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「ロシア軍事介入 新局面のシリア内戦」〜これまでの中東への「不介入政策」を大きく転換するもの/nhk石川一洋・出川展恒
http://www.asyura2.com/15/kokusai11/msg/583.html
投稿者 仁王像 日時 2015 年 10 月 21 日 20:03:52: jdZgmZ21Prm8E
 


時論公論 「ロシア軍事介入 新局面のシリア内戦」

石川 一洋 解説委員 / 出川 展恒 解説委員 2015年10月10日 (土)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/229220.html

(出川展恒 解説委員)
 内戦が続くシリアでは、先月30日、ロシアが空爆作戦を開始しました。
ロシアは、過激派組織IS・イスラミックステートを排除するためとしていますが、アメリカなどは、事態を複雑化させるとして強く批判しています。
 新たな局面を迎えたシリア内戦について、ロシア情勢担当の石川一洋解説委員とお伝えします。
 
(出川)
 石川さん、まず、ロシアの空爆作戦、どのように行われているのか、簡単に説明してください。

(石川一洋 解説委員)
 ロシアは、ソビエト時代を含めて、これまで中東への直接の軍事介入は避けてきましたが、 今回の空爆は、この「不介入政策」を大きく転換するものです。ロシアは、地中海沿いのラタキア郊外の空港に40機あまりの空軍部隊を展開させ、空爆を始めました。
7日には、カスピ海から巡航ミサイルによる攻撃を始めました。 攻撃地点は、シリア北部のラッカ付近などISの拠点も攻撃していますが、主に、アサド政権側の支配地域と反政府勢力の境界付近を攻撃しています。
 アサド政府軍と密接な連携が見てとれます。
 ロシアは、ISなど「イスラム過激派のテロリスト」を攻撃しているとしていますが、アメリカなどは、IS以外の反政府勢力を攻撃していると非難しています。
 
(出川)
 4年前に始まったシリアの内戦は、当初、アサド政権 対 反政府勢力の攻防でしたが、 去年、ISが台頭し、いわば「三つ巴」の戦いになっています。アサド政権をロシアが支援し、反政府勢力をアメリカを中心とする「有志連合」が支援しています。
 ただし、反政府勢力と言いましても、さまざまな集団の寄せ集めで、内戦の構図は、非常に複雑です。
 
 アサド政権は、ISと反政府勢力の攻勢を受けて、支配地域を次々と失い、シリアの西部を中心に、国土の4分の1程度しか統治できなくなっていると指摘されています。
 石川さん、ロシアが、シリアへの空爆に踏み切った理由をどう見ていますか。
 
(石川)
 理由は3つあります。
▼第1に、アサド政権を支援し、存続させること。
▼第2に、ISがロシアにとっても、現実的な脅威となっていること。
▼第3に、中東地域への影響力を回復・拡大することです。

(出川)
私も、ロシアの軍事介入の背景には、事実上の同盟関係にあるアサド政権を崩壊させたくないという、強い危機感があると思います。
 
(石川)
 ロシアはイラク戦争でフセイン政権を失い、いわゆる「アラブの春」でリビアのカダフィ政権を失いました。
ソビエト時代からの友好国・中東の足場として残っているのは、アサド政権だけです。

 またISは、ロシアにとっても、現実的脅威です。ISには、チェチェンなどロシア出身者が多数参加しています。
仮に、アサド政権が崩壊すれば、ISなどイスラム過激派がシリアを支配し、地理的に近いロシアが標的となると恐れています。ロシアへのISの侵入を防ぐ「防波堤」という意味でも、アサド政権を維持する必要があるのです。

(出川)
 もう1つは、中東地域への影響力の回復ということですが、ロシアは、ウクライナ問題で国際的に孤立していましたね。
 
(石川)
 はい。ロシアは、アメリカの対シリア政策が破たんし、大量のシリア難民が、ヨーロッパ諸国に押し寄せ、国際的な関心が高まったタイミングをとらえ、空爆作戦に踏み切りました。
 
 イランとイラクという2つの地域大国からの協力も得て、シリアを加え、4か国共同の情報センターを設置しました。
「ISとの戦い」という旗印の下、一気に中東での影響力を回復して拡大する狙いがあるのです。

(出川)
 しかし、なかなか、ロシアの思惑通りにはならないと思います。とくに、アサド大統領をどうするか、その処遇をめぐる対立が大きな障害です。
 
 アメリカ、ヨーロッパ諸国、トルコ、サウジアラビアなどは、大勢の国民を殺し、死に追いやったアサド大統領には、もはや正統性がないとして、 退陣を強く要求しています。

 これに対し、ロシアとイランは、アサド大統領を退任させることに強く反対し、軍事的、政治的支援を続けています。

 石川さん、ロシアは、巡航ミサイルを使った攻撃など、シリアでの軍事作戦を強化していますが、事態をいっそう悪化させることになりませんか。
 
(石川)
 大きなリスクがあります。シリアでは、アメリカ主導の「有志連合」も空爆を続けています。
米ロは、軍同士の情報交換を続けているとしていますが、すでにロシア軍機がトルコの領空を侵犯したり、米ロの空軍機が接近したり、偶発的な衝突が起こる危険性が高まっています。
 また地上では、ロシアがアサド政権軍に、アメリカが反政府勢力に、それぞれ軍事支援しており、米ロが「代理戦争」の深みにはまる恐れが出ています。
 
(出川)
 アサド政権、反政府勢力、ISと色分けしましたが、各勢力が入り乱れ、激しい攻防を繰り広げており、支配地域は刻々と変わります。
 また、反政府勢力の中で、「ヌスラ戦線」という、アルカイダ系のイスラム過激派組織が急速に台頭しています。

 これに対し、アメリカなどが支援してきた「自由シリア軍」という、アサド政権から離反したシリアの元軍人などでつくる組織は弱体化しました。これは、アメリカにとって、大きな誤算でした。
 
 また、アサド政権と、事実上の同盟関係にあるイランの動向も重要です。
 イランの精鋭部隊である革命防衛隊が、シリア国内に派遣されたという情報もあります。

(石川)
 イランの動きはとても重要です。ロシアの情報筋は、私に対し、「空爆はロシア軍が行い、地上作戦はアサド政府軍とイランの革命防衛隊が行うだろう」と述べています。

(出川)
 イランは、イスラム教シーア派の地域大国で、スンニ派の地域大国サウジアラビアと熾烈な覇権争いを繰り広げています。
 それだけに、イランが本格的に介入すれば、宗派対立の要素も加わって、シリアの内戦は、周辺国を巻き込んだ地域紛争に発展する恐れもあります。

(石川)
 それだからこそ米ロの妥協が重要です。アメリカは、現在はアサド大統領の「即時退陣」にこだわらず、「移行期間」の必要性を認めるようになりました。
 また、ロシアも、反政府勢力の中で、これまで敵対してきた「自由シリア軍」とは協力する用意があるとしています。そこに妥協を見出す余地があるように思えます。

(出川)
 目下、ロシアとアメリカが一致できる点とは、シリアの内戦に軍事的な解決はなく、政治的な解決が必要だということです。アサド政権と反政府勢力、そして、関係国が交渉を通じて、 内戦終結に向けた妥協点を見出さなければなりません。

 ところが、アサド政権に代わる新しい政権を誰が担うのか、「政権の受け皿」をどうするのかという大きな問題があります。

 すでに述べたように、反政府勢力は、アルカイダ系の「ヌスラ戦線」も含め、 異なる目標や背景を持つ政治勢力が、全くバラバラに行動しており、「政権の受け皿」となりうる、しっかりとした組織がありません。
内戦を終わらせるとりくみは、お先真っ暗です。
 
(石川)
 結局、アメリカもロシアも互いの国益にこだわる中で、政治解決への道筋が見えなくなっています。
ロシアにしても、今のままのアサド政権では、シリアの統一は回復できないことは理解しています。
 先行きが暗いからこそ、アメリカとロシアが、アサド政権と反政府勢力、さらに、宗教や地域の代表を含めた円卓会議のような交渉の枠組みを始めることで協力しなければなりません。

(出川)
 内戦を終わらせる取り組み、外交交渉は非常に大切ですが、すぐに成果を期待できない状況ですから、人道危機への対応を最優先に考えるべきだと思います。
 シリアでは、人口のおよそ半数が、住む家を追われ、避難生活を送っています。 国内避難民には、食料さえ満足に届いていません。このまま冬を迎えれば、とてつもない悲劇が待っています。

 1人でも多くの命を救うためには、どうすればよいか、そういう発想に立って、最も有効な対策を、国連を中心に推し進める必要があります。とくに常任理事国のアメリカとロシアが、共有できる最小限の目標を設定し、 実行に移してゆくべきで、もう一刻の猶予も許されません。                      
 
(石川一洋 解説委員/出川展恒 解説委員)
 

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コメント
 
1. 2015年10月22日 07:54:24 : jXbiWWJBCA
唯我独尊の米国には見えないロシアの乾坤一擲
シリア空爆と国連演説、プーチン大統領のしたたかな戦略
2015.10.22(木) W.C.
米露大統領、シリア情勢めぐり非難の応酬 国連演説
ニューヨークの国連本部で開かれた潘基文事務総長主催の昼食会合で、乾杯するウラジーミル・プーチン露大統領(右)とバラク・オバマ米大統領(左、2015年9月28日撮影)〔AFPBB News〕
 シリアの反政府勢力に対して、ロシアが空からの攻撃を始めてから3週間が経った。

 この攻撃開始に当たって米国へ仁義を切るために9月28日にニューヨークで行われた米露首脳会談の終了後、わずか一昼夜余の間に憲法に従う上院の対外軍事行動承認と、それに続くウラジーミル・プーチン大統領の爆撃指令を完了させ、9月30日には作戦が開始されている。

 ロシアはシリアへ、それまでに攻撃機50機以上、要員2000人前後をシリア政府の要請に基づく形で送り込んでいたとされる。

 この陣容による攻撃開始後の成果について、ロシア国防省は10月16日までの1週間だけで、攻撃機が394回出撃し、IS(イスラム国家)を称する占領者たちの通信・野戦施設ほか350カ所近くを破壊した、と発表している。

周到な準備を進めていたロシア

 カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレーニン所長によれば、ロシアがシリアへの直接介入に向かって舵を切ったのは、9カ月前の今年の始めだった。

 その時点ではまだ方向性の決定であり、実際にやるか否かはその条件が整い次第、であったのだろう。その方針の下で、米国も含めた対IS国際統一戦線結成が第1案、これが達成されない場合に第2案のロシア単独での攻撃開始、という筋書きが組まれていったものと思われる。

 どちらの案でもロシアの空爆実施が含まれ、これには大統領府長官のセルゲイ・イワノフ氏と国家安全保障会議のニコライ・パトルシェフ議長が関わった、と別のロシアの事情通は述べている。

 以下、諸報道によりその後の経緯を見ると、米国をはじめとする国々のバッシャール・アル=アサド大統領即時退陣の主張を何とか押しとどめ(見返りにロシアとイランも、彼の再選は認めないという点で譲歩)、その一方で軍事行動への準備も進めていった。

 アサド政権の命脈が尽きたのではないか、との見方が広まりつつあった6月に、イランの革命防衛隊とレバノンのヒズボラがシリアでの戦力を増強し、その後これに呼応するかのようにシリアのラタキアでロシアの空軍基地増強も進められたようだ。

 7月末にはプーチン大統領の10年ぶりとなる国連総会出席が関係先に通告され(その時点で多くの外交筋は、ウクライナ問題で精々いつもの対米批判をやるだけなのでは、と予想したのみ)、外交専門誌編集長のフョードル・ルキヤノフ氏は、遅くとも8月までには空爆実施具体案が準備され、それに対して米国がどう出るかをロシアは窺い、その結果、互いに干渉しない、という合意がなされたのだろう、とメディアに述べている。

 確かに、9月28日のバラク・オバマ大統領の対プーチン会談までには、米国も徐々にではあるがロシアの対IS攻撃開始を容認する方向に傾いていたようだ。

 ジョン・ケリー国務長官はアサド退陣時期については交渉の余地ありと発言し始め、アシュトン・カーター国防長官も3月の就任以来、初めてロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とシリア問題での電話会談を行っている。

 ロシアの描く筋書きは、遅くとも来年3月までにアサド政権の勢力を回復させ(人口が集中する地域と重要都市のアレッポを確保すれば十分で、国土の大部分を占める過疎地は当座の目標外)、反政府側(少なくともISは除く)との和平交渉に持ち込ませることに置かれている。

 その成否は、地上軍投入は行わないという前提のロシア軍の援助の下で、どこまでシリア政府軍が自力で失地回復を行うかにかかる、とされる。

米国の主張

 だが、9月28日の首脳会談を経て上述のようにロシアが即座に行動を起こし始めると、ロシアの攻撃対象がISではなく、米国やトルコ、湾岸諸国などが支援する「自由シリア軍」他の反政府勢力になっている、と米国は強く批判し始め、これに英仏独とサウジアラビア、カタール、トルコも同調する(ロシアはこれを否定したが、この点ではどうも分がよくない)。

 首脳会談へオバマ大統領がどのような姿勢で臨み、爆撃開始を通告するプーチン大統領に対して何と答えたのかは定かではないが、IS殲滅では合意できても、アサド政権をどれだけ延命させるかでは見解が一致していなかったのかもしれない。

 あるいは、米国側内部でプーチン大統領の動きに我慢ならんという面々が後になって突き上げたのだろうか。その真相がどうであれ、表に出ている動きだけで見れば、米露間の対立は深刻化の様相を呈し始めた。

 米側は次のように主張している。

●これまでに20万人以上の国民を殺戮したアサドを、欧米のみならずシリア国民の大多数や周辺国ももはや支持しておらず、彼に今後も国をまとめることなどできるはずがない。

●IS以外の反政府派の勢力を削いだりすれば、それだけISを拡大させ、ISへの転向者や結果として難民の数をさらに増やすだけとなる。

●アサド政権を助けようとするロシアの介入は、これまでの米国とその仲間による対ISへの攻撃とは趣旨が異なり、従ってシリア問題の政治決着と早期終結を困難なものにしてしまう。

 オバマ大統領は例によって、プーチン大統領への個人攻撃の形で、ロシアはこれまでの自分の戦略ではシリアを維持できないという、しょせんは弱い立場から首を突っ込んできたに過ぎず、こうした動きは必ず失敗する、とこき下ろす。

 米国は、ロシアに対抗する形でシリア内のクルド人勢力2万人ほかの反アサド派への武器供与を開始する。そして、ロシアが提案した反IS統一戦線結成への協力を拒み、この問題を協議しようとロシアが持ちかけたドミトリー・メドベージェフ首相を団長とする訪米団の受け入れも拒絶する。

 だがプーチン大統領は怯む気配を見せない。彼の基本的な立場は、日本で大して注目されなかったものの、9月28日の国連総会で行われたその演説に示されている。

 この演説については、すでに何人かの識者が触れておられるので(1、2)、本稿では詳細を避けるが、総会の演壇から、「アフガニスタン、イラク、リビア、そしてシリア、といった具合に、どれ一つまともな結果が出せていないではないか、『民主主義』革命の輸出でどれだけ多くの国を悲惨な状態に追いやったのかを、君たちはまだ分かっていないのか」と彼は欧米に詰め寄っている。2007年来の彼の持論となる、米国の一極支配思想への痛烈な批判である。

プーチンに差をつけられたオバマ

 そのうえでシリア問題を解決する道筋として、難民問題も発生地での正統政権の支配力を確立せねば止められるべくもない、として、これまでのアサド政権を相手にしないという欧米の手法が大きな誤りであったと指摘、そして今必要なのは、シリア内で正統政権を維持しつつ、ISなどのテロ集団へ国際的な統一戦線結成で対抗することである、と提言する。

 この演説の内容は、かなりメリハリが効いたものになっている。それを、プーチン演説に先立って行われたオバマ演説と比較すれば、シリアをはじめとする中東で現実に何が起こっているのかという認識力の面で、オバマ大統領はプーチン大統領に少なからず差をつけられてしまっているようでもある(プーチンはこの演説が行われている時に漸くニューヨークに到着したばかりで、直接これを聞いていない)。

 傍若無人に独り善がりの思想を力ずくで振り撒き、その結果の始末も自分でできていない――。

 なるほど、これまでイラクでもシリアでも米国は支持する側の軍の養成に失敗し、最近はアフガニスタンからの撤退政策も失敗に終わっている。どれもこれも、オバマ政権が結末をつけられずにいる課題として残ってしまった。

 そうなった理由を、オバマ大統領の中途半端な政策が中東での米国の存在感低下を生んだ結果に求める声もあるが、さらにその政策の根底まで突き詰めてみれば、欧米流の民主主義が世界の地域・民族を超えての至高の価値観とならねばならないと信じ込む米国の普遍主義思考に行き着く。

 その政策は、いわば信仰に発しているようなもので、これに敵への恐怖感(ヒラリー・クリントン氏は、恐怖ではなく事実に基づき議論をしよう、と論じる)が加わると歯止めも効かなくなる。

 しかし、それは世界各地域での特殊性への知見や注意をかき消すことで、現実にそぐわない発想や政策を結果として生んでしまう。

 例えば、シリアには過激な反体制派のISと穏健な反体制派とがあり、後者を援護してアサド政権を打倒すべきと米国は主張するが、そもそも反体制派(クルド、アルカイダ系組織、元シリア軍兵士等の「自由シリア軍」、IS、など)を綺麗に過激と穏健に分けることなど不可能以外の何物でもない、とロシアは指摘する(中東の専門家にも同様の見解が多い)。

 であれば、穏健派に供与したはずの武器が、いつ過激派の手に移ってもおかしくはない。○○派と称される面々が存在していても、次の瞬間に彼らは××派に衣替えしているかもしれない。それが現実であり、そもそも米が主張する「自由シリア軍」なるものすらが本当に存在するのかも疑わしい、と露側は論じる。

 こうした点について、米側も西側のメディアもこれまでまともな反論なり説明なりを行ってきているようには見えない。正邪の二元論では解きようもない連立方程式だからだろう。ISと戦っている限り、タリバンや9.11の犯人とされるアルカイダは米国の味方になるのか?

ソ連の失敗になぜ学ばないのか?

 かつてソ連はアフガニスタンで失敗したが、相手を共産主義と言うプリズムを通してしか見ずに舐め切ったことがその敗因だったとすれば、米国は今、民主主義という容器に相手の身体的特徴などお構いなしに無理矢理にでも押し込めようとして同類の過ちを犯している――。 プーチンにはそう見えるのだろう。

 総会の演説で彼は欧米に向かって、「なぜソ連が犯した誤りを学ぼうとしないのか」とすら言ってのけている。

 旧ソ連圏に「民主主義」革命の輸出を持ち込んでくることは、ロシアにとっても迷惑極まりない。しかし、プーチン大統領の対応を見ると、米国のやり方のナイーブさや無知に呆れて愛想を尽かしていることからの嫌悪感(あるいは侮蔑感)の方がむしろ強いのでは、とすら思える。

 対する米国は、ロシアの空爆開始直後の一斉批判に続く二の矢が継げていないようだ。それまでロシアを俎上に載せて批判した問題点の事実関係も、何やら曖昧になってきてしまっている。

 メドベージェフ首相の訪米団受け入れ拒否も、そのまともな理由が説明されていない。ロシアのメディアが評するように、今どうロシアに(ひいては中東問題に)対応すればよいのかが即座には分からずにいるようでもある。

 加えて、ロシアがイラン、イラク、シリアとの対IS共同戦線を結成したこと、特にイラクがこれに加わったことが米国には大きな衝撃だっただろう。これまで投入してきた膨大な人的・金銭的資源はいったいどこへ消えてしまったのか。

 イラクは米国の支援不足に十分過ぎるほど失望していたと言われる。その理由は西側のメディアが書くような強腰の軍事介入へのオバマの不作為だけではなく、中東情勢をどう扱ったらいいのかという点でのあまりに大きな米国の知見不足だったのではないだろうか。

 プーチン大統領の対米批判はそれとして、ロシアが今回の空爆参入に踏み切った直接的な動機や理由について、西側でも露側でも様々な解釈がメディアに登場する。

●アサド政権の救済と中東でわずかに残された自国の勢力圏・軍事基地の確保
●ウクライナ問題から関係者の目を自国のイメージアップによって逸らすこと
●国内の政権支持つなぎ止め
●CIS諸国・ロシアへのIS浸透阻止
●シリアをリビアの二の舞にしないことでロシアの世界での存在感を誇示

ロシアを見誤る米国

 米国では、これらのどの要素が主役なのか、そして、プーチン大統領が勝負に勝っているのかで、外交分析評価が分裂しているらしいが、実際にはどれも間違いではあるまい。

 これらのどれ一つをとってもロシアが考えていないはずはないし、そのいくつかが直接介入を現実的な検討課題に押し上げていったということなのだろう。

 そして、これらを満たしながらさらに先をプーチン大統領は見ているのではなかろうか。彼が狙うのは、ここで対米攻勢をかけて米の譲歩を引き出し、ウクライナ問題で始まった対ロシア経済制裁の解除や来るべき時代の露米関係への道筋確保、それにロシアの安全保障に関わる米国との合意(MD配置阻止や中東政策での共同歩調)といった大きな目標にあるように思える。

 皮肉なことに、オバマ大統領が弱腰で米外交を駄目にした、といった論が米国内で強まれば、それだけ余計にそれを打ち消すべく、次期米政権は恐らく対露強硬策を志向せざるを得なくなる。ネオコンの理論家たちも、再度表舞台に出るべく蠢動し始めたようだ。

 米国の新政権とさらに8年間も対立を余儀なくされるような状況を避けるためにも、強硬策には出て来ないと見られるオバマ政権を相手に一刻も早く話をつけてしまわねばならない。

 その米国と対ロシア、対中東政策で必ずしも歩調が揃っているわけでもない欧州は、ギリシャ問題の小康状態で一息つけるかと思いきや、怒涛の如き難民問題、さらにはVW(フォルクスワーゲン)の不祥事というオマケまでついてしまい、その体力も意思統一もヨレヨレの状態に瀕している。

 今なら、欧州を自分のペースに巻き込む可能性あり、とロシアは踏むだろう。

 急がねばならない理由はそれだけではない。空爆開始はロシアにとって相応のリスクも伴っている。

 まずは先立つもので、巡航ミサイルの投入は米国に戦闘能力で負けてはいないということを示す点で見栄えは良いものの、大変にお金がかかる。政府予算の緊縮に狂奔する財務省を押し倒して、2016年度政府予算で軍事費は唯一増額(Rb.1650億)項目となった。第一副首相のイーゴリ・シュヴァロフ氏は、これはシリア問題への介入とは関係ない、などと述べるが、それを信じる向きはいないだろう。

 IEA(国際エネルギー機関)や世銀は原油価格が2016年も低調に推移するだろうと予測しており、ロシア政府の台所は火の車に近づいている。どう転んでも長期戦に対応できる余力があるようには見えない。 

国内にスンニ派を多く抱えるロシアの事情

 戦闘が想定外に長引けば、国内での厭戦気分も高まるかもしれない。空爆に今は国民の7割近くが賛成していても、万一地上軍の派兵などに至れば、アフガン出兵の苦い記憶が呼び起されて、国民は簡単にはついて来なくなるだろう。

 特に2000万人とも言われるロシア内のイスラム(ほとんどがスンニ派)がこれからどう反応して動くのかも要警戒事項となる。露紙によれば、彼らはアサドがISよりマシなどとは全く見ていない。

 そのアサドを援護するということは、基本的には世のスンニ派を敵に回すことになるのだから、そのスンニの中のISという不良分子退治、という筋書きで辻褄合わせができる時間内で物事を処理しなければならない。

 クルドが絡んで複雑化するトルコとの関係をはじめとして、イスラエルやサウジアラビア、湾岸諸国と同時に関係を維持・強化するには、ビスマルクなみの業が必要とされるだろう。

 そして、最も重要なのは、米国をともかくはロシアとの協議のテーブルに着かせるという目的達成のために、間違ってもシリアを舞台とする米国との代理戦争にのめり込まないことである。

 こうした制約条件の中での作戦遂行である。

 オバマ氏のプーチン批判に同調する西側メディアの論調は、効果を得るためにロシアは長期戦に突入せざるを得なくなる、 結局は地上戦にも踏み切ることになる、それは米国と同じ誤りを犯すことでありソ連のアフガンの二の舞にもなる、どうせ失敗するに決まっている――とこぞって冷ややかである。

 だが、ブルッキングス研究所のリリア・シェフツォヴァ氏は、ソ連崩壊時も、エリツイン政権の結果についても、そしてリセットの行方についても、20年にわたって西側はロシアを理解し損ねてきた、と指摘する。今度も多くの論者の見解がその憂き目に遭うのかもしれない。

 ロシアは、米軍が2万人殺しても同じ数の兵士が流入してくるというISを独力で根絶するといった目標は、初めから持ってはいないだろう。中東を舞台に自ら軍事・政治の大冒険をやれるほどその中東を知り尽くしているとは思っていないし、イラクのISにまで攻撃を加える体制にもないはずである。

 何とか体裁の整ったシリア政府の再興(その結果でアサド大統領が退陣してもやむなし)と関係者の和平交渉に持ち込めれば(そして米国のこれまでの政策が誤っていたことを満天下に晒せれば)、それでことは成就するのである。

 換言すれば、民主主義の実現という米国の目標を批判はしても、それに代わる、来るべき中東社会のあるべき姿のロシア独自の像を持ち合わせているのかといえば、恐らくノーだろう。彼らにそれを求めても、返ってくる答えは「Inshallah(インシャ・アラー=すべてアラーの思し召し)」だけかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45051


[32削除理由]:削除人:要点がまとまっていない長文


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