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アジア投資銀の行方(下) 国際秩序に中国取り込め:河合正弘前アジア開発銀行研究所長
http://www.asyura2.com/15/senkyo184/msg/283.html
投稿者 あっしら 日時 2015 年 5 月 03 日 03:54:26: Mo7ApAlflbQ6s
 


アジア投資銀の行方(下) 国際秩序に中国取り込め

河合正弘 東京大学特任教授

 中国主導でつくられるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー57カ国が確定した。日米は参加を見送ったが、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどアジア域外からも多数の諸国が加わった。6月末までに設立協定を結び、年内設立をめざす。資本金は最終的には1千億ドルとし、出資比率や議決権の配分は各国の経済規模に応じて決まる。中国が最大の出資国となり、本部は北京、初代総裁ポストも中国が握るとされる。

 米国は自らが主導してきた国際通貨基金(IMF)や世界銀行を軸にした国際金融秩序に中国が挑戦していると受け止めている。歴代総裁をアジア開発銀行(ADB)に送ってきた日本も、AIIBの設立に戸惑いを示している。

 世界金融危機を契機に、主要7カ国(G7)だけでは世界の経済・金融問題に対処できず、新興国を含む20カ国・地域(G20)が国際政策協調の場として重要な役割を果たすようになっている。国際金融システムも米国とG7を中心とした体制から、新興国も一定の役割を果たす多極化の方向に向かいつつある。AIIBの設立は、こうした変化を象徴する出来事だ。

 中国側の事情として4点挙げられる。第1に、アジアには膨大なインフラ需要があるが、世銀やADBなどの既存機関だけではアジアのインフラ需要を満たせない。AIIBが新たに加わることで、より多くのインフラ資金を途上国の視点から投入できる。

 第2に、中国をはじめ新興国は経済力向上にもかかわらず、既存の国際金融機関で十分な発言権を与えられていない。既存の機関は欧米主導の枠組みであり、新興国がより多くの資本を拠出して発言力を高めようとしても阻まれる。10年に新興国の発言権強化で合意したIMF改革は、拒否権を持つ米議会が承認せず、いまだに実現していない。

 第3に、世界第2の経済大国になった中国は、自ら得意とするインフラ開発を通じてアジアを主導したいという欲求がある。欧米諸国はIMFや世銀を運営し、日本はADBを運営しているが、中国は経済力・資金力があるにもかかわらず、自らが運営する国際金融機関を持っていない。

 第4に、国内の成長力が鈍化する中国は、インフラビジネスや過剰生産物の輸出の拡大、資源の確保などアジア全域に活路を求めている。中国の対外的な経済環境を強化するために、2国間協力に加えて、多国間機関を位置づけようとしている。AIIBは中国の「一帯一路」政策、つまり陸と海の2つの「シルクロード」構想にも関わりうる。

 要するにAIIBは、中国が自らの増大する経済力に見合う形で、かつ多国間の枠組みで、アジアの経済発展を主導しようとする試みである。

 日米をはじめとする国際社会は中国の台頭を直視して、その経済力と意欲を積極的に活用すべきだ。AIIBは建設的にみれば、中国が多国間の枠組みで国際公共財を提供することであり、国際的な標準・ルールに従った責任ある行動をとるよう促すことで、その影響力を国際的な秩序に取り込むことが望ましい。

 日米は「AIIBは公正なガバナンス(統治)の確保、環境や社会に対する影響への配慮、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダード(標準)に基づくことが重要だ」との認識で一致している。この考え方こそ、AIIBを既存の国際金融秩序の中に取り込んでいく方策だ。日米は積極的に関わって、ガバナンスや融資政策・基準が国際的な標準に近づくようにしていく必要がある。

 第1に、ガバナンスについては、基本的に議決権を決める現状の出資比率を推計すると、中国が約3分の1と圧倒的に大きく、対抗できる国はない(表参照)。他の主要な国際金融機関の出資比率と比べ極めて高い。IMFにおける米国の出資比率は17%、ADBにおける日米の出資比率はそれぞれ16%程度だ。

 だが日本が参加すれば出資のバランスは大きく変わる。日本の出資比率は12%となり中国は28%にまで下がる。日本単独では中国と対抗できないが、欧州と組めば33%になり中国を上回る。日欧連携を通じ中国の行動をチェックできることになる。より公正なガバナンスを可能にするには日本の参加が欠かせない。

 また、世銀やADBは融資案件を本部常設の理事会で決めるが、AIIBは理事会を置いても本部に常設とせず、総裁の権限を強める方向だ。融資案件や基準が中国の意向に左右される懸念が残る。意思決定の透明性を高め、業務や経営陣を効果的に監視するには、やはり常設の理事会を本部に設けることが重要だ。

 第2に、インフラ事業に関わる環境基準や社会基準は明確でなく、融資を受ける途上国で乱開発により環境悪化が深刻化したり、開発地域の住民の人権が脅かされたりする懸念がある。一方で、途上国の間には、世銀やADBの融資基準は厳しすぎるという声があるのも事実だ。

 確かに途上国が世銀やADBの厳格な環境・社会基準をクリアすることは、制度・能力・資金の制約から難しい場合がある。AIIBがこうしたギャップを埋めることに意味はあるが、その際、当該国の制度・能力を引き上げてより高い基準をクリアできるようにするための技術支援と組み合わせるべきだ。

 既存の国際金融機関との協力を促すことも有効だ。世銀やADBのインフラ案件にAIIBが資金を出す協調融資を促すことで、AIIBの基準が国際的な標準に近づく。

 第3に、途上国が自らの債務負担能力を超えて融資を受けると、世銀やADBなど他の金融機関への返済が滞りかねない。債務の持続可能性についてはIMFが各国を横断的に分析している。AIIBはそうした分析を利用して、持続可能な範囲でインフラ事業を進めるべきだろう。

 日本は今後どう対応すべきか。米国への配慮から参加を見送ったが、いずれは参加すべきだろう。日本の参加によりガバナンスが強化され、多くの懸念が解消されうるからだ。そして参加するのであれば、早い方が望ましい。

 米国の場合、対中強硬派の多い議会が出資を認める可能性は低く、参加は当面難しい。しかし、地域の経済大国である日本がアジアのインフラ整備のルールづくりに積極的に関与し、経済発展に貢献することは当然の責務だろう。かつAIIBに入ることで、日本の企業がアジアのインフラ事業から締め出されないようにすることもできる。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、日本の参加で中国の影響力を相対化し、均衡を図っていくことを望んでいる。日本が不在のAIIBができれば、日本の存在感は弱まろう。日本はADBとAIIBに参加することで、アジアの経済秩序づくりに関わり、多国間の枠組みの中で中国にルールに沿った行動を促す役割を果たすべきだ。

 同時に既存の国際機関は、新興国の経済力の拡大に応じて発言権を調整しないと正当性を問われることになる。米国はIMF改革の国内承認手続きを早く進めるべきだ。ADBも出資比率や議決権の見直しを始めるべきだろう。このことが、米国とG7中心の一極構造から多極化に向かう国際金融システムの安定化につながることになる。

〈ポイント〉
○国際金融システム多極化を象徴する動き
○参加しないままでは日本の存在感弱まる
○既存機関は新興国の経済力向上に対応を

 かわい・まさひろ 47年生まれ。スタンフォード大博士。専門は国際金融論。前アジア開発銀行研究所長


[日経新聞5月1日朝刊P.25]
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アジア投資銀の行方(上)拙速な参加見送りは妥当

伊藤隆敏 コロンビア大学教授 

 4月にワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季総会では、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を巡るメディアの関心が高かった。IMFも世銀も公式には、アジアにおけるインフラ投資の資金が増えるのは歓迎だが、既存の国際機関と連携することを期待すると答えている。

 今のところ表立った批判は聞かれない。18年前のIMF・世銀の秋季総会で、日本が提唱していた「アジア通貨基金」構想が米国や中国の反対で頓挫したのとは対照的だ。

 中国は、国際金融体制の中で世界第2の経済大国にふさわしい地位を確立したいという国家戦略からAIIBを提唱している。IMFや世銀など既存の国際金融機関では議決権配分や首脳人事で欧米が有利になっていることや、アジア開発銀行(ADB)では日本が出資比率トップでこれまで歴代総裁ポストを独占していることに対する不満の表明といってもよい。

 さらにAIIBの必要性について中国は、アジアのインフラ需要が大きいので世銀やADBだけでは対応しきれないことや、IMFの出資比率改定が、米議会の反対で頓挫していることを挙げている。特に後者の指摘は、米国の弱点を突いている。

 中国が設立を最初に提唱した当時(2013年10月)、本部は北京、総裁は中国人、規模は1千億ドルで、中国が出資比率50%まで出す用意があるという構想を示していた。これでは「中国による、中国のための、中国の銀行だ」として、先進国を中心に、国際金融機関とは認められないだろうという懐疑論が大勢であった。

 その後、中国は自国の出資比率を引き下げることも含めて、構想内容を改定しつつ、あの手この手で参加国を募ってきた。それでも今年2月までは参加国は発展途上国・新興国を中心に限定的だった。

 ところが創設メンバーの参加期限とされていた3月末まであと半月という時点で、急きょ英国が交渉参加を表明。その直後、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、韓国も交渉参加を表明した。主要国では日本、米国、カナダだけが取り残される形で、創設メンバーが固まった。結局、創設メンバーとして設立交渉に参加するのは50カ国を超え、6月末の定款調印、年内発足の計画に勢いがついた格好だ。表で示したように、ADBと比べても遜色ない。

 日米両政府にとって、英国や独仏伊の参加表明時期は驚きだった。米政府をもってしても中国のAIIB構想自体を止めたり、英国の参加を抑えたりできなかったことは、米国の経済外交力の低下を表している。国際金融システムは大きな転換点を迎えたといえるかもしれない。

 日米だけが取り残されたとか、日本の外交上の敗北だという意見すら聞かれる。しかし、AIIBの組織運営の制度設計に重大な疑問がある中で、参加すべきではない。3月時点の選択肢は、「参加のための改革条件」を中から働きかけるか、外から働きかけるか、という戦術の違いだった。結果は後者を選択したが、戦略は一貫している。

 参加しないとAIIB案件への入札で日本企業が不利になるのではないか、という意見もある。入札については、メンバー国以外の国の企業にもオープンであるべきだと主張することが望ましいが、そもそもADBでの入札でも日本企業の落札率は極めて低いというのが実情である。

 AIIBの組織制度設計を巡っては3つの問題がある。

 第1の問題は、出資比率で中国が断トツになることだ。出資比率については、域内国群、域外国群の出資比率をあらかじめ3対1に固定することで、域外国(欧米)の影響力を最初から薄めている。一方、域内国群の中の各国の出資比率は国内総生産(GDP)比例で決めるとしている。アジア域内ではGDPが最大である中国が最大出資(投票権)国になる。GDP規模では日本は中国の半分であり、日豪韓・インドの4カ国を合計しても中国に及ばない。

 GDP比だけならば、中国は、出資比率全体の25%近くを確保してもおかしくない。域内と域外の比率をあらかじめ固定することで、圧倒的な出資比率の1位を確保して、欧米の影響力を抑えている。

 また中国は、融資案件を最終決定する「理事会」を本部に常設しない方針である。理事に情報が届かなければ、総裁、幹部、スタッフの意向が強く反映する。理事会を本部に常設して運営のチェックを常に受けるというのは、当然のガバナンス(統治)体制である。こうした問題は、AIIBの影響を真剣に考える国としては譲れない点だ。
 第2の問題は、融資案件・条件に対する懸念である。まず、中国国内のプロジェクトにも融資するかどうかだ。最大の出資国が、自国の公共事業に国際金融機関の資金を動員するよう影響力を発揮するとなると、利益相反の問題が発生する。もう一つ懸念されるのは、中国が重要もしくは友好的と考える国に対して、融資条件を緩くするというような「政治的な利用」である。

 このため「投資ルール」の確立と、最初2〜3年の実績が重要になってくる。その意味でも、第1の問題である制度設計が非常に重要になる。

 第3の問題は、既存の国際金融機関との関係である。中国は世銀やADBの借り入れ国である一方で、AIIBでは出資比率でトップになる。国内の資金需要は世銀やADBを通じて先進国から低利で借り入れながら、他方ではAIIBを使って中国がリーダーシップをとった融資をアジアのインフラ案件に貸し出すというのは、違和感がある。

 さらに、世銀やADBが既に活発に活動しているアジアでAIIBが案件を獲得しようとして、世銀やADBよりも魅力的(借り手に有利)な条件を提示する誘惑がある。あるいはリスクの高い案件に貸し込んで融資の焦げ付きを発生させるかもしれない。

 国際金融機関同士の融資条件の緩和競争というのは避けなくてはならない。世銀やADBは、開発金融には環境への影響の配慮、少数民族や低所得層への配慮など世界のスタンダード(ベストプラクティス)があるとしている。これに対して中国は「何が『ベスト』かは分からない。『グッド』があるだけだ」といっている。ノウハウ吸収に数年かかるとして、その後は次第に世銀やADBとは異なる独自路線をとる可能性もある。

 創設メンバー国にはならないことを選択した日本は、今後どう対処すればよいのか。基本的には、創立メンバーになるとした欧州諸国、豪州と緊密に情報交換して、組織の内部、外部から懸念事項の解消に努めることだろう。6月の協定署名までに納得できる改革案が示されれば、その時点で日本が参加する選択肢を持ち続けることが重要だ。

 日本政府はこれまで透明性やガバナンスに懸念があるので状況を見極めるといってきた。基本的に正しいが、いくつかの譲れない具体的条件を明示して改革を迫るべきだ。例えば(1)最大出資国の上限を20%に抑え、重要案件に関する可決要件は75%とする(2)本部に常設する理事会を置き、そこで融資案件の審査をする(3)運用開始前に「投資ルール」を明確化する(4)既存の国際金融機関と補完関係を保ち、融資条件の緩和競争をしないなど、ベストプラクティスの順守を明記する――などだ。

 日本がこれから6月までの間にどのようにAIIBに向き合うのかという問題は、対中戦略からも、国際金融体制における日本の役割を考えるうえでも重要な課題である。

<ポイント>
○国際金融システムは大きな転換点迎えた
○理事会の非常設や政治的な利用など懸念
○改革案次第で参加の選択肢も持ち続けよ

 いとう・たかとし 50年生まれ。ハーバード大博士。専門は国際金融。兼政策研究大学院大教授


[日経新聞4月30日朝刊P.15]

 

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コメント
 
01. 罵愚 2015年5月03日 04:36:52 : /bmsqcIot4voM : Ujry1KKCP3
 いまの国際金融秩序にとりこまれたくないから、支那の共産党政権はAIIBの設立をたくらんだわけだ。河合正弘前氏の論理は逆立ちしている。
 まともに発足するかどうかのスタートから疑問符がつく話だが、順調に進んだと仮定しても設立して業務が波に乗るのに10年はかかるだろう。AIIRの融資が世銀やアジア開発銀行のそれに実質的な影響をおよぶのに、さらにまた10年はかかる。
 そのあいだの状況の変化は予想もできないし、さらにまた、20年後に支那って国があるかどうかも、疑問だな。

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