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北極海航路の開拓が起こす、世界規模の地殻変動 大航海時代の到来に匹敵するインパクトをもたらす 
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投稿者 rei 日時 2015 年 7 月 01 日 13:02:26: tW6yLih8JvEfw
 

北極海航路の開拓が起こす、世界規模の地殻変動 大航海時代の到来に匹敵するインパクトをもたらす
2015年7月1日(水)奥山 真司

 世界で最も新しく、そして革命的な地政学的スポットを挙げろと言われれば、多くの専門家は「北極海」と言うであろう。
 日本人である我々にはそれほどなじみのある場所ではない。ましてや、ここを訪れた人はほとんどいないはずだ。
 ところがこのなじみのない場所が、地政学の視点から見て「地殻変動」とも呼べるくらいの大きな変化を世界規模で起こすポテンシャルを秘めている。「地殻変動」とは少々大げさではないか、と思う方もいらっしゃるかもしれないが、本稿をお読みいただければ、そのインパクトの大きさがお分かりいただけると考えている。
 結論を先に言えば、「北極海」は世界の交通ルートを大きく変える可能性を持っている。北極海が地政学において革命的である理由を、以下で論じてみたい。
海が持つ4つの役割
 ジェフリー・ティル(Geofferey Till)という英国の偉い学者がいる。この人はいわゆる「シーパワー」の研究者として長年高い評価を得ている専門家だ。戦略的な視点から海の重要性を研究したことのある人ならば、この名を知らない人はいないと言っても過言ではないほど有名な存在だ。
 彼はシーパワーについてまとめた教科書を書いている。その中で「そもそも海とはどういう意味を持つものか」という根本的な議論をしている。ティルは、海は人類との関係において4つの役割があると言っている。その4つとは、(1)資源、(2)交通路、(3)情報交換の媒体、(4)支配する場だ。それぞれについて順番に説明していきたい。
 (1)は人間が活用する資源を蓄えている場という役割だ。海には魚のほかに、海底に眠る石油や天然ガス、それに鉱物やメタンハイドレートが存在する。
 資源があれば、その採掘権や漁業権を巡って、人間は争いを起こす。北極海でまさに起こっている現象だ。関係国の中でとりわけロシアが、北極海に眠る石油や天然ガス(世界の未採掘の埋蔵量のうちの3分の1とも言われる)などの海底資源に大きな関心を持っていることは周知の事実である。
 (2)は、船や潜水艦にとっての「通り道」の役割だ。平時と戦時、つまり、船が軍艦か商船かに関係なく、海は通り道となる。
 この通り道を支配したものが国際的に強い発言力を持つことは、第一次世界大戦までの英国や、現在の米国が実証している。ホルムズ海峡やマラッカ海峡の例から明らかだろう。
 (3)の役割は、インド洋やアラビア海を考えれば納得できる。例えば初期のイスラム教は、船乗りでもあったアラブ商人たちの交易活動を通じて広められた。彼らは海を越えて活動することによって、情報、とりわけ宗教、思想、慣習を広めた。
 (4)は「中国がかわしたい米国の“海峡封鎖”」の回で触れたように、ある大国が周辺の海を「内海化」すると世界に向けて国力を発揮し始めることに関係する。世界の「公海」は現在、ことごとく米海軍が支配している。この一部である南シナ海における中国の挑戦は、米国との利害衝突に発展せざるを得ないのである。海はそれを支配する意志を持った存在に支配されるものであり、その支配を巡って国際的な紛争が起こりやすい。
 では、具体的に北極海はどうなのか。上の(1)〜(4)の中で、(3)以外の要素がすべて表れている。ただし古典地政学の観点から言えば、北極海にとって最も決定的な要素は、(2)の交通路の役割だ。
大航海時代が到来し中央アジアの衰退を招いた
 このことを最も顕著に教えてくれるのは、本連載でも扱ったマッキンダーの理論である。
 既に書いた通り、マッキンダーは1900年頃までの世界史を、おおまかに3等分して整理していた。念のためにこれをもう一度記しておこう。
• (1)コロンブス以前の時代:1000年〜1500年、馬、ランドパワー
• (2)コロンブス時代:1500年〜1900年、船、シーパワー
• (3)コロンブス後の時代:1900年〜、鉄道、クルマ、ランドパワー
 つまり、マッキンダーは自身の生きていた日露戦争の頃を、ランドパワーが復活し始めた転換期と位置づけている。この考えをベースに「ハートランドから来るランドパワーを警戒せよ」という「ハートランド理論」を完成させた。
 ただし、私はいまだにシーパワーの時代が続いていると解説した。マッキンダーが「ランドパワーの到来」ととらえるのは陸上交通の力を買いかぶりすぎているからだ。私は(2)のコロンブス時代(大航海時代)の到来は、人類史上において最後で最大の地政学的変化を巻き起こしたと評価している。
 その最大の理由は、交通ルートの変化の大きさが史上最大であったからだ。
 1500年、つまり大航海時代が始まった頃よりも前の世界のメーンの貿易ルートは陸路であった。例えば欧州とインド・中国をつなぐ交通路の多くは、現在のトルコや中央アジア(シルクロード)を通るものであった。
 ところが1500年代に入ると欧州において航海術と造船技術が大きく進展。まずポルトガルが、同国とインド西岸のゴアをつなぐ航路を開拓した。アフリカ最南端の岬である喜望峰を回るルートだ。
 この新しい航路の開拓により、今まで使われていた中東方面の陸路はスキップされるようになった。このルートの魅力は半減してしまい、それに伴い、この地域の産業力や国力が長期的に衰退していった。
北極海は、まずミサイルと潜水艦の通り道に
 マッキンダーの「ハートランド理論」によれば、人類史上3度起こった交通ルートの劇的な変化は、すべてユーラシア大陸の「ハートランド」の北側にある、氷で閉ざされた北極海より南側で起こるとしていた。
 実際にその図を見てみると、以下のようになる。
マッキンダーの図
出所:Halford J. Mackinder,"The Geographical Pivot of History," The Geographical Journal, Vol. 23, No.4,(April 1904)
 この図をベースに世界の安全保障問題を(とりわけシーパワーの観点から)考えると、自然と「北極海は通れない」という前提になる。
 この地図が示す前提が崩れたことがかつてある。冷戦直後に始まった北極圏を巡る争いだ。エアパワーの観点から古典地政学に貢献する議論をした人物に、アレクサンダー・ド・セヴァースキーがいる。ロシア出身の米国人で、元パイロットの実業家だ。
 この人物は米国とソ連の冷戦が始まると、この両国を最短距離でつなぐ北極海上空を「決定的な領域」(the Area of Decision)と名づけて喧伝した。これがきっかけとなって米ディズニーがアニメ映画を制作。これに影響を受けた米国の人々が、北極圏に移住する可能性を真剣に議論したことがある。
 ところが北極圏は基本的に人間を寄せ付けない不毛の土地であったために、移住は全く進まなかった。その結果、北極圏は大陸間弾道ミサイルや潜水艦の通路という、純粋に軍事的な役割しか果たせなかった。
いよいよ北極海が新たな貿易ルートに
 ところが、この北極海が最近になって大きな注目を集めるようになった。それには人間が生み出した技術が2つの点で関係している。
 一つは、海底油田の掘削技術の向上だ。これが向上したことで、資源を採取できる可能性が高まった。もう一つは、「地球温暖化」だ。北極海の氷が溶解したことによって、新しい貿易ルートが出現した。まだ氷の溶ける夏の間だけに限定されているが、それが本格的なものになる可能性は高い。
 この「新しい貿易ルートの出現」は、地政学上の「革命的」な出来事になり得る。そのインパクトは、前述した喜望峰周りの貿易ルートの誕生に匹敵する。
 いわゆる北極海航路は3つのルートがあると言われている。ロシア寄りの北東航路、カナダ寄りの北西航路、そして、北極点付近を最短で通過する航路だ。第3のルートは中国が開拓を狙っているとされる。現在、最も活用されている北東航路を使えば、日本から欧州までの距離が、中東のスエズ運河周りのものと比べて3〜4割ほど縮むと言われている。実際に様々な国が試験運用を始めている。
 このルートのもう1つのメリットは、海賊が出たりして治安の悪い中東(や東南アジア)の航路を使わずに済むことだ。確かにこのルートを使えば、通過する沿岸国は基本的にロシア一国だけ。ソマリア沖のように治安維持体制が崩壊している国の近辺を通過し、海賊に襲われる可能性は少ない。気温の低さと天候の悪ささえ克服できれば、距離の短さといい、治安の良さといい、良いことずくめなのだ。
 よく「歴史は繰り返す」と言われる。北極海航路は、実現すれば世界の貿易ルートを激変させる、とんでもないポテンシャルを持つ。
北極海でも「ロシア対その他」の対立
 最後に、北極海を巡る争いに関わる最近の地政学的な動きを追い、それが日本にとってどのような意味を持つのかを考えてみたい。
 もちろん、状況は流動的であり、最新の情報もすぐに陳腐化してしまう恐れがある。だが、その対立構造は、基本的に冷戦時代のものを受け継いでいると考えれば分かりやすい。
 北極海を巡って「北極協議会」が1996年に発足している。閣僚級が出席するハイレベルの政府間協議会だ。その中心メンバーは、北極海に臨む8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国)である。
 ここでの最大の権力争いは、ロシアとカナダの間のものだった。当初は、両国の「どちらが北極海を内海化するか」という対立が目立っていた。その後、米国が、資金の無いカナダに「航行の自由」を説くとともに、カナダを支援する体制を取り、それが最近でも続いている。
 北極協議会には、北極圏に面していない複数の国がオブザーバーの資格で参加している。その中には、欧州の有力な国々や日本、中国、韓国、さらにシンガポールやインドまで名を連ねる。
 数年前までの対立構造は、大まかにいえば
 ロシアとノルウェー vs カナダ・米国主導の連合
 であったが、2014年にウクライナ危機が起こってからは
 ロシア vs その他
 という分かりやすい構造になっている。ロシアとその他の国の間に中国が立ち、利権を得るべく様子をうかがっている。ただし中国は、北極海周辺の直接的に利害の絡む国々、とりわけロシアから、その野心を異様なほどに警戒されている。砕氷船型の調査船を派遣して北極海航路を調査しているからだ。(参考文献:北極海における安全保障環境と多国間制度)。
 筆者は数年前、あるカナダ人の学者と個人的に話をしていた時に非常に興味深いコメントを聞いた。彼は「中国が北極圏の利権争いに入ってきたら、リベラルなカナダ人でもさすがに怒るぞ」と語った。詳しく聞いてみると、北極海に直接の利害を持たないよそ者が、北極海という「白人だけの海」に介入してきたらタダではおかないぞ、ということだった。この発言は、先に紹介したロシアが感じている恐怖感とも符号する。
宗谷・津軽海峡の価値が再び高まる
 では、北極海における動きは、日本にとってどのような意味を持つのだろうか。将来的には日本の北部、とりわけ北方領土の周辺のチョークポイントが、冷戦時のように再び熱い注目を集めることになるかもしれない。
 冷戦時代、とりわけ80年代の中曽根政権時代に、日本は津軽、対馬、宗谷という「三海峡」の守りを固めることによって、ロシアに対する米国の海洋戦略を支えていた。
 その後、ソ連の崩壊によって、「三海峡」の重要性は低下した。だが、もしロシアの北東航路が利用されるようになり、中国が艦船を警戒に当たらせるようなことになれば、日本は津軽海峡や国後水道における彼らの行動を注視せざるを得なくなる可能性がある。
 「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマンは「地理は変わらないが、その意味は変わる」というとても印象的な言葉を残している。これは北極海に関する日本のケースにも当てはまる。
 要するに、日本列島とその周辺の海との地理的な関係は何万年も前から変わらないのだが、その意味は技術の進歩などにより大きく変わる。北極海が貿易ルートとして利用できるようになることによって、日本の北方地域が持つ政治的な意味が変化するのだ。
 北極海を巡って関係各国を動かしているのは、「現在それがどうなっているのか」という事実よりも、「それが将来どうなりそうなのか」という印象や憶測である。なんだかインチキくさいとお考えの方もいらっしゃるとは思うが、国際政治は往々にして、客観的な「事実」よりも、それが将来的にどうなりそうなのかという「印象」によって動かされる部分が大きい。
 その典型がこの北極海問題だ。今後は、安全保障だけでなく、貿易航路や資源開発というビジネスの話とも絡んでくる。我々、日本人も注視していかざるを得ない。



これを知らずにもうビジネスはできない! 「あなた」のための「地政学」講座
近年の国際政治や経済に関するニュースやコメントで「地政学的な視点」「地政学リスク」という言葉を聞く機会が増えた。ところで、この一見分かりやすそうであいまいな言葉の本当の意味を、われわれは知っているだろうか?
世界戦略でつまずく米国のバラク・オバマ政権の動き、ウクライナ危機、EUの財政危機、そしてシリアやイラクで揺れ動く中東情勢など、「地政学」というキーワードなしでは現代の国際政治を語れなくなってきた。
地政学と戦略学の専門家である奥山真司氏が現代の世界情勢を読み解くカギとなる、地政学の歴史と応用の仕方を解説する
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/279273/062900001 
 

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コメント
 
1. 2015年7月05日 12:16:39 : Cur0RCSFcE
この記事を書いた人物は「物事をビジネスでしか思考できない」か、「開発や開拓は全て善」だと思い込んでいるな。
「南米のアマゾン開発、東南アジア諸国のジャングル開発」が、どれほど人類の未来を閉ざすことになっているのか考えたことがないアホだ。

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