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資源安が揺らす
http://www.asyura2.com/15/hasan100/msg/533.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 9 月 13 日 04:10:33: Mo7ApAlflbQ6s
 


※日経新聞連載

[迫真]資源安が揺らす

(1)今すぐ灯油を満タンに

 「今年は9月半ばまでに、タンクを満タンにする」。灯油を小売りする北海道エネルギー(札幌市)の取締役、菊地健二(50)はまだ暑さの残る8月末に決断した。道内で灯油の販売が本格化するのは10月。灯油が安値になっていることに着目して、在庫を蓄えることにした。


米国で大型車が飛ぶように売れている
(ニューヨーク市郊外のフォード・モーター店)
□   □
 北海道では家庭向けの灯油の配達販売が盛んだ。札幌市消費者センターによると、北海道の灯油価格(税込み)は現在1リットル80円を割る。一時上昇したが、2月の最安値に並ぶ水準になっている。

 菊地の会社で配送の要となるのは、貯蔵能力が合計約4700キロリットルとなる灯油のタンクだ。安値のうちに調達を進め、商戦前には容量いっぱいにする。昨年は9月中にタンクに入れた灯油は容量の7割にとどまった。

 10月には旭川市に500キロリットル貯蔵可能なタンクが新たに完成する。菊地は「完成次第すぐ満タンにして旭川の家々に販売する」と意欲を示す。

 この夏、原油価格は大きな下げを記録した。8月21日にニューヨーク市場で米国の指標、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル40ドルを下回り、2009年3月以来、6年5カ月ぶりの安値を付けた。同月24日には37.75ドルまで下落した。

 足元で原油価格は乱高下が続く。果たしてこれで下げ止まるのか。

 海の向こうでは原油安の影響が広がっている。米国ではかつて「ガソリンがぶ飲み」と呼ばれたピックアップトラックが品薄だ。ガソリン安を背景に新車市場が十数年ぶりの活況に沸いている。特に人気が高いのが大型車だ。ニューヨーク市郊外の米フォード・モーター系列の店頭ではピックアップ「F―150」の入荷待ちの状態が続く。

 7月の終わり、米インディアナ州ラファイエットにある富士重工業の工場。「レガシィ」などの主力車の在庫が底を突きかけた。2万台分の広大な出荷待ち駐車場に並んだのは、わずか120台。その後も造ればすぐに売れる様子を社員は「瞬間蒸発」とも表現した。

 レガシィも米国で飛ぶように売れている。「お客さんが待っている。すぐに車を寄越してくれ」。工場トップの為谷利明(55)のもとには販売店から矢のような催促が届くが「とても応じきれない」。
□   □
 産油国に目を移すと、市民生活を支えてきた補助金を削減する動きが拡大している。

 8月1日、アラブ首長国連邦(UAE)の給油所で一斉にガソリンが1リットル2.14ディルハム(約70円)に24%値上がりした。原油安のさなか値上がりしたのは、補助金の打ち切りが原因だ。

 「価格規制を廃止する」。こんな文言でガソリンと軽油への補助金を撤廃する政府の方針を国営通信が報じたのは、直前の7月22日。今後は政府の委員会が国際市場価格を踏まえて毎月、翌月の価格を決めるとした。

 「補助金に頼らない強い経済をつくる」。エネルギー相のスハイル・マズルーイ(42)は意義を強調したが、これに先立ち国際通貨基金(IMF)は、同国が15年に財政赤字に陥るとの警告を突きつけていた。

 財政の持続性をめぐり、危機感が広がっていた。世界8位の原油埋蔵量を誇る産油国も、原油安が長引く中で財政構造にメスを入れざるを得なくなった。

 ガソリンだけの話ではない。バーレーン政府は原油安による財政難から、食肉への補助金の廃止を探っている。

 その矢先の8月下旬、近隣のクウェートで一部の魚が店頭で倍以上に値上がりした。これに怒った市民が不買運動を起こし、鮮魚店は値下げを余儀なくされた。運動に参加した市民の合言葉は「腐らせてしまえ」。富裕な産油国でも、市民は食料価格に敏感であることを浮き彫りにした。

 「経済状況はどこまで深刻なのか」。6月に8年ぶりの国債発行に踏み切ったサウジアラビアに、市場は疑念を抱いた。サルマン国王(79)は1月に即位した直後、電気や水への補助金の給付を国民に約束したばかりだ。これも見直さざるを得なくなる可能性が出ている。

 産油国の供給増、米国発のシェール革命、中国経済の減速。これらを背景に原油価格はどちらに動くのか。その影響は世界中に広がる。

(敬称略)

 資源安は原油だけでなく、鉄や貴金属を揺らす。急激な下げに見舞われた現場を追った。

[日経新聞9月8日朝刊P.2]


(2)売り場の人手足りぬ

 国内のプラチナ価格が3年ぶり安値をつけた8月25日、都内に住む古賀耕一(69)は気持ちを弾ませて札束をリュックサックに詰めて貴金属店へ向かった。クレジットカードが使えない貴金属の取引。混雑する店頭で古賀はリュックから現金を取り出してプラチナと交換した。店頭では10キロ分の金を買う顧客もいる。金額は約5千万円だ。


 多くの国際商品は下落した原油に連れるように値下がりした。金も国際相場が7月下旬に1トロイオンス(約31グラム)1100ドルを割って5年5カ月ぶりの安値になり、金やプラチナを売る貴金属店では札束が派手に飛んだ。

 「売り場の人手が足りない。もう少し増やしてもらえませんか」。突然の急落は7月21日に訪れた。東京・銀座にある田中貴金属工業の旗艦店で、現場をさばく副店長の山田英和(63)は管理部などに掛け合った。

 客は普段の4倍。臨時窓口も増設し、山田は「警備員も確保して」と指示した。開店から2時間ほどで在庫は切れた。この日は70キロ以上の金を引き渡せず、引換証を発行して後日の交換を約束した。

 相場下落は繁忙を呼び込み、営業の最前線で人は足りない。

 古賀がプラチナを買い込んでいたとき、札幌市ではガソリンスタンド所長の三瓶武浩(47)が店員の人繰りに当惑していた。スタンド沿いの道路には店に入ろうとウインカーを点滅させる車が待機し、反対車線からも流れ込む。ガソリン価格が下がってからは、札幌で増える訪日客もレンタカーで給油にくる。夜8時まで車の列は切れず、店員はずっと誘導を続けた。

 途切れぬ車列は三瓶にとって少しずつ見慣れた景色に変わっていたが、接客の質は落とせない。原油相場の行方より目の前の繁忙をどう切り抜けるかが優先課題だ。「もう1時間だけ勤務時間を延ばしてくれないか」。汗をぬぐいながらスタンドを駆け回る店員に声をかける。

 社員800人ほどの運送会社、ダイセーエブリー二十四(愛知県一宮市)。社長の田中孝昌(48)は社員の賞与アップと過去最大になる200人以上のドライバーの新規採用を決めた。人手不足が深刻な運送業界。トラックの軽油コストは1年前と比べ2割減り、燃料費は浮いた。原油がいつ反発するかわからないが、田中は「今こそ備えの期間」と感じた。「ドライバーを確保しないと生き残れない」とアクセルを踏み込んだ。

(敬称略)

[日経新聞9月9日朝刊P.2]


(3)リサイクル続けられるか

 9月9日午前11時すぎ、東京都品川区にある関東鉄源協同組合の事務所に鉄鋼商社から次々とファクスが届いた。協組から輸出用の鉄スクラップを買い付ける入札価格が書き込まれていた。平均の落札価格は1トン1万7186円。前月比2割下がり、リーマン・ショック後の安値水準に迫る。理事長の山下雄平(64)は「価格の底が見えない。まだ下がるのか」と厳しい表情を浮かべた。


原油安でペットボトルの再生事業の先行きに懸念も(栃木県のリサイクル工場)

 鉄スクラップの流通業者の経営に逆風が吹いている。鉄スクラップは建物の解体現場などで発生する製鉄原料で、国内の粗鋼生産量全体の4分の1近くを支える。東京商工リサーチによると、鉄スクラップ卸売業の倒産件数は1〜7月に全国で7件。2014年通年の3.5倍だ。同じ製鉄原料の鉄鉱石が中国の景気減速で1年で半値となったことも響いた。

 鉄スクラップの下落は業界再編を呼び込んだ。6月29日、神戸市で3人の社長が固く手を握り合った。鉄スクラップの流通や加工を手掛ける共栄(神戸市)、シマブンコーポレーション(同)、扶和メタル(大阪市)が業務提携を発表した。

 鉄リサイクル業界で国内最大級のグループになる。3社は輸送や資材調達で効率化を進める。シマブン社長の木谷謙介(49)は「3社で危機感を共有している」と口元を引き締めた。

 同じころ、ペットボトルのリサイクルを手がけるジャパンテック(栃木県鹿沼市)の社長、古沢栄一(59)は事務所のパソコンで原油の価格を確認していた。「これからもリサイクルが続けられるのか」と感じた。

 繊維などに再生されるペットボトルは、市区町村が集荷し、年2回の入札会を経てリサイクル会社に渡る。ペットボトルは石油が原料。リサイクル会社は原油相場をにらみ、利益が出る額を想定し応札する。15年度下期分の入札期限は7月上旬だった。「原油は下げ止まる」。そう思って入札に参加した業者は多かった。平均落札価格は1トン3万8018円だった。

 だが読みは外れ、さらに原油は相場を切り下げた。割安な新品のペットボトルが作られ、いずれ再生品価格を押し下げる可能性が強まった。損失を懸念して値下げしなければ、今回調達した再生品が売れなくなることも考えられる。

 資源価格の急激な下げは、再生事業を苦境に立たせている。

(敬称略)

[日経新聞9月10日朝刊P.2]


(4)居留守で交渉空転

 原油の下げが鮮明となった8月、石油化学メーカーと樹脂フィルム製造業の価格交渉の場に石化メーカーの担当者が姿を現さなくなった。「海外出張中と言われ相手がつかまらない。値下げの要求を聞きたくないのだろう」。居留守なのか。樹脂フィルム大手、フタムラ化学(名古屋市)常務の高橋徹也(68)は苦虫をかみつぶす。

 国内の化学大手は7月以降、包装資材原料のポリプロピレンなどで値上げを打ち出した。春に原油が小幅上昇し合成樹脂原料の国産ナフサ(粗製ガソリン)の値上がりを見込んだ。各社の予想は1キロリットル5万3千円以上。4万円台だった6月までに比べ水準が切り上がると読んだ。

 だが原油が急落し、現在のナフサの推定価格は3万円台後半に下落した。攻守が逆転し、高橋は「ゆくゆくは値下げしてもらう」と強気になった。

 原油価格が川下製品に反映されるまでに時間がかかる。厳密には足元の原油安を織り込んだ合成樹脂の価格が最終的に確定するのは来年1月末だ。先安観が広がれば、「待てば一段と下がる」という期待を生む。

 8月21日午前。東京・汐留に本拠を置く合成樹脂大手、プライムポリマーの本社会議室に役員ら約30人が集まった。「需要を注視し、顧客の状況を細かく集めてほしい」。社長の貝出健(60)は指示した。これまでにも原油が大きく下げる局面で、需要家の発注が大きく落ち込むことを何度も経験してきた。貝出は「10月以降、需要が伸び悩むようなら生産調整も必要」と気をもむ。

 「仕入れ値より安く売る現状から抜け出せない」。金属販売会社、メタルドゥ(大阪市)の社長、山頬敏彦(54)は昨年末からレアメタルの急速な下げに悩まされていた。同社は工具に使うタングステンなどのスクラップを集め、再利用向けに販売する。国際相場の下げから前月に買い付けたスクラップが、翌月には仕入れ値割れでしか売れない事態に見舞われた。

 9月からの対策は、月初に仕入れた品を月末までに売り切ること。下落リスクを少しでも抑える作戦だ。短期間で大きく変動するようになった資源価格は、取引の姿を変えつつある。

(敬称略)

 筒井恒、田中裕介、松田崇、三輪恭久、杉本貴司、久門武史が担当しました。

[日経新聞9月11日朝刊P.2]


 

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