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マレーシア経済に暗雲
４〜６月、4.9％成長に減速／外貨準備は１年で27％減
【シンガポール＝吉田渉】マレーシア経済の先行きに暗雲が漂っている。13日発表の４〜６月期実質国内総生産（ＧＤＰ）は前年同期比4.9％増と１〜３月期（5.6％増）から減速した。資源安を背景に輸出が低迷し、消費も息切れ気味だ。政情不安を背景に資金流出も止まらず、通貨リンギは約17年ぶりの安値水準だ。度重なる為替介入により外貨準備が急減しており、危機への備えに黄信号もともる。
同国中央銀行が発表した４〜６月期の成長率は、2013年７〜９月期（4.9％）以来の低水準となった。市場予測の4.5％は上回ったが、５％超の安定成長は維持できなかった。
最大の要因は輸出の低迷だ。４〜６月期の輸出は3.7％減った。原油やパーム油の輸出の不振が続いているためだ。総輸出額の１割超を占める対中輸出は６月に持ち直したが、１〜５月は前年同期比６％減った。中国への依存が景気を不安定にする構図だ。
堅調だった消費にも陰りがみえる。民間消費の伸び率は前年同期比6.4％と１〜３月期（8.8％）から低下した。４月に導入した税率６％の消費税の影響で家計の可処分所得が目減りした。また資源関連企業の雇用調整も受け、自動車など高額品の買い控えが広がった。消費者心理を示す指数は今年に入って急落し、世界的な金融危機を背景に過去最低を記録した08年と同水準にまで沈んでいる。
景気減速以上に深刻なのが資金の流出だ。代表的な株価指数クアラルンプール総合指数は４月につけた年初来高値から約13％下落した。海外投資家は４月末から14週間連続で同国の株式を売り越しており、この間の売越額は約25億ドル（約3100億円）に達した。
通貨リンギの対ドル相場も急落を続ける。中国人民銀行が人民元売買の基準となる対ドル為替レート「基準値」を２日連続で引き下げた12日には１ドル＝４リンギ台に落ち込み、アジア通貨危機さなかの1998年９月以来の水準となった。年初から12日までの下落率は約13％と東南アジアで最も売り込まれている。
資金流出の要因は大きく分けて３つある。ひとつが景気の減速、もうひとつが米国の利上げ観測や中国景気の減速に伴う投資マネーの逆流だ。これに加えてナジブ首相を巻き込んだ資金疑惑に収拾のめどが立たず、海外マネーが政権運営能力に疑念を強めていることも大きい。
通貨当局はリンギ防衛のためドル売り介入を続けているもようだ。介入原資となる外貨準備高は７月末時点で967億ドルと、１年前の1318億ドルから27％減った。外貨準備が1000億ドルを割り込むのは10年以来となる。
外貨準備高は「月間の輸入金額の３カ月分」を超えれば、危機への対応力があるとみなされる。マレーシア中銀によると現行水準は「輸入金額の7.6カ月分」だ。短期的には十分な額だが、このまま為替介入を続けられるかどうかは微妙な水準だ。通貨安を放置すれば輸入物価の急上昇を招きかねず、当局は難しい政策判断を迫られている。
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政治混乱、投資家に不安 首相の資金疑惑収まらず
【シンガポール＝吉田渉】マレーシアからの資金流出の背景には、ナジブ首相の資金疑惑もある。収拾のめどが立たず政治の混乱が続き、海外投資家の不安を助長している。
汚職捜査当局はこのほど、国有投資会社「１ＭＤＢ」から７億ドル（約870億円）近い資金が首相の口座に流れたとの疑惑について「１ＭＤＢではなく、支援者からの寄付だった」と発表した。だが支援者の氏名は公表せず、ナジブ氏への批判を強めるマハティール元首相は「世界の笑いものだ」と納得した様子をみせない。
ナジブ氏は強権を使って自身への批判を封じ込める姿勢を鮮明にしている。資金疑惑の厳正調査を求めたムヒディン・ヤシン副首相の解任と同時に、新聞の発行停止など言論統制を強めている。ナジブ氏は自身が率いる与党の地方支部を行脚して「ばらまき」を約束しており、与党内では同氏を支持する声がなお強い。
だが海外投資家は疑惑の風化をもくろむ手法に批判的だ。シンガポールに拠点を置く金融機関関係者は「満足な説明をせずに批判を封じ込める姿勢を続ければ、失望を深めるだけだ」と指摘している。
［日経新聞８月１４日朝刊Ｐ．５］
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