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ガスプロムは本当にウクライナを脅しているのか？キエフ側のお粗末な支払い実績とガス出荷停止を避けたいロシア
2014年04月25日（Fri） Financial Times
（2014年4月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙）

ロシア、ウクライナ経由のガス供給を大幅削減 欧州に影響
ウクライナは2度、ロシアからのガス供給を停止されている（写真は首都キエフ近郊のボヤルカを走る天然ガスパイプラインの圧力調整バルブ）〔AFPBB News〕

　窮地に立たされているウクライナのアルセニー・ヤツェニュク首相は、同国は隣国ロシアからの軍事侵攻のみならず、「別の種類の攻撃、つまり、ガス供給を通じた攻撃」にも直面していると主張する。

　ロシアによるウクライナへの軍事介入は極めて現実的だ。ウラジーミル・プーチン大統領は先週、ロシアがウクライナ領の黒海・クリミア半島を先月併合するのを手助けした武装集団がロシア人だったことを認めた。

　西側諸国の指導者の間では、ウクライナ東部の親ロシア派分離主義者たちの中にもロシア兵が含まれていることを疑う人はほとんどいない。

　だが、この地政学的な危機からガス問題を切り離すのは難しいものの、ロシアおよびロシアの天然ガス独占企業ガスプロムによる「エネルギー攻撃」の非難は、それほど明確ではない。

3度目のガス供給停止ならガスプロムの評判やロシア国家に大きな打撃

　2006年と2009年に価格論争の最中にウクライナへのガス供給を停止したことで、ガスプロムは決して、ウクライナやさらに西の欧州の顧客に好かれることはなかった。欧州諸国は、ウクライナを横断する巨大な輸送パイプラインを通じたロシア産ガスの供給混乱に見舞われた。

　ところが今、矛盾しているようだが、ロシアは苦境に立つウクライナ政府に最大限の圧力をかける一方、供給停止を避けることに最善を尽くしているように見える。

　3度目の供給停止となれば、信頼できる供給業者としてのガスプロムの評判がついに地に落ち、ロシア産ガスへの依存を下げようとする欧州連合（EU）の取り組みが勢いを増しかねないことをロシアは理解している。そうなれば、ガスプロム株の51％を保有し、歳入の半分をエネルギー販売に頼るロシア国家と、残りの株を保有する株主（多くは外国人）は打撃を受けるだろう。

　ガスプロムがウクライナを脅しているという主張は、容易に展開できる。今年2月、集団デモによってロシア寄りのビクトル・ヤヌコビッチ大統領が失脚した後にキエフの親欧州派政府が発足してから、ロシアは2度のガス値下げを取り消した。

　1000立方メートル当たり約400ドルから同268.50ドルへの3割強の値下げは、ウクライナの国営ガス会社ナフトガスに昨年12月に認められたばかりだった。この値下げはヤヌコビッチ氏との交渉で決まったロシアによる救済策の一環だった。

　もう1回の100ドルの値下げは2010年に認められたもので、ロシアがクリミア半島のセバストポリ港をリースしている契約をウクライナ側が2017年からさらに25年延長することに同意した時のことだ。

　クリミアを占拠した後、ロシアはこの合意とガス値引きを撤回し、ウクライナ政府は合意成立以降の114億ドル相当の値引き分を返済しなければならないと述べた。

　そのため欧州で最も安い部類に入っていたウクライナのガス価格は1000立方メートル当たり485ドルまで跳ね上がり、一気に欧州屈指の高さになった。ウクライナがガスプロムの最大顧客の1つであるにもかかわらず、だ。

政府の汚職と失政で疲弊したナフトガス、また22億ドルの未払い金

　しかし、ここで善人と悪人を特定するのは難しい。というのも、長年にわたる政府の汚職と失政で疲弊したナフトガスが、常習的に代金支払いを遅延し、全く払わなかったりしたからだ。

　際立った問題は、ウクライナが大幅に値引きした価格でガスを家庭に売る政策を取っていたことだ。これはナフトガスの売上高がコストをカバーしないことを意味した。

　以前のガス供給停止は、ウクライナの支払い遅延も関係していた。また、ウクライナの外貨準備高が危険なほど乏しくなっていることから、ナフトガスは再び22億ドルの未払い金を積み上げた。両者とも、この点については争っていない。

　だが、ウクライナ政府は、ナフトガスが債務を返済する前にガスプロムが価格を「市場」並みの水準に引き下げるべきだと述べているのに対し、ガスプロム側はウクライナが先に代金を支払うべきだと言っている。

ウクライナへの露ガス供給停止、1日に期限迫る
モスクワにあるロシア政府系天然ガス独占企業ガスプロム本社〔AFPBB News〕

　ガスプロムに近い筋によれば、ウクライナは既に、2009年の供給契約で定められた、ガスプロムがガス代金の前払いを要求できるようになる段階を超えたが、プーチン大統領が執行停止を命じたのだという。

　また、2009年契約がもたらした高い基本価格は、ウクライナのお粗末な支払い実績も反映しているという。

　IHSエナジーのアンドリュー・ネフ氏（モスクワ在勤）は、ウクライナは22億ドルの未払い金を払うしか選択肢がないと言う。だが、ロシアがクリミアのリース契約を破棄した後の債務とされる金額など、「ほかに追加されているものについては、国際仲裁裁判所で争い、解決すべきだ」と付け加える。

　国際通貨基金（IMF）とEUの多国間金融支援のうち、今後数週間で実行される1回目の支援金は、ウクライナ政府に目先の債務を清算する機会を与えるはずだ。

　IMFとの取り決めの一環としてウクライナはガス市場改革を確約しているため、ガスプロムと新しい支払い方法について合意し、ウクライナの価格を1000立方メートル当たり380ドルという欧州の平均価格前後とする可能性はあると見るアナリストもいる。

プーチン大統領の判断次第で・・・

　多くのことが諸要素の軍事的な側面にかかっている。ロシアがウクライナ東部に侵攻するようなことがあれば、ロシアの評判に対するダメージは極めて大きくなり、たとえガス供給が続いたとしても、EUは急ぎ新しい長期的エネルギー源を探すだろう。

　もしプーチン大統領が地政学的な優先事項の方が経済的優先事項に勝ると考えたら、数年前にはロシアの金のなる木のように見えた企業とその株主が巻き添え被害を被る恐れがある。

By Neil Buckley, the FT’s Eastern Europe editor