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“ 良い不平等と悪い不平等 ” ピケッティの経済哲学論争の行方(世相を斬る あいば達也)
http://www.asyura2.com/14/hasan88/msg/310.html
投稿者 笑坊 日時 2014 年 6 月 04 日 15:52:48: EaaOcpw/cGfrA
 

http://blog.goo.ne.jp/aibatatuya/e/e2e87b7db0d947d016dc7f944476d493
2014年06月04日

 再び、フランス人経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)氏の世界を揺るがす著書「21世紀の資本論」を考える特集が、現代ビジネスに続き、日経ビジネスでも取り上げられている。同サイトのアクセスランキング1位であるところを見ると、日本人を捨てたものではない、と気持ちがなごむ。多くのビジネスマンが、走り続けるのは構わなけど、どうも、自分たちの動きは無駄骨ではないのか?と思う人々が多い点、益々注目に値する。以下は、渋谷浩氏のコラムだが、中々読み甲斐がある。疑心暗鬼で前に進んでいる不安と云うものは、かなり辛いに違いない。

 しかし、このような重大な議論が世界的になされていると云うのに、安倍晋三は、20世紀の遺物のような経済政策、構造改革で海外資金の日本株への更なる再投資に腐心している。アベノミクスにしろ、リバタリアンの経済政策は、超法規的自由主義、超市場原理依存の信者である。どんな修飾語や逃げ道を用意しても、弱肉強食社会は強靭化するシステムだ。読んでみて判ったことだが、この渋谷浩のピケティの著書「21世紀の資本論」への渋谷の反論コラムである。渋谷が、唐突に人間の良い本性(共感、理性、モラル、信頼、協力)に刺激を与え、悪い本性(支配、イデオロギー、復讐、不信、対立)を抑制する、とノブレス・オブリ−ジュ政策を引き込む。

 これは単に弥縫策に過ぎず、経済学に、社会倫理哲学心理学等々の論理を紛れ込ませている。もっとも、ピケッティの『21世紀の資本論』も、経済学の著書というより、社会経済学的な次元で書かれているので、まぁそれなりの手法ではある。大きな政府は、既得権益を守ってしまう元凶なのだから、富裕層から富を略奪し、再配分するメカニズムは、その既得権益勢力を、守に過ぎないと主張している。そこまでは、正しい。ただ、渋谷の視界には、地域に富の再配分権利が移動する「地方主権(見える共同体)」と云う、国家の大構造変革がスッポリ抜け落ちている。最後には、取ってつけたように「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の宣伝文まで飛び出すのはいき過ぎだろう(笑)正直、このコラムを読むよりも、トマ・ピケティの著書『21世紀の資本論(Capital in the Twenty-First Century)』(英文)を直に読むことを推奨する。


≪ 世界で大論争、大著『21世紀の資本論』で考える良い不平等と悪い不平等 フランス人経済学者トマ・ピケティ氏が起こした波紋  

フランス人経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)氏が書いた『21世紀の資本論(Capital in the Twenty-First Century)』が今、米国をはじめ世界中で注目を集め、売れに売れまくっている。700ページ程の分厚い経済書としては異例の出来事だ。皮肉にも、ピケティが上位1パーセントの高額所得者に仲間入りするのは確実だ。『資本論』出版のタイミングと誰にでも理解できる大胆な政策提言(富裕層から富を税金で 奪い取れ)は、米国政治の右派と左派の感情を刺激するには完璧であった。

 2008年に始まった世界金融危機以降、一般大衆は失業や低賃金など経済苦境を長く経験してきた。同時に、かれらは金融危機を引き起こした張本人であるはずの、投資銀行の最高経営責任者(CEO)達が一般労働者の1000倍近い超高額報酬を得ているのを見ている。
 そして、多くの人びとが資本主義そのものに疑問を感じ始めた丁度その時、ピケティの『資本論』が店頭に出てきたのである。それは多くの人びとが感じていた貧富格差拡大の事実をデータで裏打ちし、しかも不平等是正のための政策提言を積極的に行ったのである。すなわち、「富裕層の所得と富に高い税金をかけて奪い取れば不平等は解決するのだ」と。

*データ不備の指摘は本筋にあまり影響がない

 そのメッセージはあっという間に、近年ますます顕著になってきた米国政治の右派・左派対立の火種に油を注ぐことになった。ポール・クルーグマン米 プリンストン大学教授やジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授などの左派有名人がピケティの『資本論』を褒め称えると、右派はさまざまな側面から 攻撃を始めた。

 例えば、右派は1980年以降の不平等拡大を示すデータの不備を指摘している。ただし、これはピケティ以前に多くの研究者が異なる資料を使って示していた点であり、今後事実として覆る可能性は小さいと思われる。いずれにせよ、論争は激しさを増しており、まさに乾いた薪に一気に火が燃え広がった状況にある。

*ピケティの論点とは?

 世間の政治的大騒ぎから距離を置いて見ても、ピケティの『資本論』は学問的に吟味するに値する本である。それは今までになかった欧米諸国の長期データに基づいた研究の集大成である。『資本論』は大きく分けて3つの部分からなる。  

 第1は、所得と富の歴史的分析、第2は所得と富の不平等が21世紀に拡大していくという予測、第3は拡大する不平等をくいとめるための政策提言である。私は、第1の部分を高く評価、第2の部分もおおむね賛成、第3の部分には反対である。まだ本を読んでない人のために、そして私が批評を始める前に、ピケティの『資本論』を要約しておこう。

 『資本論』は、数世紀にわたる膨大なデータ分析に基づいて、産業革命以降の所得と富の変動を分析した研究である。それによると、18−19世紀のヨーロッパは不平等が非常に大きな社会であった。硬直的な階級社会の下で、富は少数の富裕家族の手に集中していた。(富/所得)比率は高く、産業革命以降賃金は少しずつ上昇していくが、不平等社会はそのまま存続した。

 不平等な社会構造は、20世紀に起こった2つの世界大戦と大恐慌によって初めて崩れることになる。戦争による資本破壊、戦争をファイナンスするための高税率、高インフレ、企業倒産、そして戦後多くの先進国が採用した福祉政策によって(富/所得)比率は低下し、戦後は18−19世紀とは大きく異なる 比較的平等な社会が生まれてきた。

 しかし、20世紀の2つの世界大戦と大恐慌のショックは、次第に薄れていき、資本の論理が世界を支配し始めている。欧米先進国では、再び所得と富の不平等が拡大し、18−19世紀の水準に回帰しつつある(データについては、記事文末の注のリンク先を参照。Figure I.1 & I.2)。

*「資本収益率は、経済成長率より常に大きい」

 これらの研究結果に基づいて、ピケティは不平等と資本の関係についての独自の理論を展開する。その基本となるのが、資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも常に大きいという歴史的事実である(Figure 10.9)。一般に、経済成長率が高い時には(富/所得)比率が減少し、低いときには(富/所得)比率が増大する。

 しかし、歴史的事実が示しているように不等式(r>g)が常に成立する限り、富の集中を自然に抑制する経済メカニズムは存在しない。戦後復興期の高成長が今後急激な人口増加や技術革新によって再現されない限り、われわれは18−19世紀に経験した「世襲資本主義(Patrimonial Capitalism)」の時代に戻ることになる。

 そうなれば、不平等拡大によって政治不安は高まり民主主義の脅威となる。それを事前に回避するために、ピケティは「高率累進所得課税」と「グローバルな『富』への課税」という政府介入を提案する。

*『21世紀の資本論』の批判的評価

 ピケティの分析と結論に関して複数の問題点を指摘することができる。第1に、ピケティの議論の中で重要な役割を担っている不等式【r(資本収益率)>g(経済成長率)】が21世紀になって成立しなくなる可能性を否定することはできない。

 一般に、資本蓄積が進むにつれて、資本収益率は低下していくと考えられる。技術革新のみがそれを防ぐことができる。またノーベル賞経済学者、ロバート・ソロー米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授の成長理論によれば、長期均衡は定常状態によって規定される。

 すなわち、ピケティの不等式が長期的定常状態では成立しなくなる可能性がある。問題は、ピケティが不等式(r>g)を説明する経済モデルを提示していないことにある。ある過去の現象が将来も継続することを示すには、その現象を理論的に説明できるモデルが必要だ。ピケティの不等式を説明できる経済モ デルが欠如している限り、それが21世に消滅する可能性を否定することはできない。

 第2に、実は、ピケティ不等式(r>g)は富の不平等が拡大するための必要条件ではない。ピケティの資本収益率(r)は平均収益率である。現実には資本収益率は個々の投資対象によって大きなばらつきがある。そして、資本収益率の分散(ばらつき)が大きければ、たとえ r=g であっても、結果として生まれる富の不平等は時間と共に拡大する。

 この段落は多少専門的な表現になるが、例えば、資本収益率が正規分布によってほぼ近似できると仮定すると、分散(ばらつき)が大きければ、生成される富の分布は平均値が左低位に非常に片寄った対数正規分布になる。

 すなわち、個々の投資対象の資本収益率がばらついていれば、ピケティ不等式が成立していなくても富の不平等は拡大して行くということである。不平等拡大のための条件は、資本収益率が分散しているという事実だけで理論的には十分なのである。 *投資収益率と経済成長率の差は「リスクプレミアム」

 第3に、たとえピケティの不等式が将来も常に成立するとしても、それは資本投資のリスクプレミアムを反映しているにすぎないと解釈することができ る。もし資本収益率と経済成長率の差(r−g)がリスクプレミアムを反映しているとすれば、その差(ピケティ・ギャップ)は将来も存在し続けるだろう。

 しかも、それはリスクを取って経済活動をしている資本家に対する正当な対価だと主張できる。だとすれば、課税によってピケティ・ギャップを縮める ことは、投資活動や技術革新などのリスク・テイキングのインセンティブを弱めることになるので望ましくない。リスク・テイキングこそが経済成長の原動力で あり、ピケティの課税は結果的にリスク・テイキングを抑制し経済成長率を低下させることになるからだ。

*最高税率引き下げが高成長につながった可能性

 第4に、ピケティは高課税政策が経済成長に与えるマイナス影響を過小評価している。ピケティによれば、20世紀の特徴は、戦後の高度成長によって不平等が抑制された点にあった。しかし、21世紀には、先進国がそろって低成長に移行すると考えられるので、不平等はさらに拡大するとピケティは予想する。

 そして、所得と富に対する課税によって「世襲資本主義」への道を回避しなければならないと主張する。しかし、彼が、自身の提唱する政策によって世界経済の成長率が低下する可能性を真剣に考慮しているのかどうか疑問だ。経済成長への悪影響を否定することができなければ、ピケティの政策を正当化するこ とはできない。

 実際、彼のデータは、戦後1950−2012年の高成長と最高所得税率の低下の間には高い相関関係があることを示している(Figure 2.5 & 14.1)。すなわち、戦後の最高所得税率の引き下げが投資活動を活発にして高成長につながった可能性があるのだ。

 第5に、ピケティは明らかに大きな政府を信用している。政府は国民の利益を最優先するように慈善的に行動すると信じているようだ。この信念は大き な政府が問題解決の第一手段だと思っている人々に共通した認識である。彼らはナイーブに政府を信用しているか、もしくは、本当の動機(政府高官になって地 位・富・権力を獲得したいという欲望)を隠しているかのどちらかである。

 ピケティは良心的な学者に見えるので、前者に属しているのだろう。いずれにせよ、ピケティの高課税政策は、税収の増大、政府権力の増大を伴う大きな政府を創り出すことになる。歴史は、大きな政府が政治家や官僚や大企業なの既得権益獲得のために国民のお金を悪用したり、権力を乱用したりする事例で溢れている。

 第6に、ピケティは「なぜ不平等が問題なのか?」という根本問題に十分答えていない。彼の議論は、不平等の拡大は政治的対立を激化させ民主主義に危機をもたらす、という指摘に留まる。しかし、不平等は各自の生産性に見合う報酬の結果なので問題ない、と主張することも可能だ。すなわち、高い報酬は高い社会的貢献の結果であるということだ。
 もしそうならば、不平等に対する不満は単なる「嫉妬」にすぎない。解決策は、不平等の解消ではなく、各自が大人に成長して常に自分を他人と比較するのをやめることだ。

 この場合、不平等は経済学の問題ではなく社会心理学の問題に帰属する。政府が不平等を抑制するために市場に介入することは正当化できない。それは 合法的略奪である、という考え方である。これはリバタリアンが好んで展開する議論である。実際、各自の報酬が生産性に対応しているのならば、政府による不平等是正のための市場介入を合理的に正当化するのは非常に難しい。

*再考・なぜ不平等は問題なのか?

 私も最近までリバタリアンの主張に対して合理的に反論するのは困難だと感じていた。すなわち、政府による所得再分配政策は正当化できず、経済成長に伴い貧困層の所得が絶対水準で上昇している限り、不平等は特に問題ではないということだ。もし、賃金上昇を望むならば、市場で自分の生産性を上昇させるしかない。

 自ら教育や資格や職業訓練を通じて生産性をあげるしかない。まさに自己責任である。政府はそのような機会を提供する政策を正当化できても、賃金が 生産性に対応している限り、所得再分配政策は正当化できない。それは略奪であり、不公正であり、社会正義に反するという考え方だ。

*公正、正義、平等を気にする動物として進化した人間

 しかし、経済学が仮定する「経済人(homo economicus)」を現実的な人間すなわち他者の利益も配慮する人間で置き換えて考えると、大きな不平等が解決されるべき社会的問題として登場してくる。人間本性は進化の結果である。実は、人間は公正、正義、平等ということをとても気にする動物として進化してきた。

 その理由は、自然界における生存競争の中で人間が生き残るためには、お互いに協力することが不可欠な生存手段であることを学んだからである。その結果、人間は協力を通じて行動する社会的動物として進化してきたのである。

 従って極端な不平等を見た時、人間は本能的に不公正・不正義の感覚を持つようになる。特に、不平等の原因が、政治を通じた特殊な利益の追求 (rent-seeking)や遺産相続の結果であればなおさらである。それらは生産性すなわち社会的貢献を反映していないからである。

 そして、不公正、不正義、不平等の感情は、人間の協力関係をいとも簡単に崩壊してしまう。人間は進化した社会的動物である。そして社会的協力は相互依存を意味し、相互依存は外部性を意味し、外部性は「厚生経済学の基本定理」を破壊する。

 すなわち、アダム・スミスの「見えざる手」は社会では機能しない。したがって、利己的行動だけでは最適な社会は維持できない。協力こそが人間社会の生存にとって決定的に重要なのである。

 人間に特有な社会性(協力)が人間を他の動物と区別する一番重要な特徴である。人間は協力することによって、自然界で生き残り、「コモンズの悲劇」を解決し、「囚人のジレンマ」を克服してきたのである(各用語の意味はリンク先で適切に解説されているので、参照されたい)。

 人間は社会性(協力)という本性を身に付けることによって生き残り文明を築いてきたのである。しかし、大きな不平等にともなう不公正・不正義の感情によって集団、会社、組織、社会における協力は簡単に壊れる。そして、協力の崩壊は経済的停滞さらには不親切社会さらには敵対的社会をもたらす。一体誰が、そのような経済社会に住みたいと思うのだろうか?

*良い不平等と悪い不平等

 さらに、純粋に経済学の視点から見ても、賃金は生産性に対応していないことが多い。単純化して説明すると、微分可能な生産関数の情報がなければ、われわれは会社の一人ひとりの社員の生産性(marginal product)を知ることはできない。そして、現実問題として、われわれはそのような生産関数を知らないのである。

 例えば、トヨタ自動車の個々の社員に対して微分可能な生産関数を見たことがあるだろうか?トヨタの社員はみんな生産性に対応した賃金を得ている のだろうか?会社の年次報告書の中に微分可能な生産関数が記載されているだろうか?実際、各社員の生産性を客観的に知ることができないという問題が、「成果主義」がなかなかうまく成功しない大きな理由である。

 会社の賃金体系は会社内そして社会的に受け入れられている慣習によって決まる。もちろん、市場経済において、会社の平均賃金は平均労働生産性に近い水準で決定されなければならない。生産性以上の賃金を支払っていれば会社は市場で生き残れないからである。

 しかし会社内の賃金体系は、一般に、会社内で低位にいる社員は生産性以上の、そして高位にいる社員は生産性以下の報酬を得ている。高位の社員は、低位にいる社員の低地位に伴う効用減を補償することによって組織全体の効用均衡が達成されるからである。このように会社内では平等化の力が働いている。  この一般命題から大きく逸脱しているのが会社の最高経営責任者(CEO)達だ。彼らは、実質的に自らの報酬を自分で決定することができる。それを防ぐことができるのは取締役会である。しかし、現実には、取締役会役員もCEOの支配下にあることが多い。そうすると、CEOの報酬を生産性に対応させる 有効なメカニズムは存在しないことになる。

 思い出してほしい、2008年の世界金融危機の時に投資銀行のCEO達の生産性は膨大なマイナスであった。しかし、かれらの誰一人として巨額のマイナス報酬を受け取ったCEOはいない。明らかに、CEOの報酬は生産性とは関係なく決定されている。

 大きな不平等はさらに望ましくない社会問題を引き起こす。多くの研究によると、不平等は信頼、寿命、学習成績と負の相関関係があること(不平等であればあるほど信頼、寿命、学習成績の低下が見られる傾向にある)や、心の病気、肥満、10代の妊娠、殺人、囚人数と正の相関関係がある(不平等であればあるほど、心の病気、肥満、10代の妊娠などが起こりやすい傾向にある)こと、が示されている。

 *すなわち、不平等は個人のみならず、社会にとっても望ましくない影響をもたらすことが明らかになっている。信頼が希薄な社会では、お互いの協力を得るのも維持するのも困難になり、経済は停滞し犯罪も増えるだろう。これらの社会問題を解決するには不平等問題を避けては通れない。社会問題と不平等は同時に解決されなければならないのである。

 まとめると、不平等を無視できない理由は少なくても4つある。第1に、不平等は心と体の健康に悪影響をおよぼし社会問題を引き起こす。したがって、個人と社会の健康を維持するには不平等に対処しなければならない。第2に、賃金や給与は必ずしも生産性を反映しているものではない。特に、CEO達の報酬は生産性を反映していない。

 第3に、大きな不平等は信頼と協力を破壊することによって経済社会を停滞させる。人間の社会性(協力)は人類文明を作り上げるのに決定的に重要な役割を果たした本性であるが、不平等に伴う不公平・不正義の感情によって壊れる脆弱な存在でもある。最後に、大きな富は政治を支配し政策を決定する手段として有効だ。それによって、一般市民の犠牲の上に、富裕層の既得権益を守るために使われる危険がある。

 結局、不平等には良い不平等と悪い不平等があることが分かる。良い不平等とは生産性に対応した所得配分の結果生じた不平等である。それは労働意欲を刺激し起業家精神を育む正しいインセンティブを与える。

 他方、悪い不平等とは既得権益や特殊利益追究の結果生じた不平等で、生産性とは関係がない。悪い不平等によって既得権益が生まれ、政治を通じて新規の競争相手が現われないように政策(規制、補助金)を誘導する。良い不平等は経済成長を促進し、悪い不平等は成長を阻害するのである。したがって、良い不平等を促進し、悪い不平等を抑制することが良い政策の条件となる。

*20世紀からの2つの遺産

 既に述べたように、20世紀の歴史は2つの世界大戦によって決定づけられた。そして世界大戦は現代人に2つの大きな遺産を作った。1つは、戦後の平等社会の出現であり、もう1つは大きな政府の出現である。  ここまで、われわれは不平等について議論してきたが、20世紀の平等社会はピケティによれば特殊な例外であり、21世紀において不平等はさらに拡大していくと予想されている。この不平等拡大に対してピケティは高い累進所得課税とグローバルな富課税という政策提言を行ったのである。

 しかし、もう1つの20世紀の遺産については何が言えるのだろうか? 大きな政府は21世紀にはさらに大きくなっていくのだろうか?

 確実に言えることが1つある。
 それはピケティの政策が実行されれば世界中の政府がさらに大きくなっていくということだ。大きな税収を獲得して政府はますます巨大な存在になって いくからだ。私は、この大きな政府問題が不平等問題よりもより深刻な状況を引き起こすことになるだろうと考えている。実際、日本を含めた先進諸国の成長率 が過去数十年にわたって徐々に低下してきている根本原因は、まさに民間活動の隅々まで浸透してきた行政介入、すなわち大きな政府にあると考えている。

 ピケティの高課税政策は大きな政府を作り出す。大きな政府は、国民から集めた税収を政治目的のために無駄に使ってしまう危険を伴う。必要のない箱物を建設したり、必要のない道路を作ったり、必要のない空港を建設したり、必要のない巨大堤防を建設したり、各種特殊法人に税金を流したり、官僚組織の増 殖に利用したり、政治家の地元へ補助金をばらまいたり、既得権益を維持するために規制が使われたりする。

 また大きな政府は民間企業をクラウディング・アウト(追い出し)する。大きな政府は民間活動の隅々まで行政介入してくる。他方、民間企業も市場競争を避けて政府補助金に群がって行く。その結果、市場メカニズムが健全に機能せず経済は停滞する。ピケティの政策は不平等を抑えることができるかもしれないが、大きな政府と停滞した経済をもたらす可能性が高い。

*「ノブレス・オブリージュ政策」の提案

 そこで筆者はノブレス・オブリ−ジュ(Noblesse Oblige)政策を提案する。それは私的な富を人類の利益のために使用することを実質的に義務づける政策である。それは富裕層に家族王朝建設のために富を使う代わりに、現在そして将来の人類の利益のために富を使う義務を課す政策である。

 その具体的使い道は富所有者の自由である。この政策の特徴は、富裕層の富を使うのは政府ではなく、あくまで富所有者自身である点である。ただ1つの条件が、富を人類の利益のために使用するということである。この政策によって政府の歳出歳入構造が根本的に変わる。多くの社会資本が民間の手で構築され ることになる。同時に、政府の役割と権力を大きく制限することができる。

 この政策は、富裕層に対する非常に高い相続税と私的富を人類の利益のために使う義務を組み合わせることによって実現できる。相続税を十分高くすれば、合理的資産家は政府に富を取られるよりも自分の富を人類の利益のために一番有効だと考える目的に使うことを選択する。

 その結果、政府に相続税を支払う富裕層は実質的にいなくなる。非常に高い相続税は、富裕層に富を人類の利益のために利用する行動を促すために背中を押す(nudge)役割を果たす。それは人間の共感、理性、モラル、信頼、協力の本性を活動させるための手段である。ただし、政策が相続税逃れのために悪用されないような厳格な制度設計が前提となる。

*参考になるビル&メリンダ・ゲイツ財団

 この政策の大きな利点は、人類の利益という条件の下に、富の使用方法を所有者自身が決めるのであって、政治家や官僚や彼らを取り巻く既得権益者ではないところにある。それは富所有者自身の義務として富を人類の利益のために使う自由とイニシアティブを行使することを要求する。良い例として、ビル&メ リンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation、4兆円の寄付基金)をあげることができるであろう。

 B&MGFは政府が伝統的に行ってきた多くの仕事と役割(奨学金、寄付金、図書館、教育支援、感染病対策、農業開発、貧困対策など)を代替している。ノブレス・オブリージュ政策は富裕層の子供達にも適切なインセンティブを与える。すなわち、富裕層の子供達は、親の遺産に頼ることなく、独立自尊の道を自ら切り開いて行かなければならない。同時に、彼らを醜い遺産相続争いから救うことにもなる。

 ピケティの政策とは対照的に、筆者のノブレス・オブリージュ政策は不平等と大きな政府を同時に解消することができる。さらに、それは経済成長に必要な信頼と協力に基づいた社会形成に貢献できる。それは富裕層に自由とイニシアティブを奨励することを通じて一般市民にも独立自尊と起業精神を植え付け る。

 それは人間の良い本性(共感、理性、モラル、信頼、協力)に刺激を与え、悪い本性(支配、イデオロギー、復讐、不信、対立)を抑制する。人間本性の優れた部分はわれわれの関心を利己主義と対立から利他主義と協力へと向けさせる。良い政策と制度は、人間の良い本性を促進し悪い本性を抑制する機能を持ったものでなければならない。 まとめると、ノブレス・オブリージュ政策によって5つの目的を達成することができる。 (1) 不平等を抑制(同時に個人と社会の健康促進) (2) 大きな政府を抑制 (3) 自由とイニシアティブを促進 (4) 信頼と協力に基づく社会を形成 (5) 経済成長を促進

 この政策がピケティの政策に比べて、圧倒的に優れていることは明らかだ。ピケティの政策は不平等を解消できるかもしれないが、大きな政府を拡大、個人の自由とイニシアティブを制限、人間の悪い本性を刺激、そして経済成長に負の影響を与える。ピケティの敵対的政策は、右派と左派の対立を激化させ、不信と対立が溢れる社会を作り出すことになる。

*「悪い不平等」を是正する施策の実現を

 筆者は、ピケティ『資本論』の(1)所得と富の歴史分析を高く評価、(2)21世紀における不平等拡大予測におおむね同意、(3)所得と富への高課税政策には強く反対、という立場をとる。『資本論』は拡大する不平等に世間と学会の関心を向けることによって人類の利益に大きく貢献している。そして多くの人々によって世界中で議論されるべき本だと考える。特に、この機会にリバタリアンは不平等についてより深く再考してみるべきである。なぜならば、彼らの中には「不平等は問題でない!」と主張する人が多いからである。

 また筆者は、不平等には良い不平等と悪い不平等があり、悪い不平等は是正しなければならないと考える。特に、(1)不平等は個人と社会の健康に悪 影響をおよぼす、(2)所得と富は生産性(社会的貢献)を反映した結果ではない場合がある、(3)不平等拡大にともなう不公正や不正義の感情が社会的協力を破壊する、(4)富裕層が富を政治手段として利用することによって市場経済を歪めてしまう可能性がある。これらの理由によって不平等が深刻な社会問題を引き起こす可能性がある。悪い不平等は信頼と協力に基づいた自由社会の基盤を弱めてしまう。

 しかし、ピケティの課税政策は不平等に対する適切な政策だとは思えない。それは、分裂した敵対社会と大きな政府を作り出し、経済成長を阻害する可能性がある。ピケティの政策に代わるものとして筆者は、不平等を抑制し、大きな政府を抑制し、自由とイニシアティブを促進し、信頼と協力に基づく社会を形 成し、経済成長を促進し得る「ノブレス・オブリージュ政策」を提案する次第である。

(注) 原書:Thomas Piketty, Capital in the Twenty-First Century, Belknap/Harvard University Press, 2014. 原書の全ての図表(Figure)はウエブサイトで見ることができる。 本文中のFigure Xは原書のFigure Xを指す。 ≫(日経ビジネス:ニュースを斬る・渋谷浩)


 

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コメント
 
01. 2014年6月04日 17:22:21 : nJF6kGWndY

>同サイトのアクセスランキング1位であるところを見ると、日本人を捨てたものではない

米国が典型的だが、もっと効率的な再分配政策を検討すべき国は多いということだな


>不平等拡大に対してピケティは高い累進所得課税とグローバルな富課税という政策提言
>ピケティの政策は不平等を解消できるかもしれないが、大きな政府を拡大、個人の自由とイニシアティブを制限、人間の悪い本性を刺激、そして経済成長に負の影響を与える。ピケティの敵対的政策は、右派と左派の対立を激化させ、不信と対立が溢れる社会を作り出す

最大の欠点は、主権国家が乱立する世界では、超富裕層が自由にマネーを移動できる点だ

つまり生産や研究開発、医療、中規模ビジネスなどを担う国家の中心階層(いわゆる中の上の階級)だけが

大きな負担を押し付けられ、当然、意欲は下がり、上位の若い優秀層ほど海外へと去っていく

>ノブレス・オブリ−ジュ(Noblesse Oblige)政策 
>富裕層に対する非常に高い相続税と私的富を人類の利益のために使う義務を組み合わせる
>具体的使い道は富所有者の自由  富裕層の富を使うのは政府ではなく、あくまで富所有者自身
>政府の歳出歳入構造が根本的に変わる。多くの社会資本が民間の手で構築される
>政府の役割と権力を大きく制限することができる。

こちらも理想と実現は大分違ってくるだろうな

ふるさと納税が、当初の理想とは全く違って、お得な特産品を持っている地方に金が流れ込んでいるのと同じ事態になるだろう


富裕層がバフェットやゲイツとは違い、利己的である場合

こうした制度は、結局、富裕層が運営する財団に金が流れ込み、そこの管理者という名目で

子孫や一族が富を継承し、教育や美術という名目で、自分たち用に好きに使うことになるだろう


また利他的な富裕層だとしても、全体最適を考えず、メディア情報に左右され、かわいそうな海外の子供や

動物のためにばかり、金が使われて、国内の低所得層や地方インフラ整備が後回しになる可能性も高い


いずれにせよ、そう簡単ではないということだな


02. 2014年6月04日 19:11:43 : TGZjS8iB2r
ピケティの所得税と資産課税を強化すべきだとの提案には全面的に賛成する。特に、資産バブル崩壊が国民の税金によって救済された場合は、資産課税を強化することで補填に使われた税金を回収すべきで、決済機能を守ることと本来のリスクを資本家にちゃんと負わせる事でモラルハザードを防止するという当たり前の事が実現できる。

>しかし、不平等は各自の生産性に見合う報酬の結果なので問題ない、と主張することも可能だ。すなわち、高い報酬は高い社会的貢献の結果であるということだ。

この筆者の主張はトートロジー(同義反復)で、論理学的には正しいのだが詭弁の一つだ。当然これは真実を証明するものではないし、それが社会的に妥当かどうかの回答にはなっていない。

>そして、所得と富に対する課税によって「世襲資本主義」への道を回避しなければならないと主張する。しかし、彼が、自身の提唱する政策によって世界経済の成長率が低下する可能性を真剣に考慮しているのかどうか疑問だ。

ピケティの所得と富への課税を強めるべきだとの主張の論点はそこじゃないだろう。つまり、資産バブル崩壊の大カタストロフが国民の税金で救済されているのにも関わらず、バブルで美味しい思いをしてきた富裕層を税金で救うことへの問題提起ではないか。バブルでリターンを多く受け取る一方で、崩壊でも何のリスクも負わないのは公平ではないし、資本の論理に照らして間違っている。その分は資産課税で徴税されて然るべきだろう。

>参考になるビル&メリンダ・ゲイツ財団

多くの財団は富裕層が相続税から逃れるために設立し、その財団の理事等は富裕層の親族で占められている。そういう意味で、特定の家柄による格差は財団に寄ってさらに強化されることになるだろう。


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