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5歳の娘の白血病を利用した“蓄財事件”の顛末 世界鑑測 娘の回復を祈る父親の姿に人々は涙したが 中国・キタムラリポート
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 12 月 16 日 20:21:33: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

5歳の娘の白血病を利用した“蓄財事件”の顛末

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

娘の回復を祈る父親の姿に人々は涙したが…
2016年12月16日(金)
北村 豊
 11月25日、中国版メッセンジャーアプリ“微信”の“公衆平台(公式アカウント)”に『“羅一笑, ?給我站住(羅一笑、君は私のために立ち止まって)”』と題する文章が掲載された。この文章は広東省“深?市”に住む“羅爾(らじ)”という名の父親が白血病を患って“深?市児童医院”に入院している娘の“羅一笑”(5歳)に対する思いをつづったものだった。その訳文は以下の通り。なお、文中にある“笑笑”は羅一笑の愛称。中国の家庭では子供に同じ漢字を重ねた愛称を付け、愛称で呼ぶのが一般的である。

白血病の娘に対する思いを

 『羅一笑、君は私のために立ち止まって』

 11月23日午後6時、“笑笑”は再び危篤になり、集中治療室(ICU)に入った。ベッドが集中治療室へ運ばれて行く時、私は笑笑の耳元で「きっと良くなるよ」とささやいた。私はこぼれ落ちる涙をこらえることができなかった。

 妻の“文芳”は私の肩に顔を埋めて泣いた。集中治療室の費用は毎日1万元(約16万5000円)を上回るだろう。彼女は私たちがその費用を支払えないことを悲しみ、たとえその費用を支払えたとしても、笑笑の命は助からないことを悲しんだ。私はもう泣かない。何としてでも文芳を悲しみの中から引っ張り出さねばならない。

 集中治療室の扉の外にある長椅子の上で1人の父親が眠っていた。笑笑が21日の早朝に集中治療室に入った時も、その父親は長椅子の上で眠っていた。私と彼は親しくなった。意外にも、彼は湖南省“泪羅(べきら)市”出身の私と同郷人だったのだ。彼は深?市“宝安区”でゴミ拾いをして暮らしているが、10歳で小学4年生の息子が数日前にタクシーにはねられて意識不明になり、集中治療室で治療を受けていた。彼はずっと集中治療室の外で息子の意識が回復するのを待ち続け、疲れると長椅子の上で眠り、空腹になるインスタントラーメンを食べていた。私は彼にどうして家に帰らずにここで待っているのかと尋ね、「あんたは息子に会うこともできないし、かといって何もしてやれることはないじゃないか」と言ったが、彼は息子のいない家に帰っても眠れないのだと答えた。

 笑笑の集中治療室への入院手続きを終えて、私と文芳は家に帰ったが、その時ようやく同郷人であるあの父親がどうして集中治療室の外で眠らなければならなかったのかを理解した。娘のいない家はひっそりして寒々しかった。友人が酒でも飲もうと声をかけてくれたが、私は応じなかった。家に文芳を1人残して外出することなどできなかったし、1人で読書することもはばかられた。文芳は昨夜も医院で過ごして一睡もしていなかったので、私は彼女に早く休んで欲しかったが、彼女は何度も寝返りを打って眠ることができず、私たちはため息をつくばかりであった。

私のために立ち止まってほしい

 木曜日(24日)は面会日ではなかったが、私と妻は早めに医院へ向かった。それは医師の口から笑笑の良い知らせを聞きたかったためだったが、医師は非常に忙しく、病状を二言三言話してくれただけで、私たちの心配を何ら解消するものではなかった。丁度良い具合に文芳の親友2人が医院へ見舞いに来てくれたので、私は彼らに文芳を任せて走り回った。私は各種各様の証明や印鑑を取って回り、笑笑の重病診察予約を取り、“小天使基金”<注1>に対して救援を申請した。

<注1>“中国紅十字基金会(中国赤十字基金会)が提唱して設立された白血病の児童を救援することを目的とする基金。

 以前、私は政府からこの種の援助をびた一文たりとも受けたいと思ったことはなかった。今でもそう思っているが、こういう方法でしか私は笑笑にパパも全力で頑張っているということを告げられないのだ。君は絶対にパパを待っていて欲しい。それらの手続きが完了するのには少なくとも2か月が必要だが、笑笑は2か月を待ってくれるだろうか。待ってくれさえすれば、どんな問題でも解決することができる。

 笑笑が歩くようになってから、私たちはずっと1つのゲームで遊んでいた。彼女が歩きたくないと駄々をこねると、私は前の方に走ってからしゃがんで両手を広げる。笑笑はこれを見ると、満面の笑顔で走って来て私の懐に飛び込んでくる。愛しの娘よ、今、パパは家の中で君に向かって両手を広げている。今すぐに家へ戻ってパパの胸に飛び込んで欲しい。昨日は“感恩節(感謝祭)”だったが、私はこの2か月間にわたって私たちを励まし、支援してくれた身内や友人に対する感謝の気持ちを文字で記そうとしたが、心乱れて一文字も書くことができず、結局、書かないことにした。

 羅一笑、お爺ちゃんとおばあちゃん、おじさんとおばさん、兄さんと姉さんが君に与えた恩情は非常に重く深いものであり、私はそれを君のために書き記しておくけど、君はしらばくれることなく、自分から彼らが与えてくれた恩に感謝しなければならないよ。

 羅一笑、幼稚園の先生や友達は君のために“献愛心的活動(愛の手を差し伸べる活動)”を展開してくれているよ。先生や友達は皆が君を心配し、早く幼稚園へ戻って来るのを待ち望んでいるよ。君は彼らを失望させてはだめだよ。

 羅一笑、むやみに走り回らず(=勝手に天国へ行こうとせず)、私のために立ち止まって欲しい。もしも君がおとなしく家へ帰らないというなら、たとえ君が天使になり、天国へ行ったとして、いつか私たちが天国で会っても、パパは君に知らない振りをするよ。

 上記の文章が11月25日に微信上で発表されると、多くのネットユーザーの共感と関心を呼び、次々と転載されて広範囲に知れ渡ることになった。この文章の作者である羅爾は2016年1月に発行を停止した女性誌「女報・故事」に勤めていた人物だが、9月8日に娘の羅一笑が検査で白血病にかかっていることが判明し、彼女はすぐさま深?市児童医院へ入院したのだった。その後、羅爾は微信の個人アカウントで白血病にかかった娘の闘病記録を有償で発表していたのだ。有償とは、文章を読んで「良かった」と感じた読者が文章の下部に置かれている「“賛賞(称賛)”」のボタンをクリックすると、自動的に課金されて作者にカネが支払われることを指す。要するに、羅爾は“売文救女(文を売って娘を救う)”<注2>を行っていたのだった。

<注2>“売文救女”の“女”は娘を意味する。

美談が内情暴露で一転

 12月1日付の北京紙「北京青年報」はこの“売文救女”について次のように報じた。
【1】11月30日の朝8時前に“宋先生(宋さん)”はいつもの習慣で微信の“朋友圏(モーメンツ)”をチェックしたが、そこにあった新着記事の『“羅一笑, ?給我站住”』という題名の文章に注意を引かれた。多数の友人たちが同じ記事を転載しており、ある人は記事を転載するのと同時に「この白血病の娘を持つ父親は“売文救女”である」と注釈を付けていた。興味を持った宋さんは当該記事が引用していたリンク先をクリックしてその文章を読んでみたが、文末の段落を読む頃には思わず涙ぐんでしまった。文章に感激した宋さんが「称賛」のボタンをクリックしようと文章の下部を見ると、そこにあった“閲読(読んだ)”欄の読者数と称賛欄の称賛者数は共に10万人を超えていた。そこで、宋さんも称賛のボタンをクリックしたところ、画面上に「当該作者が本日受領した称賛金額はすでに上限に達しました」との表示が出たのだった。

【2】宋さんは、“小銅人”という名の会社が持つ微信の公式アカウント「P2P観察」も同様に『“羅一笑, ?給我站住”』の記事を掲載していることに気付いた。羅爾の個人アカウントと違うのは、公式アカウント「P2P観察」の方には文章に注記があり、「あなたが本文章を転載すると、我が社は献金を行います。あなたが転載する毎に、我が社は1元(約16.7円)を献金します」と書かれていた。当該文章を自分の友人グループであるモーメンツ内に転載するだけで、小銅人という会社が文章の作者である羅爾に献金をするというのは奇妙な話だが、これも羅爾と羅一笑の親子を支援する方式なのかと理解した。ところが、それから4時間も経たないうちに、事態は思いもしない方向に逆転を始めたのだった。

 その逆転とは何か。各種各層の内部事情を知る人たちが次々と、微信上に作者の羅爾に関する内情を暴露したのだった。それは次のような内容だった。

(1)羅爾は以前、自分の微信アカウントに掲載した文章の中で、自分は住宅3戸、自動車2台、広告会社1社を保有していると述べていた。それが本当なら、白血病の娘を救うために自分が持つ住宅を売れば治療費は負担できるはずだが、何故に微信上で“売文救女”を標榜し、娘の治療費を捻出するための献金を求めるのか。

(2)小児白血病患者の治療を専門とする医師に確認したところでは、目下のところ、羅爾の娘の医療費は医療保険の公費負担比率が高く、患者の負担額はわずか数万元に過ぎないはずである。従い、羅爾の家庭が“入不敷出(収入が支出に追い付かない)”状況になっていることなど有り得ない

(3)問題の矛先を作者の羅爾と小銅人との関係に向け、彼らが採用した「転載したら献金」方式は、一般大衆の善意を利用して商業活動を行っているに等しいと批判すると同時に、本当に羅一笑は白血病にかかっているのかと疑問を呈した。

献金額を公表後、基金設立へ

 これら内情を知る人々によって提起された指摘や疑問点は、微信の中だけに止まらず、メディアによって大きく取り上げられたことから、深?市の“民政局”が介入して羅爾と小銅人および深?市児童医院に対する聞き取り調査が行われた。11月30日、深?市民生局は調査結果を発表したが、その要点は以下の通り。

【1】羅爾の月給は4000元(約6万7000円)で、他に収入源はないし、妻の文芳にも収入はない。住宅3戸(深?市内に1戸、広東省“東莞市”に2戸)および自動車1台を所有している。深?市にある80m2の住宅はローンを完済したが、東莞市にある住宅は昨年投資のために2戸合わせて100万元(約1670万円)で購入したもので、融資を受けたので借金がまだ40万元(約668万円)残っている。医院の費用を支払うために家を売ればよいという人がいるが、深?市内の家は今住んでいる家であるから売るわけには行かない。東莞市にある2戸の住宅は借金があるため不動産権利書がなく、売りたくても売れない。自動車は2007年に買った米国製のビュイック(Buick)で、すでに廃車同様である。

【2】娘の羅一笑の医療費は、9月分と10月分の総額から公費負担額を差し引いた自己負担額は確かに数万元であった。但し、娘が集中治療室に入院した後の医療費は、多くの器具や治療が公費負担の範囲外になるため、自己負担額がどの位になるかは分からない。また、小銅人の「転載1回毎に1元献金」については、羅爾は決して商業活動には該当しないとの意見を堅持した。

【3】深?市児童医院が出した声明によれば、羅一笑の医療費明細は次の通りだった。すなわち、羅一笑が3回入院した費用の合計は20万4244元(約341万円)であったが、このうち医療保険による公費負担分が16万8051元(約281万円)で、自己負担分は3万6193元(約60万円)であった。入院毎の医療費に占める自己負担比率の平均は17.7%だった。

 こうして羅爾の経済状況と羅一笑の医療費の詳細が白日の下に晒されたが、そこで人々が注目したのは、羅爾が微信に『“羅一笑, ?給我站住”』を掲載したことにより一体いくらの献金を受領したのかという点だった。

 12月1日、羅爾と彼の友人で小銅人の経営者である“劉侠風”は共同声明を発表して、次のように述べた。

(1)11月30日24時までに、小銅人の公式アカウント「P2P観察」で掲載した文章の転載回数は54万8432回であり、2016年11月27日の約束に基づき、小銅人は50万元(約835万円)を羅爾に献金した。また、読者が「称賛」ボタンをクリックしたことによる課金の合計は10万1111元(約169万円)であった。一方、羅爾個人の公式アカウントで掲載した文書に対し読者が「称賛」ボタンをクリックしたことによる課金の合計額は207万元(約3457万円)であった。この両者の合計額は267万1111元(約4461万円)であった。

(2)2人で協議した結果、上記の金額は読者の同意を得ているものと見なして、全額を拠出して小児白血病患者の救済を目的とする基金を設立する。羅一笑の医療費については、合法的なルートで当該基金に救援を申請することで対処する。今回の件を通じて、社会に悪い影響を与えたことに対して深く謝罪する。

表面上の決着は見たが…

 こうして通称「羅一笑事件」と呼ばれた事件は表面上の決着を見たが、内情を知る人々が問題を提起しなければ、羅爾は白血病の娘を利用して267万元余の大金を得ていた可能性が高い。彼が娘の医療費の支払いに困難を来す程に困窮しているならともかく、3戸の住宅を保有していたことを考えると、白血病を名目とした詐欺を画策したというのが実態であろう。

 中国では白血病の発病率が小児がんの首位にあり、10歳以下の小児白血病の発病率は10万分の7である。この数字だけを見るとそれほど高いようには思えないが、小児白血病の発病率は成人に比べて遥かに高い。中国赤十字基金会の研究報告によれば、中国で毎年新たに発病する白血病患者の数は4万人だが、その半数は児童で、2歳〜7歳が最多を占める。児童と青少年の白血病は90%が急性白血病であり、年間の発病率は10万分の3〜10万分の6だが、発病が急であることから、直ちに適切な治療を行わないと、寿命は平均して半年も持たない。なお、中国の白血病による死亡率は50%に上っている。

 こうした状況下において、娘の白血病を利用して金儲けを企んだ羅爾とその友人の劉侠風は許し難く、人の道理を踏み外した存在と言える。事件は小児白血病患者救済基金の設立で決着したが、真に救済を求める貧しい小児白血病患者に対して人々が猜疑の目を向ける悪しき前例を作ったのだった。羅爾が娘の回復を心から望んでいることに偽りはないはずだが。


このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/121400078  

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