★阿修羅♪ > 中国5 > 510.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
米国が中国に“外圧”をかけられないという不都合な真実 加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ
http://www.asyura2.com/14/china5/msg/510.html
投稿者 蟲 日時 2015 年 3 月 03 日 05:42:17: VXoEun45fU5tI
 


【第46回】 2015年3月3日 加藤嘉一 [国際コラムニスト]
米国が中国に“外圧”をかけられないという不都合な真実

加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

ニューヨーク・タイムズ紙のサイトは
かくして中国当局にブロックされた

「私たちのウェブサイトが中国国内でアクセス不能となってからしばらく経ちました。もうすぐ行われる米中非公式会談の場で、オバマ大統領から習近平国家主席に直接働きかけてもらえるよう、我が社としてもホワイトハウスにロビイングをかけました。どこまで効果が出るかは、ふたを開けてみないとわかりません」

 2013年6月、米ニューヨーク・タイムズの関係者が私にこう証言した。同年同月、米国のバラク・オバマ大統領は就任して間もない中国の習近平国家主席をカリフォルニア州にあるサニーランドへと招待し、非公式に会談を行った。その後、私自身サニーランドを訪れてみたが、当時の約8時間にわたって行われたオバマ・習会談の模様が施設の随所で紹介されていた。同施設の関係者によれば、「中国からの観光客が日増しに増えている。ツアーも組まれている」とのことであった。

 冒頭の証言は、2012年10月、すなわち習近平が総書記に就任することが決まった共産党第十八回大会が北京で開催される直前、米ニューヨーク・タイムズのウェブサイト(英語版・中国語版含む)が中国国内でアクセス不能に陥った事件を指す。

 政治的立場を異にする中国当局が、ブロックしたのだ。

 中国当局を憤慨させたのが、温家宝首相(当時)家族の腐敗を暴いた記事だ(By DAVID BARBOZA : Billions in Hidden Riches for Family of Chinese Leader, October 26, 2012)。同関係者はこう指摘する。

「もちろん、以前から中国当局は我が社の報道スタイルに不満を持っていた。いつでも我々のサイトをブロックアウトする用意はできていたと思う。デーヴィッドのスクープは引き金に過ぎない。そもそも、こうなるのは時間の問題だったのかもしれない。それに、我が社には中国外交部から報道ビザを発行してもらえない記者もいる」

 奇しくも、米ニューヨーク・タイムズの中国支局は、同社の中国報道を監視し、ビザ発行を堰き止めている中国外交部の隣に位置する(北京市朝陽門)。同社の支局長が中国外交部報道局に対してアクセス不可を解除してもらうようロビイングをかけても、ほとんど効果がなかったというが、それでもオバマ大統領が直接習主席に働きかければ、状況は一変するかもしれない。

 私が知る限り、ニューヨーク・タイムズは自社の中国市場における命運を一定程度オバマ・習サニーランド会談に託していた。

 サニーランド会談から21ヵ月が経った。会談直後から現在に至るまで、ニューヨーク・タイムズのウェブサイトはブロックされたままだ。世界随一の超大国・米国の首長による説得、あるいは懇願でさえも、習主席、あるいは中国共産党という体制は聞き入れない、あるいは聞く耳を持たないということなのであろうか。

米国記者に対するビザ発行拒否は
「自分たち」に原因がある?

 2014年11月、サニーランドに続く米中首脳会談が、今度は北京で行われた。1日目の夜、習主席はオバマ大統領を自らの“事務所”がある中南海に招き、寒空の下散歩をしながら、インフォーマルに雑談を交わした。

 2日目は、場所を人民大会堂に移して正式な会談が行われた。会談後の共同記者会見にて、ニューヨーク・タイムズのマーク・ランドラー記者が質問する。

「ニューヨーク・タイムズを含め、米国のメディアで働く記者たちが中国当局からビザ発行を拒否されている。今回合意した米中ビザ緩和によって、中国で働く記者たちの処遇も改善されるのか?」

「中国は市民の言論の自由と基本的権利、及び法律に基づいた外国メディアの権益を重んじている。メディアは中国の法律と規定に従わなければならない。道路で車が壊れた場合、我々は下車し、何処に問題があったのかを見なければならないだろう。問題の発生には必ず原因が伴うものだ。中国にはこのような俗語がある:“問題は、起こした人間によって解決されるべきだ”」

 私がこの習近平発言を解読するに、要は「原因はあなた方にあるのだ。ビザを発給してほしければ、やり方を考えなおして、姿勢を正して、出直して来なさい」という意味である。同紙への報道規制を止めるつもりはないことを示唆する習主席を横目に、オバマ大統領は「米中にはビザ発給をめぐって違いがあるのだろう」とだけ言及。明らかに習主席に遠慮をしていた(第39回コラム参照:習近平とオバマは中南海で何を語っていたのか 3つのシーンから検証する中国民主化の行方)。

 ニューヨーク・タイムズは米国の企業である。いくら権力を監視する立場にある新聞社であり、政府とは競争・緊張関係にあるとはいえ、同紙が米国の合法な企業である限りにおいて、米国政府には自国企業の海外における合法な権益を守るべく積極的にコミットメントする必要がある。自国企業の正当な権益や欲求が脅かされるのであれば、相手国に対して働きかけ、問題解決に向けて動く責務がある。

 しかも、ニューヨーク・タイムズはどちらかと言えば(ワシントン・ポストなどと比べて)、オバマ大統領率いる民主党の政策を支持する立場にある。加えて、同紙が中国で脅かされている権益は、まぎれもなく“報道の自由”というアメリカ合衆国がその建国以来育んできた核心的理念・価値観であり、ボトムラインでもある。

(1)米国企業であり、(2)民主党派であり、(3)民主主義の根幹をなす“報道の自由”を後ろ盾とするニューヨーク・タイムズが窮地に陥っているにもかかklわらず、オバマ大統領は、サニーランド会談から中南海会談を通じて、同紙を救出しなかった。

 あえて救出しなかったのか、何がなんでも救出できなかったのかに関しては、現段階では判断がつかない。ワシントンDCにおいて往々にして中国に軟弱だと揶揄されるオバマ政権であるが、(1)中国を必要以上に刺激するのは得策ではないという立場から、経済貿易や地域協力など他の問題との兼ね合いも考慮した上で、“ニューヨーク・タイムズ問題”を戦略的に放置した可能性は十分ある。

報道の自由を救出しなかったオバマ大統領
米国の対中戦略から感じる「深刻な問題」

 もちろん、(2)オバマ政権として最大限のポリティカルキャピタルを投じたにもかかわらず、習近平国家主席率いる中国共産党には通じなかった、という可能性も十分ある。あるいは、(3)オバマ陣営の対中対策の軸がこの2つの中間点に位置していた可能性も十分ある。

 私から見て(1)〜(3)は、米国の対中戦略・政策という観点から、いずれも深刻な問題をはらんでいる。(1)は(1)〜(3)という重要なファクターを含んでいたにもかかわらず、その問題を放置したことを意味する。超大国・米国の“怠惰”を示している。(2)は、米中の国力が相対的に接近する過程で生じている現象であり、チカラで中国を説得できない状況は超大国・米国の“衰退”を示している。(3)は、“こうしたい”という意思と“こうできる”というチカラの関係が不均衡、すなわち、保持してきた国力を何に対してどのように行使するかという政策決定につなげられない状態にあることを意味しており、超大国・米国の“当惑”を示している。

 怠惰・衰退・当惑。

“この構造”は、2014年中国共産党を震撼させた香港情勢にも如実に露呈されている。

 昨年9月末、香港では、中央政府に対して公平な普通選挙を要求する抗議デモが大々的に行われた。デモ集会を率先して引っ張ったのは大学生たちである。1989年、北京で勃発した天安門事件を彷彿させた。

 一方で2014年、香港で勃発した“占中”(Occupy Central)デモと天安門事件は根本的に異なる性質を内包していた。2014年は1989年ではなく、香港は北京ではなかった。

 時間軸から見れば、中国の国力や国際影響力が相対的に向上し、内政や外交などあらゆる問題でより強気な姿勢で挑む傾向が顕著になってきた一方、空間軸から見れば、香港の制度は中国大陸とは異なり、少なくとも制度的には報道・言論の自由や司法の独立が保障されている。前出の報道ビザを発行してもらえないニューヨーク・タイムズの記者のなかには、“香港発”で記事を書いている人もいるくらいだ。

 不透明に台頭する異質な中国と向き合い、付き合っていく上で、香港という場所は戦略的に重要な意味を持つ。特に、いまだ随一の超大国として君臨する米国にとっては、言うまでもなく、北京よりも香港に対してのほうが影響力を行使しやすい。そして、香港に影響力を浸透させることができれば、北京にその重い腰を上げさせるきっかけを見出すことが可能になるかもしれない。本連載の核心的テーマである中国民主化研究という視角からすれば、香港を通じて中国本土における民主化を含めた政治改革を促す、少なくとも香港をその第一歩とする、という意味である。

香港デモの黒幕は米国という言論
もはや“民主的外圧”は中国に効かない

 舞台をもう一度昨年11月、北京で行われた米中首脳会談後の共同記者会見の現場に戻そう。

 ニューヨーク・タイムズのマーク・ランドラー記者は、“ビザ問題”以外に、もう1つの問題提起をした。香港で起こっていることに関してであった。

「中国には“香港で起こっている抗議デモの黒幕は米国である”といった反米的な言論があるがどう思うか?」

 オバマ大統領は、習主席との会談で香港問題が話題になった事実に言及した上で、以下のように回答した。

「米国は香港で起こっているデモに関与していない旨をはっきりと伝えた。これらの問題は香港、そして中国の人たちが決めるべきことだ。一方で、米国が重んじる外交、そして価値観という観点から、人々の言論の自由、そして香港で透明性のある、公正で、現地の人々の意見を反映できる選挙が実施されるべきだということはこれからも主張していくという立場も習主席に伝えた」

 対する習主席は、毅然とした態度で応戦した。

「オバマ大統領にも伝えたが、香港で起こっている“占中”は違法行為である。我々は香港特別行政区政府が法律に従って事態に対処し、香港社会の安定と香港市民の生活と権利を維持することを支持する。香港問題は中国の内政であり、いかなる国家も干渉すべきではない」とこれまでの立場を繰り返した。

 米中首脳会談を扱った前出の参照コラムの文末にて、私は「オバマ大統領率いる米国政府が中国に“民主的外圧”をかけるのは困難である」と結論づけた。この見解はいまも変わらない。

 香港問題が内政であるのは事実である。一方、そこで問題になっているのは“普通選挙”という民主主義の根幹に関わるテーマであり、しかも香港はオバマ大統領も“回帰”を主張するアジア太平洋地域の国際金融センターであり、経済のハブでもある。加えて、2017年に実施予定の香港“普通選挙”は、中国共産党が政治改革や民主主義をどう捉えているかを判断し、仮にその判断が米国のそれと根底から異なる場合は、何らかの形で影響力を行使していく絶好の素材でもある。

 結果的に、米国は香港の民主化を促すべく本腰を入れて動かなかった(水面下ではデモへの資金提供などあったのかもしれないが)。香港を通じて北京の政治改革を促そうとしなかった。しなかったのか、できなかったのかは現段階では判断がつかない。

怠惰・衰退・当惑な対中戦略
横たわる米国の「不都合な真実」

 ただ1つ言えることは、前出の“ニューヨーク・タイムズ問題”同様、香港問題においても、怠惰・衰退・当惑という、対中戦略・政策を通じて浮き彫りにされる“米国の不都合な真実”が横たわっているということだ。

 最近、この真実を痛感させられる場面が再来した。

 2月5日、米国の宗教関係者が1年に1度集まる会合がワシントンDCで開かれた。チベットのダライ・ラマ14世が出席していた。スピーチの中でオバマ大統領は“友人”ダライ・ラマ14世の活動と貢献を称賛した。

 焦点はオバマ大統領とダライ・ラマ14世がどのように対面するかに集まっていた。結果的に、両氏が面と向かって言葉を交わすことはなかった。オバマ―ダライ・ラマ会談に頑なに反対する中国政府に対し、米国側が遠慮した現実を明示していた。
http://diamond.jp/articles/-/67703
 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2015年3月03日 06:32:12 : jXbiWWJBCA

実は危うい中国共産党と人民解放軍の関係
指導者に「権威」がなければ軍は動かず
2015年03月03日(Tue) 阿部 純一
中国が軍事パレード開催へ、「日本を震え上がらせるため」 報道
北京・天安門広場で行われた建国60周年の国慶節の軍事パレード(2009年10月1日撮影、資料写真)〔AFPBB News〕

 米国議会の超党派による「米中経済安全保障検証委員会(US-China Economic and Security Commission)」の委託によってランド研究所から提出されたレポート「未完の中国軍事変革:人民解放軍の弱点に迫る(China's Incomplete Military Transformation: Assessing the Weakness of PLA)」が注目を集めている。日本語で読める紹介記事もあるので、レポートの詳細についてはここでは触れない。

 人民解放軍の弱点を、制度面と戦闘能力の面から分析したこのレポートは、米国の中国専門家の分析に加え、中国国内で発表された論考にも依拠したものであり、西側の観点と中国国内の意見を総合した研究として興味深いものとなっている。

党の軍隊でありながら極めて独立性が高い

 ここで筆者が注目したいのは、人民解放軍の制度面での弱点である。戦闘能力の面での問題点は、中国の国防予算の増額などこれまでの趨勢が今後も維持されていけば、早晩解決されるであろう。しかし、制度面における問題点は、そう簡単に解決できない。カネと時間をかければ解決できるというものではないからである。

 ここでは、このランド研究所のレポートでも触れられている人民解放軍の制度面での弱点について、筆者なりに敷衍(ふえん)して分析を試みてみたい。

 特に着眼したいのは「人民解放軍は中国共産党の軍隊であり、国家の軍隊(国軍=National Army)ではない」ということである。もちろん、党の軍隊であろうが国家の軍隊であろうが、そのことが人民解放軍の決定的な弱点に直接結びつくわけではない。党の軍隊である人民解放軍を支えているのは政府の支出する国防費であり、その任務も「国家の主権と安全を守り、領土を保全し、国の平和的発展を保障する」(2013年「中国の武装力の多様な運用」)であるとすれば、一般的な国防軍と変わるところはない。

 だが、ここで注目したいのは、人民解放軍が「党の軍隊」とはいえ、極めて独立性の高い組織となっていることであり、実はそこにこそ深刻な問題が潜んでいると思われる。独立性が高いということは、すなわち「党の軍隊」は表向きの姿であり、実際は党の統制からかなり自由な組織となっているということである。

 このことは、なぜ習近平主席が着地点の見えない「反腐敗」キャンペーンに取り組み、人民解放軍にも鋭く切り込んでいるのかということと大いに関係がある。この点については後述する。

80年代に構想された人民解放軍の「国軍化」

 中国では現在、人民解放軍の「国軍化」を議論することはタブーとされているが、1980年代、すなわちケ小平の時代に国軍化が構想された経緯がある。

 例えば、軍の最高意思決定機関であり、事実上統帥権を握るのは「中央軍事委員会」である。この委員会には「国家中央軍事委員会」と「党中央軍事委員会」の2つがある。

 「国家中央軍事委員会」の設置は1982年公布の憲法に規定された。メンバーは国会に相当する全国人民代表大会で選出される。もう一方の「党中央軍事委員会」のメンバーは党中央委員会で選出される。この「国家中央軍事委員会」の存在が、「国軍化」を構想した際の“痕跡”と言えるだろう。

 実際には、この2つの委員会メンバーは同一であり、1つの組織に2枚の看板を掲げることで混乱が生じないようになっている。現実に照らして言えば、国家機関として「国家中央軍事委員会」を設置する意味は極めて薄い。しかしながら、人民解放軍が国家の国防費によって運営されているという事実に照らせば、軍の統帥機関としての「国家中央軍事委員会」はやはり必要ということになる。

 だから、現在でも憲法を変更せずにいるのかもしれない。建前上は「党の軍隊」である人民解放軍が、その運営にあたっては“国家の国防予算に依拠している”という制度上の乖離を埋めることになるからである。

 ケ小平がなぜ人民解放軍の国軍化を構想したかといえば、自分の後を継いで中央軍事委員会主席となる指導者が、年齢的に中国革命を直接経験していない世代となり、当然ながら軍歴、いわんや軍功のない指導者が軍を率いることになると想定していたからだと思われる。

 ケ小平のような軍に睨みをきかせられる権威を持ち合わせていない指導者の時代になっても軍をコントロールできるようにするため、「国軍化」することによって国務院の一部門として制度的に抑えこもうと考えたのであろう。

 しかし、この構想は、1989年6月の天安門事件での軍の動員による鎮圧、さらに91年のソ連崩壊という事実の前に説得力を失うこととなる。やはり党が軍を指揮する体制を堅持しなければ共産党政権を維持できない、という現実が「国軍化」構想を挫折させてしまったと言えるだろう。こうして、中国では党が軍を指揮するシステムが温存されてきた。

軍を動かせるのは中央軍事委主席ただ1人

 とはいえ、党が軍を指揮する実態は、実は心もとないという現実がある。例えば、軍の最高意思決定機関である「中央軍事委員会」は、「党中央政治局」と同格であり、かつ中央軍事委員会では習近平主席ただ1人が文官として加わっているだけで、残りの10名はみな軍人である。

 32名に上る党中央政治局について言えば、7名の常務委員に軍人は入っていないものの、25名からなる政治局委員には、范長龍、許其亮の中央軍事委副主席2名が名を連ねている。党中央政治局では常務委員会も政治局委員を含めた全体会議でも、採決は多数決で決められる。

 一方、中央軍事委員会では主席責任制のもと、文官の習近平主席が決定権を持つ。それによって軍における党の指導の優位が担保されているという建前だが、軍人10名を前に文官の主席がどこまでリーダーシップを発揮できるかは疑問である。

 また、人民解放軍は「党の軍隊」とされているものの、中国政府たる国務院には「国防部」が置かれている。国防部長は中央軍事委員会のメンバーであると同時に、副総理クラスの国務委員を兼任している。

 しかし、国防部は実際には実体のない組織である。国防部長の職責は人民解放軍の対外交流、すなわち軍事外交を担うだけの存在にすぎない。人民解放軍は「党が指揮する」という原則がある以上、国務院総理には軍を動かす権限はない。国家安全保障にかかわる外交部や国家安全部など関係する部署と情報を提供・共有する義務もない。

 結果として、人民解放軍が「党の軍隊」であるとしても、現在の制度のもとではそれを動かすことができるのは中央軍事委主席である習近平ただ1人ということになる。

習近平主席が軍の腐敗撲滅に精力的な理由

 「党への忠誠」は「習近平主席への忠誠」とイコールの関係にある。人民解放軍の党に対する「忠誠」は、その意味で制度的に担保されていない。もっぱら中央軍事委主席個人の権威と軍との「力関係」に依存すると言っても過言ではないだろう。

 問題なのは、その軍の党に対する忠誠が「力関係」という恣意的なものであることだ。胡錦濤政権時代、中央軍事委副主席であった徐才厚が軍の人事を壟断していた事実が露呈したのは昨年の話だが、カネで軍のポストや階級が取引されていた事実や、それによって徐才厚が巨万の蓄財をしていたという罪状は、換言すれば当時の中央軍事委主席である胡錦濤がいかに軽んじられていたかを示すものでもある。しかも、徐才厚は総政治部主任を務めた経歴から明らかなように、軍政のトップとして軍内に党の指導を徹底させる立場にあったわけだから、徐才厚事件のもたらした影響は極めて深刻ということになる。「党が軍を指揮する」原則は、その意味で現状の党軍関係における組織構造の中では極めて脆弱であると言わざるをえない。

 習近平主席が人民解放軍における腐敗撲滅に精力的であるのは、人民解放軍との「力関係」で優位に立つ必要があるからと言ってよいだろう。軍の服従を取りつけるためには、習近平主席は自らの権威を極限にまで高める必要があるのだ。

 四半世紀以上前の話になるが、1989年11月にケ小平が中央軍事委主席のポストを江沢民総書記に譲る際、軍歴のない指導者にこのポストが務まるかどうかを深く懸念した。そこでケ小平は、同年9月4日付で政治局に送った中央軍事委主席・辞任願の中で「江沢民同志為首的領導核心」(江沢民同志を指導核心のトップとする)との表現を使用して後継者に指名した。江沢民が同年11月の党13期中央委員会第5回総会で中央軍事委主席に選出された時には、すでに「江沢民同志を核心とする党中央」という表現が定着していた。江沢民はこうしてケ小平のバックアップを受け権威を高め、中央軍事委主席の座についたのである。

 しかし、習近平主席には残念ながらケ小平のような軍に対して絶対的な権威を持つカリスマ指導者の庇護下にはないし、そうしたカリスマ自体、もはや存在しない。前任の胡錦濤主席は、2002年に党総書記に選出されたが、彼をバックアップすべき立場の江沢民は2004年まで中央軍事委主席に居座り、その軍権掌握を妨げた。

 結局、胡錦濤主席は最後まで軍権掌握にてこずることとなり、それを習近平は2010年に中央軍事委副主席に就任してから間近に見てきた。胡錦濤主席の場合、最後まで指導者として「核心」と呼ばれることはなかった。権威を確立することができなかったのである。その胡錦濤主席の轍は踏むまいと習近平主席が考えたとしても不思議ではない。

 習近平主席が自らの権威を高める手段として「反腐敗」を選択したのは、いわば必然であった。

 江沢民主席時代に、いわゆる「解放軍ビジネス」とされる軍系企業が跋扈し、人民解放軍は「軍の特権」を悪用した利潤追求に走り、1990年代末に当時の朱鎔基総理によって歯止めがかけられたものの、「金儲け」の旨味を知った軍幹部は手口を変えて蓄財に励む状態が続いた。

 江沢民時代の1980年代末から、国防予算が毎年、対前年比で2桁の上昇が続いたのは、江沢民主席が軍に対する権威の足りない部分を補う意味があった。それは胡錦濤時代になっても継続したが、中国経済そのものが高度成長を続けていたなかでのことであり、軍にとってはそれによって胡錦濤主席に対する忠誠を高めることにはつながらなかった。

 いわば江沢民時代以降の人民解放軍は「カネまみれ」の状態が続いていたことになる。そうした状況を一変させることとなった習近平主席による「反腐敗」キャンペーンの人民解放軍への適用は、軍の綱紀粛正を図るとともに、軍の権威を低下させ、習近平主席の権威を高める効果を生むことになる。

 もちろん、綱紀粛正は反発も生む。だから、習近平主席は人民解放軍上層部の大規模な人事異動を断行し、そのなかで信頼の置ける軍人を抜擢し、自身の安全を図るとともに軍権を固める工作をしてきたのである。

人民解放軍は“個人の威信”に左右される軍隊

 ここまでの観察が正鵠を射ているとするならば、党が人民解放軍をコントロールするための最大の拠り所となる中央軍事委主席のポストは、結局はそこに座る指導者の軍に対する権威の如何に依存することになる。

 習近平主席が政権の座について以来、あらゆる権限を自分に一元化しようとしてきた。結果として、国務院総理である李克強の影が薄くなる状況も生まれ、李克強総理の経済政策を象徴した「リコノミクス」なる表現がいつの間にか話題にもならなくなってしまった。

 習近平主席への権力の集中について、「毛沢東以来だ」という風評もあったが、まさにそれこそ習近平主席の狙うところなのだろう。毛沢東を彷彿とさせる権力の集中による「権威」の確立こそ、人民解放軍をコントロールするために必須の要件だということを習近平主席は確信していると思われるからである。

 党が軍を指揮できなければ、軍が堕落することは、江沢民や胡錦濤の時代に明らかになった。それは中央軍事委主席である党総書記の責任でもある。そうだとすれば、習近平主席が人民解放軍に対する権威を確立できるかどうかが今後の人民解放軍のありようを決めることになる。

 「党の指揮」ではなく個人の威信に左右される軍隊が人民解放軍であるとすれば、それこそが人民解放軍の「最大の弱点」ではないだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43050
 



02. 2015年3月03日 06:41:43 : jXbiWWJBCA

希薄な衛生意識と政府の隠蔽体質、エイズ患者を生み出す中国の病い “エイズ村”の実態を暴いた女性医師
2015年03月03日(Tue) 柯 隆
政府当局、軟禁中のエイズ活動家の渡米を許可 - 中国
軟禁中の河南省鄭州市の自宅で撮影に臨む高耀潔氏(2006年8月2日撮影)〔AFPBB News〕

 今さらエイズという病気を知らない人はいないだろう。エイズはHIV(ヒト免疫不全ウィルス)の感染によって発症する病気である。中国の保険当局者の話として伝えられるところによれば、中国では2014年に新規HIV感染者とエイズ患者数が前年比で約14%増加したという。

 1996年、中国河南省鄭州市の産婦人科医師、高耀潔(こう・ようけつ)氏は、鄭州武警医院の依頼で、42歳のある女性患者を診察した。40度に上る高熱が16日間も続き、口のなかは重度な潰瘍(かいよう)の症状が見られた。診察に立ち会った医師の多くは、何かの奇病に犯されているのではないかと考えた。そのなかで高医師は、この女性は免疫系の病気にかかったのだろうと診断した。血液検査の結果、高医師の読みは的中した。その女性はエイズだった。

 しかし、女性にはHIV感染者との性交渉の経験はなく、麻薬注射歴もなかった。どのようにしてHIVに感染したのかは謎だった。

 高医師は女性の親族に聞き取り調査を行った。その結果、感染経路が判明した。この女性は2年前に子宮頸管ポリーブの手術を受けたことがあった。そのとき、輸血を受けていたのだ。したがって、手術の際に輸血された血液で感染したのだろうというのが、最も可能性のある原因として考えられた。

農民の売血とエイズの蔓延

 高医師が診察した女性患者は、それから10日後に死去した。

 高医師は女性患者の感染経路を解明するために、100カ所以上の村を訪問して聞き取り調査を行った。最後にたどり着いた真相は、次のようなものだった。

 1990年代、河南省の貧しい農民たちは、子供を学校に送るために売血していた。そして、病院は買ってきた血液を検査消毒せずに患者に輸血していた。その女性はHIV感染した血液を輸血されたのだった。

 農村の住民がHIV感染した血液を輸血されることは決してレアケースではなかった。

 ある調査によれば、武漢市中南医院の医師が、売血歴のある155人の農民を検査したところ、なんと90%以上の農民がHIVに感染していたという。

 高医師の調査で、次のような感染経路の実態も明らかになった。生活苦に追い込まれた農民は村の採血ステーションで血液を売る。そのステーションでは、多くの人の同じ型の血液を、検査消毒せずに混ぜてしまう。そこから血漿を抽出すると、残りの血液に生理食塩水を混ぜ、売血者に再び注射して戻していた。売血者が貧血になるのを防ぐためだと言われている。

 中国の農村でエイズが広がっていた。その恐ろしい実態を知った高医師は河南省政府に陳情する。だが、省政府の幹部は、「エイズ患者がそんなに多いはずがない。大げさすぎる」といって相手をしてくれなかった。高医師は諦めずに国家衛生部に陳情を続けるが、やはりなしのつぶてだった。

見て見ぬふりをした政府

 なぜ政府は、エイズ感染被害の実態について見て見ぬふりをしていたのだろうか。

 河南省のような内陸の省は経済を支える産業がほとんどなく、農業が大きなウェイトを占めている。地方政府は経済振興の一環として、農民による売血を奨励していた。当局によって集められた血液は製薬会社に売りさばかれた。農民は手っ取り早く現金を手に入れられる採血ステーションに殺到した。だが、採血ステーションの設備はきちんと整備されておらず、不衛生な状態で採血が行われた。

 いざエイズが蔓延してしまうと、地方政府は売血の実態が暴露されるのを恐れ、事実を隠そうとする。エイズ蔓延の源は採血ステーションのずさんな運営だが、地方政府の隠ぺい工作は被害のさらなる拡大をもたらしたのだった。

アメリカへの出国を政府が妨害

 どこの国でも親は子供に「嘘をついてはいけない」と教える。しかし、中国の100万人以上の医療関係者のなかで、売血に伴うエイズ蔓延について本当のことを口にしたのは4人だけだった。そのうちの3人は、地元政府から迫害されて口を閉ざした。唯一、諦めなかったのが高医師である。高医師によって救われたエイズ孤児は164人に上る。

 2007年、高医師は、米国のNGO団体が世界の優れた女性リーダーに贈る"Global Leadership Award, Women Changing Our World"という賞を受賞した。

 高医師は、それまでに海外で5つの賞を受賞していた。だが、政府に阻まれて出国できず、一度も授賞式に参加できなかった。"Global Leadership Award, Women Changing Our World"の授賞式に行こうとした際も、河南省政府は高医師の出国を阻止するために息子を引っ張り出し、母親の高医師の前で土下座をさせた。息子は母親に「母さん、私のためにも彼らの要求を受け入れてください」と頼んだ。

 息子は文革のときに母親が反革命だったため、13歳の若さで3年間も投獄されたことがある(高医師自身も、文革のとき紅衛兵に吊し上げられ殴られた。それが原因で、胃をほぼ完全に切除している)。そして、娘も母親の活動が原因で仕事を失ったことがあった。

 息子を利用して高医師の渡米を阻止しようとする政府の行動は卑劣なものだった。それでも高医師は正義を曲げることがなかった。「私の行動については私が責任を取る」と表明し、なんとかしてワシントンにたどり着いて授賞式に出席することができた(米国のヒラリー・クリントン議員からの中国政府への働きかけもあったという)。

 2008年に再度米国に渡った高医師は、帰国せずそのまま米国にとどまることを決めた。事実上の亡命である。高医師は中国にいる友人の1人に、次のようにメールを送った。

 「私は中国を離れた。その目的は中国の『血禍』(血の災い)の真相を世界に知らせるためである。私はいずれ帰ってくる。私が死ぬときは、帰国する飛行機のなかで死ぬ」

 高医師の友人である上海大学朱学勤教授(歴史学)は、高医師の著作『エイズを防ぐ道程』の前書きで「私はこの前書きをもって、13億人の血液を守る高耀潔の闘志をノーベル平和賞評議委員会に推薦する」と記した。

献血された血液を転売する悪徳病院も

 かつて毛沢東は「中国人民は偉大な人民である」と言った。これは毛沢東の数少ない正しい言葉の1つである。しかし、中国政府の幹部はどこまで「偉大」なのか。彼らに人間味というものはあるのだろうか。

 売血によるエイズ感染被害が明るみに出た当時の首相は温家宝だった。温家宝首相は、このことについてまったく知らなかったのだろうか。

 農民は生活のために、そして、子供を学校に送るために、自らの血液を売らなければならなかった。温家宝首相は農村、農民、農業という、俗に言う「三農」問題の専門家であることを自負していたが、エイズ感染被害にまったく責任がなかったのだろうか。

 中国では、1998年に「献血法」を施行し、輸血用血液を確保しようとした。しかし世界保健機関(WHO)の調べによれば、2011年、献血したことのある中国人は総人口のわずか1%にも満たない。

 したがって、多くの病院で血液が足りない。そのため、一部の悪質な病院は、献血された血液を他の病院に転売して利益をあげようとしている。また、一部の地方政府は、血液不足の問題を解決するために、「4000ccの献血をすれば子供が大学受験で優遇される」などの推奨措置をとっている。

 習近平国家主席は中華民族の復興を呼びかけている。だが、まずは中国人の血液を清潔に保つのが先決であろう。

【あわせてお読みください】
人民はバカじゃない 中国の愚民政治はいつまで続くのか?(2015.02.16 柯 隆)
おいしい「灰色収入」が中国共産党政権を亡ぼす?(2015.02.03 柯 隆)
ケ小平の時代に終止符を打った習近平(2015.01.19 柯 隆)
「一人っ子政策」見直しでも人口増加を妨げる中国の拝金主義(2015.01.06 柯 隆)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43035


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 中国5掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
中国5掲示板  
次へ