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［はじめの一家修業中］公的年金、「給付減と負担増」一段と
今年は財政検証の年
ある週末の昼下がり。藤志郎は鯛吉を自宅に呼んで、昼食をごちそうしました。新衣紗が「たいきちマネー相談所」で世話になっているお礼です。食後にくつろいでいると、藤志郎の携帯電話が鳴りました。
とうしろう もしもし。ああ、オヤジか。え、年金がどうしたって？ もしもし。電波状態が良くないな。もしも……。切れちゃった。
にいさ 何だって、おじいちゃん。
とうしろう うん、年金が減ったと言ってたみたい。
りこ そういえば公的年金をめぐるニュースが増えているようだけど。
たいきち ことしは政府が５年に１度、公的年金を検証する年だからね。年金財政の見通しを計算して給付と負担がどうなるか、夏ごろに予測を発表するんだ。
にいさ 年金って難しそうだわ。若い世代は保険料を払っても受け取る額は少ないといわれることもあるし。実際はどうなのかしら。パパ、分かる？
とうしろう ……。たいきちくんに聞きなさい。
たいきち まず年金の仕組みから説明しましょう。公的年金制度は主に国民年金、厚生年金、共済年金の３つです。国民年金は20歳以上60歳未満の日本国内に住む人すべてが加入する義務があって、基礎年金ともいわれます。
にいさ 厚生年金と共済年金は？
たいきち 厚生年金は会社員、共済年金は公務員などが加入する。同時に国民年金にも入っているよ。保険料は給与天引きで、給与明細では「厚生年金保険料」「共済年金保険料（掛け金）」となっているから実感がないかもしれないけど、国民年金にも保険料を払っている。
にいさ 会社員や公務員は２種類の年金をもらえるということ？
たいきち そうだよ。一般に国民年金を１階部分、厚生年金などの上乗せ分を２階部分と呼んでいる。国民年金も「国民年金基金」などの２階部分があるけど、加入するかどうかは本人の自由。2012年度末で加入者は50万人くらいだよ。
にいさ 自営業の人は？
たいきち 自営業者などは国民年金保険料を支払い、基礎年金のみを受け取る。第１号被保険者と呼ばれ、約1864万人いるよ。会社員や公務員などは第２号被保険者で約3793万人。会社員や公務員などに扶養されている専業主婦（夫）は第３号被保険者で約960万人だ。
りこ 私は専業主婦だから第３号ね。保険料はどうなっているのかしら。
たいきち 第３号の方は保険料を本人負担しません。第３号が受け取る基礎年金の財源は、配偶者が加入する厚生年金や共済年金から出ています。
とうしろう ところで国民年金保険料の納付率は約６割で、未納の人も多いようだね。未納だと、どうなるのかな。
たいきち 保険料を滞納すると、病気やけがで障害状態になったとき障害給付が受けられなくなったり、死亡したときに妻子が受け取るはずの遺族給付がもらえなくなったりすることがあります。
とうしろう 年金財政は厳しいとよくいわれるけど、私の年金は大丈夫かな。若い人を中心に世代間の不公平を訴える人もいるようだが。
たいきち 公的年金は世代間扶養（賦課方式）といって、現役世代から保険料を集めて高齢者に年金を給付する仕組みなので、少子高齢化が進むと現役世代の負担感が増します。年金財政は厳しいため、14年度の基礎年金額は前年度と比べ0.7％減額されました。９月分からは厚生年金保険料率も上がり、引き上げは17年度まで続くことが決まっています。
とうしろう 減る給付、増える負担という感じだな。年金制度を続けるためには仕方ないのかな。
たいきち 大ざっぱにみると公的年金の給付総額は12年度で約50兆円です。一方、保険料収入は約30兆円。残りは国の財政支出と年金の積立金の取り崩しなどで賄っています。少子高齢化が進めば、年金財政はさらに厳しくなります。05年度に約150兆円あった積立金は12年度に126兆円になりました。
とうしろう このペースでいったら行き詰まるぞ。
たいきち 行き詰まりを避けるためには給付の一段の削減も選択肢になり得ます。５年前の財政検証では、少子化の進行と経済成長に一定の仮定を置いたうえで、38年度に基礎年金と厚生年金を合わせた給付額が約20％削減されるという試算が示されました。
とうしろう ちょうど私が年金をもらっているころじゃないか。２割減かあ。
たいきち 給付額を減らさないようにするには支給開始年齢を現行の65歳から67〜68歳に引き上げる。あるいは保険料を支払う期間を65歳まで延ばすといった意見が出ています。保険料支払期間を65歳まで延長すれば、給付額は１割減で済むという民間研究機関の試算もあります。今後の年金制度改革に大きく影響するので、今年の財政検証は注目されています。
とうしろう それにしても私の年金はどのぐらいになるのかな。
たいきち 50歳以上であれば年金事務所で現時点の見込み額を試算してくれます。これから一緒に行きますか。
初野新衣紗（はじめの・にいさ、20）大学で金融を勉強中
初野藤志郎（はじめの・とうしろう、50）・利子（りこ、47）新衣紗の両親
有賀鯛吉（ありが・たいきち、28）隣に住むファイナンシャルプランナー・税理士
［日経新聞５月３日朝刊Ｐ．２１］
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