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日銀総裁、物価2%は早期に達成 賃金上昇まで待つ考えない(ロイター)
http://www.asyura2.com/15/hasan103/msg/171.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 11 月 30 日 16:38:00: igsppGRN/E9PQ
 

 11月30日、日銀の黒田東彦総裁は、愛知県の名古屋市内で講演と会見を行い、賃金と物価の動きは同調的とし、賃金が上がるまで物価の上昇を待つ考えはない、と語った。写真は都内で10月撮影(2015年 ロイター/Thomas Peter)


日銀総裁、物価2%は早期に達成 賃金上昇まで待つ考えない
http://jp.reuters.com/article/2015/11/30/boj-k-idJPKBN0TJ0I520151130
2015年 11月 30日 16:16 JST


[名古屋市 30日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は30日、愛知県の名古屋市内で講演と会見を行い、賃金と物価の動きは同調的とし、賃金が上がるまで物価の上昇を待つ考えはない、と語った。2%の物価安定目標の早期達成にあらためて意欲を示したもので、物価の基調に変化が生じれば「追加緩和であれ何であれ、ちゅうちょなく金融政策を調整する」と強調した。

総裁は中長期的に物価と賃金が同調的に動くのは「統計的な事実」とし、「物価目標の実現をゆっくりやっていれば、賃金の調整もゆっくりになるだけだ」と指摘。このため、毎月などのペースでみて賃金の上昇が物価よりも遅れているからと言って「賃金がもっと上がるのを待とうとはまったく考えていない」と明言し、「物価のパスを考えていく上では、賃金も上がっていくことを期待している」と語った。

そのうえで、「われわれは賃金をコントロールできるわけでもないし、ターゲットにしているわけでもない」と述べ、物価2%の早期達成によって賃上げも実現していくとの見通しを示した。物価の問題である以上、「まず行動すべきは日本銀行」と強調。「物価が2%の目標に向けて着実に前進していくことが重要」とし、「2%の物価安定目標の早期達成が難しいのであれば、ちゅうちょなく追加緩和であれ何であれ金融政策を調整する」と語った。

政府は最低賃金を毎年3%程度引き上げ、1000円を目指す方針を打ち出したが、黒田総裁は、政府が目標に掲げている2020年頃の名目GDP600兆円達成と「平仄が合っている」と評価。中小企業にも配慮しながら最低賃金を引き上げていく政策は「極めて適正だと思う」との認識を示した。

総裁は物価動向について、日銀が試算している生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(日銀版コアコアCPI)や東大物価指数などが着実に上昇していることなどを挙げ、「今年度に入って、明らかに企業の価格設定行動が変わり、家計も受容している」と主張。物価の基調は「しっかり着実に改善してきている」との認識を示した。

日銀は10月末の金融政策決定会合で物価見通しを下方修正するとともに、目標達成時期を先送りしたが、追加の金融緩和は見送った。総裁は、物価の基調が改善する中、現在のQQEの着実な推進で「累積的に緩和効果は高まる。早期に物価2%が実現できると確信した」と語った。

(伊藤純夫)

 

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コメント
 
1. 2015年11月30日 17:22:57 : YyJC4OzNdE : Mgs9OZr8vkg
>総裁は中長期的に物価と賃金が同調的に動くのは「統計的な事実」とし、「物価目標の実現をゆっくりやっていれば、賃金の調整もゆっくりになるだけだ」と指摘。

こんなことが、経済学的に理論づけられるのか疑問。前回の消費税上げ・円安誘導のあと物価が上がって、一時的に(政府肝いりで)賃上げがあったが、物価上昇には追い付かず、やがて消費も増えないので物価の持続的上昇も止まったのではないか。
このあたり、前回の失敗を検証することなく、同じようなことをやったって、同じように失敗するだけ。賃上げがないのに物価が上がれば、消費者の購買力が落ちて、経済が失速するだけではないのか。


2. 2015年11月30日 20:04:04 : C31aL3EEO2 : mAk_YztPsDU
黒田も、裸の王様になったようだ。

しっかり現実を見ろ!

黒田の運勢:予後不良、途中で逃げ出すか?


3. 2015年11月30日 23:14:44 : 6RbCQu3FuA : sJWPm90ezKs
国民のことなんか一切眼中になし。

あるのはアメリカ経済だけ。


4. 2015年12月01日 00:19:17 : Z24xVQALsc : dSgcunE7YTQ
2. 2015年11月30日 20:04:04 : C31aL3EEO2 : mAk_YztPsDU
黒田も、裸の王様になったようだ。
しっかり現実を見ろ!
黒田の運勢:予後不良、途中で逃げ出すか? >

金融緩和は初めから出口なき金融緩和として用意された。   
止めることが唯一の出口。
これ以上国民に迷惑をかけるな。
失敗を認め早く逃げ出せ!


5. 2015年12月01日 22:55:51 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk

<Vol.341:ついに、白旗を上げたクルーグマン(2)前編>

     テーマ:日本の異次元緩和の失敗が、明らかになった
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
     HP: http://www.cool-knowledge.com/  
           Systems Research Ltd.  吉田繁治 

おはようございます。急に寒くなりました。最大級のエルニーニョ
で、西から東にむかいまっすぐに吹いている偏西風が、ヘビのよう
に蛇行していることが、世界の酷暑、厳冬、豪雨、嵐などの異常気
象の原因とされています。今年は(今年も)、厳しい寒さの冬と言
う。

前号でもすこし触れたNYタイムズ(15.10.20)のクルーグマンの論
文『Rethinking Japan』の拙訳が、インターネットに掲載され、相
当な引用と、論議を呼んでいるようです。私もGoogleで検索して見
つけました。難しい内容なのに、見た人の「いいね」は、1600に増
えています。経済学者も多いようです。
http://www.mag2.com/p/money/6246

上記のサイトに掲載されているのは、11月11日に有料版として送っ
たものの一部(70%くらい)です。公開されるくらいなら、無料版
を購読されている方々には、お送りせねばならないと思い、送る次
第です。

1998年の『流動性の罠』論で、日本が陥っている「金利ゼロ」であ
っても貸付が増えず、経済が成長しない状態を経済理論的に分析し
て、日本にインフレを目標にしたリフレ論を奨めたのがクルーグマ
ンでした。

この時もインターネットで見つけ、「日本は、クルーグマンの奨め
に従い、リフレ策をとることになるだろう」と紹介したのを記憶し
ています。

当時はまだ翻訳はありませんでした。現在は山形浩生氏が翻訳して
公開しています。『復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆
襲』(2001年の翻訳)
http://cruel.org/krugman/krugback.pdf

内閣府参官房参与(2012年12月〜現在)に就任した、元エール大学
教授の浜田宏一氏は、安倍首相に『流動性の罠(わな)』を分かり
やすく説明して、この政策を採るべきだと紹介しています。安倍首
相は、これを「日銀が円を増刷すれば、日本経済は成長する」と理
解し、政権の政策になったのです。

簡単に言えば、「日銀が国債を大量に買ってマネーを増発すれば、
それが投資と商品需要の増加を生んで、デフレから脱却できて、日
本経済は成長に向かう」というものです。

安倍首相は、これを政策として採用し、量的緩和に消極的だった白
川方明(まさあき)総裁に変えて、浜田氏が推薦していた黒田東彦
氏(はるひこ)と、学習院大の教授だった岩田規久男氏を日銀に送
り込みました。黒田総裁、岩田副総裁の体制で始まったのが、
2013年4月からの異次元緩和です。

これは、「2年をめどに、マネタリー・ベースを2倍に増やし、消費
者物価を2%程度は上げる」というリフレ策でした。リフレ策とは、
物価が上がるインフレにもって行く政策を言います。

黒田総裁が、「2年、2倍、2%」と書いたフリップをもって、記者
には馴染みのなかったマネタリー・ベース(ベース・マネーとも言
う)を説明していたことを記憶しています。

マネタリー・ベースは、(1)現金紙幣と、(2)銀行・証券・政府
が日銀にもつ日銀当座預金の金額を言います。日銀が債券市場で国
債を買ったとき代金を振り込む口座が、日銀当座預金です。このマ
ネタリー・ベースを増やすことを、マネーの増発と言っています。
マネタリー・ベースは基礎的なマネーというべきもので、主なもの
は銀行が日銀にもつ、金利ゼロの当座預金です(08年以後は0.1%
金利を特別に付与)。

(1)この基礎的マネーを日銀が、銀行から国債を買った代金の振
込で増やす。
(2)銀行は、この金利ゼロのマネーを、金利をつけて貸し付ける。
(3)その貸付金で、投資と商品需要が起こり、物価が上がって経
済が成長するというのが、リフレ論です。

2015年11月4日では、現金紙幣が92.6兆円、当座預金が247.2兆円で
あり、両者を合計したマネタリー・ベースは、339.8兆円に増えて
います。確かに2年で2倍に増えました。

買い上げた国債は317.7兆円です。日銀は、すでに、国債・地方債
の総発行額(1022兆円:15年6月末)の31%を、金融機関から買い
切っています。

異次元緩和の開始前のマネタリー・ベースは、
・現金紙幣83.4兆円、
・当座預金58.1兆円で、141.5兆円でした。

2年7か月で198.3兆円のマネーが増発されています。
マネタリー・ベースだけは、2.4倍です。
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2015/ac151031.htm/

ところが、政府・日銀が、異次元緩和の目標としていた物価上昇
(総合)は2015年6月が0.4%、7月0.2%、8月0.2%、9月0.0%の上
昇でしかない。

価格変動が激しい食品と、原油の50%以上の低下で下がっているエ
ネルギーを除くコア・コア物価でも、6月0.6%、7月0.6%、8月0.
8%、9月0.9%の上昇に過ぎません。
http://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.htm

岩田副総裁は、就任のときの記者会見で、「2年で2%の物価上昇を
果たせないときは責任をとって辞任する」とまで、はっきりと言い
切っていました。2年経った15年4月の記者会見で、そのことを質問
されると、「言葉が足りなかった」としどろもどろの言い訳をして
います。

リフレ派の理論的な総帥は、居住は米国ですが、クルーグマンでし
た。
浜田氏や岩田氏の著作を読んでも、クルーグマンが1998年に書いた
『流動性の罠』で提唱されたマネー増発の引き写しに過ぎないもの
だったのです。

浜田氏は、「これが国際標準の、現代経済学です」と自慢げに言っ
ていました。量的緩和の効果は経済論争でもあったのです。

そのクルーグマンが、15年10月20日のNYタイムズ紙に、
「Rethinking Japan(日本経済を考え直す)」と題したものを、
書いていたのです。

当方、普段NYタイムズ紙を購読しているわけではないのですが、量
的緩和の本家のクルーグマンは、日本の物価が上がらないことにつ
いて、最近どう言っているのかを探すと、見つかったのです。
http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/10/20/rethinking-japan/?_r=0

流動性の罠と量的緩和は、マネー、金融、経済がからみ、相当に難
しい経済論です。ここで「Rethinking Japan」を翻訳しながら、
考えて行きます。クルーグマンの英語も難しく、理論も難しい。基
礎的なことから考えながら訳しつつ、解説を加えます。

結論を言えば、「日本の量的緩和策は、リフレ策としては失敗し
た」と読み取れます。クルーグマンは、最後のところで、果敢で大
胆な財政政策(一般会計や補正予算の拡張)による、リフレ策を行
えとしつつ、その政策は不可能だともしているからです。

日本のメディアは、ここ2年半の経済政策としてもっとも大きく、
現在も続いている量的緩和の結果がどうだったかを示す主唱者の重
要な論文を、なぜか取り上げません。不思議に思います。

一般的に言うと、安倍政権になって以降、大手メディアや新聞は、
政権の経済政策にとって都合の悪いことに対し、口をつぐむように
なっています。本稿で書く理由が、これです。

量的緩和が失敗したとき主唱者は、「認識不足があった、失敗だっ
た。診断と処方に間違いがあった」と言えば済むかもしれない。し
かし日本経済の中で所得を得て、生活しているわれわれは、その先
も、失敗した日本経済を生きなければならない。

この観点からも、書かねばならないという義務を感じています。

             *
訳文は、11月の11日の<有料版:797号:失敗した異次元緩和が向
かう決着点(1)>で翻訳したものを、改訂してします。原文を、
すこし読まれると分かりますが、クルーグマンの英語は、翻訳がと
ても難く感じます。それに、難しい経済理論の用語が、混じってい
ます。翻訳に間違いがあるといけないので原文と翻訳を並べていま
す(このため1.5倍くらいに長くなりました)。間違いがあれば、
ぜひご一報ください。

とくに、今回の論は、クルーグマンの言い訳が混じるため、論理が
分かりにくいものにもなっています。自分でも後で読んで、正確な
訳ではないと思えたところがあったので、今回、全面的に改訂しま
した。

簡単に結論部を言うと、クルールマンは以下のことを言っていると
読み取れます。

(1)日本のGDPの「自然成長率」が、生産年齢人口の減少から、相
当なマイナスを続けるという認識がなかった。この点を、自分は間
違えた。

(2)流動性の罠では、インフレ策を推奨したが、その目標は2%で
はまるで足りない。理由は、日本の自然成長率が、相当に低く、自
然金利もマイナスであるためである。

(3)日本には、異次元緩和だけでなく、劇的な財政支出が必要だ
が、「臆病の罠」にかかっている政府は、それを実行できないだろ
う。

クルーグマンは言っているのはここまでです。劇的な財政支出が必
要だが、それは日本政府には採れない政策だ。とすれば、異次元緩
和は、リフレ策としては失敗したということになるでしょう。経済
政策は結果だからです。

原文は30ページ以上なので、前篇、後篇の2回に分け、送ります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<797号:失敗した異次元緩和が向かう決着点(1)>
      2015年11月29日

【目次:前編】

1.日本経済における需要は、弱くなっている
2.日本経済は、何から脱却せねばならないのか
3.GDP成長率が、潜在成長力に近い日本で、なぜ、インフレ率の低
さが問題になるのか?
5.流動性の罠(わな)からの脱出

【目次:後編】
6.インフレの実現のためには何をするべきか?
7.日本の潜在成長力の低さの原因は、人口問題だった
8.急激な財政拡張策は、日本の政策にはならないだろう
9.日本に必要なインフレ率は、2%よりはるかに高い(4〜6%)

【後記:財政破産】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.日本経済における需要は、弱くなっている

It’s a bit self-centered, but I find it useful to approach
this subject by asking how I would change what I said in my
1998 paper on the liquidity trap. Hey, it was one of my
best papers; and it has held up pretty well in many
respects. But Japan and the world look different now, and
trying to pin down that difference may help clarify matters.
(1)

http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/10/20/rethinking-japan/?_r=0

<少し自己中心的に見えるかもしれないが、私が1998年の『流動性
の罠』で言ったことから、考えがどう変化したかを述べるのは、有
益だろう。あれは、私が書いたもののうち、ベストな論文のひとつ
だった。多くの点で、相当有効なものだった。
しかし現在、日本と世界の経済は変化した。その変化を究明するこ
とは、われわれが直面している諸問題を明確にするのに、役立つだ
ろう。翻訳(1)>

その後17年間で、経済の状況が変わった。状況が変わったから、
1998年の流動性の罠論の不適なところも出てきたと言うための準備
部です。

It seems to me that there are two crucial differences
between then and now. First, the immediate economic problem
is no longer one of boosting a depressed economy, but
instead one of weaning the economy off fiscal support.
Second, the problem confronting monetary policy is harder
than it seemed, because demand weakness looks like an
essentially permanent condition.(2)

<当時と現在では、違いは決定的であるように見える。第一に、
2015年の現下の経済問題は、もはや不況化した経済をもち上げるこ
とではなく、財政の支援から脱却することだからだ。二番目に、量
的緩和の効果が出ないという問題は、想定より大きいことである。
原因は、日本経済の需要の弱さが、本質に根ざす永続的な経済の条
件に思えることだ。翻訳(2)>

量的緩和が、目的とした効果、つまり2年で2%の物価上昇を招かな
かった理由は、日本経済の本質に根ざすようになってきた需要の弱
さによるのではないかという、クルーグマンの見解です。

量的緩和は、少しは需要を増やす効果は上げたが、日本経済の需要
が弱くなっていたため、需要超過によって物価を上げるところまで
は行かなかったということです。経済学で言う需要とは、商品需要
と企業と政府の投資を含むものです。

需要=GDP=民間消費+住宅+企業の設備投資+在庫増+政府消費
+公共投資+輸出−輸入、です。

この需要の合計が小さいとき、商品供給力が超過し、経済は不況に
なります。具体的に言えば、世帯の消費が増えないと、企業の商品
生産力に余剰が出て不況化します。

10億円は売ることができる店舗があるのに9億円しか売れないとい
う事態、100億円の生産能力があるのに、売れないため、85億円し
か生産できないということが需要不足です。輸出は外需と言われま
す。

クルーグマンは、日本は、1998年に比べると、2012年からの需要つ
まりGDPの弱さは、「本質に根ざす永続的な経済の条件」に見える
としています。ここが、今回のクルーグマンの論で、もっとも肝心
な点です。

■2.日本経済は、何から脱却せねばならないのか

▼The weaning issue:
Back in 1998 Japan was in the midst of its lost decade:
while it hadn’t suffered a severe slump, it had stagnated
long enough that there was good reason to believe that it
was operating far below potential output(3)

<何から脱却するのか:
1998年にさかのぼると、当時の日本は失われた10年のただ中だった。
厳しい不況ではないにせよ、潜在生産力のはるか下の状態と思える
停滞した動きでしかなかった。翻訳(3)>

GDPにおける「潜在生産力」は重要な概念です。完全雇用で、企業
の設備が100%稼働したときの商品供給力を言います。1998年の日
本には、この「潜在生産力」は高かったのに、バブル崩壊後の金融
危機から、実際の需要が大きく減っていました。

(注)内閣府は、わが国のGDPの潜在成長力(実質)を、1981年か
ら1990は4.4%、1990年から2000年は1.6%としています。そして、
2001年から20010年は0.8%だったとしています。(2014年2月)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/
0214/shiryou_02.pdf

クルーグマンが『流動性の罠』論を書いた1998年には、日本では、
資産バブル崩壊後の金融危機が起こっていたのです。リーマン危機
よりはひどくなかった。それでも、金融機関には200兆円の不良債
権が発生していました。

▼This is, however, no longer the case. Japan has grown
slowly for the past quarter century, but a lot of that is
demography. Output per working-age adult has grown faster
than in the United States since around 2000, and at this
point the 25-year growth rates look similar (and Japan has
done better than Europe。(4)

<しかし現在はもう事態が異なっている。日本の過去4半世紀は、
生産年齢人口は減ったが、労働者1人当たりの生産高は、緩やかに
成長していたからだ。
生産年齢人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころ
からは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ同じである。そ
して日本は、欧州よりはいい。翻訳(4)>

過去四半世紀とは、1990年のバブル崩壊から2015年までです。この
間、日本経済は、生産年齢人口の減少から来る問題以外では、ゆる
やかな成長をしていたとクルーグマンは言います。


つまり、
・1人あたりGDPでは、米国や欧州より成長していたが、
・労働人口の減少のため、GDP全体の伸びが低いのが日本だった
のです。

GDP=1人当たりGDP×生産年齢人口(15歳〜64歳)
×就業率(約78%)です。

働く現役世代になる生産年齢人口は、わが国の場合、世界でもっと
も早く、1998年の8726万人を頂点にして、減少しています。2015年
は7682万人です。

17年間で1044万人(12%)も減っています。就業率の78%には大き
な変化はないので、この生産年齢人口の減少が働く人の減り方を示
します。1年平均で61万人(0.7%)も減ってきたのです。
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2013np/pdf/gaiyou2.pdf
http://uub.jp/pdr/j/fp.html

直近の、2015年から2020年に向かう生産年齢人口の減少は、7682万
人から7341万人へと、341万人です。やはり1年に、〔341万人÷5年
=68万人(0.9%)〕の割合で減って行きます。

これは、1人当たりのGDPが年率2%という、21世紀にしては高い成
長をしても、GDP全体の実質成長は1%でしかないことを示します。

日本は、1990年から2015年まで、1人当たりGDPでは米国よりも早く
成長していた。当然、欧州よりも良かった。しかし、ドイツ、英国、
イタリアにも先駆けた産年齢人口の減少により、全体のGDPは低く
なっていたと、クルーグマンは言っています。この通りですね。

▼You can even make a pretty good case that Japan is closer
to potential output than we are. So if Japan isn’t deeply
depressed at this point, why is low inflation/deflation a
problem? (5)

<日本は、米国よりも潜在成長力に近いケースであると見ることは、
極めて妥当なことだ。現在、日本がひどい不況でないとすれば、な
ぜ、インフレ率の低さ、あるいはデフレが問題になるのか。翻訳
(5)>

その国の経済の実力である潜在成長力とほぼ同じGDPが実現されて
いるときは、不況ではありません。不況とは、この生産力の実力が、
需要の少なさにより、発揮されていないときです。

需要が少ないときは、ケインズ的な有効需要を増やせばいい。これ
が、日本が1990年以降とっている、年間35〜40兆円の財政の拡張政
策です。金融面では、赤字を補う国債の発行になります。

ところが日本は、生産年齢人口の減少で全体のGDPの伸びは低くは
なっているが、潜在成長力に近いGDPは実現している。

内閣府の試算では、現在の潜在成長力は1年0.6%です(2014年)。
日銀の推計では、2014年10月でのもっとも新しい潜在成長力は0.2
%と、内閣府より低い。

以上が意味するのは、日本のGDPは、実質で1年に1%成長すれば、
潜在成長力を超える好況であるということです。これは、個人の平
均所得の成長でもあり、物価上昇をマイナスした実質で1%の上昇
に相当します。

■3.GDP成長率が、潜在成長力に近い日本で、なぜ、インフレ率の
低さが問題になるのか?

では、なぜインフレ率の低さが問題だと言われるのか?

▼The answer, I would suggest, is largely fiscal. Japan’s
relatively healthy output and employment levels depend on
continuing fiscal support. Japan is still, after all these
years, running large budget deficits, which in a slow-
growth economy means an ever-rising debt/GDP ratio:(6)

<答えは、財政的なものだと推測する。日本の比較的に健全なGDP
と雇用水準は、継続的に財政支出での支援を行っているからだ。日
本は、結局、近年はずっと、大きな財政赤字(年35〜40兆円=国債
の新規発行額)を出し続けている。それは、低い成長率の経済の中
で、GDPに対する政府の債務比率を恒常的に上昇させている。翻訳
(6)>

日本経済は、不況とは言えず、経済の実力に近い実質GDPの成長率
を続けている。それが問題になる理由は、毎年の財政赤字が大きい
ことだ。GDPに対する政府債務の比率が、どんどん拡大すると、財
政危機を迎えるからです。(注)政府の総債務1209兆円÷名目
GDP500兆円≒240%:2015年6月末:日銀資金循環表

クルーグマンが言及した、2014年でのGDPに対する基礎的財政収支
(プイマリーバランス)の赤字は日本が6%、米国が2%の赤字、
ユーロは1%のプラスです。基礎的財政収支の赤字分、政府の債務
比率は大きくなって行きます。

日本は毎年の基礎的財政赤字の、GDPに対する比率が6%と大きいた
め、低い名目GDP成長では、たとえ「好況」であっても、足りない。
物価上昇を含む名目GDPの成長が6%以下の場合、GDPに対する債務
比率は、どんどん膨らんで行くからです。

■4.政府の、GDP対比の債務比率

▼So far this hasn’t caused any problems, and Japan has
clearly been much better off than it would have been if it
tried to balance its budget. But even those of us who
believe that the risks of deficits have been wildly
exaggerated would like to see the debt ratio stabilized and
brought down at some point(7)

<しかし、今のところ、日本の財政赤字は、何ら問題になるもので
はない。日本は、財政赤字をなくした均衡財政をとったときより、
はるかにいい経済状態にあることは、はっきりしている。しかし、
財政赤字のリスクは大げさに言われ過ぎていると考えているわれわ
れですら、日本の債務比率が安定するか、あるいは下がって、ある
水準に落ち着くことを望みたい。(翻訳7)>

<日本の財政赤字は、何ら問題になるものではない>と言い切りな
がら、債務比率の上昇は問題だと匂わせています。今回の論文の、
分かりにくさが、こういった、「両論併記」にあります。つまり、
どっちつかずなのです。

GDPに対する政府債務比率が、現在の240%を超えて高まると、財政
危機に向かう可能性が高まります。現在の傾向では、毎年6%くら
いずつ増えて行きます。

クルーグマンは、論の後の部分で、日本には劇的な財政支出が必要
と言っていますが、わが国は現在でも、GDPの6.8%:34兆円)とい
う主要国で最大の、財政赤字での支出をしています。(注)米国は
2.8%、中国は2.7%、英国が4.4%、ユーロは18か国で2.1%です。
ユーロの中ではフランスが4.1%と財政赤字の支出が大きい。
(2015年:英economist誌巻末統計)

政府債務(1209兆円)÷名目GDP(499兆円)で計る債務比率の今後
は、2015年240%→2016年246%→2017年252%・・・・2020年270
%・・・2030年300%・・・と、どんどん大きくなって行きます。
どこまでもつかという感じなのです。(注)後述しますが、金利が
2%を超えると政府もしている2018年が危険です。

日本は、主要国で最大の財政赤字(拡張財政)続け、今後も続けざ
るを得ない。日本のGDPのうち6%から8%は、現在でも、赤字の財
政支出で支えられています。

■5.流動性の罠(わな)からの脱出

以上をまとめると、2000年代の日本経済の成長は、悪いものではな
かった。しかしそのGDPは、恒常的な財政赤字によるものであるた
め、政府の債務比率の大きさという、財政危機の問題が出てくる。

この条件の中では、日本は、物価を上げるリフレ策をとるべきだと、
クルーグマンは言います。

▼リフレ策の目的は、実質金利をマイナスにすること

▼And here’s the thing: under current conditions, with
policy rates stuck at zero, Japan has no ability to offset
the effects of fiscal retrenchment with monetary expansion.
The big reason to raise inflation, then, is to make it
possible to cut real interest rates further than is
possible at low or negative inflation, allowing monetary
policy to take over from fiscal policy.(8)

<政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、赤字
をなくす緊縮財政から経済が縮小する結果を、マネーの増発で相殺
はできない。
インフレ率を上げるべき大きな理由は、低いインフレあるいはマイ
ナスのインフレのときより、「実質金利」を下げることが可能にな
るからである。インフレ率が上がれば、(財政危機を招く)財政政
策に変わる、金融政策の有効性が出る。翻訳(8)>

「政策金利がゼロにはりついている現在の状況では、日本は、財政
緊縮で経済が縮小する結果を、マネーの拡張政策で相殺はできな
い。」とは、若干理解が難しいことです。

クルーグマンは、政策金利(短期金利)がゼロのときは、日銀が量
的緩和によりマネタリー・ベースを増発しても、それが、企業や世
帯によって使われることにはならないということを書いています。
これも、確かにその通りです。日銀は、マネタリー・ベースを337
兆円(現金92兆円+当座預金245兆円:2015年11月25日)に増やし
ています。しかし、それが、銀行貸し出しを増やして、設備投資や
住宅ローンを増やすことにはなっていません。(この状態を『流動
性の罠』と言います)

日本にインフレが必要な理由は、インフレ率が高くなると、実質金
利がマイナスになるからだと言うのが、クルーグマンの『流動性の
罠』の治療法です。

リフレ派は、「物価を上げることで、実質金利をマイナスにする」
ことを、金融政策の目的にします。

「名目金利」は、われわれの預金や、借り入れの金利です。これは
0%が下限です。政府・日銀が、銀行預金の金利を例えば−2%にす
れば、100万円の預金で2万円とられるので、預金者は預金を引き出
して現金に換えてタンス預金にするでしょう。これでは、全銀行が
破産するからです。

金利を0%以下に下げる政策は取れないので、金利が0%のときは、
金融緩和で経済を浮揚させようという政策は、効果がない。

ゼロ金利のときは、現金需要(流動性選好と言う)が無限大に向か
って発散し、使われず退蔵されることを、ケインズは『流動性の
罠』と名付けたのです。

日本が陥っている「流動性の罠」から脱するには、経済をインフレ
にもって行き、実質金利をマイナスにすることです。

(注)「実質金利=名目金利−予想物価上昇率」です。この予想は、
近未来と未来への期待(prospect)とも言います。現代経済学と言
える「マクロ経済動学(DSGEモデル)」で基本になるのが「期待」
の考え方です。期待金利(予想金利)、期待物価(予想物価)など
の概念で展開されます。

事例で言います。住宅価格がインフレのため、年率で4%は上がる
と人々が予想したときです。このときのローン金利を30年固定で、
1.5%とします。実際の負担になるローンの、実質金利は〔名目金
利1.5%−住宅価格の予想上昇率4%=−2.5%〕です。

4%のインフレは、10年後の住宅価格では〔1.04の10乗=1.48倍〕
が予想される状態です。現在3000万円で買える住宅が、4440万円へ
と1440万円も上がることが予想されます。一方でローン金利は、年
率1.5%と低い。

〔住宅(3000万円×4%=120万円の値上がり期待)−ローン金利
(3000万円×1.5%=45万円)〕ですから、1年に75万円ものキャピ
タル・ゲインが予想できます。こうなると、1.5%の金利を負担し、
新しい住宅に買い替える人も大きく増えるでしょう。

このように、将来の物価に対する人々の予想を上げ、実質金利をマ
イナスにし、需要と設備投資を増やすのがリフレ策です。

▼実質期金利がマイナスになれば、政府の債務比率も低下する

実質金利がマイナスになれば、GDPに対する政府の債務比率を増や
し続ける財政拡張策の代わりに、金融策をとることができるとク
ルーグマンは言います。

財政の赤字を少なくし、政府が財政支出を減らしても、民需の増加
(世帯と企業の需要増加)が、財政支出の減少を補うことができる
からです。

需要の増加による予想インフレ率が4%になれば(クルーグマンの
従来のから主張は4%でした)、企業もインフレで売上が増えると
予想し、生産力、販売力を大きくするための設備投資を増やすから
です。

例えば、地域の消費需要が物価上昇により金額で4%も増えると小
売業が予想すれば、出店ラッシュが起こります。

▼I’d also add a secondary consideration: the fact that
real interest rates are in effect being kept too high by
insufficient inflation at the zero lower bound also means
that debt dynamics for any given budget deficit are worse
than they should be. So raising inflation would both make
it possible to do fiscal adjustment and reduce the size of
the adjustment needed.(9)

<もうひとつ、付け加える。ゼロ金利限界の中の不十分なインフレ
のため、実質金利が高止まりしている事実が意味していることは、
所与の財政赤字に対する債務ダイナミクスが、あるべき水準より悪
いことである。インフレ率を上げれば、財政赤字比率に適合し、調
整の規模も縮減することができる(9)

「債務ダイナミクス」とは、名目GDP成長率が金利を上回ると、政
府の、GDPに対する債務比率は下がって行くことを言います。

物価上昇を含む名目GDPの成長が例えば6%と高くなれば、分母の名
目GDPが大きくなるため、政府の債務比率はGDP比240%が、238%、
236%と下がって行き、懸念されている財政危機は雲散霧消します。

ところが日本は、予想インフレ率(=期待インフレ率)が0%近く
と低い。名目金利が短期金利で0%、長期でも1%未満と低くても、
実質金利は高い。実質金利が高いと、設備投資や住宅購入のための
借入れが増えず、GDPの成長は低いものになります。

GDPの成長率が低いと、毎年30兆円以上(GDP比6%以上)の財政赤
字があるため、政府の債務比率は大きくなり続けるのです。

 

<Vol.342:ついに、白旗を上げたクルーグマン(3)後編>

  テーマ:日本の異次元緩和の失敗が、明らかになった 


こんにちは、吉田繁治です。前号に続き、白旗を上げたクルーグマ
ンの後編をお届けします。クルーグマンが1998年に書いた『流動性
の罠』で示した金融政策は、ほぼそのまま、2013年4月からの「異
次元緩和」として展開され、現在も継続中です。

異次元緩和が目的の効果を上げてないことも示しているクルーグマ
ンの記事がNYタイムズ紙に載ったのは、15年10月20日でした。

現在そして今後の日本経済にとって、これ以上はないくらいの重要
なことが書かれているのに、当のわが国でどこにも報じる記事がな
かったので、有料版で訳して、お送りしました。

その後クルールグマンは、11月2日のNYタイムズの記事で、関連し
た釈明をして、IMFの会議(11月6日のフォーラム)でも、量的緩和
の効果予想について誤りがあったと、認めています。

(Liquidity Traps, Temporary and Permanent:Nov.2 2015)
http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/11/02/liquidity-traps-temporary-and-permanent/?_r=0

(クルーグマン氏、日銀のインフレ促進能力に自信を失う:WSJ紙:
2015年11月10日:日本語版)
http://jp.wsj.com/articles/SB11021942449448864116004581346062400283544?alg=y&mg=id-wsj

(IMF:量的緩和政策の将来についてのレッスン:nov.6.2015)
http://goo.gl/XHuCKz

この有料版には、直後から多くの反響があり、翻訳もインターネッ
トでのサイトに掲載されました。無料版の読者の方々にも、お送り
する必要があると思い、不適な部分が混じっていた先の翻訳を改訂
して、送ります。

日銀、政府、そしてリフレ派のエコノミストの人たちは、どう解釈
するでしょうか。本稿の内容には、潜在成長力、自然金利、長期停
滞、実質金利、流動性の罠、フォワード・ガイダンスなどの専門的
な用語が混じっています。

リフレ派の経済学者も間違えたくらいの内容です。当方の非力を顧
みず、予備知識がない方にも、可能な限り具体的にわかるよう努め
て解釈し、解説する方針で書きます。

【6つの用語】
(1)潜在成長力:日本では、3.5%の失業率以下の、完全雇用のと
き、無理なく達成されるGDPの成長率。

(2)自然金利:潜在成長率を達成しているときの、デフレにもイ
ンフレにもならない金利。潜在成長率≒自然金利率、になる。

(3)長期停滞:ある国で、潜在成長率がゼロやマイナスの状態を、
数年以上〜数十年も続けること。生産年齢人口が減るか横ばいで、
技術進歩と資本の増加がないとき、GDPが増えないかマイナスする
長期停滞になる。

(4)実質金利:実質金利=名目金利−予想物価上昇率。名目金利
がゼロでも、人々の物価下落予想が2%なら、実質金利は2%になっ
て、借りる人や企業の金利負担が重くなる。

逆に、物価が2%上がる予想になると、実質金利は─2%になり、投
資はキャピタルゲインを生むと予想されるので、借り入れ需要が増
えて、投資が増える。投資が増えれば、GDPは成長する。

(5)流動性の罠:名目金利がゼロになった場合、人々は、金利が
ゼロ付近で、下落リスクがある債券より、現金を選好する。このた
め、現金需要が拡大し、いくら金融緩和を行っても、景気の刺激に
ならない。この状態を流動性の罠(わな)と言う。

この流動性の罠は、潜在成長力がゼロ付近か、マイナスの時起こる。

流動性の罠の状態であっても、イフレを起こして、「名目金利0%
─予想物価上昇率2%」とすることができれば、実質金利がマイナ
ス2%に下がって、資金の借り入れ需要が生じ、投資も増えるとし
たのが、クルーグマンの『流動性の罠』の論でした。

(6)フォワード・ガイダンス:中央銀行が、相当先の将来の金融
政策を示唆すること。例えば、物価が恒常的に2%上がるようにな
るまで、大きな金融緩和を続けるという中央銀行の約束。

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<Vol.342:ついに、白旗を上げたクルーグマン(3)後編>
      無料版:2015年11月30日
【前号目次:前編】

1.日本経済における需要は、弱くなっている
2.日本経済は、何から脱却せねばならないのか
3.GDP成長率が、潜在成長力に近い日本で、なぜ、インフレ率の低
さが問題になるのか?
5.流動性の罠(わな)からの脱出

【本号目次:後編】
6.インフレの実現のためには何をするべきか?
7.日本の潜在成長力の低さの原因は、人口問題だった
8.急激な財政拡張策は、日本の政策にはならないだろう
9.日本に必要なインフレ率は、2%よりはるかに高い(4〜6%)
10.クルーグマンの結論

【後記:日銀はいつまでも、大量の国債を買い続ける】

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■6.インフレの実現のためには何をするべきか?

ここで、クルーグマンは、1998年に日本に提案した『流動性の罠』
論を振り返ります。

But what would it take to raise inflation?
(インフレのためには何を行うべきか)

Secular stagnation and self-fulfilling prophecies
(長期停滞と自己達成的な予言)

▼Back in 1998, when I tried to think through the logic of
the liquidity trap, I used a strategic simplification: I
envisaged an economy in which the current level of the
Wicksellian natural rate of interest was negative, but that
rate would return to a normal, positive level at some
future date. (10)

(元の記事:Rethiking Japan oct.20.2015 NYT)
http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/10/20/rethinking-japan/

<1998年にさかのぼって言えば、私は、流動性の罠の論理を通じて
考えようとして、戦略的に単純化していた。
つまり、当時の日本の、
・ヴィクセル言った自然金利をマイナスとは見ていたが、
・将来のいつか、自然金利は正常になって、プラスに戻ると想定し
ていたのだ。翻訳(10)>

戦略的に単純化したというのは、クルーグマン流の言い訳です。他
にも、金融・経済的な要素はあるが、それらを捨象し、量的緩和の
効果を強調したという意味のものだからです。

〔2つの予備知識:潜在成長力と自然金利〕
ヴィクセルの自然金利とは、インフレもデフレも起こさないレベル
の金利です。この金利率は、その国のGDPの、潜在成長力に近い値
になります。

潜在成長力は、完全雇用(日本では失業率3.5%付近)のときの、
実質GDPの成長率です。自然成長力とも言います。

クルーグマンは、ここで、『流動性の罠』を書いた1998年当時の、
日本経済への認識を言っています。

・1998年は、(金融危機のため)日本の自然金利はマイナスになっ
ている。
・しかし将来は、潜在成長力はプラスに戻り、それにつれて自然金
利もプラスに戻ると想定していたということです。

ここがクルーグマンの間違いでした。異次元緩和が始まった2013年
以降でも、日本の潜在成長力が、ある程度のプラスになり、自然金
利がプラスに上がることはなかったからです。

●日本経済の潜在成長力はプラスに戻るという1998年当時の認識か
ら、量的緩和の政策を導いたと回顧しています。この部分も、肝心
です。以下のように書いています。

This assumption provided a neat way to deal with the
intuition that increasing the money supply must eventually
raise prices by the same proportional amount; it was easy
to show that this proposition applied only if the money
increase was perceived as permanent, so that the liquidity
trap became an expectations problem(11).

<日本経済の潜在成長力がプラスなら、マネー・サプライを増やせ
ば、物価は、最終的に、マネー・サプライの増加量に比例して上が
るという考えになった。
そして、マネー量の増加は永久的であると人々に受け取られたとき
のみ、物価が上がるとい命題が成立することは、容易に示せる。以
上の考えから、流動性の罠は、人々の将来への予想(期待)の問題
になった。翻訳(11)>

潜在成長力とは、既述のように、完全雇用で設備稼働が100%のと
きのGDPの成長力です。日本では、職業の移動期間と想定される失
業である3%台の失業率です。自然失業率と言います。12年勤務で、
4か月くらいは職業移動のための失業があるのが平均的でしょう。
日本人は、平均で言うと生涯に3回会社を変わります。(2015年4月
の、わが国の失業率は、3.3%です:総務省)

不況とは、GDPが潜在成長率に達していないことが続くことであり、
失業率が、自然失業率より高いときです。しかし1998年当時の失業
率は3.5%であり、ほぼ完全雇用でした。

2015年の失業率も、完全雇用と言える3.3%です。完全雇用のとき
のGDP成長が潜在成長率です。2015年11月の実質経済成長は、0%〜
0.6%程度でしかない。つまり、日本の潜在成長力は0%台に低いま
まです。

●クルーグマンが、将来は高くなると見ていた日本経済の潜在成長
力は、実は、低いものでした。この点に事実誤認があったと本人が
述懐したのが、論の「さわり」です。

潜在成長率が低いため、日銀がマネタリー・ベースを増やしても、
企業と世帯が新たに借り入れることによって増えるマネー・サプラ
イの増加に波及しなかったのです。

マネタリー・ベースとは、日銀が発行した紙幣と、金融機関が日銀
に預ける当座預金です。日銀の営業毎旬(じゅん)報告に、旬が示
す、10日ごとの金額が出ています。

直近の15年11月10日では、紙幣が92.1兆円、当座預金が244.7兆円
です。合計では、336.8兆円に増えています。日銀は、この2年半、
月平均で、7兆円〜8兆円の国債を買って、主に当座預金を増やして
います。
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2015/ac151110.htm/

異次元緩和を開始する前の13年3月末は、83.3兆円と58.1兆円であ
り、合計141.4兆円でした。

基礎的なマネーであるマネタリー・ベースは195.4兆円も増え、2年
7か月で約2.4倍になっていますが、それが、企業と世帯の預金が主
であるマネー・ストックの、過去の傾向(約2%増加)を超える余
分な増加になっていません。

これが、需要が引っ張る形の、デマンド・プル型のインフレが生じ
ていない理由です。(注)経済学的に言う需要は、投資と商品需要
の合計です。

量的緩和開始後2年半では、需要が供給を上回ることによって起こ
る、好ましい物価上昇、つまりデマンド・プル型のインフレを引き
起こすことはできませんでした。

マネタリー・ベースは、異次元緩和前の2.4倍である336.8兆円に増
えています。ところが、企業と世帯が実体経済で使うマネー・スト
ックは、前年比で2.9%しか増えず1227兆円(M3:2015年10月)で
す。

マネー・ストックは、従来のマネー・サプライと同じ概念であり、
わが国では郵貯を含むM3(エム・スリー)で計ります。
https://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1510.pdf

2%台のマネー・ストック増加なら、異次元緩和の前とほとんど変
わらない。つまり、日銀約200兆円を増発した異次元緩和は、マ
ネー・ストックの増加においては、効果を上げていないのです。

マネー・ストックの増加が4%以上でないと、わが国では、デマン
ド・プル型のインフレにはならないとされています。(異次元緩和
を推進している岩田規久男副総裁が書いた『デフレの経済学』よ
り)

■7.日本の潜在成長力の低さの原因は、人口問題だった

▼The approach also suggested that monetary policy would be
effective if it had the right kind of credibility ? that if
the central bank could “credibly promise to be
irresponsible,” it could gain traction even in a liquidity
trap(12).

<これは、マネーの増加政策が、それにふさわしい信頼をもたれた
とき、効果を生むことも示している。その意味は、中央銀行が、通
貨の増発において無責任になるという約束が、人々に信頼されるな
ら、流動性の罠の中でも、物価を上げる効果を生むということであ
る。翻訳(12)>

credibly promise to be irresponsible(通貨の増発において無責
任になるという日銀の約束が、人々に信頼される)とは、クルーグ
マン固有の、入り組んだ難しい表現です。

具体的には、「イフレになった後も、無責任になって、量的緩和を
続けるのが日銀だ」と、国民から予想されることです。もっと具体
的言えば、黒田総裁なら、インフレ目標2%が達成されたあとも、
無責任に量的緩和を続けるだろうと、国民から予想されることです。

クルーグマンは、量的緩和が物価上げる効果を生むには、日銀が、
通貨の価値を守る番人としては無責任になり、インフレになっても
通貨増発を止めないと予想されることが必要だと、ことあるごとに、
言い続けています。これが「流動性の罠から脱するのは期待の問
題」になったということの、クルーグマン的な意味です。

これは、消費者物価が2%上がったあとも、日銀が量的緩和を続け
ることを示唆することなので、「フォワード・ガイダンス(金融政
策の将来を示すこと:欧米)」、あるいは、「時価軸政策:日銀」
と呼ばれるものです。

クルーグマンは、IMFでのレクチャーに立ち、「フォワード・ガイ
ダンスは、少数の参加者に対してしか有効ではなかった。多数に対
しては無効だった。」とクリアに、自己否定しています。つまり量
的緩和はその目的を達しなかったのです。以下に、動画があります。

(IMF:量的緩和政策の将来についてのレッスン:nov.6.2015)
http://goo.gl/XHuCKz

更に、量的緩和が、物価上昇に対して効果を上げる別の重要な要件
(条件)として、日本経済の潜在成長力が、数%のプラスでなけれ
ばならないとも言う。

(注)わが国の潜在成長力は、1%以下です(2014年:内閣府と日
銀)。内閣府は、01年〜07年の潜在成長力を0.7%、08年〜12年を
0.8%と推計しています。日銀は、これより低く、0%付近としてい
ます。いずれにせよ、相当に低い。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_02.pdf
http://www.jcer.or.jp/column/iwata/index760.html

このあと、クルーグマンは1998年の『流動性の罠』で間違えた原因
は、日本の生産年齢人口の減少から来る、潜在成長力のマイナスを
意識していなかったからだと述懐します。

▼But what is this future period of Wicksellian normality
of which we speak? Japan has awesomely unfavorable
demographics:(13) 

<しかし、ヴィクセルが言う潜在性成長力が正常になる日は、いつ
来るのか。日本は生産年齢人口の減少という、ひどく好ましくない
人口構造をもっている。翻訳(13)>

▼Which makes it a prime candidate for secular stagnation.
And bear in mind that rates have been very low for two
decades, fiscal deficits have been high that whole period,
and at no point has there been a hint of overheating. Japan
looks like a country in which a negative Wicksellian rate
is a more or less permanent condition.(14)

<この人口問題こそが、日本経済を「長期停滞:secular
stagnation」にしている原因でもある。普通の経済なら金利が上が
るはずの、大きな財政赤字がずっと続く中でも、日本は、20年も超
低金利だったことを思い起こせば、資金需要の過熱の時期は、来そ
うもない。日本では、多かれ少なかれ、ヴィクセルが言ったマイナ
スの自然金利が、永久に続くように見えるからだ。翻訳(14)> 

ヴィクセルの自然金利とは、その国のGDPの潜在成長率(自然成長
率ともいう)が発揮されたときの、インフレにもデフレにもならな
い中立的な金利率です。「自然金利≒潜在成長力」になります。

ここが、リフレ論で、クルーグマンが誤ったポイントです。日本経
済のGDPの潜在成長力が、生産年齢人口の減少のため、マイナスな
ら、日本の自然金利もマイナスになります。

しかし、それにしても、ここは変ですね。

1998年に、65歳以上の退職者が増える生産年齢人口の減少が始まる
というのは、わが国の人口動態から、どの経済学者にとっても周知
の事実だったからです。それを認識せず、日本経済の成長力を予測
していたのかと、とても変に思えます。普通、ありえないことです。

長期停滞とは、その国の潜在成長率が、ゼロやマイナスの状態を長
期間(5年以上〜数十年)続けることです。

(注)GDP=1人当たりGDP×(15歳〜64歳の生産年齢人口)×就業
率、です。就業率はほぼ78%です。このため、生産年齢人口が減る
国では、その減少率以上の1人当たり生産性の上昇がないと、GDP縮
小します。

日本は、1998年を頂点にして、生産年齢人口は、年率1%弱という、
人口では大きな率で減少しています。

[参考]1人っ子政策だった中国でも2012年ころから生産年齢人口の
減少が始まりました。先進国ではない中国でも、生産年齢人口が減
少すると、GDPの成長率は大きく下がります。中国の2012年以降の
GDP成長力は、公称の7%や6.9%ではなく、4%台でしょう。

【実質金利の問題】
金利0%という限界をもつ中でも、物価が2%上がると期待されるよ
うになれば、〔実質金利=名目金利0%−予想インフレ率2%=−2
%〕となります。

潜在成長力がプラスなら、実質金利がマイナスになると、民間の資
金需要の増加が起こり、世帯と企業が使うマネー・ストックが増え、
物価が上がり、実質経済も成長するようになるはずです。

しかし日本経済の潜在成長率(=自然成長率)が、人口問題からマ
イナスであり、自然金利がマイナス1%なら、どうなるか。例えば、
日本の自然金利がマイナス1%なら、実質金利のマイナス2%程度で
は、資金需要を増やす効果は、ほとんどないでしょう。

【住宅の事例】
住宅を例にとると、住宅価格が2%下がると予想されている国では、
ローン金利が最下限の0%であっても、住宅需要を増加させる効果
はありません。買った住宅が2%下がると、0%ローン金利が実際に
は(実質金利では)+2%になるからです。

他方、住宅価格が2%上がるときは、同じ0%の金利が、2%のキャ
ピタルゲイン(住宅の値上り益)を生み、ローンの借り入れ需要が
増えます。これが、インフレ効果です。

<日本は、多かれ少なかれ、自然成長率がマイナスで、マイナスの
自然金利が永久に続くように見える(クルーグマン)> 

おそらくこれです。住宅ローン金利が1%を割っても、住宅需要で
の、金利の低さと言う要因からの増加はないからです。

(注)消費税が3%上がる前の、駆け込み需要はすこし見られまし
たが(4万軒:4.4%:2014年)、実際のローン金利が1%以下と低
いのに、その後、85万軒(2年前比で-7%)に落ち込んだままです。

2016年の新築需要は82万軒と3万軒減少する予想です。これは、世
帯が、将来の住宅価格が値下がりするという予想をしていることに
なります。なお、1980年代末の新築は166〜167万軒で、現在の2倍
でした。

【住宅価格が上がっていた時代】
1980年代では、ローン金利は7%と高くても、住宅購入は増加して
いました。住宅価格は、年率10%付近は上がると予想されていたか
らです。このため住宅ローンの実質金利は、〔名目金利7%−住宅
価格の予想上昇率10%=−3%〕でした。

▼If that’s the reality, even a credible promise to be
irresponsible might do nothing: if nobody believes that
inflation will rise, it won’t. The only way to be at all
sure of raising inflation is to accompany a changed
monetary regime with a burst of fiscal stimulus.(15)

<マイナスの自然金利が続くことが実際なら、日銀が無責任になる
という約束が人々に信用されても、何も起こすことはできないだろ
う。インフレになると思う人がいなければ、インフレは起こらない
からだ。このとき、唯一インフレを起こすことができるのは、変更
した金融政策の体制に、爆発的な財政刺激を伴わせるようにするこ
とだ。翻訳(15)>

クルーグマンの変節は、ここです。

21世紀の日本は、潜在成長力の低下から、マイナスの自然金利にな
っていた。このため、日銀が、量的緩和で無責任になるという約束
が信頼されても、何も起こらない。

<インフレになると思う人がいなければ、インフレは起こらないか
らだ(クルーグマン)>

では、日本は、どうしたらいいのか?

<唯一インフレを起こすことができるのは、変更した金融政策の体
制に、爆発的な財政刺激を伴わせるようにすることだ。(同)>

現在実行されている年80兆円の異次元緩和では、まるで足りない。
クルーグマンは具体的には言ってはいませんが、「爆発的な財政刺
激」とは、以下の具体策になるでしょう。

【爆発的な公共事業】
GDP比で6%(30兆円)の公共事業の追加とします。30兆円(GDP比
6%)の追加なら、爆発的な財政刺激と言えるからです。このとき、
政府の財政赤字は、現在の35兆円に30兆円が加わり、65兆円になり
ます。

道路、河川、ダム、公共の箱物などの土木や建設工事、子育て支援
金などの家計援助の大幅な総額、介護事業の支援になるでしょうか。
これを行えば、確かに需要増から物価は上がるようになるでしょう。

この場合、新規国債の発行は、現在の35兆円から65兆円へとほぼ倍
増します。全部を日銀が買いとる。日銀は、現在、年間80兆円の国
債を買い増しています。30兆円が加わり、1年に110兆円の国債買い
切りになるでしょう。

以上が、クルーグマンが奨めている、爆発的な公共事業を追加した
「リフレ策」になります。いかがでしょうか? 

これは、『流動性の罠』で日本に奨めた異次元緩和の失敗を、認め
る論に思えます。すぐに続くところでも、この財政刺激策が実現す
る見込みはないとしているからです。

■8.しかし、急激な財政拡張策は、日本の政策にはならないだろう

▼And this in turn suggests something counterintuitive:
while the goal of raising inflation is, in large part, to
make space for fiscal consolidation, the first part of that
strategy needs to involve fiscal expansion. This isn’t at
all a paradox, but it’s unconventional enough that one
despairs of turning the argument into policy (a despair
reinforced by yesterday’s meeting …)(16)

<これは代わりに、直観に反することを示唆する。インフレ率を高
めることは、結局、多くの場合、財政の健全化の余地をつくること
であるのに対して、この政策では、最初に財政の拡張をしなければ
ならないからである。これはパラドックスということでは毛頭ない
が、こうした論を政策にすることは、日本では前例もなく、実現は
絶望的である。実際、昨日のIMFの会議で、この絶望感は強くなっ
たのだ。翻訳(16)>

リフレ策としての大きな財政拡張は、財政赤字をますます大きくし
ます。このため、日本政府が爆発的な財政拡張策をとることは絶望
的だと、クルーグマンは言っています。次は、仮定の話です。

■9.日本に必要なインフレ率は、2%よりはるかに高い(4〜6%)

Suppose, bad instincts aside, that we really can go down
this road.

<(爆発的な財政拡張を政策にするのは、日本政府には)無理だと
いう直感はさておき、この道をとったと仮定してみよう>

▼How high should Japan set its inflation target? The
answer is, high enough so that when it does engage in
fiscal consolidation it can cut real interest rates far
enough to maintain full utilization of capacity. And it’s
really, really hard to believe that 2 percent inflation
would be high enough.(17)

<日本は、インフレ目標をどれくらいの高さにすべきか。答えは、
財政の再建の中でも経済的能力のフル活用ができるように、実質金
利を下げることができる、インフレ率の高さである。それには、2
%のインフレ目標では、全くもって、不十分だ。翻訳(17)>

2%のインフレ目標では、デフレから脱するのは不可能だと言う。
想定は何%か? たぶん4%〜6%です。別のところで、書籍にも書
いていました。

続いて、クルーグマンは、爆発的な財政刺激策の実行は、日本政府
には不可能と結論づけます。

▼This observation suggests that even in the best case
Japan may face a version of the timidity trap. Suppose it
convinces the public that it will really achieve 2 percent
inflation; then it engages in fiscal consolidation, the
economy slumps, and inflation falls well below 2 percent.
At that point the whole project unravels ? and the damage
to credibility makes it much harder to try again.(18)

<以上の観察から言えるのは、最良のケースでも、日本は、流動性
の罠から今度は「(政策の)臆病の罠」に直面することである。
国民に2%のインフレが確実と確信させた場合、日本は、財政の再
建に取り組むだろう。その時は、また不況になって、インフレ率は
2%から、相当に下がる。その時点に至ると、政策全体が破綻した
ように見えるから、政府政策への信頼は回復不能なダメージを蒙っ
て、続けることはできなくなる。翻訳(18)>

財政を拡張し、財政赤字を、現在のGDP比6.8%(35兆円)より、は
るかに大きくすることによる、2%を超えるインフレ目標は、政府
が臆病の罠に陥るため、政策化できないということです。

それじゃ結局、どうなるのか。いや、どうすべきか。

■10.クルーグマンの結論

以下は、論を微妙に混乱させながらも出した、クルーグマンの最後
の処方箋です。果敢な財政拡張策と提案した後、ここでも、実行は
不可能だろうと言っています。

▼What Japan needs (and the rest of us may well be
following the same path) is really aggressive policy, using
fiscal and monetary policy to boost inflation, and setting
the target high enough that it’s sustainable. It needs to
hit escape velocity. And while Abenomics has been a
favorable surprise, it’s far from clear that it’s
aggressive enough to get there.(19)

<結論部:日本に必要なのは、財政と金融を使い、インフレを高め
る、真に攻撃的な政策である。それによって、インフレ目標を、そ
れが維持可能なレベルに高くすることだ。そのためには、引力圏を
脱するような、金融・財政の速度が要る(米国と欧州も日本と同じ
道をたどることになるが)。 アベノミクスは好ましい驚きだった
が、それが、その速度に至れるような、財政での積極策がとれるか
どうかはまるで分からない。翻訳(19)>

引力圏を脱するロケットのような速度とは、形容詞的な表現です。
日本が巨大な財政支出をすれば、(自分が過去から言っていた)4
%インフレになるだろう。しかし、そのような果敢な財政拡張策は、
日本政府がとれるはずもないと、しています。

異次元緩和では、インフレにはならなかった。これは、『流動性の
罠』論で展開したリフレ策の失敗を意味しています。2013年4月か
らは年70兆円、14年11月からは、追加して80兆円の異次元緩和は行
ってきたからです。失敗とは、目的を達しなかったことだからです。

日本政府と日銀は、クルーグマンが『流動性の罠』で展開した金融
政策を、2013年4月から実行しました。ところが、クルーグマンは、
ここへ来て、金融政策ではダメだったと白旗を上げたと読み取れま
す。読者の方々は、どう解釈しますか。

【まとめれば・・・】
日銀がとってきた異次元緩和の、経済理論的な支柱は、クルールマ
ンの『流動性の罠』でした。

日本の21世紀のように、政策金利がほぼゼロに下がると、金融緩和
は効かなくなります。

しかし、人々が抱く期待インフレ率を、例えば2%に上げるような
リフレ策をとれば、本当の金利負担である「実質金利=名目金利
(0%)─予想物価上率(2%)」はマイナス2%に下げることがで
きる。実質金利がマイナスになれば、資金の借り入れ需要が増えて、
物価を上げるとともに、経済は成長する、というものだったのです。

ところが異次元緩和の開始後2年半経っても、予想していた物価上
昇と経済成長はなく、肝心な実質金利は、さほど下がってはいませ
ん。

異次元緩和は物価上昇と経済成長の両面で、効果を発揮していない
のです。

【大本営風になった日銀】
日銀の黒田総裁は「所期の目的の通り、順調である。2016年度の末
(17年3月期)には、物価は2%上がるようになる」としています。
第二次世界大戦のとき、軍の退却を転進と言い、無条件降伏を終戦
と言い換えていたことと似ている感じです。

クルーグマンは、まだ、爆発的な財政刺激策をとるという選択肢が
あると言いつつも、それが実現することは絶望的であると結論づけ
ています・・・以上が、この論の主旨です。

【後記:日銀はいつまでも大量の国債を買い続ける】
結局、グル─グマンは量的緩和の失敗を示唆しています。原因は、
日本経済の自然成長率は高いと、間違えたことだと言う。

それに、量的緩和を無責任に将来も続けるというフォワード・ガイ
ダンスが、少数の参加者相手なら有効であっても、国民経済のよう
な多数の経済主体を相手にした場合は無効だったとも言っています
(IMFでのレクチャー)。

これらは、自分が理論を作った日銀の量的緩和の失敗を、直接に認
めるもの以外ではないでしょう。

学者は間違えたで済むかもしれません。われわれにとっての問題は、
間違った量的緩和を日銀が、今後も続けることです。この決着は、
最終的にどうなるのか、次の考察が必要でしょう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 
http://www.mag2.com/m/P0000018.html


<787号:通貨の信用の、根底にあるものは何か(1)>
          2015年9月2日
【目次】

1.中国の人民元発行の仕組み
2.ドルを原資産に人民元が発行されている理由
3.税収が根拠でない通貨は、通貨信用がなく、インフレを起こす
4.外貨準備にしてきたドル国債を売るようになった中国

【後記:ドル国債の問題】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<788号:通貨の信用の、根底にあるものは何か(2)>
       2015年9月9日

【目次】
1.時事:中国の輸出と外貨準備の減少
2.2014年ころまでの米国新規債の買い受け
3.中国の外貨準備の減少の実態(可能性1)
4.可能性2:米国FRBの、秘密の米国債の買い
5.米国債の消化の問題
6.通貨と何か?
7.1971年以降の通貨は国債本位制
8.通貨は国債が、金利のない短期証券に変換されたもの
               


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