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遅ればせながら話題の映画「ハンナ・アーレント」を観た。
オフィシャル・サイト
http://www.cetera.co.jp/h_arendt/
この作品は、娯楽性のない硬派な内容だが、異例のヒットをしているらしい。
以下、"ネタバレ注意"であるが、事前に筋を知ると興ざめする類の娯楽作品ではないことを断っておく。
アドルフ・アイヒマンは、ナチス親衛隊幹部で、ユダヤ人問題の最終解決(抹殺)政策に従い、
多くのユダヤ人を強制収容所へ列車輸送する最高責任者だった。
ナチス崩壊後、密かにアルゼンチンに逃亡したが、1960年イスラエル諜報員によって拉致、
イスラエルに連行され裁判にかけられて絞首刑になった。
ハンナ・アーレントは、ドイツ系ユダヤ人で哲学を専攻、ハイデッガーに師事、一時は愛人関係にあった。
ナチス台頭に伴い、フランス、そして米国へ亡命する。
戦後、彼女は、ニューヨーカー誌に記事を書くため、イスラエルに飛びアイヒマン裁判を傍聴する。
この映画は、アイヒマン裁判と彼女の記事、その反響にスポットを当てている。
法廷に現れたアイヒマンは、予想に反して、凶悪な怪物ではなく、どこにでもいるような
パッとしない平凡な男だった。(映画では実際の法廷での本人の映像が使われている)
彼女は彼を見て驚き考える。思考ができなくなると平凡な人間が残虐行為に走る。
それがナチズムに代表される全体主義の本質であると。
彼女は哲学者らしく、あくまでも冷徹かつ客観的であり、ナチス=加害者=悪、ユダヤ人=被害者=善、
という単純な図式は受け入れない。ナチスに協力したユダヤ人リーダーまでも容赦なく批判する。
それがユダヤ人社会において大きな反感を呼び、多くの友人を失う。
しかし悩みながらも彼女は屈しない。
敵意に満ちた聴衆を前に行なう数分間の彼女の演説は圧倒的である。彼女はアイヒマンをこう批判する。
"In refusing a person, Eichmann utterly surrendered that single most defining human quality:
that of being able to think. And consequently, he was no longer capable of making moral judgements.
This inability of think created the possibility for many ordinary men to commit evil deeds on a gigantic scale,
the likes of which one had never seen before."
「人間であることを拒否し、アイヒマンは人間が人間たる唯一の本質、すなわち思考ができることを
完全に放棄しました。そして結果的に道徳的な判断ができなくなりました。
この思考不能こそが、多くの平凡な人間たちが、かつてないようなとてつもない規模の悪魔的な所業を犯す
可能性を生じさせたのです」
そしてこう締めくくる。
"The manifestation of the wind of thought is not knowledge, but ability to tell right from wrong,
beautiful from ugly. And I hope that thinking gives people the strength to prevent catastrophes
in these rare moments when the chips are down."
「思考力とは知識ではなく、善と悪、美と醜悪を判別する能力です。
考えることこそが、このような稀なる緊迫した状況時に、人間に壊滅的な惨事を防ぐ力を与える、
私はそう望むのです」
私は、彼女の演説を聞いて、まるで雷に撃たれたような衝撃を覚えた。
時空を超えて彼女は現在の日本に警告を与えているのだ、と思った。
アイヒマンは自ら手を汚してユダヤ人を虐殺したわけではなかった。
しかし強制輸送したユダヤ人が収容所の中でどんな目にあっているかはよく知っていた。
しかしそれについて考えることを一切止めてしまい、ただただ命令に粛々と従った。
高線量汚染環境下で暮らせば、どういう健康被害が起きるかを知っているにもかかわらず、
何も考えない、真実を伝えない、抗議もしない、避難もしない、させない。
上からの命令にひたすら従うだけ。
政治家も役人もマスコミも、そして避難しない住民も、思考を拒否したアイヒマンそのものではないか。
そしてその思考停止が、恐るべき規模の破滅を導くのは明らかであろう。
アイヒマンはイスラエルに捕らえられ、裁きを受けた。
日本のアイヒマンたちは裁判にかけられることはない。しかし放射能から重い裁きを受けるであろう。
破滅前夜の日本において、これだけ相応しく、価値のある映画は他にない。
ぜひ観ていただきたい作品である。
(関連リンク)
映画「ハンナ・アーレント」どこがどう面白いのか 中高年が殺到! 現代ビジネス (2013/12/9)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37699
木下正昭の映画批評「ハンナ・アーレント」 (レイバーネット日本 阿修羅 gataro氏 2013/10/31)
http://www.asyura2.com/09/bun2/msg/678.html
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