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安倍首相は18日の参議院本会議で、「国民生活に死活的な影響が生じるような場合は、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な状況に至る可能性はありえる」と述べ、密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民生活に死活的な影響が生じる場合は、集団的自衛権の行使が可能な「存立危機事態」に該当することもあり得ると述べた。しかし、この安倍首相の答弁は、日米安保条約における米国の日本防衛義務を無視した詐欺論法であると言わざるを得ない。
日米安保条約は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本から基地提供を受けて極東の軍事拠点として使える仕組みである。安倍首相は「存立危機事態」において、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な状況に至る可能性に言及したが、仮にも「存立危機事態」となった場合には日米安保条約に基づき、米国側に日本防衛のための集団的自衛権を発動する義務が生じると考えるのが妥当である。
現在の日米安保条約では、日本が武力攻撃を受けた場合、米国に日本防衛の義務が生じるが、今回の安保法制で安倍政権が新たに持ち出した「存立危機事態」では、日本と密接な関係にある他国への攻撃により、「わが国が武力攻撃を受けた場合と同様に日本の存立や国民の生命が根底から覆される危険がある」状況を指している。つまり「存立危機事態」では、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な事態を意味しているのであり、そうであるならば日米安保条約を改定し、今回、安倍政権が新たに持ち出した「存立危機事態」においては、米国側が集団的自衛権の行使を拒否できる筋合いのものではないのだから、条約に日本防衛義務が生じることを追記すれば済む話なのである。
もともと安倍政権が集団的自衛権の行使容認を目指す背景として、日米安保における見捨てられ論がある。見捨てられ論が想定しているのは、尖閣諸島で日中が軍事衝突した場合だと思われる。日米安保条約のもと、日本が攻撃されれば米国は日本を守る義務があるが、米国が攻撃されても日本に防衛義務はない。集団的自衛権の行使を認め、日本が血を流して米国を守る覚悟を示さないと、同盟は維持できず、いざという時、米国は日本を助けてくれないという主張を自民党の高村副総裁らが述べている。だがその一方で日米安保条約は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本から基地提供を受けて極東の軍事拠点として使えることになっている。米国にも多大なメリットがあり、米国だけが一方的義務を負う片務条約ではない。安倍首相も３月の衆院本会議で「日米の義務は同一ではないが、全体として見れば双方の義務のバランスはとられている」と述べているのである。
「存立危機事態」なる状況は、今回の安保法制の改定に際して初めて持ち出されたものであり、その定義が「わが国が直接武力攻撃を受けた場合と同様」な事態を意味しているのであるから、日米安保条約に「存立危機事態」についての追記を行なうのが筋である。なにも日本が集団的自衛権を行使する必要性はまったくない。しかし、そうした日米安保条約における米国の日本防衛義務になんら触れることなく、ただ一面的に「他国への武力攻撃における日本側の集団的自衛権行使」論に話をすり替えるのは、今回の「安保法制の大改定」が、日本が集団的自衛権を行使できるようにしたいがために安倍政権が持ち出した、「世論を欺く詐欺論法」に過ぎないからにほかならない。
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