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【社説】
米を巻き込む代理戦争の舞台、イエメン 米がミサイル攻撃の応酬、背後にはイラン
米ミサイル駆逐艦「ニッツェ」がイエメンのフーシ派制圧地域にあるレーダー施設を爆撃した
2016 年 10 月 14 日 18:29 JST
ホワイトハウスは米市民に気づかれたくないようだが、中東で渦巻く戦争のうねりは収まったわけではない。今週、米海軍はイエメンでの激しい戦闘に加わった。米国の戦艦が攻撃されたのを受け、別の戦艦がレーダー施設に向けてミサイルを発射した。オバマ大統領は米軍撤退がこの地域に平和をもたらすと約束したばかりだが、逆に引き戻されることになった。
米軍は駆逐艦「ニッツェ」から巡航ミサイル「トマホーク」を発射し、イエメンの反体制シーア派武装組織「フーシ派」の拠点とされるレーダー施設3カ所を破壊した。フーシ派は否定しているが、9日に公海でパトロール中の米駆逐艦「メイソン」に向けて複数のミサイルを発射したのはフーシ派だと米国防総省はみている。単なる威嚇射撃ではなかった。迎撃ミサイルなどで積極的に防御しなければ、メイソンの数十人の乗組員が危うく犠牲になるところだった。
国防総省のピーター・クック広報官は13日のニッツェによる攻撃について「われわれの人員や船舶、重要な海上通路における航行の自由を守るために実行された、限定的な自己防衛の攻撃」だと説明した。別の言い方をすると、海軍兵士を守り、フーシ派の爆撃を阻止するために米国ができる最低限の措置であるとのことだ。われわれはその効果に期待したい。
しかし、話はここで終わらない。フーシ派はイランの息がかかったシーア派武装組織の1つで、事実上のクーデターによりイエメンで制圧した地域を守るために戦っている。一方、サウジアラビア主導の連合軍は、スンニ派の前政権が首都サヌアの実権を取り戻すことを狙っている。
米国は情報面や武器提供などでひそかにサウジを支援してきた。しかし、サウジ率いる連合軍とイランが支援するフーシ派との戦いは互いに一歩も引かない状況が続いている。米艦メイソンに発射された巡航ミサイルは、イランの影響下にあるレバノンの武装組織「ヒズボラ」が使っているのと同じものだった。
イラン核合意の皮肉
米政府がこうした構図を認めることはないだろう。そこに含まれる皮肉が注目すべきものだからだ。オバマ大統領がイエメン問題でサウジを支援する理由の1つは、サウジが反対していたイランとの核合意には踏み切ったが、依然として米国は彼らの味方であると念を押すためだ。オバマ氏の考えでは、核合意によって中東の覇権へのイランの野望が弱まり、米国はイラン・サウジ両政府の仲裁役を果たせるはずだった。しかし現実にはイランは一段とつけあがり、豊富な資金を得て活力を増した。その結果、米国はイランとの「代理戦争」に引きずり込まれつつあるのだ。
先週のサウジによるイエメン空爆は、誤って葬儀会場の民間人を多数殺害する事態となった。ホワイトハウスはオバマ氏がイエメンでの軍事作戦の支援を見直そうとしているとの情報を流している。しかし米軍も各地で同様の誤爆をしている。米国が手を引けばサウジの爆撃の正確さが高まるわけでもない。米国はサウジがイエメンで勝利できるよう、十分な支援を与えるべきだ。
ここで支援をやめれば、サウジとの長年の信頼関係へのさらなる裏切りとなる。イランの指導者はそれをサウジに一段と攻勢をかけてよい合図と受け止めるだろう。あなたが中東はすでに面倒なことになっていると思うなら、スンニ派のジハーディスト（聖戦主義者）と過激なシーア派兵士がサウジの油田をめぐって激しく張り合う状況を想像してみてほしい。
オバマ氏は2年前、イエメン問題への米国の対応を暴動鎮圧のモデルと呼んだ。しかしその後、シリアやイラクと同じくイエメンも悲惨な内戦に陥り、中東の覇者を目指すイランの軍事作戦の新たな前線と化した。
オバマ氏は大統領選のさなかに、あるいはホワイトハウスを去るときに、国民にこの状況を悟られたくないのだろう。米艦へのあからさまな戦争行為にオバマ氏が静かに対応したのは、そうした理由もある。われわれは、現大統領が後任者に残す一段と厄介な問題としてイエメンから目が離してはならない。
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