
総資産利益率 設備投資/キャ シ フロ 比率
(ROA)
現預金保有額
設備投資/キャッシュフロー比率
企業貯蓄/純営業余剰
1.5 100
設備投資
(倍) (%) 210 45
企業の現預金保有額
12 (兆円) (%)
日本 米国
(%)
70
80
90
1 2
1.3
1.4 設備投資
/キャッシュフロー比率
企業貯蓄/純営業余剰
(右目盛)
200 40
企業の現預金保有額
東証上場企業における
実質無借金企業の割合
(右目盛)
10
日本 米国
ドイツ フランス
50
60
70
1.0
1.1
1.2
30
35
180
190
6
8
30
40
0.8
0.9
4 170 25
0
10
20
0 5
0.6
0.7
15
20
150
160
0
2
(注)1. 各国のROAは、日本はTOPIX、米国はS&P500、ドイツはDAX、フランスはCAC40の構成銘柄(金融を除く)のROAを、時価総額で加重平均して算出。
2. 中央図および右図は、金融・保険業を除く全産業ベース。
0.5 0
90 95 00 05 10 年度
150 15
95 00 05 10 年末
0
2000年 2005 2010
13
3. 企業貯蓄/純営業余剰について、2000年以前は2000年基準の計数。
4. キャッシュフロー = 減価償却費 + 経常利益/2。
5. 右図の東証上場企業とは、東証1部・2部上場かつ3月期決算企業のうち、1995年度から連続してデータ取得可能な1,260社(除く金融機関)。
実質無借金企業とは、保有する現預金及び現金同等物が有利子負債を上回る企業。現金同等物とは、CP、CD、公社債投信などの短期資産を指す。
(資料)Bloomberg、財務省、内閣府
海外進出の動きは中堅・中小企業にも拡大
図表14
海外現地法人数 海外従業員数
400 6000
(千人) (千人) 3.0 30
中小企業
中堅企業
(千社) (千社)
2.5 25 350 5250
大企業(右目盛)
2.0 20 300 4500
250 3750 中小企業
中堅企業
1.5 15
200 3000
06年度 07 08 09 10
大企業(右目盛)
1.0 10
06年度 07 08 09 10
(資料)経済産業省 14日本の対外直接投資残高は他の先進国に比べ小さい
図表15
対外直接投資・証券投資残高 地域別にみた日本の対外直接投資収益率
12
(兆ドル、2011年末) (%)
8
10
12
証券投資
直接投資 15
18
( )
中国
アジア(除く中国)
全世界
北米
4
6
8
12
EU
0
2
4
9
(対名目GDP比率、%)
米国 英国 日本 ドイツ フランス イタリア カナダ
6
証券投資 42 133 57 67 85 59 18
直接投資 36 70 17 46 51 36 31
合計 78 203 74 113 136 95 49 0
3
15
(注) 対外直接投資収益率は、直接投資収益の受取を前年末の直接投資残高で除して算出。
(資料)OECD、IMF、日本銀行
06 07 08 09 10 11 年
日本の対外投資収益率は米国よりも幾分低い
図表16
対外投資収益率
(直接投資+証券投資)
うち直接投資収益率 うち証券投資収益率
12 (%) 12
(%)
12
(%)
8
10
8
10
8
10
6 6 6
2
4
2
4
2
4
0














0














0














16
(注)2011年の値。投資収益の受取を前年末の投資残高で除して算出。
(資料)IMF
国 ナ

本 国 イ


ンス

リア
国 国 ナ

本 イ


リア

ンス
本 ナ


ンス


国 タ
リア
国アジアには基幹インフラに対する巨額の潜在的需要が存在
図表17
アジアのインフラ投資需要 受注実績シェア(2011年)
5
(兆ドル)
日本企業
9%
韓国企業
そ 他
4
5
総額:約8.0兆ドル
その他 4%
9%
米国・
カナダ企業
3
更新需要
新規需要
運輸の内訳
中国企業
20%
カナタ 企業
13%
2
欧州企業
1
45%
0
エネ



運輸 通信 水道 道路 港湾 鉄道 空港
17 (注)投資需要は、2010〜2020年の合計額(推計値)。集計対象は、アジア太平洋地域の30の国・地域。
(資料)経済産業省、Asian Development Bank

ギー

力) ・衛生
高齢者の労働参加率は近年上昇
図表18
60歳の平均余命 高齢者の労働力率
60
65
(%)
28
30
(年)
55
60
24
26
28
女性
男性
45
50 60〜64歳
65〜69歳
20
22
24
35
40
18
20
30
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

14
16
1960 65 70 75 80 85 90 95 2000 05 10 年
(資料)総務省、厚生労働省 18
年図表19
女性の労働参加率は他の先進国よりも依然低い水準
女性の労働力率カーブ(2010年)
(%)
90
100
70
80
50
60
スウェーデン
ドイツ
30
40 英国
米国
日本
10
20
(資料)総務省、OECD 19
0
15〜歳 20〜 25〜 30〜 35〜 40〜 45〜 50〜 55〜 60〜 65〜
図表20
高齢化のスピードに比べて日本の医療・介護関連支出の伸びは低い
高齢化と医療・介護関連支出の伸び
日本 ドイツ 米国 フランス 英国
65歳以上人口
(2000年→09年の伸び率) 29% 24% 13% 9% 9%
医療・介護支出等
(2000年→09年の伸び率) 17% 31% 82% 98% 49%
(資料)United Nations、OECD 20医療・福祉分野を含めサービス業による雇用が増加している
図表21
6500 4550
(万人) (万人) 4550 850
(万人) (万人)
サービス業の就業者数 医療・福祉産業の就業者数
4500
4550
6450
6500
800
850
4500
4550
4400
4450
6350
6400
700
750
4400
4450
4300
4350
6250
6300
600
650
4300
4350
4250
4300
6200
6250
全産業
サービス業
550
600
4250
4300
サービス業
4150
4200
6100
6150
サービス業
(右目盛)
450
500
4150
4200 うち医療・福祉
(右目盛)
02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

21 (注) 「サービス業」は、全ての産業から製造業、農林水産業、鉱業関連、建設業を除いたもの。
(資料)総務省
日本の中古住宅市場は他国に比べて小規模
図表22
700 (万戸)
600
中古住宅流通戸数
400 502.2(78.8%)
500 中古住宅流通戸数
新築住宅着工戸数
502.2(78.8%)
300
15.1(12.4%)
100 137 9(85 5%)
200
106.1(87.6%) 135.5(21.2%)
23.4(14.5%)
137.9(85.5%)
0
100
本 米国 英国
22
(注)1. 2007年の値。( )は構成比。
2. イギリスは住宅流通戸数から新築住宅戸数を引いたものを中古住宅流通戸数とした。
(資料)国土交通省、米センサス局、英コミュニティ・地方政府省
日本 米国 英国日本では個人資産のうち住宅の占める割合が高い
図表23
個人資産の構成比
日本 73.5
米国 27.2
欧州 66.6
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
現金・預金 債券 投資信託
株式・出資金 保険・年金準備金 その他の金融資産
(%)
(注) 2010年末における家計の保有する資産の構成比率。
(資料)総務省、FRB、Eurostat 23
株式 出資金 保険 年金準備金 その他の金融資産
不動産
米国に比べ、日本の時価総額上位企業は伝統的企業が多い
図表24
時価総額上位300社の設立年
70
(社)
60
40
50 米国 日本
30
20
0
10
24 (注)集計対象は、2012年末時点の時価総額上位300社。ただし、日本の2000年以降は持株会社の設立を除く。
(出所)トムソン・ロイター
〜1880 90 1900 10 20 30 40 50 60 70 80 90 2000 10
年代リーマン・ショック以降の株価をみると相対的に小規模な企業が健闘
図表25
株式時価総額の規模別パフォーマンス
時価総額増加企業 時価総額減少企業
29.4 70.6 500億円以上
(762社)
50億円以上
44.9 55.1
50億円以上
500億円未満
(1,440社)
58.7 41.3 50億円未満
(1 153社)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1,153社)
(%)
(注)1. 2008年8月末の日本国内全株式市場上場銘柄のうち、2013年1月末まで上場を継続している企業を対象に、
当該期間中の時価総額の変化を比較。
(注)2. 企業の規模は2008年8月末の時価総額を基に区分。 25
日本では雇用確保を優先し、賃金引下げによってコストを削減
図表26
失業率 時間当たり賃金
8
(前年比、%)
12
(%)
10 6
日本 米国
12
日本 米国
8 4
6 2
4 0
-4
-2
0
2
(資料)内閣府、総務省、BLS 26
4
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 年
0
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11
年前回景気拡大期の山からの収益 賃金 物価動向
図表27
最近は企業の収益力が低下する中、賃金、物価は余り変化していない
前回景気拡大期の山からの収益・賃金・物価動向
1971/4Q〜73/3Q 1986/4Q〜90/4Q
200 (前回景気拡大期の山=100) 200
賃金
(前回景気拡大期の山=100)
140
160
180 賃金
物価
企業収益 140
160
180 賃金
物価
企業収益
80
100
120
-15 -12 -9 -6 -3 0 3 6 9 12 15
80
100
120
-12 -9 -6 -3 0 3 6 9 12 15 18
2002/1Q〜07/4Q 2009/1Q〜
15 12 9 6 3 0 3 6 9 12 15
四半期 山:70/3Q 谷:71/4Q
12 9 6 3 0 3 6 9 12 15 18
四半期 山:85/2Q 谷:86/4Q
180 (前回景気拡大期の山=100)
140
(前回景気拡大期の山=100)
120
140
160 賃金
物価
企業収益
80
100
120
賃金
60
80
100
5 0 5 10 15 20 25
20
40
60
賃金
物価
企業収益
27
(注)賃金は、毎勤・全産業30人以上の時間当たり現金給与。物価は、CPI総合。企業収益は、法人季報・全産業全規模の営業利益。
(資料)厚生労働省、総務省、財務省、内閣府
-5 0 5 10 15 20 25
山:00/4Q 谷:02/1Q 四半期
-12 -9 -6 -3 0 3 6 9 12 15 18
山:08/1Q 谷:09/1Q 四半期
日本の予想物価上昇率と潜在成長率には明確な正の相関関係
図表28
日本 米国
5
3
4
(前年比、%) (前年比、%) 3
3
4
人口一人当たり潜在成長率(左目盛)
(前年比、%) (前年比、%)
3
4
1
2
3
2
1
2
3
中長期的な予想物価上昇率(6〜10年先、右目盛)
1
2
-1
0
0
1
-1
0
1
4 5
(前年比、%) (前年比、%) 4 5
(前年比、%) (前年比、%)
ユーロ圏 英国
90年 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 90年 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
4
2
3
4
2
3
2
3
0
1
2
3
0
1
-1 1
90年 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
-1 1
90年 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
(資料)内閣府、コンセンサス・フォーキャスト、CBO、OECD等 28グローバルな投資家のリスク回避姿勢の動向が
金融市場の動きを大きく左右
図表29
長期国債金利 対独 プ ド 株価
(%)
2011年初 2012/7/24 直近
1.8 5.4 3.4 イタリア
2011年初 2012/7/24 直近
10,398.1 8,488.1 11,254.0
日本(日経平均) 18 4% +32 6%
長期国債金利の対独スプレッド
1.8 5.4 3.4
2.5 6.4 3.9
イタリア
スペイン
+3.6 -1.9
+3.9 -2.5
11,670.8 12,617.3 13,900.1
2,839.4 2,151.5 2,570.5
日本(日経平均)
米国(ダウ)
ユ ロ(EuroSTOXX)
-18.4% +32.6%
+8.1% +10.2%
9.6 26.8 9.7 ギリシャ +17.2 -17.1
100.0 85.3 95.4
ユーロ(EuroSTOXX)
新興国
-24.2% +19.5%
-14.7% +11.9%
ファンド資金フロー
0.8 (%)
名目実効為替レート
(%、プラスが通貨高、マイナスが通貨安)
2011/1月→2012/7月 2012/7月→2013/1月
0.0
円 + 6.3 − 13.9 0.4
ドル + 3.2 − 2.6
1 2
-0.8
-0.4
新興国株式
先進国株式
ユーロ − 4.8 + 5.4
英国ポンド + 4.4 − 2.3
韓国ウォン 1 2 +65
29
(注)1. 新興国の株価は、MSCI新興国株価指数。2011年初を100としている。
2. ファンド資金フローは、新興国株式・先進国株式ファンドへのネットフローを、それぞれのファンドの総資産で除した値。
(資料)Bloomberg、EPFR Global、BIS
-1.2
11 12 13 年
韓国ウォン − 1.2 + 6.5
2000年代半ばの円安局面において輸出や生産は増加
図表30
110
120
120
140
実質輸出(左目盛)
鉱工業生産(右目盛)
(季調済、2005年=100) (季調済、2005年=100)
80
90
100
80
100
60
70
40
60
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

60 (2005年=100、逆目盛)
円安
80
100 円高
120
140
160
名目実効為替レート
実質実効為替レート
(資料)経済産業省、日本銀行、BIS 30
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
年中長期的な成長率は上昇していない
図表31
為替レート・輸出・実質GDP成長率
6 60
(前年比、%) (2000年=100、逆目盛)
円安
70
80
4
円高
90
2
100
110
2
0
120
-4
-
実質GDP(うち純輸出)
実質GDP(うち国内需要)
名目実効為替レート(右目盛)
実質実効為替レ ト(右目盛) 130
-6 140
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
実質実効為替レート(右目盛)
31
(注)名目実効為替レートとは、複数の名目為替レートを貿易ウエイトで加重平均することにより、各国通貨の総合的な価値を計測したもの。実質実効為替レー
トとは、各々の名目為替レートについて二国間の物価上昇率の違いを調整したうえで(実質為替レートを算出)、複数の実質為替レートを貿易ウ
エイトで加重平均することにより、一国の総合的な対外競争力を計測したもの。
(資料)内閣府、BIS
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年
マネーは増加している
図表32
140 200
実質GDP
消費者物価
(2000年=100) (2000年=100)
マネーと物価の関係
150
175
120
130 マネーストック
貸出残高
マネタリーベース(右目盛)
110 125
75
100
90
100
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年
1
2
消費者物価指数・総合(除く生鮮食品)
(前年比、%)
-1
0
1
(資料)内閣府、総務省、日本銀行 32
-2
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 年日本銀行は多額の国債買入れにより資金を供給、
民間金融機関は貸出よりも国債保有を増加させている
図表33
日本銀行 預金取扱機関・資産
資産 負債・純資産
(兆円) (兆円) (兆円)
1,400
1,600
140
160(兆円)
140
160(兆円)
1,000
1,200
100
120
100
120
600
800
60
80
60
80
400
600
40
60
40
60
0
200
98年末 07年末 12/9月末
0
20
98年末 07年末 12/9月末
0
20
98年末 07年末 12/9月末
(資料)日本銀行 33
98年末 07年末 12/9月末
貸出 国債
日銀当座預金 その他
98年末 07年末 12/9月末
銀行券 当座預金 その他
98年末 07年末 12/9月末
国債 その他
日本銀行は今後2年間に新たに60兆円超の資金供給を行う予定
図表34
「資産買入等の基金」と「貸出支援基金」の積み上げ状況
140 (兆円)
110
120
130
貸出支援基金(予定)
貸出支援基金(実績)
80
90
100 資産買入等の基金(予定)
資産買入等の基金(実績) 物価安定の目標の実現を目指し、
実質的なゼロ金利政策と
金融資産の買入れ等の措置を
60
70
80

それぞれ必要と判断される時点
まで継続する
30
40
50
当分の間、毎月、
長期国債2兆円程度を
含む 兆 程度
0
10
20 13兆円程度
の買入れを行う
34
0
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130315a1.pdf

[削除理由]:この投稿に対するコメントとしては場違い。別の投稿にコメントしてください。
05. 2013年3月16日 08:55:08 : xEBOc6ttRg
国際比較からみた設備投資の動向:マンスリー・トピックスNo.017

http://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2013/0315/topics_017.pdf

日本経済は 2009 年第1四半期が景気の谷となり、その後は東日本大震災による一時的
な落ち込みを除けば、2012 年半ばまで緩やかな上向きの動きを維持したが、2012 年央以
降、世界経済の減速等を背景に、景気は弱い動きとなった。ただし、足下では、海外景
気の底堅さや各種経済政策等を背景に、マインドの改善にも支えられ、持ち直しの動き
が現れてきている。
この間、国内民間設備投資(以下では設備投資と略す)は、総じてみれば低調な状況
が続いている。これについてGDP統計を用いて推移を確認すると、リーマンショック
を契機とした景気後退により、2008 年第4四半期から 2010 年第2四半期に底打ちする
まで大幅な減少が続いた。その後は 2011 年第2四半期の東日本大震災による若干の落ち
込みや同年第4四半期の急増1
もあったが、水準をみると、足下まで、リーマンショック
直前の 2008 年前半の水準までは回復していない(図1)

* 本レポートの内容や意見は執筆者個人のものであり、必ずしも内閣府の見解を示すものではない。
1
この背景には、需要側統計である法人企業統計季報における設備投資の急激な増加が考えられ
る。やや仔細にみると、特に非製造業が大きくプラス寄与しており、中でも中小企業の建設業や
大・中小企業の小売業が寄与している。一方で、製造業では窯業・土石業のプラス寄与が大きい。
こうしたことから、復旧・復興関連投資が増加した可能性が考えられる。
図1 実質設備投資の推移
(備考)1.内閣府「国民経済計算」、財務省「法人企業統計季報」、経済産業省「鉱工業総供給表」により作成。
2.法人企業統計季報はソフトウェアを除くベース。SNA の設備投資デフレーターを用いて実質化。
3.季節調整値。 2
本稿では、我が国の設備投資が低迷している要因について、国際比較からの考察を交
えながら検討していく。
1.日米欧NIES諸国の設備投資動向
(設備投資の低迷は欧米諸国にも共通)
はじめに、リーマンショック以降の我が国の設備投資の推移を他国と比較することで、
回復力の程度を確認する(図2)。アメリカ、ユーロ圏(ドイツ含む)、ドイツ、イギリ
スと比較すると、我が国同様、これらの諸国・地域の投資水準は、リーマンショック以
前まで回復していないことがわかる。アメリカでは、設備投資減税や景気の持ち直しに
伴う企業の投資マインドの改善等を背景に、設備投資の回復は進展しているものの、そ
の水準はリーマンショック以前まで至っていない。イギリスにおいても、建設業や鉱業
等一部業種の投資増加を背景に緩やかな持ち直しとなっているものの、アメリカ同様に、
その水準はリーマンショック以前よりも低くなっている。ユーロ圏では、南欧諸国を中
心とした欧州政府債務問題による需要減退や信用収縮等を背景に、足下まで弱い動きが
続いている。ユーロ圏の中でも、ドイツでは回復が急速に進展しているが、この背景に
はギリシャ財政危機顕在化以降に進んだユーロ安や大型の景気刺激策を実施した中国な
どアジア新興国の需要を取り込む形で輸出が顕著に増加したこと等が考えられる。ただ
し、2011 年第4四半期以降は欧州政府債務危機の再燃から南欧諸国を中心にユーロ圏内
の需要が低迷し、企業の投資マインドが大きく冷え込んだことから、やや失速している。
(回復力の強いNIES諸国の設備投資)
次に、NIES諸国(韓国、台湾、香港、シンガポール)と比較してみよう(図3)。
NIES諸国は我が国や欧米諸国・地域と異なり、リーマンショック以降の回復は急速
図2 日米欧諸国の設備投資の推移
(備考)1.内閣府「国民経済計算」、各国統計により作成。
2.ユーロ圏は総固定資本形成、ドイツは非居住用投資。
3.季節調整値。実質値。3
に進展し、足下の設備投資は、台湾を除き高い水準にある。台湾については、欧州をは
じめとする外需の落ち込みからIT部品企業の設備投資が縮減したこと等を背景に 2011
年半ばから投資はやや低迷したが、2012 年に入り持ち直し傾向が見られる。NIES諸
国の中で経済規模が最も大きい韓国では、設備投資が急速に持ち直し、リーマンショッ
ク以前を上回る高い水準で推移してきた。ただし、2012 年に入り、輸出不振等の影響か
ら減少傾向となっている。
総じてみて、日米欧諸国と異なり、リーマンショック以降、NIES諸国での設備投
資回復が進展している背景には、輸出依存度が高いこと、とりわけ景気刺激策によって
需要が急増した中国向け輸出への依存度が高いこと2
等が考えられる。また、リーマンシ
ョック後、「質への逃避」から、NIES諸国の通貨が減価し3
、結果的に価格効果によ
って輸出が促進されたことも、設備投資回復の一因になったとみられる。
以上から、設備投資の低迷は、欧米諸国で日本と同様に見られる傾向であり、NIES諸
国は異なる状況であることがわかる。
我が国の設備投資低迷は、リーマンショック後に生じた円高デフレによるところも小さく
ない4
が、次節では、アメリカと欧州地域のドイツ、イギリスとの国際比較を通じて、我が国
2
2009 年の輸出依存度は、それぞれ韓国:43.4%、台湾:53.7%、シンガポール:151.8%、
香港:148.9%。中国向け輸出割合は、韓国:23.9%、香港:51.2%、台湾:26.6%、シンガ
ポール:9.7%。
3
内閣府(2009b)では、特に韓国ウォンは、08 年9月以降、米ドルだけでなく台湾元や中
国元に対しても減価したことで、韓国製品の価格競争力を高めて輸出の持ち直しを牽引した
と考察している。
4
デフレによる設備投資抑制の考察については、内閣府(2010)では、実質金利等を用いた設備
投資関数を推計し、リーマンショック後においては、デフレと関連する実質金利や実質負債要因
が明確な投資抑制要因となっていることを指摘している。また、内閣府政策統括官(経済財政分
(備考)
1.内閣府「国民経済計算」、各国統計により作成。
2.台湾は総資本形成、香港は総固定資本形成の値。
3.香港を除いて季節調整値。香港は後方4期移動平均。実質値。
図3 日・NIES諸国の実質設備投資の推移 4
の設備投資低迷要因を検討していく。
まず、中長期的視点からの考察では、期待成長率と資本生産性(資本効率)が設備投資に
与える影響について検証する。次に、短期的視点からの考察では、稼働率や貸出態度等が設
備投資に与える影響について検証する。
2 中長期でみた日本の設備投資低迷の背景
(我が国の成長率予測は他国と比べて低水準)
中長期的視点からの設備投資抑制要因として、第一に、期待成長率の影響について検
証する。設備投資と期待成長率の関係は以下のように考えられる。企業は将来の設備投
資をどの程度実施するか決定する際、今後の需要の成長率を想定し、それに見合った最
適資本ストックを実現するように設備投資の水準を設定する。したがって、期待成長率
が低下すれば必要資本ストック水準が低下し、設備投資は抑制されることになる。
日本では、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」によって企業経営者の主観的
な期待成長率に関する調査が実施されているが、欧米諸国については同種の統計を用い
た国際比較は困難とみられる。そこで、OECDが公表している成長率予測を期待成長
率の代理変数として活用し、比較を行う(図4)。
2012 年から 10 年間の成長率予測をみると、我が国の成長率予測の平均値は長期間に
析担当)(2012) では、実質金利の高止まりによる需要損失として、デフレ状況下でのGDP減
少の大半は設備投資の減少に起因したとする試算を行っている。また、円高による設備投資抑制
の考察については、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2010)で企業の輸出減少や収益悪化、
それらに伴う設備投資抑制について考察を行い、円高が総じて設備投資を下押しする傾向がある
ことを明らかにしている。その他にも、円高デフレによる我が国経済への影響については、堤・
市橋・長内・木下(2013)において多くの観点から考察を行っている。
(備考)OECD「Economic Outlook No 91 - June 2012 - Long-term baseline projections」により作成。
図4 OECDによるGDP成長率と予測値 5
なるほど、低下していき、欧米諸国と比べて低いことがわかる。今後 10 年程度の期間で
みた場合、我が国経済への成長期待はそれほど高くなく、期待成長率が高まらない一因
になっているとみられる。
(企業の期待成長率は低下傾向)
こうした成長率予測の低下が、前述の内閣府「企業行動に関するアンケート調査」に
おける期待成長率と整合的であるかどうか、確認しよう(図5)。期待成長率は、先行き
1年間、3年間、5年間のいずれも低下傾向にあることがわかる。このうち、例として
先行き1年間の値をみると、81 年度から 89 年度までの期間平均は+3.8%程度であった
が、90 年度から 99 年度は+1.6%程度まで低下、2000 年度から 2012 年度まではさらに
+1.0%程度まで低下している。先行き3年間、5年間の場合も同様に期間平均は徐々に
低下傾向にある5

こうした期待成長率の動きは、設備投資の伸び率とおおむね連動した動きをしており、
企業の期待成長率が設備投資に影響を及ぼすことが示唆される6
。我が国の設備投資の抑
制要因として、期待成長率の低下が影響している可能性があると言えよう。
(資本ストック循環からみた期待成長も低下)
こうした期待成長率の低下は、企業が想定する中長期的な最適資本ストック水準を引
き下げることで、早期に資本ストック調整過程に移行させることになり、設備投資の抑
制要因になると考えられる。そこで、資本ストック循環図からみた期待成長率を確認し
5
同調査では製造業と非製造業それぞれの期待成長率も集計しているが、両者に差異はほとんど
ない。
6
内閣府(2005)では、期待成長率が高い企業ほど設備投資計画が高いことや能力増強や省力化な
どの積極的投資をより増加させる傾向がみられることを試算から明らかにしている。
図5 企業行動に関するアンケート調査と設備投資(全産業)
(備考)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」、内閣府「国民経済計算」により作成。 6
よう(図6)。資本ストック循環図では、縦軸に設備投資の前年比、横軸に前年の設備投
資・資本ストック比率を取り、両者を乗じた値が期待成長率、資本係数トレンド、除却
率の総和となる関係にあることから、資本係数トレンドと除却率を一定すると期待成長
率に見合った双曲線を描くことができる。日本の循環図をみると、95 年初頭の期待成長
率は2%程度であったが、2000 年代には+0.7%程度の水準が循環の中心点となってお
り、投資水準の低下と資本ストック循環の中心点も左下にシフトしている。この変遷か
ら、資本ストック循環から示唆される中長期的な期待成長率は低下していることがわか
る。一方、アメリカやイギリスでは資本ストック循環の中心点が大きく左下方向にシフ
トしているわけではなく、我が国とは動きが異なる。ただし、ドイツでは 1995〜2000 年
の時点から、2000 年代に入って循環の中心点が左下方向にシフトしており、我が国と同
様の傾向であることがわかる。
資本ストック循環の動きに違いが生じる背景には、各国の産業構造の差異もあると考
えられる。我が国とドイツではアメリカとイギリスに比べて製造業比率が高く、外需拡
図6 資本ストック循環図の国際比較
(備考)1.内閣府「民間企業資本ストック」、「国民経済計算」、各国統計により作成。
2.点線は期待成長率に見合った水準の双曲線。算出に必要な資本係数の変化率と除却率は 2000 年から 11 年の
平均値。
3.算出される期待成長率の水準は資本係数の変化率や除却率の設定により大きく変わるため、相当の幅を持っ
てみる必要がある。7
大による生産誘発効果も高いとみられる7
。我が国とドイツでは、2005 年前後から設備投
資の拡大により期待成長率が持ち直したという動きが共通しており、この背景には輸出
増加により製造業が投資全体を牽引した可能性がある。この点について、次に検証する。
(非製造業の期待成長率の低下が顕著)
資本ストック循環から示唆される中長期的な期待成長率の低下の要因を探るため、我
が国の製造業と非製造業別の資本ストック循環をみてみよう(図7)。
製造業では 95 年から 2002 年にかけて循環の中心点がやや左下方向にシフトしたよう
にもみえるが、2003 年以降の景気拡大局面に伴う設備投資の上昇から期待成長率も急速
に高まった。リーマンショック後、再び投資は減少しているものの、中長期的に見て循
環の中心点が全産業ベースの循環に比べて大きく左下にシフトしたとは言い難い。
一方、非製造業では全産業ベースとほぼ同様の、循環の中心点の左下シフト傾向がみ
られ、期待成長率水準の低下がみられる動きとなっている。また、2003 年からリーマン
ショック前までの製造業でみられた設備投資拡大による資本ストック循環上の期待成長
率の上昇はみられない8

こうしたことから、特に非製造業の設備投資は低い水準の期待成長率に見合った設備投資
7
2000 年以降の日本とドイツの GDP に占める製造業割合は約 20%程度であるのに対して、アメリ
カは 14%程度、イギリスは 12%程度と相対的にシェアは小さい。
8
鈴木(2008)によれば、製造業と非製造業の動きの違いは、主に輸出にあり、非製造業では外需
拡大により直接的に生産が誘発されない産業であることから、生産能力拡大の設備投資に十分結
びつかなかったと考察している。
図7 我が国の資本ストック循環図(製造業・非製造業別)
(備考)1.内閣府「民間企業資本ストック」、「国民経済計算」、各国統計により作成。
2.点線は期待成長率に見合った水準の双曲線。算出に必要な資本係数の変化率と除却率は 2000 年から 11
年の平均値。
3.算出される期待成長率の水準は資本係数の変化率や除却率の設定により大きく変わるため、相当の幅を
持ってみる必要がある。 8
しか実施しておらず9
、今後の投資拡大に向けては成長期待を高めることが課題となろう。
(低下傾向が続く資本生産性)
中長期的視点からの設備投資抑制要因として、次に、資本生産性の影響について検証
する。資本生産性とは資本投入あたりの生産効率であり、資本係数(資本ストック/GDP)
の逆数である。資本生産性は、通常、資本蓄積が進展するにつれて逓減すると考えられ
ており、資本生産性が低下すると企業は相対的に収益の低い資本投入を手控えることか
ら、設備投資は抑制される。
こうした観点から、ここでは日本の資本生産性の状況について、国際比較を通じて考
察しよう(図8)。図の縦軸は資本生産性(資本係数の逆数)を表し、この値が下がるほ
ど資本生産性が低いことを意味する。この図から明らかなことは次の通りである。
第一に、各国共通に 91 年から比較して低下傾向にあることがわかる。よって、資本蓄
積による資本生産性の低下は必ずしも我が国特有の問題ではなく、既に資本蓄積が十分
にある先進国共通の課題である。
第二に、我が国の資本生産性低下の幅が大きい。アメリカやイギリスに比べて我が国
9
内閣府「民間企業資本ストック統計」から実質設備投資額を確認すると、95 年以降から非製造
業において設備投資が低下傾向にある業種は主に電気・ガス・水道業や農業、建設業が挙げられ
る。
図8 資本生産性の推移
(備考)1.EU KLEMS database、JIP データベース、内閣府「民間企業資本ストック」、「国民経済計算」等、OECD、各
国統計により作成。
2.日本については 2006 年、その他の国については 2007 年まで EU KLEMS のデータを用いており、その後の期
間については各種の代替統計を用いた補完推計等により、2012 年までの値を試算した。なお、試算につい
ては、相当の幅を持ってみる必要がある。
3.資本労働比率の比較に際して、資本については OECD の 2008 年の購買力平価レートを参考に、自国通貨ベ
ースによる実質資本ストックを米ドルに換算。9
やドイツは相対的に資本生産性の低下が進んでいる。
第三に、横軸の資本労働比率と合わせてみると、日本とドイツでは資本労働比率が急
速に上昇し、資本生産性が低下している。
期待成長率と同様に、我が国とドイツ、アメリカとイギリスに差異が生じる背景の一
つとして、産業構造の差異があると考えられる。次に、この点についてみてみよう。
(非製造業の資本生産性が低下)
日本の資本生産性の推移を製造業、非製造業別に確認すると以下のことが明らかであ
る(図9)。
製造業の資本生産性をみると、73 年と 2000 年ではそれほど変わらず、2012 年にはや
や落ち込んでいるものの、73 年、2000 年の水準と比べるとそれほど急激な低下ではない。
73 年から 2012 年にかけて資本労働比率は大きく上昇しているものの、資本生産性が同
程度の低下を見せていない10ことから、資本蓄積の進展(および資本装備の高まり)を相
殺するような、技術進歩に伴う資本生産性の向上に結び付いている可能性がある11

10 EU KLEMS database を用いて 1973 年から 2006 年までの業種別の資本生産性をみると、製造業
では特に電気機械の資本生産性向上が全体を下支えしたと考えられる。
11 ここでの資本生産性は実質付加価値額を実質資本ストックで除した値となっており、稼働率に
よる調整を行っていない。この場合、分母の資本ストックは通常、上昇トレンドになる一方、分
子の付加価値は景気によって大きく変動することがある。したがって、2000 年代半ばからリーマ
ンショック前までの製造業の資本生産性上昇は、輸出増加等を背景とした景気拡大による分子の
増加によってもたらされただけであり、資本生産性が上昇したわけではない可能性も考えられる。
ただし、稼働率調整を行って変動を調整したとしても、1970 年代から 2012 年までの中長期的な
推移を考えた場合、製造業の資本生産性が非製造業と比べてそれほど低下していないという結論
は変わらないとみられる。
図9 我が国の資本生産性の推移(製造業・非製造業別)
(備考)1.EU KLEMS database、JIP データベース、内閣府「民間企業資本ストック」、「国民経済計算」等により作成。
2.2006 年までは EU KLEMS のデータを用いており、その後の期間については各種の代替統計を用いた補完推計
等により、2012 年までの値を試算した。なお、試算については、相当の幅を持ってみる必要がある。
3.非製造業には電力業も含む。 10
一方、製造業と異なり、非製造業の資本生産性の上昇局面は一度もみられず、足下ま
で低下傾向が継続している。資本労働比率は製造業と同程度、もしくはそれ以上に進展
していることから、資本装備の高まりが技術進歩等を伴っておらず、資本蓄積の進展が
資本生産性を低下させている可能性が示唆されよう12

(対外投資比率はアメリカでも上昇)
ここまでの分析から明らかにした期待成長率と資本生産性の低下により、国内での設
備投資に消極的となった企業が、海外事業に成長の活路を見出すことで海外投資に積極
的になるという変化が現れる可能性もある。この点について検証しよう。
ここでは、対外直接投資額(流出)と国内設備投資額の比率を算出して、日本とアメ
リカの推移を確認する13(図 10)。
図から明らかなように、我が国の対外直接投資比率は徐々に高まっており、2012 年に
は 30%程度の水準まで上昇しており、先に述べた期待成長率の低迷や資本生産性の低下
が、国内外投資の投資先選択に一定程度の影響を及ぼしている可能性もある。対外直接
投資比率の上昇はアメリカでもみられているが、我が国の状況をより詳しくみると、特
にリーマンショック後、円高デフレが進行するなかで、製造業の海外移転が加速する動
きがみられている14。グローバル化が進展する経済状況においては、むしろ対外直接投資
による果実を国内の事業活動(イノベーション等)に結び付けることで、国内設備投資
も同時に喚起していくことが課題となろう。

12 製造業と同様に、非製造業でも EU KLEMS database を用いて業種別に確認すると、非製造業で
は主に農業や不動産業、医療・福祉業等の資本生産性が低下傾向で推移している。
13 欧州諸国の場合、直接投資のフロー額はネット(流出−流入)の公表のみとなり、同様の比較
は困難であった。
14 詳細については堤・市橋・長内・木下(2013)を参照。
図 10 対外直接投資比率の推移
(備考)1.財務省「国際収支状況」、内閣府「国民経済計算」、アメリカ商務省により作成。
2.対外直接投資比率は、対外直接投資額(流出)を GDP 統計の民間設備投資額で除して算出。 11
3 短期でみた日本の設備投資低迷の背景
ここからの分析では、前節よりも短期の視点から、日本の設備投資低迷の要因を考察
する。繰り返しになるが、我が国の設備投資抑制の背景には、円高デフレによる実質金
利の高止まり等が考えられるが、本稿では、それ以外の要因である@貸出態度、A稼働
率の動きを国際比較から考察する。
(日本の貸出態度は緩和傾向)
まず、貸出態度について考察しよう。リーマンショック後、特に欧米諸国では金融機
関の貸出態度の厳格化が続いて設備投資を抑制している可能性が考えられるが、我が国
にも当てはまることなのだろうか。これを確認するために、リーマンショック以降の各
国の貸出態度の推移を比較すると、イギリスを除いて15日本、アメリカ、ドイツでは 2008
年末から 2009 年初頭に貸出態度が最も厳格となっている(図 11)。
中でも、アメリカの貸出態度はリーマンショック以前から厳格化が始まっており、2008
年第4四半期には日本、ドイツ以上に急激に厳しくなっている。その後、各国とも貸出
態度の緩和が進んでいる状況であるが、中でも我が国は他国と比べても貸出態度の緩和
が足下まで続いている。我が国では貸出態度が設備投資の抑制要因になっているとは考
えづらい16

15 イギリスの金融環境は、リーマンショック後に急速に悪化した他国と異なり、2007 年後半のノ
ーザンロック銀行問題を契機に悪化していた。2008 年前半には信用供給策が導入されるなど、早
い段階で対策が講じられており、他国と比べて貸出態度の改善時期が早まったと推察される。
16 ただし、先述したように、我が国では他の金融要因として実質金利の高止まりが設備投資を抑
制している点を、内閣府(2010)や内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2012)では考察し
ている。
図 11 貸出態度(大企業向け)の推移
(備考)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、各国統計により作成。 12
(製造業の稼働率は他国と比べて低迷)
次に、製造業の稼働率について考察する。我が国は、アメリカやイギリスよりも製造
業の割合が大きく、製造業の稼働率が低いままでは設備投資全体が大きく伸びないと推
察される。そこで、リーマンショック以降の製造業の稼働率をみてみよう(図 12)。リ
ーマンショックが起こった 2008 年第3四半期以降、稼働率は急激に低下したものの、そ
の後は緩やかに持ち直している点は各国共通である。しかし、我が国の推移を比較する
と、足下まで 2008 年第3四半期の水準には一度も戻っておらず、他国と比べて低水準の
まま推移している。以上から、日本では稼働率の低迷による設備投資抑制への影響が他
国以上に大きい可能性が示唆される。
こうした稼働率の停滞は、企業の設備過剰感を高めて設備投資が抑制される面も考え
られる。これを我が国の設備過剰感の推移から確認しよう(図 13)。
図 12 稼働率(製造業)の推移
(備考)1.経済産業省「鉱工業指数」、各国統計により作成。
2.季節調整値。
図 13 我が国の設備過剰感の推移
(備考)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」により作成。13
1990 年代から 2000 年代初頭に、設備過剰に対する懸念が高まったが、その後に調整
が進展した。リーマンショックによって再び過剰感が大きく高まったものの、その後は
足下まで再び調整が進展しており、全産業でみた現在の水準は過去と比べて高いわけで
はない。しかし、製造業の動きをみると、足下では再び過剰感がやや高まっている。
(稼働率低迷の背景には輸出の弱さ)
我が国の稼働率低迷の要因としては何が考えられるだろうか。リーマンショック時の
急激な生産の落ち込みの背景には輸出の減少があると推察される17。すなわち、リーマン
ショック以降の輸出回復力が弱く、製造業の生産が大きく増加しないため、結果として
稼働率が低迷したまま推移している可能性がある。この点について、輸出の回復力を確
認しよう(図 14)。図から明らかなように、リーマンショックを期に各国の輸出が大き
く減少している点は共通しているが、稼働率と同様に、輸出においても日本は 2008 年第
3四半期水準には到達しておらず、他国と比べて低水準で推移していることがわかる。
我が国の輸出の弱さが続く背景としては円高による価格競争力低下や生産拠点の海外シ
フト等も考えられる18
。輸出がリーマンショック以前の水準以下で推移している現在の状
況では、短期的には稼働率の上昇に伴って設備投資が大幅に改善するという期待はしづ
らいと言えよう。
(輸出と設備投資の相関関係は製造業の方が強い)
上記から、短期でみた日本の設備投資抑制要因が輸出の弱さに起因する製造業の稼働
17 内閣府(2009)では、リーマンショックによる外需落ち込みの影響により、日本の鉱工業生産
が大きく落ち込んだと考察している。
18 内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2012)では、半導体など電子部品による競争力の低
下や自動車産業における海外生産移転の進展、リーマンショック以降の円高傾向が輸出の減少に
寄与したと考察している。
図 14 輸出(財貨・サービス)の推移
(備考)1.内閣府「国民経済計算」、各国統計により作成。
2.季節調整値。 14
率の低迷による可能性があることを示唆した。そこで、輸出と設備投資に相関関係がみ
られるどうか、産業別に確認しよう(図 15)。製造業の設備投資と財貨輸出、非製造業
の設備投資とサービス輸出の相関関係をみると、製造業の方が非製造業よりも傾きが大
きく、図には記してないが、相関係数も大きい。輸出に占める財・サービスの比率をみ
ると、財の方が 80 年代から継続して 80%以上と高い割合を占めていることから、相対
的に見て輸出の動向は製造業の設備投資により大きな影響を与えると言えるだろう。実
際、産業別の投資の推移をみると、製造業の方がリーマンショック時の落ち込みが大き
く、これは輸出の減少による影響を相対的に多く受けたことが背景にあると推察される。
図 15 日本の輸出と設備投資の関係(製造業、非製造業)
(備考)1.内閣府「国民経済計算」、「民間企業資本ストック」により作成。
2.散布図の太線は単回帰の近似曲線。
3.期間は 1992 年から 2011 年。2005 年を基準として指数化。 15
4 まとめ
本稿では、リーマンショック以降、日本の設備投資が低迷している要因を中長期、短期に
分けて考察を行った。その結果、明らかとなった点を要約すると以下になる。
第一に、中長期にみると、日本では他国と比べて期待成長率が低下している。これにより、
資本ストックの調整過程局面入りが早期に促され、結果として設備投資が抑制されていると
推察される。特に、資本ストック循環からみれば、非製造業の期待成長率が低下している。
第二に、資本生産性についても、日本ではアメリカ、イギリスと比べて中長期的に低下傾
向にある。特に非製造業では資本生産性の低下が 70 年代から継続してみられる。
第三に、短期でみると、日本では他国に比べて輸出の弱さが足かせとなって稼働率が低迷
し、これが製造業の設備投資を抑制している可能性がある。
本稿の考察から、今後の設備投資拡大に向けては短期的には輸出の動向、中長期的には資
本生産性の改善や期待成長率の上昇が課題になると言える。
中長期的にみれば、非製造業の資本生産性や期待成長率の向上が必要となる。これを
実現するためには、例えば、規制緩和等を通じて新規企業の参入を促して新陳代謝を高
め、多種多様なサービスが提供されることで消費者の潜在的なニーズが満たされる状況
を創り出すことで、中長期的に所得消費の好循環を拡大させていくこと等が課題となる。
短期でみた製造業の設備投資の低迷に対しては、輸出の動向が鍵を握る。円高デフレ
の克服や輸出競争力強化に向けた国内イノベーション促進や効率性の高い生産設備の導
入促進等が課題となろう。 16
(参考文献)
石崎寛憲・川本卓司(2006)「近年の製造業の設備投資増加について」『日銀レビュー』日本銀行
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2006/data/rev06j17.pdf
鈴木将之(2008)「設備投資から見た景気循環」第一生命経済研レポート 2008.10
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/0811_7.pdf
堤雅彦・市橋寛久・木下怜子・長内智(2013)「デフレ脱却の意義と課題」マンスリー・トピッ
クス No. 016 内閣府(2013 年2月)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2013/0227/topics_016.pdf
内閣府(2004)『平成 16 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je04/04-00000pdf.html
内閣府(2005)『平成 17 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je05/05-00000pdf.html
内閣府(2006)『平成 18 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je06/06-00000pdf.html
内閣府(2007)『平成 19 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07p00000.html
内閣府(2008)『平成 20 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je08/08p00000.html
内閣府(2009a)『平成 21 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je09/09b00000.html
内閣府(2009b)『世界経済の潮流 2009 年 2009 年 II −雇用危機下の出口戦略:景気回復はいつ?
出口はどのように?−』
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa09-02/index-pdf.html
内閣府(2010)『平成 22 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je10/10b00000.html
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2010)『日本経済 2010−2011』
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2012/1222nk/index.html
内閣府(2011)『平成 23 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/11b00000.html
内閣府(2012)『平成 24 年度 年次経済財政報告』
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/index.html
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2012)『日本経済 2012−2013』
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2012/1222nk/index.html


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06. 2013年3月16日 09:03:38 : xEBOc6ttRg
http://www.goldmansachs.com/japan/gsitm/report/pdf/viewpoints_110.pdf
GSAM 会長 ジム・オニールの視点 欧州の栄光
今年もまた、マンチェスター・ユナイテッドにとってのヨーロピアン・ドリームが終わりを迎え、しかも今回は
厳しい環境の中、惜しくも敗退となりました。先週火曜日のマンチェスターがすべてを物語っています。欧州チャ
ンピオンズリーグのベスト16戦のさなかに原稿を書いていると、思い出すのは1968年、私の子どもの頃のことで
す。学校をいつもより早く終え、家に帰り、地元の駅に急いで駆けつけて汽車に乗り、フィールド前に列をなす
群衆に混じって歌いながら入場した、そんな思い出です。その時は、無敵の伝説的チームであるレアル・マドリー
ドを1対0で下すというこれ以上ない喜びを目の当たりにしました。先週の雰囲気も、あの
・ ・
瞬間までは、ちょうど
1968年と同じように1対0での勝利が再び現実になるのではと有頂天になるほどでした。すると、ナニの一発退場
に、すかさずレアル・マドリード監督のジョゼ・モウリーニョの采配が光り、試合は終わってしまいました(1
対2で、マンチェスター・ユナイテッドの逆転負け)。いつも欧州のいたるところで繰り返されている言葉です
が、「また来年があるさ」と思うことにしましょう。

イタリア
この試合のことはさておき、今週一杯は、イタリアのコモ湖畔のチェルノッビオに滞在し、ヴィラデステ・ホテ
ルで行われた年次国際経済会議に出席していました。マンチェスター・ユナイテッド敗退のことは、数日間忘れ
たいと思っていたのですが、サッカーに熱狂的なイタリアの人たちと話していると、とても無理な状況で、天気
もずっとマンチェスターを思い出すような雨続きでした。
先週お届けしたViewpointsがマスコミから注目されているかもしれないという漠然とした感覚はあったのです
が、ヴィラデステに着くまでは、実際にどの程度注目されているかには気付いていませんでした。マスコミの人
たちが私を追いかけ回す様子からは、あたかも私がウェイン・ルーニーに関する内部情報を持っているかのよう
でしたが、実は、彼らの関心は、私がViewpointsの中で述べた人気コメディアンのグリッロ氏率いる政党「五つ
星運動」についてのコメントにあったようです。「五つ星運動」の選挙での躍進をかなり前向きなものとして評
価したことが、多くの人々にとって驚きであったことに加え、陰謀説を唱える人々は、どうやらこれはゴールド
マン・サックスとヘッジファンドの共謀によるユーロ崩壊のための企みであると考えていたようです。なかなか
面白い発想ではあります。しかし、そうした思いとは反対に、「五つ星運動」が躍進する展開は、反対方向への
動きにつながるのではないかと、私は見ているのです。多くの方に説明したのは、大きな反動がなければ、最終
的にユーロは失敗に終わってしまうということです。経済成長がなく、失業率が上がり続け、しかも相互間の貿2
易が縮小傾向にある国同士の通貨連合は、とても現実味がないと思われるのです。グリッロ氏と彼の支持者たち
の政治状況を大きく変革させようとする志は、非常に重要であると私には感じられ、こちらの方が、さまざま飛
び交っている漠然とした、そして多くの場合奇異でさえある経済政策提言に比べれば、よほど意義あるものと思
われるのです。
私のプレゼンテーション(最終ページ図表1をご覧下さい)では、もう少し真剣な議論を行っており、そこには
ドイツの輸出のグラフが示されています。これを見ると、大きな変化に気付きます。私がよくこのトレンドにつ
いて何度か同じ説明を繰り返しましたが、それは、ドイツが2020年までに通貨同盟を組むとすれば、フランスと
でなく中国との間で組む方が合理的であるというものです。案の定、多くの出席者は、この考え方はとても受け
入れられるものではないと感じられたようで、「データが正確ではないのだ」、「こんなトレンドは続かない」
あるいは、おなじみの「ドイツは、ユーロが弱いことでメリットを受けており、(通貨としてはより強い通貨で
ある)ドイツマルクがまだ存続していたなら、そうはいかなかったのだ」等と、さまざまな反論がありました。
こうした反論は、まさに、欧州に幅広く蔓延する問題を象徴しています。変化、あるいは変革を受け入れようと
しないならば、経済面での明るい未来がもたらされることはありません。世界は急速な変化を遂げつつあり、そ
の変化は貿易パターンの大きな変化をも伴っています。第二次世界大戦後の安定的な世界を目指そうとして生み
出されたさまざまな考え方も、状況の変化に対応していく必要があるのです。
野村総合研究所のリチャード・クー氏は、欧州で日本型の問題が起こりつつあると述べていました。欧州も日本
と同じようなバランスシート上の問題点に直面しているとした上で、これを解決するための、2つの興味深い提
言を行いました。第1には、政策立案者が、保有資産のリスク・ウェイトに差をつけるシステムを導入して、自
国の債券を保有する投資家を優遇すること(とても自由貿易の理念や、域内での資本移動は自由であるべきだと
いう精神に立脚したものとは思えませんが、ユーロを救済することを標榜して行われている特定産業に対する補
償金や金融取引税に関する指令等と言った他の提言も、同じようなものです)、そして第2には、財政協定を改
正して、バランスシート上の制約によってもたらされる財政上の制約について、独立性のある専門家の意見を聴
くことを可能にすることです。これに対して、そうした措置は不要であるとする論拠を述べる人々もおられまし
た。彼らの主張では、「資本移動は、一般に思われている程には、不合理な動きをしてはいない」という点に、
特に重きが置かれているようでした。
イタリア自身については、グリッロ氏が政府に影響力を持っているわけではないので、何か変化が起こりそうだ
という話は、あまり聞きません。これについて、私は、左派勢力がグリッロ氏との連携を望んでいるのではない
かと見ています。しかし、誰もそれが実行可能であるとは見ていないようです。もちろん、雨の中であっても、
コモ湖畔のこの場所でイタリアについて議論をすれば、この国の質の高さや資産を持っていることにすぐに気付
きます。現在の絶対的および相対的バリュエーションから判断すると、イタリアは、他の多くの国々に比べ投資
対象国としては優れていると思います。これらについては、最終ページ図表2をご覧下さい。今以上にやや混乱
した状況、再選挙、そしてドイツ政府、欧州連合、欧州中央銀行、そしてイタリア政権内での大きな人事異動。
イタリアの価値が引き出されるきっかけとして、こうしたことが起こる必要があるのかもしれません。しかし、
それが実現する可能性はあると考えています。あるいは、マンチェスター・ユナイテッドのように、またヨーロ
ピアン・ドリームに終わってしまうのでしょうか。3

グリッロ氏は、他の国にも影響を及ぼしえる。アベノミクスはその現れか?
「五つ星運動的な動きは、他の地域に伝染しつつある」と言う方々が何人かはいらっしゃいます。それによれば、
イギリス独立党や、安倍首相のリーダーシップの下にある日本も、これと似ているということです。何となく、
その意図するところは分かるような気がしますが、特に、日本のリーダーシップについては、そんなに話を飛躍
させてもよいのかという疑問は残ります。
確かに、金融政策立案者がスタンスを変えつつあることは感じられます。日銀内のタカ派勢力に属するある人物
から「新たな2%のインフレ目標が次第に受け入れやすいものになりつつある」との発言が出たことに、そうし
た変化が見られます。先週米国経済の好調を示すデータが発表されたことで、円が絶え間なく下落を続けている
ことにも、同じような兆候が見えます。昨年の秋、私がアベノミクスは市場にとって重要であると考え始めた頃、
円は2年以内に100円から120円のレンジにまで下落すると申し上げました。第1のステージは、国内の変化によっ
てもたらされ、第2の変化については、米国経済が一般に考えられている以上に好調であるというデータ発表が
前提となるとしました。金曜日の雇用統計と、先週の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数を
見ると、状況はそうした方向に向かっているように思えます。
こうした状況の中、中国が、引き続き漂っている通貨戦争的なムードについて発言し始めたことを興味深く見て
います。中国の発言は、他のどの国のものよりも重要です。1997年から1998年にかけての円の下落を、中国が
間接的に関与して終わらせたことを思い出します。その際、中国は、元の切り下げをにおわせて、米国財務省の
介入を思い止まらせ、円の下落にも歯止めをかけたのです。現在の状況は、その時とはまったく違いますし、円
安が(国際競争力を引上げるための意図的な行動にとどまらない)日本の国内需要押上げ政策の結果として起
こっているとすれば、中国はこれを許容すると考えられます。しかし、そう単純ではないのではと訝しく思いま
すし、疑問点もいくつかあります。

英国は、景気回復に向けて揺れている?
オールド・トラッフォード・スタジアムでの試合観戦とチェルノッビオでの会議の合間に、英国で開かれた大き
なイベントで講演する機会を得ました。ロンドンでのEEF全国製造業年次会議と、ファイナンシャル・アドバイ
ザーの団体であるトゥルー・ポテンシャルが、驚くことに、バーミンガムで行ったインベストメント・アドバイ
ザーズ会議です。例えば、極端に弱い製造業購買担当者景況指数(PMI)の発表後に、非製造業PMIが予想を上
回ると言った、景気の好不調を示す相矛盾したデータが引き続き交錯する中で、国民が政府によるより多くのア
クションを望んでいることが感じられました。もう少しすれば、財務大臣が、来るべき予算案にどのくらいの交
渉余地を持たせるのかが見えてきます。プランAは未だに「変更不可能」として提示されていますが、連立政権
が残り2年間の政権担当期間内で自己防衛をしようとすれば、何らかの譲歩が必要となるでしょう。おそらくマ
スコミでも憶測されている通り、プランAはマーク・カーニー新総裁の就任を間近に控えるイングランド銀行に
より多くの負担を負わせるものになると思われます。もし何の譲歩も行われず、報道されているほどの景気回復
が、マンチェスター・ユナイテッドの欧州での勝利と同様にいつ実現するとも分からないような状況になれば、
英国も「グリッロ氏」(大きな変化)を待ち望むこととなるでしょう。
イギリス独立党に関して言えば、報道で見る限りの知識しかありませんが、彼らが欧州域内で行っている発言は、4
決して自分たちのためになっていません。詳しい世論調査を見ると、欧州は未だに、少数の有権者の声を反映す
る世界であり、このことは、英国の欧州との関係を維持、または拡大さえも望んでいる財界にとっては、グッド
ニュースであると思われます。チェルノッビオでの講演では、財界を支持するロビー団体は、ドイツに影響を与
えている貿易のパターンが、われわれの多くにも影響を与えていることを、より強く、より明解に説明する必要
があると述べました。ただし、英国について言えば、その程度は、幾分小さくなっています。最終ページ図表3
では、英国の貿易パターンの変化を示しています。先々週の終わり頃に、ゴールドマン・サックスのケビン・デ
イリーとヒュー・ピルが、欧州連合は英国にとってメリットがあるのかについて詳述した報告書を発表しました。
しかし、私はこの点については、数年前に思っていたほどには明解でないと未だに思っています。特に、ユーロ
を存続させるためには、欧州の政策立案者たちが、ある意味明確に英国の障害になるような政策を導入すると考
えられるからです。特に、ロンドンがBRICsの首都となることを妨げるような策の導入が予想されるのです。

米国はさらに回復基調
先週発表された米国のデータが好調であったことから、2013年の実質GDP予測について、コンセンサスを上方
修正する動きが出て来ています。2012年の秋以来、当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジ
メントを指します)の予測は、コンセンサスをかなり大きく上回るものでしたから、我々としては嬉しく思って
います。こうした予測に基づいて、さまざまな投資戦略を立ててきたからです。もちろん、先週、そして最近の
Viewpointsでもご紹介した通り、こうした景気の好調は、いわば致し方なく米国が直面することとなった緊縮財
政が続いている中で起こっており、これは、欧州と好対照をなすものです。当然ながら、米国の債券、株式およ
び通貨市場も、こうした流れに呼応して動いています。このような展開がこれまで通り続くのかについては、さ
ほどはっきりとした確信が持てません。特に、5月までにわずか2ヵ月を残すのみとなっていること、そして、あ
の評判の芳しくない格言「5月に売って休暇に出よ、そして、9月のセントレジャーデイ(9月にドンカスター競
馬場で行われる有名な競馬)に戻ってこい」があるからです。(この頃私は、物理的には、間違いなく退職後の
生活に入っております)データから読み取れる勢いを見ると、米国株式は、目先、さらに強くなりそうな勢いで
す。しかし、最終ページ図表2にあるように、景気循環調整済み株価収益率(CAPE)で見ると、決して割安な水
準にあるわけではありません。債券と米ドルについては、市場は、米連邦準備理事会(FRB)の将来のスタンス
への対応を行いつつあり、FRBもそろそろ見解を変えるのではないかと考え始めているように思われます。それ
でも、私自身は、現実に迫っている(そして今後はより厳しいものとなりそうな)財政緊縮状況を踏まえると、
FRBが、そんなに早い時期に次の策を打ち出すかについては、疑問を持っています。特に、彼らの需給ギャップ
に対する見方や、指導的立場にいる幹部の信念が非常に固いところを見ると、そのように思えるのです。もちろ
ん、データの改善状況が今後も続けば、FRBも対応せざるを得ないでしょう。

中国と世界
私のプレゼンテーションの中で、おそらく最も重要なものは、最終ページ図表4であると思います。そこには、
1980年以降の世界GDPならびに各地域のGDPの推移、そして今後の当社予測が示されています。いくつかの重
要な特徴について、触れておく必要があります。まず第1に、過去の30年間(1981年〜2010年)を10年毎の期間
に区切ると、世界GDPの成長率は、基本的には同じ水準で、約3.4%であったことです。地域的に大きなばらつ
きもあり、数回の危機があったにも関わらず、そのようになっています。これを見ると、どんなにひいき目に見
ても、少なくとも表面的には、実質GDPと投資の関係性は、弱いとしか言えない、と考えている人々を支援する5
材料になります。第2に、過去30年間の市場の上昇や今後10年間(2011年〜2020年)の中国のGDP予測が7.5%
に減速することに関わりなく、この10年間(2011年〜2020年)の世界の経済成長率は、4%を上回る可能性があ
ることです。もちろん、過去30年間の現実を見ると、このことは、極めて重要な事実を言い表しています。しか
し、一方で、現在中国で起こっていることを見ると、そうならないとは思えないのです。チェルノッビオで指摘
したのですが、中国の経済規模が、現在8.2兆米ドルとなっているため、中国が7.5%の成長を遂げるということ
は、米国が3.75%で成長するのと本質的には同じことなのです。私の友人であるヌリエル・ルービニ(米国の経
済学者、ニューヨーク大学教授)は、BRICsの景気減速は、BRICsを中心とする投資テーマがもてはやされすぎ
たことを示唆しているとの見解を示しましたが、それに対して私は、「確かにそうであったかもしれないが、ど
ちらかと言えば、中国は『過小評価されている』と思う」と切り返しました。この10年間のここまでの2年間で
は、中国の平均成長率は8.5%です。したがって、これ以降7%、あるいはそれを下回る水準で推移しない限り、
中国の貢献は、我々が想定しているものよりも大きくなるのです。
やっかいなことに、週末にかけて、おびただしいほどの中国の2月の経済データが発表されましたが、それらを
見ると、中国経済が再度減速していること、そしてインフレ率が予想を上回って上昇していることが分かります。
注目すべきは、こうしたデータを見ると、中国がデータを、見かけをよくするために改ざんしているという考え
方に対する反論材料となることです。また、政策手段の中には、効き目が強すぎるものがあったとも解釈できま
す。特に、報道されている小売売上高の急速な減速は、派手なパーティーや贈り物を慎むようにとの指導があっ
たために、旧正月の祝賀ムードが、例年よりは冷え込んだためとも考えられます。これがその要因であるかどう
かはともかく、この消費の減速が続くようであれば、懸念材料となりますし、歓迎されるべきものではありませ
ん。一方で、2月の輸出データが予測を上回ったことも事実です。これは、単純に言えば第1四半期のGDPを引上
げることになるのですが、私の辞書では、これは、中国にとっては「間違った種類の成長」と定義されます。こ
の輸出の伸びは、基礎的な経済の動向を示唆するものではなく、旧正月の特異なパターンを反映したものだった
のではないかと思っています。悪い月の締めくくりは、消費者物価指数(CPI)の3.2%の上昇です。これも、予
測を上回るもので、これが続けば、良いニュースとはなりません。後から振返ってみると、2月の中国株式の反
落は、根拠のないものではなく、十分理由があったということになるのではないでしょうか。
北朝鮮。大きな変化?
先週、中国が北朝鮮に対する支援スタンスを変えつつあるというフィナンシャル・タイムズの興味深い記事をご
紹介しました。そして、今は、国連安全保障理事会による北朝鮮に対する追加制裁に関して、中国が米国を支持
することとなりました。何かが起こっているのです。当然ながら、北朝鮮の反応は十分なものではなく、これに
は驚ろく人もいることでしょう。これが、何か大きな変化の始まりなのか、はっきりとは分かりません。おそら
く韓国にとっては、こうした展開は、その力強い経済成長と環境スコアをさらに引上げる材料となるでしょう。
まだ始まったばかりであることは間違いないと思いますが、何らかの変化が起こりつつあるようです。
長期投資
先週何人かの人と長期投資に関する興味深い話をする中で、円や為替市場の話よりも、20カ国財務大臣・中央銀
行総裁会議(G20)が発表した声明の方が、この話題について言えば有益だと、チリを訪問した際に感じたこと
を思い出しました。つまり、G20の声明には短いながら新たなものが付け加えられており、その内容は、テーマ6
を絞った調査をすることも含めて、今後長期投資への環境を改善するような取組みに注力するというものだった
のです。これは私にとっては新たな視点であり、最終ページ図表5にも示しましたが、株式リスクプレミアムが
低い現在の状況を見ると、今は、長期投資家にとっては、非常に好機であると考えられるのです。おそらく、近々、
すでにそのような見方で投資を行っている政府系ファンドの動きに年金基金や保険会社が呼応して、こうした好
機を捉えようとするところが増えてくるのではないでしょうか。今のトランプカードの並び方の順番は、他でも
なくこの3グループの投資家に移行しつつあり、過去20年のトレンドの反転が起こりつつあるのではないかと思
えます。
最後に、マンチェスター・ユナイテッドの20回目のリーグ優勝と、来年のチャンピオンズリーグでの活躍を、再
び祈りたいと思います。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:3月 11日)
図表 1 7
図表 2
図表 3 8
図表 4
図表 5 9  

[削除理由]:この投稿に対するコメントとしては場違い。別の投稿にコメントしてください。
07. 2013年3月16日 09:31:03 : xEBOc6ttRg

今まで高齢者のために現役世代が大きな犠牲を払って円高に耐えてきたが

それでは財政や民間生産など日本経済は崩壊する

いずれにせよ避けられない事態が、前倒しになっただけで、逆に良かったと言えるだろう



08. 2013年3月16日 10:44:10 : lzOcTKsnP6
>3
延々と書き写しの投稿ご苦労さん。
何のためにこんなバカげたことをやるのか?
妨害行為ではないの?

09. 2013年3月16日 10:49:27 : lzOcTKsnP6
> xEBOc6ttRg
常識のないことをやるな!
何のためか?
読者をバカにするな!

10. 2013年3月17日 22:50:10 : Qs2ppwNA3w
Amazonが「一斉値上げ」とネットで悲鳴! 不買運動、抗議メール・・・次第に元の価格に戻る
J-CASTニュース 3月17日(日)17時37分配信
 ネットスーパー「Amazon(アマゾン)」が取扱商品を一斉に値上げした、などと2013年3月15日の夜にネットで大騒ぎになった。特に、PCパーツやゲーム機、玩具類の値上げが酷く、中には2倍の値段になった、としてアマゾンに抗議メールを送ろうとの呼びかけも出た。

 暫くして順次、値上げ前の値段に戻ったため、アマゾンのシステムに何らかのトラブルがあったのではないか、と予想する人もいたが、真相は分かっていない。

■ゲームソフトは定価販売、値段が倍になった商品も存在した

 「Amazon軒並み値上げしているぞ!カートを見てみろ」そんな書き込みがツイッターやネットの掲示板に大量に出たのは13年3月15日の午後9時ごろから。例えば、通常は定価の20%引き前後で販売しているゲームソフトが3%引きや定価になった。メモリなどPC関連機器や、スマホや携帯音楽プレーヤーの周辺機器も40%から50%値上がり。中には2倍近くになったものもある。ファッション関連や日用品、食品も全部上がっている、といった報告もあり、ネットではほぼ全アイテムで値上げが行われたと断定され、

  「昨日買おうか迷ってた商品2000円くらい値上げしとるやないかぁあああああ!! 」
  「カートに入れた商品が全部で五万ちょっとのはずが、七万近くなるなんて尋常じゃない」
  「amazonマジで終了だな」

などと騒然となった。

 アマゾンでの販売価格は、市場価格の動向や、在庫の数、人気があるかないかによって定期的に変動する。例えば、12年秋に3万9000円で売っていたパソコンが、翌日には1万5000円ほど値上がりしている、ということもあった。しかし、今回のように一斉値上げというのは珍しく、ネットではアベノミクス効果でインフレになった、とか、TPP交渉参加表明が発端だ、円安が原因だろう、

  「安く売ってきて経営が苦しくなり、元を取りに来たのだろう」

などと様々な憶測が流れた。

「アマゾン逝った!! 」とネットで不買運動も
 ところが、16日になると「価格が元に戻り始めた」という報告がネットに出るようになった。事実、キャッシュなどで調べると値上げ前の値段に順次戻っていることが確認された。

 アマゾンは13年3月17日までに今回の件について何の説明もしてはいないため理由は不明のままだ。ネットでは、一部でアマゾンからはもう買わないという不買運動が起きたり、メールで抗議をする人も出たりしたため、あわてて元に戻したのではないか、と考えている人もいる。また、そもそもはアマゾンのシステムエラーが原因で生じたことでありそれが修復された、と主張している人もいるが、値上げした商品だけでなく価格の変わらなかった商品も存在するし、個々の商品の値上げの幅が市場価格などを分析したかのように違っているため、システムエラーは考えにくいとする人もいる。

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最終更新:3月17日(日)22時30分


11. JohnMung 2013年3月22日 22:51:55 : SfgJT2I6DyMEc : 2uBqko1BAw

 ID=xEBOc6ttRgは、カキコの特徴から、阿修羅出入り禁止の中川隆のようだ。


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