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探れ、ポルシェの“秘伝のタレ” 消費とマーケティングを変えるVRMとは?
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 26 日 02:13:02: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

探れ、ポルシェの“秘伝のタレ”

トレンド・ボックス

ポルシェのキーマンにインタビュー(その1)
2016年10月26日(水)
藤野 太一

ポルシェの新型セダン、パナメーラ 4S(写真:ポルシェジャパン 以下同)
 数か月前、トヨタのスポーツカー「86」のマイナーチェンジ試乗会が実施されたときのことだ。86のチーフエンジニアであり、現在はスポーツ車両統括部部長として今後BMWとの協業で登場すると噂される新型スープラなどトヨタのスポーツカー全体をみている多田哲哉氏の囲み取材がおこなわれた。その際にある新聞記者が多田氏に「個人的に好きなスポーツカーメーカーはあるか」と尋ねた。

 多田氏は間髪入れず以下のように答えた。

 「86以外のスポーツカーを買うとすればポルシェしかないです。もちろんフェラーリをはじめ、それぞれにいいと思うスポーツカーはありますが、エンジニアの目で見て、ポルシェは工業製品としては圧倒的だと思います。我々の目から見て『こんなことまでやってどうするんだ』というところまで手を入れている。その時は意図がわからないわけです。それが数年経つと『だからこうしていたのか』と気づく。それは911だけじゃなくて、ボクスターもケイマンもその思想を受け継いで作られています」

 かつて、マツダRX-7や日産フェアレディZは“プアマンズ・ポルシェ”と呼ばれた時代があった。日産GT-Rが打倒ポルシェ911を掲げて開発され、ドイツにある、1周20kmを超え、コーナーの数は170を超える世界一過酷なサーキット、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムでポルシェに勝負を挑み続けてきたのは有名な話だ。

 日本メーカーのみならず、世界のスポーツカーメーカーにとってポルシェは昔も今もメートル原器であり続けている。

新型パナメーラを試乗

 ポルシェが飛躍したのは、スポーツSUVへの参入によるものだ。

 1990年代まで、ポルシェは「RR(リヤエンジン・リヤドライブ)」で走る「911」と、ミッドシップ(ミッドエンジン・リヤドライブ)の「ボクスター」のみを生産するスポーツカー専業メーカーだった。しかし、新たな市場を開拓するため、2002年に「カイエン」を投入する。フォルクスワーゲンとの協業で生まれたSUVだ。


外観ではフロントヘッドライトが、ルマンに参戦するレースカー919ハイブリッドを彷彿とさせるものになった。カバー内におさまるドットタイプのLEDが特徴。4Sは2.9リッターV6ツインターボで440ps/550Nmを発揮。ターボは4リッターV8ツインターボで出力は550ps/770Nmと911ターボをも上回る。この新型からトランスミッションが全モデルで8段変速のツインクラッチ式のPDKになった。
 マニアックなポルシェファンが嘆き悲しむ一方で、カイエンは世界的な大ヒット作となり、経営難がささやかれていたポルシェを一気に立て直した。その成功を受けて2009年には第二の矢となるセダン「パナメーラ」を発売する。

 そして今年、パナメーラは第2世代へとフルモデルチェンジした。これはVWグループの新世代大型FR(フロントエンジン・リヤドライブ)用プラットフォーム「MSB」を採用する第一弾モデルでもある。同グループ内ではのちにこのプラットフォームを用いた、新型の「ベントレーコンチネンタルGT」や「フライングスパー」が登場する予定だ。

 日本導入は来年の予定だが、ドイツの国際試乗会でひと足先に新型パナメーラを試すことができた。試乗会場であるミュンヘン空港に用意されたのは、4S、ターボ、そして4Sディーゼルの3モデル。残念ながらディーゼルは日本への導入予定はないというが、本国ではパナメーラやカイエンなどにもディーゼルエンジンモデルが用意されている。


リアランプは911と共通のモチーフで、クーペのようなルーフラインと相まって、より911の4ドア版というイメージが強くなった印象

現行ポルシェモデルに共通する、センターコンソールに多くのボタンを配置したインテリアデザインの潮流は先代パナメーラに始まったものだが、新型は最新のインフォテイメントシステムによって大きく様変わりした。5連メーターはセンターのタコメーターを除いて液晶パネルに、センターコンソールの中央上部には12.3インチタッチスクリーンが配され、シフトノブ周囲も物理スイッチではなくタッチパネル式になった。正直に言えばポルシェよおまえもか、と思ったがすぐに慣れた。実際にはとても使いやすい。物理スイッチはなくなったけれど、クリック感を演出している点はiPhone7の操作感にとても似ている
 海外で運転した経験をもつ人ならお分かりかもしれないが、かの地で試乗したときには好印象でも、日本で同じクルマに乗るとがっかりするケースは意外と多い。“クルマは道がつくる”という言葉があるがまさにそれで、どの速度域に合わせてチューニングしているかによってその印象は大きく変わる。1930年代から“制限速度は出せるだけ”という速度無制限区間のあるアウトバーンを保有する国と、2016年になってようやく高速道路の一部区間の制限速度を110km/hに引き上げか、と言いはじめた国とで同じクルマを同列に比較するのはとても難しい、というか無理があった。

 ところが近年は、速度域に応じて減衰力を自動調整する電子制御ダンパーなどの技術が登場している。ひとつの設定に縛られることがなくなってきたのだ。フェラーリやランボルギーニなどのいわゆるスーパーカーもこれらを積極的に採用しており、「スーパーカーは乗り心地が悪い」といった悪評は昔話になった。高価なモデルほどそういった電子デバイスを採用しており、最新モデルは本当にどれも乗り心地がいい。

速度域にかかわらず快適、快速

 新型パナメーラもその例に漏れず、80km/hが快適なのだ。それでいながらアウトバーンで、ターボモデルのアクセルをひと踏みすると速度計はあっという間に250km/hを超えた。空力の良さも相まって路面に張り付くように走る。その出来のよさにおもわず「ふぅっ」とため息が出る。ターボには新しいエアサスペンションが標準採用されるのだが威力は絶大だ。日常域から超高速域にまで、すべてをカバーする懐の深さをもっている。

 そしてポルシェに乗っていつも感じるのは、911やボクスターだけでなく、SUVのカイエンやセダンのパナメーラにも“これぞポルシェ”の乗り味が一気通貫していることだ。

 日本最大の自動車メーカーの、スポーツカーを率いる男にあそこまで言わせる、その秘密の一端でも掴みたい。新型パナメーラの開発責任者とポルシェのダイナミクス性能を司る開発ドライバーというポルシェの開発に携わる2人のキーマンにインタビューすることができたので、ここでお届けしよう。

 まずは、新型パナメーラの開発責任者、ゲルノート・ドエナー氏の話を聞く。


Dr. Gernot Doellner, Vice President Product Line Panamera(パナメーラ開発責任者 ゲルノート・ドエナー氏)
VW在籍時に博士号を取得、その後開発に従事したのち、1998年にポルシェへと移る。社内のコンサルティング業務をはじめ、車両のコンセプト開発を行い、直近では918スパイダーのコンセプトを担当した。5年前に新型パナメーラの責任者となった。
あらためて聞かせてください。ポルシェのラインナップにおけるパナメーラの役割は何でしょう。どういった人に向けたモデルなのでしょうか?

ドエナー氏(以下ドエナー):初代モデルを作ることが決まったのは2004年頃だったと思います。当時のポルシェにはカレラ(911)、ボクスター、カイエンというラインナップがあり、4つ目のプロダクトラインを立ち上げるのは難しい意思決定でした。しかし、メルセデスSクラス、BMW7シリーズと同じラグジュアリークラスに、真の意味でのグランツーリズモが不在で、そこにポルシェが入れるスキがあると考えたわけです。競合よりもパフォーマンス志向で、より長距離を走ることを望む顧客をターゲットに開発しました。

この新型の開発はいつ頃始まったのですか

ドエナー:5年前ですね。2011年に正式に決まりました。全体のレイアウトを決め、新しいプラットフォームを採用し、エンジンも含めて新しく作ることになりました。

今回のモデルチェンジでの一番の目的はなんでしょう?

ドエナー:それは快適性の向上です。これが一番重要な目標でした。ポルシェはスポーツカー、ハイパフォーマンス車の開発は得意ですが、快適性では競合に劣ると言われがちです。でも「ポルシェは、セダンに求められる快適性も実現できるんだよ」と示す必要がありました。ドライバーも乗員も、そしてインフォテイメントシステムなども含めてすべてを刷新して、快適なクルマに仕上げてあります。

“秘伝のタレ”の一端が明らかに?!

たしかに新型は旧型に比べて、すごく乗り心地がよくて快適性があがっていて驚きました。しかし、その一方で、やっぱりニュルブルクリンクでテストしている。セダンだろうが、SUVだろうが、ポルシェはすべてそこで開発するということなのでしょうか? そのときにセダンであっても目標タイムを設定するのですか?

ドエナー:はい、ポルシェはすべてのモデルをニュルブルクリンクでテストしています。また、毎年すべてのモデルラインの比較試乗を実施しています。プロドライバーだけでなく役員もテストのメンバーに含めて試乗会を開き、それぞれのドライブフィールを確かめています。

 そして新型パナメーラ(ターボ)には「地球上最速のセダンになる」というミッションがあり、したがって目標タイムを設定していました。ニュルブルクリンク北コースを7分38秒で走ることができれば、最速セダンだと。それを達成したわけです。

それはたしか昨年ケイマンの最速モデル「GT4」が出したタイムより速いわけですよね。車両重量が2トン近くもあるパナメーラが、軽量スポーツカーより速いのはどういう理由があるのでしょうか?

ドエナー:ボディ剛性の向上はもちろん、車両全体のセットアップ技術の高さ、そしてシャシーシステム全体の進化によるものです。新しいエアサスペンションだけでなく、フロントとリアのアクスルなども改良し、車両の走行挙動をリアルタイムに検出してシャシーを統合制御する4Dシャシーコントロールシステムなども搭載しています。さらにスポーツカーとしてのステアリング精度を実現するために、918スパイダーと911ターボ由来の装備であるリアアクスルステアを採用しました。こうしたものの1つひとつの積み重ねが、それぞれ1秒、1.5秒とタイムを削り取っていくことに貢献しているのです。

そういった新しい技術を取り入れながらも、ポルシェのすべてのモデルには共通した乗り味があるように感じています。それはどうやって作りあげているのですか?

ドエナー:クルマの第一印象というものは、シートに座ったときから始まります。シート、ステアリングなど、座ったときの空間には共通の幾何学的な比率があります。そして、ポルシェはまだまだ小さなチームです。シャシー開発者などは、モデルごとにポルシェの運転感覚はどうあるべきなのかを知っていて、それが911からパナメーラやカイエンなどへと移植できているというわけです。

それを社内で、どう伝承していくのですか? 何かポルシェの秘伝のタレのように具体的に数値化されたものがあるのでしょうか?

ドエナー:それは外に出すことじゃないのですが、じゃあフジノさんに1つだけお教えしましょう(笑)。ポルシェでは基本的なシートポジションというものが書き起こされており、各モデルのコンセプト部門の設計者たちがそれをもとにアレンジしています。一番重要なのはステアリングホイールの位置で、例えばパナメーラのものは競合よりも深い角度でレイアウトされています。それはいわばスポーツカーに近いもので、ステアリング上部の中央が、ちょうどあなたの肩の高さに合うようになっています。これが1つの重要な要素であります。スポーティだけれど、とても心地の良いレイアウトなのです。

ニューモデルの情報も

なるほど、それは初めて聞く話です。最近は日本のエンジニアもやっきになって、正しいシートポジションのあり方を追求していますし、メディアを通じて喧伝していますので、参考としてありがたいお話ですね(笑)。スクープついでにもう1つ聞いていいですか。いまシューティングブレークや928の復刻モデルなど派生モデルが噂されていますけど?

ドエナー:遠くない将来にはシューティングブレーク(リアにラゲッジスペースがあるワゴンタイプ)、出ますよ(笑)。ロングバージョンもありますが、中国市場向けですね。それから、すでに発表していますが、EVの「ミッションE」が次に増えるモデルラインアップです。2020年までには出す予定です。

本当ですか!? いいネタをありがとうございます。 最後に、ご自身が個人的に好きなポルシェは何ですか?

ドエナー:もちろん、最新のパナメーラです(笑)。911シリーズも大好きです。入社してまずポルシェの神髄を理解するために手に入れたのが911でした。そのコアになるものがパナメーラにも息づいています。通勤や仕事にはぜひパナメーラをどうぞ。そして週末を911で楽しんでください。


 次回は、現在のポルシェモデル全体のダイナミクス性能を統括する、トーマス・モーリク氏にも話を聞く。彼はフェラーリのF1チームで10年間、車両のセットアップやタイヤの開発を担当、そのアウディスポーツにてDTMをはじめとするモータースポーツ担当を歴任したのちポルシェへとやってきた、クルマの運動性能に関するスペシャリストだ。


このコラムについて

トレンド・ボックス
急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/102400061/


消費とマーケティングを変えるVRMとは?

キーパーソンに聞く

デロイトトーマツコンサルティング・平林知高氏に聞く
2016年10月26日(水)
鈴木 哲也
 経済産業省は訪日外国人向けに、各地の事業者から高度なサービスが受けられ、決済も簡単にできるような情報基盤「おもてなしプラットフォーム」の構築を目指している。2020年の実現を目指して、今年10月から一部地域で指紋など生体認証を活用した実証実験が始まった。

 おもてなしプラットフォームの背景にあるのは、ベンダー・リレーションシップ・マネジメント(VRM)と言われる耳慣れない概念だ。買い物履歴など企業に蓄積された個人情報は、従来は企業がマーケティングに使ってきたが、これを消費者自身が管理・活用しようというものだ。外国人向けにとどまらず、広く日本人の消費生活を変える可能性も秘めているという。経済産業省の取り組みにも参加している、デロイト トーマツ コンサルティングの平林知高氏に、VRMの可能性などを聞いた。

(聞き手は鈴木哲也)

平林 知高(ひらばやし ともたか)
デロイト トーマツ コンサルティング デロイト エクスポネンシャル シニアコンサルタント。政府系金融機関を経て、2014年よりデロイト トーマツ コンサルティングに参画。フィンテックを活用した事業戦略、データ利活用に向けた事業戦略領域における知見を有し、2016年10月に開設されたデロイト エクスポネンシャルにおいてニューテクノロジーの活用による企業の成長のための支援に注力。政府系金融機関では、営業現場経験から業務運営計画策定、営業戦略立案、新商品開発、オペレーション改革に至るまで幅広い業務に従事し、官公庁への出向、中小企業白書の執筆経験も有する。
ポイントカードやクレジットカードを使った買い物の履歴は企業に蓄積されます。そうした顧客ごとの情報を生かして、最適なマーケティングをすることをカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM、顧客情報管理)と呼びますね。

平林:CRMという言葉は、今、マーケティングの世界では一般的になっていますけれども、ベンダー・リレーションシップ・マネジメント(VRM)は、これの対極にあるコンセプトです。カスタマーとベンダーというのが、逆転しているような考え方です。

ここで言う「ベンダー」というのは、何でしょうか。広く「企業」と理解しておけばいいですか。

平林:そうですね、企業という理解でいいと思います。

VRMのコンセプト

© 2016. For information, contact Deloitte Tohmatsu Consulting LLC.
そもそも個人情報は個人のものであるはずだ

そうすると、企業が顧客との関係をマネジメントするのではなく、逆に顧客が企業との関係をマネジメントするということになりますね。

平林:はい。CRMのような、今までのマーケティングでは、企業が顧客囲い込みという観点から様々な情報を収集し、その収集した情報をベースに、顧客に対してアプローチしていくというような考え方です。

 顧客にとっては、自分の情報であるにもかかわらず、企業側が独占的に支配をしているような状況になりがちです。かつてIC乗車券の履歴情報が、他の企業に販売される事件がありました。自分の情報がどう使われているかという点で、透明性が確保されていない例が、他でも散見されます。個人情報保護法の改正などもあり、個人情報に対しては、センシティブになっています。こうした中で、そもそもデータというのは個人が持っているべきなのではないのか、というところから、VRMの発想が出てきています。

コンセプトは理解できました。すでに、VRMが具体化している例はあるのですか。

平林:現在はCRMからVRMへの移行期にありますが、VRMの考え方は、少しずつですが、世の中に浸透し始めたと思います。金融とIT(情報技術)を融合するフィンテックの中で、一般的に消費者に受け入れられているのは、家計簿をつけたり、資産を運用したりする、PFM(Personal・Financial・Management)と呼ばれるものです。スマートフォンやパソコンで家計を管理するサービスを提供する、「マネーフォワード」や「マネーツリー」といった企業が、知られるようになっています。

 これらの企業が何をやったかと言うと、例えば私の銀行口座の履歴というのは、三菱東京UFJ銀行の口座なら、同行のインターネットバンキングなどで確認しなければ見られない。みずほ銀行の口座を持っていれば、みずほの口座で見なければいけない。自分は今、一体どれだけの預貯金を持っているのかというのは、一覧性があるものはなかった。まめな人で、エクセルとかで帳簿をつけて、毎日毎日、管理すれば一覧できるとは思いますが、そうでもしなければ、自分でも把握しきれなかったはずです。

 その課題を解決するために、マネーフォワードやマネーツリーは、専門用語で言う、データ・アグリゲート(集約)を行うのです。ユーザーは、IDとパスワードをマネーフォワードとか、マネーツリーに預け、そうした企業が、各銀行にアクセスして、データを集約してくるというモデルです。自分が持つ複数の銀行口座の情報を、一つのアプリケーション上に全部集約してくるような形になっているのです。「自分のデータは自分のものということで集めてくる」というのが、VRMの発想の基本的なコンセプトなのです。

財産や買い物の情報を自ら開示するメリットは?

マネーフォワードのような仕組みは確かに情報の一覧性はあると思います。しかし企業ではなくて顧客が自分の情報を能動的に管理・活用するという、VRMのコンセプトには直結しない印象です。

平林:そうですね。ただ、これまで銀行が個人の口座情報を、第三者に渡すということはあまりなかったと思います。しかし、家計簿管理のサービスでは、アプリケーション上に、自分のアカウントをつくって、そこにデータを入れていく。つまり、各銀行がもつデータを、マネーフォワードなど第三者が提供しているサービス上に全部乗せるという形です。微妙なニュアンスではありますが、そこは自分のコントロール下に置くという考え方ができるとは思います。

 VRMの考え方は、ある企業が持っている個人についてのデータが、第三者に開示されることで、その個人が最適なサービスを受けられるようになるということです。

 情報を第三者に開示すると、消費者にはどんなメリットがあるのでしょうか。

平林:銀行取引や資産運用と例にとります。例えば、僕が三菱東京UFJ銀行に100万円の口座をもっていて、資産運用も500万円やっているとします。一方で、みずほ銀行には10億円も預けていると。そのときに、三菱のデータだけだと、多分、三菱は資産がそんなにない人だと思って、大した提案はしてこないでしょう。

 それに対してVRMでは、複数の口座にある自分の個人情報を集約して、どこかに預けておくわけです。その預け先を、パーソナル・データ・ストア(PDS)と呼びます。そしてその集約された全財産のデータを、例えば、三菱に見せることで、何かいい産運用は考えられないのかという話ができる。そうすると、自分にとって最適なサービスを受けることができるのではないか。これがVRMのコンセプトです。

大資本でなくても、商品・サービスで競える

金融以外に限らず、様々な商品やサービスに応用できるのですか。例えば、いろいろなサイトで洋服を買っている人が、その履歴情報を集約して、ある企業に見せると、最適のおすすめ品が届くというような。

平林:服でもいいですし、住宅でもいいですし、いろいろな世界で、情報を開示して、それに企業が応えていくというようなことができるのではないかと思います。そういった世界が訪れると、企業側には消費者ニーズに応えるためのイノベーションが起こり、産業も活性化するというのが大きな狙いです。

 もう一つ重要なところは、これまでは「楽天ポイント」や「Tポイント」を運営するような資本力がある企業なら、幅広いデータを持って、個人の実態をしっかりとらえることができた。一方で、中小商店などは、なかなかできませんでした。しかしVRMで、個人が自分の情報を開示するようなプラットフォームができれば、規模が小さい企業でも、情報にアクセスができ、本当の商品力やサービスで勝負できるようになります。

 政府の成長戦略も情報活用の重要性を強調し始めました。

平林:政府が今年度に出した成長戦略は、「第4次産業革命」がキーワードです。政府のIT戦略の骨格としては、「世界最先端IT国家創造宣言」というものが策定されていますが、そこではVRMと同じような考え方が入っています。

 経済産業省は訪日外国人向けのプロジェクトである「おもてなしプラットフォーム」の取り組みを進めており、このプロジェクトに、当社と大日本印刷などが一緒に、参画しています。

これは訪日外国人の個人情報や買い物の履歴をプラットフォームに蓄積することで、外国人が手厚いサービスを受けられるというような、コンセプトでしょうか。

平林:そうですね。基本的には、そういったところを目指しております。

まず10月から一部地域で実証実験がスタートしました。関東では神奈川県の湯河原、箱根、鎌倉で、指紋認証を使って、手ぶらでの決済、ホテルのチェックイン、様々な体験ブログラムへの参加などが、できるような取り組みだそうですね。

平林:1年目は、まだ時間が足りない面もあります。関東、関西、九州の三地域で実証を始めまして、来年度に向けて、どう拡張していくかといったところを、議論していきます。

 訪日外国人の方は、再来日する例が非常に多いようです。一度、来日したときに、おもてなしプラットフォームでID登録をしていただければ、そこにデータをどんどんためていけるので、旅の思い出を1カ所で管理していくような形になる。どこの地域に行っても、そのIDだけでサービスが受けられるようにしたいのです。

 それができると、外国人の方に何がメリットかというと、例えば前年度に新潟に行って、日本酒をたくさん買った方がいるとします。2年後に日本に再来日したときに、宮城に行きます。過去来日したときの自分の買い物体験を宮城の業者に開示しておくと、宮城にあるたくさんの酒蔵から、ピンポイントのアプローチが来る。そんなイメージで仕組みをつくろうと思います。

そのあたりが、初めに説明いただいたVRMの考え方が入っているのですね。

平林:一応、3年目をめどに、そういったところの実証をしたいと思っています。それに向けて、今年度はデータをためていって、来年度はそれを統計データとしてどう活用していくか。3年目は、ワン・ツー・ワンでちゃんと顧客にアプローチできるような形をつくれればいいなと考えています。

マイナンバー活用も視野、日本人にもVRM普及するか

 外国人でも、日本人でも、やはり利用者がメリットを実感できるかどうかですね。業者側に、利用されているというようなイメージがついてしまうと、何か協力したくないなと、思うのではないですか。

平林:成功体験をどうつくっていくかということだと思っています。個人情報を取り扱うので、システム的には相当堅牢な形でつくっていこうと思います。

VRMで、個人情報を自分で管理して活用するというコンセプトは分かります。しかし、先にお話の出た、家計管理サービスのアプリなどでも、複数の口座情報やパスワードなどを、一業者に集めてしまうのが、逆に怖いという消費者は少なくないと思います。

平林:そこもやはり、情報を集めるだけで終わっていると、そういう印象をもつひともいるでしょう。金融機関も、集まったデータをどのように活用できるか、どんなメリットを利用者に提供できるか、模索しているのだと思います。

経済産業省が主導して、おもてなしプラットフォームを進めているわけですが、将来的に、日本人向けに、おもてなしIDの代わりに、マイナンバーを活用するという、発想もあるのでしょうか。

平林:そうですね、そういう発想はあり得るのだと思います。

 なぜ今回、外国人向けで進めているのかということなのですが、通常の日本人向けのビジネスでは、大企業はやはり顧客を囲い込みたいというところがほとんどです。顧客の情報を、多数の企業間で流通させるという発想が現状では、ないのです。

 そこを、インバウンドというところへ、視点を変えてみれば、そもそもデータを集めて何かやっているところって、そんなに多くない。さらに観光立国として、外国人の消費を拡大しようという共通のテーマもある。だから企業が、「オールジャパン」として一致団結して、データ流通をやろうと言えば、まとまりやすいのではという発想があるのです。これでうまくいけば、日本国内の日本人向けにも同じことができるのではないかというのは、経済産業省の担当者レベルでは議論されていると思います。

VRMの進ちょくについて、先行する海外の状況はどうですか。

平林:英国では2011年ごろから、政府が競争政策の一環として、情報を開示するような政策に取り組んできました。「消費者への権限移譲」を通じた事業者間の競争促進を主要戦略のひとつとしました。

 米国でもオバマ政権が政府の情報の透明化を進めようと、まずは政府データを、民間に開放していくというようなところからスタートしています。米国の国民性もあって、民間で自然発生的に情報の流通が進んでいる面もあります。

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このコラムについて

キーパーソンに聞く
日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
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コメント
 
1. 2016年10月26日 16:06:51 : Jm1N8yvpkA : V_iqFJ29D2U[4]
日本の公道ではまったく必要のない性能。せいぜい威張りか自慢の道具。せいぜい見栄をはって下さい。それも一つの生き方だろうし。


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