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イスラエルという“スタートアップ国家”

セキュリティー大手チェック・ポイントCEOが語る強さの理由

2014年8月29日（金）　 田中 深一郎

　イスラエルのハイテク企業が躍進している。米グーグルによる地図アプリ会社ウェイズ買収、米アップルによるセンサー会社プライム・センス買収など、中東の小国が生み出すスタートアップに対する世界のIT（情報技術）大手の注目度は増す一方だ。軍事派生の技術力や教育水準の高さなどがイスラエルの強さとして指摘されるが、同国の企業経営者は実際にどう分析しているのか。インターネット黎明期の1993年に創業し、ネットセキュリティー業界を先駆者として開拓してきたチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズのギル・シュエッド会長兼CEO（最高経営責任者）に話を聞いた。
2014年度第2四半期は、連結売上高が前年同期比7％増の3億6300万ドル（約377億円）と順調に業績を伸ばした。チェック・ポイントの特徴と、事業の現状について紹介を。

ギル・シュエッドCEO：直近決算の結果は、アナリストの事前予想を上回った。インターネットセキュリティーの市場は順調に伸びており、当社の事業も全体的にうまくいっている。顧客企業の業種は金融から通信、製造業、交通、病院などにまで広がった。

セキュリティー業界を「開拓」

イスラエルのセキュリティー大手チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズのギル・シュエッドCEO（写真＝的野 弘路）
　企業は、セキュリティーが重要な問題であるということ自体は認識していても、それを解決するために具体的に何をすべきかを決めかねている。セキュリティーを担保するには、単に最新の技術を積み上げるだけでは不十分。多様な攻撃に対処するために、どんな技術を組み合わせて、セキュリティーシステム全体をどう設計するかというノウハウがモノを言う。

　1993年に創業したチェック・ポイントは、インターネットセキュリティーの分野で最も早く活動を始めた企業の1つだ。我々がネットセキュリティー業界を開拓したと言っても過言ではない。当初はファイアーウォール製品を中心に成長してきたが、現在の製品群はそれをはるかに超えており、セキュリティー全体を俯瞰した包括的なサービスを提供している。様々なタイプのサイバー攻撃に対応できる技術を揃え、しかも企業のセキュリティー責任者にとって非常に管理しやすいサービスを実現している点が強みだ。

技術者の9割をイスラエルで採用

チェック・ポイントは欧米や日本のほか、南米やアジア、オーストラリアなどにも拠点を構えるグローバル企業だ。営業や開発などの機能を、各拠点でどのように分担しているのか。

シュエッドCEO：研究開発や製品開発、会社全体のマネジメントといった機能の大半は、イスラエルのテルアビブにある本社に置いている。当社はグローバルで約1100人の研究開発人材（エンジニア）を抱えているが、そのうち約1000人はイスラエルにいる。採用もイスラエル国内が中心だ。エンジニアの8〜9割はイスラエルの大学を卒業したばかりの若くて優秀な人材。入社後に彼らをトレーニングすることで、有能な開発者に育て上げている。

　一方、営業やマーケティングなどの機能は世界中に分散させている。米国はニューヨーク、アジアはシンガポール、欧州はパリなどに営業の統括拠点がある。米国本社はシリコンバレーにあり、主に（販促やブランディングなどの）マーケティングを統括している。

　こうしたグローバルな会社組織を作ったのは、チェック・ポイントがイスラエルという小国で生まれたからだ。我々は、会社の規模がごく小さかった当時から、グローバルで戦う道を選択してきた。自国市場が小さいイスラエル企業にとっては、それが成功するための唯一の方法なのだ。大きな市場規模を抱える国や地域からも遠く離れているので、営業やマーケティングの機能は世界に分散せざるを得なかった。

イスラエルからハイテク分野のスタートアップが継続的に生まれる理由をどう分析するか。

シュエッドCEO：いくつか理由がある。第一に、イスラエルの人々は長く土地を追われ、天然資源などの資産も何も持っていなかった。貿易ができる隣国も少ない。だから、イスラエルは全てをゼロから作り上げなければならなかった。つまり、国家自体がスタートアップのようなものなのだ。自分が持っているものから、どうやって新しいものを作り出すかを考え続けたことで、イスラエルの人々には起業精神が育まれた。資産を持たないがゆえに熱心に教育に取り組み、自らの頭脳を活用してテクノロジーやノウハウを外国に輸出する道を選んだ。

　イスラエルのハイテク企業が成功してきたもう1つの要因は、インターネットだ。私が21年前にチェック・ポイントを創業した当時、イスラエルは世界から隔絶されていた。しかし、インターネットの出現で、グローバル市場というものが生まれた。英語さえ話せれば、新しいビジネスを始めるのに日本でもテルアビブでも関係なくなった。税制面で政府の優遇策があるのもメリットだ。ハイテク企業に対する税率は、一般企業の税率よりも10ポイント近く低い。

軍隊が問題解決能力を育む

大半のエンジニアをイスラエルで採用しているとのことだが、企業間の人材獲得競争が激しいのでは。

　確かに人材の採用競争は激しいが、シリコンバレーに比べればまだましだ。チェック・ポイントでは、大学2年生など、在学中の学生も採用するようになった。他の多くのハイテク企業でも、在学中にパートタイムで学生を雇い、卒業後もそのまま採用する例が増えている。これは、企業にとって有能な人材が獲得できるというだけでなく、学生にとっても、自分の興味ある仕事で学費を稼げるというメリットがある。イスラエルでは、ハイテク関連を専攻した卒業生が得る給料は、他分野の卒業生の2倍近い。エンジニアになるのは、非常に魅力的な選択肢なのだ。

高度な軍事技術がイスラエルのハイテク企業を支えていると言われる。

シュエッドCEO：イスラエル企業が開発しているテクノロジーの多くは、軍事とは無関係だ。ただ、軍事関連の派生技術を利用している企業も確かに存在する。チェック・ポイントの場合、技術自体は完全に民生用だが、私がその基になる着想を得たのは軍にいたときだ。

　イスラエルでは、若者は18歳になると皆、軍隊に行く。正確にはいくつかのプログラムがあり、まず3〜4年間軍隊に行ってから大学に進学する人と、最初に3年ほど大学に通ってから軍隊に行く人がいる。テクノロジーに長けた人材は、軍の技術部門で開発を担当する。18歳前後というのは、人生で最もクリエイティブかつ生産性も高い年代だ。こうした時期に軍隊で開発に取り組む経験は、アイデアを獲得し、それを磨き上げるのに役立っている。

　私自身も、18歳の時に軍隊に行った。軍では、兵士の8〜9割が18〜24歳くらいの年代の若者で、逆に大企業のように年配の人はほとんどいない。そうした環境で、兵士たちには、他の場所では決して経験できないような、極めてチャレンジングな課題が与えられる。若くて経験も少ない若者たちに、非常に難しい問題解決に挑戦させるのだ。これをくぐり抜けることで、若者たちは、その後の人生でどんな困難に直面しても乗り越えられるだけのスキルを身につけている。

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