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［注目の人直撃インタビュー］ 元官房副長官・福山哲郎氏
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2013/10/11 日刊ゲンダイ
福島原発のﾀﾞﾀﾞ漏れ放射能は､今のところ､処置なしだが､この事故でつくづく分かったのが東京電力の“闇”だ｡汚染水の問題を見ても､この会社は安全よりも金なのか､と思えてくる｡そんな東電の体質を身をもって知ったのがこの人だろう｡
3･11の事故当時､官邸と東電の間で何が起こったのか｡それが今の事故処理にどう影響しているのか｡
――福山さんは原発事故直後から､菅直人首相(当時)を支える官房副長官として､事故対応の最前線に立たれてきた｡
｢とくに事故当日から15日までの4日間が徹夜が続く状況でした｡この時､官邸の対応をめぐる情報が錯綜していました｡官邸の海水注入中断指示(注を参照)や､ﾍﾞﾝﾄのﾀｲﾐﾝｸﾞを巡る混乱､東京電力の撤退情報などです｡事故当初から､東電には疑問を感じていました｡情報が遅れて出てくるし､現状の説明についても非常に曖昧なところが多かったからです｡『菅総理が中断を指示した』と報じられた海水注入中断にしても､官邸が『止めろ』と言ったわけではないのに､『官邸が“注水を止めろ”と言っている』という事実無根の情報が流れた｡後になって東電が勝手に官邸の意向をおもんぱかったことが明らかになりました｣
――官邸の意向を東電が勝手に､都合よく解釈したわけですが､それは海水を入れると､廃炉にせざるを得ないからですよね｡つまり､あの場面でも経営や金のことを考えていたことになる｡こうした体質が汚染水漏れにもつながっているのではないですか?
｢私が官房副長官時代に発表されたﾛｰﾄﾞﾏｯﾌﾟには､汚染水対策として原子炉建屋を取り囲む『地下遮水壁工事の実施』をすると記載されていました｡この案は､2011年6月に汚染水対策の責任者だった馬淵澄夫･首相補佐官(当時)が決定したもので､6月14日に記者発表をする予定でした｡ところが､直前にｽﾄｯﾌﾟがかかった｡1000億円の債務が新たに加わると､東電の経営形態を揺るがしかねず､月末に予定されていた株主総会が混乱する恐れがあったからです｡その後､次第に具体性が消えていき､実行に移されなかった｡そして私が官邸を離れてから2ｶ月後の2011年10月26日､“馬淵案”を否定する東電の検討結果が出されました｡報告書は､海側遮水壁は進めるが､もう片方の陸側遮水壁については『現時点においてはむしろ設置すべきではない』と強い表現で否定した｡『当面は海側遮水壁のみで対応することが適切』という方針に変わったのです｣
――やっぱり､金の問題ですか?
｢東電側が挙げた理由は『陸側遮水壁は他の重要な安定化設備と干渉するので､既設設備の撤去､移設が必要となる』というものでした｡『いま進めている作業に支障を来すので陸側遮水壁は無理｡海側遮水壁だけで対応できる』というのが､この時の東電の結論でした｡当時､官邸にいましたから､そのﾌﾟﾛｾｽについては報告を受けていました｡東電は“馬淵案”の選択肢があることを認識した上で､それを実行に移さず､結局､4ｶ月後の10月に否定するわけです｡この報告書が出てからほぼ2年が経った今､汚染水漏れが深刻な状態となっています｡東電の判断ﾐｽが今日の深刻な事態を招いたことは明らかです｣
――東京電力は､安全よりも金なのですかね?
｢1000億円のｺｽﾄをなるべく少なくしたい東電の懐具合から､こういう結論になったとすれば､本末転倒です｡『お金がかかっても事故処理を早くしないといけない』というのが本来の姿です｡財政的理由ではなくて､科学的理由で“馬淵案”を却下したのだったら､当時の甘い見立てが深刻な事態を招いたことについて､東電は科学的に説明する必要がある｡陸側遮水壁を否定した『失敗の原因』を東電は明らかにしないといけない｡原発事故直後から2年半も経っているのに､汚染水対策はほとんど進んでいないのです｣
――今年の夏に､福島第1原発を視察されましたが､どういう状況であると認識されましたか?
｢8月14日､福島第1原発の現場を視察しました｡夏の暑さと高い線量の中で､東電の社員約1000人､関連会社の社員約2000人の方が､作業をされていました｡いまだに現場は放射線量が高いので､1人が1日に1時間から2時間しか作業が出来ません｡その中で､汚染水漏れ対策だけではなく､燃料棒の取り出しなど､ありとあらゆる課題に対応している｡2年半にわたって過酷な現場で一生懸命に作業をされている方々に､感謝したいと思います｣
――戦場のような綱渡りの状況はまったく変わっていないわけですよね｡そこで､このまま東電に任せていていいのでしょうか｡というより､東電を破綻処理しなかったのが間違っていたのではないか｡なぜ民主党政権は､東電を潰し､新生東電と事故処理会社に分離しなかったんですか?
｢震災後､日本市場が不安定な時期にさらに債券市場にﾘｽｸが生じる｡また､破綻処理で東電が潰れたら誰が福島第1原発の作業をするのかという問題がありました｡作業員の確保が難しくなる恐れがあったのです｡そこで当時の民主党政権では､まず原子力損害賠償支援機構を作り､そこに国が交付国債を出して賠償をするｽｷｰﾑを作りました｣
――賠償はそうなっています｡事故対応はどうですか? 政府がもっと前面に出てもよかったんじゃないですか?
｢原発事故直後から国はしっかり関与していますよ｡私が書いた『官邸からの証言』という本でも紹介しましたが､現場から撤退しようとした東電を止めたのは官邸の判断です｡それに対して自民党は政府の余計な介入が事故処理混乱の原因として､民主党政権をさんざん批判した｡それなのに汚染水問題が深刻化すると､今度は『国が前面に出る』と言い出したのです｡何をもって､国が前面に出るのか｡具体的に説明する必要があるでしょう｡原発事故処理という“長い闘い”は､私が官邸にいた2年半前から今に至るまで続いています｡官邸で原発事故対応に当たった経験から言えるのは､抽象的な言葉を並べただけで事態が改善するほど､生やさしいものではないということです｣
――政府は470億円の予算をつけて､実現性に疑問符が付いている凍土遮水壁をつくらせる｡前面に出ると言いながら研究､実験のための予算という理屈で､政府が汚染水処理に直接､関わるわけではありません｡それなのにIOC総会で安倍首相は｢状況はｱﾝﾀﾞｰｺﾝﾄﾛｰﾙ｣｢完全にﾌﾞﾛｯｸ｣と発言しました｡どう思われましたか?
｢安倍首相の発言には違和感がありました｡『ｱﾝﾀﾞｰｺﾝﾄﾛｰﾙ』や『完全にﾌﾞﾛｯｸ』が一体､何を意味するのかを明確にしていただきたい｡口先だけの安全宣言で事足れり､という印象を受けました｡東電の経営形態についても安倍首相がきちんと考えているとは思えない｡『国が前面に出る』と言っても､凍土方式と新型の多核種除去装置ALPS(ｱﾙﾌﾟｽ)に470億円の国費を投入するとしか言っていません｡最終的な廃炉まで考えれば､桁違いの費用が必要になります｡だから､腰が引けているのでしょうが､汚染水問題で“馬淵案”に1000億円を投じなかったのも､事故直後に廃炉となる海水注入をためらったのも､その背景には東電のｺｽﾄ優先の体質がある｡安全よりもｺｽﾄを優先する企業体質を正すためにも､政府は今､東電の経営形態について徹底した議論をする必要があると思います｣
▽ふくやま･てつろう 1962年生まれ｡同志社大卒､大和証券､松下政経塾を経て､京大大学院修了｡98年の参院選で初当選｡当選3回｡鳩山内閣で外務副大臣､菅内閣で官房副長官を務めた｡
注=このことは福山の著書｢原発危機 官邸からの証言｣に詳しい｡こういうくだりが出てくる｡
〈官邸では(1号機への)海水注入は大前提の話であり､共通の認識だった｡少なくとも総理が｢海水注入の中断｣を口にしたことは一度もなかった｡そのうえで注入を準備する間に｢塩水の影響｣と｢再臨界の可能性｣が問題のないことを確認するように指示しただけである｡これが官邸における､海水注入騒ぎの全容である｡政府事故調の中間報告書は､12日午後7時4分､現場で海水注入が始まっていることを知った(東電の)武黒ﾌｪﾛｰが､注水をいったん中止するように現場に要請したことを明らかにしている｡総理が再臨界などのﾘｽｸについて懸念していることを｢総理大臣の了解が取れていない｣と解釈した武黒ﾌｪﾛｰが現場に中断を求めた｡しかし､吉田所長が独断で海水注入を続けさせた〉(同著89ﾍﾟｰｼﾞ)
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