★阿修羅♪ > 経世済民103 > 499.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
インダストリー4.0の実相
http://www.asyura2.com/15/hasan103/msg/499.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 12 月 14 日 05:15:10: Mo7ApAlflbQ6s
 


※日経新聞連載

[時事解析]インダストリー4.0の実相

(1)製造業のサービス化 高付加価値めざす

 今年は「IoT(モノのインターネット)元年」と言っていいだろう。政府が「日本再興戦略」改訂2015でその推進策を鮮明にしたほか、民間企業にもIoT活用の推進母体が誕生した。

 IoTとは身の回りのすべてのものをネット上につなげる技術、状態を指す。政府は製造業に広く普及させ、大手企業の生産性向上や中小企業振興に役立てたい考えだ。「インダストリー4.0」もIoT活用法の一つだ。IoTを使った製造業革新が4.0である。

 もともとは2011年ごろにドイツが官民をあげて立ち上げた戦略だった。だが、最近は自動化やネットワーク技術で、より多様なものづくりを効率よくできるようにする、世界的な運動として市民権を得つつある。

 よく引かれる事例は起業したてのベンチャー企業だ。アイデアをもとに他企業の空いた製造ラインで製品を生産してもらい、世界で販売する。ネット上で聞いた顧客の要望に沿って、1個単位でオーダーメードもする。

 工場はいずれスマートフォンと同じになる。アプリを追加していろいろな製品を部品会社などと連動しながら生産する。ドイツではこれを「マスカスタマイゼーション」と呼ぶ。

 ただし、「本質は製造業のサービス化だ」と西岡靖之・法政大教授は7月10日付日経朝刊「経済教室」で指摘した。物理的なモノの取引拡大だけでは企業の成長はもはや支えられない。モノにコト(サービス)を付けなければ製造業も高い付加価値を期待できない。そんな時代への答えが4.0というわけである。

(編集委員 中山淳史)

[日経新聞12月7日朝刊P.19]


(2)時間や安全を売る 顧客との関係重視

 インダストリー4.0は製造業のサービス産業化を加速すると前回書いた。事例をみてみよう。

 英航空機エンジンメーカーのロールス・ロイス。モニタリングルームには同社製品を載せた航空機約4千機の運航状況を常時映し出し、センサーからネット経由で送られる温度、油圧など数十項目を監視している。

 例えば、ある航空機でベアリングの油圧が高くなったとする。同社はすぐに航空会社と連絡をとり、空港で整備担当者に待機してもらう。着陸後すぐに点検や修理にとりかかると、対応が速かったおかげで航空機は次の目的地に向け、予定時刻通りに出発できた……。

 こんなことは日常茶飯事だという。ロールスは24時間監視することで航空会社から成果報酬を受け取る。同社の航空機エンジン事業では、売上高の7割がすでにそうしたサービスの収入だ。

 独コンサルティング会社ローランド・ベルガーの長島聡日本共同代表は「ドイツは工場、米英はデータが起点」と近著「日本型インダストリー4.0」で指摘した。独企業はどちらかというと工場の生産性向上や関連のサービスに関心が強い。

 一方、米英は自社製品から送られるデータで課金型サービスを編み出し、高い収益性を実現しようと考える。発電用タービン、航空機エンジン、医療用機器ですでに実績をあげる米ゼネラル・エレクトリック(GE)がその代表例だろう。

 自社製品が使われる間は顧客とつながり続け、手数料を得る。日本では日立製作所なども同様の方向に向かいつつある。

(編集委員 中山淳史)

[日経新聞12月8日朝刊P.27]

(3)日本企業の競争力 開放的戦略が鍵に

 日本企業はインダストリー4.0への対応が遅いのだろうか。

 坂村健・東大教授は7月9日付日経朝刊の「経済教室」で「日本が、まるで目新しいモノが来たようにIoT(モノのインターネット)に驚いている」と書いた。

 指摘の通り、日本には昔から「トヨタ自動車の(電子)カンバン方式」が存在する。これは部品生産から物流、完成品生産、販売までが連動して動き、最大効率をあげることをめざす4.0と同じ考え方に立脚している。

 また、売った製品への関連サービスから長く収入を得ようとする米企業の考え方も、建設機械大手のコマツがかねて提供する重機の世界ネットワークサービスと基盤技術が基本的に似ている。

 ただし、日本と米欧で決定的に違うのが、開いているか、閉じているかだ。4.0は「標準化したカンバン」(坂村氏)に世界中の企業がつながれる、というスタンスをとるが、トヨタのカンバンは系列企業に限りなく閉じているシステムだ。

 小川紘一・東大客員研究員は著書「オープン&クローズ戦略」で、スマートフォンの米アップルや半導体のクアルコム、インテルなどとの競争で劣勢に立たされた日本企業の事例を紹介しつつ、「協調領域と競争領域を明確に分けた上での知財戦略が重要」と指摘した。

 小川氏によれば、家電も自動車も死命を制するのは今後「ソフトウエアの開発力」である。すべての現場が連結され、透明化される時代にどう対応するか。IoTを掲げる政府の成長戦略でも重要なのはそこだ。

(編集委員 中山淳史)

[日経新聞12月9日朝刊P.26]

(4)世界市場巡る争い 公的標準が主流に

 日本は技術で先んじながらマーケティングで敗れる、という現実に何度も直面してきた。インダストリー4.0ではそうした事態を避けたい。

 ドイツではハノーバー・メッセという毎春恒例の見本市が4.0の進捗を知る重要な場になっている。独政府は毎年、パートナー国を選び、要人を招いているが、来年はそれが米国だという。

 米国は4.0に相当する運動、技術を「インダストリアル・インターネット(II)」と呼ぶ。大手企業を中心にコンソーシアム(連合体)を組織し、ドイツに対抗している。

 4.0とIIは歩み寄り、巨大な連合を形成するのではないか。日本企業関係者は最近そう考えている。問題は関係が深まったときの影響だ。欧米が組んで広くオープンに4.0の予防保全や運転効率化の枠組みを確立することで一致したら、日本企業もいや応なく、そうした枠組みに準じることになりはしないか。

 柳川範之・東大教授は「日本ではよいものを作り、売れればスタンダードがとれるというデファクトスタンダードの意識が強い。だが、スタンダードの決定は今や政府か国際機関等が上から決めるデジュールスタンダード(公的標準)が主流」と総合研究開発機構の研究報告書などで指摘する。

 新しい分野が出てきたときにいかに先手を打って標準を握るか。民間主導でコンソーシアムを組み、競争をする前から勝敗を決めてしまおうとの動きも様々な分野で増えてきた。日本のお家芸ともいえる生産性向上のための技術を巡り、日本の出方が注目されている。

(編集委員 中山淳史)

[日経新聞12月10日朝刊P.28]


(5)機械が人間を超える 社会の変化を加速

 IoT(モノのインターネット)で製造業そのものを再定義しようとする試みであるインダストリー4.0。「工場はいずれスマートフォンと同じになる」と初回に書いた。アプリをダウンロードすれば、工場もあらゆるものが生産可能な汎用性の高い「装置」になる。

 では、なぜこの時期に4.0は登場したのか。シンギュラリティー(特異点)という言葉がヒントだ。米国の人工知能(AI)の権威、レイ・カーツワイル氏は2005年の著書「ポスト・ヒューマン誕生」で「AIは45年までに人間の仕事をすべて代替できる存在になる」と予言した。

 それをさらに具体的に検証したのが、エリック・ブリニョルフソン米マサチューセッツ工科大教授の著作「ザ・セカンド・マシン・エイジ」だ。同書は「コンピューターは蒸気機関が肉体労働で実現したことを知的労働で実現する」と書く。

 クイズで人間を負かすスーパーコンピューター、自動運転システム、4.0が相次ぎ登場したのもシンギュラリティーに向けた前哨戦と言える。

 それを後押しするのが半導体の処理能力が1年半ごとに倍増するという「ムーアの法則」。指数関数的に増加する半導体の処理能力はこの数十年で何兆倍にも何京倍にもなり、また1.5年に1度、倍々ゲームでコンピューターの高性能化を加速する。

 社会は大きく変わる。企業の成長力、スピード、変革力は従来と全く違うものになる。国も企業も個人も、変化をチャンスに変えられるかどうかが試される時代だ。
(編集委員 中山淳史)

=この項おわり

[日経新聞12月11日朝刊P.31]


 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民103掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
経世済民103掲示板  
次へ