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毛沢東の肖像画が掲げられている北京の天安門広場
永久に終わらない腐敗撲滅キャンペーン 貧困は毛沢東の遺産、腐敗は鄧小平の遺産
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43732
2015.5.12 JBpress
今から39年前の1976年9月9日、毛沢東元国家主席が死去した。中国共産党の文献では、当時の中国経済は破たん寸前にまで陥ったと言われている。
共産党中央は毛沢東の死去をきっかけにその功罪を総括した。それによれば、毛沢東の政策のうち功は7割であり、過ちは3割だったという。ただし、その総括の根拠は示されていない。
毛沢東は中華人民共和国の建国に大きく貢献したが、建国後に何か正しいことを行ったのだろうか。毛時代の中国では、最低2000万人、一説によれば4000万人以上の人が迫害や飢えで犠牲になったと言われている。
その犠牲者の数から、毛沢東は、ヒトラー、スターリンと並んで20世紀の三大暴君の1人と言えるだろう。特に毛沢東は、かつてともに戦った将軍たちのほとんどを迫害し、死に至らしめた。自らの権力基盤を固めるためである。また、知識人も迫害を受け、数百万人が犠牲になった。さらに、地主や資本家も多くが殺害された。そのうえ文化大革命において、中学生以上の学生は農村に「下放」された。このような暴挙によって、中国社会は知識をないがしろにする「無知の社会」になっていった。
言うまでもなく無知の社会では、知的創造も、社会問題の解決も行われない。その結果、国民は極度な貧困状態に陥った。決して極論ではなく、貧困は毛沢東が残した遺産である。
■一転して「不平等」を認めた鄧小平
毛沢東が死去したあと復権した鄧小平は、極度な貧困状態から脱却するために経済発展を図った。それは共産党の統治を維持するためでもあった。
最高実力者だった鄧小平の理念は、「白猫だろうが、黒猫だろうが、ネズミの捕れた猫はいい猫である」というリアリズムである。鄧小平にとってはっきりしていたのは、中国人全員を豊かにすることはできないということである。そこで鄧小平は、一部の者が先に豊かになることを認めると明言した。
この言葉には重要な意味が込められている。社会主義の基本理念は平等の原則であるが、中国は不平等を容認するということである。
インド社会に比べると、中国社会は国民の上昇志向が強いことが特徴的である。そのため、中国社会では一部の者が先に豊かになれば、ほかの大多数の中国人はそれを目標にして頑張るはずだと考えられた。鄧小平が推し進めた「改革・開放」は、まさに所得格差のテコ原理を利用して、人々に頑張るインセンティブを付与することで経済発展を図ったというわけだ。
しかし、「先富論」と呼ばれる鄧小平の理念は人々の頑張る意欲を喚起したが、多くの国民はいくら頑張っても豊かになれなかった。先に豊かになったものとの格差は拡大する一方である。このことは中国社会の不安定性をもたらす重要な一因となっている。
■国民の監視がなければ権力は自ずと腐敗する
では、なぜ大多数の中国人は豊かになれないのだろうか。
経済学的に分析するまでもなく、中国では所得分配は権力の中心部に重点的に行われ、権力と無縁の大多数の中国人には富が行き渡らない。権力を握る一部の中国人だけが先に豊かになり、その後も富の蓄積はさらに加速していった。
所得格差がすべていけないというわけではない。所得の正統性が説明できれば、所得格差は社会の活力、エネルギーを生み、さらなる経済発展につながる可能性が高い。
だが、中国の富裕層の多くは、自らの労働で得た富で豊かになったわけではなかった。権力の座にいることを利用して多くの富を手に入れたのである。これらの富のほとんどは正当性を説明できない。習近平政権は汚職幹部の摘発を強化しているが、明らかになっている汚職の金額は、中国の1人当たりGDPに比べるとまさに天文学的な数字である。
共産党幹部が腐敗する根本的な原因は、一人ひとりの腐敗幹部のモラルの低さによるものではない。国民の監督監視を許さない現行の政治制度にある。
鄧小平は経済改革を推し進めたが、政治改革を最後まで認めなかった。政治改革を進めると共産党統治の根幹を許しかねないと心配していたのである。しかし、監督監視されない権力は自ずと腐敗する。要するに、今日の政治の腐敗は、まさに鄧小平が残した負の遺産なのである。
国民のほとんどは共産党幹部の汚職に不満を募らせている。改革を切望する国民に対して、習近平政権は汚職撲滅を強化することで応えている。事実、汚職にまみれた大物の政治家を捕まえることに対して、国民のほとんどは支持を表明している。
しかし、このままでは汚職撲滅運動が終わることはない。なぜならば、汚職した幹部が捕まっても、新たに任命される幹部もまた腐敗するからである。幹部が汚職する温床、すなわち、現行の政治体制そのものを改革しなければ、汚職はいつまでも続く。
■一部には毛沢東時代を懐かしむ声も
習近平国家主席は「経済をより市場経済化していく」ことを目指しているが、政治的には指導者の権力をいっそう集中すべきと考えているようだ。中国国内の研究者は、習近平国家主席が毛沢東になろうとしているのではないかと警戒を強めている。
だが、もちろん習近平国家主席は毛沢東にはなれない。毛沢東時代に逆戻りするとすれば、まず、徹底的な言論統制が必要となる。さらに、習近平国家主席に対する個人崇拝を強制、徹底し、半ば神様のような存在に仕立てなければならない。いくら時代が逆戻りしても、習近平国家主席は神様のような存在にはなれないだろう。
一方、中国社会には毛沢東時代を懐かしみ、立ち返ろうとする動きが一部存在する。特にネット上では毛時代を賛美する書き込みが多く見られる。
習近平国家主席の父親である習仲勛元副総理も、毛時代に迫害を受けた。それにもかかわらず、なぜ毛沢東の影響が依然として根強いのだろうか。
中国人の歴史学者、章立凡氏によると、。毛沢東支持者は主に4種類の人がいるという。
「第1に、筋金入りの毛沢東ファンである老いた共産党幹部や労働者および農民がいる。彼らは毛時代に徹底して洗脳されている。
第2に、市場経済化されている目下の中国社会に対して強い不満を持つ「民粋主義者」だ。そのほとんどはメインストリームから外れた若者である。
第3に、毛沢東の支持を表明することで莫大な利益を得ている既得権益グループである。彼らは毛沢東を信奉するのではなく、自らの利益を最大化しようとしているだけである。
第4に、政治的な「投機分子」と呼ばれるものがいる。すなわち、毛沢東の支持を表明することでいっそう出世しようとするものである」
これら4種類の毛沢東支持者は人数としては多くないが、共産党の弱点につけ込んで毛沢東批判を封じ込める役割を果たしている。
■改革を邪魔する共産党幹部と知識人
しかし、今日の中国社会の問題は、毛沢東に助けを求めても解決できるものではない。
北京大学の張維迎教授（経済学）は、中国社会の悲劇のほとんどは「大多数の民が無知であることと、少数の者が無恥であること」によって生じていると指摘している。「少数の者」とは、共産党幹部とそれに迎合する一部の知識人である。
習近平政権は腐敗撲滅に取り組んでいるが、いちばん重要な国民の監督と監視は認めない。習近平政権の改革は前途多難と言わざるを得ない。
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