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池内紀 著『カ フ カ の か な た へ 』
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投稿者 中川隆 日時 2020 年 2 月 29 日 01:44:47: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 


カフカのかなたへ (講談社学術文庫) – 1998/1
池内 紀 (著)
https://www.amazon.co.jp/カフカのかなたへ-講談社学術文庫-池内-紀/dp/4061593145


池内紀 著『カフカのかなたへ 』
有村隆広


カフカ研究者 に限らず文学研究者 は ともするとひ とつの解釈 にかたよ りが ちである。

その結果その作家像につ いての一面的な面が強調 して解釈 され, その全体像を把握するこ とが困難 になって くる。 カフカ文学の解釈 についても, 宗教的 ・神学的 なもの, 心理学的な解釈, マル クス主義的 ・社会批判的 な方向を有す るもの, 実存主義的 ・存在論的解釈, 伝記的資料に基 く解釈等 と多岐にわたる。

このよ うな解釈の氾濫に対 し, 著者は,「 カフカ解釈 はごまんとあるが, カフカ自身
は, どのよ うな特定の解釈 を願 ったわけでもない」 と述べている。 正解 である。 つまり, ものを書 く人の立場 に立ってカフカを理解 しよ うとしてい る。 そ してその結論を,あ とが きの中で次の ように述 べている。 「一方的な解釈は二の次, 作品にもどって 自分の目でたのしむこと。そのお もしろさと豊かさを, なるだけそこなわないように書いてみたい。」著者はこの方針 を本書のなかで見事 に実行 している。

本書 は16章(16の 項 目)か ら成 りた っている。

「窓の男」,「八つ折 と四つ折」,「動物物語」,「だまし絵」,「変身譚」,「失踪者」,「二等兵フランツ」,「『事実』 について」,「中庭の門」,「悪の考察」,「ヨーゼフ ・Kの 罪」,「掟の門」,「工区分割方式」,「眠 りについて」,「食べない男」,「生命の樹」。 これ らはカフカの主要作品 をほゞ年代順 に論 じた も
のである。

これ ら16の 章 のなかでカフカ文学 に とって特徴的 と思われる ものを9項 目にわたって紹介 し, かつ論評 してみたい。

「窓の男」 は主 としてカフカの初期 の短編 『観察』 を中心に して論 じている 。それ ら の短編 の表現法 に著者 は着 目し, カフカは しば しば副次的人物 を脇役 として使 っていることを指摘する。それ らは普通登場人物 の口を通 して語 られるだけで舞台には姿を表わさないが, まるで見えない神の代理人のよ うな力で登場 人物 の運命 を左右 している, と述べる。

これはカフカの物語技法の特徴 を鋭 く見抜いている といえる。 「八つ折 と四つ折」 で, 著者 はカフカの執筆方法 について触 れている。 最初に断わっているよ うに, それはカフカが どの ようにして小説 を書 いた か とい うこ とではなくて,どんな筆記用具でどんな原稿用紙 に書 いたか, とい うことである。その際, 著者 はマー コム ・パス リイの研究 を引用 しなが ら,「 つ まり, きわめて具体的な執筆条件, た とえ ばどこで書いたか, そのときいかなる文房具 を使 ったか, といった ことが, カフカの場合, 書 かれた ものの規模 と内容に とって, とくに重要 な意味を もってい る」 と述べ る。

著者 は等身大 のカフカと素直に向き合 っている といえよ う。 「だまし絵」では, 著者は小品 『隣人』 を分析 の対象 として とりあげ, カフカの他の作品 と同 じよ うに, この小品 も, その叙述が 「私」の視点で語 られている, と述べている。つ まり 「語 り手 と主人公 との視 点の一致」 について論 じている。

カフカの物語技法に対す る著者の関心の高 さをこの章 でも感 じさせて くれる。

「変身譚 」の対象は当然のこ となが ら 『変身』 である 。

著者は, グレゴール ・ザムザ の変身その ものだけが問題 となっているのであれば, 物語はは じめの一頁です でに終 っ ている, と述べ る。 しか し, 事実 はそ うではな く, グレゴールの変身 とともに, それに 合わせてザムザの家族や身辺の もの もしだいに変化 してい くこと, す なわち 「変身」 してい く点に 『変身』のお もしろ さが あることを指摘 して している。


「失踪者」 の章では主 として二つの ことが論 じられてい る。 そのひ とつは長編 『失踪者』 の題名 についてである。 この小説 についてはマックス ・ブロー トが名付 けた題名 『アメ リカ』 が長年用い られていたが, 小説の内容 からみてもやは り 『失踪者』 とい う題名 がふさわしいことを, 例を挙げて実証 してい る。

他のひ とつは主人公のカールの性格 が作者 のカフカに似てい ることを指摘 しているこ とである。 このよ うな分析の仕方は, 著者が日頃作者の カフカとその作品を同 じ視点から眺 めていることを意味す る。

「二等兵 フランツ」 のなかで, 著者は カフカと社会 との関係を論 じている。 カフカは第一次世界大戦のことを日記 ・手紙のなかではあま り触れていない。それゆえに冷淡な態度 をとっているように見 える。 しか し本 当の ところは人一倍の関心を寄せていたのではないか, と推論 している。

そしてカフカはナチス時代の亡命作家 に先 だつ 「もつとも初期の国内亡命者」である, と述べる。 「『事実』 について」 では, 著者は小品 『皇帝の倫 旨』,『狩人 グラックス』などの例を挙 げなが ら, カフカは しば しば事実を書 く作家であることをを論証す る。 カフカの文章はアレゴリー, パラーベルに満 ちている。それゆえに読者 はともす るとカフカの主人公たちの活躍する舞台は別次元の世界 ではないか, と錯覚する。そのような錯 覚を是正する意味で も本書 は再読に価する。

「工区分割方式」 で, 著者はカフカの物語の展開, すなわちス トー リーの展 開の仕方に注 目する。短編 『田舎医師』 を例 に挙げて, カフカの小説は ドアーつ で物語が思いがけな く移 り変わることを指摘す る。そ して ドウール ズとガタ リがこれ らの現 象をカフカの物語技法の 「驚 くべき地形学」, と呼 んでいることを紹介す る。

「眠 りについて」 はカフカの最大の長編 『城』 について論 じたものである。

ここでは 『城』の作品構造,『城』のモデル, Kの 眠 りについて論 じているが, 後 の二つ について紹介 してみたい。

著者 はヴァーゲンバ ッハの研究 を引用 し,『 城』 のモデルはカフカの
父の里であるボヘ ミアの村 ヴォセクではないか, と述べ る。 またKの 行動 は ユダヤ正統派の伝統 に住 みつ く試みであるとい う説 を紹介する。このよ うな指摘 は著者 がカフカ文学における伝記的背景, ユダヤ人 としてのカフカの存在 を重視 している証拠で もある。 Kの 眠 りについて論 じる場合, 著者は 「眠 りは短い死。死 は長い眠 り」 とい うことわざを紹介す る。城の村 に着いた夜Kは 眠 りこけたが, それは一連の 「短 い死」 の幕 あけであ り,『城』 には くり返 し眠 りが出て くることを指摘 する。さらに村の レス トラン「紳士荘」での農夫 たちのダンスは 「死 の舞踏」ではないか と分析する。そして村 のなかでのKの さす らいは死の形象でいうどられていることを指摘す る。

この章 で著者 はカフカ文学の深みに さりげな く踏 み込んだ といえる。

16章 のなかで9章 の内容について論 じてみた。確かに著者はカフカの 「お もしろ さと豊か さ」 を楽 しみながら書 いている。 したがって読む人 も安心 して気楽 に読 める。その
意味ではま さしくエッセーである。

しか し本書は単なるカフカについてのエ ッセーではない。それぞれの章 が著者の鋭 い分析の もとに構成 されている。また著者 はそれぞれのテーマについての文献は殆 んど読破 しているものと思われ る。16章 の内容はカフカの物語技法 をは じめとしカフカ文学 についてのほゞすべてのテーマな らび に問題点 について触れている。

したがって本書はエッセー とい う名 を借 りた総合的なカフカ論 である といえる。 ともす ると学的体系 にのみ心を奪われがちな研究者に とって も, またこれからカ
フカを研究 しょうとす る人 にとって も必読の書 である。(青土社1993年)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/dokubun1947/93/0/93_0_149/_pdf  

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コメント
1. 中川隆[-13360] koaQ7Jey 2020年2月29日 01:52:45 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[159] 報告
カフカのかなたへ (講談社学術文庫) – 1998/1
池内 紀 (著)
https://www.amazon.co.jp/カフカのかなたへ-講談社学術文庫-池内-紀/dp/4061593145

内容紹介

20世紀の悪夢を予兆した作家として、第2次大戦後に爆発的なブームが生じたユダヤ人作家カフカ。その明晰透明な表現法は、リアルでありながら大きな謎をはらんでいて、これまでさまざまな解釈がなされてきた。著者は性急な意味付けをしりぞけ、カフカの文学は、たぐいまれな想像力による読んで楽しい〈大人のためのメルヘン〉であると説く。作品そのものに即してカフカの魅力の源泉を語った好著。


内容(「BOOK」データベースより)
二十世紀の悪夢を予兆した作家として、第二次大戦後に爆発的なブームが生じたユダヤ人作家カフカ。その明晰透明な表現法は、リアルでありながら大きな謎をはらんでいて、これまでさまざまな解釈がなされてきた。著者は性急な意味付けをしりぞけ、カフカの文学は、たぐいまれな想像力による読んで楽しい「大人のためのメルヘン」であると説く。作品そのものに即してカフカの魅力の源泉を語った好著。


著者について

1940年兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者。著書に

『諷刺の文学』(亀井勝一郎賞)『ウィーンの世紀末』『ザルツブルク』『恋文物語』『悪魔の話』『少年探検隊』『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)『幻獣の話』『ぼくのドイツ文学講義』『とっておき美術館』『見知らぬオトカム』など、編訳に『カフカ短編集』『カフカ寓話集』、講談社学術文庫に『モーツァルト考』がある。


カスタマーレビュー

Amazon Customer 5つ星のうち5.0
ウィトゲンシュタインとカフカ

カフカがどのようにして書いたのか、つまりどのような紙に、どのようなペンで、どこで、いつ?とか、カフカの言う「工程区分方式」の意味などについての解説がよかったです。

カフカは「錬金術師通り」でせっせと小説を書いたこともあったようで、自作の「予見性」を信じていたこと、結果として予見的であったことなど、心理学、とりわけユング派の人々が研究してみたくなる気持ちがよくわかりました。
(ユングの言う「錬金術」の意味を是非調べてみてください。)

さらにユングからは離れるんですが、僕が特に興味深かったのはウィトゲンシュタインとカフカの比較です。長編「城」は「測量士」からの視点で語られますが、著者は、「カフカはあきらかにある精神風土の測量をした。(p.190)」、と言います。(測量士らしい仕事はいっさいしません。)

カフカ曰く、「私はたえず、伝え得ないものを伝えること、説き得ないものを説くことを試みた」「伝え得ないものは、言いあらわすすべがない。言いあらわすすべがないからこそ、伝えられようとしてもがいている。」さらに「沈黙は完全さの属性である。」

ここでウィトゲンシュタインを引用してしまうのは性急でしょう。興味がある人は本書を読んでもらうしかないです。厚くはないですが、ウィトゲンシュタインの言葉も引きながら比較しているので是非ですね。(p133、179など)

有名な比較なのかな、と思って「kafka wittgenstein」で検索したらやたら出てきたので、多分有名なんだと思います。日本語の本はあるのかな。ただ一般人としては比較の視点だけ知っていて、あとは自分で読んだらいいと思うので。


_____


TaroTaro 5つ星のうち5.0
読んで楽しいカフカの作品論

ドイツ文学者でありカフカの研究家として有名な著者による、カフカの作品論…というか作品の楽しみ方を記した本である。よって、カフカの人物像については作品に関係ある事柄以外はほとんど触れていない。

カフカの作品は、文章自体は明瞭でも、その内容はかなり難解で不可思議であることから、さまざまな解釈がなされているのだが、著者はカフカの作品は「大人のためのメルヘン(おとぎ話)」であると説く。しかし、あとがきで「でもネ、やはり作品にもどって、自分の目でたのしむのが第一ですよ」と記しているとおり、押し付けがましいところは全くなく、“こういう読み方もありますよ”という感じである。

研究者が書いた難しい学術書というよりも、日本一のカフカ作品の愛読者による、“読んで楽しい作品論”である。講談社の学術文庫からの発売なので、文庫本としては多少高いが、千円以下でこういう作品が手に入るのはありがたい。

この作品とは関係ないが、著者が訳したカフカの作品は、直訳調ではなく大意に合わせた非常に読みやすい訳文で素晴らしいものである。岩波文庫から出ている「カフカ短編集」「カフカ寓話集」が値段も手頃なので是非読んでみてほしい。と書いてみたが、この「カフカのかなたへ」を手に取る人はこれらの作品はもう読んでいるのだろう…。

_____

中島弘貴 5つ星のうち4.0
カフカのかなたへ

岩波文庫の『カフカ短篇集』、『カフカ寓話集』の訳者による、カフカについて記された本。

作品を中心に、カフカの人生の片鱗が語られる。それらの作品の謎を紐解くようでいて、その実、新たな謎が加えられる。結果として、謎は深みを増し、カフカの作品にさらなる魅力が付与される。しかも、それらは少しも押しつけがましいところがなく、この書を読み進めるうちに自ずと喚起されるのだ。

池内さんの、カフカと彼の作品に抱く愛情が伝わってくる気がした。

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