★阿修羅♪ > 戦争b15 > 744.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
ゆっくりと、しかし着実に進化する中国の核戦力 アジアの安全保障小さな岩礁、大きな問題 中国の衰弱でグローバル分業新興諸国
http://www.asyura2.com/15/warb15/msg/744.html
投稿者 rei 日時 2015 年 7 月 31 日 13:54:50: tW6yLih8JvEfw
 

ゆっくりと、しかし着実に進化する中国の核戦力

核軍縮の流れに完全に背を向けミサイル戦力を近代化

2015.7.31(金) 阿部 純一
広島の原爆ドーム。世界の指導者や軍縮の専門家、若者に広島・長崎を訪れてもらおうという日本の提案は中国に却下された

 安倍総理の戦後70周年談話や、9月3日に北京で行われる反ファシズム戦争勝利記念日の軍事パレードに注目が集まっている。しかし、今年がヒロシマ・ナガサキ原爆被爆70周年でもあることは、あまり話題になっていない。全面核戦争の恐怖と隣り合わせだった米ソ冷戦が終わって四半世紀が過ぎ、世界は核戦争の恐怖から逃れた一方で、同時に核拡散防止や核軍備管理・軍縮への熱意も薄れてしまったような感がある。

 冷戦後、インド、パキスタン、北朝鮮といった国々が核兵器保有国として名乗りを上げた。とはいえ、その保有する核戦力は小規模なものにとどまっている。核不拡散条約(NPT)で核兵器保有を公認されている米露英仏中の5カ国については、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)署名によって核実験の実施が凍結されており、そのことが核兵器開発に一定の歯止めをかけていることは事実だろう。

核軍縮の機運が高まってほしくない中国

 しかし、CTBT署名によって核軍拡競争が避けられ、米露の間で戦略兵器削減条約(START)等の進展があって核弾頭の大幅削減が実施されたとはいえ、いまだこの両国が世界の核兵器の約9割を保有する現実がある。そのことが、核兵器保有国全体を包括する核軍縮交渉を推進させようとする機運を削ぐことにつながっているようにも思われる。

 そのことを如実に物語るのが、今年4月27日から5月22日にかけてニューヨークの国連本部で開催されたNPT再検討会議であった。5年ごとに開催されるこの会議は、核兵器保有国の核軍縮・不拡散努力を促すというのが本来の目的であったが、そのような機運がいかに乏しいかを示す会議になってしまった。

 会議では、NPTに加盟していない事実上の核兵器保有国であるイスラエルに配慮したオバマ政権が、中東を非核兵器地帯とするための国際会議開催に難色を示した。そのため最終文書の採択に至らず、会議は成果を生むことなく閉幕した。

 最終文書の素案審議の中で、興味深い議論があった。「朝日新聞」の報道によれば、5月8日付の最初の素案は、次世代への記憶の継承を扱う段落で、原爆投下から70年の節目に世界の指導者や軍縮の専門家、若者に「核兵器使用の壊滅的な人道上の結末を自分の目で確認し、生存者(被爆者)の証言に耳を傾ける」ために広島や長崎への訪問を提案していた。

 これは、岸田外相が4月27日の開幕日の演説で提案した内容を反映したものであった。しかし、5月12日付の第2稿からこの被爆地訪問の提案が削除されてしまった。中国が異議を唱えたからである。

 中国の傅聡軍縮大使が同日、記者団に対し「日本政府が、日本を第2次世界大戦の加害者でなく、被害者として描こうとしていることに私たちは同意できない」と述べ、削除を求めたことを明らかにした。

 日中の歴史認識をめぐる鞘当てがこの会議でも噴出した格好だが、実際のところ中国としては、核軍縮の世界的機運の高まりは歓迎したくないのが本音のように思える。NPT再検討会議が成果を生むことなく閉幕したことを、中国はおそらく歓迎しているはずだ。

 というのも、米露英仏中の5カ国のうち、最後発国である中国を除いては保有する核兵器を多少なりとも自主的に削減してきたが、中国だけが核軍拡路線を採っているからである。他の先進核兵器保有国と比べ、中国の核戦力の技術水準がいまだ低い事実を中国自身が自覚していることが、核戦力の近代化への動機付けとなっているのだろう。

ミサイル弾頭「MIRV」化の狙いは?

 中国の核戦力を定点観測しているハンス・クリステンセンとロバート・ノリスによれば(Chinese nuclear forces, 2015)、中国の核戦力動向に見られる最近の注目点として、ミサイル弾頭の「MIRV」(マーヴ:Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle)化がある。

 MIRVとは、「複数個別目標再突入弾頭」のことだが、要するに1発の弾道ミサイルに複数の核弾頭を積み、その核弾頭がミサイルから分離し個別に設定された目標に向かって飛んで行くというものだ。1960年代後半には米国で実用化されていた。中国も1基の衛星運搬ロケットから複数の衛星を軌道に乗せる技術を持っていたから、ミサイル弾頭のMIRV化のための技術はすでに保有していると見られてきた。

 中国がMIRV弾頭を積んだとされるのは、東風5号ICBMの一部(CSS-4mod3)とされているが、約20基配備されている東風5号A(CSS-4mod2)のうち半分、すなわち10基程度がMIRV化されたと見られている。

 なぜ、この時期になって中国はミサイル弾頭のMIRV化に踏み切ったのか。その理由としては、米国の弾道ミサイル防衛への対抗策であろう。米国に届く射程を持つICBMの基数は、東風5号約20基、さらに新型の東風31号Aが約25基と絶対的に少ない。その中で、米国の弾道ミサイル防衛の網の目をくぐり抜けるためには、核弾頭の数を増やすのが手っ取り早い方法であることは確かだろう。

 ただし、クリステンセンとノリスのレポートでも、MIRV化された東風5号に1基あたりいくつの核弾頭が搭載されているかについては触れていない。これについては、「ニューヨーク・タイムズ」の記事、さらに中国の核戦力・核戦略の専門家であるジェフリー・ルイスのコラムによれば、3〜4の核弾頭が積まれていると推測されている。

 「ニューヨーク・タイムズ」の記事では、民間の複数の研究者の推定として3つの核弾頭が積まれ、20基ある東風5号の半分がそうだとすれば、米国に届く核弾頭は20から40に増えることになるとしている。また、ジェフリー・ルイスは、新型の固体燃料ミサイルである東風31号の核弾頭の重量が470キログラムで、旧式の液体燃料ミサイルである東風5号の投射重量(throw weight)が3000〜3200キログラムと巨大なことから、東風31号の弾頭なら東風5号に3〜4は積載できるとしている。

 現状で評価するとすれば、中国の弾道ミサイルのMIRV化は極めて限定的であり、かつ新たな技術革新で生まれたものでもないことから、これを過度にクローズアップする必要はあるまい。付け加えて触れておくが、東風31号や開発中と見られる東風41号の弾頭がMIRV化される可能性については、弾頭の小型化が必須であり、その開発のためには核実験を行う必要がある。包括的核実験禁止条約(CTBT)署名国である中国は、核実験を再開するわけにはいかないから、その意味であまり懸念する必要はないだろう。

戦略ミサイル原潜と新型SLBMの動向

 中国の核戦力をめぐるもう1つの注目点は、新型の戦略ミサイル原潜と巨浪2号(JL-2)新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の動向である。

 中国は対米抑止力を、もっぱら地上配備のICBMに依存してきた。これらは先制攻撃に脆弱であるが、巨浪2号SLBMを12基搭載する晋(Jin)級ミサイル原潜(現有3隻)が作戦配備に就くことによって、より確実な核報復手段を実現し、リライアブルな核抑止力を期待できることになる。

 その巨浪2号が今年中にも初期作戦能力(Initial Operational Capability)を獲得すると見られている。事実上の実戦配備の開始である。

 巨浪2号を搭載する晋級ミサイル原潜は、海南島の楡林を母港とし、主に南シナ海を遊弋(ゆうよく)することになる。中国が南シナ海の南沙諸島で人工島建設を急いだ背景に、ミサイル原潜の活動を援護するためのシーコントロールの強化という狙いがあったはずである。

 ただし、ここで中国が直面することになる初歩的な問題がある。クリステンセンとノリスのレポートでも指摘されているように、「ミサイル原潜を戦略パトロール任務につけた経験が中国にはない」ということと、「原潜配備の巨浪2号に常時核弾頭を装填するかどうか」ということである。いずれも、中国の核兵器運用政策の基本的見直しにつながる話である。

 中国は1980年代に夏(Xia)級ミサイル原潜(1隻)と巨浪1号SLBM(射程1700キロメートル)を配備したが、これまで戦略パトロールの任務についた形跡がない。また、中国は平時において核弾頭はミサイルから取り外して保管しており、この原則をミサイル原潜にも適用するとなれば、平時において核を積むことなく長期にわたる遠方へのパトロール任務はやりづらい。いざというときの報復手段として機能しないからである。いずれにしても、中国はミサイル原潜を運用するにあたり、指揮命令系統の見直し、核弾頭のミサイルへの常時装填の検討が必要となる。

 また、たとえこうした問題が解決されても、巨浪2号SLBMが本当に対米抑止力として機能するかどうかという点については、まだ問題がある。それは、巨浪2号の射程距離に絡んでくる。7400キロメートル程度と推定されている巨浪2号の射程では、南シナ海から発射しても米国本土に届かない、ということである。

 もし米国本土にミサイルを届かせようとするなら、ミサイル原潜は米国西海岸から7400キロメートルの距離にあたる北は宗谷海峡から南は硫黄島に至るラインの太平洋海域まで進出する必要がある。そうすれば、かろうじて西海岸の主要都市を狙うことができるからである。しかし、日本の海上自衛隊や米海軍の潜水艦や対潜哨戒機がパトロールする海域に、中国が貴重な抑止力であるミサイル原潜を進出させるとは考えにくい。

核戦力の進化のスピードは控えめ

 以上のように、中国の核戦力は、新たにミサイル弾頭のMIRV化に乗り出し、またミサイル原潜による新たな抑止力の獲得といった進化を遂げている。しかし、その中身についての検討から導けることは、中国の核戦力の進化のスピードは控えめであり、しかもいまだ問題点を多く抱えているということである。

 核を持たない日本にとって、中国の核戦力は明らかに脅威であるが、米国との堅固な同盟関係が継続される限りにおいて、いたずらに脅威を煽る必要はないだろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44416

アジアの安全保障:小さな岩礁、大きな問題

最前線で中国を抑えようとする沿岸警備隊の闘い

2015.7.31(金) The Economist

(英エコノミスト誌 2015年7月25号)

アジア諸国の沿岸警備隊は中国を阻止する闘いの最前線にいる。

米軍偵察機「追い払った」、中国が勝利宣言 南シナ海の人工島問題

米軍の偵察機が捉えた、中国が南シナ海で建設を進めている人工島の空撮映像〔AFPBB News

 中国の沿岸警備隊はほぼ10日ごとに、日本の外相が昼食時までに中国外相に正式な抗議を申し入れるのに間に合うよう、午前8時に現地に到着する。週末に現れることは、あまりない。最近、これはちょっとした儀式になっている。

 中国の艦船は、中国が領有権を主張し、釣魚島と呼ぶ日本の尖閣諸島から12カイリの領海線内に侵入する。

 そして、中国船が国の名誉が満たされたと判断し、領海内から立ち去るまで、日本の海上保安庁の小型船が中国艦船を用心深く追尾するのだ。

 このちょっとしたダンスを改善と呼ぶといい。何しろ2012年には、反日熱が最高潮に達し、尖閣諸島の海域への攻撃的な侵入が、中国が無人の岩礁を巡って隣国・日本に戦争まで仕掛けるのではないかというリスクを浮き彫りにしていたからだ。

尖閣諸島周辺でのダンス

 こうしたダンスを繰り広げているのが、白く塗られ、最小限の武器しか持たない沿岸警備隊の艦船であるために、双方は比較的簡単に撤退できる。だが、暗灰色の軍艦が近くでうろついている。中国がここ数カ月手を緩めている1つの理由は、水平線のすぐ向こうに日本の海上自衛隊の確かな存在があることだ。

 そして、両国が尖閣を巡って衝突するようなことになれば、米国は、日本の援護に駆けつけることを明確にしている(米国は領有権問題に関する見解を一切主張していないが、戦後の日本占領時代には爆撃訓練のために尖閣諸島を使っていた)。

 東アジアで抵抗に遭った中国は、もう少し簡単な標的に目を向けた。南シナ海の島嶼、岩礁、環礁である。これらの島嶼や岩礁は長い間、沿岸諸国、特にフィリピンとベトナムが関与する領有権問題の対象になってきた。だが、中国はこの1年、急激に緊張を高めている。

 第1に、中国は協議もせずに、ベトナムが主張する排他的経済水域(EEZ)に石油掘削装置を運び入れた。もっと問題なのは、中国の海岸からはるか遠く離れた係争中の岩礁や島嶼で巨大な埋め立て工事が確認されたことだ。

 日本とは対照的に、中国の南側の隣国は比較的貧しくて弱く、米国の安全保障上の厳格な保証もない。1992年にフィリピンから米軍が撤退して以来、南シナ海には空白が存在してきた。

影のゲーム

中国海軍の艦艇、イラン初訪問 関係緊密化をアピール

中国海軍の駆逐艦〔AFPBB News

 中国の近隣諸国は、中国が軍事費を急増していること、特に外洋海軍を持とうとしていることに不安を覚えている。

 各国は、中国の力を誇示することをはばからない習近平国家主席に注目している。習氏は好んで、中国の「平和的台頭」や「新型大国関係」――小国のための余地がほとんど残っていないように見える関係――について話す。

 中国と米国の両政府内では、戦略家らが長い間、米中が「トゥキディデスの罠」に陥る運命にあるのかどうか好んで論じてきた。トゥキディデスの原作では、アテナイの勢力拡大に対するスパルタ人の不安が戦争を避けられないものにした。現代の類似点は、既存の大国(米国)が台頭する大国(中国)と衝突する運命にあることを示している。

 日本では、この点は違ったふうに指摘されている。現代の中国は海上で、第2次世界大戦前の帝国日本が地上で見せたような妄想的攻撃性を持って行動しているというのだ。「彼らは、我々が犯したのと同じ間違いを犯そうとしている」と日本のある当局者は言う。

 今のところ、これは外交、法的な作戦、ポジショニング、足元の既成事実(むしろ海上の事実と言うべきか)の創造のゲームだ。このゲームは、主に非軍事的な力と組織によって行われている。浚渫船やはしけ、海洋学その他の調査船、そして何よりも沿岸警備隊だ。

 中国は、自国の埋め立て工事は、灯台や漁船のための台風避難所、測候所、捜索救助施設といった公共財を提供することを目的にしていると主張する。だが、米国の防衛当局者らは、その目的が実際には軍事的なものであると確信している。

 ファイアリークロス礁では、長さ3キロの新たな滑走路が中国のどのような軍用機でも受け入れられるようになっているし、戦闘機の格納庫のように見えるものも建設されている。別の前哨地では、迫撃砲も観測されている。

 米国の計画立案者たちは、これらの要地は脆弱であり――ある人の言葉を借りるなら「動くことのできない空母」――、何か紛争が起きた場合には、すぐに戦闘能力を失うだろうと言う。

 だが、戦争に至らない状態なら、人口島は中国の戦力を投射する有益な前進基地としての役割を果たすだろう。

 中国は、明確に定義されていないU字型の「九段線」を主張する。その中には南シナ海の大部分が含まれ、いくつかの近隣諸国の領有権主張とぶつかる(地図参照)。

 ここでも米国は、誰が何を所有しているのかについて立場を明らかにしないふりをしている。米国は、自国の優先事項は、航空機と船舶両方の自由通行権を守ることだと言う。

 米国は、この点を強調するために、新しく作られた島の近くに定期的に軍事用偵察機を飛ばしている。

 中国は、南シナ海で建設を行った最初の国ではないが、今は群を抜いて精力的な国だ。

 中国の行動は、南シナ海で権利を主張する国々との信頼関係をズタズタに引き裂くことによって、長年約束されてきた領有権問題に対処するための行動規範の実現をより一層困難にしている。

 中国の強硬姿勢は、いくつかの東南アジア諸国を米国に近づけており、米国のアジアへの「ピボット(旋回)」を正当化する理由を与えている。中国の強硬な姿勢に不安を感じている国々は、大挙して軍装備品を購入している。

 日本の安倍晋三首相は、国内で強い反対に直面する中で、日本が同盟国米国を支援する際の制限を緩和する新たな安全保障法案を国会で強引に通過させようとしている。

 安倍氏は、例えば、南シナ海の巡廻で日本が米国海軍と合流することを望んでいる。日本はフィリピンとベトナムに、沿岸警備隊の艦船をそれぞれ新たに10隻と6隻建造する資金も提供している。それらはすべて共同の「反威圧戦略」の一環だ、と東京の政策研究大学院大学の道下徳成教授は言う。

 一方、ベトナムの米国との関係は、ますます強力になっている(ベトナムはロシアからの武器購入も増やしている)。フィリピンは、米国がスービック湾のかつての基地やその他基地に帰還するのを認める新防衛協定に調印した。

 そしてフィリピンは、なおざりにされている自国軍を増強することを計画している。買い物リストの中には、新たな戦闘機、フリゲート艦、海上偵察機が含まれている。だが、この国の汚職の規模を考えると、追加の投資によってどれほどのパンチが放たれるのか疑問に思う向きもある。

 多くの国は今、国連が支援するハーグの仲裁裁判所の手続きを注視している。ここではフィリピンが、水面下の岩礁の上に築いた中国の建造物が国連海洋法条約(UNCLOS)の下で領海とEEZに対する権利を与えるのかどうかの判断を求めている。

 仲裁裁判所は所有権の問題を決着させることはできないが、フィリピンは、曖昧だが広範囲に及ぶ中国の主張を弱める道義的な勝利を期待している。中国はこのプロセスに参加することを拒んでいるが、否応なく法的議論に引き込まれている。

一つの中国、一つの主張

 東シナ海と南シナ海が交差する場所に、中国が主権を主張する台湾がある。台湾海峡を挟んだ緊張は、台湾の馬英九総統と同氏が率いる国民党が本土の共産党との和解を模索しているため、近年大きく和らいだ。

 だが、より独立志向の強い民主進歩党の蔡英文氏が馬氏に取って代わる可能性が高い総統選が迫っているため、対中関係に試練の兆しが出ている。

 蔡氏は、安定的で予測可能な本土との関係を維持するという希望を口にすることで、台湾海峡危機に対する米国の懸念を和らげようとしている。だが、中国は蔡氏の党を信用していない。

 加えて、南シナ海の論争は、台湾と中国との間で新たな争いのもとになる可能性を秘めている。台湾は、東シナ海と南シナ海で中国と同じ主張をしている。実際、九段線は最初、1946年に国民党によって引かれた(当時は線の数は11本だった)。国民党がまだ中国を支配しており、日本の降伏を受けて島々を取り戻すことを目指していた時のことだ。

 同一の主張は、実は中国にとって都合がいい。「一つの中国」しか存在しないという表向きの言い分を強化するからだ(正確に一つの中国が何なのかという点については、中国と台湾は意見を異にしている)。だが、米国は最近、中国の主張の呆れるほど広範な性格を弱める手段として、台湾の主張を明確にするよう馬氏に圧力をかけた。

自主建造のミサイル艇と補給艦が就役、台湾

台湾南部・高雄の左営海軍基地で行われた軍艦2隻の就役式で、海軍部隊を閲兵する馬英九総統〔AFPBB News

 ハーバード大学で教育を受けた法律家で、台湾が国際法を支持していると見られることを熱望している馬氏は、台湾はUNCLOSの下で、九段線内の全海域ではなく、その中の島々の周辺12カイリの領有権だけを主張していると述べた。

 民進党政権は、それよりさらに狭い立場を取るかもしれない。蔡氏は、台湾は自国が保持するスプラトリー(南沙)諸島最大の島、太平島を守ると主張しているが、それ以外の点についてはもっと曖昧だ。

 外交上のニュアンスが、アジアのパワーバランスで起きている容赦ない変化を変えることはないだろう。軍事専門家らは、次のような大まかな見通しを示している。台湾は数年前に自力で中国の侵略を食い止める能力を失った。日本は、あと10〜15年しか最も遠方の島々を守ることができないかもしれない。

 このため、より長期的な問題は、以下のようなものとなる。台湾と日本は、中国に攻撃するのを思いとどまらせるだけの十分な打撃を与えられるか。そしてより重要な点として、米国はどこまで一方の肩を持つ意志や能力があるのか。中国が台湾の近くにミサイルを発射した台湾海峡危機から20年が経過した今、米国は警告として再び近くに空母を配備するだろうか。

 こうした問題に対し、無条件の「イエス」と答える人はほとんどいない。

 軍の考え方は大きく変わりつつある。米国は中国が増強している「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力を打ち破ろうとして、新たな武器を探し求めている。この能力には、例えば、恐らく「第一列島線」(日本から台湾、フィリピン、インドネシアを通る)で米軍を食い止めるよう設計された対艦ミサイルが含まれる。

 軍事的な不均衡が非常に大きいため、近隣諸国は今、中国を撃退するための独自のA2/AD戦略を計画している。

 米国海軍大学のトシ・ヨシハラ教授は、日本は陸上配備型の対艦ミサイルや潜水艦、高速ミサイル艇での「海上ゲリラ戦」、機雷戦のような事柄に焦点を当てるべきだと考えている。米国は密かに、台湾に同様の戦術を取るよう圧力をかけている。そして日本の当局者は内々には、台湾の安全保障が日本の安全保障にとって不可欠だと認めている。

 ワシントンのシンクタンク、米国戦略予算評価センター(CSBA)のアンドリュー・クレピネヴィッチ氏は、米国は同氏が「列島線防衛」と呼ぶものをフィリピンに広げる手助けをすべきだと言う。

打ち負かせなければ、封じ込めよ

 そうした助言は、東シナ海と南シナ海は中国の湖になる運命であり、でき得る最善のことは中国をその中に封じ込めることだと認めるあきらめの言葉なのかもしれない。

 緊張が世界の繁栄に及ぼす危険性を考えると、誰もそのような考えを試したいとは思わない。今後数年間の目的は、悪い行いを防ぐ一方で、台頭する中国を近隣諸国との協力的な関係に引き込むことでなければならない。

 中国はとてもではないが、国内問題がないわけでも、外圧に無関心なわけでもない。北京の専門家の中には、自国が最近海上で自己主張を強めすぎていると考える者もいる。中国は、南シナ海での埋め立てが終わりつつあると言っている。習氏は、9月の訪米を前にして、過剰な論争は避けたいと思うだろう。

 今のところ、アジアにおける競争が紛争に変わるのを避けられるかどうかは、中国周辺の海域で軽武装した沿岸警備隊の艦艇の乗組員たちが冷静さを保てるかどうかにかかっているのかもしれない。

© 2015 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44438

中国の衰弱でグローバル分業参画の機会が高まる新興諸国

2015.7.31(金) 武者 陵司
中国、大株主や企業役員の持ち株売却を6か月禁止

中国・浙江省杭州で、株価の電光掲示板を見つめる投資家ら(2015年7月8日撮影)。(c)AFP〔AFPBB News

 ついこの間まで世界経済の機関車であった中国が突如最大のリスク要因になっている。

衰弱が顕著な中国経済

 まず足元の経済の衰弱が顕著である。鉄道貨物輸送量、発電量、粗鋼生産量、輸入数量などは軒並み前年比マイナス領域に陥っている。工業生産増加額も2010年ピーク時20%増、13年10%増、14年8%増から2015年に入って以降5〜6%増に低下している。成長をけん引してきた設備投資と不動産投資は完全に失速した。不動産価格が下落に陥るなど7%成長とは程遠い経済の衰弱ぶりである。消費も減速顕著。自動車販売は4、5、6月と3カ月連続のマイナスになった。

 また1年で2.5倍という突出した株価上昇が先月まで進行していたが、そこから1カ月で35%の株価暴落がおこった。企業破たんや経済急減速により収益悪化が推測されており、本源的企業価値衰弱の下でのここ1年間の株価急騰は明らかにバブルであった。しかし中国当局はこのバブル崩壊を容認できず、常識を超える下支え策を打ち出し、下落を食い止めた。当局の大号令に従った大手証券会社21社連合による1200億元(約2兆4000億円)規模の上場投資信託(ETF)購入、新規株式公開(IPO)の承認凍結、大量保有株主による株式売買の半年間停止、「悪意ある空売りの懲罰」などである。

チャイナプラスワンの恩恵も

 中国経済の衰弱はもはや明らかであろう。これが世界経済にどのように影響していくだろうか。

 対中ビジネスの悪化などマイナス面とともに、中国の後退により恩恵を受ける国も出てくるのではないか。2000年からの新興国の台頭、BRICSブームは中国の台頭によるグローバリゼーションの受益者の産業連鎖によるものであった。爆食中国の資源需要がBRICSブームを形成したが、中国の減速失速とともにブームは消滅しつつある。もっとも中国の台頭は中国固有の利点によるものではなく、チープレイバーの国際分業への動員力が優っていたということなので、他国も追随できる。

 しかもいまや中国の賃金は新興アジア諸国最高となり、中国生産の競争力は著しく低下している(図表1)。今後、国際分業において中国が地盤沈下していく中で、チャイナプラスワンによる恩恵を受ける諸国が台頭していくだろう。

減少している対中投資、ピーク過ぎた中国への集積

 図表2に見るように海外企業の対中直接投資は、2011年の中国に対する投資は、全体で1160億ドル、2012年1116億ドル、2013年1176億ドル、2014年1195億ドルと頭打ちが顕著である。

 その中で唯一香港からの対中投資だけが増加し、その比率は全体の7割に上っている。香港以外からの対中直接投資は大きく減少しているのである。特にこれまで増加をけん引した日本企業による対中投資が、劇的に減少しているということが注目される。

 日本の対中国直接投資は7〜8年前までは、アジアに対する日本の直接投資のほぼ半分を担っていた。2012年は1兆759億円と1兆円の大台を超えていた。しかし2013年には8870億円へと2割減少、2014年は7194億円とさらに2割減となった。

 対中投資を減らした日本企業は、ASEANへの投資を大きく増やしている。ASEAN主要6か国(シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)向けの直接投資は2012年8471億円、2013年2兆3115億円2014年2兆1343億円と著増し、対中投資のほぼ3倍に上っている。日本企業による中国からASEANへの製造拠点の移転の進展を示している。日本企業の海外製造拠点の急シフトが鮮明である。

 このように中国のゆるやかな地盤沈下が、その他の地域の浮上、グローバル分業への一段の参加によって相殺されることによって、世界経済全体としては着実な経済の成長を期待できる、と考えられる。

浮上するインドとASEAN諸国

 注目されるのはインドである。インドはこれまでサービス産業に特化した一風変わった形でグローバル分業に参画してきたが、そのパターンは息切れした。サービス産業は産業連鎖が弱く12億人の巨大経済を離陸させるには不十分だったのである。今後はモディ政権の下で製造業の産業集積が始まり、中国からの輸入代替が急進展するだろう。先進国の製造業のインドへの進出が加速するだろう。アップルのスマートフォンを一手に生産している巨大受託生産企業ホンハイは2020年までにインドで10〜12の工場を建設し、100万人(現在のホンハイ中国従業員数より多い)を雇用すると発表している。

 またタイをハブとするASEANの産業集積は一段と強まっていこう。ベトナム、ミャンマーや労働賃金の非常に安いフィリピンなども、投資対象として浮上してきている。NAFTA加盟国のメキシコやトルコも、中国地盤沈下の恩恵を受ける可能性がある。

 そもそもリーマンショック以降の中国への製造業産業集積の過程で、インド、ベトナム、タイ、マレーシアなどのアジア諸国は、中国に大きく財の供給を頼る構造が強まっていた。図表4〜7に東南アジア諸国の相手国先別輸入比率推移を示すが、各国市場に中国(紫色)が大きく浸透してきたことがわかる。

 今後、各国の産業集積が高まることにより中国からの輸入代替が進行するだろう。あたかも巨木が倒れた後に若木が生育するように、中国に一手に占有されてきた生産要素の新興国各国への拡散が進展するが、それは中国が担ってきた機関車の役割を多くの新興国が代替することを意味する。

 中国失速が世界経済の成長を押し下げるとは必ずしも限らないのである。

(*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第143号(2015年7月30日)」を転載したものです。

(*)投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。本記事の情報に基づく損害について株式会社日本ビジネスプレスは一切の責任を負いません。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44432
 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 戦争b15掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
戦争b15掲示板  
次へ