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サウジは国内秩序動乱の入り口にいるーシェール革命の影響とペルシャ湾岸情勢ー
http://www.asyura2.com/14/warb14/msg/825.html
投稿者 DOMOTO 日時 2015 年 1 月 27 日 20:50:52: VRQtq/0DZtRLQ
 

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    サウジは国内秩序動乱の入り口にいる

      ―シェール革命の影響とペルシャ湾岸情勢―


DOMOTO
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735


【◆◆以下は12月25日に発信した記事に加筆したものです】


 【目次】

 【1】 中東混乱とサウジの石油の安売り

    ―シェール革命の影響と米国の中東政策― 

 【2】 サウジは国内秩序動乱の入り口にいる


    【1】 中東混乱とサウジの石油の安売り

        ―シェール革命の影響と米国の中東政策―


原油価格が下落を続けています。原油下落を進行させるサウジを中心とした湾岸産油国の石油政策は、米国のシェール革命によって引き起こされました。サウジはシェールに対抗し、米国シェール産業をとことん潰すつもりでしょう。

このとき見逃してならないのは、米国のシェール革命は湾岸産油国に、中東での米国の軍事的役割について、懐疑的感情(不確実性)を与えているということです。

この指摘は戦略国際問題研究所(CSIS)の11月11日公開の論文『新しいエネルギー革命と湾岸』の中にあり(本文でPDF8ページほど)、米国のシェール革命が湾岸産油国に与えている、軍事的な影響と経済・財政的な影響の2つの側面から詳細な考察をしています。

The New Energy Revolution and the Gulf (『新しいエネルギー革命と湾岸』 11/11-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/files/publication/121114_Barnett_GulfEnergy_Web.pdf

執筆者は戦略国際問題研究所(CSIS)で中東問題を研究しているキャロリン・バーネット氏で、彼女はとくに湾岸諸国と北アフリカが専門です。

この論文は中ほど以降から2部構成になっており、米国のシェール革命が湾岸産油国で引き起こしている動揺と不確実性を、軍事的な影響と経済・財政的な影響の2つに分類して論じているので、その2つの側面を見ていきたいと思います。

※※ この論文を紹介する中で「湾岸諸国」と私が省略して訳すのは、湾岸協力会議(GCC)加盟国のことで、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの6カ国を指します。イランとイラクは除きます。私が「湾岸諸国」と訳す時は、原文では“GCC”(湾岸協力会議加盟国)となっています。

以下、この論文の『不確実なスーパーパワーとしての米国』(“The United States as an Uncertain Superpower”)の章の要約と抄訳を記します。

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(要約と抄訳開始)

米国のシェール革命が注目されるようになったのは、2010年12月からチュニジア(ジャスミン革命)やエジプト(ムバラク長期政権崩壊)で始まった反政府抗議暴動に見られる「アラブの春」の頃である。

また、その後のリビアなどアラブ各地での暴動、シリアやイラクでの永続的な内戦が起こり、湾岸産油国の指導者たちがそれらの自国への波及を恐れる脅威が高まっているさなかに、米国のシェール革命の影響が中東へ押し寄せてきた。

湾岸産油国の指導者たちは、増産されていく米国のシェール生産を「米国のエネルギーの独立」の兆候と見た。
彼らは「米国のエネルギーの独立」の進行を見ることで、米国が中東で行う(湾岸産油国へ向ける)政策の『意図』に懐疑的になった。これはまさに、湾岸産油国が「アラブの春」以降の各国内での暴動に、脅威と脆弱さを感じていた時期であった。

2011年に、エジプト革命から波及したバーレーンでのデモに対してサウジは軍隊を介入させ、その後バーレーン、オマーン、イエメンの各政府に総額80億ドル以上の支援をした。

シェール革命による「米国のエネルギーの独立」により、来たるべき「米国が湾岸諸国を捨てる」という時期が、もう数年前から始まっている。

The GCC’s new activism is a reaction to regional upheavals, but it also reflects the impact of a narrative that emerged over the past few years of a coming U.S. abandonment of the Gulf. (PDF5ページ)

混乱の中にある中東において、湾岸諸国は、現在の米国からの助言をただ単に役に立たないばかりでなく、実際には危険であると感じている。中東地域でいくつかの同時に起きている米国の行動とその動向は、湾岸諸国に対する米国の安全保障の信頼性を揺るがしている。

筆頭にあげられるのはイランへの米国の態度、イラン核問題の解決への米国の『意欲』だ。中東地域の世論指導者たちは、オバマ政権のこの地域での安全保障に対する熱意の欠如を、厳しく批判している。

長期的な恐れとして、米国とイランの関係正常化は、湾岸諸国の安全保障への米国の関与を弱める。

連合を組む湾岸協力会議(GCC)の加盟国は、より広い中東全域での「イランとの冷戦」という状況の中で、アサドを倒し、理想的にはイラクの新政府へのイランの影響力を押し返すという目標を熱望的に維持している。

イラン核問題の交渉が現在も続いているが、この核問題が湾岸諸国にとってどんなに進展しようとも、湾岸諸国の指導者たちは、この地域でのイランの行動を抑制する、もっと包括的(総合的)なアプローチをより望んでいる(※ 注-1)。

(※注-1:訳者注:例えばオバマ政権はイランとの核交渉は継続していますが、スンニ派の湾岸諸国には、中東地域でのテロ戦争で、シーア派勢力を弱体化させようという米国の意思が非常に希薄に感じられ、この地域での脅威が高まっています。このようなオバマ政権の中東政策は、サウジなどスンニ派諸国にとってとても包括的なアプローチとは言えません。)

(要約と抄訳終了)
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このような中東情勢、とくに湾岸情勢を踏まえて、現在、国際金融市場で注目されている原油価格の下落の現象を見てみます。

そこでは、米国とサウジがロシアに対抗して原油下落を共同で仕掛けているという見方がありますが、これは現在、中東情勢のなかに置かれているサウジとイランと米国の関係を考えれば、おかしな見方だと言えます。

バーネット氏の論文で見てきたように、サウジをはじめ湾岸産油国は米国のオバマ政権の中東政策、とくに対イラン政策に非常な不満を持ち、湾岸産油国に関わる米国の政策の「意図」に懐疑的になっています。また、米国の中東政策が湾岸産油国にとって危険な場合さえあると見ています。

そのように、サウジなど湾岸産油国が米国に対して、非常な不満、懐疑心、時に危険といった感情を持っているということ、また、巨大な損失を伴い、長期化すれば財政赤字に陥るリスクを負っているということを考慮せずに、原油下落はサウジと米国が協力し組んでやっているのだというコラムをいくつも見ました。それはニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズでも見られました。

私は、このあたりがマスコミ情報の限界かとも思いますが、荒唐無稽とまでは言わないまでも、それはただの憶測、おもしろく聞こえる当て推量に過ぎないと思います。

サウジの石油政策と行動は、米国との関係のなかで軍事と経済をワンセットで考えなければだめで、サウジと米国の軍事と経済の関係を切り離してこの問題を考えるのは、事象を2つに分解してその片方だけを振り回しているようなものです。それは現実から遊離しています。

ブルッキングス研究所のグレゴリー・ゴーズ氏が、現在、中東ではサウジとイランによる「新中東冷戦」(“The New Middle East Cold War”)が行われていると言っています。

サウジは、中東地域で米国による安全保障に依存しているため、米国に守ってもらわなければ国家の存亡に関わるため、<これから先も米国の消費者に石油をこれまでと同じように買ってもらい、米国の消費者をつなぎ止めておく必要がある>のです。
そして、そのために米国のシェール産業を潰そうという側面があるのです。

米国の対ロシア戦略のためや、米国のためにやっているのではなく、あくまでも「新中東冷戦」下での、サウジ自身の国家生き残りのために、必死な思いで石油の安売りをしているのです。

原油下落が続けばイラン核交渉では、サウジにとってイランを抑制できるのではという観測がありますが、イランは1970年代はじめのパーレビ国王の核兵器構想発表以来、40年以上も核兵器製造への確固たる意志を貫いてきています。イスラエルはもちろん、サウジも、原油下落程度でイランが核兵器製造を後退・譲歩するなどとは思っていないでしょう。

もし、本当にサウジと米国が共同して原油下落を仕組んだとすれば、その見返りとしてもうすでに、中東地域での米国の行動と政策がこれまでと大きく転換し、サウジなどスンニ派に大きく肩入れし、イランに対して米国がより強硬になっているはずですが、そのような現象は全く見られません。

また、原油下落はロシアのプーチンを思いきり痛めつけていますが、プーチンはサウジの市場シェア確保の石油政策の「とばっちり」、巻き添えを食らっているだけであると私は見ています。


    【2】 サウジは国内秩序動乱の入り口にいる


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(原油の)価格低迷が続けば、サウジは財政赤字に陥り、政治的安定に新たな問題が持ち上がるかもしれない。だが、サウジは巨額の外貨準備を抱えるため、歳入が減っても耐えられると多くのアナリストはみている。

原油価格下落を静観するサウジの深遠な思惑 (10/17-2014 フィナンシャル・タイムズ邦訳版)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM17H0N_X11C14A0000000/

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いったい、サウジは原油価格低迷にどの程度まで耐えられるのでしょうか。

サウジなど湾岸諸国に詳しいワシントン中東政策研究所のサイモン・ヘンダーソン氏は、石油収入が2013年の半分に落ち込んでも、まだ、サウジは気前のいい助成金や公務員への給料を、何年も支払っていく十分な資金があるといいます(※ 下記記事より)。湾岸産油国は労働人口に占める公務員の比率が高いといわれます。

Falling Oil Prices and Saudi Decisionmaking (10/17-2014 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/falling-oil-prices-and-saudi-decisionmaking

ヘンダーソン氏は、この気前のいい国民へのお金の支給は、サウジの王国の暗黙の社会契約として絶対必要なものとしてみなされているといいます。すなわちその社会契約とは、サウド王家の家父長的な気前の良さのために(諸々に対するお金の支給)、人々は民主主義の自由がないのを我慢しているという暗黙の契約です。

チャートを見ると2013年の原油価格(WTI)が年平均でざっと1バレル100ドルで、現在12月半ば以降、53ドル〜56ドルのレンジを横ばいです。

戦略国際問題研究所でエネルギー問題が専門のサラ・ラディスロー氏は、「多くのアナリストが、シェールオイルなどの増産を食い止めるには、1バレル50ドルレベルで数か月かかるだろうと考えているようだ」と言っています。

Most analysts seem to believe that it would take a $50 price level over a period of several months to stop the growth in tight oil production.

An Oil Market Experiment (12/16-2014 戦略国際問題研究所)
http://csis.org/publication/oil-market-experiment

しかしながら、サウジと米シェール業界との戦いで、どちらが敗北するのかは私にはわかりません。
サウジは巨額の外貨準備が強みですが、サウジと米シェール業界の戦いは長期化するとその外貨準備とは関係のないところで、サウジを脅かす非常に脅威的な出来事が起こってきます。

それは、原油生産量も外貨準備もサウジとは格段に少ない湾岸諸国で、「アラブの春」のような政変・暴動・反乱が起き、それがサウジに直接的に波及する場合です。

つまり、サウジの東側に隣接するアラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの地域の財政と経済が、1バレル50ドルレベルかそれ以下の価格低迷で悪化した場合です。

前出のバーネット氏の論文によれば、これらの湾岸諸国は、いま、公共支出の増加、とりわけ社会福祉と水道設備、そしてエネルギー補助金の増加に直面しているそうです。これらの膨らむ支出は、「アラブの春」で中東各地に暴動や反乱が始まり、その混乱に対する懸念が高まるにつれ増やされてきました。

GCC governments face rising public spending commitments, particularly for social welfare and water and energy subsidies—and these commitments have grown in response to concerns about unrest since the Arab uprisings began.

サウジが2011年に、エジプト革命から波及したバーレーンでのデモに対して軍隊を介入させたことは、戦略国際問題研究所のほかの論文でも注目されています。
シリアやリビアは「アラブの春」の暴動から内戦状態になったケースですが、湾岸諸国は今まで潤沢なオイル・マネーで国民の不満を抑え込んでいたわけです。

ペルシャ湾岸諸国で「アラブの春」の暴動・反乱がおこり、それがサウジに飛び火した場合の、最悪のシナリオはどうなるのでしょうか。

「イスラム国」がイラク南西部の国境を超え、サウジに勢力を拡大した場合、そしてアルカイダがサウジ国内で民衆の混乱に乗じて活動を活発にさせた場合は、最悪の内戦となり、サウジは世界経済の火薬庫になります。

イスラム国、空爆開始後に失った支配地域はわずか1% 米発表 (1/24-2015 AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3037554


■ 関連リンク

サウジの核武装と米シェール潰し (2014-11/27 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39155494.html

ペルシャ湾の火薬庫 ―バーレーンをめぐるサウジとイランの衝突―(2011/03/08 拙稿)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/34602314.html

サウジ老齢王室の政策決定と原油下落―その軍事的側面― (2014-12/11 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39182019.html


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コメント
 
01. 2015年1月28日 10:07:11 : wvvU3brZJc
アメリカの増産で値段が下がる。

それだけよ!
まだ昔の価格;20ドル/バーレルにまで下がっていない。
世界景気が悪くなりエネルギ-消費が減ると、値段は下がる。

いろいろ陰謀説など不要である。


02. 2015年2月03日 17:24:31 : B8WjMkEUZM
ロシア原油とアメリカシェールオイルを同時に叩いたサウジアラビアの運命は
ラオウとケンシロウに同時に喧嘩を売ったジャギ、というところだろう。

この後どうなるかはまさに火を見るより明らか


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