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米雇用回復の実相
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投稿者 あっしら 日時 2015 年 2 月 17 日 04:16:00: Mo7ApAlflbQ6s
 


※日経新聞連載

米雇用回復の実相

(上)賃上げの波、広がるか 景気回復の持久力左右

 今年1月までの3カ月間、米国の雇用者数(非農業部門)の増加幅は合計で100万人を突破した。堅調な数字はどこまで実態を反映しているのか。現場を点検した。

 全米自動車労組(UAW)は3月にも米大手3社への賃上げ要求を決める見通しだ。9月に迫る労使契約の更改に向けストライキも辞さない構えを示している。
 「企業内格差の解消」。強気のUAWが賃上げとともに交渉の柱に据えるのは若手の待遇改善だ。2007年に受け入れた「2階層賃金体系」で、同じ仕事内容でも割安な賃金が適用されるようになった。07年以降に入った従業員の時給は最高で19.28ドルで、それより前に入った「ベテラン」の平均28〜29ドルと比べ10ドル近い差がある。


歩み寄る経営側

 米新車販売は08年の金融危機前の水準に戻し、主力工場はフル稼働に入った。「UAWとはお互いに利益のある建設的な解を探したい」。人手の確保に神経を使うゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は柔軟な姿勢をみせる。
 着実な賃上げの実例も出てきた。フライドポテトの原料など貨物輸送の停滞で日本企業にも影響した米西海岸29港湾の労使交渉。異例の長期戦となったが、ストを含めた強硬姿勢を保った組合が勝利しそうだ。経営側は毎年約3%の賃上げと医療保険の維持、年金の11%増額を提案した。

 米航空業界で給与が低いといわれてきたアメリカン航空のパイロットにも追い風が吹き始めた。業績拡大とパイロット不足を背景に毎年の定期昇給の実施に加え、23%を即時に賃上げする労使協約で暫定合意した。

 問題はこうした賃上げがまだいくつかの「点」に限られることだ。

 「時給15ドルへの引き上げは不当だ」。法定最低賃金が全米最高水準(9.32ドル)のシアトル市は、4月から大手チェーン店の最低賃金を段階的に15ドルまで上げると決めた。ところが、経営者団体の商工会議所は市を訴えて潰しにかかる。
 ジョージア州立大学の10業種を対象にした調査(14年)によると、米小売業の平均時給は正社員・パートで16ドル47セントだ。最高の情報産業の約半分で、製造業より3割強も少ない。安値を競う大手チェーン店では働き手への配分を増やす意欲が盛り上がりそうにない。


影落とす原油安

 急速な原油安も影を落とす。米転職支援会社のチャレンジャー・グレー・アンド・クリスマスによると、米企業が1月に発表した人員削減数は前年同月より17.6%増の約5万3千人になった。前月比で63%も増え、エネルギー業界だけで2万人強に上った。全米鉄鋼労組(USW)は2月、賃金などの交渉の決裂で全米の9製油所と化学工場でストに入った。
 米労働省によると、15年1月の非管理職の平均時給は20.80ドル。1年前に比べ2.0%伸びた。金融危機前の07〜08年に3〜4%伸びていた点を考えれば「雇用の改善は見た目ほどではない」(ロックハート・アトランタ地区連銀総裁)。今は散発的な賃上げが面に広がるかどうかが米景気回復の持久力を左右する。

[日経新聞2月11日朝刊P.7]


(中)IT業界、厚待遇で囲い込み 労働者間でも格差拡大

 個人の書類管理システムで世界に1億人を超す会員を抱える米シリコンバレーのエバーノート。同社でイベントを統括するクリスティン・フーテさんは入社7カ月後に3週間近い休暇を取った。「柔軟に休めるかどうかは勤務先を選ぶ時の大事な条件になったわ」。フーテさんはこれからも年1回は3週間程度の休みを取るつもりだ。

同社は社員の休暇日数を無制限に認めている。年に1度、1週間以上休めば一律1千ドル(約12万円)を支給し、休みを促す特典もある。1カ月程度の休みを取ってヨガの瞑想(めいそう)修行に出る人もいた。人材の質が競争力を左右するシリコンバレーのIT(情報技術)業界ではゆっくり休ませる効用への意識が急速に高まっている。


「生活丸抱え」

 かつてはアップルの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏らが交わした「紳士協定」で人材の引き抜き合戦を防いできた。10年、違法カルテルとして調査が入ると協定は崩壊した。高い技能を持つソフト技術者らを引き留めるため、各社は「生活丸抱え」ともいえる優遇策を示し始めた。
 専用バスの送迎や食事、洗車といった家事・雑用の無料代行はもはや常識だ。多額の教育ローンを抱える社員に優遇ローンへの借り換えを提供する会社も目立つ。
 フェイスブックやアップルは卵子の冷凍保存や不妊治療、養子縁組への補助を始めた。これらの策には日本円で1人200万円以上を出す。フェイスブックは代理出産まで助けるという。
 自社株を安く買う権利を含めて高額の報酬を出すだけにとどまらない破格の待遇は、米国の労働界に新たな格差を生もうとしている。
 「アップルは態度を改めろ」。昨秋のアップルの新製品発表会では、メディア関係者でごった返す会場の外で拡声器でがなり立てる集団がいた。新製品の発売日には店舗前の長蛇の列を縫うように人の鎖をつくり、店員の賃上げを訴えるデモ隊と化した。
 「これだけ稼いでいるなら直営店員にもっと還元すべきだ」。デモを主導する労働組合はアップルに厳しく迫る。直営店の販売店員の標準的な時給は1700円を超える程度にとどまる。仕事の内容が異なるとはいえ、標準的な技能でも年1200万円以上を手にするとされる技術者と大きな差がある。経営側は直営店の待遇の改善に冷ややかだ。


不安定な勤務

 「オン・コール(呼び出し待機)」。ファストフード店に代表される米チェーン小売業では、こんな呼び名の働き手に厳しい待遇が浸透する。
 シカゴ大学の2014年の調査によると、26歳から32歳までの「若年層」で時間給で働く人の4割は、1週間の勤務のローテがその前の週に知らされる。当日の数時間前にキャンセルされる例もある。副業でお金を稼ごうにも予定を組めない不安定な環境に甘んじる人々が、小売業の最前線を支えている。
 オバマ大統領は1月の一般教書演説で「一握りの者だけが大きな得をする経済を認めるのか」と訴え、経営者ら富裕層への増税を主張した。今や中間層と呼ばれる普通の労働者の中でも格差は明らかに広がってきた。

[日経新聞2月12日朝刊P.5]

(下)「質」の向上なお課題 利上げ先送りの見方も

 6日、好結果だった1月の米雇用統計に対し、敏感に反応したのは債券市場だった。2年国債の利回りは0.64%となり、前日比0.12%も急上昇(価格は急落)した。


 金利が大きく動いたのは、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが近いと読まれたからだ。1月までの数字を受け「このまま順調に改善すればFRBは6月に利上げし、ゼロ金利政策を解除する」(ドイツ銀行エコノミストのラボルニャ氏)との見方が台頭した。
 FRBが今年、利上げを始めれば、グリーンスパン元議長時代の2004年6月以来、ほぼ11年ぶりだ。当時の失業率は5.6%で、直近の失業率は5.7%となった。「金融引き締めの条件は整っている」(フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁)との声はFRB内でも上がる。

 一方で早期利上げ説には異論も根強い。金融大手モルガン・スタンレーのエコノミスト、ゼントナー氏は「16年3月まで先送りされる」とみる。原油安でインフレ懸念は乏しく、イエレン議長が利上げを急ぐ必要がないとみているためだ。

 FRBや市場が主に重視する雇用指標は「雇用者増加数」と「失業率」の2つだ。これに対し労働経済学が専門のイエレン氏は航空機の操縦席に並んだ計器のように20以上の指標に目配りする。「イエレンの計器盤」のすべてに青信号がともっているわけではない。


家庭の苦境配慮

 例えば、正社員を希望しているのに非正規のパートタイムに甘んじている雇用者や仕事探しを諦めた人らを含める「広義の失業率」。1月は11.3%となり、08年の金融危機前に比べてなお3ポイント近く高い。雇用回復の「質」が伴っていないとされる代表的な根拠だ。

 100年の歴史があるFRB初の女性トップのイエレン氏は「長期の失業は結婚や子どもたちの生活をも脅かす」と語る。失業率の裏側にある家庭の苦境に思いをはせる1児の母でもあるイエレン氏。市場では利上げをできるだけ先送りし、成長と雇用に厚く配慮する「ハト派」という見立てが優勢だ。

 ただ就任から1年の本人は政策の行方について言質を取らせない。民主党上院議員との非公式の昼食会に臨んだ1月29日。終了後、金融に詳しいシューマー議員は「イエレン氏のメッセージは経済は良くなっているが、雇用創出の道のりは長いというものだった」と語った。同時に雇用の懸念があるうちは「直ちに利上げしない理由になる」と指摘した。直ちでないとすればいつなのか。肝心な部分はまたも明かされなかった。

 「彼女が最初に金融バブルに気づいたんじゃないかな」。イエレン氏を議長に指名したオバマ大統領は、こう持ち上げる。しかし過去のFRBは金融政策と金融監督の双方で後手に回り、危機を回避できなかった。未曽有の政策の軟着陸へイエレン氏の手腕を市場が注視している。

 佐藤大和、稲井創一、杉本貴司、兼松雄一郎、河内真帆が担当しました。

[日経新聞2月14日朝刊P.6]


 

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コメント
 
01. 2015年2月17日 07:18:32 : jXbiWWJBCA

高齢化が進み、農業や工業からの産業構造の変化により生産性上昇もあまり期待できない先進国では、
潜在成長率は下がり、生産性上昇も鈍化し、資本収益率も低下していく


日本が高度成長やバブル時代に戻れないのと同じで、米国がバブル期の実質賃金に戻る可能性は、ほとんどないし、戻ったとしても長続きすることは期待できないだろう。



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