★阿修羅♪ > 経世済民117 > 218.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
「撤退戦だが、負けない」新たなプランが必要だ 人口減少時代のウソ/ホント 日本が沈み切る前に、打つべき手を考える賢人
http://www.asyura2.com/16/hasan117/msg/218.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 12 月 27 日 00:36:28: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

「撤退戦だが、負けない」新たなプランが必要だ

人口減少時代のウソ/ホント

日本が沈み切る前に、打つべき手を考える賢人会議(後編)
2016年12月27日(火)
森田 朗、崎谷 実穂
 論客5人による「賢人会議」、その後編をお届けする。「少子化」「超高齢化」時代における「社会保障」「地域再生」はいかにあるべきか。日本労働組合総連合会会長の神津里季生氏、東京大学 政策ビジョン研究センター特任研究員の藤田正美氏、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏、個人投資家で作家の山本一郎氏が、森田朗所長率いる国立社会保障・人口問題研究所に集い、現実を直視しながら、「次の一手」を探る。

(写真=鈴木愛子、以下同)
(前回から読む)

崖っぷちまで追い詰められないと、組織は変わらない?

山本:木下さんは1982年生まれで、今回集まったメンバーのなかでは一番若いですよね。その点で、社会に対する認識が我々とは違うのではと思ったのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

木下:私が小学校に入学したのが、1989年。1991年から経済の安定成長が終わり、失われた10年が20年に延びて、まあ物心ついてから失われ続けているわけです(笑)。自分たちの世代が社会のマジョリティではない、ということも自覚しています。頼りにしていた会社がつぶれ、システムが崩壊して、親が大変な目にあった友人もたくさんいる。企業とか社会に対する信頼感は希薄ですね。同時に危機感を強く抱いていて、自分でどうにかしないといけないと考えています。


木下 斉(きのした・ひとし)一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
山本:そういう感覚は、世代で共有しているものですか?

木下:そうですね。社会を変えようと思っている同世代は民間企業にも役所にもたくさんいて、集まって飲んだときにそういう話になります。でも自分たちも34歳、つまり30半ばになって、課長職につく人も出てきた。管理される側からする側に回った時に、現行のシステムに組み込まれないためにどうするかというのが、今の関心事です。論理的には正しいことがわかっていても、それが短期的に自分の評価につながらないことはよくありますからね。


山本一郎(やまもと・いちろう)個人投資家・作家
山本:上の世代と同じことをしないために、どうすればいいか、と。確かに学校も家庭も職場も、自分に成功したり安定のための知恵を授けてくれないとしたら、誰を頼ったらよいのか分かりませんしね。

木下:そのなかでも、「今いる組織を変えていこう」という人と、「いったんすべてゼロにしてしまえ」という人で意見が分かれます。過激派じゃないですけど、日本はいったんつぶれないと変わらない、と考えている人も一定数いますね。それ、私もわからなくはないんです。本当に行き詰まった時にやっと状況が変わる、というのは、地方でも実感しています。

山本:なるほど、やはりそういう感じですか。例えばどんな例がありますか?

すべての橋は残せない

木下:林業で、外国産の木材が入ってきてダメになるといわれていたときは、まだ助成金が出ていたし、特に変化が起きなかったんです。でも予算が底をついて、森林組合も超高齢化して、世代交代も難しいとなったときに、やっと関係者は重い腰を上げた。国の予算でつくったものの、使っていなかった工場も、民間で使ってくれる企業があったらそこに貸そうとか、外国産木材とは違うDIYでできる床材市場に打って出ようとか、そういう発想になっていくんです。従来のシステムが本当に崩れた時に、ようやく新陳代謝が生まれる。決定的破綻までいく手前で変革が起きる、というのはけっこうよく見る光景です。

藤田:地銀革命やりましょうよ。地銀が変わったら、けっこう全体的に地方は大きく変わると思います。


藤田正美(ふじた・まさよし)東京大学 政策ビジョン研究センター 特任研究員
木下:そこは大きいですね。あと、アメリカの「地域再投資法<注>」のような制度を取り入れるかどうかという議論はずっとされていて、いよいよそのときかなと思っています。地元で集めた預金をしっかり地元に投融資することが、地方の発展に必要です。例えば、都市圏の公共施設整備をするときも、民間施設と公共施設をセットにして、民間施設の収益と固定資産税の収入で公共施設をまわしていくようにすれば、持続可能ですよね。都市機能を集約するときに、セットで支援制度をガラッと変えられると、地方で余っている預貸できていない資金が地域のなかでまわり始めるはずです。

<注> 低所得者層などが住む地域への、金融機関の融資差別をなくすためにつくられた法律。銀行などの預金を扱う金融機関に対し、低所得者や中小企業を含め、営業地域の金融ニーズの充足に貢献する責任があることを明らかにし、その評価基準を満たしているかどうかで銀行の合併や支店の開設などの可否が判断される。

森田:公共施設はかなり老朽化してきていて、更新の時期がきていますよね。人口が減ってきている地域では、すべてを更新する予算がない。するとどうするか。例えば村に3つの橋があったら、1つはしっかり建て直して、2つは落とすという決断をしなければいけないわけです。3つとも残そうとすると……。

木下:少ない予算を3分の1ずつ配分して、結果全部の橋が落ちることになりますね。前回お話しした北九州市は、まさにそういう状況です。10年前に比べて施設整備、維持予算がほぼ半減以下。そうすると、老朽化したものをそのままにしていて天井が落ちるなど、実際にいろんな問題が出てきています。

森田:毛沢東が「何事かをなすためには、金がないこと、無名であること、若いことが必要」という名言を残しているそうです。まあ、これは当時そういう人がたくさんいたから、できるだけ多くの人をエンカレッジするにはいい台詞だったのでしょう(笑)。でも真理だと思いますね。このなかでも「若い」というのは、ある限られた時期しかない。今の選挙制度だと都市部のお年寄りの票が一番大きい力を持ちますが、若者の力をもっと生かさないと革命は起こらないですよね。若者を支援する政策をもっと推進していく必要があると思います。


森田 朗(もりた・あきら)国立社会保障・人口問題研究所 所長
何をもとに投票すればいいか、教えてもらえない日本

藤田:「連合」にも、若い人が希望を持てる社会をつくるために、政策を提案する側としてリアリティのある議論をしてもらいたいですね。

神津:そうですね。しているつもりなのですが、PR不足で理解されていないところがまだあると感じています。例えば、2012年に三党合意で取り決められた「社会保障と税の一体改革」は、僕らの考えとまったく一緒です。持続可能な社会保障を実現するには、これしかないと考えています。消費増税も、反対と言っていた時期もあったけれど、27年前に連合を結成してからほとんどの時代は「消費税にも手を付けないといけない」と発信しています。具体的には試算ベースで、15%は必要だと認識しているんです。


神津 里季生(こうづ・りきお)日本労働組合総連合会 会長
山本:そうした政策の主眼となるところを、具体的な政策論とリンクして出していくだけで、ずいぶん連合の見え方は変わっていくと思います。

藤田:以前、安全保障問題で、社会党系の活動家を取材したことがあります。そのとき、その人がおもしろいことを言っていました。「我々は平和を求めてきたけれど、平和をどう勝ち取るかは考えてこなかった」と。連合も、「働くことを軸とする安心社会」というスローガンをかかげていますが、それをどういう政策で実現するかというところまで考えて、発信していかなければいけないですよね。

神津:そうですね。安心社会は、待っていたら空から降ってくるようなものではありませんから。連合の組合員は、普通の市民なんです。その組合員にも、もっと当事者意識を持ってもらいたい。自分たちの労働組合、自分たちの政治、というところまでもっていきたいですね。どうしても今はおまかせ民主主義的なところがあるんじゃないでしょうか。

山本:投票率も低いですしね。政治でないと解決できないことばかりなのに、政治に対する期待度や信頼が地に落ちているのを実感します。


神津:今年の参院選から選挙権年齢が18歳に引き下げられたことで、にわかに主権者教育がクローズアップされました。これはつまり、日本では主権者教育をろくにやってこなかったということ。選挙権をいかに行使するかというのは18歳だけの問題じゃなくて、選挙権を持つ前、そして持ったあとも継続的に啓発していくべきことだと思います。

森田:スウェーデンでは、学校で政治教育をやるんですよね。例えば、社会民主党の政策はこう、保守党の政策はこうですと教えて、Aさんは社会民主党、Bさんはで保守党の立場と振り分けて、議論させる。そうすることで、どの政党の主張がどれだけ現実的、あるいは根拠が弱いかが見えてくるんです。そうした経験を経て生徒たちは、政策をもとに政党を選んで投票するのが有権者の責任だと実感していく。でも日本の高校で、自民党の政策がこうで、という話をしたら……。

山本:問題になるでしょうね。教育の現場が政治に介入するのか、と。

森田:それ自体が大変な騒ぎですよね。だから、とにかく投票所に行けということしか言えません。本来は、どうやって平和を実現するか、よりよい社会をつくっていくか、そういう道筋を議論する環境から整えないといけない。それは、学者がやるような小難しい議論ではなく、わかりやすいストーリーを軸にみんなで考えていくということなんです。

生産性を上げたいなら、賃金を上げるべき

山本:働く価値を実現していくには、どういう政策が求められているのか。最大公約数で言うと、最低賃金の引き上げや労働環境の充実ですよね。

森田:同一労働・同一賃金もですね。

山本:ではそれを実現するためにどうするか、と話が広がるはずだけど具体的な分析はされてないように見えます。

森田:日本の労働生産性が低いと言われていますが、なぜ低いのか、どういう労働がされているのか、という分析はあまりされていないですね。

山本:労働生産性については、日本の製造業は国際比較でもかなり健闘していますが、第三次産業、つまりサービス業で全体の足を引っ張っています。そのサービス業が全産業に占める割合が67%と高率なので、日本は生産性が低いということになるんですよね。また、労働生産性というのは「付加価値額/労働投入量」として表せます。そして、サービス業の付加価値は単純に労働者に支払われた賃金で規定される。だから賃金が上がらなかったら、労働生産性は上がらないんです。労働環境が変わらないのに、「生産性の高い産業につくりかえろ」というのは無理な話ですよ。

森田:時間ベースで働いている以上、賃金が低いと生産性は下がりますよね。上げるためには賃金を上げるか、労働時間を短縮するかのどちらかしかない。それを実際いまの仕事でどうやるのか、という詰めた議論はなされていません。またスウェーデンの話になりますが、あの国の医師の数は、人口比でいうと日本より多いんです。なのに、数が足りないと言われている。そして生産性は日本より高い。このカラクリは、休暇取得日数にあります。彼らは、年間70日も休暇をとる。だから10人の医局なら、いつも2、3人休んでるんです。そして残った人に労働負荷がかかって、生産性が高くなっている。一方、日本の医師が忙しいのは、医師にしかできないこと以外の事務的なことをやらされているからですよね。このように、労働の中身や休暇取得日数も含め、細かく見ないと、生産性を上げる具体的な方法にはたどり着かないでしょう。

対立を煽るのではなく、わかりやすく

神津:生産性の問題は、労使関係と非常に関わりが深いんですよね。日本の労働組合の組織率はすごくいびつで、圧倒的に大手が中心です。1000人以上の企業では組織率44.3%、でも100人未満だと0.9%。これは、戦前の産報(産業報国会)体制が淵源にあるからです。その骨格があったから、戦後GHQが労働組合作るのは当たり前だと言った時に、わっと雨後の竹の子のように組合ができた。生産性の話は、民間の労働組合ではかなり前向きに受け入れたんですよ。でも、中小零細企業には組合がない。だから、生産性を上げようというバネ力が労使関係のなかで働かない。大手の労使関係のなかではいろいろ工夫されてきたけど、中小ではなかなかそういうことがない。すると、付加価値も向上しない。大手と中小の間で、生産性においても格差が生じてしまったんです。

森田:日本は企業別組合でずっときています。それが、高度成長期に労使関係を良くしたところもあるけど、企業の分野によって差が出たときにまとまりがつかなくなってしまいました。ヨーロッパみたいな産業別の組合だと、コーポラティズム的な決着の仕方もあるのかもしれないのですが。

山本:医師会のような産業、職能別の団体もこれからどんどんできていくのではないでしょうか。

神津:労働組合は基本的にボトムアップの組織なんです。企業別の運動でカバーできないところを担当する。その一つとして、地方連合会、地域協議会をずっと整備してきて、地域の運動がやっと定着してきたところです。ただ、その運動が本当に自分たちのものかという識を組合員一人ひとりが持てているかは、疑問ですね。今後も民主主義の土台として機能していくことに努力していかないといけません。

森田:イデオロギーというのは、帰属意識に基づくものなんですよね。昔はその帰属意識が単一の軸で分けられたけれど、いまはそうはいかない。世代、つまり年寄りと若者、都市と地方、持てるものと持たざるもの……いくつかの軸が複雑に重なっている。地方の若者で持たざる人は、低所得のグループに入るのでしょうか。それとも地方のグループ? 若者のグループ? 政党が出すマニフェストは、それらの軸を臨機応変に、都合よく使っているので、自分がどこの軸で政治的な運動にコミットすればいいかがわからないんです。

藤田:対立を煽るのではなく、わかりやすく、自分がどういう社会をつくっていきたいかで政策を選べるようにする。その軸を整理するのは、メディアの役割かもしれませんね。

撤退戦の際をいかに支えるか

山本:もう、ここからの日本は人口減少が止まらず、衰退していくことは明らかです。そのときに大事なのは、セーフティネット。それを張っておかないと、底が抜けてしまいます。

神津:雇用のセーフティネットが、日本は脆弱です。非正規雇用はこの20年で、2割から4割に増えました。個別の企業としては背に腹は変えられず、事実が先行してしまったんです。雇用がどれだけの付加価値を生んで、社会保障をどれだけ支えていくかという図式が大きく崩れた。政府もさすがにこのままではいけないということで、「働き方改革実現会議」を設置し、雇用についての議論をしようという機運は高まっています。


山本:正規雇用を非正規化していく流れが、加速するのはこわいですよね。高い方に合わせて世の中を良くしていこうという話ではなく、低い方、不安定な方に高い方を引き下げようということだと、結局、立場の弱い人たちがみんな不安定になってしまいます。

神津:それは十分に注意しないといけません。非正規化が進めば、ますます雇用も生産性も下の方に引っ張られていく。

森田:これからの政治の仕事は、パイを削るところをどこにするかという判断をしなければいけない。これはみんなやりたくないでしょうけれど、仕方ないですね。地方もどこを残し、どこを切るか決める。そしてどこの世代に負担を負わせるかという部分を、はっきりさせる。そのグランドデザインを描いて、国民に納得してもらうのが本来望ましい政治の姿です。

山本:そうなると、パイが配られなくなって苦しむ人、生活が成り立たなくなる人が必ず出てきます。そういう人たちに、どう政策的なカバレッジをかけるか。どうやって労働政策に結びつけ、人々の暮らしを安定させていくのか。撤退戦の際(きわ)になるのが、地方で働いている人でしょう。地方の産業は今、どんどんなくなってきていますよね。

教育こそ最大のセーフティーネット

木下:撤退戦で数年かけて集落を少しずつ小さくしていく際には、ハードランディングにならないよう注意を払わないといけません。そして、撤退戦するべきところで地方創生を無理やりやると、正直ほとんど無駄金になります。そのお金は適切な社会保障や、移住のサポートにあてる。そういう配分が必要です。それなのに、社会資本整備を大幅にやったりしてしまうんですよね……。社会資本を作っても、もう使う人がいないんですよ。


藤田:長期スパンで見た社会の一番大きなセーフティネットは、やはり教育じゃないでしょうか。

神津:そうですね。僕らは「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた政策パッケージで、「働くこと」につなげる5つの橋と言うものを考えています。そのひとつ目が「教育と働くことをつなぐ」なんです。すべての子どもたちに学ぶ機会を保証する、学ぶ場から働く場への円滑な移行を支援する、などがその具体的な内容です。

藤田:連合には教育を社会の成長原動力として位置づけ、そこに力を注いでほしいですね。働けない人、賃金の低い人の子どもたちが、十分な教育が受けられないという状況はまずい。格差を拡大、固定化することにつながりますから。子どもは常に社会が教育していくという、北欧的な考えかたを取り入れるべきだと思うんです。民主党が政権を取っていた3年間でやった、ほとんど唯一といっていい良い政策は、高校の授業料無償化ですね。


奨学金の返済額は収入で差をつけてもいい?

森田:大学の奨学金返済問題も、北欧諸国に学ぶところが大きいでしょう。基本的に一律給付でなく、きめ細かく所得に応じたかたちでコントロールしているはずです。日本もそれを本当にやるなら、ようやく動き始めたマイナンバーが活用できるでしょう。消費税をある程度上げて、その代わり所得に基づいて給付をするというかたちでセーフティネットを張る。そのときに一番有効な社会制度、政策はどうあるべきかという議論が積極的にされるべき。軽減税率をどこまでやれるか、なんていうのは、ヨーロッパなどではとっくに終わった議論なんですよね。


木下:教育は一番大きな問題ですよね。地方では、義務教育も厳しい状況です。なぜなら義務教育は、従来の非常に高コストな仕組みを前提としているから。青森のある町を車で移動していたとき、地元の人が、道路沿いに見えた3つの小学校はすべて今年度で廃校だ、と教えてくれました。大きな校舎、プール、一定数の教員などの条件が、そもそも子どもがたくさんいることを前提としています。子どもの数が減った瞬間に学校自体を閉めてしまうというのは、非常に乱暴。もっと段階別で、細やかに対応してもいいのではと思うんです。

山本:それぞれの学校に先生を配属できないなら、インターネットを活用し、遠隔でいくつかの学校でまとめて授業をおこなってもいいわけですよね。

木下:そうなんですよね。また奨学金に関しては、稼いだ金額に応じて返済するという仕組みを導入したらいいのではないかと考えています。莫大な成功を収めた人も、毎日の生活にも困っている人も、同じ額を借りたから同じ額だけ返済するというのはどうなのかと。森田先生もおっしゃったようにマイナンバーで管理して、全体の所得に対して1%払うとか、そういうルールをつくったらどうでしょうか。そうすれば、貧しくても教育を受ける保証がされる。さらに大学を出て伸びた人のお金は、次の世代に使っていける。もうちょっとリレー方式でお金がまわれば、可能性が広がると思います。


山本:今はリレー感がなくて、もらったらもらったでそのままですからね。さて、セーフティネットを張ったものの、セーフティネットごと吹っ飛びかねないという状況に陥った時どうすればいいか。おそろしいことですが、ここも考えなければいけないと思います。どこから優先して復旧していくかというロードマップを用意しておかないと、破綻した後で大変なことになってしまう。支給が急にストップすると、医療サービスが受けられなくて慢性疾患の方が亡くなるなど、人死が出る可能性もあります。

森田:今は高額療法費制度というのがあって、所得に応じて月額5万7600円〜25万2600円の負担でいいことになっていて、それを超えた場合は公費でまかなうということになっています。でも、最低額の負担もできない人がかなり多くなってきている。そしてその人達が受診を抑制するから、生活習慣病の悪化が起こっているといわれています。そういう人たちをきめ細かく拾っていくには、データが足りないんですよね。セーフティネットが吹っ飛ぶ前から、見殺しにされている人がいるのが現状です。

「プランB」を用意できない日本

神津:福島第一原発に津波が来る可能性について一度、有識者の会議で議論がされたことがあるんです。でも、最終的には「そうはいっても津波はこないだろう」と、結論付けられてしまった。もし津波が来ることが想定の範囲内に入っていれば、復旧電源を下に置くなんてことはしなかったでしょう。こういうことは、他の場面でもたくさんあるんじゃないかと思います。

藤田:ありますね。日本の政府官僚はシナリオをつくるのがすごく下手だと感じます。災害や事故に対処するときは、起こるか起こらないかという確率を考えるのではなく、シナリオを状況に合わせていくつか用意しておき、最悪の時はこう、まだそうでもないときはこう……と準備しておかないといけないんです。

森田:いわゆる「プランB」というやつですね。本来の計画や作戦がうまく行かなかった場合のバックアップを用意しておく。たしかに日本は、藤田さんがおっしゃるとおり最悪の事態が起こった時に、被害をいかに最小化するかを考えるのが、非常に下手です。例の国民保護法で、北朝鮮が攻めてきた時にどうやって民間人を避難させるかという話が出たときも、それは都道府県の責任でやると。人口が少ないある県でも、全員を避難させるには、バスを何十台もフル回転して3〜4日かかるというのが、シミュレーションの結果だそうです。その間に攻めてきたらどうするのかという想定は、なぜかしない(笑)。

山本:社会保障問題は、もう負けが見えている戦争です。負けるにしてもどう被害を少なくして負けるかを考えなくてはいけません。

藤田:日本では「トリアージ」の考え方ができないんですよね。

森田:そうですね。トリアージは、フランス軍が考案した、患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定し、選別する方法です。

藤田:助かる人から優先的に助ける。重傷な人は後回しにする。僕らの常識からすると反対だけど、危機的状況ではそれが一番被害を小さくできる可能性があるんですよね。

森田:そうです。負傷した兵隊が野戦病院に運ばれてきた時に、ほっといても死なない人、助けようとしてもダメな人、この両方は排除する。そして、治療すれば助かるけど、ほっとけば助からない人に全医療資源を集中的に投入する。こういう発想です。誰がどの状況にあるかひと目で分かるように、それぞれ症状が軽い順に、青、黄、赤の札を貼る。しかし日本ではなぜか、赤の一番重症な人に医療資源を投入する。そして、助からない人用には「黒」というもうひとつの札が用意されているという……。

山本:笑えない現実がここに。本来とは違うかたちで輸入されているんですね。

医療制度の危機、あと2年が勝負

森田:韓国では、2016年9月の慶州地震ではパニックになったそうですけど、北から攻められた時にどうするかということについては、プランも心構えもできているんですよ。日本も、プランはあるようですが、このあたりはもう少し緊張感を持っていいんじゃないでしょうか。そして、北朝鮮からの侵攻よりも差し迫った危機は、医療保険制度の破綻でしょう。それに対してのプランは早急につくっておかないとまずいです。

藤田:医療費は確実に上がっていきます。僕ら団塊の世代は10年もしないうちに、75歳の後期高齢者になります。後期高齢者の罹病率は高い。医療費は今から15兆円〜20兆円増えることも考えられるんです。いったいこれを誰が払うのか。そういう状況では、僕ら団塊の世代がもうお役御免だと切り捨てられるかもしれない。その、助ける、助けないの線を引く役を誰かが担わないといけない。それは、はじめの方で森田先生がおっしゃったように、政治家の役目です。その覚悟がある人しか、これからは政治家になろうとしてはいけないと思います。

山本:セーフティネットが破綻した時のプランBを、野党側から出していくべきですよね。それがあるからこそ、何かあった時に与党の責任を追求し、代替案として提示できる。

神津:そこは連合も支援していくところだと考えています。

森田:もしかしたら、医療制度よりも、国家財政が破綻するほうが少し早いかもしれませんね。

山本:2019年には破綻するという話があるとかないとか……。

森田:旧ソ連が崩壊したときのように、突然デフォルトでがくっとくることはないでしょう。急カーブをきって、下げていかざるをえない。それでも、相当国民の間にショックが走るでしょう。2年間のあいだに、セーフティネットを用意できるか。それが日本の崩壊を防げるかどうかの鍵になりますね。

(了)

(構成=崎谷実穂)

このコラムについて

人口減少時代のウソ/ホント
私たちが生きるのは人口減少時代だ。かつての人口増加時代と同じようにはいかない。それは分かっている…はずだが、しかし、具体的にどうなるのか、何が起きるのか、明確な絵図を把握しないまま、私たちは進んでいる。このあたりで、しっかり「現実」をつかんでおこう。リアルなデータを基に、「待ったなしの明日」を知ること。それが「何をすべきか」を知るための道だ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/275866/121300013/  

  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民117掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
経世済民117掲示板  
次へ