★阿修羅♪ > 経世済民100 > 314.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
中国が直面する「経済の断絶」のリスク 経済成長の実績は見事だが、将来を保証するものではない(Financial T)
http://www.asyura2.com/15/hasan100/msg/314.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 9 月 03 日 01:07:00: igsppGRN/E9PQ
 

中国人が韓国人並みに豊かになったら、中国経済の規模は米国と欧州の合計より大きくなるが・・・(写真は上海 (c) Can Stock Photo)


中国が直面する「経済の断絶」のリスク 経済成長の実績は見事だが、将来を保証するものではない
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44705
2015.9.3 Financial Times JBpress


(2015年9月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 影響力のある中国人エコノミスト、デビッド・ダオクイ・リー(李稲葵)氏は次のように論じている。「株式市場の急落は問題ではない・・・問題なのは――大きなものではないが、それでも問題ではある――中国経済それ自体だ」

 筆者はどちらの指摘もその通りだと思うが、1つだけ同意できない点がある。これは非常に大きな問題かもしれないと思うのだ。

 市場の混乱は取るに足らない出来事ではない。中国政府が株式市場を支えるために2000億ドルを投じながらも失敗したことや、2015年7月までの1年間で外貨準備高が3150億ドルも減少したことはやはり重大だ。スケープゴートを探す動きが進んでいることも重要だ。

 これらは資本逃避と政策立案者のパニックを示す指標だ。信認について――あるいは、それがないことを――教えてくれるからだ。

 それでもなお、最終的な決め手になるのは経済のパフォーマンスである。中国に関する経済の重要な事実は、過去に成し遂げた実績だ。中国の購買力平価ベースの国内総生産(GDP)は、米国の3%相当額から約25%相当額に増加した。確かに、GDPは生活水準を完璧に計測できる指標ではないが、この値の変化は統計上の作為ではない。現場を見ればすぐに分かる。

■中国の成長余地はまだ大きいが・・・

 第2次世界大戦以降に、貴重な天然資源がないのにこのような実績を上げた「大きな(ここでは、都市国家よりも大きいという意味)」経済は、日本、台湾、韓国、およびベトナムだけである。

 それでも、米国との比率で言うなら、今日の中国の人口1人当たりGDPはまだ1980年代半ばの韓国のレベルでしかない。韓国の人口1人当たり実質GDPはその後実質ベースで4倍近くに増加し、米国のほぼ70%の水準に達している。

 もし中国が韓国と同じくらい豊かな国になったら、その経済規模は米国と欧州を合わせたものよりも大きくなる。

 以上は長期的な楽観論を支持する議論だが、これに異を唱える見方もある。「過去の実績は将来のパフォーマンスを保証するものではない」というただし書きがそれにあたる。経済成長率は通常、世界平均に回帰する。もし中国がキャッチアップ時代の高成長率を次の世代も続けたら、それは極端な例外となるだろう。

 新興国では、経済成長が「断絶(discontinuity)」と称される急激な変化に見舞われることが多い。

 だが、中国の政策立案者が言う「新常態(ニューノーマル)」それ自体は、そういう意味での断絶ではない。

 中国当局は、年率10%の経済成長から、まだ速い同7%の成長へのスムーズな減速を自分たちが差配してきたと考えている。

 では、これ以上の減速はあり得るのだろうか。また、それ以上に重要なことだが、この「断絶」は1990年代後半に危機を迎えた韓国で見られたような一時的な中断なのか、それとも1980年代のブラジルや1990年代の日本で見られたような長期的なものなのだろうか。

■断絶の可能性を示唆する3つの理由

 中国の経済成長が断絶に見舞われるかもしれないと思われる理由は、少なくとも3つある。現在の成長パターンは持続不可能であること、過剰債務が巨額であること、そしてこれらの難題に手を付ければ需要急減のリスクが生じること、という3点だ。

 中国の現在の経済成長パターンにおいて最も重要な事実は、需要と供給の出所を投資に依存していることだ。この国では2011年以降、全要素生産性(1単位の投入に対する産出の変化を計測した指標)の成長への寄与がゼロに近くなっており、追加的なGDPを生み出すのは追加的な資本だけになっている。

 また、投資のリターンが急低下する中、限界資本産出率(ICOR、経済成長への投資の貢献を測る指標*1)が急上昇している。

*1=ICORは値が小さいほど投資の効率が高い

 国際通貨基金(IMF)は次のように論評している。「改革を行わなければ、経済成長率は緩やかに低下して5%前後になるだろうし、債務も急増するだろう」。しかし、そんな状況は持続し得ない。債務がすでに高水準に達しているとなれば特にそうだ。

 そのため、広義の信用残高の指標である「社会融資総量(TSF)」は、2008年のGDP比120%から2014年の同193%に急上昇した。

 中国政府はこの過剰債務なら管理できる。しかし、これが再度積み上がっていく事態は防がねばならない。借金頼みの投資は減らしていかなければならない。

 投資が今後しぼんでいく理由は過剰債務だけではない。ブリュッセルに本部を構える欧州政策研究所(CEPS)のダニエル・グロス氏によれば、中国のICORは爆発的に上昇している。特に目を引くのは、米国の水準をすでにはるかに上回っていることだ。

 もしこのICORが現在の水準で単に安定するにとどまるなら、そして経済が約6%のペースで成長するなら、GDPに占める投資の割合は約10%低下しなければならない。もしそれが急に起これば、需要が急減して景気が悪化することになろう。

■持続不能な経路から抜け出す難しさ

 改革によって、GDPに占める投資の割合が35%になる(つまり、2000年代初めの水準に単に戻す)のが望ましいが、このレベルに急激に引き下げてしまったら、国内需要も今日の水準から急減してしまうだろう。

 中国の経済成長はすでに政府が認める以上に減速している、と思っている人は多い。

 しかし、経済成長率の予想が低下したり投資のリターンの不確実性が増したりすればするほど、投資の実施を延期することは合理的になっていく。

 その結果、経済成長はさらに減速することになる。

 断絶の議論のキモは、持続不可能な経路からスムーズに抜け出すことは容易でないということだ。

 中国には、経済が今日の大方の予想よりも急激に減速するリスクがある。

 中国政府は、世界または国内の不均衡を悪化させない対応策をひねり出さねばならない。

 恐らく最善のアプローチは、改革を継続する一方で消費者がもっとお金を使えるように努めるとともに、公的セクターによる消費と環境改善を目指した投資を増やすというものだろう。そのような対応策なら、中国のニーズにぴったり合致する。

■中国経済の難問の解決が世界経済を形作る

 中国の経済成長が断絶する可能性は、ここ数十年で最も高くなっている。このような断絶は短期間では終わらないかもしれないし、政策立案者は大変な苦難に直面することになる。減速していく経済を破綻させずにリエンジニアリング(抜本的な再構築)をしなければならないのだ。

 しかも、この難題は技術的に難しいばかりではない。技術的な難しさが中心であるわけでもない。市場主導の経済と、ますます進む政治権力の集中とは果たして両立するのか、という大きな問題が控えているのだ。中国経済の次の段階は難問だ。そして、それを解くことが世界を形作ることになるだろう。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
1. 2015年9月03日 05:02:21 : HL0Tnh1ZXA
>市場主導の経済と、ますます進む政治権力の集中とは果たして両立するのか、という大きな問題

これに尽きる。


2. 2015年9月03日 08:38:28 : jXbiWWJBCA
這い上がりたい中国人、現状に満足の日本人「次に犠牲になるのは自分の番」と常に危機感
2015.9.2(水) 柯 隆
毛沢東時代において最も犠牲になったのは農民だった。中国の農村の風景
 中国経済にはいろいろと不思議で不可解なことがある。

 中国の経済統計はさまざまな数値が水増しされていると見られるが、中国人の生活と購買力が10年前に比べて向上しているのは確かである。海外のメディアは、以前から中国崩壊論を唱えているが、中国経済が経済危機らしい危機に陥ったことはこれまでなかった。

民主主義は社会主義に勝るのか?

 社会主義体制が市場経済と結合して成功しているということなのだろうか。中国共産党の言うように、社会主義体制のほうが民主主義体制よりも優れているのだろうか。

 この設問には容易に答を出せない。中国経済が種々のリスクや不確実要因を抱えていることは確かである。しかしその中で専制政治の政府は、いざとなれば素早く問題に対処することができる。

 むろん、ときには政府が対処方法を間違えて、さらに大きな問題を引き起こすこともある。しかし、例えば福島の原発事故に対処する日本政府の迷走ぶりを見れば、民主主義が社会主義に勝るとは言えないはずである。中国であれば、福島原発事故のような問題は電力会社に任せることはせず、軍隊を投入して事態の収拾を図るはずだ。

 民主主義は、ある意味ではとても面倒で非効率的なシステムだと言える。合議制でコンセンサスが得られなければ何も実行に移せない。しかも、そのコンセンサスが最良で正しいとは限らない。

 例えば日本政府は安保関連法案の成立に取り組んでいる。それに対して「戦争法案だ」という批判があるが、実際には今の日本は戦争を引き起こすことはおろか、戦争に参加することすら難しい。それよりも安保関連法案の最大の問題は、憲法を改正せず、条文の解釈を変えて成立を強行しようとしていることである。論理の一貫性はどこにもない。

中国社会は国民全員が参加するババ抜きゲーム

 民主主義体制では、政府が失敗すると国民全員がそのコストを負担することになる。だからこそ、あらゆる政策について時間をかけて審議しなければならない。

 それに対して社会主義体制では、政府が失敗すると国民全員がコストを負担するのではなく、それに関係する一部の人々が犠牲者となってコストを払うことになる。したがって社会主義国においては、どのグループに属するかはとても重要な問題になる。

 毛沢東時代、若者は学校を卒業すると、誰もが国営企業に就職したいと願った。そして、農民の子どもにとって、人民解放軍に入隊することが夢だった。あの時代において国営企業と人民解放軍に入る者はまさに「勝ち組」だった。

「改革・開放」政策の初期、1980年代には、負け組の農民の子弟たちは活路を切り開くために、自ら零細民営企業を創業した。中にはビジネスに成功する者も現れた。しかし、都市部の親は自分の子どもがこれらの「成金」(当時の中国では「万元戸」と呼ばれていた)と結婚するのを認めなかった。もちろん今の中国では状況は変わっている。

 めまぐるしく変化する中国社会は、国民全員が参加するババ抜きゲームのようなものと言える。

 例えば、今回、天津の港で大爆発が起きた。爆発した化学薬品の倉庫の近くに住む1万7000戸の住民は一瞬にして平和な生活を破壊された。彼らも犠牲者となったわけだが、中国政府による最終的な解決は「問題の風化」である。おそらくなぜ爆発が起きたのか、倉庫の中にどのような薬品が保管されていたかなどについては、永遠に謎のままであろう。

 時間が経つにつれ、人々は自分とは関係のないことだと事故のことを忘れ、事故は徐々に風化していく。冷たいというよりも、今回ババを抜いたのはあそこに住んでいる人々だったと納得し、忘れ去っていくのだ。

底辺から抜け出さなければ犠牲になる

 中国が社会主義体制を確立してからの歴史を改めて振り返れば、毛沢東時代において最も犠牲になったのは農民だった。ピラミッド型の社会において犠牲になるのはいつも底辺の階層である。

 今、中国で起きている株価の暴落も実は同じことだと言える。株式投資を行っているのは、金融機関やファンドなどの大口投資家と多数の零細個人投資家である。株価が乱高下するとき、大儲けするのは大口投資家であり、大損するのは底辺にいる個人投資家たちだ。

 社会主義体制においては、自分がそのピラミッドの底辺に陥ってしまった場合、次に犠牲になるのは自分だと自覚しなければならない。だからこそ中国人はたえず現状に満足せず、少しでも上の層によじ登ろうとする。中国人の上昇志向が強い理由はそこにある。

「上昇志向」が否定される日本社会

 それに対して日本社会では、社会の底辺に属していても切り捨てられる心配がない。だからこそ一部の若者は安心してニートやフリーターであり続けることができる。

 いまや日本社会では「上昇志向」という言葉は否定的にさえ捉えられることがある。民主党政権において事業仕分が行われ、民主党の幹部が「なぜ一番でないといけないのか」と人々を失笑させる質問を発したことは記憶に新しい。

 それに対して安倍政権は日本社会の無力さを正そうとしているように見える。しかし、着眼点が間違っている。安保関連法案を成立させても、若者の力が湧き出すことはない。

 かつて最高実力者だったケ小平は「改革・開放」政策を進めた当初、経済の自由化ではなく教育改革に真っ先に着手した。イデオロギー教育の強化ではなく、学力を強化する改革だった。

 下村文科大臣は進学率の引き上げに意欲を示しているが、残念ながらそれは逆効果である。日本が取り組むべきなのは大学進学という入口の改革ではなく、一定の学力が備わっていない学生を卒業させない出口の改革であろう。下村大臣は大学進学率を現在の約50%から70%に引き上げると豪語しているようだが、人材育成の観点からは大学進学率を30%に引き下げ、ほかの若者は専門学校や職業訓練学校に進学させるべきである。

 中国政府はさまざまな悩みをこれからも抱えていくだろうが、日本も負けず劣らずさまざまな悩みを抱えることになろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44660


3. 2015年9月03日 08:52:26 : jXbiWWJBCA
株暴落は歴史に学ばない中国

平穏な町と市民を支える正体は実態とかけ離れた高賃金

2015年9月3日(木)山田 泰司


上海都心部にある証券会社。この日、上海総合指数が4000の大台を回復したが、株価ボードを眺める市民はみな浮かぬ顔(2015年7月20日)
 6月12日に上海総合指数が終値で5166の最高をつけたのをピークに上海の株が下落に転じ、7月初頭にかけて約3割暴落、日本や欧米のメディアが中国の景気がいよいよ危ないと言い始めたころ、私は比較的冷めた目でそれらの報道を見ていた。なぜって、上海に住む私の周囲で株をやっている知人・友人に、景気の悪そうな人が1人も見当たらないからだ。

 友人、知人以外に目を転じても、円安で収入が目減りした私が、ランチはワンコインでと自己防衛するのをあざ笑うかのように、50元(約1000円)のランチを出す近所の食堂は、サラリーマンで連日大盛況。株が下がっているからと財布のヒモを幾分でも締め直した様子は微塵も感じられなかった。

 上海総合指数は7月2日に4000を割り込み、同8日には3507まで下げた。ただそれでも、上海株が高騰に転じた3月初旬の3300よりまだ高い水準にあったし、ちょうど1年前の7月8日は2064だったのだ。

 信用取引、すなわち株を担保にカネを借りて株を買い増してきた人たちは確かに大きな損害を受けただろうが、自己資金でやっている人たちにとっては、暴落したといっても振り出し近くに戻っただけ。そんな事情が、彼らの余裕の表情につながっている――この見立てでほぼ間違っていないだろうと思い、景気の実情を調べてみる気も起こらなかった。

 その後、中国当局が8月12日から3日連続で人民元の切り下げを実施、同24日には上海総合指数が8%超暴落、これに引きずられてNY株も1000ドル超安と世界同時株安が発生し、翌25日にはついに3000の大台を割り込んだ。人民元を3日連続で切り下げるなど、「世界の工場」としてやって来た中国の生命線とも言える輸出が相当、悪い状況になっていることの証だ。それでもなお、株をやっている知人・友人や上海市民の表情に動揺の影は見られない。証券会社で株価のモニターを眺めている時にはさすがに浮かない顔をしているが、9月に入っても1000円ランチの店は引き続き大盛況。上海発の世界同時株安もまるで他人事のようだ。

 ここに来て、私もさすがに不思議に思い始めた。これだけの材料が揃って、彼らはなぜ、こんなに平然としていられ、町の様子も表面上はこれまでと変わるところがないのだろうかと。

 さらに8月半ばごろからは、私が日々、日本向けに情報配信している中国の携帯電話市場でも、成長の鈍化や中国系スマートフォン(スマホ)ブランドの不調を伝えるニュースが目立ち始めた。


帰宅ラッシュ時の上海の地下鉄車内。スマートフォンを眺めて過ごす人が目立つ。スマートフォンはほぼ行き渡った感がある
 例えば、調査会社の米ガートナーは8月20日、今年第2四半期の中国市場のスマホ販売が前年同期比4%減と、史上初めてマイナス成長となったことを明らかにした。また、8月12日には中国を代表するパソコンブランドで、今年第2四半期にはスマホ世界シェアで4位(*)に入ったレノボが、その第2四半期に携帯電話事業で2億9200万米ドルの赤字を計上したことを理由に、3200人のリストラを伴う組織再編を打ち出した。さらに、今年第2四半期の世界シェアで5位(*)に入った中国の新興ブランドである小米科技(シャオミ)が最近になって、エントリー向けのスマホ用材料の発注量を200万台分も削減したとのうわさが市場を駆け巡った。(*Gartner調べ)

 レノボ、シャオミがリストラや発注削減をした理由や、中国のスマホ販売がマイナス成長に陥った原因として市場や業界で言われているのは今のところ、中国市場でスマホが消費者に行き渡り、飽和状態にあるというもの。すなわち、「成長が減速した」ということであって、「中国市場で足下の景気が悪化した」「不景気に突入した」という表現はまだ見られない。

市民の生活に変わりなし

 ただ、本当にそうなのか。景気悪化に足を突っ込む一歩手前にいるのではないのか。そこで私は改めて、株をやっている複数の上海人の知人に話を聞き、生活に変化がないのかどうかを探ってみた。

 結論から先に言うと、彼らの答えに共通していたのは、「手持ち資金でやっているので、今のところ、生活には一切、株暴落の影響は出ていない」というもの。信用取引をしている知人の中には10万元(200万円)単位で借金を抱えた人も出た。ただ、「信用取引に手を出しているのは、思いのほか少ない。家族、親類、友人、知人、同僚など、知り合いを総動員して、信用取引をしている人は1人いるかいないか程度」だというのだ。

 そしてもう1つ共通していたのは、「現状、景気が悪くなったとは特に感じていない」という答えだった。

 そこで今回話を聞いた中で株歴25年と最もキャリアが長く、最も派手に失敗した経験を持つ男性の話を紹介することで、彼らの株に対する考えや姿勢、さらに景況感の背景にあるものを考えてみることにする。

国債先物で一文無しに

 Qさん。52歳。男性。国営紡績大手で社内報の編集長をしている。上海の大学を卒業後すぐに就職した深圳の新聞社に勤務していた時に貯めた10万元(200万円)を元手に1990年から株を始めた。1980年代後半、大卒初任給は100元(200元)程度であり、数年で10万元など貯められないはずだが、「その新聞社は人手が少なく、1ページ分書くと5000元(10万円)稼げたので、割りにすぐ貯まった」(Qさん)のだそうだ。

 その後、1990年代前半には、証券会社が口座に50万元(1000万円)以上ある大口顧客専用に設けたVIPルームで、やはり証券会社がつけてくれた秘書をはべらせながら、取引に明け暮れるなど好調な日々が続いた。

 ところが1995年、上海万国証券(当時)が国債先物の違法取引で巨額の損失を出すという事件が発生。Qさんもこれに巻き込まれた。後にいくらかは保護されたが、「財産のほとんどを失った」(Qさん)。中国政府はこの事件を機に中国で国債先物取引を禁じた。再開したのは18年後の2013年だ。

 その後もQさんは一貫して株を続けているが、「長く持ちたい銘柄をいくつか持っているだけ。デイトレードからは足を洗った」という。理由は、1992年に生まれた長女を育てるため。「国債先物でほぼ一文無しになった時、もう一度繰り返したら、娘を食べさせていけないと痛感した」。購入資金はすべて手持ちのお金。だから今回の株暴落でも、「上がった分が元に戻っただけ。実質、損はしていない。信用取引していない人であれば、状況はだいたいボクと同じ程度のはず」と話す。

印象よりはずっと保守的

 そしてQさんは、「上海人にはボクのように、家族のために株では無茶しちゃいけないと考える人の方が、比率としては圧倒的に多い」のだと言う。「中国人と言うと、投機好きでみな株にのめり込む、『13億総個人投資家』というような印象を、海外の人たちは持っているでしょ? でも、例えばボクの会社には同じオフィスだけで400人の同僚がいるけれども、株をやっている人は、ざっと見て100人。うち、信用取引をしているという人は、ボクの知る限り1人もいない」という。

 さらに「1988年に中国で個人の株取引が始まって30年あまり、株暴落は今回が初めてじゃない。その間、ボクみたいに自分自身が痛い目に遭って、中国人にとってなにより大事な子供を路頭に迷わせた人の実例をみんな見てきたんです。それでみな学習した。『家族のために大胆にならなければならない時はある。でもそれは、株じゃない』ってね。今回の暴落で青い顔をしている同僚は、1〜2人ぐらいかな。印象よりずっと、保守的なんですよ」と話す。

 「それに」とQさんは続ける。「ボクたちが、『株取引だけは、歴史に学んではいけない』ってよく言うのを知ってますか?」。

 なんだ急に歴史の話か。これだから、中国の人たちとの話は気が抜けない、いつ歴史の話になるか分からないんだから、と私は心臓をドキつかせつつ、「日本は中国からよく、『歴史を直視し、歴史に学ばなければならない』と言われますけどね、株は違うんですか?」と怪訝な顔をして答えた。するとQさんはいたずらっぽい顔をして言った。「株が上がったり暴落したりの過去のパターンをいくら分析しても、次に来る暴騰や暴落に過去のパターン、すなわち歴史が当てはまったことはない。それだけ、株は不確実なものだということを、株の歴史から学べ、といういわば反語であり、戒めなんですよ」。

店ごとに濃淡も、消費金額に変化なし


上海有数の繁華街・徐家匯にある香港レストラン。繁盛店として有名で昼食や夕食時は平日、週末に限らず並ぶのが当たり前だった。この日とその前日も繁盛していたが、夕食のピーク時でも待たずに座れる程度だった(2015年9月1日)
 Qさんら何人かの話を聞いた上で、8月31日と9月1日の2日、景気の変化が露呈している表すものがないかを意識しながら、夕食時に上海の町をぶらついてみた。すると、いくつかのショッピングモールのレストラン街で、ある共通した現象が起きていることに気付いた。どのレストラン街も、相変わらずおおむね繁盛してはいる。ただ、店ごとの濃淡、繁盛の度合いが、8月上旬ごろまでに比べて、よりハッキリしてきたということ。株の暴落以前であれば、「人気店は混んでいるから、味はそこそこだけど今日のところは隣の店にしておこうか」としていたのが、最近になって「目当ての店が混んでいるから、今日はやめてウチで食べようか」となるケースが若干増えてきたのだろう。

 ただ、彼ら彼女らが食べているものを見ると、暴落前より予算を落としている印象はない。9月1日に食事をした香港レストランで、相席になったOL2人組の注文票を暗記してメニューと突き合わせて計算してみたところ、飲み物2杯と料理4品で223元(4500円)。他のテーブルを見ても、だいたい同じ感じだった。その店はここ2年ほど、1人当たりの相場は2000円ちょっとなので、消費するお金に変化は見られないようだ。

不景気を恐れないワケ


上海徐家匯にある韓国料理店。夕食のピーク時にもかかわらず客が1人もいない(2015年8月31日)
 店の繁盛の度合いに濃淡が生まれるなど、株暴落の影響が皆無ではないことは分かった。ただそれは現状、何か負の影響が出ていないものかと注意深く観察しなければ見過ごしてしまうような程度のもの。世界同時株安の震源地になっている土地の消費者にはとても見えないし、本格的な不景気の到来に身構えている、という様子も、現時点ではない。

 この楽観はどこから来るのか。それは、実態や個々の実力を大きく上回る「賃金の高さ」に支えられているのではないかと思う。

 先に書いたように、今回話を聞いたQさんは社内報の編集長だ。不景気になると真っ先に経費削減の対象になるのが社内報だが、彼はこの編集の専従で、他の業務はしていない。毎日定時に帰るとのことで、話を聞く限り、特に忙しそうな様子もない。それでいて手取り1万2500元(25万円)の月給を取っている。52歳で年収300万円が多いのかと思われるかもしれないが、一人娘は去年大学を卒業して働いており、12年前に購入した自宅も、再開発による立ち退きの権利金を充てたためローンは完済している。300万円はほぼすべて可処分所得なのである。

 彼は10年前の2005年、顧客向け会員誌の編集をしていたが、その時の月給は4000元(8万円)。10年間で実に4倍弱、昇給したことになる。また、彼の娘はこの9月に社会人2年目に入ったばかりだが、アメリカ系の調査会社でもらっている給料は既に父親とほぼ同じだという。

 Qさんの給与がこのようなペースで上昇したのは、もちろん物価の上昇に配慮したということもあるが、中国当局が企業に対する指導の名のもと、実態とかけ離れたペースで水準を引き上げさせたという側面がある。その影響はフリーランスの世界にも及んでいて、「この技術で?」と首をかしげるような、有り体に言えばさほど上手くもないカメラマンが、日当1500元(3万円)を要求するなどということが、当たり前になっている。一方で、一般に株取引とはあまり縁のないスマートフォンの組立を請け負う工場のライン工は、夜から朝までの12時間勤務で月給は4000元(8万円)に届かない。

 株安で今にも中国に大不況が訪れるとする報道には、ここまで書いてきたような現状から違和感を覚える。ただ、実態や実力を反映していない中国の賃金にも違和感を覚える。そして、世界同時株安の発進地でありながらあまりにも楽観的な上海市民の態度にも。中国経済のことを考えると、いつも違和感だらけの気持ちになるのはなぜだろう。いずれにせよ、上海の町の平穏な様子や上海市民の自信が、半ば「作られた高額な賃金」に支えられているのだと考えると、いささか気持ちは落ち着かないのである。

このコラムについて
中国生活「モノ」がたり〜速写中国制造

「世界の工場」と言われてきた製造大国・中国。しかし近年は、人件費を始めとする様々なコストの高騰などを背景に、「チャイナ・プラス・ワン」を求めて中国以外の国・地域に製造拠点を移す企業の動きも目立ち始めているほか、成長優先の弊害として環境問題も表面化してきた。20年にわたって経験を蓄積し技術力を向上させた中国が今後も引き続き、製造業にとって不可欠の拠点であることは間違いないが、一方で、この国が世界の「つくる」の主役から、「つかう」の主役にもなりつつあるのも事実だ。こうした中、1988年の留学から足かけ25年あまり上海、北京、香港で生活し、ここ数年は、アップル社のスマートフォン「iPhone」を受託製造することで知られるEMS(電子機器受託製造サービス)業界を取材する筆者が、中国の街角や、中国人の普段の生活から、彼らが日常で使用している電化製品や機械製品、衣類などをピックアップ。製造業が手がけたこれら「モノ」を切り口に、中国人の思想、思考、環境の相違が生み出す嗜好を描く。さらに、これらモノ作りの最前線で働く労働者達の横顔も紹介していきたい。本連載のサブタイトルに入れた「速写」とは、中国語でスケッチのこと。「読み解く」「分析する」と大上段に構えることなく、ミクロの視点で活写していきたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258513/090200011/


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民100掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
経世済民100掲示板  
次へ