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英国がEU離脱しても、世界経済への影響は限定的 すぐ激震は起きない 政府は経済対策前倒し 企業はどう動くべきか
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 6 月 28 日 15:13:00: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

英国がEU離脱しても、世界経済への影響は限定的

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国際政治や外交への影響は大きいが
2016年6月28日(火)
塚崎 公義(久留米大学商学部教授)
英国のEU(欧州連合)離脱で、金融市場は大荒れとなった。世界経済や日本経済についての識者の見通しも悲観的なものが多い。しかし筆者は、国際政治や外交面への影響はともかく、世界経済への影響は限定的なものになると考えている。

EUからの離脱が決まり、辞意を表明するキャメロン英首相。金融市場は敏感に反応し大荒れとなった。(写真:AP/アフロ)
英国のEU離脱で騒ぎすぎる市場

 英国のEU(欧州連合)離脱が決まり、金融市場は大荒れである。世論調査からもブックメーカーのオッズ(賭けが的中した場合の倍率)からも、離脱の可能性は決して低くないと考えられていたが、金融市場は「それでも最後は英国民の理性が勝つだろう」と考えていたようである。

 そこに「予想外の大事件」が起こり、金融市場が大きく動いたのである。しかし、冷静に考えて、英国がEUを離脱することがそれほど重大なことだろうか? 「リーマン・ショックに匹敵する危機」といった見解もあるが、本当に世界経済や日本経済は大混乱するだろうか? 確かに国際政治や外交の面では様々なことが起こり得るのかもしれない。それはともかくとして、経済面への影響に関しては筆者には限定的なものであるように思われる。

EUは英国に多くの恩恵を与えていたのか

 そもそもEUは、英国経済に対しそれほど多くの恩恵を与えていたのか? かつて英国がEU(の前身)に加入した時、経済面で劇的な改善がもたらされたのか? 確かに人や物の移動が便利になったことで、多少のメリットはあったはずだが、離脱した途端、世界不況をもたらすほどの膨大な恩恵があったのかというと、筆者はそうは思っていない。

 過去に「自由貿易協定」が締結された事例を調べてみると、爆発的なメリットが生じたという話は、少なくとも先進国では聞いたことがない。「自由貿易協定」のたぐいが大きな効果をもたらすのであれば、世界中が自由貿易協定締結の機運で満ちているはずであるが、実際にはそうなっていない。冷静に考えれば、英国にとってはEUのメリットはさほど大きくないので、離脱の打撃もそれほど大きくないはずである。大騒ぎをするようなものではないのである。

 今後、注目していくべきことは、英国とEUの間で新たな協定が締結されるはずだということである。仮に英国とEU諸国との関係が全く切れてしまうとすれば、影響は大きいかもしれないが、言うまでもなくそんなことはあり得ない。経済的に密接な関係は続くだろう。今回、英国人の多くが問題としたのは、英国に自由に人(移民)が流入することであって、自由な貿易ではないのである。仮に「相互の人の往来は制限的に認め、相互の物の往来は自由のままとする」といった協定が締結されれば、欧州経済にも世界経済にもほとんど何も影響が生じないかもしれない。

 なお本稿では、今後、英国とEU間の物の往来にも、ある程度の制限が設けられると仮定して考えて行くこととしたい。もしEUが制限について柔軟に対応すると、加盟国間に不公平感が生まれてしまうはずだからだ。

打撃を受ける企業もあれば、恩恵を受ける企業も

 今後、英国と欧州大陸との間の輸出入には関税がかかるようになり、英国の輸出産業は打撃を受ける可能性はある。しかし一方で、これを機に英国の消費者が欧州大陸製品から英国産の製品に乗り換えるとすれば、英国経済への影響はそれほど大きくないかもしれない。ほかにも、為替の変動によって、多様なシナリオが考えられる。取引の条件が変わることによって、当然ながら、打撃を受ける企業と恩恵を受ける企業があるわけで、打撃を受ける企業にのみ着目して、マクロ経済に大打撃が生じると考えるのは誤りである。

 本件に関して言えば、関税復活で英国の輸出企業が打撃を受けることは誰にでもわかる。しかし、誰が恩恵を受けるのか現時点で不明であるため、そちらは語られない場合が多い。誰かが恩恵を受けるのであれば、マクロ経済を論じる際にはプラスとマイナスの両方を考えるべきなのである。

「リーマン・ショック」の時とは、事情が異なる

 2008年には「リーマン・ショック」によって世界経済は大混乱に巻き込まれたが、今回の影響をそれとの比較で見ることには大きな違和感がある。その一つは、今回は「バブル」が崩壊したわけではない、ということである。リーマン・ショックの時には、バブル崩壊によって発生した巨額の損失を誰が負担し、それによって誰が倒産するのか──という状況の中で、「誰(どの企業)が倒産するかわからないから、他人(企業)に金を貸すのはやめよう」と皆が考えた。これにより、世界的に金融が収縮した(世界中で金の貸し借りが行なわれなくなった)のである。

 しかし今回は、特定の誰かが損をしたわけではないし、特定の誰かが倒産しそうだというわけでもない。短期的には国際金融市場のプレーヤーたちが先行き不透明感から与信を手控えることも考えられるが、影響は限定的かつ一時的であろう。

 リーマン・ショックの時は、震源地が米国であったことが混乱を大きくした要因であった。米国は世界中から巨額の輸入をしているため、米国の景気悪化は世界の輸出企業に大きな打撃となったのである。それ以上に影響が大きかったのは、基軸通貨である米ドルの信用が収縮したことで、世界中に甚大な影響を与えたことである。

 「金融は経済の血液」と言われるように、金融の流れは普段はあまり意識されないが、ひとたび流れが止まってしまうと、経済全体に甚大な被害を及ぼすことになるのである。それに対して今回は、仮にポンドやユーロの資金貸借が滞るようなことになったとしても、国際的な取引の多くはドルで行なわれているし、ポンドやユーロで行なわれている取引も一時的にドルで決済をすることも可能である。「全身の血流が止まってしまう」ようなことにはならないであろう。

英国が抜けてもEUは崩壊せず

 英国がEUを離脱したことで、他にもEUを離脱する国が出て来て、EUが崩壊してしまうという論者もいる。筆者は「仮にそうなったとすれば、国際政治の面では大問題であろう。それでも経済面での影響はそれほど大きくない」と思っている。それ以前に、EUが崩壊すること自体が考えにくい。

 そもそも欧州大陸と英国の間には、心理的な距離があると、かねてから言われている。例えば、大英帝国時代の栄光にしがみついて孤高を保とうとしている英国は、欧州大陸と統合してEU本部の指令に従うことを望まない──云々といったことである。そうした背景をふまえると、「英国が抜けたから、ほかの大陸諸国も離脱する」と短絡的には考えにくい。

 英国のEU離脱に際して、とりわけ重要なことは、英国の通貨が「ユーロ」ではなく「ポンド」であることだ。「ユーロ圏」でなかったため英国は簡単に離脱できるが、一方、ユーロ圏諸国の離脱のハードルははるかに高い。非ユーロ圏諸国が英国に追随して離脱する可能性は否定しないものの、ユーロ圏諸国の離脱は簡単ではないのである。

「ユーロ」採用国のEU離脱はハードルが高い

 英国はユーロ圏ではないので、EUから離脱しても従来どおりの自国通貨を使い続けることができるが、ユーロ圏の国がEUから離脱するとなると、ユーロを使わずに自国通貨を使うことになる。

 ユーロ圏の経常収支赤字国は、過去の赤字分だけ外国から借金をしていると言える。現在は自国通貨でもあるユーロで借りているので、貸し手も比較的安心しているが、ユーロ圏を離脱するとなると、「経常収支赤字国が巨額の外貨を借りている」ことになる。

 これは貸し手にとって不安な状態であるので、貸し手からの返済要請が相次ぐことになる。外貨を購入して返済しようとすれば、外貨が高騰し、輸入物価が高騰し、極度のインフレになるかもしれないから、外貨の返済を待ってもらうことになる。

 仮に既存の債務の返済を猶予されたとしても、その後に発生する毎年の経常収支赤字分は外貨を購入する必要があるため、早晩、外貨が高くなり輸入インフレになることは免れない。それを避けるとすれば、厳しい引き締めによって景気を悪化させ、輸入を減らして経常収支を黒字化するしかないが、それには大量の失業者の発生などを覚悟する必要がある。

 ギリシャが債務問題に苦しめられながらもユーロ圏を離脱できないのは、こうした悪影響を怖れているためである。そうであれば、ギリシャ以外のユーロ圏経常赤字国も、簡単には離脱しようとしないであろう。

 一方、経常収支黒字国も、ユーロ圏から脱退すると、自国通貨が高騰してしまうので、ユーロ圏に留まるインセンティブは大きい。ユーロ圏にとどまっている限り、自国の経常収支黒字と他国の経常収支赤字を合算してユーロの為替相場が形成されるため、それほどの自国通貨高に悩むことはないからである。

 こうして考えると、ユーロ圏は参加国に大きなメリットを与えているように見える。経常収支赤字国は借金ができるし、黒字国は輸出が容易になるためである。しかし、これは麻薬のようなものかもしれない。永遠に続けるわけにはいかないかもしれないし、続けるほど巻き戻しのコストは大きくなるからである。余談であるが、例えばアジア共通通貨圏などを検討する際には、こうしたことも考慮する必要があろう。

日本経済への影響も限定的

 欧州経済や世界経済にそれほどの打撃がなさそうであるため、日本経済への打撃は小さいと思われる。仮に欧州経済に大きな打撃があったとしても、日本経済は日米関係ほどに欧州との関係が緊密であるわけではない。日本と欧州の産業構造は似ているので、お互いに得意の製品が同様で輸出入が行われにくい。こうしたことから、日本への打撃は軽微だろう。

 また、リーマン・ショックの時には、世界の基軸通貨であるドルが大幅に安くなり、円が高くなった。国際的な取引の多くはドル建てで行なわれているので、ユーロやポンドが安くなるのと、米ドルが安くなるのとでは影響の大きさがまったく異なるのである。

 ちなみに、リーマン・ショックの後、米ドルが安くなった理由は三つである。一つ目の理由は、世界的な経済金融情勢の混乱を目の当たりにして、投資家たちが「リスク・オフ」になり、「安全資産」である円を買う動きが活発化したことである。これについては、今回も投資家がリスク・オフになっているという点で共通しているが、以下の残りの二つは状況が異なっている。

 リーマン・ショックで米ドルが安くなった理由の第二は、米国が景気悪化によって金融を緩和し、日米金利差が縮小したことである。それに対して今回は、米国の景気が比較的好調で、金融は緩和よりも引き締めの方向にある。

 リーマン・ショックで米ドルが安くなった三つ目の理由は、米国と欧州の経済金融情勢が混乱していて、日本円が文字通りの「安全資産」として買われたことである。これに対して今回は、欧米に比べて特に日本が安全だというわけではない。前回は円が安全資産と呼ばれるに相応しい理由があったが、今回はないのである。

 こうした事を考えると、今回はリーマン・ショック時と比べて、ドルが安くなる理由は乏しいのである。

国際政治、外交への影響は小さくない

 ただし、冒頭で触れたように、国際政治や外交などへの影響は決して小さくなさそうである。筆者の専門分野ではないため詳述は避けるが、各国が内向きになりつつある昨今の雰囲気を、加速させる契機となることなどが懸念されよう。

 しかし、それが世界経済や日本経済にリーマン・ショック並みの打撃となり得るとは到底思えない。長期的な世界経済の発展のスピードが緩やかになる、といった程度であろう。

 なお本稿では「マクロ経済」の視点で考察を行っており、日本企業の在英子会社が打撃を受ける可能性については、考慮していない。英国に進出している日本企業の関係者にとっては切実な問題だろうが、それらの企業は英国企業である。仮に日本企業の在英子会社が打撃を受けても、せいぜい親会社の受け取る配当が減る程度であって、ただちに日本の景気や成長率が影響を受けることはないからである。

悲観的な評論家が多いが…

 今回に限らず、何か起きると悲観的な見通しを述べる評論家が多い。その一因は、楽観的なことを言うより悲観的なことを言う方が賢く見えるためである。

 「大丈夫」と言うと、「これほどリスクがあるのに、気づいていないのか?」とバカにされてしまいかねないのである。実際、筆者がそうしたコメントを頂戴することもある。

 悲観的な論説の方がウケるのは、「幸福な予測は一様に幸福であるが、不幸な予測はそれぞれに不幸である」ためだとも言える。つまり「大丈夫」という予測は話を膨らませることが難しい一方で、「心配なリスクが多数あります」という話はいくらでも膨らませることができるためだ。日本人が楽観的な話よりも悲観的な話を聞きたがる傾向があることも理由の一つだろう。

 いずれにせよ皆さんは、マスコミからの情報にはそうしたバイアスがかかっていることを再認識し、それぞれの論説を吟味してほしい。特に、英国のEU離脱が決まったばかりの今は、話題の方向性が悲観論に偏りすぎの傾向があるようだ。その場の空気に流されずに、自ら冷静に落ち着いて考える必要があると思う。


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英国のEU離脱、すぐに激震が起きるわけではない

キーパーソンに聞く

ニッセイ基礎研究所・上席研究員、伊藤さゆり氏に聞く
2016年6月28日(火)
田村 賢司
英国の欧州連合(EU)離脱は世界に衝撃を与えた。日本では株価が暴落し、円高も進んだ。英国と欧州経済は、どうなるのか。日本と世界経済は大きな影響を受けるのか。ニッセイ基礎研究所・上席研究員の伊藤さゆり氏に離脱の背景と今後の世界経済への影響を聞いた。

(聞き手は田村賢司)
英国の欧州連合(EU)離脱で世界に衝撃が走りました。なぜ、離脱しなければならなかったのでしょう。


伊藤さゆり(いとう・さゆり)氏
ニッセイ基礎研究所 上席研究員
1987年、日本興業銀行入行。2001年にニッセイ基礎研究所入社、2013年7月から現職。専門は欧州経済分析。「欧州情勢の分析を通じて、日本の経済・企業、政策へのヒントを発信したい」と言う。


伊藤:例えば、英国の失業率は約5%で、転職のために自主的に失業している人を考慮すると完全雇用の状態です。英国内の離脱派は、EUにいるために移民を受け入れなければならず、それが彼らの仕事を奪っていると言われますが、マクロ的に見るとそういうことはありません。また、ここ数年、英国経済がインフレも起こさず、成長したのは、移民の労働力が供給されてきた効果でもあります。

 ただ、地域によっては単純労働などで英国民と競合し、職が奪われていると感じられるような雇用環境の厳しいところがありました。離脱派の多い北東部などは、そうだったようです。これらの地域の居住者に占める移民の比率は2014年で4〜8%程度。ロンドンの36.9%に比べると遙かに少ないのですが、ここ数年の伸び率は大きい。その急激な変化が社会に不満を呼び起こしたようです。ミクロに見ると、状況は違うわけです。

移民コントロールを出来ないのが不満に

仕事が奪われた上に、移民にも手厚い社会保障が給付されたことも離脱派の不満を膨張させたようですが。

伊藤:EUの加盟国は、域内からの移民を自国でコントロールできないことになっています。離脱派はそれに大きな不満を抱いたようです。仕事を奪われている上に、制限も出来ないと考えたわけです。

 もちろん、離脱派も経済成長はしたいので、高度な技術を持つ人材などには来て欲しいと考えています。でも、そのコントロールを自分たちで出来ないことに不満を募らせたのです。そして、社会保障についても「移民は英国の充実した保障を目的に入ってくる」と非難していましたから、その点への不満も大きかった。

英国経済への打撃をどのように見ていますか。

伊藤:離脱のプロセスは、最初に英国がEUの首脳会議に離脱の告知をして、離脱協定の協議をすることになります。実際に離脱するのは、その協定が締結され、発効する時か、告知から2年経過した時となっています。つまり、2年間は今の状態が継続するわけで、直ちに離脱ということではありません。その意味では、今の段階ではすぐに激変が起きるとはいえないかと思います。

 離脱協定にしても、英国民以外で英国に居住している人や、英国民で他のEU加盟国に住んでいる人のEU法上の既得権をどう扱うかといった問題などさまざまなものがあります。かなり手間のかかる協議になるはずです。

■EU内からの移民が急速に増えてきた
英国の移民流出入の動向

出所:ニッセイ基礎研の資料を基に本誌作成
離脱派は、EUから離脱した後、市場の一体性を保つ新たな協定を結ぼうと考えているようですが。

伊藤:例えばノルウェーは、EUとの間でEEA(欧州経済領域)という協定を結び、EUに加盟しないまま、その単一市場には参加できるようにしています。ですが、それと同じ事を英国に認めるかというと、難しいでしょう。ノルウェーは、離脱派が批判したEU移民を受け入れ、EU財政への拠出もしています。

 英国にとっては、これらの義務を負わない広範なFTA(自由貿易協定)の締結が望ましい。しかし、離脱後の英国に有利な条件のFTAを締結することは、他のEU加盟国の離脱の動きを加速させることになりかねませんからとても難しいはずです。

 ということは、今後英国に新規投資をするのはしばらく躊躇する企業がでてくるかもしれません。様子を見ながらでしょうが。ロンドンの金融業も移転する可能性はありますが、フランクフルトやパリにすぐいくかというと、労働規制や言語の問題もあり、これも様子を見ながらかもしれません。同じ英語圏でビジネス環境の良好なアイルランドはありえますが…。

 製造業は、例えば自動車などはEUへの輸出には10%の関税がかかるようになりますから、その環境が続くと影響はありますね。

ユーロ圏景気の失速はない

EUのユーロ圏への影響はどうでしょう。

伊藤:EUの域内人口は、約3億3000万人で、加盟国は19カ国もあります。英国との経済関係は濃淡があり、影響度もさまざまです。アイルランドは経済関係も強いので影響はあるでしょうが、先ほどお話ししたようなプラス面もあるのでネガティブにだけは捉えにくいと思います。マクロ的に見れば、ユーロ圏の景気が失速するということはないと思っています。

■英国は好調な経済成長を遂げてきた

主要国・地域の経済成長の推移
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/062500181/pho03.jpg
注:2008年第1四半期を100として実質GDPの推移を見た


日本への影響はどうですか。あまり大きくないとの声もありますが。

伊藤:ロシアまで含めた欧州全域と日本との経済関係を見ると、例えば、日本企業の売上高の内、欧州は14.1%。輸出は12.1%、輸入は15.2%、経常利益では9.9%というところです。北米やアジアに比べると遙かに小さいのが実情です。ここから考えると日本経済の失速リスクにつながるということはないと思います。

 ただ、円高にはなるでしょう。欧州のリスクが安全通貨としての円に、マネーを向かわせる構図はありますから。米国も景気にやや停滞感が出てきて利上げは慎重にならざるを得ないところですし、円高に振れる可能性は高いでしょう。

デーヴィッド・キャメロン首相は辞意を表明しました。EU離脱交渉の仕方も変わるのでしょうか。

伊藤:今までキャメロン首相は、国民投票で英国のEU離脱が決まれば、すぐにEUに離脱告知をするといっていました。しかし、辞任するとなると、それもどうなるのか。

 後任の候補とされるのは、前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏ですが、彼は告知の前にEUと交渉をすると言っています。離脱派の主張である移民のコントロールを英国が出来るようにするなど、条件闘争をしていこうということでしょう。しかし、EUが受け入れるとは思えません。

 そういうプロセスを経ていくと、離脱は英国の2020年の総選挙より先になる可能性も出てきます。まだ、これからいろんな事が起きてくるはずです。


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英離脱、日本政府は経済対策の策定前倒しへ

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円急騰なら単独の円売り介入も辞さず
2016年6月28日(火)
安藤 毅

英国のEU(欧州連合)離脱決定にともない、政府・与党は経済対策の策定を前倒しする検討に入った(写真:ロイター/アフロ)
 政府・与党が経済対策の策定を前倒しする検討に入ったことが明らかになった。これまでは8月以降に策定作業に着手する方向だったが、英国のEU(欧州連合)離脱決定に伴う市場の動揺や景気下振れに備え、作業を急ぐことにした。世論や国内外の投資家に迅速な取り組みをアピールする狙いもある。7月10日投開票の参院選が終わり次第、安倍晋三首相が策定を指示する方向で調整する。

 また、政府・日銀は円が急騰し、円相場が再び節目の1ドル=100円台を突破するようなら日本単独での円売り介入も辞さない構えだ。短期的な市場の動揺への対応を強化するとともに、円高・株安による企業業績や個人消費への影響を食い止めるため、政策を総動員する。

1ドル=100円突破なら介入辞さず

 「ブレグジット(英国のEU離脱)ショック」に見舞われ、6月24日の日経平均株価の下げ幅は16年ぶりの大きさを記録。安全通貨への逃避が進み、円相場は一時1ドル=99円ちょうどを付けた。100円突破は2013年11月以来のことだ。

 市場の混乱に対し、安倍政権は危機感を強めている。円高・株安傾向が長引けば企業業績や個人消費への影響は必至。アベノミクスや政権そのものへの世論の支持が大きく損なわれ、参院選やその後の政権運営に影響を及ぼす可能性が大きいためだ。

 「だから、世界経済のリスクは軽視できないと言ったんだ」

 安倍首相は24日、急激な市場の混乱を踏まえ、周辺にそう漏らした。街頭演説では「5月の伊勢志摩サミットで、私は議長として、英国のEU離脱など新たな危機に対応するため、あらゆる政策を総動員するとの首脳宣言をまとめた。準備は既にしていた」と強調。「今、日本に求められているのは政治の安定だ。共産党や民進党を勝たせるわけにはいかない」と訴えている。

 これに対し、攻め手を得た形の野党はアベノミクス批判を展開。民進党の岡田克也代表は「円安と株高が逆回転を始めていて、英国のEU離脱が拍車をかけている。アベノミクスの宴は終わった」と力を込める。

 EUからの離脱という予想外の結果となったことで投資家のリスク回避の動きが活発化。世界景気の不透明感が増したことで、世界の金融市場は大きく揺さぶられている。ただ、政府内では2008年のリーマンショック時と今回の市場の混乱は質が違うとの見方が広がっている。

 日本や世界を直撃したリーマンショックは、低所得者向け融資「サブプライムローン」を組み込んだ証券化商品が大きく値下がりしたのが発端だった。これをきっかけに世界中の金融機関の経営が急速に傾き、世界的な金融システム不安に発展した。

 財務省幹部は「現状では、各国の金融機関の財務内容は改善し、日米欧の中央銀行は状況に応じて流動性供給に万全を期す用意がある。かつてのような金融危機に陥るリスクは小さい」と指摘する。

「リーマンショックとは質が違う」

 とはいえ、EUからの「離脱ドミノ」への懸念や、主要7カ国(G7)の弱体化、中国をはじめとする新興国経済の行方など、世界経済や国際情勢は不確実性を急速に増している。

 米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げは遠のいたとの観測が強まり、円高圧力は高まっている。このため、政府・日銀は当面、市場の安定化に全力を挙げる考えだ。

 財務省、金融庁、日銀は英国の離脱決定に備え、事前に緊急の対応計画を用意していた。これに基づき、麻生太郎財務相は24日、3度にわたる記者会見を実施。G7の財務相・中央銀行総裁は「流動性供給のための手段を用いる用意がある」とする緊急の共同声明を発し、麻生氏と黒田東彦日銀総裁も「為替市場を含む金融市場の安定に万全を期す」との共同談話を発表、市場の鎮静化を図った。

 さらに、政府は27日、東京市場が開く前に首相官邸で安倍首相、麻生氏、中曽宏副総裁らによる金融市場の安定に向けた緊急会合を開催した。安倍首相は「国際協調のためG7が結束を強め、あらゆるリスクの芽を確実に摘んでいかないといけない」と指摘。麻生氏に適切な対応を指示するとともに、中曽氏にG7各国の中央銀行と連携を強め、金融仲介機能を支えるよう要請した。

 こうした対応もあり、27日の日経平均株価はひとまず上昇に転じた。ただ、市場の安定には相当時間がかかるとみられ、日銀は今後も必要に応じてドルや円を潤沢に供給する方針だ。

 また、政府・日銀は再び1ドル=100円台を突破する水準まで円が急騰した場合、円売り介入の実施を辞さない構えで、既にこうした方針を安倍首相も了承している。日本の介入に慎重な姿勢の米当局との調整も始めており、介入に踏み込む場合、緊急対応として理解を取り付けたい考えだ。

 ただ、財務省幹部は「米国との関係などもあり、当面、介入は実質的に一回しかできないだろう」と漏らす。効果的な介入のタイミングを慎重に見極める展開となりそうだ。

 政府・与党は急激な円高・株安が実体経済に及ぼす影響を注視しつつ、景気テコ入れ策の検討も急ぐ考えだ。アベノミクスの根幹ともいえる円安・株高の流れが止まり、賃金アップや設備投資増加にブレーキが掛かれば、デフレ脱却や政権運営への逆風となってしまうためだ。

 6月28日には経済財政諮問会議を開催。これを機に政府・与党は経済対策の具体的項目の検討に着手する見通しだ。

消費喚起・中小企業対策が柱に

 具体的には、消費喚起策や資金繰りなどの中小企業対策、子育てや介護支援策、ロボットや人工知能(AI)を駆使した「第4次産業革命」の推進策などを盛りこむ方向で検討する。

 ただ、対策の財源は赤字国債に頼らず、税収の上振れなどの活用が軸となるため、対策の規模は数兆円程度にとどまる可能性がある。経済対策は2016年度第2次補正予算案として秋に開く臨時国会に提出する予定だ。

 こうした当面の対応に加え、アベノミクスの再加速に不可欠な成長戦略の深堀りや財政健全化の検討作業も重要となる。企業業績が落ち込み、個人消費が冷え込めば、経済成長と財政健全化の同時達成を目指すとする安倍政権の基本方針に黄信号が点滅しかねないからだ。

 日本が成長戦略の柱の1つに据える経済連携協定の推進を巡っては、英国がEUからの離脱を決めたことで、日本とEUのEPA(経済連携協定)交渉に暗雲が垂れ込めている。米国でTPP(環太平洋経済連携協定)協定発効への手続きが進むのか不透明なことも大きな懸念材料だ。

 こうした状況も踏まえ、政府は経済連携戦略の再構築とともに、海外発の要因にできるだけ左右されずに持続的な経済成長を可能にする環境整備を重視する。企業活動を後押しする規制改革や働き方改革、所得アップに向けた制度改革などの具体化に向けたシナリオを描き直す方針だ。

 政府は英国のEU離脱決定を受けた世界的なパワーバランスの変化や国際情勢の不安定化への懸念も強めている。

 世界的な反グローバル主義、ポピュリズムの拡大が政治を突き動かし、経済も左右するーー。

 今回のブレグジットショックは、日本政府と企業に対し、複雑さを増す世界情勢の現実をまざまざと見せつけ、戦略の再構築を迫る分岐点となったのは間違いなさそうだ。


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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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BREXITのインパクト:企業はどう動くべきか

御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」

市場安定化策が溜め込んでいくリスク
2016年6月28日(火)
御立 尚資

(写真:REX FEATURES/アフロ)
 英国の国民投票結果が、世界の資本・金融市場を揺らしている。投票自体の結果は、ゼロイチで「離脱」とはっきりしたのだが、今後何が起こるか、あまりにもはっきりしていないのが、今回の動きの特徴だ。

 BCG(ボストン コンサルティング グループ)のマクロ経済リサーチセンターのレポートにもあるように、複数年かけて、英国とEU(のおそらくは主要国)の間で、さまざまな交渉が行われることになる。英国の取りうる手段自体もEEA(欧州経済地域)、あるいはEFTA(欧州自由貿易連合)への加盟という手もあれば、個別のFTA(自由貿易協定)締結を目指すというやり方もある。

 この結果次第で、英国の通商条件や他地域との資金・人・知的財産の流れのスムーズさが変わってくる。当然ながら、英国のGDPへのインパクトの大きさ、為替の強弱、株価の動向なども、すべてこれからの動き次第で、どう転んでいくかについては大きな幅があり得るわけだ。

 こう考えると、少なくとも当面の間は、(実際には当面は、英国の置かれた立場自体は何も変わらないのだけれど)資本・金融市場は上下両方向に大きく振れる可能性が高い。要は、ボラティリティが高まる、ということだけが、かなり確実だということになる。

緩和的な政策が過度に拡大していく

 もちろん、影響は英国だけではなく、広い地域とイシューについて、表れてこよう。

 すでに動きが出ているが、英国以外の国で離脱を目指す政治的な動き、あるいはスコットランドのようにEUに残留したいUK内地域の動き、など、政治的な二次波及・三次波及も拡がらざるを得ない。

 経済面では、欧州内でのさまざまな不透明感から、カウンターパーティリスクを恐れる金融機関の保守的行動、当面の投資を控えようとする企業セクターの動き、などが欧州内で広がる可能性が高い。こうなるとEU全体の需要減少が貿易相手、特に中国を中心とする新興経済にマイナスに働くことになる。

 上述したBCGのレポートにも書かれているように、企業としては、複数のシナリオを作り、それに備える。さらには、事業環境が急変する際に、迅速に動ける(adaptive)ことや、競争相手より急変後の立ち直りが早い(resilient)ことが、ますます重要になると考え、みずからの態勢を見直すことが重要になってこよう。

 中期的には、もうひとつきちんと考えておくべきことがある。それは、不安定さへの対応として、各国政府と中央銀行が打ち出してくるであろう対策が、(皮肉なことに)将来の不安定さを高める、ということだ。

 これから先進国、新興国ともに、さまざまな政府・中央銀行が、「経済と市場の安定策」という名目で、財政投下や金融緩和をさらに進める動きが強まる。こういった動きは、当面の対策としては正しいのだが、もともとリーマンショック以降続いている世界的な財政刺激や金融緩和という状況に、これが上乗せされることは、忘れてはならない。「フリーランチなどというものはない」という言い方があるが、過度に緩和的な政策が継続・拡大することには、必ずコストが存在する。

いつか訪れる大きなショックに備える

 特に大きいのは、生産性の低い、本来は退出すべき企業が存続し続けることだ。たとえば、日本をとっても何年もの間、銀行の不良債権比率ないし貸し倒れ率は記録的な低さのまま推移している。一見、これは好ましいことのようだが、潜在成長率が低い中であまりにもそういう状態が続くのは正直おかしい。将来、どこかの時点で、まとまって不良債権や貸倒れが発生するリスクを溜め込んでいると、考えてもよいように思える。

 これは、日本の企業に関するクレジットリスクだけの話ではない。世界の広い範囲で、財政刺激・金融緩和を通じて、資産価格の上昇と市場退出企業の減少が、行われてきているのだ。ここに、さらにBREXIT対策が追加されることになる。

 極端な言い方をお許しいただければ、個別にはおかしくない政策の集合が、積もり積もって、将来破裂したらグローバルに大きなインパクトを生むバブルを生成している可能性が極めて高い、ということだ。

 繰り返しになるが、政治的にも、大部分の政府・中央銀行にとっては、将来リスクはあってもまず現在目の前にある危機に対応する、というのが正直自然だろう。

 ただ、個々の企業は、その状況下で、どこかで来る大きなショックに備え、それを乗り越える力を蓄えておくことが必要となる。これは、バランスシートの余裕を増やすだけではない。一部の金融機関は、すでにデジタル化を含むコスト構造改革に着手し、備えの一部にしようとしているし、別の一群のメーカーは、事業ポートフォリオの地域分散を見直しつつ、化ければ大きな収益力を生むイノベーションへの投資を増やしている。

 奇手はない。さらに不透明、不安定な事業環境の中で、遠くまで見通し、本来やるべきことを加速化し、拡大する。これが10年後の企業の盛衰を分ける時代環境だと思う。


このコラムについて

御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/062700027/  

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