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「夢の薬」をみんなで使えば国が持たない――対談 里見清一VS.曽野綾子〈医学の勝利が国家を亡ぼす 第1回〉
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 11 月 25 日 01:54:32: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 

「夢の薬」をみんなで使えば国が持たない――対談 里見清一VS.曽野綾子〈医学の勝利が国家を亡ぼす 第1回〉

 長寿は万人の夢だった。だから医学の日進月歩も歓迎されたが、がんを消す「夢の薬」が高価なあまり国が亡びてしまっては、元も子もない。命をつなぐべき医学が、命を追い詰める現状をレポートする短期集中連載の第1回。今、あるべき死生観を問う対談である。
 ***
 これまでとは違う仕組みでがんを消す“夢の薬”の登場に、今、世の中が沸いている。その名はオプジーボ(一般名はニボルマブ)。免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しいタイプの分子標的薬で、もともと体に備わっている免疫力を利用してがん細胞を消すという。

 簡単に言うと、仕組みはこうだ。免疫細胞にはがん細胞やウイルスを攻撃するための“アクセル”と、相手が味方だった場合に攻撃を止める“ブレーキ”が備わっている。がん細胞は免疫細胞にブレーキをかけさせながら成長するが、オプジーボはそのブレーキを解除し、免疫細胞の攻撃力を取り戻させてくれるのだ。

 2014年9月に発売された際は、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)向けだったが、昨年12月、日本人の肺がんの85%を占めるという非小細胞肺がん向けにも保険適用が認められた。もうこれで、がんの完治も夢ではない――。世間はそう騒いでいる。

 ところが昨年11月下旬、厚生労働省がオプジーボの肺がんへの使用を了承するのに先立って開催された、日本肺癌学会学術集会のシンポジウムは、この“夢の薬”に対し、

「今日は気分がよくなる話は一切ありません。会場にお集まりいただいた皆さんは、絶望して帰っていただきたい」

 という苛烈な言葉で始まった。その発言の主こそが、里見清一氏である。“夢の薬”になぜ絶望するのか。実は、肺がん患者がオプジーボを使うと、年間3500万円かかる。費用の大半は国庫から供出されるため、“夢の薬”によって国家財政が破綻しかねないのだ。

 桁外れに高価な薬を際限なく使い、そのツケを次世代に負わせていいのだろうか。問われているのは、われわれの死生観かもしれない。

里見 今日も財務省に呼ばれ、財政制度等審議会の財政制度分科会で、薬価の高騰や肺がん治療のコストについて話をしてきたんです。

曽野 3500万円かかるお薬について、お役所はどうおっしゃったんですか。

里見 私がまず話したのはこういうことです。その割合は3割か2割、あるいは1割かもしれませんが、この薬が効く人は確実にいます。で、効く人には2週間に1回使うことになっていますが、どこまで続ければよいかという目安はありません。体重60キロの人が1年間使うと3500万円かかります。

曽野 そもそも、今使っている抗がん剤は、あまり効かないんですね。

里見 はい。完治させることはありません。進行がんの患者さんに使って一定の効果はあっても、数カ月くらいです。だから長く使わずにすむということもある。また、抗がん剤の一種の分子標的薬は、どんな患者に使えるかが事前にわかりますが、これも治すところまでいきません。一方、オプジーボは効果がある人には確かに効く。治るかもしれない。そのかわり、どういう患者に効くか事前に判定できないので、使う患者を選べず、また、いつやめていいかもわかりません。肺がんの患者さんは13万人いると言われます。仮に5万人に使ったとして、1年間で1兆7500億円。日本の医療費は2013年度で40兆610億円。そのうち薬剤費が約10兆円ですが、そこにポンッと2兆円近くのしかかってきたら、国家財政がもちません。

曽野 こういう問題は、もっと早くから起きていたと思うんですね。私は戦争直後の世相を知っておりますが、結核や大腸カタル、化膿性の疾患で死んだ人もいました。それを治していただくのが希望でしたが、そうして人間の命がどんどん延びたらどうなるか、推定していなければいけなかった。医学界は何を怠けていらしたのかと思うんです。

里見 医学界にもそういうことを言う方はボチボチいて、2014年にペンシルベニア大副学長のエゼキエル・エマヌエル先生が、「なぜ私は75歳で死にたいのか」という随筆を発表しました。病気になったら痛みや苦しみは取ってほしいけれど、それ以上はしなくていい。健康診断も受けない。一般論でしょうが、人間は75歳をすぎると生産性がガクッと落ち、あとは余生みたいなものだと。アメリカの平均寿命は79歳。日本は84歳ですが、エマヌエル先生は、日本の平均寿命をめざす必要も、うらやましがる必要もないとおっしゃっています。

曽野 健康診断は、私も60歳ぐらいから受けていません。それから、厚生労働省が75歳以上を「後期高齢者」と呼ぶことにしたとき、みんな怒ったじゃないですか。でも、夫の三浦朱門なんか、末期高齢者、終期高齢者、晩期高齢者と、もっと細かく分けて、いやらしい名をどんどんつけろと言っていました(笑)。クラス会に行ったらよくわかります。75歳をすぎると病人がどんどん増えるんです。


■費用はほとんど国が負担

里見 高齢になるとがんが増え、われわれが診ている肺がん患者さんも、75歳ぐらいが平均的です。みなさん、75歳や80歳になっても、長生きしたいとおっしゃるので、年間3500万円かかる薬を使います。誰に効くかわからないので、患者さんが使ってほしいと言う以上、使わざるをえません。高額療養費制度があるので、費用はほとんど国が負担します。使った患者さんの最高齢は100歳だそうですが、100歳の人を101歳にするために、国が3500万円を支払う。人類史上、こんな贅沢があったでしょうか。

曽野 私は、やりたい人は私費でやっていただきたいと思う。そうすれば、儲かったお金が次の研究費にも回りますからね。

里見 これまで肺がんでは、一番高い薬で年間約1000万円でしたが、一気に3・5倍に跳ね上がった。財務省の審議会では、「そのうち研究が進み、費用対効果がよくなるのではないか」という声も出ました。でも、その間にも新しい薬がどんどん出て、さらに薬価が高くなるでしょう。ではどこで切るのか。アメリカのように自費で払える人には払ってもらうのか。私は、年齢で切るのが一番公平ではないかと思うのですが。

曽野 国が負担する分だけは、若い順から使っていく。当然だと思いますけれど。

里見 ただ、今日も財務省で、ある委員が「年齢で区切ったりしたら政権が倒れる」と言っていました。では、体重で切る方法はどうか。体重1キロ当たり何ミリグラムの薬と量が決まり、50キロの人に比べて100キロの人は倍の薬が必要になるので、軽い人を優先する。この方法が一番科学的だろうと話すと、みな引きつったように笑っていました(笑)。とにかく、国家の破綻は目に見えていますから、どこかで切らなければいけない。放置すれば、救命ボートに乗り遅れて下に沈むのは次の世代です。

曽野 そうですね。若い人が犠牲になる。

里見 高齢者が医療費を使いつづけると、保険制度が破綻して、次の世代の人たちがまともな治療を受けられなくなります。

曽野 「使い倒す」と言う人がいますね。保険料を払った分は取り戻すという意味のようですけど、実に浅ましい。私は使わないですむことを目的としています。できるだけ使わないのが、安い野菜を買う楽しみと通じるんです。でも、自分が払った分はとことんもらっていくという貧しい精神が一般的になりました。

里見 高い薬を使ったら、それだけ得だと思ってしまう、ということですか。

曽野 これは教育の問題でもあると思うんです。私は非常にいい加減なキリスト教徒ですけど、キリスト教では、友のために命を捧げること以上に大きな愛はない。それが最も崇高なことだとされます。そういうものがなくなりましたね。私なんか「命は捨てられないな、自分はなんて卑しい人間なんだろう」と思うことが、人間としてのひとつのあり方だと思っていますけど、損をする生き方はだめだ、それでは資本主義に奉仕することになる、と日教組はお教えになった。そこから変えていかないと。

■死ねないという不幸

里見 この年間3500万円のオプジーボは、高額療養費制度を使うと、どんなに高収入の人でも、95%以上を公費で補填してもらえます。だから、医者もあまり気にせずに処方できる。

曽野 でも、ある程度は払う習慣を末端にまでつけさせないと。救急車にしても、タダの人もあるべきですが、払える人は払うべきです。

里見 同僚の医者が学会で行ったアメリカで胆石になって、救急車を呼ぶと「いくらだ」と言われ、病院に運ばれたら「CT撮るか? 撮ったらいくらだ」と、いちいち聞かれたそうです。

曽野 だから、日本は本当にいいシステムなんですけど、それに乗っかって、ずっと倍々ゲーム以上のコストをかけていると、つぶれるでしょうね。

里見 20年少し前、私の祖母が80歳を過ぎて死んだのですが、腎不全というので、勤めていた病院の腎臓のドクターに聞いてみたんです。そうしたら「80歳過ぎて血液透析入れてもいいことないぞ」と。私はそれだけで納得してしまいました。でも、今はどこでも、90歳を過ぎて透析なんてザラ。本人は嫌がっていても、押さえつけてやっている。

曽野 私、知っています。透析は、やめると7日目くらいに確実に死にますね。

里見 それがわかっているからやめられない。

曽野 この間、夫が食べないので、「食べなかったら死んでしまいますよ、自分で考えてください」と言ってほっておいたら、3、4日後に食べだしました。また、お風呂に入るのも嫌がるんですが、川崎の老人ホームで、入浴を拒んだ入居者を突き落とした若い男がいました。ですからうちでも言ったんです。「4階から突き落とされてもいいのなら、お風呂に入らなくてもいいわよ」って。うちは4階まではないんですけど、こうして90歳を脅していると、自分で選ぶんです。私は、人間は死ぬものだという教育を幼稚園から受けていますから、いつまでも生きたいという感覚がわかりません。政府の教育審議会の委員を務めたときも毎回、「義務教育から死の教育をすべきだ」と言いましたが、通ったためしがない。

里見 今は80歳でも90歳でも、本人が生きたいと言えば、「もう90歳なんだから諦めよう」と言ってはいけないことになっています。「寿命120歳時代」を主張する人もいます。90歳の人が120歳まで生きたとして、その30年間、何をするんですかね。

曽野 そうですねえ。私は個人の美学があるべきだと思うし、自由に選べるようにしてほしい。夫のところに2週間に一度くらい訪ねてくれるドクターが、「どんな夜中でも僕が来ますから、救急車は絶対に呼ばないでください」って。救急車を呼ぶと何が何でも生かす方向になるらしいですね。

里見 救急隊はそれが使命ですからね。100歳のおばあちゃんが刺身をのどにつまらせ、慌てて救急車を呼んで、心臓マッサージをして病院に運んだという例がありました。助かったのですが、心臓マッサージをすると肋骨がバキバキ折れますから、もう自分では息をするのも大変。良くなる見込みがないわけですが、死ねないんです。

曽野 死ねないのは現世で最高の不幸です。人間の救いは死ねるってことで、永遠に死ねないという刑罰があったら最高刑ですよね。

里見 今、救命医療も老人ばかりです。私が救命センターで研修した30年近く前は、若い人の交通事故とか、子供が溺れたとか、そんなのが主体でしたが、今は年寄りが中心ですね。このままでは、子供が溺れても「今、いっぱいだから」と断られかねません。

曽野 やっぱり、若い人から助ける、というルールを作らなきゃいけない。トリアージの一種ですね。

里見 それは災害時に助かりそうな人から助けることですね。20歳の人と70歳の人のどちらを優先するかという選別は、今のところできない。私は、命の価値は若い人のほうが上になると思うんですが、今の日本では全部平等に3500万円かけるわけです。

曽野 平等だったら、年齢が若い方からですよね。

■ノブレス・オブリージュ

里見 憲法25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」に、3500万円の薬も入るのかどうかと、最近思うんですね。

曽野 それは世界的レベルでお決めになったらどうなんですか。

里見 WHO(世界保健機関)が出している基準があって、1人の寿命を1年延ばすためにかけるに値する金額は、一人当たりGDPの3倍以下だという。日本人の場合、2015年のGDPで計算すると1182万円。それが1人が1年生きる値段というわけです。

曽野 で、抗生物質や風邪薬だと……。

里見 全然、1200万円なんかにならないです。

曽野 だから、それだけでよろしいと思いますよ。自分で儲けたお金で贅沢してどこが悪い、って言えばそうですけど、それにブレーキをかけるのが本当のジェントルマンですよね。

里見 ただ、私は今、少し悩んでいることがありまして、財務省の役人や医者に向かってハッキリ言うのは構わないんですが、目の前の患者さんに「あなたが今使っている薬は1回133万円、1年間使うと3500万円だ。それをみんなで使うと、国がもたないんだ」と言って、わかってもらうべきなのかどうかと。

曽野 おっしゃってよろしいですよ。私、言えますよ。雇われましょうか(笑)。だって事実はそうなので、仕方ないですよね。もうひとつは、裕福なエリート層に、使う場合は自費で使ってくださいと運動すべきですね。ノブレス・オブリージュです。ぜひ自費申請していただいたほうがいい。

里見 そういう方々を貴族院議員にするとか。

曽野 勲章をあげてもいい。あるいは、赤坂で美女と遊べるという、よくわからない景品をつけるとか。

里見 麻生副総理が「さっさと死ねるようにしてもらわないと」と、珍しく正論を言ったときも、失言にされてしまった。

曽野 信念をもっておっしゃったのなら、麻生さんはなぜ謝ったんでしょう。麻生さんの発言を聞いて、この人は悪い人だと思ったら、1票を入れなければいいだけのことですから。

里見 曽野先生も「90代で、ドクターヘリを要請した病人がいた」とお書きになって、炎上しましたよね。

曽野 過去から今までSNSを見たことも使ったこともないヤバン人ですから、私、まったく平気です。

里見 90代でも、そこで非常に苦しんでいて、ドクターヘリで運ばなければできないことがあったのなら仕方ない。でも、ただ寿命を延ばすためだったのであれば、さすがに。

曽野 私は救急車もドクターヘリも、母子家庭とか困っている人は除いて、呼んだ人に実費を払わせるようにしたらいいと思いますよ。

里見 とにかく、国の借金が1000兆円を突破している中、みんなが人の金だからと寄ってたかると、そんなに遠くないある日、突然、全部がバタッと倒れるんじゃないかと思っています。今年度から、3年間の社会保障関係費の伸びを1兆5000億円に抑えるという目安が置かれましたが、オプジーボに1兆円かかるとすると、差し引き1年5000億円を削らなければなりません。いっそ、どんどん削ってしまってはどうかと。医者も自分の懐が痛むようになると、もうちょっと考えると思うんですが。

曽野 思い切って平等を貫いたらどうなるか、という社会実験をしばらく続ける方法もありますね。そうしないとわからないんです。

■タダほど高いものはない

里見 日本には高額療養費制度があって、自己負担額が一定以上になると戻ってくる。欧米の人たちはこれを理解できないらしいです。ヨーロッパの学会のホームページには「日本は3割負担」と書かれています。「そうではなく、これこれの金額を超えると全部公費なんだ」と伝えても、誰も信じないですね。

曽野 世界からするとびっくりなんですね。私も知りませんでしたけど。

里見 そもそもこの制度は、大けがをしたとか、心臓の大手術をするとか、一生に一度の大勝負みたいなところで、金がなくて死ぬのはかわいそうなので、公費から出すものだったと思います。オプジーボのように毎月、同じものにかかるのは想定していなかったはずで、制度の趣旨にそぐわなくなっている。ただ、商売人は目端が利くから「これで無限に儲けられる」と。今日、財務省でも一人の委員から、75歳以上の高齢者は、保険料をちゃんと払っている人だけが高額医療を受けられるようにすべきではないか、という意見が出ていました。でも、曽野先生は逆に、払える人は自費でやれと。

曽野 それは当たり前ですよ。夫は映画でもバスでも、「僕はそれぐらい払える」と言って全額払います。小学生みたいなイバリ方ですけどね、それがパトロンの精神の出発点です。すべてのものには代価を払わなければならないって、私は昔、習ったんですけどね。タダほど怖いものはない。

里見 タダほど高いものはない。こうしていると、ある日突然、ギリシャのようにパタリと倒れかねません。山本夏彦さんが書いていました。会社がつぶれるときは、ある日出勤すると「つぶれました」って張り紙してあると。しかし財務省は、そういう現実を広報すると嫌われるので、医者に言わせようとしている。

曽野 政治家も、今の制度を変えると痛い目に遭うとおっしゃる。でしたら選挙に勝った瞬間に変えたらどうですか。次の選挙のころには、みんな忘れていますよ。それに医療費の自己負担分も、稼ぎがある人は5割にしたらいいじゃないですか。そうすれば、うちの夫のようなケチは病気になってもお医者に行かないから、適当なときに死ぬ。いいことだらけですよ。私は今、介護人なので、高齢者介護の大変さは実によくわかっています。認知症の介護は個人ではできませんよ。

里見 去年、父が頭を打って、85歳で死にましたけど、正直言って、命だけ助かるより良かったかなって。

曽野 私はもう計算したんです。私は少し収入があって、芸術院から恩給もいただいているから、それで暮らせるうちは、お国に迷惑をかけてはいけないと思ったんですよ。

里見 「お国に迷惑をかけてはいけない」というセリフは、絶えて久しく聞かないですね。

曽野 お国という意識は、私にはハッキリありますね。それは若い人たちということです。社会と言ってもいい。そして、人間には生きる権利もあるけれど、死ぬ義務もあると思うんです。

里見 曽野先生だけですよ。人間は一定の年齢になったら死ぬ義務があるなんて言ってくれるのは。

曽野 私は運命を任せたいんです。神でも仏でもいいんです。それが一番明るい。私ね、セデーションを知らなかった。

里見 薬を使って鎮静をかけることですね。なかなか苦痛が取れなかったら、もう眠っていただく。

曽野 それ、いいと思いますね。私が礼賛しているのは自然死です。それは人間以外のものが決めてくださる。ギリシャ語で、寿命のことを「ヘリキア」と言って、三つの意味があります。寿命、その職業に適した年齢、それから背丈。ギリシャ人は、その三つは人間が変えがたいと認識していた。そういうふうに人間が左右できないことがあると、いろんなことから学ばせなければいけないんです。

里見 ただ、そのセデーションですが、がんの末期の方に鎮静をかけるとなると、ナースがやってきて「家族の同意を取ってくれ」と言う。苦しまないために眠ってもらうのが目的なのだからいいじゃないか。「その結果、死ぬかもしれませんが、いいですか? よかったらサインを」なんて言えません。家族も、肉親が死のうというときにそんな余裕はない。手を握っていてもらうのが一番いいんです。

曽野 だから、もう少し死に親しむほうがいいです。


■死ぬまでに何を成しうるか

里見 こういう話、人間はなんのために生き、どのように死ぬべきかというような話は、本来、もっと前にしておくべきでした。3500万円の薬の値段にせっつかれてするのは、非常に哀しいし、残念です。

曽野 そうですね。楽しい話になりませんね。

里見 医者にもそういう意識がない。コストは問題かもしれないけど、現場の問題ではなく、国が考えるべきだと言います。でも、その「国」って誰なのか。国や社会、次の世代とかへの意識がないので、口を酸っぱくして訴えてもわかろうとしない。

曽野 野田聖子衆議院議員のインタビューが「婦人公論」2012年5月7日号に載ったんですね。お子さんが新生児集中治療室に入って、何度も手術して、そうしたら「高額医療は国が助けてくれるので、みなさんも、もしものときは安心してください」と言う。お子さんが元気になって、みな喜んでいるからいいんですよ。でも、驚いたのは、「みなさんのおかげで治療ができて、ありがとうございました」という、ただの一言もないんです。国費で治療を受ければいいんですよ。ただ、受けて感謝するのが人間の条件のように思います。

里見 財務省の役人も言っていましたが、高額療養費制度は明らかに受益者が出るので、政治家は非常に好むんだそうです。

曽野 結局、死なない人は一人もいないのだから、死ぬまでに何を成しうるかということなんでしょう。何でもいい、死ぬ前にどれだけ自分が関心があることをできたか、という貯蓄が要るんです。やっぱり、生が充実していると死にやすくなりますね。それから、現世が楽しいというイメージを与えすぎないこと。私なんか、現世は矛盾に満ちた惨憺たるところだと、徹底して思っているから、死ぬのはいいことだと思えるんです。

里見 それでも私は、現世が楽しいと思っていますけどね(笑)。

曽野 私は違います。ただ、それは私の評価で、絶対に人に押しつけようとは思いません。おいしいものを食べるときとか、瞬間的に楽しいことはありますけどね。私は作家でよかった。作家は「現世は惨憺たるところだ」と言っていられる職業ですから(笑)。

「特集 【短期集中連載】医学の勝利が国家を亡ぼす 第1回 対談 里見清一VS.曽野綾子 『夢の薬』をみんなで使えば国が持たない」より

里見清一(さとみ・せいいち)
本名・國頭英夫。日本赤十字社医療センター化学療法科部長。1961年鳥取県生まれ。東京大学医学部卒業後、国立がんセンター中央病院内科などを経て現職。日本臨床腫瘍学会協議員、日本肺癌学会評議員。著書に『偽善の医療』『医師の一分』『見送ル』『医者と患者のコミュニケーション論』など多数。

曽野綾子(その・あやこ)
作家。1931年東京生まれ。聖心女子大学卒。1979年、ローマ法王庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章、2003年に文化功労者。95年から05年まで日本財団会長を務めた。『老いの才覚』『人間にとって成熟とは何か』『人間の愚かさについて』『老境の美徳』など著書多数。

週刊新潮
2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号 掲載

http://www.dailyshincho.jp/article/2016/05160300/?all=1


 

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コメント
 
1. 2016年11月25日 23:04:16 : x0oYZTOfcY : qs5BRwsXJXo[5]
薬の価格なんてほとんど開発費だろう。
製造自体にはそれほど金はかかっていないと思うが。
ならば皆で使えば単価が安くなるのでは?

2. 2016年12月04日 23:10:31 : 2ATN4fbdNk : YzjwyhIBt34[84]
そもそも人ががんになるかどうかは単純に高齢化のせいだけじゃないだろう。
化学物質、放射能、そうしたもので汚染された場所に長年住んでいるというリスクもある。それはその人の責任じゃないはずだが、そのせいでがんになったという証明も通常はできない。それについてはどう考ええるのか曽野さんに聞いてみたい。

それに薬品メーカーは高額な開発費をかけても売れる薬を作りたがる。
この資本主義競争社会ではどうしたってそうなるわけで、そうした経済の仕組みについてはどうお考えなのかも聞きたいね。

偉い作家の先生なんだから、そういうこともわかって物を言えるはずだ。


3. 2016年12月05日 21:15:05 : 2ATN4fbdNk : YzjwyhIBt34[88]
>「夢の薬」をみんなで使えば国が持たない

だから、そんなものは保険外診療にして民間のがん保険に入りましょうというPR記事なのかこれ、もしかして?

だいだい、その薬、開発費はいくらだったのか知らないが、製造費はいくらになるんだよ?


4. 2016年12月05日 21:19:07 : 2ATN4fbdNk : YzjwyhIBt34[89]
だってこういう例もあるからさ。

≪痛快!≫「米国でもっとも嫌われた男」が9万円に吊り上げたHIV薬を高校生が約230円で作り出すことに成功!
http://www.asyura2.com/16/kokusai16/msg/594.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 12 月 05 日 17:03:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU


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