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ロシア、奥の手「大民営化政策」に漂うきな臭さ プーチン苦しい二枚舌  中国、横暴な権力者を殺害した男の死刑は止められるか
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 28 日 00:35:45: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

ロシア、奥の手「大民営化政策」に漂うきな臭さ

解析ロシア

背に腹はかえられない――プーチン大統領の苦しい“二枚舌”
2016年10月28日(金)
池田 元博
 ロシア政府は今月、国内最大の国営石油会社「ロスネフチ」に中堅国営石油会社の株式を売却した。財政赤字の穴埋めに充当する狙いだが、本来は「民営化」を掲げていた。なぜ民間企業でなく、国営企業に売ることになったのか。

ロシア最大の石油会社「ロスネフチ」が所有するクラスノヤルスクの油田(写真:ロイター/アフロ)
 今月10日、唐突に公表されたロシア政府の指令書が、国内のエネルギー関係者を驚かせた。メドベージェフ首相が署名したもので、ロシアの国営中堅石油会社「バシネフチ」の政府保有株を、国内最大の国営石油会社「ロスネフチ」に売却するという内容だった。

 日本ではほとんど報道されなかったが、このバシネフチの株式売却はロシアではエネルギー関係者だけでなく、政界ウォッチャーからも高い注目を集めていた。政権の中枢を巻き込み、侃々諤々(かんかんがくがく)の論争が繰り広げられた、いわく付きの案件だったからだ。

国内経済低迷で打ち出された「大民営化」政策

 話を少し戻そう。ロシアは近年、主要輸出商品である原油・天然ガスなどエネルギー価格の急落と、ウクライナ危機を受けた欧米の経済制裁の影響で、厳しい経済環境が続いている。昨年の実質国内総生産(GDP)成長率はマイナス3.7%に落ち込み、今年もマイナス成長が避けられない情勢だ。

 こうした中、政府が苦肉の策として打ち出したのが「大民営化」政策だ。有力国営企業の民営化や政府保有株の売却を進め、それによって調達する資金を今年の財政赤字の穴埋めに利用しようという計画である。同時に、経済の国家依存を下げることで、国内産業の構造改革につなげる狙いも込められていた。

 政府はその対象企業として、ダイヤモンド採掘大手の「アルロサ」、海運大手の「ソブコンフロート」のほか、アエロフロート、ロシア鉄道、VTB銀行、バシネフチ、ロスネフチを選定した。財務省は一連の政府保有株の売却により、総額でおよそ1兆ルーブル(1ルーブル=約1.67円、約1兆6700億円)の歳入増が見込めると試算した。

突然延期された民営化入札

 実際、政府は第1弾として今年7月、アルロサの10.9%分の株式を複数の投資家に売却した。続いて着手したのが石油会社のバシネフチだ。ただ、原油市況が低迷しているだけに、バシネフチについては発行済み株式の「50%+1株」を公開による民営化入札で一括売却することにした。過半の議決権を握れるというプレミアをつけることで、売却価格の上乗せを狙ったわけだ。

 同社の民営化入札は当初、今夏中に実施する予定だった。事前の各社への打診では、国内の石油会社や投資ファンドなど9つの企業・組織が入札参加の意思を示したという。中でも当初から最有力視されたのが、ロシアの民間石油会社で最大手の「ルクオイル」だ。同社自身、買収に強い意欲を示していた。


http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/102600016/graph1.png

 ところが入札は突然、延期された。国営企業のロスネフチにも入札資格を与えるべきだとの意見が浮上したためだ。かねてバシネフチの買収に関心を示していたロスネフチのイーゴリ・セチン社長が土壇場で、政権に強い圧力をかけたともいわれている。

 これには政府や大統領府からも、反発が相次いだ。急先鋒は政府内で燃料エネルギー複合体を統括するドボルコビッチ副首相で、「ロスネフチは国営企業なので、バシネフチの民営化に参加できるわけがない」と切り捨てた。大統領府内でも「ばかげた発想だ」と批判の声が出た。

 ただ、政府内ではシュワロフ第一副首相のように参加を支持する意見も多く、結局、バシネフチの民営化計画は明確な指針もタイムテーブルもないまま先送りされてしまった。実質的な棚上げの背景には、ロスネフチに買収資金を確保する時間的な余裕を与える狙いがあったとの説もある。

プーチン大統領の消極的な容認

 事態が再び動きだしたのは9月になってからだ。きっかけになったとみられるのが9月初め、プーチン大統領の米ブルームバーグとのインタビューだ。

 ロスネフチのセチン社長がバシネフチの民営化に高値で入札する意向を示しているが、「大統領は常に、巨大な国営企業が民営化される別の企業を買収するようなことは望んでいないと語っています。つまり、あなたは(ロスネフチの参加を)認めないということですね」。こんな質問に対して、大統領は以下のように答えたのだ。

 「国営企業というが、ロスネフチは厳密にいえば国営企業ではない。英国企業のBPが株主に名を連ねていることを忘れてはならない」

 ロスネフチは、政府が100%出資する国営企業の「ロスネフテガス」が69.5%、英石油大手のBPが19.75%の株式を保有している。国家の管理下にはあるものの、外国資本が入っている以上、ロスネフチをバシネフチの民営化入札から完全に除外するわけにはいかないという理屈だった。

 大統領は続いて「政府の管理下にある企業が他の国営企業を買うのは良い選択肢とはいえない」と述べる一方で、「最終的には財政が重要だ」と表明。民営化入札ではより多くの資金を調達する必要があるとして、ロスネフチの入札参加を消極的ながらも容認する姿勢を示唆したのだ。

 これを機に、ロスネフチへのバシネフチ株売却の流れが水面下で一気に進んだ模様で、冒頭の政府指令書の公布につながった。

 政府の指令書は、財務省の同意を得た経済発展省の提案を受け入れ、バシネフチの50.0755%の株式を総額3296億9000万ルーブル(約5500億円)で売却すると表明。10月14日までの支払いを求めた。ロスネフチは指令書に基づいて期限内に振り込みを完了したため、バシネフチのディールはつつがなく終了したという。

ロスネフチによる自社株買いも

 ロシア政府が国際会計事務所に試算を依頼し、それをもとに事前に想定していたバシネフチ株の売却価格は2970億〜3150億ルーブル。ロスネフチが提示した価格はそれを上回ったが、不可思議なのは公開入札という当初の触れ込みと違い、ほぼ秘密裏に契約が結ばれたことだ。

 ウリュカエフ経済発展相は入札に2社が参加し、ロスネフチだけが想定価格を上回る額を提示したと説明する。しかし、有力経済紙のベドモスチは、当初有力とされたルクオイルを含めて入札に関心を示した各社には正式な応札要請がなく、民営化の条件や入札日の公表を待っている間にロスネフチへの売却が発表されたと報じている。

 「大民営化」という当初の掛け声とはかけ離れた入札騒動となったわけだが、これを巡ってはさらに続きがある。政府の指令書が公布された2日後の10月12日。プーチン大統領は政府会議で、バシネフチ株の購入代金を支払ったロスネフチの潤沢な資金力に注目し、今度はロスネフチによる自社株買いを「暫定的な措置」として認める可能性に言及したのだ。

 政府はロスネフチも“民営化”の対象としている。同社については国家管理を維持しながら、全体の19.5%の株式だけを売却する計画だが、大統領発言の趣旨はこれをロスネフチによる自社株買いの形で代替し、得られる資金を財政赤字の穴埋めに充てるというものだった。

背に腹はかえられない

 「本当の民営化とはいえないのではないか」――。後日、記者団に厳しく問われたプーチン大統領は「あくまでも中間的な措置であり、外国資本を含む戦略的投資家への売却を想定した本格的な民営化への一歩だ」と弁明。「これまで何度も言ってきたように、国家資本主義をつくるつもりはない」と強調した。

 大統領は別の場でも「本格的な民営化の準備だ」と表明。ロスネフチの将来の民営化を想定すれば、バシネフチとの統合も相乗効果が見込めると主張している。一方で、こうした発想は「政府内の財政・経済派の立場だ」と指摘し、自らの本意ではないことも随所にほのめかせている。昨今の財政状況を踏まえれば、背に腹はかえられないということのようだ。

 バシネフチ株の売却では、政府が入札企業に国営銀行からの融資による資金調達を禁じた。このためロスネフチは東シベリア有数のバンコール油田の権益の一部をインド企業に売却するなどして、短期間に資金を確保したとされる。辣腕タイプのセチン社長が率いるからこそ可能だったともいえる。

 だが、こうしたいびつな“民営化”が長期的視点からみて、ロシアの国益につながるのか疑問視する声もある。財政赤字の穴埋めに苦慮する政府にとって、ロスネフチ頼みの状況が当面続くとみられるものの、政財界で特異な存在感をみせるセチン社長には政敵も少なくない。

 セチン社長をめぐっては蓄財疑惑もしばしばとりざたされ、かつて「側近中の側近」といわれたプーチン大統領との関係も、さほど親密ではなくなっているとの噂も流れる。ロスネフチの肥大化が一段と進むなか、バシネフチの“民営化”騒動のしこりが政権内の経済路線対立や、石油利権をめぐる抗争を助長する可能性は否定できない。


このコラムについて

解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/102600016

 


横暴な権力者を殺害した男の死刑は止められるか

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

追い込まれての報復に同情、広がる執行停止署名運動
2016年10月28日(金)
北村 豊
 2008年7月1日の午前9時40分頃、北京市出身の失業者“楊佳”(当時28歳)が上海市公安局の“閘北(こうほく)分局”を単独で襲撃して、警官6人を殺害、警官5人と保安係1人に重軽傷を負わせるという大事件が発生した。この後に“楊佳襲警案(楊佳警察襲撃事件)”と呼ばれた事件は、閘北分局傘下の“芷江西路(しこうせいろ)派出所”の警官が登録証の貼っていない自転車に乗っていた楊佳を職務質問したところ、楊佳が身分証の提示を拒み、自転車の出所に関する質問に答えなかったことから、芷江西路派出所へ連行したことに端を発する。

警官殺傷に喝采も

 芷江西路派出所に連行された楊佳は、取り調べの警官に協力しようとせず、警官と言い争いになった。このため、警官は楊佳に対して過酷な取調べを行ったようだが、最後には楊佳の身元が判明し、自転車は借り物であることが証明されたことで、楊佳は釈放された。その後、北京市へ戻った楊佳は閘北分局へ訴状を送り、芷江西路派出所の警官に不当な取調べを受けたとして、当該警官の解雇と精神的慰謝料の支払いを要求したが、閘北分局は取調べに違法性はないとして、これを拒否した。

 この対応を不満として楊佳は6月12日に上海市入りし、閘北分局近くの旅館に宿泊して下見を行い、出刃包丁や催涙ガスなどを買いそろえて準備を整え、7月1日に閘北分局襲撃を決行したのだった。午前9時40分頃、防毒マスクをかぶった楊佳は、閘北分局の正門に7本の火炎瓶を投げ込んで混乱を巻き起こした隙に、出刃包丁を手にして分局内に侵入し、警官を手あたり次第に切りつけて殺傷した後に、指導幹部を殺傷しようと分局ビルの21階まで上ったところで逮捕された。

 “故意殺人罪”で立件された楊佳に対する裁判は、9月1日に“上海市第二中級人民法院(地方裁判所)”で開廷された一審で死刑判決が下されたが、これを不服とする楊佳は控訴した。9月12日に“上海市高級人民法院(高等裁判所)”で開廷された二審は、10月20日に控訴棄却の判決が下されて、楊佳の死刑が確定した。その後、“最高人民法院(最高裁判所)”から上海市高級人民法院の死刑判決に対する承認が下り、11月26日午前中に楊佳に対し薬物注射による死刑が執行された。

 日頃から警察官の横暴さに憤りを感じている庶民たちの中には、楊佳による警察襲撃事件の発生に喝采を叫ぶ者も多数いた。彼らは楊佳をあたかも英雄であるかの如く祭り上げ、北京市“石景山区”に所在する“福田公墓(共同墓地)”にある楊佳の墓には密かに花を手向ける人が後を絶たないと言われている。

 さて、前書きが長くなったが、本題に入る。第二の楊佳と呼ばれる“賈敬龍”という人物がいる。その賈敬龍に対して、2016年8月31日に二審の“河北省高級人民法院”は死刑判決を下し、10月18日に最高人民法院が死刑判決を承認したが、多数の知識人がこれに異議を唱え、最高人民法院に対して死刑の撤回を求めて署名活動を展開している。その詳細は以下の通り。

新婚新居を襲撃、取り壊し

【1】賈敬龍は河北省“石家荘市”の“長安区”に属する“北高営村”の農家の若者である。2013年の年初に相思相愛で4年間付き合った恋人が賈敬龍の求婚を受け入れてくれ、2人は5月25日に結婚することを決めた。喜び勇んだ賈敬龍は、自宅を新婚住宅に改装しようと、自力で工事を始め、あちこちに建築材料を買いに走り、連日のように夜遅くまで働いた。そうして新婚住宅への改装が完成すると、賈敬龍はコツコツ貯め込んだ1元硬貨を使って「“我愛我家(私は我が家を愛する)”」という文字を書き、それを額に入れて部屋の壁に掲げた。賈敬龍はそれほどに新婚住宅の出来栄えに満足し、恋人との結婚の日を待ち望んでいた。

【2】1979年、賈敬龍の父親は北高営村から宅地の配分を受けて自宅を建設したが、2007年に自宅を3階建てに改築した。ところが、それから5年後の2012年1月に父親は村の集合住宅の中にある3DKの部屋を購入し、そこへ賈敬龍の両親と姉が移り住んだ。その後、祖母がその部屋に同居することになり、両親、姉、祖母が各々1部屋を使うことになった。一方、賈敬龍は3階建ての家に残留していたから、彼が新婚住宅に改装したのは3階建ての家だった。

【3】2013年2月27日、中国共産党北高営村支部書記で村民委員会主任の“何建華”が組織した取り壊し部隊が賈敬龍の住む3階建ての家に突然押しかけ、家を取り壊そうとした。これに驚いた賈敬龍は警察に通報し、取り壊しには断固応じない姿勢を示したので、彼らは諦めて帰って行った。ところが、5月6日の早朝、何台のも黒色の乗用車に分乗した一団が賈敬龍の家を取り囲むと、家に向けて一斉にレンガを投げつけて去っていた。何かが起こりそうな気配に賈敬龍が家の周辺を監視していると、翌7日の午後5時頃に、何建華の指示を受けた取り壊し部隊20人以上が敬龍の家に再び押しかけて来た。この日は結婚式まで18日、賈敬龍の27歳の誕生日まで6日に迫っていた。

【4】彼らは家の前にクローラー式油圧ショベル1台を持ち込むと、問答無用とばかりに賈敬龍が改装した新婚住宅を強引に取り壊しにかかった。賈敬龍が制止しようとしても、彼らは一切聞く耳を持たず、手あたり次第に破壊するだけで、それは正に暴徒による乱暴狼藉としか言いようがなかった。賈敬龍は2階で暴徒が上ってくるのを懸命に阻止していたが、父親が彼らに取り押さえられ、親戚の人々が殴打されるのを見ると、2階から下りざるを得なかった。すると、暴徒たちは賈敬龍を地面に押し倒して殴る蹴るの暴行を加えたから、賈敬龍は頭部に打撃を受けて流血した。そうこうするうちに、賈敬龍の姉が警察に通報し、警官が現場へ急行したが、なぜか賈敬龍は“高営派出所”へ連行され、8日の午前3時過ぎまで取調べを受けて調書を取られた。ようやく帰宅を許された時には、家はすでに全て取り壊さて廃墟と化し、汗水たらして改装した新婚住宅も、準備した新婚の調度品も全て廃墟の下に埋もれていた。

【5】家が取り壊された2か月後、恋人は彼女の両親から諭されて賈敬龍と別れた。家を取り壊された上に、恋人との結婚もダメになり、賈敬龍は失意のどん底に陥った。絶望の中で、賈敬龍は北高営村を管轄する長安区の“検察院”と“信報局(陳情局)”に告発状を何度も送付したが、なしのつぶてだった。家取り壊しの黒幕である何建華を訪ねて立ち退き補償を要求したが、無視された。家を破壊され、補償もなく、恋人も失い、結婚の夢も消失した。全ての夢と希望を打ち壊された賈敬龍に考えられるのは、北高営村で思いのままに権力を振るう何建華に対する報復しかなかった。

くぎ打ち機で報復

【6】賈敬龍の家が取り壊されたのは、2009年11月に北高営村の村民委員会で決議された「旧村改造計画」によるものだった。賈敬龍の父親は2010年11月に祖母が受けている社会保険を停止すると脅されて、家の立ち退き協議書に署名させられていた。この協議書は村民委員会の意向に沿って書かれた違法な内容で、立ち退き側である父親を利するところが何もない代物であったが、そこには村の共同住宅の1室を売り渡す代わりに、2013年2月20日までに旧宅(3階建ての家)を引き渡す旨の項目が含まれていた。賈敬龍がこの協議書の存在を知っていたかどうかは定かではないが、たとえ知っていたとしても彼は協議書を無視したと思われる。一方、村党支部書記で村民委員会主任として北高営村を牛耳る何建華は、賈敬龍の父親からサインを取り付けた協議書を盾に、合法と称して賈敬龍の家を強制的に取り壊したのであり、引き渡し期限を過ぎた2013年2月27日に旧宅の取り壊し作業を行おうとしたのだった。

【7】賈敬龍は何建華に報復する機会を探った。家が取り壊されてから1年半以上の月日が経過した2015年の“春節(旧正月)”に機会は巡って来た。北高営村では春節には毎年恒例の春節祝賀会を開催するが、何建華は北高営村の最高権力者として必ず出席する。2015年の春節祝賀会の当日、賈敬龍は村民たちに紛れて祝賀会の会場に入った。彼は密かに何建華の後ろに近付くと、隠し持っていた改造したくぎ打ち機で何建華の後頭部を撃って死亡させた。報復を果たした賈敬龍は自首しようと、自分の車で会場に近い“長豊派出所”への道を急いだが、追い掛けて来た何建華の親族に捕まり、殴る蹴るの暴行を受けた後に、長豊派出所の警官に引き渡されて逮捕された。

【8】賈敬龍は“故意殺人罪”で起訴された。賈敬龍の裁判は、2015年11月24日に“石家荘市中級人民法院”で一審判決が下され、賈敬龍に対し故意殺人罪により死刑、政治的権利の終身剥奪が言い渡された。これを不服とした賈敬龍は“河北省高級人民法院”へ控訴したが、2016年5月17日に河北省高級人民法院が下した二審判決は、「控訴棄却、原判決維持」であった。こうして、賈敬龍の死刑判決は確定した。河北省高級人民法院は8月31日付で最高人民法院宛てに賈敬龍に対する死刑判決の承認を求める文書を提出した。これを受けた最高人民法院は、10月18日付で賈敬龍に対する死刑判決を承認した。この結果、賈敬龍の死刑執行はいつでも可能となった。死刑は最高人民法院の承認が出てから数日中に執行されるのが通例である。

死刑執行の停止を求める

【9】一審、二審を通じて賈敬龍の弁護団は、種々の論点から刑の軽減を求めたが、石家荘中級人民法院も河北省高級人民法院も弁護団が提起した意見を一顧だにせず、検察側の意見を全面的に採用して死刑判決を下したのだった。論点の概要は以下の通り。

(1)殺害された何建華は2度の刑罰を受けた前科者であり、服役後に北高営村党支部書記、村民委員会主任になった人物である。権力を笠に着て、男を騙し、女に手を出すなどして村民たちを苦しめており、かつて人妻にちょっかいを出して、その夫に十数カ所も切られたこともあった。そんな人物だから、ならず者を組織して賈敬龍の家の違法な取り壊しを命じたのは何建華と考えられる。

(2)賈敬龍の父親が脅迫されて署名した「家の立ち退き協議書」は内容から判断して違法であり、それを根拠に家を強制的に取り壊したことは犯罪行為である。その結果として、家を失い、恋人を失い、結婚を逃した賈敬龍は、精神的に追い詰められて犯行に及んだものである。その境遇には同情すべきものがあると判断するので、情状を酌量し、法の公平の観点から刑の軽減を要請する。

(3)何建華の襲撃後、賈敬龍は自首するために車で長豊派出所へ向かっていた。ところが、何建華の親族に捕まったため、自首することができなかった。彼が逃亡する積りだったならば、別の方向へ車を走らせたはずで、自首する意向であったことは明白である。

【10】10月21日、賈敬龍の姉の“賈敬媛”は、最高人民法院ならびに河北省高級人民法院に宛てて「賈敬龍故意殺人事件死刑執行停止申請書」を提出し、改めて賈敬龍の弁護団が裁判で述べた意見を提起して賈敬龍に対する死刑執行の停止を求めたのだった。

 事件の経緯が長くなったが、10月18日に最高人民法院が賈敬龍に対する死刑判決を承認したことは、賈敬龍の弁護団からメディアに伝えられた。賈敬龍に同情的なメディアが賈敬龍の死刑執行が近いことを報じると、世論は賈敬龍に対する死刑判決の是非を巡って大きな盛り上がりを見せ、多数の法学者や弁護士がネット上で賈敬龍の死刑執行停止を求める嘆願書の署名運動を展開した。嘆願書の内容は以下の通り。

 賈敬龍は罪がないのに大きく傷つけられたことにより殺人に及んだものであり、自首する積りであったし、罪のない者を傷つけてはいません。社会の矛盾がますます激しくなっている今日、賈敬龍の一命を留め、怒れる者たちに罪のない者を傷つけないことを覚えさせ、我慢できない者たちには自首する道を残すべきです。
 我々は最高人民法院に賈敬龍に対する死刑判決の承認を撤回するよう強く要求します。
 添付は友人ならびにネットで賛同した人々の署名です。
「殺すべきではない」89%

 本稿を執筆している10月24日の時点では、賈敬龍の死刑が執行された形跡はないが、最高人民法院が一度は承認した死刑判決を覆すことはあるのだろうか。中国のニュースサイトが実施した「賈敬龍の死刑執行」に関する三択アンケート調査の結果は、(A)の「殺せ。さもないと、さらに多くの役人の殺害が誘発されるし、誰も立ち退きの仕事をやらなくなる」を選択したのはわずか3%に過ぎなかった。(B)の「殺すべきでない。さもないと、さらに多くの法律を信じず、武器を信じる人々が類似の犯行に走る可能性がある」を選択したのは89%、(C)の「判断が難しく、分からない」は6%で、圧倒的多数が(B)を選択した。

 以上から分かるように、賈敬龍を第二の楊佳と呼ぶのは、賈敬龍に対して気の毒だと思うが、両者に共通するのは職権を笠に着て横暴を極める権力者に報復したことだろう。楊佳は警官6人を殺害したから死刑は当然だと思うが、賈敬龍は前科2犯の悪質な村役人を1人殺害したに過ぎない。内蒙古自治区“公安庁長(警察庁長官)”の“趙黎平”は、2015年3月に37歳も歳下の情婦を拳銃で射殺した故意殺人罪、銃器不法所持罪などで起訴されたが、2016年6月に行われた秘密裁判で下された判決は“死緩(死刑執行猶予)”であったと言われている。中国ではこの類の「官僚に甘く、庶民に厳しい」判決が下される例は枚挙にいとまがないが、中国共産党中央委員会総書記の“習近平”が標榜する法治国家を目指すのであれば、少なくとも法は万民に平等かつ公平でなければならないはずである。

 殺害された何建華のように村党委員会書記兼村民委員会主任として村を私物化し、私腹を肥やす村役人は、全国各地にはびこっている。それにしても前科2犯の人間がどうやって村役人のトップになれたのだろうか。それはともかく、賈敬龍の死刑執行が停止され、死刑判決が見直されることを期待するものである。


このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/102600071  

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