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山口二郎 法政大学教授『「テロとの戦い」と日本の進路/高揚感で憲法をいじるな』
http://www.asyura2.com/15/senkyo180/msg/505.html
投稿者 神曲 日時 2015 年 2 月 24 日 14:05:52: 9YMwO3hr7knF.
 


週刊東洋経済 2015.2.21


 二人の日本人が「イスラム国」のテロリストによって惨殺されたことで、日本の憲法や国の形をめぐる議論が加速される気配である。首相およびその周辺の右派メディアからは、「テロとの戦い」をテコに、憲法9条の制約を取り払い、自衛隊が海外で武力行使を含む幅広い活動ができるようにするべきという声が出ている。大きなショックで国民感情が激しているときに国の進路を大きく変更することは、立憲主義、民主主義の破壊につながる。一連の事件に対する政府の対応を検証し、テロの拡大を防ぐため、さらに日本の自由や民主主義という価値を守るため、何をすべきか、熟慮すべき時である。


 テロリストが人質の存在を公表し、身代金を要求したとき、安倍晋三首相は人質を助けるためにあらゆる手段を取ると言った一方、テロには断固屈しないとも強調した。一国の指導者としては、表向きにはこれ以外に言いようはないであろう。しかし、人質の生還とテロに屈しないという二つの命題は矛盾することを、首相はどこまで理解していたのか。人質の生還を優先してテロリストと交渉し、何らかの見返りを与えるなら、テロという手法を容認したことになる。逆に、テロリストの存在を絶対に認めないという態度をとるなら、その大義のために人質が犠牲になっても仕方ないという結論に到達する。


 この種の事件において、日本政府は「人命は地球より重い」(福田赳夫元首相)という方針を取ってきた。安倍首相の真意は、これを弱腰と見て、今回の事件を契機に転換する点にあったと解釈するしかない。人質が拘束されたのは昨年であり、政府は対策室を設けたのの、ほとんど情報収集はしていなかった。また、TBSの「報道特集」によれば、イスラム国側の窓口と日本のイスラム法学者との間で情報のやり取りがあったが、政府はまったく関与しようとしなかった。安倍首相が、人質拘束の状況において、あえてイスラエルでテロとの戦いを強い言葉で世界に表明したことは、大義を人命に優先させるという判断に基づくものであった。


 首相が何らかの哲学に基づいてそのような判断をすることは自由である。ただし、世界に向かって高唱するならば、自らその哲学に忠実に生きなければならない。さらに、国民に対してそれを説明し、賛成とは行かないまでも、一定の納得を得なければならない。しかし、これら2点に関して、首相の哲学はインチキと断じざるをえない。


 前者から見ておきたい。日本人殺害は、パリの新聞社への攻撃から始まる、一連のテロの一環である。フランスをはじめ文明社会の人々は、言論の自由や寛容な社会を守るという強い意思表示を行った。テロとの戦いを唱える安倍首相の足元で、何が起こっているのか。慰安婦報道に携わった元朝日新聞記者が勤務する北星学園大学に、2月初め入試を妨害し受験生に危害を加えるという脅迫状が届いた。慰安婦問題をはじめとする歴史認識に関しては、右翼や歴史修正主義者によるこの種のテロが相次いでいる。また、今でも街頭では在特会によるヘイトスピーチのデモが行われている。テロと戦う政治家は、これらの蛮行に対して、断固たる非難を行ったのか。安倍首相はインターネット上でネトウヨや歴史修正主義者に「いいね」をもらって喜んでいるではないか。首相や取り巻きが言うテロ非難は、真剣さを欠いている。


 後者の問題においても、首相は主体的な決断について国民に説明していない。事件直後、首相は「日本は変わった。日本人にはこれから先、指一本触れさせない」と述べた。ここで自動詞の「変わった」を使うことは、あえて責任の所在をごまかすための話法である。彼の言う変わった日本は、以後、テロとの戦いに自衛隊が参加し、武力行使もする。その力を背景に、日本人を守ると叫んだのだろう。彼が本当の政治家なら、ここでは他動詞の「変えた」を使い、自分が日本の方針を変えた理由とそれがもたらす帰結について国民に説明すべきであった。状況が変わったから軍事力行使を解禁する、国民は安心してついてこいと言うのでは、事変に追随して戦争の泥沼にはまった80年前の日本と同じである。


憲法改正発議の空論


 今回のテロ事件は、首相にとって憲法改正を進める好機と映っている。国会答弁では、国民の安全を守るために9条の改正が必要だという持論を持ち出した。さらに、次の参議院選挙の後に財政均衡、緊急事態対応、環境権などで憲法改正を発議する意欲も表明した。国民の多数が、日本はテロとの戦いに武力行使も辞すべきでなく、そのために犠牲者が出ても仕方ないと覚悟を決めるなら、それは国の路線の選択である。それこそが憲法9条をめぐる議論の核心であるべきである。日本人に指一本触れさせないために9条改正と自衛隊の海外派兵が必要だというのは、現実を無視した空論であり、核心の課題を隠蔽する議論である。


 第2次安倍政権は、国民の安心、安全を旗印に、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置、集団的自衛権の行使容認など政策転換を重ねてきた。それが危機への対応や国民の安全確保につながっているのか。今回のテロ事件に対する対応の不在を見るにつけ、組織や仕組みは格好だけ、為政者のおもちゃと言わざるをえない。首相が言うように憲法を改正すれば、環境が浄化され、財政赤字が減り、危機への対応がうまくいくなどというのは空想である。情報を集め、知恵を巡らせる為政者の真摯な努力がなければ何も解決しない。


 政治家は、大言壮語と英雄気取りというわなに陥りがちである。自己陶酔ともいうべき安倍首相の個人的思い込みで憲法をいじってはならない。国の命運を左右する大きな岐路において、政治家もメディアも学者も、落ち着いて議論を重ねなければならない。
 

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コメント
 
01. 2015年2月24日 18:41:12 : shSexbmWkk
集団的自衛権は果たして必要なのか。

国連主義で派兵ができるという小沢の主張も含めて、もう一度、検証がひつようです。


02. 2015年2月25日 13:21:07 : uMcHfTnA4o
安倍がはたして必要なのか
安倍の精神状態と合わせて検証する必要がある!

安倍は国益を害するしか能がない単なるクズである


03. 2015年2月25日 21:32:03 : fUqI89CCHg
あぁ、本当に胸のつかえが取れるような投稿です。
こういう知識人がもっとたくさん出てきてもっと声を大にして安倍総理の御乱行を諌めてください。

どうかあの忌まわしい大戦の時代になど戻さないで下され。
戦争の出来る国になどしないで下され。

安倍総理は「日本人にはこれから先、指一本触れさせない」だの「その罪を償わせる」だのと勇ましい言葉を発しているが、国民を危険にしたのは他ならぬ総理自身だと思いますよ。

報復だの敵討ちなどと称して国民のイスラムへの憎しみをを高揚させ、結局は自分のやりたい集団的自衛権の行使容認を国民に認めさせたいと言う安倍総理の黒いはらわたが余りにもミエミエです。

あの集団的自衛権行使容認を総理がTVで説明した時の、赤子を胸に抱いた母親の哀れな姿のパネルがその嘘っぱちを良く表現していました。

あの時の安倍総理曰く「有事の際、非難する母子を救出しようとするアメリカの艦隊を日本は指をくわえて見ていなければならないのか?!アメリカを助けなくて良いのか?!」など

          まっこと笑止千万な嘘偽り也!

アメリカの艦隊は日本の母子どころかアメリカ人ですら救出する任務など負わない決まりだそうです。

全部安倍総理のただの想像の産物なのに、さももっともらしく、哀れな母子のパネルで国民を騙して集団的自衛権行使容認をさせ、持って自衛隊を海外派兵しようとした。

更には憲法9条の勝手な解釈変更を閣議だけで決めようとし、日本を75年前に引き戻し、戦争の出来る国にし、国民に途端の苦しみと家族を殺されたあの悲しみの日々を又味あわせようとしている。

しかも自分自身は国民を盾にして、その後方の安全地帯に身を置いてだ。

そこへあのカイロでの勇ましい演説。

もちろん人質の事は総理は知っていたのにだ。

人質救出には犯人を刺激しないのがネゴシエーターの鉄則の筈。
総理はあの時国民の怒りを頂点に到達させ、集団的自衛権行使容認を既成事実としようと企んで、わざとイスラムを刺激したのかとさえ思えるのは私だけだろうか?

その後人質が殺害された途端に、あの「日本人にはこれから先、指一本触れさせない」だの「その罪を償わせる」だのと、勇ましい発言をし、間髪を入れずアメリカへ支援要請し、アメリカは即座にイスラム殲滅を世界に誓った。
余りにも用意周到って感じが気味悪いわー。



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