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財政再建できない日本政治に、英国の総選挙が与える示唆
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投稿者 rei 日時 2015 年 5 月 14 日 09:22:20: tW6yLih8JvEfw
 

上久保誠人のクリティカル・アナリティクス
【第105回】 2015年5月14日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]
財政再建できない日本政治に、英国の総選挙が与える示唆

 英国の総選挙は、与党・保守党が28議席増で単独過半数(下院定数650)越えの331議席を獲得し、「地滑り的大勝利」となった。一方、連立与党の自由民主党は48議席減の8議席と惨敗し、最大野党の労働党は24議席減で232議席にとどまった。今回、注目が集まった地域政党については、スコットランド民族党(SNP)が、スコットランド選挙区で集中的に票を得て、6議席から56議席へと大幅に増やしたが、欧州連合(EU)離脱を主張する英国独立党(UKIP)は伸び悩み、1議席にとどまった。

 投票日直前まで保守党・労働党の支持率が34%ずつと拮抗する、史上まれにみる大接戦となり、どの党も過半数を取れない「ハング・パーラメント(宙ぶらりん国会)」になるとみられていた(第105回を参照のこと)。しかし、予想に反して、保守党の単独政権が発足する見通しとなった。

財政再建を貫いたキャメロン政権の勝利が、
財政再建できない日本政治に与える示唆

 保守党勝利の一因は、ディヴィッド・キャメロン政権が5年間かけて進めてきた経済財政政策が、土壇場で評価を高めたことである。前回の繰り返しだが、リーマンショックによって、英国経済は「Great Recession(大不況)」と呼ばれたほど悪化し、労働党政権が大規模財政出動を行ったため、膨大な財政赤字を抱えていた。2010年の総選挙後に発足したキャメロン政権は、財政再建に取り組むこととなった。

 まず、2011年1月に日本の消費税にあたる付加価値税の税率を17.5%から20%に引き上げた(第25回を参照のこと)。そして、「総選挙を5年ごとに5月の第一木曜日に行う」ことを定める「2011年議会期固定法」を制定した。政権の任期である5年間、議会を解散することなく財政再建にしっかり取り組む不退転の決意を、英国民に示したのだ(第105回を参照のこと)。

 キャメロン政権の支持率は低迷し、長期にわたって労働党に10%以上のリードを許すことになった。だが、緊縮財政の断行と、住宅市場活性化や法人税率のEU最低水準への引き下げによる海外企業の誘致や投資の積極的な呼び込み、量的緩和政策の実行などを巧みに織り交ぜた経済運営は、次第に効果を現し始めた。

 2009年には、マイナス4.3%まで落ち込んでいた実質GDP成長率(対前年比)が、14年に2.6%まで回復した。12年1月には、8.4%に達していた失業率も5.7%まで下がった。そして、公的部門の純借入額も14年度の902億ポンドから激減し、18年度から黒字に転ずると予測されるようになった。総選挙が近づくにつれて、キャメロン政権は支持率を急回復し、労働党を猛追した。そして、総選挙当日、保守党は遂に大逆転したのである。

 何度でも強調したいことは、英国では、キャメロン政権が「解散権」を自ら封印して、5年間という期間を確保して財政再建に取り組んだことだ。そして、国民に財政再建の意義を理解する時間を与えることになったことである。

 これは、とにかく「選挙が多すぎる」日本の政治とは大違いなのである。日本でも、時の政権が財政再建策を打ち出すことは多い。だが、選挙から選挙までの間があまりに短期間のため、国民がその重要性を理解する時間がないまま、選挙に突入してしまうことになる。そうすると、政権は、目先の選挙に勝つことが第一だ。とりあえず財政再建を脇において、景気対策を打ち出さねばならなくなる。その結果が、際限のない財政赤字の拡大なのである。

 また、日本では「消費税」は時の政権にとって「鬼門」となってきた。大平正芳内閣、竹下登内閣、橋本龍太郎内閣、麻生太郎内閣、野田佳彦内閣と「消費税」に取り組んだ内閣は、国民の理解を得られずことごとく選挙に敗れてきた。それに対して、英国・キャメロン政権が、財政再建に5年間取り組み、遂に総選挙で勝ち切った事実が、日本政治に与える示唆は小さくない。とにかく日本では、財政再建という不人気だが重要な政策に、政治家がじっくり取り組み、国民がその重要性を理解するための時間が必要だ。

「政治が多極化する時代」における
小選挙区制の優位性

 今回の英国総選挙に関して、日本では「英国二大政党制崩壊」という論調が目立った。「英国の政治が多極化し、求心力が失われており、小選挙区制下での二大政党制は民意を汲み取る仕組みとして機能不全を起こしている」ということを、日本における「小選挙区制批判」「中選挙区制へのノスタルジー」の文脈で主張する識者・メディアが少なくなかった。だが、ここで明確に反論したい。今回の英国総選挙が示したことは、「政治が多極化する時代こそ、小選挙区制に優位性がある」ということだ。

 小選挙区制に対する代表的な批判は、「少数意見を切り捨てる」ということだ。小選挙区制では、選挙区で1位になった候補者だけが当選し、たとえ1票差の接戦でも2位以下はすべて落選となり死票だらけになる。これが「民意の反映」という点で疑問を呈されることになる。例えば、日本の2012年総選挙では、自民の獲得議席数が、比例代表では定数の3割程度なのに、小選挙区では定数の8割を占めた自民党が衆院選で獲得した圧倒的な議席数が、民意と乖離していると批判されてきた(第50回を参照のこと)。

 今回の英国総選挙でも、保守党は約37%の得票ながら過半数議席を獲得した。一方、得票率約30%の労働党は保守党に99議席の差をつけられた。また、約12%を得票した英独立党(UKIP)はわずか1議席にとどまった。

 だが、見方を変えてみると、小選挙区制には、単一争点に集中する中小政党の「横暴」を防ぐ効果があると言えないだろうか。今回の保守党勝利のもう1つの理由には、スコットランド国民党(SNP)の躍進があると指摘されている。選挙前から、スコットランド選挙区全59議席のほとんどをSNPが獲得すると予測されていた。一方、保守・労働両党が過半数を得られず、第三党のSNPが「キャスティングボート」を握り、労働党・SNPの連立政権が誕生するとみられていた。このため、SNPが労働党を通じて政権を主導することを嫌ったイングランドの有権者が、最終的に保守党支持に回ったと言われている。

 SNP自体は、事前の予測通り56議席で第3党となった。だが、大きく予想に反したのが、保守党が単独過半数を確保したことだ。そのため、SNPの影響力は制限されることになってしまった。選挙前に懸念された「スコットランドに英国が支配される」事態が避けられたのだ。

 しかし、英国の選挙制度が比例代表制だったならば、同じ得票数でもまったく状況が異なっただろう。保守・労働両党の議席数はともに30%台にとどまれば、SNPの影響力を抑えることはできなかったはずだ。

 それだけではない。英国からの独立を党是とする英国独立党(UKIP)の獲得議席は1議席だったが、得票率は第三位の12.6%で、SNPを上回っていたのだ。比例代表制ならば、実に70議席以上を獲得した計算だったのだ。これは、UKIPが「キングメーカー」になる危険性があったということを示している。つまり、明らかに小選挙区制は「民族主義」や「ナショナリズム」を主張する中小政党が大政党を支配して「横暴」を振るうのを防ぐ効果を発揮したといえるのだ。

小選挙区制下の二大政党は、
マイノリティや少数意見に寛容である

「小選挙区制が、マイノリティや少数意見を切り捨てる」という批判に対しても、反論しておきたい。これまで、保守党・労働党の二大政党は、EU域内、アジア、アフリカなどから積極的に移民を受け入れてきた。移民は、国内の労働力を補完し、経済を下支えする重要な要素であるとの考え方からである。

 キャメロン政権でも、前述した急激な景気回復によって、ここ数年仕事を求める移民が欧州全域から殺到している。2013年10月―2014年9月の1年間で、英国の移民は29万8000人となり、2005年の32万人に次ぐ規模となっているのだ。この事実は、小選挙区制下の二大政党こそ、実はマイノリティに寛容な政策を採用してきたことを示している。

 また、二大政党が少数意見を切り捨てているわけでもない。歴史を振り返れば、保守党・労働党は、1960-70年代の高度成長期に、ともに福祉政策の拡大を競った「福祉国家」の時代があった。今回の総選挙でも、保守党・労働党のマニフェストには、「経済」「外交」「雇用」「医療」「福祉」「教育」「移民」「女性」「環境」「エネルギー」など、あらゆる分野の政策が並び、民族、宗教など少数意見に配慮した政策も含まれている。そして、財源を考慮しながら、政策の間に優先順位を付けた包括的なパッケージとなっている。確かに、二大政党は「単一争点の中小政党」のように支持者の利益を一方的に実現しようはしない。だが、国民全体の世論の動向や、経済・財政の状況のバランスを考慮する中で、少数意見を政策の中に取り入れてきたのである。

日本においても、「小選挙区制」を正当に再評価し、
成熟した政党政治を目指すべきである

 日本政治では、中小政党が、少数者の利益を強引に実現しようとすることで、歴代政権の意思決定が混乱し、財政赤字拡大を招いてきた。今の日本政治に必要なのは、英国の二大政党のような、財源を考慮してさまざまな政策の優先順位を付けた包括的な政策パッケージを作る「政権担当能力」を持つ大政党ではないだろうか(第50回を参照のこと)。

 日本における小選挙区制の導入は「政権交代ある民主主義」「首相・党執行部の権限強化」「政策本位の政治」を徐々に実現してきたと考える(前連載第31回を参照のこと)。現在の小選挙区制における問題点は、その制度がいまだ成長過程であり、成熟できていないことを示しているだけだ。

 中小政党の横暴を許し利益誘導政治を促進する比例代表制や中選挙区制の導入は、日本政治が必要とする改革とは、真逆の方向性であるはずだ。今後も、日本政治は小選挙区制による政党政治の成熟を目指すべきだと、強く主張しておきたい。
http://diamond.jp/articles/-/71470
 

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コメント
 
01. 2015年5月14日 10:24:48 : qMUvaCJu7g
日本と英国では政治を動かそうとする労働組合の強さの度合いに決定的な違いがある。また日本と異なり市民革命を経験していることから国民は国王を神格化してはいないし政治的発言も許されている。日本の場合民主党が政権を取ると自民党以上に財界の横暴が強まり手がつけられなくなった。よって小選挙区制の存続がよいとばかりは言えない。

02. 2015年5月14日 10:46:19 : KzvqvqZdMU
そもそも良い政治であるには、良き政治家がいないといけない。
政治家の優劣は選挙制度によるのだ。端的に言っちゃうと、普通選挙では優れた
政治家は出ない。
 伊藤寛によれば、日本を初めアメリカやイギリスになど、普通選挙を施工後に
首相の質がガクッと落ちてるらしい。
 投票率の低さは普通選挙がすでに形骸化して、組織された愚民の選挙に
なりつつあることを示しておる。選挙権に制限事項を設けるべきである。


[32削除理由]:削除人:アラシ

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