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市川定夫決定版 その1 その2 その3 完結編 (原発はいますぐ廃止せよ)
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投稿者 初心に帰るお天道様に恥じない生き方 日時 2014 年 2 月 22 日 19:22:09: 4hA5hGpynEyZM
 


http://tinymsg.appspot.com/iTD
引用
かんそいも通信

学習集会
低線量被曝の影響と JCO事故健康被害
講師:市川定夫・埼玉大学名誉教授
講演録(1)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

はじめに

司会者
 大泉さんのJCO事故の健康被害裁判は、去年の9月に提訴され、11月から公判が始まり4回を終えたところです。JCO事故における低線量被曝の問題は、この裁判のひとつのテーマであり、その辺のところを勉強する必要から、この勉強会が企画されました。平日の5時半からなので、人がたくさん来てもらうには少し具合が悪いなと考えたんですが、とりあえず、内部的な勉強会ということで、こういう時間帯で設定しました。

 これから1時間半ほど先生のお話をいただいて、そのあと質疑をしまして、8時過ぎぐらいには終わりたいというふうに考えています。最初に、この会を企画した「裁判を支援する会」の代表である藤井学昭さんに簡単な挨拶をお願いいたします。

藤井
 藤井です。代表といわれましたけれども、なかなか難しい内部事情もあります。とにかく大泉さんが声をあげたということ、声をあげていただいたということが、ほんとにどれほど厳しく、そして苦しい現実があるかと。そして声をただ単に出すということではなく、それを裁判という形できっちり、「9月 30日」をあらわにしていくということの困難さを、ともに感じながら支えていきたいなと思っております。

 ともかく、あの事故以後、行政、国の方は「なんでもない」と言うだけです。その根拠というものを示そうともしませんし、また我々もそれがどういうことなのかというのが全くわからない。そして、もう日本という国の無責任さと無関心という言葉を、ほんとにつくづく感じております。

 最近では、神栖の日本軍による毒ガスですね。ああいうことが、まったくこの時代や、この年月が過ぎてきていることを考えたときに、ほんとに今、声をあげるということが、まさに歴史を、時代の責任を追っていく、そういう裁判かなということを感じております。

 そういう意味では、私たちがいちばん知らなければならない、学ばなければならないということのひとつとしての本日の講演会ですので、よろしくお願いいたします。

司会者
 それじゃ、早速先生のお話を伺いたいと思うんですが、先生のプロフィールについてはすでにお配りしているビラ等に書いてあるとおりで、放射線遺伝学を専攻とされていて、様々な業績をお持ちです。特にムラサキツユクサを通して低線量の被曝調査というものについて世界的な権威をお持ちの先生であります。
 JCOにおける低線量被曝の問題というのは、非常に重要な問題なので、そこのところに重点を絞って今日は話をいただきたいと思っております。それでは、時間もないので早速始まらせていただきます。よろしくお願いします。
講演録(2)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

東海村との関わり
 ご紹介いただいた市川です。私が初めて東海村に来たのは、昭和33年、1958年です。それは京大の学部を卒業して大学院に進んだ年で、東海村にできたJRR1という実験用の原子炉を使った共同利用というのに関わったことなんですけれども。生物実験には昭和33年から予算がつきまして、それで来てやりだして、そのあと1965年、7年後に京大で博士号をとって、アメリカのブルックヘブン国立原子力研究所というとこに行くまでは、毎年東海村に来てたんです。

 そのころは上野から汽車で来ますね。悠長だったのに、今日はスーパー日立に乗って、スピードがぜんぜん違うんでビックリしたんですけども。とにかく、そうしてここで一番長いときは、村松にある寮に1ヶ月以上滞在したこともあります。ただそのとき驚いたのが、結核の療養所がすぐ隣りにあるということでした。何でこんなところに作ったんだろうと。しかし、そのころ僕は原子力にさほど興味をもってなくて、ただ、生物学者ですけど習っている物理学とか、そういう知識から考えて、相当制御しないとダメだろうと思いました。

 それから知識として持っていたのは、ここで99年の9月30日に起こった臨界事故と同じことが、核技術の開発の初期に何回かアメリカやソ連で起こっていたことは書物で知っていました。だから、そういうことが日本の原子力開発の初期にも起こるんじゃないかという心配は持っていました。

 それから茨城県を越して、アメリカの国立研究所の研究員となり、ムラサキツユクサという優れた実験材料に出会いました。東海村でも実験を行われた植田さんがそこにいらっしゃいますが、その時も度々実験の指導だとか、その結果の説明だとか、得られた実験データの分析の説明だとかにも来ました。

NASAでムラサキツユクサの生物衛星実験
 アメリカにいる時にムラサキツユクサを見つけたんですが、やがて、現在でもまだ使われていますが、働く人の許容線量の20分の1まで下げても、これだけ突然変異が起こるということをムラサキツユクサで実験的に証明したところ、アメリカの原子力委員会から公表禁止という措置を受けました。僕は、その直前からNASA、アメリカの航空宇宙局からムラサキツユクサの実験をしないかと誘われていたので、それに参加したんです。

 それはなぜかと言いますと、ムラサキツユクサというのは、花に6本のおしべがあって、そのおしべにはたくさんの毛が生えてるんですけども、一本一本の毛は25細胞から30細胞ぐらいの細胞が一列に並んでるんです。一列にまっすぐ並んでいる。ということは、おしべの毛が細胞分裂するたびに、いつも同じ方向に分裂してるということを示しているわけです。NASAはそこに注目したわけです。

 そういう、細胞が一列に並んでる生物系というのは非常に少なくて、例えば藻の仲間とか、そんなのでいくつかはありますけど、それを培養して宇宙で実験するのは難しいのです。培養液を植物用に入れ替えたところに、開花直前のムラサキツユクサの枝をさして、それで宇宙で実験できるだろうということで誘われたわけです。

 それで、生物衛星という、最初の生物実験をやった衛星なんですが、その生物衛生実験でやった結果、地上に帰ってきたムラサキツユクサのおしべの毛は直線になっていませんでした。あっちへ曲がったり、こっちへ曲がったり、枝分かれしたり、つまり前回の分裂と同じ方向を維持することができない。つまり、地上に1Gという大きさの重力がコンスタントに、いつも一定の重力がある地上と違って、無重力になると細胞分裂の方向が乱れる。我々の体の中にも細胞分裂の方向が決まっているものがあります。心臓なんかを作っている筋肉がそうです。いつも同じ方向に細胞分裂しています。そういうことで無重力は危険だという報告書を書いたら、今度はNASAにより、それも発表禁止になりました。

大宮のガンマフィールド施設での実験
 2つのことを続けざまに、ひと月の間に2回経験して、私はアメリカの国立研究所で研究するのを断念しまして、ちょうど京都大学で助手として帰って来いという話があったものですから、帰る決心をしました。ただし、その頃1月36万円、1千ドルだったんですが、その頃360円のレートですから、36万円の月給をもらってたのが、京大に帰って初任給をもらったのが36,800円だったんですよ。

 その他、例えば湯水のごとくガソリンを使う5,400CCの8気筒の車に平気で乗ってたんですが、日本に帰って来て買えたのが360CCの軽自動車だったり、いろんな変化があったんです。

 それでも日本に帰ってきて、今度はがんばって、やっぱりそれと同じ証明をもう1回やり直そうとしました。それで来たのが、ここの常陸大宮の農林水産省のガンマフィールド。そこで、来る年も来る年も、何回も何回も実験を繰り返しました。僕は67年に京大に帰って来たんですが、ブルックヘブンに行ったのが 65年で、2年で帰ってきたんです。

 そういう経緯を経て、帰ってからずっとガンマフィールドで何年間か続けて、そして1970年に初めて許容線量の7分の1でも、これだけ突然変異が起こって、しかも線量と突然変異の発生率はきれいな比例関係になっているということを英語での論文で発表しました。口頭で発表したのは70年ですが、71年に英語の論文で発表しました。

 そういうのが出てしまうと、アメリカ側で1966年から67年にかけて出したデータの公表禁止というのは無意味になってしまって、アメリカでのデータもその後許可が出まして、72年に発表されました。その72年の論文を出したことによって、許容線量の20分の1でもこれだけ突然変異が起こって、それ以上ではずっと線量と比例関係になるということが証明されました。

放射線の「しきい値説」を否定
 その実験はそれまで言われてた放射線の「しきい値説」、今でもJCOの事故が起こったあとでも、ある量の被曝がないと影響は出ないんだ、なんていうことを言ってますが、そういうのを「しきい値説」といいます。敷居が高くて家に帰れないという「敷居」と同じです。ある量を超えないと放射線の影響は出てこないんだというのが、僕が習ったときもそうでした。大学で習ったのもそうでしたし、その当時の英語やドイツ語で書かれた教科書は全部それでした。日本語で書かれたものも当然そうです。

 とにかく、そういう経験をしながら、やっぱり茨城県と縁がありまして、常陸大宮で微量放射線の影響を実験的に証明するのを成功しました。しかも、植田さんたちが東海村の原発の近くや再処理工場の近くでやった実験では、ムラサキツユクサは明らかに突然変異率が周辺で上がるということを証明しています。東海村だけではありません。いちばん最初に1974年から行われた実験は、静岡県にある浜岡原発。次いで、その次の年から、島根県にある島根原発。それから福井県の高浜にある高浜原発。その次の年から同じ福井県の大飯にある大飯原発で始まって、その次の年から東海村でも始まったんですが、どこでやっても同じでした。

世界中でムラサキツユクサ実験
 僕は、70年の中頃にアメリカやヨーロッパでムラサキツユクサの実験結果についての説明、いろんな説明をやりました。大変な時は、飛行機で飛ぶのに要する時間も入れて2週間で17カ所とか16カ所。

 そういう講演をするうちに、やっぱりアメリカやヨーロッパでも実験する人が出てきまして、まずアメリカのオレゴン州にある原発、トロージャンという原発ですが、そこで日本と同じ明確な結果が出ました。それから、その次の年に当時の西ドイツのウンターベッセルというところでも同じ結果が得られました。

 そういうことで今度はアメリカの、その当時はEPAといって環境保護局だったんですが、今は省に上がってますが、そこの招待で1980年にアメリカで招待講演をして、それ以来外国では少なくとも放射線の「しきい値説」を取る人はいなくなりました。学問上もいなくなったし、法律上もなくなっています。ところが、日本だけはまだ「しきい値説」なんです、法律上も。これだけの危険度を見積らなければいけないというのが国際的な委員会で出てても、日本の法律は変わっていません。

埼玉大学へ赴任して
 そういう状況のなかで、こういう事故が起こってしまって、また茨城県とご縁ができてしまうことになりました。

 僕は1978年に埼玉大学に新しい学科を作るために移って来ました。また、埼玉大学には、まだ大学院が修士課程までしかなかったんで、博士課程を作るために埼玉に移って来たんです。博士課程もできたし、いろんな学生もたくさん入って来て、優秀な学生が来て、いろんな研究ができましたが、それからも茨城県の、東海村はもう使わなくなりましたが、大宮のガンマフィールドを使って学生達がいろんな実験をやりました。それで次々といろんな証明をしました。

 例えば核爆発が起こり、放射能が飛び出して、その放射能が落ちてくる。ところが、その放射能には半減期という寿命がある。それぞれの放射性核種の種類によって寿命が違います。例えば、チェルノブイリ事故のあと日本にも降ってきたヨウ素131というのは、8.06日経つと放射能が半分に減ります。また、 8.06日経つとその半分、つまり4分の1、それから8分の1、16分の1と減っていくんですが、同じヨウ素、放射性ヨウ素でも、ヨウ素129という、数字が2つ小さいのは、1700万年経たないと放射能は半分になりません。1700万年って、人類が現れてから何倍もの年月が経つまでかかる。

 そういうふうに、核分裂の結果としてできるもののなかには、非常に長寿命のも短寿命のもあるんですが、そういう寿命に合わせて被曝が減っていったら、どういう結果がでるだろうか。あるいは逆に、降下する放射能の量が増えていった時にどうなるだろうか。それをシミュレーションする実験をガンマフィールドで何度もくり返しまして、汚染量が増えたり減っていったりした時に、ムラサキツユクサの反応はどうなるかというのを調べ、シミュレーションの理論と、実際に一致するということも証明しました。

JCOの事故を知らされて
 とにかく、こういうことで縁があったんですが、このJCOの事故が起こった時に、まず驚いたのは、それが起こってしまったということに驚いたんですが、それを知ったのはどういうことかといいますと、ある新聞社の記者が私の研究室に電話をかけてきました。当日の午後です。比較的早い時間にかけてきました。そして、水戸局に勤めていた記者ですが、今、東海村に飛んでいったら、工場の近くの人が、建物の中の2階の窓から青い光が見えたと、つまり青い光が出ていたと言ったという。それは女性の記者なんですが、その人に僕は「それは臨界事故だ、それしかない」と言いました。
つまり、ウランの核分裂が連続して起こるようになると青い光が出るんです。だから、その新聞社だけは、その日の夕刊に「臨界事故」と書きました。他の新聞社は、放射能漏れだとか、爆発事故だとか、間違った見出ししかつけていませんでした。翌朝の朝刊からは、どの新聞も臨界事故になりましたが。

 とにかく、その記者も僕のところになぜ電話をかけてきたかというのは、その人が浦和支局に勤めてた時に、僕の放射線生物学という講義に興味を持って、聴講生で来てたんです。それで最初に僕の名前を思い出して、大学にかけて僕の研究室の番号を内線電話につないでもらって僕が初めに聞いたんです。

チェルノブイリ事故でも
 同じことはチェルノブイリ事故の時も起こってます。報道機関等が、あるいは政府自身が、そういうチェルノブイリ事故が起こったという情報を外交筋を通じて知る前に、私は、チェルノブイリとはまだ特定できませんでしたが、とんでもない大事故が起こったと知りました。それは、ストックホルムにあるスウェーデンの国営放送。僕はスウェーデンの国営放送で、放射線の影響とか危険とか、そういうことを何度かお話してます。スウェーデンで国際会議に行ってお話したこともあり、国営テレビにも出演したことがあるんですが、それで思い出して。

 それともうひとつ、隣のフィンランドのヘルシンキで原子力をめぐる公開聴聞会があった時に、そこで私はお話をしてます。その時は隣の国のフィンランドから、スウェーデンの国営放送はスウェーデン全土に放送してましたから。そういうこともあって私のところにかけてきたんです。

 放射性ヨウ素がどんどん検出されていると言うのです。放射線レベルがどんどん高くなっていると。僕は、すぐに風向きはどっちだと聞いたんです。南東から風が吹いているという答えだったんです。そうすると、スウェーデンのストックホルムから見て南東の方向というのは、ポーランドだとか、あるいは今のベラルーシぐらいが、そういう方向が南東にあたりますから、そっちで起こった原子炉事故としか考えられないということを言いました。だから、スウェーデンの国営放送は、そのとおり僕の英語で話したのをスウェーデン語に訳して放送して、テープも送ってくれました。

壁をつらぬく中性子
 新聞社とか、それらが知る前に僕が知ってしまったというのは、その時に次いで今回2度目だったんです。とにかく、そういうことが起こりますと、何がまず飛び出してくるかといったら、高エネルギーの速中性子がどんどん出てきます、核分裂によって。それはコンクリートの壁だとか、そんなものは簡単に貫きます。なぜかというと、名前のとおり「中性」子といって、プラスの電気も、マイナスの電気も帯びてないから中性。中性子とは、そういう粒子なんですけども、それは、いろいろなものを貫いて小さな粒子が飛び出していくわけです。

 だから、あの建物の壁ぐらいではほとんど何の障害にもならなくて、そのままどんどん飛び出します。しかも事故が起こったときに、あそこの施設では普通の測定器、ガンマ線を測定するガイガーカウンターで測定しようとしましたが、ほとんどかかりません。中性子は通常の計数器では測定できませんから。だから、ある意味では安心したというか、すぐには非常事態体制をとろうという手はずをしなかった。ただし、作業をしていた3人は酷い状態になっているんで救急車を呼んで搬送した。ところが、放射能で汚染されているということを一切言ってませんから、消防士も被曝しましたし、それにあたった人も被曝した。臨界になって中性子が出てるということをすぐには気がつかなかったわけです。中性子の測定は原研とか、そういう原子炉を持ってるところしかなかったんです。JCOは本来はそれを備えるべきだったのに、それがなかったために、中性子を測定しなかった。

講演録(3)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

測定が遅れた中性子
 そして、臨界状態が20時間続いて、たくさんの作業員の決死で、相当の被曝を受けながらも作業をして、臨界状態が止まったのは20時間後でした。そのために作業所にいた人、近所の家にも中性子が届いてますから、最初350メートル以内ということにしましたけども、350メートル以内の避難とか、そういうことをさせたのは、だいぶ時間が経ってからです。その間、ずっと現場でみんな被曝を受け続けさせられたわけです。

 そして、原研から中性子の測定器を持ってきて測定し始めたのは、もう臨界事故が終わりに近いころです。だから今、被曝した線量の推定をしてるのも、初期の時の状態がわかってないもんだから、初めのうちはこれくらいと言っていたのが、いやいやもっと少ないと言ってみたり、そういう言いかえをする根拠になっているわけです。確たるデータがないからです。
さっき言ったように、青い光を知らせてくれた記者も被曝者になりました。何も防御なしでそばまで行ったわけですから。ただし、そこに住んでる人から比べたら滞在した時間はずっと短かかった。とにかく、そういうことであれだけ多数の660人を超す人たちが、今、当局の方がそういう対象とする数としてるのが、それだけになってるんですが、それも今度また基準を上げて減らそうとしている動きが強いんです。

 とにかく、あれだけの事故が起こったし、極めて顕著な、きつい急性障害を出した人が3人、実際作業をしてた人で、そのうち2人が亡くなってしまった。そういう事故に至ったわけです。

中性子被曝とは
 それで、いちばんの問題は、主たる被曝が中性子だということです。被曝量の圧倒的大部分が中性子被曝でした。先ほど言ったように、中性子は貫通性が強くて、プラスもマイナスも電荷を持ってませんから、直進性が強くてまっすぐ飛びます。ところが、我々の体に入りますと、どういうことが起こるかといいますと、中性子というのは、陽子とともに原子核を構成していますが、陽子と中性子は同じ大きさなんです。重さも同じです。厳密にはわずかに違うんですけども。しかし、陽子というのはプラスの電気を持っています。中性子は電気を持っていない。

 我々の体の中の元素のなかで圧倒的に多いのは水素です。だいたい体の8割ぐらいが水分でしょ。水というのはH20でしょ。水素原子2つと酸素原子が1つ。それから炭水化物、例えばブドウ糖はC6H12O6と、Hが一番多く入ってるでしょ。それは炭水化物全部そうです。単糖類のブドウ糖でも、多糖類といって糖がたくさんついてるでん粉、それがみんな基本でできてますから。たくさん水素を持ってます。脂肪もそうです。ただ、タンパク質ももちろんたくさん水素を持ってるんですが、タンパク質には他に窒素が入ってるわけです。

 とにかく、体の中で分子を作っている原子核として圧倒的に多いのは水素なんです。その水素の原子核は陽子1個です。さっきも言ったように、陽子と中性子は同じ重さ、同じ大きさですから、中性子が飛んできて、体の中に入ってくると、圧倒的に多い水素の原子核とぶつかるわけです。そしたら、同じ大きさですから、そのスピードで水素の陽子を追い出すんです。そういうのを弾性衝突といいまして、物理的にボンとぶつかって跳ね飛ぶということです。それで水素から陽子を追い出してしまうんです。

 追い出された陽子は中性子の速度が速いほど高い運動エネルギーを得るんです。そして、エネルギーは得るけども、陽子はプラスの電気を持ってますから、体の中のいろんな分子が持ってるマイナスの電子と、プラスとマイナスでくっつこうとするわけです。そのくっつこうとする力でどんどんスピードがゆるめられるので、追い出された陽子は早いスピードで出たものでも、せいぜい数十ミクロンぐらいしか飛ばないんです。そこで止まっちゃうんです。もっともっと何度も衝突を繰り返して、エネルギーが弱ってスピードが遅くなってる中性子が飛び込んで陽子を追い出しますと、その陽子はより小さいエネルギーしかもらえませんから、はじめから遠くへ飛べない。だから簡単に、さっきも言ったようにプラスとマイナスの電気作用で電気ブレーキがかかって止まっちゃう。そういう時には、ほんとに何ミクロンしか飛ばない。

低エネルギーの中性子の影響
 結局は中性子が陽子にかわって、その陽子が走った距離のその周囲だけに大きな放射線のエネルギーを集中的に与えます。中性子の方は、だんだん速度を失って、だんだん運動のエネルギーが小さくなりますが、そのため、あとから追い出された陽子ほど高い密度で放射線のエネルギーを与えてしまうことがあります。陽子線のエネルギーを。

 ここで大事なことは、粒子線といって、粒状のものが放射線である場合には、運動のエネルギーが小さくなればなるほど、放射線として体の細胞や組織に吸収されるエネルギーは大きくなる。なぜかというと、エネルギーが小さいほど短い距離しか飛びませんから、放射線のエネルギーがその短い間に集中的に与えることになり、その放射線の密度は大きくなります。だから、あとでまた触れますが、中性子の実験をやりますと、低エネルギーの、運動エネルギーを失った中性子ほど生物効果は大きくなります。

 とにかく、そういうことで中性子被曝というのは非常に深刻な問題を持っているということを理解してください。普通にレントゲンを受けた時に、エックス線も貫通力が強いからレントゲン撮影に使うわけですが、それは電磁波という放射線で、所々でイオン化を起こして、そこにエネルギーを与えるんです。ところが中性子は、今言ったように、いろんな原子や分子と衝突しながら、速度をどんどん落としながら、落とせば落とすほど短いところでまたぶつかって速度が衰えて。そういうことを繰り返しますから、中性子が体の中に入ってきますと、比較的短い距離の間にエネルギーが集中的に吸収されて放射線効果が大きくなるという、そういう中性子被曝の特質を持ってます。

 エックス線の場合ですと、ある量を外から受けますと体のいろんなところが受けるエネルギー量がほぼ均一に、しかもぽつんぽつんと所々に確率論的に吸収されるだけで、集中的な被曝が起こることはありません。ところが、アルファー線(陽子2つと中性子2つの粒子で、ヘリウムの原子核と同じ)もそうなんですが、これも生物効果が大きくなるのは同じことなんです。

建物から漏れ出た放射能
 そういうことで中性子被曝というのが、今現実に起こっているんだということを僕は知ったわけですが、臨界状態になったことが、どういう過程で起こったかということは電話を受けた時点では知るよしもなかったのです。あそこでやってるのは、いろんなところから注文されている核燃料棒に入れる核物資を製造してるわけです。ところが、後で分ったことは、もっと濃度の高い、特別な原子炉に入れるのを製造してて、それを許可を得た方法ではなく、しかも時間が迫られてたからバケツでもって入れるという粗暴なこともやっていたことだったのです。

 電話で聞いた時は何が起こったかのか具体的には何もわかりません。ただ、わかったことは臨界状態になって核分裂がどんどん続いているということ。したがって中性子がどんどん飛び出しているということです。それから、核分裂も起こってるわけですから、原子炉の中でウランの核分裂によって、いろんな、自然界には存在しない人工の放射性核種、核分裂生成物ともいうんですが、いろんなものが出ています。それはガンマ線とベータ線を出すとか、ベータ線とアルファ線を出すとか、そういう性質を持ってますが、中性子ほど遠いとこまで届きませんから、壁が十分厚ければ透過力のあるガンマ線でもそれで遮られて、あまり外には出ない。

 ところが、そこのなかの空気が、例えばケガをした作業者を運び出すためとか、中性子には役に立たないガイガー計数器でまわりの放射線を調べようとした時、慌てて出入りした際に、中でできてた放射性核種も外に出たはずです。ただし、その場合、あの日は一定の風の方向がありまして、僕は忘れてしまいましたけども、一定の風の方向があって、建物内から漏れ出た放射能は間違いなく風下にしか行きません。中性子のように、風に関係なしに、あらゆる方向に、地面の方向にも真上にも、東西南北どこへでも飛ぶ中性子とは違います。

時期外れの落ち葉
 それから数日たった時、民放テレビの記者から電話がかかってきたんです。事件当日の風下の方の桜の葉や、他の落葉樹の葉がどんどん落ちてると。何でそんなに葉っぱが落ちるのか、まだ紅葉して落葉する時期でもないのにと。僕はすぐに言ったんです。中性子というのは、さっき言ったような働き方をしますから、葉の茎(葉柄)のような細いところに中性子が飛び込みますと、そこに集中被曝を与えますから、葉柄の組織が壊されて青いまま落ちちゃうんです。葉っぱには穴があくだけなんですが、葉柄のところにあたりますと落ちる。だから、それも速中性子が飛びかってた証拠だが、速中性子は風下だけに行くんじゃないと言いました。それで次の日、僕もつき合って現場を見に行ったんですが、案の定、風下とは関係なしに近いところほど葉っぱがいっぱい落ちててました。これは風の方向とは無関係に起こる事象ですから。素人考えすると、これは「放射能」だと思ってるから、風下だけで起こったと思ってるんだけど、さっき言ったように核分裂の結果、建物の中でできた放射能が飛び散っていることと、中性子が貫通して出ていくこととは全く違う現象だし、したがって生物に与える影響も全く違ったわけです。


続く


前回の続きから

大宮ガンマフィールドで白血病患者
 中性子の事故というのは、そういう特殊な性質を持ってることをお話しましたが、僕たちは、低線量被曝だけじゃなくて、放射線の種類によってどれだけ生物効果が違うのか、同じ放射線、中性子なら中性子でもエネルギーの大きさによって、どれだけ生物効果が違うかという研究をずっと続けてきました。

 また、一番最初にお話したように、アメリカのブルックヘブン国立研究所で、エックス線と速中性子の低レベル被曝が突然変異に関してはしきい値は全くなくて、どんなに小さくてもそれに比例して起こるんだということを実験的に証明して、それが公表禁止になったから、常陸大宮のガンマフィールドで実験的証明を繰り返したということを言いました。それは限られた放射線だけの現象なのか、他の放射線でもそうなのかということを調べなきゃいけません。

 そのうち、ガンマ線というのは、どんな現象を起こすかという問題が起きました。ガンマフィールドは、直径200メートルの中心、円の中心半径100メートルのところにコバルト60の線源をおいて、そこから圃場の中にガンマ線を飛ばして作物に当て、それで突然変異が起こって、その中で農業で有用な突然変異が起こらないかを狙ったものでした。そういうことで巨費をかけて作った圃場だったんです。

 ところが、あそこの圃場の近くの人で、大宮の人たちが、トラクターの運転手だとか、草取りだとか、いろんなことで圃場で働いてた人が、2人続けて白血病にかかって、結局2人とも亡くなるという、そういうことが起こったわけですよ。

 その人たちはガンマフィールドの中にいつも入ってるんじゃなくて、入る朝の8時から12時だけは、コバルト60線源を、上にある鉛の容器に入れてしまって、それでガンマ線が出ない仕組みにしてあるんです。しかもガンマフィールドの周りには200メートル直径、高さ8メートルの土手が築かれていまして、その土手の土の厚さは、ガンマ線はとうてい貫かないという設計になっているわけです。

散乱放射線の影響
 ところが、ガンマ線というのはコンプトン効果という、コンプトンという学者が発見したことが起こります。空気中には酸素分子もありますし、二酸化炭素の分子もある。もちろん窒素分子もありますね。そういういろんな分子にガンマ線があたりますと、その分子から電子を追い出します。それは電離化といいますが、その電離のために、電子が飛び出していくエネルギーとして与えてしまった分だけガンマ線のエネルギーが弱くなります。

 しかもガンマ線とかエックス線という電磁波は、波と書くように波長を持ってるわけです。波長が短いほどエネルギーが高いんです。逆に、エネルギーを失うと波長が長くなってくるんです。いろんな分子から電子を追い出します。原子でもいいですよ。だけど原子で自然界に存在するのはごくわずかで、普通は何らかの分子の状態です。そこから電子を追い出しますと、それで運動エネルギーを奪われて、より長い波長になる。

 それまでの考え方では、その長い波長になった低エネルギーの放射線は散乱放射線と呼ばれて、散乱放射線ではエネルギーが弱いから生物効果は弱いと考えられていました。コバルト60線源からは、ある高さより上には、直接のガンマ線はいかないように設計されてますから、8メートルの土手は越さないことになってます。だけど下向きになったガンマ線も、もちろん空気があるわけですから、それにあたる。土にあたる。あるいは作物にあたる。そこで、いろんな分子と反応してコンプトン効果で、より波長の長いエネルギーの散乱放射線としていろんな方向に飛んでいきます。それが、また他の分子とあたって弱いエネルギーになって、土手のより高い位置から、今度は土手の外側にももっと弱いエネルギーで飛んでいきます。

ムラサキツユクサで散乱放射線を調査
 その当時は、そういうことが起こることや、低エネルギーの散乱放射線はほとんど問題にならないと考えられていました。だから、どこのエックス線照射室の壁の構造も、分厚くしたり、何回か直角に曲げて直接のエックス線が漏れないようにしていた。

 それで、いろんな方向に散乱放射線が出て、こっちの壁に、あっちの壁に、何度もあたってくる。入口の鉄のドアにきた時には、ものすごくエネルギーは弱ってるから、もう問題ないだろうということで、鉄の扉の厚さもそんなに分厚くなかったんです。昔はそう考えられていたんです。
ところが、そのお2人が白血病にかかられた当時、僕が京大で物理を習った先生で、物理学者だけど静岡県の三島の国立遺伝学研究所のアイソトープ室長をやっておられた近藤宗平という先生がおられた。後に、そこから阪大の大阪大学医学部の基礎医学研究室の教授になられました。定年になられたあとは、大阪の南の方にある近畿大学の原子力研究所所長になられました。その方と私に調査依頼がきました。その時まだ農林省だったんですが、農林省のほうから調査依頼がきました。

 僕に頼まれたのが、ムラサキツユクサを使って、散乱放射線しか届かない高いところ、つまり直接ガンマ線が届いてないところ、それから周囲の土手の上、そのお2人を含む一般の人が作業をしているところ、つまり安全とされたところ、そこには対照区として放射線をあててない作物も植えてあったわけですが、そういうところで行う調査でした。微量な放射線の影響でも検出することわかってましたから、ムラサキツユクサを置いて、調べてくれと言う。

 近藤先生には、ガラス線量計というのを開発してもらいました。普通のガイガーカウンターとかでは、その瞬時瞬時の放射線量は測ることができますけど、何時間、何日間、何ヶ月間、何年間置いといて、総被曝がどうなるかという、総被曝線量、集積線量を測る機械は何もなかったんです。それで、ガラスの中に特別のいろんな化合物を入れて、いろいろ試しながら、近藤先生もエックス線を当てながら、これだけ当てたら、こんな色がでる。これだけ当てれば、こんだけでるという測定をしてくれました。それと、実際の生物効果と合うかどうかということで、近藤先生が開発されたガラス線量計というのを僕のムラサキツユクサに付けておいて、ムラサキツユクサに当てると同時に、そのガラス線量計にも線量を当てておくと、そういうことをやりました。

 ガラス線量計はそれでもまだ大きくて、8ミリ立方ぐらいあったんです。細い植物なんかにつけたら重くて折れちゃうぐらいなんですが、そういうのを使ってやったんですが、その当時はそれしかなかったもんですから、針にさした竹柱につけたガラス線量計で測りました。そしたら、ムラサキツユクサのそばの竹柱にガラス線量計をつけておいて測った線量と、ムラサキツユクサの突然変異率は、きれいに一致しました。

無力だった原子力施設の安全構造
 ガンマフィールド内でたくさんのガンマ線が出ていて、しかもその線量と突然変異の頻度の関係から、はじめは圃場内でできてる散乱放射線は、結構エネルギーが大きいんでわからなかったのですが、外まで遠くまで飛んでくようなのは、何度も衝突をしてコンプトン効果というのをやってエネルギーを落としてますから、ものすごくエネルギーが小さくなってる。そうしたエネルギーが小さくなってる散乱放射線ほど生物効果が高いということをその調査で証明したわけです。

 ですから、それまでの原子力施設の安全構造といわれてるものが無力であるということを証明したんです。その後、政府の方もアイソトープ施設とか、そういう施設には迷路状にしただけの構造ではダメだと。散乱放射線が絶対外に漏れないような構造にしないと駄目だということに変わっていきました。それが2番目の発見です。

講演録(4)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

エネルギーが小さいほど大きい生物効果
 次にかかったのは、アメリカから帰って来て京大にいる頃から埼玉大に移ってからにかけて、ずっと続けたんですが、それは速中性子、いわゆるここで起こったのと同じ中性子です。原子炉内で核分裂を起こす中性子は減速してスピードを緩めてありますが、核分裂してから出てくる中性子は、速中性として、何も障害物がなければそのまま速いスピードで飛んでいきます。その速中性子のエネルギーと生物効果の関係でした。

 速中性子として我々が一番得やすいのは、14.1メガエレクトロンボルトのものです。ややこしいですが、エレクトロンボルトというのはどんな単位かというと、小文字のeと大文字のVを書きます。エレクトロンは電子です。ボルトは電圧のボルトです。エレクトロンボルトというのは、どういうことかといいますと、1ボルトの電位差がある、それは普通使っている100ボルトの100分の1ですが、その1ボルトの電位差がある2点の間で、マイナスのエネルギーを持っている電子がプラスの方へ向かって飛んでいく時に、どれだけの運動エネルギーを得て飛んでいくか、その余分に与えられる運動エネルギー量を1エレクトロンボルトというんです。

 1ボルトの電位差があるときに電子が電気エネルギーとは別に獲得する運動エネルギー、それがエレクトロンボルトです。それで、メガエレクトロンボルトというのは100万倍の単位です。だから、14.1メガエレクトロンボルトの中性子というのは、1410万エレクトロンボルトを持ってる。そんな大きな運動エネルギーを持ってる中性子です。

 その中性子の生物効果は、普通のガンマ線とかエックス線と比べて、せいぜい3倍とか4倍ぐらいしかないんです。場合によっては、2倍しか生物効果を示さないことがあります。ところが、その中性子の出し方を変えることによって、もっと小さなエネルギーにして、14.1メガエレクトロンボルトからどんどん下げていって、僕らが実験したなかで一番低いのでは0.43メガエレクトロンボルトまで実験しました。そしたら、14.1メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、それもムラサキツユクサの突然変異で調べていったわけですが、それに比べて0.43メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、突然変異を起こす能力は、100倍以上の突然変異を起こすということがわかりました。

 中性子もまた、ガンマ線からコンプトン効果で出る散乱放射線と同じように、エネルギーが小さいほど大きな生物効果を与えるということがわかりました。ということは、ここで起こったことを想定しますと、まず少しでも中性子が外へ行くのを防ぐためにバリアをいろんな形で置きました。例えば土のうの中に鉛とか重い鉄を入れたのもありましたし、コンクリートのブロックを積み上げたのもありました。そして中性子がぶつかってエネルギーを失い、運動エネルギーを失っていくほど生物効果は大きくなっいたんです。もちろん、事故初期に出ていた中性子よりは、バリアによりずっと減っていましたが。

中性子による体内の集中被曝
 そして、エネルギーが落ちた中性子が我々の体の中に入ってきますと、すぐさま近くにあります水素の原子核とぶつかって陽子を追い出す。しかし、運動エネルギーが弱くなってきてますから、陽子を飛ばす力も弱いし、自分もまたぶつかって飛ぶ距離も短くなる。陽子も弱いエネルギーしかもらってませんから、ほとんど動かずにその周りで陽子線としてエネルギーを放出する。それから、中性子の方もほとんど動かなくなって、そこで何度も何度も、そばに水素はいくらでもあるわけですから、生物の体の中には、ごく短い距離範囲内でどんどん吸収されて、そこに大きなエネルギーを与える。

 だから、我々の体の中では、細胞単位でも組織の一部でもどこであれ、その組織が神経組織であれ、皮膚組織であれ、内蔵であれ、呼吸器官であれ、循環器官であれ、そういうどこであっても、その一部で集中的な被曝を受けることになります。しかも中性子を高い密度で受けますと、つまり大きな線量の中性子を受ければ、体のいたるところで集中被曝が局所的に起こるという現象が起こってしまうことになります。それが、さっきも話したように、中性子被曝の生物学的に一番危険な点なんです。

 ですから、ガンマ線に比べてエネルギーが大きい速中性子、速い速度を持ってる中性子は、速ければ速いほど強いエネルギーを持ってるから、高速中性子とも言うんですが、それはガンマ線の3倍前後の生物効果しか持ってなくても、さっき言った0.43メガエレクトロンボルトになると、ガンマ線の100何十倍かの生物効果を持ってることになります。そういうことも証明されています。

ムラサキツユクサの長所
 それから最後に、私が一昨年の3月の末でもって65歳で埼玉大学を定年になって名誉教授という形になってしまったんですけど、最後の8年間、僕がめざした放射線と化学物質とか、化学物質どうしの間の相乗効果というのをムラサキツユクサを使って証明しようとしました。というのは、いろんな化学物質であれ、放射線であれ、みんな単品の効果だけで、しかも十分な動植物実験もやらないで規制基準が決められているからです。

 不幸にして事故が起こった時に、それで起こったことと実際にガンマ線や他の放射線で起こったことを比較して丹念に調査すれば、ある程度推定できます。しかし、少数のサンプルからではきっちりしたものが出るとは限りません。

 実験は動植物を使ってやるしかないですが、それに一番いいのはムラサキツユクサで、ムラサキツユクサは何でそんな微量なことまでやれるかといったら、1つの花に6本のおしべがありまして、そのおしべ1本1本にたくさんの毛が生えてる。植田先生が以前、毎日毎日観察されてたわけですが、1本のおしべあたり、平均60本の毛があるんです。だから、6本のおしべにそれぞれ60本ぐらいの毛がありますから、6×60で360本の毛がある。そして1本1本の毛には平均で25細胞が一列に並んでる。360に25をかけますと9,000です。1つの花で9,000のおしべの毛の細胞を見れるわけです。100個の花を調べたら90万細胞は調べることができます。

 だから、ものすごい数を扱えて、しかも僕らが使ったのは青い色素を作る優性遺伝子と、ピンク色の色素しか作らない劣性遺伝子を1つずつ持たしてあります。それで、優性遺伝子と劣性遺伝子ですから、おしべの毛の細胞は花びらも同じなんですが、青です。ところが、優性遺伝子が放射線でやられると、たちまちその細胞はピンクになるという、そういう仕組みなんです。だから、90万のうち、いくつピンク色になってるか、もっと多人数でもっともっとたくさんやれば、何百万、何千万のうち、どれだけ突然変異が起こってるか調べることができる。だから微量放射線の影響がわかったんです。他の生物でそんなことができる生物はないんです。

 単細胞の大腸菌とかバクテリアを扱ってると数はものすごくいます。けれども、バクテリアの数を数える時にコロニーといって、細胞の集まりを作るコロニー数でしか数えられませんから、1つ1つのペトリ皿(シャーレ)だったら、せいぜい何十個とか、そのぐらいしか数えられませんから、正確に何細胞あたり、どれだけというのは決められないですね。コロニーにも大きなコロニーもある、小さなコロニーもある。みんな同じ大きさじゃないですからね。

改良したムラサキツユクサ
 そういうバクテリアでも不可能だったことがムラサキツユクサでやれたわけです。その長所を使ってさらに僕は材料を改良しました。青とピンクのヘテロに加えて、植物の一番下の節の長所を生かしたのです。節というのはフシです。竹のフシと一緒です。同じ単子葉植物の縦にしか葉っぱに筋が入らないツユクサ科の植物。皆さんがご覧になる春から夏にかけてコバルトブルーのきれいな花を咲かせるツユクサの仲間なんですけど。ツユクサにはおしべの毛はないんですけど、ムラサキツユクサにはある。ムラサキツユクサは北米産の植物なんですけど。

 とにかく、改良型を使って次々と証明をしたんですが、稲なんかでは分けつといいますが、新しい茎が一番下の節から出てくる。それがどんどん出る改良をしたわけです。次から次へと採ると、それを外したらまた出てくる。また外したら、また出てくる。出てきてある程度延びて、はじめは真っ白なのが出てくるんですが、光にあたるとすぐに緑色になります。光にあたって緑になったら、はがして分けた別の個体にするんです。また、次へ次へと、ほんとにどんどん出てくる。今言われているクローンなんです。遺伝子型が全く同じ。ムラサキツユクサを私はテスターとして、株を分けてしか増やしませんから、世界中で使ってるのは、みんな同じ株、クローンなんです。

 それで、どんどん増やして低レベル放射線よりもっと難しいといわれてた、違う化学物質同士、それから放射線と化学物質で同時に処理すると突然変異率が足した率、つまり加算効果だけで済むのか、あるいは相乗効果になるのか、あるいは相殺効果になるのか、それを調べていこうとした。ただし、僕が狙いをつけた点は1つありました。ある化学物質やある放射線が、遺伝子を作ってるDNAに対して、少なくとも部分的に共通の作用機構を持ってるもの同士では相乗効果になるはずだと。

放射線と化学物質の相乗効果
 例えば一方の突然変異を起こす要因を、ある量しか処理してないと、それがDNAに損傷を起こしたすぐ近くで、次の損傷を与えるチャンスがなかった場合は突然変異まで行かない。ところが、2つの要因で一緒に処理すると、その時の突然変異はどうなるかと調べたら、僕の狙いどおり、予測したとおり、少なくとも部分的に共通の作用機構を持つものを同時に処理しますと、両方足しただけの効果よりも、ずっとたくさんの統計学的にはっきり差がある相乗効果をどんどん見つけるのに成功しました。

 それで、いろんな化学物質と放射線の間、放射線の種類をかえてもこうだと、化学物質と化学物質の間、そういうたくさんの証明を最後の8年間に集中してやりました。僕はもともと原子力に反対ですが、その原子力を一生懸進めようとしてる、今文部省と一緒になって文部科学省となりましたが、その元科学技術庁には僕を恨んでる人がたくさんいたんですけども、僕は最後の8年間は、ずっと科学研究費補助金(科研費)というのをもらいまして、しかもかなり多額をとってました。というのは、そういう独創的な研究をしてる人というのは他にいないもんだから、付けざるを得なかったわけです。

 私は、埼玉大学に結局23年いたんですけども、23年のうち16年は科研費をとっておりましたし、最後の8年は連続でとりましたから、新しい研究材料を開発して、しかも液体培養で土も何にも使わないで育て、今までは鉢植えで置いてたら限られた個体数しか置けないところでも何百個体も置けるように、分けたクローン植物を挿して、ほんとに狭い面積でたくさん栽培し、自動的に培養液が循環するシステムを作り、環境条件もコントロールして、いつもどんな時でも同じ条件、処理条件以外は全部同じという条件を具えたのです。その機械も僕の設計で作らせたんですけど、科研費があったからできたのです。

相乗効果で教え子が博士号
 とにかく、それで相乗効果というのをたくさん知ることができます。それから、もう1つ、今朝も推薦状を英文で書いて、こっちに来る前に送り出してきたんですけど、僕のところで博士号を取った、埼玉大学に博士課程ができて僕の指導で第1号の博士号を取った沖縄出身のS.N.という女性なんですが、彼女がその実験をずっとやってくれた一人なんです。実験材料の改良も一緒にやってくれたんです。

 彼女はそれが認められて、博士号を取ったあと1年間僕のところでポストドクトラルフェローといって、日本ではオーバードクターとも言いますが、研究を続ける制度があるんですが、それで研究してましたが、次の年からはカナダのトロント大学に留学しました。新型肺炎が流行って問題になったとこです。ただしトロントで新型肺炎にかかったのは、あそこの中華街だけだったんですね。だから全部あれは中国系だったんです。ちょっとこれは余談ですけど、ある説によれば中国人をねらったのじゃないかとかね、そういう説も出たくらい。そんなことはないと思いますけど。

 とにかく、そのトロント大学の生物学科で3年間、ポストドクトラルの研究を、最初の1年はカナダ政府から、最後の2年間は日本の政府から、もちろん僕が推薦者になって、奨学金もらって続けました。現在はアメリカのザ・ジャクソンラボラトリーという、一番北東のすみのメーン州にある、ネズミ専門の遺伝の研究所なんですけど、そこに行ってもう3年になるんです。そこでも、ガンに関係した、あるいは染色体を不安定にする要因とか、そういうことについて、まだ遺伝関係の研究を続けています。その人が今度は研究だけじゃなくて教育もしたくなって、ボストン大学の医学部の教官募集に応募したいと言ってきたんで、緊急に今朝、推薦状を書いてボストン大学医学部の選考委員会の委員長に送ったんです。

人工化合物によるDNA損傷
 その次の人は中国から僕のところに留学してくれたS.R.という女性で、その彼女がやってくれたのが、バクテリアでは全く無害だけど、真核生物でほんとの細胞核をもっていて、DNAがヒストンというタンパク質と結びついて染色体という構造を作っている高等な生物では、バクテリアでは全く無害のものが危険なものに変えられるという、プロミュータジェンと呼んでいる化学物質に関する研究でした。ミュータジェンというのは変異原、突然変異を起こす物質。それの前という意味の「プロ」がついてるんですが、そういうものがあるというのがわかっていきます。

 バクテリアは、ぜんぜんDNAに損傷を全く与えない、安全とされてて、だからプロミュータジェンは、除草剤とか、そういう農薬に入ってたりしていたものもあります。そういうものの中で、高等生物では、体内で遺伝的に有害なものに変わってDNAを傷つけるものがあるということが最近わかってきました。それが1つ2つとわかってくると、その化学構造等から、これもその疑いがあるということが読めてきます。

 そのS.R.さんは、研究生を1年、修士課程を2年で終えると、Sさんよりは2年遅れてドクターコースに入ったのですが、とにかく彼女もがんばってくれた。僕が、この物質もプロミュータジェンの可能性があると、しかもこの化学物質がミュータジェンに変わったら、エックス線と相乗的に働く共通の作用機構をもってると、そういうことを予測しまして、まずプロミュータジェンかどうか調べる。哺乳類である人の場合は、その物質が体内に入ってきますと、肝臓の細胞中にミクロソームというのがあるんですが、その中でその物質が変えられて、そして突然変異を起こす物質に変わってしまうんです。

 ミクロソームは普通どんな働きをしてるかというと、天然に存在する毒物を無毒化するか、あるいは物によっては分解して害のない物に変えてしまう。そういう作用をしている。だから、体の防御のためにあるものなんです。ところが、プロミュータジェンと称する一群の全部が人工化合物です。天然のものは1つもありません。人間が石油から作り出した化合物です。

 それが、ミクロソームにいきますと、そこで普通の天然のものを無毒化する作用が、誤って地球上になかったものに対しては同じように作用すると、かえって有害な物に変わってしまうんです。だから人間が作り出した物は体の中に入ってくることによって、我々の体を守ってた、進化の途中で獲得した見事なシステムが、悲しい宿命に一変してしまう典型的な例なんです。Sさんは、いくつかのプロミュータジェンとエックス線との間の相乗効果を見つけました。また、植物では、どの細胞も過酸化酵素によってプロミュータジェンを変異原に変えることも発見しました。

あふれる人工化合物と放射線の危険
 ほんとに今は8万を超える人工化合物がこの世の中に出されてしまって、毎年1000以上の新しい人工化合物が加えられている。しかも、そのかなりの部分が放射線と相乗効果を持っているとなると、放射線にさらされる可能性が高くなればなるほど、さらに危険が高まるということになりますから、その相乗効果の研究を僕の埼玉大での最後の研究にしたというのは、そういうとこだったんです。

 そういうことで私は最初、さっきから言ったように、ムラサキツユクサという非常に優秀なものを見つける前には、一番最初にここの東海村のJRR1とかを使ってやってた頃は、まだまだわからなかったですから、非常に強い放射線をあてることによって、ものすごく放射線の効果というのは怖いものだと知った。しかも、やっぱり日本の場合は、広島・長崎の例がありますから、私も原水禁の副議長として、広島・長崎は30何年間も行きつづけてるんですけども。そういうことが頭にありましたから、どうしても放射線被曝のことを考えて、植物を使って、できるだけたくさんの放射線をあてて、どういうことが起こるかということを見てたんです。それが、東海村でやってた仕事なんです。最初、学生の頃に。

 ところが、アメリカの国立研究所へ行って、さっき言った新しく見つかった微量放射線の危険性、無重力の危険性は発表を禁じられたけど、そこで見つけたムラサキツユクサという非常に優秀な材料と出会うことができたんです。それは誰も気がついてなかったから、誰も使ってなかった。だけど、たまたま温室担当の技官が、間違って農薬を薄めないでかけちゃった。そしたら、ある植木鉢の同じ株だけが花びらにピンク色の斑点が現れたんです。

 僕は遺伝学者としてすぐわかったことは、いつも青いのにピンク色が出たということは、青い色素を作る優性遺伝子と、ピンクの色素を作る劣性遺伝子を1つずつ持ってるんだなと思いました。だから、優性遺伝子がやられたからその細胞はピンクになったと。それで、それを丹念に調べました。確かに青とピンクの遺伝子を1つずつ持ってるということを確かめて、それを研究に使いはじめて微量放射線の影響を証明できたし、NASAに頼まれての無重力の危険性も証明された。とにかく、ムラサキツユクサに出会うことによって、まずそれができた。そして、2つとも発表禁止になりましたけども、1つ目の微量放射線の影響については、この茨城県の常陸大宮で実験的に証明するのに成功しました。

放射能濃縮のこわさ
 それから、人工放射性核種というのは、ものすごく体内に濃縮するということを発見したのは、さっき触れたムラサキツユクサの原発周辺での実験だったんです。日本でもアメリカでもドイツでも、なぜ同じことになったのかというと、主たる原因が放射性ヨウ素だということがわかりました。はじめは、そういうことは日本の原子力の安全審査で全く考慮されてませんでしたが、放射性ヨウ素がものすごく濃縮されるというのは、実際には1959年にアメリカの核兵器関係の工場なんですが、そこで大量の放射性ヨウ素漏れの事故が起こっていました。

 そして、2つの研究グループに調査が依頼されて、そこの報告は1960年にはアメリカの原子力委員会に届いていました。しかし、その2つも私の場合と同じように公開されることはありませんでした。ところが、私が1978年にたまたまいろんなところに講演旅行をしていた時のことなんですが、ワシントンまで行ったもんだから、その日の午後から講演があるその前に、昔のAEC、74年に解体されて今のエネルギー省と原子力規制委員会に変わっているんですが、そこに行ったら今まで秘密になってた資料を順次公開している。今日、公開するものもあると。それで僕は、そこに入る時には身分証明書を見せなければいけないんです。僕は、ブルックヘブン国立研究所のIDナンバーというんですけど、それを持ってますから、それを言いますと、ブルックヘブンにいたサダオ・イチカワだなということで、君は見る資格があると。一般に公開する前でも。それで10時からしか見せないということだったんだけれど、資格があるということで見せてくれた。

 すごく分厚いファイルを持ってこられて、そんなの全部丁寧に見れるわけないんですけど、すごいなと思いながら、何かちょっとでも有益なものがないかなと思って見てたら、マーターという人の報告書で、放射性ヨウ素の濃縮についての報告がありました。それでデータを見ていくと、何とマーターさんの場合では、サバンナリーバーというところで1959年に起こった事故なんですが、そこで1週間前後で植物の種類によって違いますが、作物、自然の草、木も含むんですが、植物種によって200万倍から650万倍にも濃縮してたという報告です。

 それにビックリして、その前後に何かないかなと思って、次を見たらソルダットという人の署名が入ってる報告書で、その人の場合は350万から1000万倍、植物の種類によって。それで幅を見ると200万から650万というのと、350から1000万倍ですから、両方の幅をとれば、200万から1000万倍に1週間程度で濃縮してしまうということがわかったんです。

 それで、それまで1974年から静岡の浜岡で実験して、東海でも後に行われて、なぜそんなに突然変異が実際に原発の周りで増えるのかと、僕はたぶん天然にはない人工の放射性核種の中には、放射性核種のない元素だったら生物は安心して、どんどん体内に入れて使ってるはずだと、そのことは考えてたんです。だから、いつも原発の周りで実験をやってくれた人たちには、そのことを言ってたんです。

講演録(5)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

高濃縮される放射性ヨウ素
 原子炉の中で核分裂の結果出てくるものは、もちろん自然にあるものと同じ放射能を持つものもあります。だけど、それはごくわずかで、ほとんどが人工放射性核種といって、核分裂させなければできない放射性の核種なんです。核種というのは原子核の種類なんです。それには目をつけてましたけども、現実にワシントンのNRCの図書室みたいなつくりの部屋で公開しようというのを見て、バーンときました。原発の周りでムラサキツユクサの突然変異率を上げてるのは、圧倒的に放射性ヨウ素だとわかったんです。なぜなら、その当時、皆さんには、周りの人には放射能を出さないと言ってきました。だけど法律を見ていただいてもいいように、法律上は、固体廃棄物は「可能な限り」というより、ほとんど全量を廃棄物としてドラム缶等に収めることができます。それで、液体はどうしても漏れてしまう。

 例えば外へ戻すのに本来なら冷却水には漏れないはずなのに、ピンホールかなんかあいて、そこから少しずつ漏れて出てしまう。だから、液体も一部は出てます。ただ、原子炉の中で水漏れがあったりして、それをプラスティックの手袋をして雑巾を絞ったとか、そういうのはドラム缶に納められるわけですから、そのまま外には出ませんが、例えば関西電力のような加圧水型でピンホールがあると、一次冷却水と二次冷却水が混ざってしまう。一次冷却水の水が一部二次冷却水に出てってしまえば、当然それはそのまま外に出ていきます。液体の一部は出ます。だけど、気体廃棄物は環境中に廃棄すると、はじめからそうだったんです。

 だから、ヨウ素を吸着するフィルターは当時は使われていませんでした。私たちが実験をはじめた頃は。そして、そのムラサキツユクサの実験結果が出て、ようやく活性炭フィルターがつけられるようになりました。活性炭フィルターがつけられる前は、希ガス、不活性気体といって、クリプトンとかキセノンという元素の放射能を持った核種で、それは不活性気体ですから何も捕まらない。化学反応をまったくしませんから。なぜ原発が石炭も石油も燃やせないのに煙突があるのか、その希ガスというのを、できるだけ高いところに出して、人が住んでるところにあんまり降りてこないようにする。そのクリプトンとかキセノンという希ガスが圧倒的大部分で、当時ムラサキツユクサの実験を原発周辺でやってたころの希ガスと放射性ヨウ素の放出比は、1万対1の比率でした。不活性気体1万に対して、放射性ヨウ素は1しか出てない。

 だけど先程のワシントンで見た、やっと公開された当日に見つけた資料からいけば、仮に気体の中に出されるのが、不活性気体が1万で、放射性ヨウ素が1だとしても、不活性気体は体の中に入ってきても何も反応しませんから、化学反応しませんから、体の中の濃度と空気中の濃度は同じはずです。だから1万のまま留まります。ところが、放射性ヨウ素は1万に対して1しか出てなくても、これは200万から1000万倍まで濃縮されたら、放出量が1万分の1だからそこまでしかいかないんですけど、200から1000倍になってるわけです。そうでしょ。濃縮で200万から1000万倍になりますから、1万に比べたら1万の200倍から1000倍にもなるわけです。

生物体内での大逆転
 だから、植物体の中で全く逆転して、原発の周りの空気中では、空間線量というんですけど、放射線量を測ってますけど、それに寄与してるのは、ヨウ素は1万分の1しかないんです。今は活性炭フィルターがついてますから10万分の1です。それしかないけど生物の体の中では、植物でそれを濃縮する。動物は直接・間接的に植物を食べますから、体内で、我々の場合は甲状腺に溜めるわけです。

 ただし例外がありまして、妊娠中の女性の場合は、優先的に胎盤を通じて胎児に送ります。それから授乳中のお母さんの場合は、優先的に乳腺に送ってお乳に入って子どもに行くようになってます。妊娠も授乳もしてない時は自分の甲状腺に集めます。とにかく、そういうことで動物の体の中でも大逆転する。なぜかといったら、エネルギーの素は、全部もとを正せば植物から摂ってるわけだから、植物が濃縮してたら、あとは、例えば家畜を食べても、家畜が食べてる物は草ですから同じことになってしまうんですね。

 だから、「しきい値説」の否定に続いて、そういうことが20年近く公開されていなかった報告を見て判明した。そして人工放射性核種のうち、特にその元素にはもともと放射性核種が全くなかったものに作られた人工放射性核種が生物をあざむくと。セシウムもそうだし、ストロンチウムもそうです。そういうことが判明した。そして3番目に、エネルギーが小さいほど生物効果が高くなるというのを、まず散乱放射線で、コンプトン効果の結果としてガンマ線からできる散乱放射線で見つけて、次は、わざわざ違うエネルギーの中性子の実験を繰り返し行って、中性子もエネルギーが小さいほど、散乱放射線以上にエネルギーが小さくなるに連れて飛躍的に生物効果が大きくなるということを見つけた。

 その飛躍的に大きくなることは、JCOで被曝された人についても非常に大きな問題なんです。それを政府筋は、何とかはじめに言ってたよりも、もっと放射線の推定線量は少なかったみたいに言い方を変えたりする。そんなことは「しきい値説」にもとづくような、これ以下ではガンは発生しないなんて、どこの世界でも、もはや通用しないようなことを言い出して、何とかだまそうとしてる。そういうことは訴状の中で徹底的に暴いていかなければならないと思ってます。

 そして最後に、ほんとに巨大なお金がかかりましたけれど、放射線と化学物質、化学物質と化学物質の間に、いろんなたくさんのケースで相乗効果があるということを見つけた。

多種多様な相乗効果
 今までは化学物質なら化学物質単品でしか試験されてません。昔は何でも実用化されて世の中に出されて、いろんな害を起こしてはじめて禁止された。DDTもそうでした。BHCもそうでした。合成保存料に使われた、豆腐など、いろんなものに入ってたAF2もそうでした。みんなそうして害が起こってから禁止されたのが多かったんですが、PCBもそうです。みんな回収されましたね。今は一応、検査が義務づけられてますが、全部単品検査です。

 その単品だけでどれだけ害があるからといって、これだけの濃度以下に抑えろと、ある濃度以下に抑えろというのは実用性を認めてるから、あえて「しきい値説」に立ってるんですよ。原子力も彼らの言い分は、原子力によって大きなエネルギーを得てる。したがって、「しきい値説」をとってもいいじゃないかと、こういうふうになってるんですよね。

 ところが、放射線は放射線で、化学物質はそれぞれ単品で検査した結果にもとづいてやってるんですが、実際には我々の環境中には、例えば食品添加物1つ考えた時にも、もう様々な物に一緒にさらされているし、それから農薬にも汚染されている。それから大気汚染にもさらされてる。水の中にもいろんな物が混じってきている。食べ物の中にもいろんな汚染が起こっている。ものすごい多種多様な物にそれぞれが微量とはいえ、さらされているときに多種多様な相乗効果が起こっている可能性があるんですよ。

 だから単品検査ではとうていダメだということを、私の最後の埼玉大学での証明ができまして、さっき言ったS.N.さんが、そのままポストドクトラルフェローとして、それでカナダに3年間も、それぞれ日本政府、カナダ政府から研究費をもらい、今はアメリカのジャクソンラボラトリーで、3年間続けた研究には、何とアメリカの国防省からの研究費を受けてるんです。それが、何で国防省が研究に金を出してるかと言ったら、将来、核が使われてガンが起こった時に、どうしたらガンの発生をくい止めることができるかということを知りたいから、そうした基礎研究にも金を出すのです。僕は、もらうのを反対したんですけども、彼女は真理を見つけて、国防省の金をいくらかでも一般市民の物にした方がいいということでもらったんですけど。僕も最後は賛成しましたけど。

 とにかく、そうして一生懸命いろんな人がやってくれて、しかも僕は常に仮説を立てて自分で想定できる限りのことを考えて、これとこれだったら相乗効果が起こるはずだと、それから放射線の挙動を考えて、低エネルギーになるほど貫通力が弱まりますから、ガンマ線と散乱放射線を比べても、中性子ももちろんです。だから、今まで低エネルギーだから生物効果は弱いと考えられていたが、そうじゃなくて低エネルギーになればなるほど貫通力が弱いだけに、より短い距離に集中して生物効果を及ぼしてしまうんだという、そうなるはずだと狙いをつけたら、そのとおりに。それで、さっき言ったように、少なくとも部分的に共通の作用を持つ要因間では相乗効果は出るはずなんです。少なくとも出るものは必ずあるはずだと、そういう狙いをつけたら、やったうちの十中八九相乗効果が見つかりました。

 そういうことで私の研究の進め方は、一番最初のムラサキツユクサという、いい材料をつかんだのはラッキーでしたが。そのあとは、その材料を得てからは、こうなるはずだと、こうすればこうなるはずだと、こういう物とこういう物の間には、こういう事が起こるはずだと。そういう狙いをつけることによって、次々といろんなことを発見してきたんです。

JCO事故での相乗効果
 今日、そういうことで微量放射線の影響からはじまって相乗効果までのお話をしましたけども、このJCOで起こった事故も、中性子という放射線の特異性と我々自身がいろんな環境、例えば周りの田畑で農薬をまいてるとか、買ってきた物には添加物が入ってるとか、いろんなものにさらされるわけですから、被曝した当時もさらされていたわけですから、そういう点で今でも日本政府は、放射線なら放射線だけでの量で見ようとするし、しかもそれを過小評価しようとする傾向が非常に強いですけども、実際このJCOの問題についても相乗効果というのは非常に大きかったということです。

 僕は、チェルノブイリの国際医学コミッションというのがあるんですけど、それの委員も頼まれてまして、1986年に起こったチェルノブイリの事故も僕にそういう方向へ動かす大きな結果になりました。

 チェルノブイリ事故で北半球全部汚染された時代になって、すでに始めていた放射線のエネルギーと生物効果の関係を、もう少しやり終わって、そして最後は相乗効果に全ての力を注ごうと思ってやってきたんです。今日は、そういうことをお話しました。これで終わります。


続く


前回の続きから

講演録(6)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

質問
司会者
 どうもありがとうございました。1時間半にわたるお話でした。市川先生の研究史を中心としながら、そのことが、まさに我々が問題にしている低線量、あるいは微量放射線の生物体への影響ということに直接関わってくる話の内容になったと思うんですけども、非常にお話が多岐にわたりながら、かつ早口でお話されたということもありますので、ちょっと消化しきれない部分もあったんではないかと思いますので、非常に単純なことで結構ですので、質問を少し受けていきたいと思うんです。問題を出していただきたいんですが。

しきい値説と放射線有用説
質問者
 先生は、しきい値はないという、先生の研究に対して推進派というか、国側の御用学者達は、いやそうじゃないんだと、しきい値はあるんだと。ないしは低いレベルの放射線というのは、むしろ体にいいんだと、放射線ホメオスタシスという、そういう変な名前も付けて、多少は放射線を浴びてたほうが健康にいいくらいだというようなことまで言い始めてるんですけども、先生はそういう考え方に反論というか、ご意見があったらお聞きしたいんですけど。

市川
 しきい値はないんだということは、例えば国際放射線防護委員会も、あくまでも放射線防護はしきい値はないという立場で行わなければならないということを明確に言ってますから、しきい値説がないということは普通に認められていることなんですけども、日本の原子力関係の人に限って、あるいはそっちに弁護してる科学者に限っては、実際はしきい値なんかないんだが、ホメオスタシスはある、その証拠にということで持ち出してるのが、いわゆる放射線がある量よりも、もっと小さくなったら、かえって生物にはプラスの面が出てくるんだと、マイナスじゃなくて。それは昔からそういう説を唱える人がいたんです。なぜかというと、生物はある放射線を浴びると、例えば最初に植物で見つかった例は、非常に微量の放射線だったら成長が良くなるんです。

 例えば麦の種に照射して芽生えさせるでしょ、それで放射線の量が多いほど、障害が起きて草丈が低くなる。ところが、ある量より低くなると、かえって高くなると。比較したコントロールといって、照射しなかったものより少し高くなる。それが一番最初にいわれた低線量の方がいいんだという。

 ところが、その後いろんな修復機構とか分かってくることによって、修復機構とは全く関係のない、生物学的修復機構なんだけど、分子レベルでの修復機構とは関係なしに、いくつかの細胞が機能を失いますと、植物の場合そうなんですが、他の細胞がそれをカバーしようとする。だから、例えば植物の幹に傷がついたら、その傷ついたところを治そうと、その周りの細胞が盛んに分裂するようになる。それと同じことが起こるから結果として背が高くなるんだということがわかって、遺伝レベルの修復とは関係のない、周りの細胞が、本能と言えるかどうかわかりませんが、動物じゃないから、周りで起こったことに対して即座に対応する手段のひとつとしてそういうのがある。

 今おっしゃったようなのは、ある量の放射線を浴びないと修復機構が働かないことから起こってることなんですね。だから、ある量の放射線を浴びるまでは修復というのは起こらないから、皆さんの側から見ると、このグラフの縦軸と横軸を考えると、すうっと増えはじめるんです、微量でも。そしてしきい値はないんです。ところが、ある量になるとすうっと落ちるんです。それで、途中からそれより低い勾配というか傾き方で、ずっと直線上に増えていくんです。

 それが今の新しい説を唱えられる人で、いっぺんコブになる部分は、かえっていいんだと。だから、極微量よりもちょっといったところ、もうちょっと高い放射線を浴びる方が、かえっていいんだということをおっしゃってるんです。

植物と動物で異なる修復機構
 それは突然変異でもどんなことでもそうなんですが、植物の場合はそういうふうに神経系でやってるわけじゃないですから、細胞の中で修復もして、放射線の被曝を受けたその細胞単位では自分で修復しようとしてます。だけど、それでもなおかつやられた時に周りの細胞が、そのやられた分を補うために細胞が増殖するというのが植物流のやり方。

 動物の場合は、神経というのは下等なものから高等なものまでありますけど、それとホルモンというものがあって、それからいろんな事態を認識しようという細胞、例えば異種タンパクが入ってきたらそれを見つけ出すT細胞。それに対する抗体を作り出すB細胞というリンパ球があるように、いろんな状態を動きまわって偵察してるというか、そういうことをしてる細胞があって、そういうのを何か感知されると修復機構が働きだすんです。

 DNAの修復というのは何種類もあります。それで1番最初に知られたのは、光回復といいまして、紫外線によってDNAに異常が起こり、となりの塩基というもの同士がくっついたりしてしまったりして、特にチミンというものはくっつきやすいのですが、チミンが2つくっつくと、それとくっつくべきアデニンという向かいの鎖の塩基がくっつけなくなって、DNAのそこの部分が欠落してしまう。

 そういうのに対して、紫外線でそういうことが起こっても可視光線のエネルギーでもってそれを直してしまうという光回復が一番先にわかった。

 それから都合の悪いところができると、そこを切り取ってしまって、悪くなってない側に合わせて、DNAというのは塩基の配列が、AとT、GとCといって、Aというのがアデニン、Tというのがチミン、Gというのがグアニン、Cはシトシンという塩基、4種類しかないんだけど、必ず2本のDNAの鎖の、片方がAだったら片方はT、片方がGだったら片方はCというふうに決まってますから、その傷ついた部分だけ切り出して、そして残ってるもう一方に合わせて新しい部分を入れるという、そういう切り出し修復も見つかったんです。

 それから、さらに新しい、専門的になりますからやめますけど、それ以外のいろんな修復法が見つかってきたんです。そういういろんな修復機構というのも、実際に修復しようという指令がこないと働きださない、動物の場合は。

 だから、その指令を出すシステムというのを持ってる動物では、さっき言ったように、ある程度傷害が起こってるということが認識されないと修復機構は働かないことは当然考えられる。そういう時に起こってることが、その新しい説を言い出す、新しい古い説を言い出すと言ったほうが正解かもしれないけれど、ひとつの根拠になってるわけですね。

マレーシアでのモナザイト被害
 関連してお話しますが、僕がさっき言ったように使ったガラス線量計ではなく、熱蛍光線量計(TLD)という、ごく小さい精度の高い放射線測定器を使ったケースに触れておきます。

 今日は話さなかったですけど、マレーシアで起こった、日系のその当時の三菱化成という会社が放射性トリウム、トリウム232という核分裂するものを含むモナザイトという鉱石から、イットリウムという希土類金属を取り出す工場を作ってたんです。ところが、もとのモナザイトにはトリウム232は7%含まれているんですが、イットリウムを取り出したあとの廃棄物には14%もトリウム232があって、しかもトリウム232というのは放射能の半減期が141億年で、天然の放射能で一番長寿命なんです。141億年ですよ。地球ができてからまだ46億年しかない。それが入ってるのに柵も何にもなしに、野積みで捨ててたんです。

 僕がマレーシアから依頼を受けて調査に行った。合計7回行ったんですけども、1回目にそれを見た時で推定350トンもの廃棄物の山。それで僕がその周辺でのTLDによる測定調査結果を出したら、英文で書いたのを周辺の住民達が、それをよりどころにして、イポー高等裁判所に訴えた。マレーシアはイギリス法ですから、政府の認可がかかってる件は高等裁判所からしか始まらない。日本でいう一審はないんです。高裁は僕の報告書を鑑定書と認めて、その裁判は仮執行命令の裁判だったんですけど、住民の訴えを認めて、AREという会社だったんですけど、そのAREの即時業務停止、それからすでに捨ててあった強い放射性のトリウム廃棄物を撤去し、安全管理するという命令を出しました。確かにARE工場はすぐに作業をやめたんです。

 ところが、何て言ったかというと、「裁判所の仮執行命令を従うんではない」と。マレーシア政府が新しく作ろうとしていた原子力法に合うように改善すると。その当時マレーシアには原子力に関する法律が全くなかったんです。普通の放射性物質を扱う法律しかなかったんです。

 トリウム232というのは国際的に核原料物質・核分裂物質として認められてて、それを扱うには原子力法がいるんですけど、マレーシアはそれを作ってなかった。しかもマハティールという今の首相が首相に選ばれた直後です。

三菱との癒着
 マハティール氏が選挙後はじめてやったのが、三菱系からものすごいたくさんの選挙資金をもらってたから、三菱化成にそういうことを認めてしまった。現地にAREという会社を作って。同時に三菱系に非常にプラスになることをやったのは、その当時、もう日本の車はたくさんの会社の車種が入ってたんですが、三菱とだけ提携して、その頃に走ってたランサーという車種をマレーシアで国産して、税法上などの特典を与えて優遇しました。

 とにかく、そういう総理大臣のもとでその工場が許されてしまった。三菱は、総理大臣が認めてるんだから、放射性物質を捨てようが何しようが平気だろうし、柵をしたり、放射能のマークをつけたりしたらかえって疑われる。だけどその当時のマレーシアの法律でも、少なくとも柵はして、放射能のマークはつけなきゃいけなかった。それを守らなかったため、牛を追う子どもたちが、牛を追いながらその放射性トリウムの上を越えていったり、そんなふうだったんです。

 それで7回行って、証言をして、イポー高裁は最終的に正式な裁判でも違法判決をして、操業禁止と廃棄物の撤去を命令したんです。それからAREと三菱は最高裁に訴えたんですけど、最高裁では逆転勝訴したんです。形の上では。最高裁は、僕の調査は個人的な調査であって、その会社がやった組織的な調査に比べて、個人の勝手な判断なり、恣意的にデータを作る機会があったと断じたんです。そんなことはできないような調査方法をしてたのにです。つまり、僕は現地で瞬時瞬時の放射線量率のメーターが、ここは放射線量率高いよ、ここはレベル高いよと、誰もが見れる、全面公開調査で。

 ただ、TLDによる、ものすごく小さい集積線量を測るのは、それを読み取ることができるのは僕の大学でしかできませんから、そのところは完全に誰も見てない世界になります。だから、そのためにガイガーカウンターで測ったものを現地に残したわけです。それと一致してるかどうか、瞬時の線量率、つまり単位時間あたりの線量率と集積線量が合ってるかどうか、一般に分るように。裁判所にもそれを出してるわけです、証拠としてね。なのに最高裁はそういうことをぜんぜんわからないで、たった1人の調査は複数でやった会社のデータよりも信用できないと断定したんです。

 ただし、やっぱり最高裁判所も気が引けたのか、どういうことを書いたかというと、そのARE社が、これだけの措置をとり、これだけの気を使って、今度できた原子力法を忠実に守れば、安全性を確保できると。ところが、その最高裁の判決で言われたものを全部やろうとしたら、ものすごい金がかかるんです。そこでイットリウムを取り出して得られる収入よりもずっと大きくなるから撤退したんです。撤退して何て言ったかというと、中国から買い付けた方が安いと言ったんです。

 そういう三菱のことにまでいきましたけど、とにかく、マレーシアでも言われたのは、トリウム廃棄物を捨てたのが発覚してからも、みんなに言ったことは、放射線は少し浴びた方がずっと健康にいいんだと、会社は皆さんに貢献してきたと平気で言ったんです。

 ところが、裁判中に白血病の子どもが、はじめ2人で、4人になり6人になり、しかも最高裁の判決が出るまでに最初の6人は全部死んでしまった。それで僕は撤退したあと行ったときに、7人目の子が発生してました。まだ、トリウムが地面の中にいっぱい残ってるんです、撤去したと言いながら。撤去したあと測定しても放射線量は高いままなんです。141億年で放射能がようやく半減するものが、まだたくさん残ってるんです。

微量放射線の直接的影響
質問者
 先生、いいですか。時間もあんまりないので、いろいろ質問を受けたいと思うんですが、僕の方からちょっと質問をしたいのは、非常に直接的な話なんですが、事故のあとにとてもだるいという感じ方をする人がたくさんでてきたり、風邪を引きやすくなったとかという方が出てきたり、それから喉が痛いとか、斑点ができたとか、あるいは口に粘膜がおかされて、口内炎とかそういう症状が出たとか、そういうようなことを訴える方がたくさん出ているわけなんです。それについて、先生の今の中性子線の、しかも低レベルでの、微量での影響というもののお話があったんですけど、その先生の考え方とそういった症状が出てきたということについて、どういうふうにつなげて考えたら我々はいいんでしょうか。そこのところを分りやすく説明いただきたいんですが。

市川
 放射線の影響というのは、皮膚系に現れたり、神経系に現れたり、粘膜に現れたり、それから循環機能、血管機能、血管の場合は内壁というんですが、内側の壁に現れるんですが、それから消化管に現れたり、そういういろんなものがあるんです。粘膜ももちろんですが。今おっしゃったのは全部起こりうるんです。というのは、神経系をやられますと、神経とホルモンの協調による恒常性という、常に体を一定の状態に保とうとするシステムが狂いますし、それから口の中にできるというのは粘膜の損傷を受けたということになりますし、皮膚に傷害を受けてる人もあるかもしれないし、それから内臓も消化液の分泌がものすごく減っていますから、特に分解する消化酵素、その分泌を調整するホルモンとか、そういうものも量が落ちますから、当然消化状態というのは普通じゃなくなります。

 実際、昔から報告されてるのでは、放射線被曝をしたあとでは非常に下痢をしやすくなるというのもあります。それから粘膜がやられますと起こることは、昔から、歯医者でレントゲンを撮った時に、さかんに口内炎ができたんです。それで今はフィルムの感度も、使うレントゲンの状態も改善され、歯を撮影するけどフィルムの向こう側まで届く量をうんと減らしてるんです。

局所被曝の影響
 とにかく、そういうふうに昔から出てる例はたくさんあります。おっしゃったようなのは他の放射線でも出ますし、さっき言った中性子の場合は、影響が局所的に、それが何点あろうと、1点1点は局所的ですから、だから総線量は比較的少ないといっても、それぞれの部分、組織や器官の、器官とは、胃とか、心臓とか、肺とか、そういうもの全体の線量は多くなくても、その各局部にあたった線量は大きくなりますから、他の放射線以上に様々な影響が出やすいと考えた方がいいです。

 それで、今度の線量、少ない少ないと強調しようという動きがありますけども、もちろん中性子と言えども、現場から離れた人ほど相対的に少なくなることは事実です。それでも、中性子は貫通力が強いですから遠いところまで届きます。電磁波の放射線、ガンマ線とエックス線は距離の2乗に反比例するというんです。距離が4倍になれば16分の1に減るとか。ところが、速中性子はそこまでいかないんです。しかし、その途中でどれだけ弾性衝突を繰り返すか、そのチャンスによって変わってくるんです。

 ですから、距離の2乗に反比例するほど急速には減りませんけれども、一般的に距離が遠かった方が少なくて、距離が近かった人の方が多いということなんです。それから、もちろんコンクリートにもある程度の衝突がたくさん起こりうる可能性がありますから、しかも水分子以外のものをたくさん含んでますから、大きな原子核と衝突すると中性子がかえって跳ね返されて逆の方向に飛び出すこともありますから、近くでもどういう建物の中にいたかによって被曝線量は変わってくるんです。

 だから、ガラスとかは、ほとんど障害がないのと同じように貫いていきますから、ガラス戸とか、そういうものからは、ほとんど何もなかったのと同じように入っていきます。それと木造の建物ですと中性子はほとんど障害なく通りますから、そういうものによっても違いはありますけども、一般的には距離が遠いほど少ないと言えるでしょうけど、今言ったように、距離が長くて線量が減ってるとはいえ、中性子の影響というのは、それぞれの部分で、器官なら器官、臓器なら臓器、それから組織なら組織、そんなかの小さな点に集中エネルギー与えてますから、普通のガンマ線やエックス線よりも症状が出やすい。そこの部分が損なわれたために、ちゃんとできないと。例えばすい臓のランゲルハンス島というのに集中的にそこで起こったとしますと、インスリンが出なくなるとか、そういうことが起こってくるわけです。だから、今言われてるように線量が比較的少なかった論だけではすまないと思いますね。

小さなエネルギーで大きな効果
質問者
 今のに関わることで、エネルギーが小さいほど生物効果は高いというお話で、これはとても衝撃的な話なんですけど、エネルギーが小さい中性子というのは、散乱したものですか、それとも直接来たものでも距離が長くなると遅くなるということですか。

市川
 速中性子のスピードが落ちるのは、衝突を繰り返すことによって相手の粒子に、陽子なら陽子に運動エネルギーを与えるから運動エネルギーがだんだん小さくなる。だけど、はじめに持ってるエネルギーは、メガエレクトロンボルトといって、ものすごい大きなものですからね。何個も何個も衝突でエネルギーをだんだん失っていくんですよ。1つの陽子とぶつかっただけで一挙にメガエレクトロンボルトが、ただのエレクトロンボルトに変わるなんて、そんなにまで急速には落ちません。

質問者
 これから主張を組み立てるうえで、14.1メガエレクトロンボルトが0.43ですか、100数十倍以上になってると思うんですが、

市川
 ちょっと待って。14.1メガエレクトロンボルトに比べて0.43メガエレクトロンボルトの中性子は、「100数十倍の生物効果」を持ってる。

質問者
 そうですね。それは分ったんですが、その14.1が0.43になるには、どれくらいぶつかってくるとこれくらいになるんですか。

市川
 それは、そういうフィルターを通して得られるんですけど、何回ぶつかってるかは分りません。何回もぶつからして、結果的にそういうふうにするわけですから。

質問者
 結局、ほんと端的に言うと、住民の人たちが被曝した中性子というのが、どのくらいのメガエレクトロンボルトだったんだろうなと、今のお話からすると知りたくなってきますよね。仮に今まで中性子で、この程度というふうに言ってる数字があるんですけど、それは科学技術庁が言ってるのと、市民団体というか大阪の関係者の方がおっしゃったものと、かなり差はあるんですけども、それがかなり中性子としてエネルギーが下がってきていて、生物効果が10倍とか100倍とかになってたりすると、ほんとに急性放射線障害が起きるような値を浴びてる人もいるわけなんですね。仮にその生物効果が10倍とか膨大になるとすれば、あり得るなという。

市川
 ちょっと待ってください。急性被曝というのは、ガンマ線とかエックス線のように、ある方向から放射線が飛んでくると線としてほんとに高い密度で飛んでくるんです。だから急性傷害というのが現れるんです。今言ったように実際には、主として水素原子にあたって、陽子を飛ばして、陽子は高いエネルギーを得ても電気ブレーキで止まってしまって、狭い範囲しか与えない。だけど、エネルギーを失えば失うほど、何度も衝突して、陽子を飛ばす距離も短くなるし、陽子は同じプラス1の電荷を持ってますから、ずっと早く止まってしまって、そこの止まったとこで、陽子線として放射線作用をする。そういうことですから、問題の作業していた3人は、あれだけむちゃくちゃな中性子線量を浴びてますから、急性障害が当然起こりましたけども、周りの人には、顕著な急性障害が起こるよりも、器官とか組織の一部がダメージを、小さい部分に集中的に受けてて、そのためにいろんな症状が出てくる確率の方が高い。それも含めて中性子被曝の特徴です。

局所被曝の影響
質問者
 今のですね、小さい部分に集中してという、小さい部分というのはどれくらいの規模を言うんですか。たぶん相手方が言ってくるのは、要するにミクロのレベルでごく一部の細胞が傷つけられてることがあったとしても、線量が低いということは、1単位の線の影響を受けたとしても集中してないわけだから、極めてぽそぽそと遠くにあるだけで、例え胃の粘膜がどうなるとか、集合的に現れてこないはずだと、そういう議論をしてくるんじゃないかと思われるんですが、その点はどうなんでしょう。

市川
 今まで中性子の作用の仕方というのを知らない人は昔よく言ってたんです。中性子は玉突き的な影響を与えて、中性子自身は非常に遠いところまで届くけれども、陽子はすぐに止まっちゃうから局所的な影響なんだと。ただし、さっきも僕が説明したように、中性子は1回水素とあたって、エネルギーを大きく失うことないんです。ちょっとずつ失っていく。しかも、だんだん中性子のエネルギーが弱まるほど、次にあたって飛ばす距離もあまりないですし、より近い距離で衝突しながらエネルギーを失っていきますから、結果的にははじめのころ起こってる事象は、ほんとに陽子だけの影響で、陽子も最初は強い運動エネルギーをもらいますから、ある程度は飛ぶんです。

 それで、そのころでも40ミクロンとか、35ミクロンとか、40マイクロメーターね。そのぐらいの距離しか陽子ですから飛ばないんです。しかし、40ミクロンといっても結構大きいですよ。40ミクロンだったら、標準的な細胞で4細胞貫きますから。連続した4細胞ね。それで、その後どんどん中性子のエネルギーが失われていくにつれ、陽子を飛ばす距離は短くなって、その1個1個のエネルギーの範囲も小さくなって。ところが、いちばん問題なのは、中性子がどんどんエネルギーを失っていって、そして1個がぶつかってから次にぶつかるまでに、遠くには飛ばないし、水は豊富ですから、次々とあたってしまう。そういうことになった方が生物効果が大きいから、さっきも言ったように中性子の生物効果は、ガンマ線なんかのように距離の2乗に反比例しないで、距離の遠いところにもけっこう残るというのは、その最後の方の中性子にあたってる可能性もあるわけです。遠い人ほどその確率は高い。

 だから、そういういろんなことが複雑に関係してますから、ある意味では、あのような3人の作業者のように、発生源のすぐ直近で体中に中性子を集中放射のように受けたら、もちろん急性障害が出ます。あとは、どっちかというと、さっき説明したように、障害が早く出たとしても、急性障害のように酷くなくて、例えば消化不良になるとか、ちょっと神経失調症になるとか、どっかで痛みを感じるとか、そういう形であらわれてるのが中性子被曝の特徴になるだろうと思ってるんですよ。


講演録(7)

2003.8.25 臨界事故被害者の裁判を支援する会

質問

被曝した場所による違い
質問者
 集中的に、局所的にダメージを与えているというか、局所の範囲が消化不良とか、神経障害を起こしうるような規模になりうると考えてよろしんですか。

市川
 それは、あたった場所によるわけですね。例えばホルモンというのは受容体というタンパク質が存在して、はじめてホルモンとして働くんです。ところが、受容体というのは、それを必要としている部分に局在しているわけなんです。その受容体が存在してる部分に中性子があたると、受容体がなくなりますから、そのホルモンは働かなくなっちゃうんです。

質問者
 そこにあたればということですか。

市川
 うん。例えば今、環境ホルモンが問題になってるのも、環境ホルモンが立体的な、いろんなホルモンの受容体だと、くっついちゃうんですよ。受容体を占拠してしまって、だからホルモンがそれと結合できないから、そのホルモンが働けなくなっちゃう。受容体というのは局在してますから、そこがやられるとホルモンの異常が出てくるだろうし、例えば消化液の中に含まれる酵素も特定の場所で作られてますから、そういうところにやると消化不良を起こすかもしれない。粘膜のようにお互いの細胞がお互いに依存しあってますから、そのうちの少数がやられても、そこの粘膜の機能を保てなくて口内炎を起こすとか、そういうこともありうるんですね。

人による影響の違い
質問者
 例えば同じところに、施設からの距離も同じぐらいの所にいて、同じような条件にいても、例えば粘膜、この口内炎のようなものが発生する人もいれば、しないという人もいるのは、どこで違ってくるでしょうか。

市川
 たまたま中性子があるエネルギーを持ってて、中性子はかなりの数が飛んでるはずですから、実際に作業をしていた3人に比べたら密度は低いけども、1つの個体の中で何カ所も中性子は20時間の間に貫いてるはずです。ただし、それが貫く途中で、最初の水素原子核とあたった場所、それからエネルギーを中性子が少しずつ失いながら陽子を追い出していった場所。その何回か起こるなかで、さっき言った肝心な場所の細胞がやられたとこで傷害が起こるわけで、それが外れてると、そういうことが起こってても障害が起こらないこともありうる。

地域による違い
質問者
 同じような話で、向こうがよく言ってくることなんですけど、微量の放射線で発病に影響するとすれば、もともと地域によって線量率が違うとか、特に高山の方だと宇宙からのエックス線なり、中性子線なりも大きくなるわけだから、そういう地域で年間線量を比べると、かなりもともと違う。にも関わらず、発病率はそんなに違わないじゃないかという話をよくしてくるわけです。それについては、先生はどうお考えですか。

市川
 我々の環境の中での放射線の影響については、例えば両方のデータがあるんです。日本の国内でも、地域によっては放射線レベルが高いところほどガンの発生率は高いというデータもあるし、それを否定してるデータもあります。否定してる人は、粟冠さんといって、もともと東北大の医学部の先生で、この人は東北一帯の放射線レベルと、いくつかのガンの発生率を調べて否定してるんですけども、コホートというんですが、調査の範囲を。そのコホートの取り方が、先生は郡単位なんです、県の中の。

 京大の医学部で上野さんという人が神奈川県と大阪府だけに集中して、都市単位までおとして、都市の平均と市町村までもおろして、平均とそこでの発生率ということで、10いくつかのガンについて調べたんです。そこでは、神奈川県も大阪府もきれいな影響が出た、放射線レベルと。郡単位とか大きくしてしまうと、ほとんどないし、その前に科学技術庁の時代に昔出して否定結論では、県単位でやってるんですよ。

 そういうことをおっしゃってる人は、昔の古いデータに基づいて言っておられると思いますよ。その上野さんが示したのは、粟冠さんと同じように、昔の郡単位でやると関係ないことになると。

 それはチェルノブイリの事故が起こったあとで、イギリスでそういう放射線遺伝学的な、放射線による発ガンとか、それに対する討論会があって、上野さんが招かれて行って、原子力を良しとする人と、チェルノブイリの事故を直面して原子力を止めるべきだという、両方の学者が集まって1つのシンポジウムを開いてるんです。僕は、その本を日本語に訳してるんです。それは絶版になってるんで、英語のタイトルは違うんですが、日本人に分りやすいように、『放射線の人体への影響−低レベル放射線の危険性をめぐる論争』というタイトルで出しました。中央洋書出版部というところから発行されたんです。そこが景気が悪くなってから破産して絶版になっちゃったんです。出したのは、86年に出た本を1989年にその訳本で出してます。僕と女性1人と男性1人と手分けして、3人で訳本にしたんですけどね。イギリスでの論争です。

 イギリスの学者だけでの論争じゃなくて、日本からは彼1人だったんですけど、その時に僕も誘われたんですけど、僕はその時、既にチェルノブイリの事故の影響をヨーロッパのいくつかの国から頼まれて線量測定を一生懸命やってましたから、その討論会にはいけなかったんです。あの時、僕も胸にTLDを付けてヨーロッパのいろんなところを調査にあたるだけで、結構被曝したんです。

中性子と化学物質との相乗効果
質問者
 あと、先生が最後に言われた相乗効果について質問したいんですけども、先程から抽象的に、ある化学物質と、ある放射線、とりわけ、エックス線と違うとおっしゃったんですけども、その先生がなされた研究の、実際されたものと、これからやれそうなものの中に、まさに今回問題になっている、放射線の方でいけば、中性子線の今回浴びたような線量で、それと比較的ありそうな化学物質との組み合わせで相乗効果はありそうな感じですか。

市川
 僕が目をつけたのは、どういうことかというと、DNAの2重らせんね。2重らせんのうちの鎖の1本を切るのか、2本を切るのかに関わらず、DNAの鎖の切断をするものの間では相乗効果は起こるはずだということが、まず第1。

 それで、DNAの鎖を切る化学物質と、放射線はどの種類の放射線も全部DNAの鎖を切りますから、紫外線という放射線、これは電離放射線じゃないですけど、光の一部です。電離効果のない放射線である紫外線だけは鎖をほとんど切らないですから、1番目のご質問にお答えしたような紫外線による障害を光回復するとか、別の機構ですから、DNAの鎖を切るものは紫外線とは相乗効果ないだろうと。だけど、DNAの鎖を切るものは、エックス線と相乗効果が出るはずだということで調べていったんです。

 それから、化学物質の間でも、同じようにDNAの鎖を切る効果を持ってるもの同士だったら、そういう意味じゃやっぱり相乗効果があると。そういうことからいって、その他に関わる問題としては、違う作用機構であっても、例えば修復機構に関連のあるもの同士だったらあるんじゃないかと。つまり、どっちもの作用によって修復機構が落ちてしまえば、修復機構は同じだから、どっちも直せなくなって相乗効果がでるはずだと。だけど、こっちの方が証明が難しいから2年ぐらいしかやってないです。

質問者
 中性子線も扱ったわけですか。

市川
 中性子線については、2例だけです。というのは、中性子を当てるためには特別の装置がいりまして、その特別装置を持ってるとこで化学物質も同時に処理できるという設備がないとできませんから、だいたい中性子なんかを扱ってるところで、そういうものを持ち込むこと自身が法律上禁止されてますから、特別なケースしかできないですね。

質問者
 普通はガンマ線で…

市川
 普通はエックス線でやってます。ただし、中性子の場合でできる機会があったのは、京大の原子炉ですけど、もともと照射のために付けてある穴があるんですよ。そこに空気の圧力をかけて高速で送るカプセルのなかに、化学物質で処理した状態で材料を入れて送って、中性子はカプセルを平気で貫きますから、それで中性子の調査をできるようにしたんですよ。京大原子炉で、熊取のね。やった結果、やっぱりEMSは中性子ともエックス線とも相乗効果を示した。EMSはアルキル化剤のひとつなんですけど。それと相乗効果を見せたということはわかってます。

質問者
 実際に扱われたのは2例だけれど、理論的には同じようにありえると。

市川
 起こるはずだと考えています。

放射線は体にいい?
質問者
 生物の自己防衛機能で、多少の、ある程度の一定の線量で、防備できる範囲の線量で、成長がよくなったり、そういう効果があるということ自身が、ある意味、生物体が放射線に反応しているということですよね。危険があるから反応しているわけですよね。だから体にいいんだとか、そういうふうにそこで言えてしまう論理がわからないですね。

市川
 体にいいなんてことは言えないということははっきり言える。というのは、危険があるから体を直そうとしている証拠なんです。

質問者
 そのとおりですよね。その方がずっとわかりやすいですよね。

質問者
 突然変異が、いい方に働くというとはあんまりないということですか。

市川
 それは、まれにあります。だけど、放射線の場合はDNAがほとんど鎖が切られてしまうんで、元通りには戻らないことがほとんどですから。しかも、遺伝子というのは、放射線によって起こった突然変異というのは、今は被曝2世のことをやってるんだけど、原爆によって起こった突然変異も、放影研というとこは血液中のタンパクを調べてる。それで、非被曝者の子と被曝2世の子の間で、異常な、普通には見られない、タンパクの量が違うかどうかというのをタンパク質の分析でやったんだけど、そのやり方の間違いは、放射線によって起こった突然変異のほとんどは、タンパクを作れないという突然変異なんですよ。まったく働かなくなってるのが多い。違うタンパクを作るというのは、まだ働く能力がその突然変異遺伝子に残ってて、アミノ酸の配列の違うタンパクを作るんです。ところが、放射線によって起こってる突然変異というのは、それがほとんどないんで、だから僕が使ったガンマフィールドで、たくさん突然変異を何万も見つけたんだけど、役に立つのがないというのがそれなんです。それで、だんだんやる人がなくなったから、今の農林水産大臣は、もっとあそこを活用しろといって怒ってるんですよ。

質問者
 よく世間話で言うと、トンビがタカ産んだというか、突然変異だとかいう、自然の突然変異と人工の突然変異というか、放射線のとはまったく違うのですか。

市川
 ぜんぜん違う。自然に起こってる突然変異と、はじめは同じだと思ってたから、ああいうことをやり始めたんだけど、自然に起こってる突然変異は、塩基の対が1つ、またはごく少数変わっただけで、だからタンパクのアミノ酸の配列が1つ変わるだけとか、2つ変わるだけとか、そんなんだけど、放射線によって起こるのは、切れてしまう。それを直そうと、つなぎかえようとするんだけど、例えば遺伝暗号というのは、DNAの3塩基ごとにアミノ酸を指定してるんだけど、1つ2つ抜けたりしたら、遺伝暗号のフレームシフトというんだけど、3つずつの枠が狂ってくるでしょ。そしたら、その途中で停止暗号というんだけど、もう止めという暗号が出ちゃう。そうするとちゃんとしたタンパクができないままで終わってしまうことが多い。

 だから、ぜんぜん自然に起こってるものとは違います。自然でもフレームシフトというやつは、起こるには起こるんだけど、全部の自然突然変異の中の過半数は、塩基1対だけが変わっただけ。だから、我々の人類にも残ってる、いろんな遺伝性の疾患があるでしょ。それを調べてみると塩基1対の1カ所が変わっただけ、ほとんどがそうです。だから、ちゃんとタンパクは作るんです。ただ、もとの正常なタンパクに比べて機能が落ちる。例えば鎌形赤血球貧血症というのがあるんですが、1つ変わってるだけなんですよ。ところが、酸素との結合力は、鎌形赤血球貧血症というのでは、そのなかに入ってるヘモグロビンというのが、普通のヘモグロビンに比べて半分なんです。だから貧血症なんです。ところが、これはアフリカの黒人に多くて、マラリアを起こすハマダラ蚊が繁殖するところに多いんです。なぜかといったら、ハマダラ蚊は鎌形赤血球が大嫌いなんです。それで刺されない、マラリアになりにくいということで、そこにはわりとまだ残ってる。

司会者
 ありがとうございました。


----------------


完結


*これは推進派御用学者に騙されないための、日本国民必読の文書である。

テキストメモ帳、ワード文書、PDFファイルで保存されたし!

朝晩神棚仏壇に参ったら、読むべし、忘れるから。



原発はいますぐ廃止せよ


市川定夫決定版 その1
http://pfx225.blog46.fc2.com/blog-entry-2145.html
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市川定夫決定版 その2
http://pfx225.blog46.fc2.com/blog-entry-2146.html
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市川定夫決定版 その3 完結編
http://pfx225.blog46.fc2.com/blog-entry-2147.html
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コメント
 
01. 2014年2月22日 21:28:17 : A4GQ7o9O02
投稿者に感謝です!

放射線の物理学的解釈には長けているが、生物学的な知識がまったくとんちんかんな原子力屋
生物の細胞レベル、分子レベル、DNAレベルの研究には滅法強いが、放射線物理学的にはとんちんかん生物屋
放射線の医学的な影響を現象論に見るのが得意であったり、治療には詳しいが、長い生物進化の中でこれまで全く存在しない人工放射性核種がどのような様態を示すのか全く知らない医学者

などなど万能のカミではないので、イロイロ得意不得意がありますが、

生物学、遺伝学、放射線物理学の全てに精通し
特に植物遺伝学のフィールドワークと遺伝学研究の経験から
生物の適応進化の中での放射線の扱い方は秀逸、
理屈だけでなく放射線の生物の影響を実験的に検証をされて
しかも、一般ピープルに実に分かりやすく解説できる希有のひと、
それが、市川定夫さんでした。

学生時代に市川さんの著書にであいました。
「遺伝学と核時代」社会思想社から出ていた大著、
ずいぶん自伝的要素の強い著書で2段組、
今でも茶色っぽくなった紙面を繰って勉強しなおしてます。


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