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「21世紀の資本」と「トマ・ピケティ」を読み解く第1回 序章・『21世紀の資本』とは何か? トマ・ピケティはどんな人なの
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投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 15 日 20:30:11: tW6yLih8JvEfw
 


第1回 序章・『21世紀の資本』とは何か? トマ・ピケティはどんな人なの
2015/4/1


◇はじめに「トマ・ピケティはどんな人?」

 いま、トマ・ピケティ(Thomas Piketty)『21世紀の資本』が、世界中で注目を浴びています。『21世紀の資本』は、「富の格差はなぜ起きるのか?」を、歴史的に解明したものです。

 トマ・ピケティは、2006年設立の「パリ経済学校(PSE)」の初代校長を勤める、同大学の教授です。世界の経済学部の中で、第7位を獲得する有名校です。

 2011年の米国ウォール街占拠は、この『21世紀の資本』を発端としています。「We are the 99%」(わたしたちは99%の貧困層である)は、上位1%の支配階級が、富の大半を独占していることに端を発しています。

◇トマ・ピケティは何を提唱したのか?

 トマ・ピケティは『21世紀の資本』において、富の格差はますます拡大するという理論を発表しました。ピケティの、「第一法則」と「第二法則」です。詳しくは、この連載の中で説明していきます。300年間、30カ国以上の税務データの分析により、その理論は歴史的に裏付けたのがピケティの業績です。

 税務データの分析で、ピケティは大きく3つの所得層に分けています。上位10%を富裕層、上位10〜50%を中間層、下位50%を貧困層としました。また、上位10%の富裕層をさらに、最上位1%を支配階級として識別して分析しています。

 人口比率で層別する「富裕層」「中間層」「貧困層」は、あらゆる国で、富の格差を比較するのに適しています。GDPが異なる国においても、国内格差を測定できます。

 ピケティの問題提起は、「資本主義と民主主義は、全く同じではない」という点です。多くの経済学者は、資本主義が民主主義だという前提で、富の格差に着目してこなかったのです。

◇資本主義と民主主義は同じではない、どう異なるのか?

 資本主義と民主主義は、異なるものだと、ピケティは言います。資本主義(capitalism)とは、資本の活動が基本原理となり、利潤や余剰価値を生む体制です。「資本制」とも言います。社会に貨幣を投下し、投下された貨幣が社会を回ってより大きな貨幣となって回収される場合、この貨幣が「資本」とよばれます。

 一方、民主主義は個人の技能に合わせて、平等に正当な所得を得る権利を有していると言うことだ。しかし、個人の技能で得られる労働所得が、資本所得を下回ってしまえば、民主主義とはいえません。

 「大切なのは、富の分配における民主主義だ」とピケティは言います。現在の資本蓄積による富の格差によって、富の分配における民主主義が損なわれている」と言うのです。資本の所有格差は、金持ちと貧乏人を紛争状態にします。

 「資本主義自体はすばらしいが、富の分配における道徳的な規律というものがない」とピケティは言います。

 たとえば、ある人の庭で世界中の人が使えるほど大量の石油が発見されたとします。この人が100%石油を独占して、世界中の他の人は、死ぬまで彼のために働き続ける。資本主義の考え方では、こうした方法も否定されません。しかし、民主主義の考え方に基づけば、これは受け入れがたいものです。

 なぜ、今の資本主義が、民主主義になっていないのか? そのナゾをピケティが、過去300年間、30カ国以上のデータを分析した結果、理論的に解明しました。一言でいえば、不労働所得(財産などの資本が生み出す所得)が、労働所得(労働で汗を流して得られる所得)を上回るという理由です。

◇『21世紀の資本』で、ピケティが頻繁に使っている用語

 ピケティの『21世紀の資本』では、資本所得、労働所得のほか、資本収益率(r;return on investment;ROI)、経済成長率(g;economic growth rate)という言葉もよく出てきます。資本収益率は、資本(金融資産、不動産、その他資産)が生み出す利益率です。経済成長率は、対前年比での実質GDP(gross domestic product;国内総生産)の成長率です。

 資本収益率について、もう少し、補足しておきます。たとえば、1億円のアパート(賃貸不動産)を持っている人がいたとします。アパートを貸し出して、年間500万円の収益(収入から経費や減価償却費を引く)を生み出せば、資本収益率は5%になります。

 ピケティは歴史的データの分析に基づいて、100年以上にわたって、資本収益率の平均は4〜5%、経済成長率の平均は1〜1.5%という数値を導き出しています。

 資本収益率が、経済成長率を上回っていると言う事実が、富の格差を拡大させます。この詳しい理由については、本文でわかりやすく解説しています。

◇ピケティが経済学に与えた影響

 ピケティの『21世紀の資本』は、今までの経済学に、大きな波紋を起こしています。なぜなら、今までの経済学は、トリクルダウン(富める者から富んでいけば、いずれ格差はなくなるという仮説)に基づいているからです。

 しかし、ピケティはトリクルダウンを完全否定しています。アベノミクスの金融緩和が、トリクルダウンを前提とした政策であれば、アベノミクスの政策は間違っているという結論になるからです。

 ピケティは、「富の格差はますます拡大し、特に2030年の米国は、貴族社会時代の富の格差になる」といいます。米国ウォール街占拠のスローガンである「We are the 99%」は、すでに現実のものになっているのである。最上位1%の支配階級に、全ての富が集中しているのです。

 かつてマルクスが『資本論』を世に出し、多くの反響を得ました。ピケティの『21世紀の資本』も、経済学者、社会学者たちに一石を投じている。多くの学者が、賛成や反対、さらに批判へと、大きな反響を、世界中で引き起こしています。経済学者、社会学者たちに一石を投じること、これがピケティの狙いだったのかもしれません。
http://bizacademy.nikkei.co.jp/knowledge/piketty/article.aspx?id=MMAC3l000027032015


 
http://bizacademy.nikkei.co.jp/knowledge/piketty/article.aspx?id=MMAC3l000006042015
第2回 資本主義が富の格差を広げるのは宿命だ
2015/4/8


◇資本主義は放置すれば富の格差を生み出し、自ずと悲劇に向かう〜無限蓄積の原理

 ピケティが提唱する21世紀の資本論について、順次紹介していきます。

 「資本主義は、富の格差が自然に解消に向かうことはない」とピケティは言います。資本家の激しい競争は、無秩序な生産拡大と無秩序な投資を引き起こします。そして、2008年のリーマンショック、サブプライムローン破綻のような、恐慌を引き起こすのです。

 中国では、富める者が富めばいいという自由経済開放を進めてきた。現在では、漢民族と少数民族間での所得格差が、国内の対立要因になっています。

 また、中国では農村部と都市部での所得格差が拡大しています。農村部から都市部への戸籍が移動できないため、貧困の差は、個人の技能だけでは解決できない労働所得格差を生んでいます。

 「資本主義は自ずと富の格差を生みだし、資本家と労働者の対立を生む」とピケティは言います。対立構造が、世界中に広がっているのです。

 ピケティが富の格差に着目したのは、1835年に出版された、バルザック著の「ゴリオ爺さん」の小説です。「ゴリオ爺さん」の小説は、地方から法律を学ぶために出てきた青年に、いかがわしい隣人がこう尋ねます。「法律を勉強して30歳で年収1200フランを稼ぐ判事になるのと、20歳で資産家の娘と結婚して100万フランの富を得て年収5万フランを得るのと、どっちを選ぶのか」と。

 「ゴリオ爺さん」の小説の時代背景は、19世紀のフランスは格差社会だ。富の格差が激しく、富裕層は農地の賃貸料などで、所有する資本の5%近くの年間所得が得られていました。労働所得を大きく越えていたのです。

◇富の格差は、国際的な問題よりは国内的な問題なのだ

 「資本主義自体はすばらしいが、富の分配における道徳的な規律というものがない」とピケティは言います。

 たとえば、ある人の庭で世界中の人が使えるほど大量の石油が発見されたとします。この人が100%石油を独占して、世界中の他の人は、死ぬまで彼のために働き続ける。資本主義の考え方では、こうした方法も否定されません。だが、民主主義の考え方に基づけば、これは受け入れがたいのです。

 「資本主義と民主主義は、全く同じではない」とピケティは言います。資本主義(capitalism)とは、資本の活動が基本原理となり、利潤や余剰価値を生む体制です。「資本制」とも言います。社会に貨幣を投下し、投下された貨幣が社会を運動してより大きな貨幣となって回収される場合、この貨幣が「資本」とよばれます。

 一方、民主主義は、個人の技能に合わせて、平等に正当な所得を得る権利を有しているということです。

 しかし、個人の技能で得られる労働所得が、資本所得を下回ってしまえば、民主主義とはいえません。「大切なのは、富の分配における民主主義だ」とピケティは言います。現在の資本蓄積による富の格差によって、富の分配における民主主義が損なわれている」とピケティは言います。

 資本主義は、富める者がどんどん富めばいいというものです。資本をめぐる格差というのは、国際的な問題よりは、はるかに国内的な問題なのです。特に資本の所有格差は、金持ちと貧乏人を紛争状態にします。

 たとえば、南アフリカのプラチナ鉱山では、長い間、アパルトヘイト問題が続いていました。鉱山所有者による搾取の問題は、労働者にとって極めて重大な関心事なのです。

◇格差の拡大は、教育機会の均等化を失い、富む者がますます富んでいく

 「富の格差の拡大は、教育機会の均等化を失わせる」とピケティは言います。なぜなのでしょうか。

 ハーバード大学などの高等教育を受けるためには、子どものころから、他の子どもよりも教育費をかけ、入学までの、相当の学力を向上させる必要があります。また大学の授業料は、年間500万円を越えます。

 各大学の年間授業料は次の通りです。ハーバード大学4.39万ドル、オックスフォード1.52万ドル(留学生270〜390万円)、東京大学53.58万円だ。ハーバード大学の授業料は、日本の東京大学の約10倍である。

 ハーバード大学に、海外から多くの留学生も来ている。韓国や中国から、財閥系や富豪の子息などが、留学生として押し寄せている。大富豪か、企業派遣でなければ、到底留学できない。富の格差の拡大は、教育機会の均等化を失い、富む者がますます富んでいく。

◇欧米の中間層より少し下は、就業リスクと金融規制緩和リスクを抱えている

 「欧米では、中間層と貧困層の格差が縮まり、富裕層と貧困層の2極化が進んでいるという。そして中間層より少し下は、就業リスクと金融規制緩和リスクを抱えている」と、ピケティは言います。

 労働所得に頼っている中間層より少し下は、失業が無収入に直結し、失業リスクに悩まされやすいのです。そして失業によって、生活基盤を失います。

 ピケティのデータ分析によると、上位10%の富裕層は、労働所得は35%(平均労働所得の3.5倍)を得ています。上位10〜50%(40%の人数)の中間層の労働所得は40%(平均労働所得の1倍)。下位50%の貧困層の労働所得は25%(総労働所得の0.5倍)です。労働所得においては、中間層と貧困層の格差はあります。中間層は、労働所得が平均なので、中流意識を持てています。

 しかし、大切なのは、総所得(労働+資本)の格差です。総所得は、富裕層が引き離し、中間層が貧困層へ一歩近づきます。上位10%の富裕層は50%(平均総所得の5倍)、中間層は30%(平均総所得の75%)、貧困層は20%(平均総所得の40%)だ。中間層と貧困層の格差2倍未満です。

 「金融規制緩和は経済を不安定化させ、就業リスクをさらに高めている」とピケティは言います。

◇経済学の民主化が必要だ

 「経済学を民主化しなければ、本当の民主主義はあり得ない」とピケティは言います。

 経済学者は複雑な計算式と数字で、多くの人に経済学を理解できない方向に持って行こうとしています。「経済学を民主化しなければ、本当の民主主義はあり得ません。経済学の民主主義があって、はじめて富の格差の議論が可能になる」とピケティは言います。これこそが、ピケティの研究の一歩を踏み出した目的なのです。

 いままでわずかな労働所得で貧困層になっている人も、この状態からどう抜け出すかを考える一歩を踏み出した方がよいのです。

 かつてマルクスが「資本論」を世に出し、多くの反響を得ました。ピケティの「21世紀の資本」も、経済学者、社会学者たちに一石を投じています。多くの学者が、賛成や反対、さらに批判へと、大きな反響を、世界中で引き起こしています。

 経済学者、社会学者たちに一石を投じること、これがピケティの狙いだったのかもしれません。より多くの人が、「21世紀の資本」について議論することで、経済学の民主化と、新たな「社会経済学」の分野が、切り開けるのだと。そのために今、ピケティは世界中を布教活動のように、飛び回っています。「社会経済学」の更なる進化をめざして。


http://bizacademy.nikkei.co.jp/knowledge/piketty/article.aspx?id=MMAC3l000013042015
第3回 経済学はなぜ役に立たなくなったのか
2015/4/15


◇ピケティがめざす資本主義とは、「資本の民主化」である

 ピケティが富の格差の研究を始めるにあたり、最初に注目したのが、サイモン・クズネッツの分析です。税務統計を利用して20世紀前半に格差の研究をした人ですが、その手法を時間的にも空間的にも広げました。具体的には、300年間のデータと30カ国以上のデータに広げた。

 現在の経済学は、短期間の統計データ分析に時間を割き、為替や株価の経済活動に、多大な影響を与えています。「今の経済学は、社会の役に立っているとはいえない」とピケティは言います。

 「富の配分の問題を、経済学の中心に置きたいと思い、研究を続けている」とも言っています。「今の経済学者は、富の配分の問題を避けて通っている。見向きもしようとしていない」とピケティは言います。

 ピケティがめざす資本主義とは、「資本の民主化」です。資本の民主化とは、多くの生産者が現れ、多くの消費者と自由に取り引きできる、完全競争社会を前提とした状態です。「富による格差が、不平等を生んではいけない」とピケティは言います。

 「大学教授の経済学者は、20〜30万ドルを労働所得として稼いでいる。下位層への想像力が働かないのは当たり前だ。貧困層のイメージもわかない」とピケティは言います。今の経済学者は、富裕層や政治家の好感度のよさに気を配ります。所得下位層への想像力が働かないというのです。「これでは、格差が無くなる経済政策を提言しようと考えないだろ」ともピケティは言います。

◇経済学者は、富の分配についての問題を意図的に避けてきた〜トリクルダウン

 「格差については、容認している経済学者が多い」とピケティは言います。富の分配についての問題を考えると、自ずと富裕層から貧困層への富の移転が必要になってきます。政府が介入して税金で移転を強制するより、放置していた方が無難だろうと経済学者は考えているのです。つまり富の格差是正の放棄です。

 「富の格差は、トリクルダウンで解決するというという根拠がない理由付けがまかり通っている。そして、経済学者は、富の分配についての問題を意図的に避けてきたのだ」とピケティは言います。

 トリクルダウンとは、富める者が富めば、いずれ富は全体に行き渡り、全ての人々が潤うという仮説です。現在、世界各国の政策は、トリクルダウンを前提とした実施されています。

 トリクルダウンが自然に起きるという確固たる証拠を、経済学者達はつかんでいないのです。「経済学者や政治家がトリクルダウンを推奨する理由は、富の分配問題から目をそらす効果がある」とピケティは言います。

 「金融緩和により経済市場に流れる資金は、貧困者をますます窮地に追いやる」とピケティは言います。たとえば、余剰資金で不動産売買の需要が高まり、不動産価格が値上がりします。その結果、賃貸料金が上がり、家を持っていない貧困層の所得が、資本所有の富裕層に奪われていきます。

 また、「金融緩和によりインフレが加速すれば、貧困層が生活するための物資が上がり、実質的な購買力が低下する。これは、貧困層の生活水準を引き下げるだけでなく、経済成長の足を引っ張るだろうと」ピケティは言っています。

◇資本主義はすばらしいが、持続不可能な格差を生み出す〜富の格差は拡大する

 「技能が高い者が、より高い労働所得が得られるというという、民主主義の根幹が揺らいでくると、労働者は技能向上に価値観を見い出せなくなる」とピケティは言います。

 「一方、上級役員の報酬は、役員会議のような小さな会議室で決められるため、一部の人を説得すれば昇給が可能である。つまり、業績至上主義の風潮の中で、業績至上主義の仮面をかぶった「幸運の対価」が横行する社会になっていく」とピケティは言います。

 「幸運の対価」とは、経営者の能力に関わらず、景気がいいというだけで会社の業績が上がることです。業績至上主義で、経営者は莫大な報酬とストックオプションで、巨額の富を手にします。労働階級の所得は上昇しなくても、経営者の所得だけが異常に跳ね上がる現象を「幸運の対価」というのです。

 「資本所得と労働所得の分配が論争を引き起こすのは、資本所有権が集中しているからだ」とピケティは言います。資本所有権が集中すると、資本から得られる所得である資本所得の比率がますます高くなります。

 「ウォール街占拠」の所得格差の問題は、個人所有の資本から得られる所得というより、高額所得を得ているスーパー経営者に対する不満です。スーパー経営者とは、年間報酬が1千万ドル〜1億ドルを越える高額報酬の経営者のことです。

 「トップマネジメントの報酬の爆発は、資本所有権の私物化、乱用といっても過言ではない。経営トップ層の報酬を高額報酬にすれば、社員だけでなく、世論までも分配が論争を引き起こす」とピケティは言っています。

◇20世紀の格差縮小は経済政策の賜ではない、2度の世界大戦と世界恐慌だった

 「20世紀の格差縮小は、2度の世界大戦と世界恐慌で起きたにすぎない。経済政策の賜ではない」とピケティは言います。2度の世界大戦で、多くの資本が破壊されただけなのです。また、民間の金融資産は、戦時公債に使われたため、世界大戦の終了と共に戦時公債は紙切れになりました。

 第二次世界大戦敗戦によって、世界各国の資本は大きく失われました。金融封鎖に加えて、建築物や生産設備の破壊も甚大でした。金融封鎖とは、銀行口座を凍結し、同時に新紙幣を発行し、旧紙幣と銀行預金を無効にする政策です。

 戦後の20世紀の格差縮小は、トリクルダウンの成果ではなかった。2度の世界大戦と世界恐慌によるものだった。第二次世界大戦以降、再び富の集中が進み、富の格差が拡大しました。

 フランスで「栄光の30年」と呼ばれる1945年から1975年は、第二次世界大戦のよる富の消失を補うための経済成長だったのです。

 富の消失により、資本所有格差が縮小したため、所得分配が正常に機能したにすぎず、トリクルダウンの成果ではなかったのです。

◇これまでの経済理論は、富の集中を加速させ、役に立たたなくなっている

 20世紀の2度の戦争と世界恐慌で、富裕国だった国は資本を大きく破壊されました。そして、「1970年代以降、所得格差は富裕国で大幅に拡大した。特に米国では、所得格差が著しい」とピケティは言います。ではなぜ、米国は所得格差が早く進んだのでしょうか。

 「米国は、1929年の世界恐慌では、多くの資本を失ったが、第二次世界大戦では、ほとんどの資本は健在だった。米国本土での決戦がなかったからだ。そのため、他の富裕国に比べて、所得格差が早く起きたのだ」とピケティは言います。

 「政府が財政出動をしても、全員が恩恵を受けるわけではない。資本を持っている富裕層のみが恩恵を受けるのである」とピケティは言うのです。

 2008年のサブプライムローンの破綻は、米国政府の財政出動によって金融危機は回復しました。しかし、結果的に恩恵を受けたのは、資本を持っている富裕層や投資家だけだったのです。株価の上昇、不動産価格の上昇によって、富裕層がますます資本を増やしていったのでした。

 多額のローンを抱えてやっと住居を取得した貧困層は、一時的な住宅価格の下落に持ちこたえられずに、多額の負債を残したまま家を手放しました。富裕層は、一時的に下落した住宅をそのまま持ち続け、また新たに底値で購入することで、ますます資本を増やしていったのです。

 「これまでの経済理論は、富裕者がますます富み、貧困者がますます貧しくなる、富の格差を拡大する方向に強く力が働いている」とピケティは言います。米国政府の財政出動によって金融危機は回復したが、恩恵を受けたのは資本を持っている富裕層や投資家だけだったのです。


http://bizacademy.nikkei.co.jp/knowledge/piketty/article.aspx?id=MMAC3l000020042015
第4回 勝ち組と負け組はどこで分かれるのか
2015/4/22


◇技能と技術革新の追いかけっこで労働所得が決まる

 所得は、資本所得と労働所得に分けられます。資本所得とは、資本(財産)から得られる所得です。たとえば、賃料、配当、利子、利潤、キャピタルゲイン、ロイヤリティーといった、土地不動産、金融商品、産業設備など、資本を所有していることで得られる所得です。

 労働所得とは、労働から得られる所得で、賃金、給与、ボーナスなど、労働から得られる所得です。では、労働所得はどう決まるのでしょうか。「労働所得は、技能と技術革新の追いかけっこで決まる」とピケティは言います。技能を向上させる教育は技能の供給を、技術革新は需要を増やします。

 「技能が技術革新を上回れば、労働所得は増える」とピケティは言います。技術革新に応えられる有能な技能を保有していれば、労働所得は向上します。一方、「技術革新に追随できず、応えられる技能が伴わなければ、労働所得は低下する」とピケティは言います。たとえば、単純労働しかできない人であれば、労働所得は低下します。

 技術革新が進めば、新しい技能の需要が高まります。技能の希少性が高まれば、技能の価値が上がります。たとえば、IT技能が進歩する一方、進歩に応えられるIT技術者が希少であれば、そのIT技術者の労働所得は高くなる。つまり、技術革新に対応できた労働者は、高い労働所得を得られることになるのです。これが、ピケティがめざす経済の民主化です。

◇資本(ストック)が生み出す収益率は、歴史的に見て驚くほど高い

 「富の格差を縮小する安易な方法は、資本所得をゼロにすることだ」とピケティは言います。資本所得から、収益を得られないようにすれば、労働所得だけになる。

 労働所得だけであれば、全ての人々が、労働に見合った所得を得ることができる、平等な社会です。

 しかし、「資本所得から得られる利息、投資、賃貸収入などを禁止すれば富の格差を縮小できるが、投資できずに経済が死んでしまう」とピケティはいます。資本主義を継続させ、経済を発展させるためには、資本所得である利息、投資、賃貸収入などを禁止することはできません。

 資本主義が悪いわけではありません。富を平等に分配する、資本の民主主義をどう実現させるかが大切なのです。労働所得の年の増加率と、資本所得の年の増加率では、資本所得の増加率の方がはるかに大きいです。資本所得の増加率は、年4〜5%。労働所得の年の増加率である経済成長率は、年1〜1.5%です。

◇驚くような経済成長率だとしても、先進国に追いついた時点で終わってしまう

 現在のアジア諸国における高い経済成長率は、先進国までに追いつくまでの一時的な現象に過ぎません。驚くような経済成長率だとしても、先進国に追いついた時点で終わってしまいます。

 経済成長率は、先進国に追いつくと、例外なく年1〜1.5%です。一方、資本(ストック)が生み出す収益率は、例外なく、年4〜5%増加しています。資本所得の増加率は、年4〜5%。労働所得の年の増加は、年1〜1.5%。資本所得の増加率が、毎年3.5〜4%と高い。たとえば、4%の格差が10年間続けば、複利計算で約1.5倍の格差になる。20年間続けば2.2倍の格差ができます。

◇勝ち組・負け組は、保有する資本(ストック)の量で決まる

 資本所得の増加率は、年4〜5%で、これを、資本収益率(r;return on investment;ROI)といいます。ピケティは、資本所得の増加率を、資本収益率(r)と呼んでいます。

 労働所得の年の増加率を代表する経済成長率(g;economic growth rate)は、年1〜1.5%です。ピケティは、労働所得の年の増加率を、経済成長率(g)と呼んでいます。資本収益率(r)>経済成長率(g)は、確固たる事実である。これは、ピケティが、300年間、30カ国以上の財務データを分析した、確固たる事実なのです。資本収益率(r)が、経済成長率(g)に比べて、年3.5〜4%と高くなっています。

 勝ち組・負け組は、保有する資本(ストック)の量で決まります。「保有する資本が多いほど、トップ10%の富裕層に近づく」とピケティは言います。「資産家に生まれれば、相続などで勝ち組スタートの人もいる」とピケティは言います。「18〜19世紀の貴族社会では、資産相続の有無が、勝ち組・負け組が決まった」とピケティは言います。

 フランスの貴族は、国民の1〜1.5%でした。貴族が当時最も価値が高かった農地を保有し、世襲相続による富の独占を謳歌した時代です。イギリスの1880年代に書かれたシャーロックホームズでも、貴族時代に引き継いだ巨大な資産の相続問題は、小説の題材として色濃く描写されています。

 「後に産業革命によって、所得格差が縮小したかに思われたが、それは妄想だった」とピケティは言います。20世紀の2度の世界大戦と、世界恐慌によって資本の多くが破壊されたために、所得格差が縮小したにすぎないのです。「資本収益率>経済成長率の時、富の集中が起きて格差を拡大させる」ピケティは言います。負け組であればいかに挽回するかが大切になる。残念ながら、ピケティは負け組の人々が自助努力でどう挽回すればよいかは、何も示唆していません。

◇大規模な資産ほど収益率が高く、それが強い不平等化の作用をもたらす

 「資本収益率(r)の平均は、数十年にわたり4〜5%だが、所有する資本の大きさによって資本収益率(r)が異なる」とピケティは言います。「多くの資本を所有するほど、規模の経済によって、高い資本収益率(r)を得ることができる」とピケティは言うのです。

 規模の経済を検証する興味深いデータがあります。米国の大学が運用する大学ファンド(運用基金)です。大学ファンドの大規模な資産ほど収益率が高いという事実データがあります。米国の大学の多くは、大学ファンド(投資に回している大学基金)を運用しています。1980〜2010年、米国の大学基金850校の資本収益率(r)は、全大学平均8.2%です。全米850大学の学ファンドは、1大学あたり平均5億ドルである。金融危機を含めた、年平均の資本収益率です。

 トップ3のハーバード大学、イェール大学、ブリンストン大学の平均資本収益率(r)は、10.2%と高い。ハーバード大学のファンドは、300〜400億ドル(4兆円)以上です。年間、約4千億円の資金が増加しています。10億ドル以上の基金の資本収益率(r)は、60校の平均で8.8%です。5〜10億ドル以上の基金(60校)の資本収益率(r)は、7.8%。1〜5億ドル以上の基金(226校)は、7.1%。1億ドル未満の基金(498校)、6.2%です。

 なお大学ファンドは、「フォーブス」ランキングの億万長者と同じように、極めて高い収益を上げていることを、ピケティは分析している。資本規模が大きいほど、高い資本収益率(r)が得られるという、規模の経済を検証するデータとして興味深いです。富める者はますます富むという構造が、長期間にわたるデータでも検証されていて、金融危機の悪影響を、完全に克服している点です。

第5回 ピケティ第2の法則を解読 勝ち組となる方法とは
2015/5/13
ピケティの第二法則  資本所得比率βの算出法(β=s/g)
※資本所得比率β ※貯蓄率(s) ※経済成長率(g)

http://bizacademy.nikkei.co.jp/knowledge/piketty/article.aspx?id=MMAC3l000001052015&waad=fAS3oiky

1.資本所得と労働所得の占有率が問題だ(国民所得=資本所得+労働所得)

 「国民所得=資本所得+労働所得」と定義できます。国民所得は、資本から得られる資本所得と、労働から得られる労働所得の合計額です。

 資本所得と労働所得の占有率(シェア)は、資本家と労働者の間で、富の格差を測定する重要な指標として、ピケティは位置づけています。国民所得が前年と同じ場合、資本所得が増えれば、労働所得が減ったことを意味します。資本所得が増える率が、労働所得が増える率を上回れば、富の格差が問題になると、ピケティは言っています。

 資本所得は株式配当、利子所得、賃貸所得など汗をかかなくても得られる収入です。

 労働所得は給与、賞与など、汗をかいて何らかの労働の対価として得られるものです。

 資本所得は、不労働所得ですから、労働所得でがんばっている人から見れば、不公平感を持たれやすいのです。汗をかかなくても得られる資本所得の占有率が高いと、労働者は不公平を感じます。「資本の蓄積によって、資本所得の占有率が年々高くなっている」とピケティは言っています。

 会社を経営する資本家が、労働賃金を引き下げた場合、労働者は労働所得を搾取されていると感じるでしょう。また、マンションを所有している資本家が、賃借人に家賃の値上げを要請すると、自由に使える労働所得が減ります。まさに、資本所得と労働所得の奪い合いが起きているのです。

 資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも常に高いという、「資本収益率(r)>経済成長率(g)」の不等式の問題が、資本所得の占有率を高めているのです。不労働所得である資本所得は、労働者から見れば不幸感を抱かせます。かくして、「労働社会級の不平不満が、ストライキにまで発展することがある」とピケティは言います。日本においても、労使間の労働交渉がもつれ、鉄道や航空のストライキが起きたことがあります。

2.経済成長率を押し上げる要因は、人口増加と労働生産性向上である

 「経済成長率(g)=人口増加率+労働生産性上昇率」です。つまり、経済成長率(g)は、「人口増加率」と「労働生産性上昇率」の和です。経済成長率(g)を高めるためには、「人口増加率」と「労働生産性上昇率」を高めればいいわけです。

 「人口増加率」において、先進国である富裕国になるほど、出生率は低下しています。日本は少子高齢化ですが、日本に限らず、先進国の出生率は低下しています。

 労働生産性上昇率の向上も、経済成長率(g)を引き上げる要因です。経済成長率(g)は、インフレの影響は差し引いた実質分の数値を用います。

 労働生産性向上は、情報システム、生産の自動化、生産ロボットなどによって可能になります。人間の労働を、情報システムや生産の自動化で代替すれば、少ない人数で成果を上げることができます。余剰の人間の労働を、新しい付加価値の創造に回せば、労働生産性向上が可能です。

 「長期間の統計によると、富裕国平均の経済成長率(g)は、1.6%である。内訳は、人口増加0.8%、労働生産性上昇率0.8%である」とピケティは言っています。日本は少子化により、人口増加率が今後マイナスになると言われています。また、労働生産性でも、高齢化による労働人口の減少により、押し下げの力が高まっています。

3.ピケティの第二法則(第二法則:β=s/g:資本所得比率β)

 「資本所得比率βは、富の格差を把握する重要な指標だ」とピケティは言います。資本所得比率(β)とは、総資本ストックが、年間所得の何年分かという指標です。

 たとえば、その国の総資本ストックが、10兆ドルだとする。年間所得が2兆ドルだとすれば、10兆ドル/2兆ドルで、年間所得の5何年分と計算できます。

 「資本所得比率βは、「β=s/g」で定義できる。これを、「ピケティの第二法則」といいます。βは、重要な指標なので、他の指標と区別するために、ギリシャ語の記号を用いています。

 資本所得比率βは、貯蓄率(s;a rate of savings)を分子、経済成長率(g)分母として計算できます。「長期的に見れば、資本所得比率βは、貯蓄率(s)/経済成長率(g)に収束する」とピケティは言っています。

 貯蓄率(s)とは、年間所得の何%の資本を貯蓄するかという比率である。「1970〜2010年における日本の貯蓄率(s)は、14.6%、米国は、7.7%、ドイツ12.2%、フランス11.1%、イギリス7.3%である」とピケティは言っています。

 日本の貯蓄率(s)は極めて高い。貯蓄率(s)が高いと、資本所得比率βが高まります。しかし、経済成長率(g)が高まれば、資本が分散され、富の格差が縮小します。

 「ピケティの第二法則「β=s/g」により、長期的に資本は、年間所得のβ倍(何年分)になるかを計算できる」とピケティは言っています。資本所得比率βの計算方法は、次の通りです。

@資本所得比率βの計算方法
 s=12%、g=2%の場合、β=6、資本は年間所得6倍、6年分

A経済成長率(g)が大きくなる場合
 s=12%、g=3%の場合、β=4、資本は年間所得4倍、4年分

B貯蓄率(s)が大きくなる場合
 s=16%、g=2%の場合、β=8、資本は年間所得8倍、8年分

4.貯蓄率(s)が高まれば、資本の集中が加速し、富の格差が拡大する

 貯蓄率(s)が高まれば、資本の集中が加速し、富の格差が拡大します。これを、「第二法則:β=s/g」の計算例によって、確認してみましょう。次は、s=10%と、s=16%で、比較した例です。

s=10%、g=2%の場合、β=5、資本は年間所得5倍、5年分

s=16%、g=2%の場合、β=8、資本は年間所得8倍、8年分

 各国貯蓄率を、詳しくみていきます。米国の貯蓄率(s)は、7.7%です。日本の貯蓄率(s)は、14.6%である。ドイツの貯蓄率(s)は、12.2%である。イギリスの貯蓄率(s)は、7.4%である。

 日本は高い貯蓄率で、2014年末の貯蓄残高は、1654兆円だ。日本は赤字国債を大量に発行しています。しかし、貯蓄残高はかろうじて、国債発行残高(国の借金)を越えているため、世界的に円は安全通貨だと言われています。

 しかし、「国債残高には、大きな落とし穴があります。発行残高が多いことです。金利の上昇は、大きな波紋を広げる」とピケティは言います。

 たとえば、1000兆円の国債の金利が1%上昇すれば、国に10兆円の追加の金利負担が重くのしかかることになります。「国債金利の上昇は、国の経済を破滅させるリスクを抱えている」とピケティは言います。ギリシャの経済危機、国債の金利上昇は、金融リスクの怖さを彷彿とさせます。

5.勝ち組になるためには、貯蓄率(s)を高めて、自己の資本所得を増やせ!

 勝ち組になるためには、どうすればいいのでしょうか。それは、資本所得を得るために、元手となる自己の資本所得を増やすしかありません。

それでは、元手となる自己の資本所得を増やすために、どうすればいいのでしょうか。ピケティは、個人が資本所得を得るための具体的な手段を提供していないが、敗者復活の手段が無いわけではない。復活の手段は、大きく分けて3つあると言っています。

 敗者復活の1つめは、貯蓄率(s)を高めて、自己の資本所得を増やす方法です。たとえば、労働所得(給与や賞与)の20%を、毎月貯蓄するのです。

 2つめは、貯蓄を元手に、投資で利益を上げて元手を増やす方法です。株式投資、不動産リートへの投資など、価格の下落リスクはありますが、わずかではあるが配当所得が得られるかもしれません。

3つめは、蓄に代わる資本(資産)を、生前贈与などで手に入れることです。この方法は、親がある程度の資本所有者でなければ不可能です。生前贈与で資本所有が可能であれば、資本所得を生み出す原動力となります。

◇   ◇   ◇


西村 克己(にしむら・かつみ)
芝浦工業大学大学院客員教授、日経ビジネススクール講師

1956年生まれ。82年東京工業大学経営工学科大学院修士課程修了、富士写真フイルム(現・富士フイルム)入社。経営効率化推進室に勤務。90年日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員を経て、2003年より芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授。08年同客員教授。著名企業の経営コンサルティング、研修プログラムの講師を数多く務める。専門分野は中期事業戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、MOT(技術経営)、図解思考、ワークショップ、マネジメント研修。
著書は『よくわかる経営戦略』『よくわかるプロジェクトマネジメント』『経営戦略のトリセツ』(以上、日本実業出版社)『戦略思考トレーニング』(PHP研究所)『ロジカルシンキングが身につく入門テキスト』(中経出版)『問題解決トレーニング』(イースト・プレス)『困った部下を戦力化する45の即効スキル』(梧桐書院)など100冊を超える。

 

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