【ソウル＝加藤宏一】韓国検察は30日、乗務員のナッツの出し方を問題視し、出発していた飛行機を引き返させた大韓航空の趙顕娥（チョ・ヒョナ）前副社長を航空保安法違反の疑いなどで逮捕した。会社ぐるみで証拠隠滅の動きがみられ、検察の請求を受けて審査を進めていた司法当局が逮捕の必要性を認めた。趙氏は同社を主力とする韓進グループ２代目、趙亮鎬（チョ・ヤンホ）会長の長女で、財閥のオーナー家を見る世論の目は厳しさを増している。

　検察は、趙氏の行動が航空保安法上の航空機航路変更罪、航空機安全運航阻害暴行罪などに当たるとして逮捕状を請求していた。航空機航路変更罪は最長10年の懲役が科せられる重罪だ。また、問題が発覚した後、乗務員らに趙氏の行動が問題なかったと証言するよう強要したとして、同社の客室乗務本部の常務も逮捕した。

　趙氏は同日夜、逮捕が決まった後、報道陣の問いかけに対して、消え入りそうな声で「申し訳ありません」と話した。終始うつむき加減で質問にほとんど答えず、拘置所に身柄を移された。

　波紋は広がっている。趙氏の逮捕に先立ち、韓国国土交通省は29日、同問題の調査にあたった職員８人について、公正性を欠いた調査を進めたとして懲戒と警告の処分を下したと発表した。

　オーナー家を見る世論の目も厳しく、韓国メディアによると、大韓航空でマーケティング部門を担当する妹のヒョンミン専務は問題発覚後、「会社の過ちは誰か１人によってつくられるものではない。全ての社員の過ちだ」とする電子メールを社員に送信。社員に責任転嫁しているとして批判を浴びた。弟の源泰（ウォンテ）副社長も過去に無謀な車の運転をとがめた老女を押し倒して警察から取り調べを受けたことが改めて問題視された。

　国交省によると、2014年11月の大韓航空の搭乗率は72％と、アシアナ航空の78.3％より低いが、事件を受けて搭乗率がさらに下がっているとする韓国メディアもある。

　多くの財閥で今、３代目の継承時期を迎えているが、内需停滞や中国景気の鈍化などで経営環境は厳しい。一方で、韓国統計庁によると、８月時点の非正規労働者が600万人超と過去最大、全労働者の32.4％に達する中で、財閥が正規雇用の拡大に消極的だとして不満も広がっている。

　漢城大学の金商祖（キム・サンジョ）教授は「財閥は今、事業の成長力の向上と、能力が未知数の３世による統治リスクという２つの問題点を抱えている」と指摘。「オーナー家の逆鱗（げきりん）に触れるのを恐れ、部下が正しい情報を上げないことも多く、ガバナンス体制を見直す必要がある」と指摘する。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM30H72_Q4A231C1FF1000/

前戯が長いのが半島流？