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［エコノフォーカス］政府の音頭で広がるが…賃上げ、統計に表れず
産業構造が変化、実態は控えめ？
安倍晋三政権になってから企業業績の改善や政府の強い働きかけを背景に賃上げに踏み切る主要企業が相次いだ。ただ明るいニュースが続く一方で、１年前の賃上げ実績を2014年の日本全体の統計で確認すると、実際にはさほど上がっていないことが分かった。この謎を解くキーワードは、サービス産業化や高齢者の就労促進といった日本経済の構造変化にある。（赤尾朋子）
○トヨタ労使が最高額のベア月4000円で決着（今年３月15日）
○メガバンクが相次ぎ賃上げ回答（３月26日）
政府が賃上げを促すことから「官製春闘」とも呼ばれるようになった春季労使交渉。２回目の今年、主要企業が相次いで賃上げを決めた。基本給を一律に底上げするベースアップ（ベア）に踏み切る企業も目立ち、経団連が４月16日に公表した１次集計では大企業の賃上げ率は平均2.59％と17年ぶりの高い水準になった。
給与が下方修正
15年度は賃上げ効果で消費が強く押し上げられるのではないか――。政府内には期待もあるが、14年の状況を見る限り、楽観は禁物かもしれない。昨年の春も主な企業で賃上げのニュースが相次いだが、最近まとまった国の統計をみると、実際の賃金はさほど上がっていなかったからだ。
４月３日、エコノミストらに衝撃が走る出来事があった。厚生労働省が発表した毎月勤労統計の確報値で、14年の現金給与総額が速報段階の前年比0.8％増から0.4％増に下方修正され、賃上げ効果が実に「半減」してしまったのだ。
毎月勤労統計は賃金の水準や伸び率を示す代表的な統計。常用雇用者５人以上が働く全国の約３万３千事業所を対象に、業界や従業員規模ごとの賃金や労働時間などを調べている。
給与総額の下方修正は調査対象となる事業所を入れ替えたのが原因だ。事業所は総務省が２〜３年ごとに全国190万社の売上高などを調べる企業版の国勢調査「経済センサス」から抽出する。12年に実施した最新センサスで抽出し直したところ平均賃金が低いサービス業の事業所数が増えた。
09年のセンサスを使った従来調査と比べると、平均賃金が全業種平均よりも14％低い卸売・小売業の割合が19.2％と1.3ポイント増えた。一方で賃金が23％高い教育・学習支援業の割合は５ポイント減った。つまり、日本の産業構造の変化に合わせて統計を取り直した結果、賃上げ率が下がったということだ。これは変更前の賃上げ率が実態よりも「過大」だったということでもある。
パート増も影響
パートタイムなど短時間労働者が増えていることもマクロの賃金水準を押し下げる要因だ。人手不足で企業は労働時間が短い主婦層や高齢者の雇用を増やしている。14年の１時間当たりの所定内給与は0.2％増えたものの、短時間だけ働く人が増えたので総労働時間は逆に短くなり、１人あたりの年間の賃金は減ったという構図だ。
ＢＮＰパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストの試算では14年は短時間労働者の割合が前年に比べ0.4ポイント増えたことが、賃金を0.5ポイント押し下げた。河野氏は「短時間労働者を増やす動きが続けば、１人あたりの賃金は上がりにくい可能性がある」と読む。
日本経済は製造業からサービス業への雇用のシフトが進んでいる。高齢化で働くシニアが増え、週３日、５時間だけ働くといった短時間労働者も拡大し続ける公算が大きい。こうした業種や雇用形態の働き手は企業内で、毎年決まって昇給する定期昇給や労使交渉による賃上げの対象から外れていることが多い。
安倍政権が企業に賃上げを熱心に働きかけてきたのは、デフレ脱却に向けて賃上げが大きなカギを握るためだ。「企業業績の改善→賃上げ→消費の拡大」という経済の好循環を生み出すことがアベノミクスの目的だ。
それだけに日本の従来型の賃上げの枠組みの外にいる働き手の増加は、アベノミクスの盲点にもなりかねない。15年の春季交渉では中小企業の一部にもベアや賃上げの動きが広がりつつあるが、賃上げの裾野を大きく広げて賃金水準を改善することが、日本経済の課題になりそうだ。
［日経新聞５月４日朝刊Ｐ．３］
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