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逆風下の新興国
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投稿者 あっしら 日時 2015 年 9 月 13 日 03:09:23: Mo7ApAlflbQ6s
 


※日経新聞連載

逆風下の新興国

(1) ブラジル「鉄の女」が正念場 高インフレ消費に影

 世界経済のけん引役を果たしてきた新興国経済に逆風が吹いている。中国の株安や米利上げ観測を契機に各国の構造問題が浮上、経済成長の減速が資金流出を招いている。今、何が起こっているのか。まずは来年のリオデジャネイロ五輪を控える中、景気後退局面に入ったブラジルの現状を探った。

 「私に何の責任があるのよ!」。首都ブラジリアにある大統領公邸にルセフ大統領の声が響き渡ったのは最近のことだという。うつむくメルカダンテ官房長官やカルドゾ法相ら側近たち。落ち着き無くうろつく姿も頻繁に目撃されている大統領。彼女は今、追い詰められている。

 ルセフ氏が「変革者」とあがめるルラ前大統領から政権を引き継いだのは2011年1月のことだ。左派・労働党のルラ氏が政権についた03年から、ブラジルは新興国「BRICS」の一角として存在感を高め、世界的なカネ余りを背景に海外から資金を呼び込んだ。

 中国を中心とした新興国の経済発展はブラジルの鉄鉱石や大豆などの輸出拡大を呼んだ。通貨高は金利を引き下げ、割賦好きで有名な国民の消費意欲をかきたてた。「コモディティー」と「内需」の2つの成長エンジンで10年の経済成長率は7.6%にのぼった。

 しかし、8月末に発表された15年4〜6月期の国内総生産(GDP)は雇用の悪化や消費の停滞で前期比1.9%減で2四半期連続のマイナスだった。南東部の都市ソロカバ。トヨタ自動車の工場が稼働し、成長の象徴とされたこの町のあるショッピングセンターはさながら“シャッター商店街”だ。10年の開業時に98あった店舗が今はわずか15。こうした現象は全国で起こっているのだ。

 今年は6年ぶりのマイナス成長が見込まれるブラジル。「新常態」と呼ばれる成長鈍化を容認した中国の習近平政権の路線変更で歯車が狂い始めた。買い手を失った輸出は落ち込み14年の貿易収支は00年以来の赤字に転落。通貨安でインフレ圧力が上昇、金利の引き上げが消費減退を招く「逆回転」が止まらない。

 かつて年率1000%以上のハイパーインフレに苦しんだこの国はいまだにインフレ退治ができない。輸出に占める1次産品の割合は1994年の25%から14年は48%に上昇している。資源高にあぐらをかき「1次産品価格の影響を受けやすい産業構造を歴代政権が放置してきたツケだ」(地元アナリスト)。

 サンパウロでは先月16日、人々が目抜き通りを埋め尽くした。「ジルマ(ルセフ氏)は去れ!」。全国で約88万人がデモで大統領の退陣を求めた。国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職疑惑では50人以上の政治家らに渡った金額は190億レアル(約6000億円)。政権への支持率は8%だ。

 「輸出か死か」――。かつて経済開放を進めインフレ抑制に道筋をつけたカルドゾ元大統領は輸出振興に取り組んだ。今、ルセフ氏も同じ心境だ。政府は18年までに貿易手続きの簡素化や日本を含む32カ国の優先地域への市場開拓を進める輸出振興策を発表した。

 最近、本紙との書面会見で「ブラジルはより強固で、より競争力に恵まれた形で(苦境から)抜け出る」としたルセフ氏。軍事政権下、3年間の獄中での拷問にも耐えた「鉄の女」は今、正念場に立つ。

(サンパウロ=宮本英威)

[日経新聞9月5日朝刊P.5]

(2) 高成長インド…モディ期待に変調 モザイク国家に遠心力

 「彼は約束を守り、我々の土地を守ってくれる」。インドの最貧州、ビハール州にこんな歌が響き始めた。今秋の州議会選挙のキャンペーンソング。同州のクマール州首相を賛美する歌詞は、国政を担うモディ首相を「農村軽視」と皮肉る。今やクマール氏は「反モディ」の象徴だ。

 モディ政権が発足し1年以上が過ぎた。「メーク・イン・インディア(インドでモノづくりを)」を掲げた経済改革「モディノミクス」は法制度など事業環境を整備し企業に投資を促す。そうすれば雇用が生まれ所得や消費を底上げできる。政権1年目の2014年度の直接投資受け入れ額は448億ドルと3年ぶりの高水準。実質国内総生産(GDP)成長率も就任前の6%台から7%台に加速した。

 ただ天候不順で農業は14年度後半、マイナス成長だった。人口の7割、消費の5割を占める地方に、製造業中心のモディノミクスの恩恵は及んでいない。鉱工業生産の伸びも2〜3%で低迷する。インド中小企業連合会(FISME)は「政府は大規模計画を発表するが、中小企業は疎外感を持っている」と指摘する。

 就任時、お茶売りから上り詰めた「庶民派」として一身に人気を集めたモディ氏。しかし今、州境をまたげば言葉や民族が異なるようなモザイク国家に「遠心力」が働き始めている。

 主要政策、土地収用法改正に地方のコンセンサスを得るため開いた7月の会合。座長のモディ首相は、がら空きの会場で顔を引きつらせた。半数近くの州首相がボイコットしたからだ。モディ首相の後ろに張られた「チーム・インディア」の標語がむなしく揺れた。

 8月までの夏の議会も野党のヤジに阻まれ、審議は一切進まなかった。モディノミクスの二本柱である同法の改正案と、間接税を一本化する物品サービス税(GST)の導入法案は棚ざらし。海外企業が望む事業環境の改善は遠のく。

 「変調した期待(Modified Expectations)」――。印大手格付け会社クリシルのリポートは「(政権発足による)改革への期待と景気回復の期待が大きかった分、今は厳しい目にさらされている」と評した。

 ただ、明るい兆しはある。今、市場関係者の間ではモディ政権の規律ある財政政策が評判を呼んでいる。昨年来の石油製品への増税などで、今年4〜6月期に間接税収が大幅に増え、逆に原油安で補助金が大きく減ったからだ。「モディ政権は新たに生まれた3700億ルピー(約6600億円)の歳出余力をインフラ整備に振り向けられる」と、印格付け会社インディア・レーティングス・アンド・リサーチのエコノミストは語る。

 インド準備銀行(中央銀行)も側面支援する。既存銀行を補完する小規模銀行の免許を11企業に与えると8月19日に発表。融資業務は禁じるが、銀行サービスが普及していなかった農村などに預金や送金の手段を提供する。格差是正と国内の資金循環の改善に一石投じる試みだ。

 下院では議席数の過半を押さえるものの、上院では2割しか票を固められないモディ政権。昨年の総選挙の圧勝とは裏腹にモディノミクスは思うように進まない。それでも「最悪期は脱した」との評価は変わらない。抵抗に遭う抜本改革でなく「小粒でも実効性のある政策を進められるか」(現地銀行幹部)に市場の目は移りつつある。

(ニューデリー=黒沼勇史)

[日経新聞9月6日朝刊P.5]


(3) マレーシア、きしむ開発独裁 国頼み、歯止め役不在

 マレーシアの首都クアラルンプールから南端ジョホール州は高速バスで4時間の道のりだ。乗客は異口同音に漏らす。「退屈だ」。沿道の風景は人工林が切れ目なく続く。パーム油原料のパームヤシを育てる農園だ。

 パーム農園の面積は2013年時点で520万ヘクタールと1990年の2.5倍強に膨れた。いまでは国土面積の15%だ。輸出産業育成を目的に国が号令をかけ、ジャングルを開いた結果だ。だが中国景気の減速を受けてパーム油の需要は低迷し、今年1〜6月の輸出額は前年同期比で1割強減った。それでも政府系企業は農園買収を進め、各社の株価は下落基調だ。

 マレーシアは57年の独立以来、最大政党統一マレー国民組織(UMNO)を中核とする連立与党が政権を握る。強固な政治基盤を活用して国が産業政策を独断で決め、政府系企業が実行部隊の役割を担った。

 政権を22年間握ったマハティール元首相が礎を築いたこの手法は「開発独裁」と批判されたが、発展途上国からの脱却を果たした原動力となったのも事実だ。しかし開発が一段落しても国の影響力は拡大が続く。政府系企業はほぼ全ての産業を牛耳り、主要17社の株式時価総額増加率は国内総生産(GDP)の伸びをはるかに上回る。強すぎる政府が歯止めを失えば、成長を縛る鎖ともなる。

 その象徴が国営投資会社「1MDB」だ。不動産や発電施設を手当たり次第に買収し、積み上がった負債は軽く1兆円を超す。約定返済は毎回綱渡りだ。同社を設立したナジブ首相への資金提供疑惑も浮上し、同国の政界は激震に見舞われている。政情不安を嫌い、通貨リンギは17年ぶりの安値に沈んだ。

 最大の問題は透明性の不足だ。1MDBは財務の発表を渋り、国民の不信を招いた。ナジブ氏の疑惑の真偽は捜査に委ねられたが、有力シンクタンクIDEASのサイフル・ジャン最高責任者は「国内外の信頼を取り戻すのは難しい」と指摘する。

 午後4時前、首都中心部にある政府合同庁舎の職員向け駐車場がにわかに活気づいた。帰宅ラッシュのスタートだ。定時より早く仕事を切り上げ帰宅する公務員も少なくないとされる。

 同国経済は直近の4〜6月期まで年率5%前後の成長を続ける。08年のリーマン・ショック後の混乱をいち早く脱皮した格好だ。原動力は消費だ。だが堅調な消費も国が演出した側面が強い。

 国が14年に支払った公務員給与は総額で約653億リンギ(約1兆8千億円)に達し、2年前より50億リンギも増えた。労働力人口に占める公務員の割合は周辺国の2倍といわれる。公務員に過大な給与を払い消費を支える戦略が透けて見える。

 だが「大盤振る舞い」の原資は国の借金だ。政府債務残高はGDPの約55%に達し、格付け機関は同国国債の格下げをちらつかせる。慌てて4月に税率6%の消費税を導入したが、消費者心理を示す指数は過去最低の水準に落ち込んだ。ドタバタ劇から浮かび上がるのは、国が借金をして消費を底上げする「官製消費」の限界だ。

 マレーシア経済は無理をして用意した「ゲタ」を履きこなせずによろめいている。高度成長時代に機能した国主導の経済運営は、同国が目標と掲げる20年の先進国入りを目前にきしみをみせる。国頼みを続ける新興国にとって他人事では済まされない。

(クアラルンプールで
吉田渉)

[日経新聞9月8日朝刊P.7]


(4) タイ 漂う「アジアの工場」 構造改革、官民で着手

 「過去20年で最大の値下げ!」――。8月、タイにスーパーなど大小1800の店舗を構えるテスコ・ロータスはこんなうたい文句で生鮮食品などを大幅に値下げするキャンペーンを打ち上げた。ライバル企業のビッグCも追随。市民の消費意欲をなんとか呼び起こそうと各社とも躍起だ。


 タイ経済の停滞が長引いている。2015年の国内総生産(GDP)伸び率は3%前後と、潜在成長率とされてきた5%を3年連続で下回る見通しだ。今この国は成長軌道から脱線し、先進国入りできないまま成長が鈍化する「中進国のわな」にはまり込んでいる。

 車市場で9割のシェアを握る日系メーカーはあきらめ顔だ。新車販売は今年7月まで27カ月連続で前年割れ。年間実績でも当初の増加予想から一転「(前年比1割減の)80万台にも届きそうにない」(トヨタ自動車の棚田京一常務役員)。

 こうした消費不振の背景には家計債務の高止まりという難題が横たわる。インラック前政権時代、農村での選挙基盤固めと経済成長の二兎(にと)を追った消費奨励策で、農村を中心に借金頼みの過剰消費がまん延した。その後遺症は重く、家計債務はGDPの8割に達し、消費にカネが回らない。

 14年5月の軍事クーデターで前政権が崩壊。軍が全権を握り、同年9月にプラユット暫定首相による政権が発足し、政情は安定するはずだった。

 しかし、8月17日に首都バンコクで死者20人を出した爆弾テロは、数少ない好況業種だった観光業に冷水を浴びせた。周辺産業を含むとGDPの2割を占める稼ぎ手のため、政府はイメージ回復を急ぐ。タイの売りは「政情の安定と、温和な国民性」だからだ。

 タイは1997年のアジア通貨危機後、通貨バーツ安を追い風に輸出のアクセルを踏んで成長に結びつけた。2000年には外資単独での製造業参入を解禁。安定した治安は日本の自動車大手などの投資を呼び込み「アジアの工場」として中進国への仲間入りを果たした。

 しかし、周辺国の工業化が進み、労働生産性の改善や高付加価値品への産業シフトが課題として浮かび上がってきた。

 こうした中で政府は、持続的成長と競争力強化に向け産業の構造改革に乗り出した。「研究開発(R&D)投資額をGDP比1%に高める」。プラユット暫定首相は7月、こう宣言した。14年の投資はGDP比0.45%だ。これをシンガポールや日本並みに増やし、産業の高度化を目指そうというわけだ。

 新たな産業誘致も進める。狙うのは電気自動車や航空機、バイオ燃料などのハイテク分野だ。1月に改正した投資優遇制度では、政府が定めた高付加価値産業に8年間の法人税免除など恩典を用意した。

 企業レベルの取り組みも始まった。時価総額で国内最大のタイ石油公社(PTT)は5月、タイ中部ラヨーン県に約50億バーツ(約170億円)を投じ、理系の高校と大学院大学でつくる学園都市を開いた。将来は産学連携の拠点に育てる考えで、他のタイ企業にも出資や参画を呼びかける。

 国連のある試算ではタイは少子高齢化で15〜20年の間に生産年齢人口が減少に転じる。1人当たりの付加価値の拡大は経済成長の持続に不可欠だ。官民の取り組みが実を結べば、「わな」を抜け出す力になる。

(バンコク=小谷洋司)

=おわり

[日経新聞9月9日朝刊P.7]


 

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