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「キヤノンの痰壷」はさげすみではない 得体の知れないものは不気味だがオモシロイ
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投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 10 日 12:06:35: tW6yLih8JvEfw
 

「キヤノンの痰壷」はさげすみではない

得体の知れないものは不気味だがオモシロイ

2015年4月9日(木)  山田 泰司


1986年、当時の中曽根首相と会談するトウ小平氏。その足元には、しっかりと痰壷が置かれている(写真:アフロ)
 中国人の間で「小痰孟」(小さい痰壷)という、ありがたくないニックネームで呼ばれている日本のモノがある。「EF 50mm F1.8」というキヤノンの一眼レフカメラ用の交換レンズである。

 写真を少し専門的に勉強しようという若者が、「カメラマンになりたいならズームレンズを使おうなどと横着せず、まず単焦点のレンズを付けて、自分の足を使って近づいたり離れたりしてたくさん撮りなさい」と言って師匠や教師から勧められるのがこのレンズだ。レンズはFの値が小さいほど光を多く取りこめるので暗い場所でも手ブレせずに撮れるが、カメラメーカーがボディと抱き合わせで売るレンズキットはせいぜいF値が4程度。その点キヤノンのEF 50mmは600元前後(約1万2000円)と手ごろな価格ながら、F1.8と明るく描写も優れていると評価の高いレンズだ。

小さな痰壷のようなレンズとは

 その安価で質の高いレンズになぜ小さな痰壷というニックネームが付けられたのかといえば単純な話で、ずんぐりむっくりした形状が痰壷に似ているからというのが理由。とはいえ、日本ではいまや痰壷自体見たことがないという読者も多いことだろう。

 日本でもJRがまだ国鉄だったころまでだろうか、駅のホームの柱の陰などで白いほうろう(?)やペンキの缶のような容器を流用した痰壷をよく見たものだが、最近はほとんど見かけなくなった。

 一方、かつての中国では、公共の場所よりも家庭でよく痰壷を見かけた。私が中国に留学していた1980年代末には、各家庭のソファーやベッドの足下に少なくとも1つはあったように思う。今では上海の家庭ではほとんど見かけなくなったが、雑貨屋にはなお必ずといっていいほど置いてある。ただ、以前なら専用の痰壷があったようだが、現在では小用の便器としても利用できるいささか大ぶりのモノが多いので、キヤノンの50mmレンズとはいささか形状が違うのであるが。

「爆花見」客が殺到して起きたこと

 いきなり痰壷の話をしたのにはわけがある。

 3月の最終日に上海から日系のエアラインで東京に戻った。一昨年あたりまで、このエアラインの上海発東京便は常に目分量で乗客の9割方が日本人だった。それが、日本のメディアに「爆買い」の文字が踊り始めた昨年から乗る度に中国人が増え、半数かむしろ中国人の方が多いというのが普通になった。先週乗った便はとりわけ中国人が多かった。私の前後左右に座ったのも同一グループの中国人客のようで、話の内容から、桜の見ごろに合わせたツアーのようだった。すると、その翌日あたりから、「爆花見」という言葉がメディアに登場し始めた。花見に大挙して押しかけた中国人ツアー客が花吹雪を散らすために桜の枝をゆすったり、枝を折って持ち帰ったりと、マナーの悪さを伝えるものが大半だった。

 自分のものでもない木の枝を折るのは中国でだって許されることではないから、これはマナーが悪いとのそしりは免れないところ。ただ、中国人客のマナーの悪さを指摘するものの中に、「爆買い、爆花見ツアーがよく利用するあるホテルでは、エレベーターホールに痰を吐く中国人客のマナーの悪さに憤慨している」というのを見つけた時には、これは枝を折る問題とは質が違うんだよなあ、と思ったのである。

痰吐きは不快か不快でないか

 1988年に留学で中国に暮らし始めた私はほどなく、中国人というのはまあなんとよく痰を吐く人たちだろうという印象を持った。老若男女問わずである。当時私が住んでいた大学の留学生寮には、掃除などをしてくれる女性のお手伝いさんが各階に1人ずつ住み込みでいたのだが、自分の部屋が公共の洗面所の真向かいにあった私は、毎朝きっかり6時に、洗面する彼女たちが痰を吐く音で目覚めた。中国生活の初日、前方から歩いてきた色白長身で原節子のような美女が、おもむろに痰を吐く様に衝撃を受けた時のことを今でも良く覚えている。最初の数日、私は彼ら彼女らが吐いたヌラヌラと光る路上の痰を踏まぬようよけて歩いていた。ところがそんな私の様子を見たルームメートに「そんなことをしたって、これまで吐かれた痰で道は埋め尽くされているのだから、無駄ですよ」と言われ、そりゃそうだ、と得心し、それからは地べたをしっかり踏みしめて歩くことにした。

 その後、SARSの恐怖におののいた2003年には、痰が感染を拡大する恐れがあるということで、上海では道路で痰を吐く人が目に見えて減った。しかし、2010年の上海万博が過ぎると、痰を吐く人はまた増え始めた。

 他人が痰を吐く様を見たり音を聞いたりするのは、私にとっては気持ちのいいものではない。ハッキリ言えば不快だ。ただ、痰を吐く人が目に見えて減らないということは、中国の人は、私が思うほど不快だとは思っていないに違いない。といって、「なぜそんなに痰を吐くのですか?」と正面から聞く度胸は私にはないのであるが。

痰壷のようなかわいいヤツ


上海市内の民家の軒先で痰壷を乾かす様子。おまるとしても使われる
 先に、小さな痰壷という「ありがたくないニックネーム」、と書いた。ただこの「ありがたくない」はあくまで日本人の感覚では、である。繰り返しになるが、中国人はキヤノンのこのレンズを、安価で質が高いととても評価している。それほど高くかっているモノに、悪意のあだ名を付けるはずがない。

 「質が高くて軽くて重宝するので、今でもカメラバッグにキヤノンのEF 50mmを忍ばせている」という上海人のカメラマンに、なぜ小さな痰壷なんて呼んでいるのかと聞いてみた。すると彼は、「なぜ呼ぶのかなんて、そんなことは考えたこともないけど」としばらく沈黙した後、「痰壷のようなかわいいヤツ、愛嬌があるなあ、って感じ?」と言った。中国には80年代から町のあちこちに「痰を吐くな」との標語が貼ってはある。ただ、親しみを込めてキヤノンのレンズを小さな痰壷と呼ぶことから見ても、中国人は痰を吐くという行為を特に問題視してはいないのであろう。

 今年32歳になる彼自身、小学校に上がるころまで痰壷が家にあり使っていたという。「今の20代でもカメラマンなら小さい痰壷といえばキヤノンの50mmレンズのことだってピンとくるよ」という。ニックネームは連綿と受け継がれているようだ。

クラクションをうるさいと感じないという衝撃

 痰の問題のほかにも、日本人にとっては不快だったり慣れなかったりすることであっても、中国人はまるで意に介していないと知って驚くこともある。

 例えばクルマのクラクションがそうだ。中国人はとにかくひっきりなしに鳴らす。気の短い私は、自分に関係のないところで鳴らされているだけでも、うるさくて気が狂いそうになるのだが、自分が横断歩道を渡っている時に鳴らされたりするとさすがに怒髪天を衝き「うるせえなあ!」と怒鳴ってしまう。

 ある時、そう怒鳴った私の隣にいた中国人の友人が不思議そうに、「なになに? どうした?」と尋ねてきた。それを聞いて私は、ひょっとしてキミは、このクラクションがうるさいと思わないってこと? と尋ね返した。「うーん、全然思わないねえ」と彼。同じ音を聞いてこれだけ感じた方が違うのか、と新鮮に感じたものだ。

女子大生の立ち食いは美しい

 さらに、同じ行動をとっても、異なる環境では全く違うものに見える、ということもある。

 例えば、私は子供のころ、立ってものを食べると「行儀が悪い。座って食べなさい」と親からこっぴどく叱られた。立ち呑み、立ち食い鮨など、日本でも立ち食いをウリにする飲食店もあるが、基本的に立ち食いは行儀の悪いこと、というのは日本人の共通の認識だと思うし、私はそういう価値観を持って育った。

 ところが中国の大学では構内にある食堂の入口付近に、女子大生が何人も集まり、仁王立ちになったり、入口の階段に腰掛けたりしながら小振りの洗面器ほどの大きさの容器に白米を山盛りにし、その上に炒めたおかずをぶっかけたものを、スプーンを使って黙々と口に運んでいた。しかし、行儀が悪いなという思いは不思議と湧いてこなかった。

 その後、彼ら彼女らが立ち食いする姿を見る度に、なぜ行儀が悪いと思わないのだろうと考えた。そして、結論めいたものを2つ導き出した。1つは、食べるという行為に対する必死さを感じるからではないかということ。立ち食いする女子大生が大勢いた当時の中国は、食糧の配給制度が残っていた最後のころで、もはや飢えることはないけれども食べたいものいつでも食べられるという時代でもなかった。彼ら彼女らは全身から食べるという行為に全力投球している気のようなものをみなぎらせていた。

 もう1つは、だだっ広いだけで暗く、お世辞にも清潔とは言えなかった当時の中国の食堂で食べるよりも、外で立って食べる方が、気持ちよく食べることができる、という選択をしていたのではないかと思い至った。そうした目で改めて見ると、立ち食いしている彼女らは、おおらかで、伸びやかで、美しかった。

明らかに違う価値観で動く人たち

 痰、クラクション、立ち食いをめぐって、自分とは明らかに違う価値観で動いている人たちがいる。こうした習慣や問題は、「良くなっている」「悪くなった」というモノサシで計るものではないのである。

 痰壷に話を戻すと、1980〜90年代に最高実力者として中国に君臨したケ小平氏は、外交交渉に痰壷を活用する「痰壷外交」で知られた政治家でもあった。ケ小平氏と交渉する海外の政治家は、ケ小平氏が足下に置いていた痰壷にひっきりなしに痰を吐くことに気を取られて意識を乱され、交渉がケ小平氏のペースで進んでしまうというのである。

痰壷外交の得体の知れなさと面白さ

 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』などの著書で知られるアジア学の権威、米ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル名誉教授は、2013年に日本語版が出版された『ケ小平 現代中国の父』(日本経済新聞出版社 )で、1982年、ケ小平氏との香港返還交渉を終えたサッチャー英首相(当時)が、会談を終えて北京の人民大会堂の外の階段を下りる時に足を滑らせて転んだことを取り上げ、「その映像はまるで、ケ小平の強硬姿勢にたじろいだサッチャーが、ほとんど地に頭をひれ伏したような印象を与えた」と紹介。さらに、「北京の外交官の間では、ケ小平が論点を強調しようとするとき、よく痰壷を使うことが広く知られていた。このサッチャーとの会談で、参加者たちは頻繁に痰壷を使うケ小平の姿を目撃した」と書いている。

 中国では今、「トラもハエも一網打尽」と腐敗官僚の取り締まりキャンペーンが大々的に展開されており、主導する習近平国家主席を強面の指導者と評する日本のメディアもある。ただ、交渉の武器に痰壷を使うケ小平氏のような政治家の方が、外国人にとっては、得体の知れない不気味さ・面白さがある。

 さて、爆買い・爆花見客の痰に悩まされているホテルは問題をどう解決したらいいのだろう。ホテルのイメージもあるので、痰壷を置くわけにもいくまい。ただ、日本ではむやみに痰を吐く習慣がないことを単に知らないだけの中国人も多いと思う。また、中国当局や旅行代理店がツアー客に対し、海外では海外の習慣に合わせようと注意喚起に力を入れているとも聞く。エレベーター近くのよく見えるところに「日本の習慣を守りましょう」と貼り紙するだけで、効果があるかもしれない。

 いずれにせよ、十把ひとからげで「マナーが悪い」「マナーが良くなった」と良い・悪いで判断せず、「違い」を意識することが肝要なのである。

このコラムについて
中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造

「世界の工場」と言われてきた製造大国・中国。しかし近年は、人件費を始めとする様々なコストの高騰などを背景に、「チャイナ・プラス・ワン」を求めて中国以外の国・地域に製造拠点を移す企業の動きも目立ち始めているほか、成長優先の弊害として環境問題も表面化してきた。20年にわたって経験を蓄積し技術力を向上させた中国が今後も引き続き、製造業にとって不可欠の拠点であることは間違いないが、一方で、この国が世界の「つくる」の主役から、「つかう」の主役にもなりつつあるのも事実だ。こうした中、1988年の留学から足かけ25年あまり上海、北京、香港で生活し、ここ数年は、アップル社のスマートフォン「iPhone」を受託製造することで知られるEMS(電子機器受託製造サービス)業界を取材する筆者が、中国の街角や、中国人の普段の生活から、彼らが日常で使用している電化製品や機械製品、衣類などをピックアップ。製造業が手がけたこれら「モノ」を切り口に、中国人の思想、思考、環境の相違が生み出す嗜好を描く。さらに、これらモノ作りの最前線で働く労働者達の横顔も紹介していきたい。本連載のサブタイトルに入れた「速写」とは、中国語でスケッチのこと。「読み解く」「分析する」と大上段に構えることなく、ミクロの視点で活写していきたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150408/279722  

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