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今年のノーベル経済学賞(闇株新聞)
http://www.asyura2.com/14/kokusai9/msg/517.html
投稿者 五月晴郎 日時 2014 年 10 月 16 日 14:13:48: ulZUCBWYQe7Lk
 

http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1250.html

2014年10月16日

毎年この時期に書いているテーマなので、今年も続けます。

 今年のノーベル賞では、青色発光ダイオード(LED)開発の功績により赤崎勇・天野浩・中村修二の日本人3教授がノーベル物理学賞を受賞しました。特に中村修二・カリフォルニア大学教授は株式市場でも有名ですが、海外では「米国人」と報道されています。

 勤務していた日亜化学(徳島・非上場)との発明対価を巡る法廷闘争に失望して日本を去り、米国籍を取得しているので海外の報道通り「米国人」となります。大変残念な頭脳流出でした。

 さて今年のノーベル賞経済学賞は、仏トゥールーズ第1大学のジャン・ティロール教授が受賞しました。

 ここでノーベル経済学賞とは、正確には「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」のことで、スウェーデン国立銀行(中央銀行)が設立300周年祝賀の一環として1968年に創設したものです。

 つまりアルフレッド・ノーベルが創設したものではなく、賞金もノーベル財団からではなくスウェーデン国立銀行が提供します。賞金は他のノーベル賞と同じ800万クローネ(約1億2000万円)ですが、日本の税当局は(今まで日本人の受賞者はおらず、その可能性が高いとも思えませんが)ノーベル経済学賞の賞金だけは課税するそうです。

 脱線ついでに付け加えますが、スウェーデン国立銀行は1668年に創設された世界最古の中央銀行です。日本の赤穂浪士の討ち入り(1703年)より35年も前のことです。

 このスウェーデン国立銀行は1701年に世界最初の紙幣を発行しています。この時期は各国とも金・銀・銅などの実物資産を通貨としていたのですが、スウェーデン国立銀行は世界で最初に中央銀行の信用だけが裏付けとなる紙幣(紙切れ)を発行しました。当然に偽造紙幣が大量に出現したそうです。

 そんなスウェーデン国立銀行が1968年に「ノーベル経済学賞」を創設した理由としては、当時は経済改革の一環として市場の自由化を推進しようとしていたスウェーデン国立銀行が、政治介入を排除して独立性を確保するために「権威ある理論」を確立する必要があったからといわれています。

 その証拠に創設直後は、市場重視の新古典派とくにシカゴ学派と呼ばれる経済学者の受賞が目立ちました。

 まあ「人類の発展に貢献した」人々に贈るとしたアルフレッド・ノーベルの遺志からは「かなり遠い」ノーベル経済学賞となります。

 今年のジャン・ティロール教授の受賞理由は「市場の力と規制に関する分析」で、一部の大企業が支配的な地位を占める「寡占市場」での適切な規制のあり方の研究が評価されたようです。

 スウェーデン国立銀行の「当初の目論見」である市場重視の経済学ではなく、むしろ逆に「寡占市場」における中央政府の適切な規制を積極的に容認する経済学です。

 最近の受賞者の研究内容には、実践の経済活動に役立ちそうもない机上の理論(空論とまでは言いませんが)が多かったのですが、昨年受賞したロバート・シラー・イェール大学教授(S&Pケース・シラー住宅価格指数の考案者)は、久々の実践的な経済学者でした。

 今年受賞したフランス人のティロール教授も、実際にフランスの経済運営に取り入れられている大変に実践的な経済学者といえます。

 フランス政府は、本誌がいつも日産自動車を食い尽くすと書いているルノーに15%出資しており、本年5月にも経営再建中のプジョー・シトロエン(PSA)に14%出資し(同社提携先の中国・東風汽車も同程度出資)、6月には重電大手のアルストムがGEにエネルギー部門を売却する際に(アルストムに)20%出資することを決めています。

 つまりフランス政府は大企業の経営に積極的に関与しており、その理論を支えているのがティロール教授となります。

 日本や米国では、あくまでも経営危機に陥った基幹産業を一時的に国有化することがあるだけで、明らかにフランス方式とは違います。

 どちらが「正解」なのかは難しい問題ですが、実際の経済運営に影響力のある経済学者の受賞となりました。  

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コメント
 
01. 2014年10月16日 14:26:03 : nJF6kGWndY

>「人類の発展に貢献した」人々に贈るとしたアルフレッド・ノーベルの遺志からは「かなり遠い」ノーベル経済学賞

佐藤栄作やオバマらが受賞する平和賞よりは、かなりマシだけどねw


http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51915367.html
2014年10月13日22:02
カテゴリ本
ティロールの企業理論

The Theory of Corporate Finance
今年のスウェーデン銀行賞(通称ノーベル経済学賞)が、Jean Tiroleに決まったようだ。珍しく妥当な授賞である。彼は大きなブレークスルーをやったわけではないが、企業理論を整理して完成させた功績は大きい。彼の産業組織論やゲーム理論の教科書は、いまだにスタンダードである。

本書は「企業金融」と銘打っているが、Brealey-Myersのようなビジネス本ではなく、現代の企業理論の集大成である。上級者向けだが、その第1章がウェブにあるので、政策担当者はここだけでも読んでほしい。いろいろな企業統治システムを理論的に検討した彼の結論は、ベストのシステムはないが、株主資本主義が相対的にすぐれているということだ。
ヨーロッパの「ステークホルダー型」も日本の「労働者管理型」も、うまく行く場合があるが、特殊な条件に依存している。株主価値の最大化という単純な目的関数は、普遍的でわかりやすい。その欠点は労働市場の不完全性が大きいと機能しないことだが、これは雇用を流動化する制度で補うしかない。その逆に雇用を最大化する「人間的」な企業は、資本を浪費して衰退することが多い。

特に本書でくわしく分析しているのは、企業買収である。これはアメリカでも一攫千金のいかがわしい仕事とみられる傾向が強いが、一時は衰退したアメリカ経済が活性化した最大の原因は、M&Aによる企業コントロールの市場が確立したことが大きく寄与している。金融工学は手の込んだ詐欺みたいなものだが、企業価値を評価して買収を仲介する機能は、アメリカの投資銀行に見習うべきものが多い。

この点で日本経済の最大の疫病神は、バカで無責任な北畑隆生次官に代表される経産省の官僚だ。せっかくKKRが手がけたルネサスの買収も、彼らがつぶしてしまった。満州国から継承された岸信介の国家社会主義こそ、日本の克服すべき最大の戦後レガシーである。


http://toyokeizai.net/articles/-/50499
ノーベル経済学賞、ティロール氏の功績とは
銀行オーナーの行動原理を分析
Reuters:2014年10月15日

仏トゥールーズ第一大学経済学部のジャン・ティロール教授
フランス政府は財政のバランスに苦しんでいるところだが、ノーベル賞の栄誉のひとつがフランスの経済学者に贈られることとなった。

スウェーデンの王立科学アカデミーのメンバーであるスタファン・ノーマーク氏は次のように語った。「今年の経済学賞は、巨大企業の抑制に関する研究に贈られます。スウェーデン王立科学アカデミーは、2014年のアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞を、フランスのトゥールーズ第一大学のジャン・ティロール教授に授与することを決定しました」。

銀行のオーナーの原動力とは何か

ティロール氏は、市場への規制は慎重に適用される必要があるということを示した、とアカデミーは評す。

プライス・キャップ方式などの一般的な規制は、悪く働くことのほうが多い。投資銀行は特に、より強固な管理体制が必要となる。ノーベル委員会のトール・エリングセン委員長は語る。「ジャン・ティロール氏は、銀行のオーナーたちの原動力となるものが何であるかを究明するための労を惜しみませんでした。何が彼らの目的か。規制が緩やかなとき、彼らは何をしようとするのか。そしてティロール氏は、彼らが公益という観点からほど遠い、とてつもなく大きなリスクをとる方向に動くという結論に達したのです」。

ティロール氏は、その後トゥールーズ第一大学における記者会見に姿を現した。「フランスの場合には、次世代への投資が最優先されるべきです」とノーベル賞受賞者は語った。「私は、フランスには十分な可能性があると考えています。しかし、現代に適応することが求められており、若い世代に明るい未来を与えるためには、数多くの改善、公債の減少などが必要です」。

ヨーロッパの各銀行は、今回の受賞に強く注目することだろう――。新たに設けられた規制が多くの銀行に変化を求めることになるためだ。各銀行が、次に訪れる金融危機に持ちこたえることができるかを確認するため、新たな厳しいストレステストが設けられたのである。その結果は、2週間以内に出る見通しだ。


02. 2014年10月17日 09:51:51 : nJF6kGWndY
おまけ

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20141016/272644/?ST=print
2014年ノーベル経済学賞、賢人の軌跡
百科全書の国が生んだ知の巨人、ジャン・ティロール教授
2014年10月17日(金)  北村 行伸

2014年のノーベル経済学賞は、フランス人経済学者、仏トゥールーズ第1大学のジャン・ティロール教授に決まった。ティロール教授と20年以上、公私にわたる親交があり、著書の翻訳も担当している一橋大学経済研究所の北村行伸教授が、ティロール教授の業績や人となりなどについて緊急寄稿した。
 スウェーデン王立科学アカデミーおよびスウェーデン中央銀行(リクスバンク)は10月13日、2014年度ノーベル経済学賞をフランス・トゥールーズ第1大学(トゥールーズ・スクール・オブ・エコノミクス)のジャン・ティロール教授に授与すると発表した。

 ティロール教授は1953年フランス生まれで、今年61歳である。フランスのエコール・ポリテクニークなどで学位を取得した後、81年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得。84年からMIT准教授、教授を経て、現在トゥールーズ第1大学産業経済研究所(IDEI)学術担当所長を務めている。

 ティロール教授の研究範囲は広く、産業組織論、規制政策、組織論、ゲーム理論、ファイナンス、マクロ経済学、経済と心理学などの分野でそれぞれ第一級の研究を行ってきた。

百科全書の国が生んだ知の巨人

 自然科学の分野であれば専攻が細かく限定され、それぞれの専門分野の中でしのぎを削っているというのが現実だと思う。経済学はそこまでは専門化、細分化はされていないものの、ジャン・ティロール教授の研究範囲の広さは、現役の経済学者のなかでも極めて突出している。専門論文は200本を超え、そのほとんどがトップ10に入る一流経済学術誌に掲載されている。著作も多数あり、主要なものだけでも9冊を数える。しかもそれぞれの著作は、百科全書の国フランスのトップ研究者だけあって、百科事典のように綿密かつ広範囲にわたり、多くの研究者にとって第1に参照すべき基本文献となっている。

 このような広範な研究が可能になっているのは、ティロール教授をとりまく広範な研究ネットワークのおかげだ。現代のような複雑化した社会の中では、銀行業や情報通信産業の具体的な現状あるいは精緻化された特定の理論分野を理解することは極めて難しく、また時間のかかることである。だがティロール教授はそれぞれの分野で卓越した専門家を共同研究者として選び、繰り返し論文を書くことで、特化された分野の問題の本質を掴み、それを研究成果として残してきているのである。

共同研究のネットワークの広さも「実証」済み

 ティロール教授による共同研究体制は、社会科学の研究者が共同研究をどのように進めたらいいのかを示す見本のようなものだ。余談だが、ネットワーク構造を研究しているある研究者により、経済学者の中で、ティロール教授の共同研究のネットワークが最も広範で、かつ頑強であることが「実証」されたほどである。

 受賞対象の研究として、スウェーデン王立科学アカデミーは「市場支配力と規制」に関する貢献を挙げている。そこで挙げられている多くの研究はラフォン教授との共著『A Theory of Incentives in Regulation and Procurement』(1993、The MIT Press) に収録されている。ここで、彼らの百科事典的な研究を数行でまとめることは不可能であるが、あえて要約すれば次のようになるだろう。

 寡占企業の価格設定や参入障壁は消費者に不利益をもたらし、競争の欠如が寡占企業の非効率性を増幅させる可能性がある。そのような環境で政府は、寡占企業をどのように規制すればいいだろうか。ティロール教授は、以前に考えられていた独占禁止法や価格規制に対して、より厳密な分析枠組みを提供し、政府による価格設定の規制や談合規制などが常に有効なわけではなく、産業や市場の条件によって競争政策と規制政策を組み合わせることで、最適な規制のあり方が変わってくることを理論的に示した。

 …と、このように書いても、物理学における青色ダイオード(LED)の発明のように目に見える実感はわかないかもしれない。そこで、もう少し最近のティロール教授の経済と心理学に関わる研究から、身近な例を用いて、彼の研究の神髄を紹介したい。

 まず、人間のインセンティブは経済的報酬に比例しているだけではなく、自分自身の評判、他者への思いやりにも依存していることを確認したい。それらの要素を組み入れると、経済的報酬が上昇しても、インセンティブが低下する可能性がある状況を考えてみよう。この状況を、ティロール教授はクラウディング・アウト効果と呼ぶ。

 広い意味でのインセンティブは2つのグループに分けることができる。(1)良い行いをすること、と(2)悪い行いをしないこと、である。この分類は、アイザィア・バーリンの『自由論』で展開された「自由」の2つの分類、すなわち「人が自分のする選択を他人から妨げられないことに存する消極的自由」と「人が自分自身の主人であることに存する積極的自由」からの類推で筆者が分類したものだ。だがティロール教授の議論に適用できるのでここで用いたい。言うまでもなく、良い行いをするインセンティブは積極的インセンティブであり、悪いことをしないインセンティブは消極的インセンティブだと解釈できる。

金銭だけが人のインセンティブではない

 社会的な規範や法律で規定されるのは(2)の分類に入ることである。では、(2)の規定と経済報酬だけで、社会はうまく回っていくだろうか。

 ジョージ・オーウェルの小説『1984』に出てくるビッグ・ブラザーによる管理のような高度管理社会でない限り、人の全ての行動が把握できないとすれば(情報が非対称であれば)、(2)を破って、利益を得ようとする人が少なからず出てくるだろう。また、(1)の行動に対して特に高い報酬が払われる訳ではなく、むしろ費用がかかる場合には、経済報酬によって(1)を説明することはできない。

 例えば、電車の中の荷物の忘れ物について考えてみよう。(1)であれば、多少の時間をかけても、最寄りの駅で降りて、忘れ物を駅員に届けて、状況を説明するだろう。そうすれば、荷物が落とし主に帰る可能性は高まる。(2)の場合とは、だれも自分の持ち物ではないということで、終着駅まで手をつけずに運ばれていくことを意味する。これも終着駅で駅員が、その荷物を確保すれば、落とし主に戻る可能性がある。

 (2)が成立するためには、全ての人がその荷物を盗らないことが前提になるが、誰も監視していない電車の中で、1人の人が盗んでも、その荷物は持ち主に戻ることはないだろう。電車の中での行動を全てモニターして個人を特定化することは不可能だとすれば、昔から日本の美徳とされた、「忘れ物が必ず見つかる」と言えるほどまでに、社会的規範が機能するとは思えない。

 まして、多民族国家の米国や先進国の大都会では(2)のような「悪い行いをしない」という制約が機能するとは考えられない。では(1)の「良い行い」を促進するにはどうすればいいのだろうか。

 これは金銭的な問題ではなく、自分が忘れ物をした場合に、他の人にとって欲しい行動をとること、つまり利他主義的でもあり、自分は良い行いをする人間であるという自尊心の現れである。人からそういう人間であると評価されたい願望が反映されていることもあるだろう。

 ただし自ら自分の美徳を吹聴して評判を高めるような行為は、その先に何らか報酬を求めるようで、必ずしも純粋な利他的行動、自尊心の反映ではないと考えられ、区別する必要はある。これを厳密に区別することは難しい(もちろん、そのような人間はあまり尊敬を集めないという社会的規範はあるだろうが…)。

金銭的報酬がもたらす「クラウディング・アウト」

 朝の通勤時間帯に、忘れ物を見つけて駅員まで届けることのコストを、その行為によって助かる人がいることと比較すれば、大した労ではないと判断する人が多くなれば、社会的な費用はむしろ低下し、信頼のおける社会を維持できる。ただ、この行為に金銭的な報酬を設定して、落し物取得1点につき100円が払われるということになれば、自尊心や利他主義から行動してきた人は、何か報酬目当てでやっているかのような気持ちになって、むしろ拾得物を届けるというインセンティブがそがれる結果になるかもしれない。これがティロール教授の言う「クラウディング・アウト効果」なのである。

 落し物の例をとっても、人間のインセンティブは報酬だけに反応しているわけではなく、また、法律や社会的規範だけでも反社会的な行動を阻止できないことが分かる。インセンティブには自分が落とし主の立場であればどうであるかをよく理解している利他的行為、あるいはアダム・スミスのいう拡張された「同情」も含まれている。この要素が如何にうまく機能するかが信頼社会の前提になっているといってもいいかもしれない。

 先の自由論からの類推で言えば、社会は消極的インセンティブだけでは不十分で、積極的インセンティブが必要であり、この積極的インセンティブは強制できるものではなく、自発的に機能する必要があるということになる。そうした積極的インセンティブを醸成するのは経済ではなく、倫理や善行を評価する「規範」になるだろう。

 ティロール教授の議論のエッセンスは理解していただけただろうか。彼の経済問題へのアプローチは、企業間競争であれ、個人のインセンティブの問題であれ、必ず、費用と便益のトレードオフ、様々な制約を十分に考慮した上で、最適な解を導くというものである。これは、フランスの「エンジニア・エコノミスト」の伝統を継ぐものであり、そこに彼の理論家としての真骨頂があると言える。決して象牙の塔にこもった、「アームチェアー・エコノミスト」ではないということである。

実質は故・ラフォン教授との共同受賞

 ティロール教授についての、経済学者としての貢献やその特色については以上に述べた通りであるが、以下では20年以上に及ぶ個人的な交流の中で感じた、畏友としてのジャン・ティロールや、今回のノーベル賞受賞までの道のりで、遭遇したいくつかのエピソードを紹介しておきたい。

 今回のティロール教授の受賞は、彼の卓越した業績に与えられたものであることは疑いのないところではあるが、その授賞のタイミングという意味では冒頭に述べた、ティロール教授の主要な共同研究者であり先達であったラフォン教授の没後10年ということを忘れてはならない。

 実際、今年2014年度のヨーロッパ経済学会、エコノメトリック・ソサェティ(計量経済学会)欧州年次総会は、8月25日から29日までラフォン教授の没後10周年を記念して、トゥールーズ第1大学で開催された。ヨーロッパ中の主要経済学者に加えて、北米、日本を含むアジア、オセアニアなどから2000人を超える参加者が集まった。私もティロール教授に招かれて参加した。プログラムは、ラフォン教授を記念した3つのセッションのほか「コンファランス・パーティー」(懇親会)があり、これはラフォン教授の功績をたたえるものだった。

 総会の開会に先立って行われたレセプションで、トゥールーズ市長はラフォン教授の功績を讃えつつ、それを立派に継承したティロール教授への賞賛を惜しまなかった。このようにラフォン教授の功績を10年後も忘れることなく讃えるヨーロッパの経済学者達、とりわけトゥールーズ第1大学の経済学者達のラフォン教授への哀悼の意思表示は感動的であった。

 今回のノーベル賞の発表に際してスウェーデン王立アカデミーの経済学賞選考委員長であり、授賞理由の説明者であったストックホルム・スクール・オブ・エコノミクスのトール・エリクセン教授も、ラフォン教授とティロール教授の共同研究における業績を主要なものであることを強調していた。今回のノーベル賞の受賞はティロール教授の単独受賞という形にはなっているが、実際には、これはラフォン教授との共同受賞という意味合いがある。この点についてはティロール教授が12月のノーベル賞受賞記念講演で述べることになるだろう。

 実は、今回のティロール教授のノーベル賞受賞への布石は5年前に打たれていた。2009年9月、ストックホルム・スクール・オブ・エコノミクスは創立100周年記念として、世界中から有名な経済学者を集めた研究会を開催した。ここにはティロール教授を始め、先だって亡くなったゲーリー・ベッカー米シカゴ大学教授、アビナッシュ・ディキシット米プリンストン大学教授、アーンスト・ヘファー・スイス・チューリッヒ大学教授、アーミン・フォルク独ボン大学教授ほか多くの一流の経済学者が一同に集まり、「人間の本性と経済的インセンティブ」というテーマで議論をした。

 筆者もちょうど研究休暇中でストックホルムに滞在しており、ティロール教授に誘われて参加した。この研究会を組織したのが前述のエリクセン教授だ。この時、ティロール教授はノーベル経済学賞のスポンサーであるスウェーデン中央銀行、リクスバンクでもセミナーを開いた。エリクセン教授はノーベル経済学賞選考委員であり、ティロール教授はその面前で論文発表をしたわけである。そしてその場に立ち会った筆者は、ティロール教授が、近いうちにノーベル経済学賞を獲得することを確信した。

 筆者は実証研究者であるが、金融分野に関しては理論にも制度にも高い関心があり、その分野におけるティロール教授の研究に惹かれて2冊の彼の著書を翻訳した。『The Prudential Regulation of Banks』 (1994、The MIT Press、Mathias .Dewatripont氏との共著、邦訳『銀行規制の新潮流』、北村行伸・渡辺努訳、東洋経済新報社、1996年)、及び『Financial Crises, Liquidity and the International Monetary System』(2002、 Princeton University Press、邦訳『国際金融危機の経済学』、北村行伸・谷本和代訳、東洋経済新報社)がそれだ。

 筆者にはそれぞれ非常に刺激的な内容で、翻訳を通して多くのことを学び、多くの日本の読者にティロール教授の考え方を紹介できたことは喜びでもあった。また、ティロール教授の金融分野に関する研究は、各国中央銀行のみならず、欧州中央銀行(ECB)、国際決済銀行(BIS)、国際通貨基金(IMF)など国際的な政策議論や制度設計にも強い影響を与えていることを付言しておきたい。

 ここからは余談になるが、ティロール教授と筆者は、エコノメトリック・ソサェティの年次総会などで頻繁に会うようになり、年齢が近いこともあって話をしていくうちに意気投合し、一緒に旅行したり、自宅に招いたりして、いつしか家族ぐるみの付き合いをするようになった。また、ティロール教授の指導教授はエリック・マスキン教授で、筆者の指導教授はアマルティア・セン教授である。実はこの2人は、共にケネス・アロー教授が創始した「社会的選択論」の研究者で、米ハーバード大学で社会的選択論を共同で講義していた。そんな縁もあった。

冷徹な頭脳を備え、社会の改善を願う温かい心を理想に

 ティロール教授も筆者も、その後社会的選択理論の研究からは距離を置き、自分にとって比較優位のある分野で研究を続けている。しかし、アロー教授、セン教授、マスキン教授といった、歴代のノーベル経済学賞受賞者の中でも突出して質の高い科学論文を書く冷徹な頭脳を備えつつ、同時に社会の改善を願う温かい心を持つ研究者達を師として持てた幸運と、「師に少しでも近づきたい」という思いを、筆者はティロール教授から感じ、かつ共有している。

 筆者は、ジャン・ティロール教授との20年以上の付き合いを通して、教授の研究者としての成功への道のりをつぶさに見てきた。ほかにも多くの著名な経済学者と交流してきたし、その中には大きな成功を収めた研究者もいる。だが、ティロール教授ほど謙虚で、気さくで、家庭的で、他人への配慮ができる人はいないと言っていい。彼のノーベル経済学賞の受賞を心から祝福したい。

このコラムについて
ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。


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