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『ニューズウィーク日本版』２０１４−５・１３
Ｐ．１４
「ウイグル族の爆発テロは 中国政府に好都合
少数民族による相次ぐテロで国中が揺れるなか政府は人々の恐怖を利用して巧妙に世論操作する
中国には選挙がなく、人々は一党独裁下で日々検閲と付き合いながら暮らしている。その一方で、テロや過激派の脅威とは無縁という、多くの欧米社会が羨む面もある。だがそれも今後は変わるかもしれない。
先月末、新垂ウイグル自治区ウルムチのウルムチ南駅で爆発が起き3人が死亡、79人が垂軽傷を負った。複数の襲撃者が駅の外で人々を刃物で襲った後、列車到着を狙って出入り口付近で爆発物を爆発させたらしい。
地元当局はテロと断定。国営新華社通信によると、現場で死亡した実行犯２人のうち１人は自治区西部アクス地区出身のスディアディン・シャウティ（３９）だ。彼は急進的な宗教思想の影響を受け、過激な宗教活動に参加したこともあるという。
イスラム教徒で少数民族のウイグル族は、漢族の新疆進出を不満に思ってきた。政治・経済で主導権を握る漠族が彼らを差別し富を独占している、と。
そうした対立を背景に、最近はウイグル族によるテロが増加。市民はこれまでにない不安を感じている。「一般の中国人も外国人訪問者も、中国は犯罪やテロの心配が少ない世界有数の安全な国と考えている」と、アルバータ大学中国研究所のチアン・ウエンラン所長は指摘する。「最近の無差別テロは、そうした見方を変えるかもしれない」
テロは新疆ウイグル自治区にとどまらない。ウルムチから２４００キロ余り離れた北京の天安門広場でも、昨年秋にテロが起きている。ウイグル族の独立運動組織「東トルキスタン・イスラム運動」に関係する男女がＳＵＶ車で観光客に突っ込み、死者５人、負傷者４０人を出した。
対処はお決まりの検閲で
北京の学生、張梅（２０）は昨年まで、首都でテロが起きると心配したことなどなかったという。「天安門広場での自動車突入事件には本当に驚いた」と、張は話す。「観光名所で市民や外国人を殺すなんて、これまでならあり得ない」
今年３月には雲南省の省都・昆明の駅で大量殺傷事件が発生。容疑者は駅の雑踏に入り、刃物で市民を無差別に斬り付けた。死者２９人、負傷者１４０人以上を出したこの事件を、中国政府は新疆出身のウイグル族グループによる「組織的で計画的なテロ攻撃」と断定している。
こうしたなかで同じく３月に、多数の中国人乗客を乗せたマレーシア航空３７０便が消息を絶つと、テロ説が盛んにささやかれた。今ではその可能性は排除されているが、テロの恐怖は人々の心から簡単に離れない。
相次ぐテロに中国共産党も対策を模索しているが、答えは見つかっていない。社会の安定を至上命令とする共産党の初動対応といえば、いつもどおり、恐怖を「統制」することだった。
中国版ツイッター、新浪微博の「ウルムチ爆発テロ」に関する投稿は、国営メディアの報道を含めてすべて即日遮断された。
「政府はどうしたらいいか分からず、うろたえているようだ」と、張は言う。「適切な措置とは思えない」
人々の間に広がる恐怖は、「世論操作」という中国政府の最終目標の副作用にすぎないだろう。中国共産党が市民に知ってほしいことは1つだけ。独立運動家はテロリストで、無辜の市民を殺して恐怖に陥れるということだ。
政府にとってもそうした現状は必ずしも悪いことではないようだ。政府は、市民がウイクル独立運動に反感を持つようになって欲しいのだから。
相次ぐテロは、人々に恐怖を抱かせているかもしれない。だがそれすらも、中国政府が望む世論だ。
ミシェル・フロルクルス」
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