観光バスで東京・秋葉原の家電量販店に乗りつけた中国人観光客

 これまでの5回の連載で、爆買いの歴史、訪日中国人に人気の商品の基準、爆買いをしている中国の人々の行動指針、考え方、動機となる「面子」「圏子」などを紹介してきました。

[バックナンバー]
・中国人が“爆買い”したい商品の法則
・中国人旅行者は日本みやげをこう選ぶ
・中国人はなぜ日本の炊飯器を愛してやまないのか
・中国人はここまで「面子」を重んじる!
・爆買いを生む濃密な人間関係、「圏子」とは?

 ここからは、中国人の日本旅行を「旅行前」「旅行中」「旅行後」に分けて、それぞれの期間での情報収集の方法や、特徴的な行動、考え方、情報発信などについて紹介していきたいと思います。

 第6回目の今回は、まず、訪日中国人の日本旅行の大まかな流れについて紹介しましょう。

 中国人の日本旅行の流れを旅行前から旅行後まで整理すると以下の図のようになります。

中国人の日本旅行の流れ(筆者作成)
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(1)旅行前─徹底的な情報収集による事前の準備

 多くの中国人にとって日本旅行はビッグイベントですので、日本での行き先、参加するツアー、宿泊するホテル、日本で購入するお土産などについて徹底的に比較検討、情報収集を行います。

 その際、日本へ行ってからの予定に関する情報収集は、ソーシャルメディア(「Weibo」「WeChat」など)、掲示板、ブログ、Q&Aサイト、検索エンジン(「百度」など)、ウェブサイト(旅行情報サイト、日本関連情報サイトなど)、動画サイト、日本旅行関連スマートフォンアプリなど、インターネットを通じた収集が中心になります。

 また、それ以外にも新聞や雑誌等の紙メディア、日本へ旅行したことがある親戚、圏子内の友人、同僚、知人などから幅広く情報を集めることが一般的です。

 こうした情報収集は人によりますが、早ければ1カ月前、遅くとも2週間前までには終えていることが多く、日本で行く場所、買うもの、食べるもの、遊ぶところ等はこの時点でほぼ決まっていることがほとんどのようです。極端な例ですが、私の友人は今年の国慶節(10月1〜3日)に日本へ行くことを決めているのですが、既に情報収集を開始しています。

 現在はツアーに参加して日本に行く人が依然として多いので、訪れる都市や観光スポットなどの旅程はある程度決まっています。ですから、日本旅行中のマナーをひと通り学んだ後は、情報収集は主にお土産に何を買うかという点に集中します。

日本旅行の予定、買い物リストを記入した手帳(友人から借りて筆者撮影)
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(2)旅行中─買い物は時間との戦い

 ツアーは、多くの場合、6日間で東京、箱根、大阪、京都、奈良、兵庫(神戸)を回るといったハードな日程の旅行が多いので、ゆっくりと日本を楽しむ余裕はあまりありません。

 訪日中国人はこうした限られたスケジュールと時間の中で、自分が必要なモノと出発前に頼まれた大量のお土産を購入することになります。だから、訪日中国人にとってお土産購入は時間との戦いなのです。日本のメディアでも話題になった、繁華街に観光バスで乗り付けてわずかな時間に大量の日本製品を購入して、あっという間に去っていく光景は、ある意味仕方がないことなのです。弾丸ツアーのために、お土産をゆっくりと見る暇がなく、旅行前に準備したリストに書いてある商品をとにかく素早くみつけて、買っていくだけで精一杯だということです。

 多くの訪日中国人の日本旅行への不満点の1つとして、お店の閉店時間が早いことが挙げられます。観光地を回って夜ご飯が終わり、ちょっと休憩した時刻が夜9〜10時になっていたりすると、日本では閉店しているお店がほとんどです。「香港では夜中まで店が開いていたので買い物が楽だった」と複数の友人が言っているのを聞いたことがあります。

 また、スマートフォンや「Wechat」などのチャットアプリが普及した最近は、日本に旅行に来ている間も、本国の友人や知人から「〜を買ってきてほしい。うちの息子の嫁が〜というブランドのファンデーションを欲しがっている」といったお願いの連絡がいきなり入ってきます。「面子」と「圏子」を維持するためにも、そうした突然のお願いを無下にすることはできません。日本でのお土産購入も楽ではないのです。

チャットアプリ「WeChat」の画面キャプチャー。旅行中でもお土産お願いチャットが入ってくる(筆者撮影)
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 ちなみに、筆者が友人に「なぜ買い物リストを、スマホやタブレットじゃなくて紙の手帳に書くのか?」と質問したところ、「スマホに買い物リストを入れてしまうと、リストを見ながらスマホで情報を検索することができないから」という答えが返ってきました。紙の手帳の一覧性と、スマホの情報検索力をフル活用することで、日本での買い物をより効率よく進めようというわけです。訪日中国人の買い物にかける意気込みがここからも分かります。

 このように非常に忙しく、大変な思いもする日本ツアーですが、それでも多くの中国人は、初めての日本旅行を満喫しているようです。

 清潔な町並み、美しい自然、美味しい料理、親切な人々、行き届いたサービス、偽物を買わされる心配がいらないショッピング等、本国ではなかなか得ることができない体験に大いに満足し、本国に戻ってから友人との食事の席で、日本での経験を熱心に語るところで、彼らの面子はしっかりと満たされることになるのです。

(3)旅行後─帰国してからが日本旅行のクライマックス

 中国人(今回も仮に張さんとします)の日本旅行は、中国に帰ってきてそれで終了ではありません。実は中国に戻ってからも、張さんの「日本旅行」というイベントは続いています。

 まず、買ってきたお土産を家族や親戚、友人、知人に配る必要があります。お土産の贈呈式は、プレゼントを渡す相手の家、あるいはレストラン(相手が招待)というのが多いようです。

 張さんにとっては、プレゼントを渡すこの場こそが、今回の日本旅行のハイライトになります。

 頼まれたプレゼントを相手に渡し、どうやって購入したか、どこで購入したか、いくらだったか、パッケージに書いてある日本語はどういう意味か、この医薬品はどのように服用するのかなどを説明します。

 日本でしか売られていない、もしくは中国ではなかなか購入できない品質の良い日本の製品を買ってきて友人にプレゼントするのは、決して面倒なことではなく、自分の面子が立つ輝かしい行為だと言えます。

 プレゼントをもらったほうも、感謝の気持ちで張さんの面子を立て、食事をふるまいながら、張さんの日本での体験、経験、自慢話を熱心に聞きます。

 自分だけが経験して知っている日本の様子を、日本のことを知らない皆の前で語る──。これは張さんにとっては、至福のときだと言えるでしょう。

 張さんはこのような席では日本の良いところしか話しません。なぜなら自分が行った国のことを悪く言うのは自分の見る目のなさを証明することになり、面子が立たないからです。そのため、こうした張さんの自慢話が口コミで広がり、次の日本旅行希望者を生み出すことになります。

 また現在は、レストランや家のようなリアルな場や会話だけでなく、インターネットを通じて日本へ旅行した人の体験がソーシャルメディア上で拡散します。WeiboやWeChatといったSNS、掲示板(BBS)、ブログなどを見ると、日本旅行の詳細や、購入したモノのリスト(「戦利品リスト」と呼ぶ)がたくさんアップされています。これが、次の日本旅行検討者のための重要な情報となっているのです。

 ネットに公開されている、旅行記、購入物リスト(戦利品リスト)の例は以下の通りです。

[旅行記]

我要去日本的100问! (纯干货攻略,附花销详细,人均9000“非穷游”日本13天10城)
日本旅行に100の質問(嘘偽りなし、費用明細、平均9000元/人 “貧乏旅行じゃないよ” 日本13日間10都市の旅)

[購入物リスト]

网友日本游 巨详细购物清单
日本旅行、ショッピング明細公開、合計31点で総額3万8368円

「戦利品リスト」に載ることがポイント

 ここまで見てきたとおり、中国人の日本旅行は、(1)旅行前:徹底した事前のリサーチと準備、(2)旅行中:ハードなスケジュールの中でのお土産購入という“戦い”、そして、(3)旅行後:中国に戻ってからの戦利品(体験談も含めて)お披露目、という3つのパートから成り立っています。

 中でも、特に(3)の戦利品や体験談の報告、ネットでのお披露目という行為は、次の爆買い中国人を生み出すきっかけにもなっているので、とても重要です。ここで披露された日本商品がネットで拡散することによって、その商品が次の日本旅行検討者の買い物リストに載ることになるからです。

 その意味では、インバウンド消費対策のポイントは、日本旅行検討者の事前の情報収集ではなく、日本旅行経験者の戦利品リストに載ることにあると言っても良いかもしれません。

 今回は、中国人の日本旅行の大きな流れについて紹介しました。次回からは各パートをより詳細に説明します。まず、訪日中国人の旅行前の情報収集の仕組みについて紹介したいと思います。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43958  

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