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川崎・簡易宿泊所火災を引き起こした貧困の深層
http://www.asyura2.com/15/hasan97/msg/143.html
投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 29 日 10:31:42: tW6yLih8JvEfw
 

http://diamond.jp/articles/-/72317生活保護のリアル〜私たちの明日は? みわよしこ
【第10回】 2015年5月29日 みわよしこ [フリーランス・ライター]
川崎・簡易宿泊所火災を引き起こした貧困の深層
川崎市で発生した簡易宿泊所2施設の火災は、高齢者の貧困・生活保護と住環境など、数多くの問題を浮き彫りにした。なぜ、このような簡易宿泊所が必要とされ続けているのだろうか? 同様の犠牲者を生みださないために、誰が何を行う必要があるのだろうか?

簡易宿泊所にたどりついた人々を
深夜に襲った大火災


火元となった「吉田屋」跡。ここから火災以前の姿を想像することは不可能だ 
Photo by Yoshiko Miwa
 2015年5月17日午前2時過ぎ、川崎市川崎区日進町で火災が発生した。火元は、木造3階建ての簡易宿泊所の1階と見られている。報道によれば、近隣のマンション住民が午前2時10分に119番通報(毎日新聞記事)。6分後には建物全体に火の手が広がっていたという(NHK・クローズアップ現代「ほかに行き場がなかった〜川崎 簡易宿泊所火災の深層〜」(2015年5月27日放送))。隣接する簡易宿泊所1棟も延焼し、2棟、延べ床面積約1000平方メートルが全焼し、10名が死亡した。居住していた74名のうち70名が生活保護を利用しており、多くは高齢者であった。

 現場捜索は終了と伝えられた5月26日、私は現場を訪れた。再開発の進むJR川崎市周辺は、クールなイメージのオフィスビルや商業施設が立ち並び、近未来的な風景が広がっている。現場は、川崎駅から道のりでわずか1.3kmほど。よく整備された公園があり、住宅やマンションが立ち並んでいる一角である。かつては、日雇い労働者・出稼ぎ労働者たちの「ドヤ街(ドヤ=簡易宿泊所)」として知られていた地域だ。

 とはいえ、「ドヤ街であった」という予備知識がなければ、もしかすると現在も残る簡易宿泊所の数々に気づかないかもしれない。それでも、よくよく見れば、かつては労働者たちを工事現場に送り込んでいたであろう企業の古ぼけた看板が、既に事務所としては使用されていないと思われる建物に残っていたりする。また、昭和20年代建造と思われるトタン造りの老朽住宅も散見される。時代に取り残された建物の数々が、都会的なマンションの足元に沈み込んでいるかのようである。


延焼した簡易宿泊所「よしの」。1階より2階、2階より3階が激しく燃えた様子が伺える。屋根は跡形もない
Photo by Y.M.
 火元となった簡易宿泊所「吉田屋」の焼け跡は、「ここに建物があった」と信じることができないほどだった。延焼によって全焼した簡易宿泊所「よしの」は、1階部分の一部が残っていたものの、2階部分は存在したことが分かる程度、3階は、「3階建てであった」と知らなければ分からない程度にしか残っておらず、屋根は全く残っていなかった。

 首をかしげながら撮影を続ける私の背後を、男子中学生の一団が「火がワーッと燃えているところを見たかったよなあ」と笑いながら通りすぎていった。背筋に寒いものが走った。高齢期に、生活保護と簡易宿泊所以外の選択肢を失う可能性は、誰にでもある。もちろん、私にもある。火災などの惨事の犠牲となって生涯を終えたら、こんなふうにネタとして消費され、そして忘れられるしかないのだろうか?

 民間の立場で生活困窮者支援を行っている大西連氏(認定特定非営利活動法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)・行政の立場で貧困問題に取り組んできた元東京都副知事・青山やすし氏(明治大学教授、“やすし”の文字は人偏に八、月)に、この火災に関する数多くの疑問と受け止めきれない思いをぶつけ、答えていただいた。

日雇い・出稼ぎから生活保護へ
変貌する「ドヤ」の事情


大西連(おおにし・れん)氏。「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」理事長。1987年生まれ。幅広く生活困窮者支援に携わる。発信・政策提言などの活動も積極的に行い続けている
 まずは「事実上、高齢者施設の一類型?」という状態になっている簡易宿泊所の現状について、「もやい」の大西連氏はどう見るだろうか?

「現在、昔の『ドヤ』、簡易宿泊所の多くは、圧倒的に、単身の高齢の生活保護利用者の生活の拠点になっています。一部には、改装して外国人観光客やバックパッカー向けの安価な宿泊施設となっているところもありますが。行政は『高齢者施設の一類型』とは認めないでしょうけれども……。現実として、受け皿となっているのは確かです」(大西氏)

 今回の火災で全焼した2つの簡易宿泊所は、本来であれば2階の屋根裏であるはずのスペースを、事後に「3階」に改装し、宿泊者の居室を設けていた。もちろん、建築基準法に違反している。激しい火災となった原因の一つは、2つの簡易宿泊所が「3階」を設けた結果、内部に「吹き抜け」構造が存在したことにあるとも指摘されている。

 とはいえ、高齢・貧困・その他の困難を抱えた人々が、不完全ながらプライバシーが確保された状態で、一応は安定した生活を営める「住まい」は必要だろう。地域によっては、現在のところは簡易宿泊所が唯一の選択肢である場合もあるだろう。必要は認め、あまりにも劣悪・危険な居住環境に対しては、「貧困ビジネス」とみなして改善を求められないだろうか?

「うーん……『組織的な貧困ビジネス』とまで言えるかどうかは、分かりません。ただ、こういう簡易宿泊所の中には、老朽化し、狭い空間にたくさんの生活保護利用者を押し込んでいるところもあります。必ずしも、値段に見合った設備や環境ではない場合もあります。日雇労働者が時代とともに減少したので、簡易宿泊所の対象が生活保護利用者へと移っていることは確かです」(大西氏)


「Googleストリートビュー」に残されていた今回の火災現場(2015年2月)。マンションに囲まれた一角に、良く似た木造建築物2棟がある。右側手前が火元となった「吉田屋」、右側奥が延焼した「よしの」 (c)2015 Google
 今回の火災で焼け出された人々の中には、住まいのない状態で川崎市の福祉事務所を訪れて生活保護を申請し、全焼した簡易宿泊所を紹介されて「居住」し始めた人々もいるという。

「確かに行政機関も、こういった簡易宿泊所を、『受け皿』として多く利用しています」(大西氏)

「受け皿」になるのは、その人々を受け入れる民間賃貸アパートがほとんど存在しないからだ。全焼した2棟の居住者は、合計74名。そのうち約95%にあたる70名が生活保護利用者であった。この火災で2施設が焼失する以前、川崎市内の簡易宿泊所51施設に居住していた人々のうち、約90%にあたる1349人が生活保護利用者であった。そのうち、約80%は60代以上の高齢者であった。

 高齢に加え、生活保護を必要とする貧困、しばしば、血縁関係からの排除。悪条件が重なった人々は、民間賃貸アパートに入居するのが困難だ。現在のところ、貧困状態にある高齢者向け施設としての簡易宿泊所は、「必要悪」なのかもしれない。

今後も「簡易宿泊所コミュニティ」が
必要とされる事情


青山やすし(あおやま・やすし)氏公式サイト。 1943年生まれ。1967年〜2003年、東京都庁に勤務。1999〜2003年、東京都副知事。2004月より明治大学公共政策大学院教授
拡大画像表示
 東京にも、大ドヤ街として知られた「山谷」がある。長年、東京都庁に勤務し、山谷の貧困問題に行政の立場から関わったこともある青山やすし氏(“やすし”の文字は人偏に八、月)は、簡易宿泊所をどう見るだろうか?

「簡易旅館、簡易宿泊所には、コミュニティが成立しています。故郷や家族の元に帰れない事情を持つ、同じ境遇の人たちのコミュニティがあるんです。それに、今の簡易宿泊所にはエアコンがあり、大きな風呂があり、テレビがあり、自炊設備があります。欧米のバックパッカーも利用しています。簡易宿泊所は、これからも必要です」(青山氏)

 コミュニティがあるといっても、危険と隣合わせの居住環境は、誰にとっても好ましくないものに思える。川崎市では、ホテル等の宿泊施設に対しては定期検査を行っているが、簡易宿泊所は対象としていなかったという報道もある(読売新聞記事)。定期検査と指導が徹底されていれば、回避された惨事ではないだろうか?

「それは、建築安全行政の単なる怠慢。今回の2棟は、木造2階建ての既設からの増築で木造3階建てになっていたということですが、そうであっても、明確に建築基準法違反事件です。通常は、改築中に停止命令を出します。応じなければ、強権発動して行政代執行で取り壊すことができます」(青山氏)

 青山氏は、山谷を所轄地域に含む城北福祉センター(現在は(公財)城北労働・福祉センター)の所長を務めていたこともある。かつては家族で山谷地域に暮らす人々も少なくなかった。その時期の城北福祉センター内には、学校もあったという。しかし家族を持つ人々に対しては都営住宅への入居が促進され、山谷には約1万人の単身者が取り残された。

 その単身者たちは、バブル期までは「日給1万円」といった好条件で日雇いや飯場の仕事を得ることもできていた。しかしバブル後は、高齢化して生活保護利用者になったり亡くなったりした。山谷に暮らした人々の記録を読むと、もともとギャンブルやアルコールなどの依存症、その他の精神疾患を持つ人が少なからず含まれており、一般的な就労は困難な可能性が高かった様子も窺える。本来なら障害者福祉の対象であるべきだった人々だったのかもしれないが、精神障害に対する日本の障害者福祉は、立ち遅れた状態が現在も続いている。

いかに低所得層の「住」を確保するか?
空き家対策などから考える

 以上見てきたように、現在の簡易宿泊所には安全面を中心に数多くの問題が含まれている。それでも必要とされており、背景には貧困状態にある単身高齢者の社会的孤立という問題もある。また、簡易宿泊所を必要としている人々は単身高齢者にかぎらず、多様である。

 問題は、今すぐ解決できるものばかりではない。しかしながら、貧困に高齢が重なり、あるいは高齢に貧困が重なり、生活保護以外の選択肢がない高齢期を余儀なくされる人々は、今後も増加すると予想されている。「これから」のために、何が可能だろうか?


吉田屋の焼け跡に、わずかに残されていた生活の痕跡 Photo by Y.M.
 大西氏は、

「簡易宿泊所が集まっている『ドヤ街』には、近隣から日雇労働者や生活困窮者が集まってくる傾向があるんです。だから、その自治体だけで対策や施策を行うのは、なかなか難しい場合も多いのが実情です。もう少し広域で、例えば都道府県単位や、あるいは国の方針で、予算措置を講じて、簡易宿泊所にいる方々がアパートなどでの地域生活に移れるように、地域移行支援を拡充させていくしかないのかな? とは思っています」

 と、市町村や地域レベルで対策を講じることの困難を認める。「簡易宿泊所しかない」という状況に陥る高齢者の貧困や孤立は、結局は日本全体の構造的問題である以上、国として本質的な対策を講じる以外に解決方法はないのかもしれない。しかも日本では、住宅が不足しているわけではない。むしろ、空き家・空き室対策が問題となっている。


残されたパイプ椅子。黒く焼け焦げている
Photo by Y.M.
「空き家対策とからめて解決を考えるのであれば、低所得者向けに借り上げアパート施策を行うなど、段階的に『ドヤ』から地域に移ることができるような体制を整える必要があるかと思います。また、各自治体で住宅支援協議会等を設置し、住宅部局・福祉部局、さらにNPO等が一堂に集まり、議論できる場を作っていく必要もあるかなと思います」(大西氏)

 青山氏も、政策での解決が必要と考えている。解決策は、さらに積極的だ。

 まず、青山氏は「養護老人ホームの増設が必要」という。常時介護を必要とする高齢者を対象とした「特別養護老人ホーム」は、増加し続ける切実なニーズに応じきれていないとはいえ、既に多数存在する。青山氏が必要であると考えるのは、支援を必要とするものの生活面での自立が可能な高齢者を対象とした「養護老人ホーム」だ。

 さらに青山氏は、

「『アフォーダブル・ハウジング』が重要だと思います」

 という。

「アフォーダブル・ハウジング(Affordable Housing)」とは、「大きな無理をせずに購入したり賃借したりできる住まい」あるいは「そのように住まいを獲得できること」を指している。近年、欧米各国で広く浸透している考え方であり、特に低所得層のみを対象にしているわけではなかったが、不景気や住宅相場高騰の際には、事実上、「低所得層向けの住まい」として機能する。公営住宅(Social Housing)や公共住宅(Public Housing)と異なるのは、「低所得層『だけ』の住まい」とはならない可能性もあるところだ。

「たとえば、民間企業がマンション建設を行う場合に、一部、低所得者向けの物件を併設することを義務付けるという方向が考えられます。さらに、低所得者向け物件を併設した場合、容積率を割増するなどのインセンティブを付与することも考えられます」(青山氏)

 そのためには、「多様な人々が住んでいることがよい」という合意形成が必要だろう。まずは大西氏のいう「一堂に集まり、議論する場」で、地権者・デベロッパー、そして貧困状態にある人々を含めて「住まい」弱者が顔を合わせ、対等に意見を交換する必要があるのかもしれない。

 大西氏は、


「吉田屋」に隣接する駐車場に置かれていた自動車も、火災の被害を受けている
Photo by Y.M.
「『ドヤ』に住んでいる人たちの多くは、高度経済成長時代に、建築労働などの第一線の現場で、都市開発を進めてきた人たちです。文字通り、汗水流して日本社会のために働いてきた人たちです。でも時代とともに産業構造が変化し、雇用からこぼれ、家族や社会保障からもはじかれて、人知れず都会の片隅で生活しているわけです。『ダイヤモンド・オンライン』の読者の方々は、幸せな老後を送るために頑張っている方々かもしれませんが、『貧困』との境目は、あいまいで地続きなんです。この火災の事件が、『豊かな社会とはなにか』という問いのきっかけになってくれれば、と思います」

 という。

 今回の火災の被害者や犠牲者は、焼け出され、あるいは亡くなって初めて、「そういう人たちがいる」と社会に認識された。ここで終わらせてはならないだろう。

 次回は、貧困問題を解決するための「公共」の役割について、踏み込んで考えてみたい。このところ強調される「共助」が機能するためには、何が必要なのだろうか? 「公助」のすべきこと・「公助」にできないことは、何なのだろうか?  

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