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労働者にも地方にも日本には「自立」が必要だ 解決不能な問題はない 新人3割3年30年間 帰国後2年で退職 成長の決意表明
http://www.asyura2.com/17/hasan121/msg/268.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 4 月 20 日 19:01:08: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

【第16回】 2017年4月20日 ちきりん
労働者にも地方にも日本には「自立」が必要だ

ロバート・アラン・フェルドマン×ちきりん(4)
ロバート・アラン・フェルドマンさんとブロガー・ちきりんさんの対談も、いよいよ最終回。今回は、昨年から議論が続く「過労死」の問題からスタートします。フェルドマンさんは、過労死が注目されればされるほど、本来の働き方改革が進まなくなると言います。それはいったい、どういうことなのでしょうか。(構成/崎谷実穂?写真/疋田千里)


ロバート・アラン・フェルドマン
1970年、AFS交換留学生として初来日。76年、イエール大学で経済学、日本研究の学士号を取得。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経て、98年モルガン・スタンレー証券会社に入社(現・モルガン・スタンレーMUFG証券)。現在、同社のシニアアドバイザー。著作に『フェルドマン博士の 日本経済最新講義』(文藝春秋)などがある。


ゆがめられつつある「働き方改革」とその理由

ちきりん 最近、働き方に関する議論が盛り上がっているのは、昨年大きなニュースになった電通社員の過労死自殺がきっかけだと思うのですが、アメリカでは過労死がニュースになることはあるんでしょうか。

ロバート・アラン・フェルドマン(以下、フェルドマン) あまり聞かないですね。というか、日本で今なぜこんなに過労死が注目を集めているのかが、私にとってはよくわかりません。過労死という言葉は1980年代にも社会問題として取り上げられていました。つまり、その頃から何も具体的な解決策がとられてこなかっただけ。あの事件でいきなり過労死は大変だと騒ぎ出すことには、違和感がありますね。これは私説にすぎませんが、騒いでいる人は労働改革をつぶしたいんじゃないでしょうか。

ちきりん えー、それはまたユニークな見解ですね。労働改革を潰したいから過労死問題を取り上げてる? それってどういうことですか?

フェルドマン あの事件を引き合いに出すと、労働時間の制限が争点になってしまいますよね。もちろん、背景にはいろいろな要因があったのでしょうが、激務が直接的な原因だったとして、現在は「残業を規制しよう」という流れになっています。

ちきりん そう言われればそうですね。もともと労働改革に含まれていた正社員の解雇規制の緩和、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入など、他の施策にはまったく目が向かなくなってしまいました。みんなして残業を減らそうとか、月末の金曜日は早く帰ろうとか、そればっかり。これも誰かがこの事件を利用してのことなんですか?

フェルドマン そうです。現行の制度を維持したい既得権益層が、この事件を利用して労働改革をうやむやにしようとしている、というのが私の説です。

ちきりん それはすごい深読みですね! そんな解釈、フェルドマンさんじゃないとでてきませんよ。ご著書とか、ワールドビジネスサテライトのコメントを聞いていても、フェルドマンさんは日本人でもたどり着かないような深いところまで考えられているので、本当に驚かされます。

フェルドマン 中小企業は一番、労働改革に反対していますよね。ちゃんと規制を守っていないのは、圧倒的に中小企業だからです。でも、槍玉に挙げられているのは大企業ばかり。これはおかしいでしょう。

ちきりん それは昨年からの大きな変化で、最近は大企業ばかりがやり玉に挙げられてます。でもおっしゃるとおり、男女の機会平等や法定休暇の取得、解雇規制でさえ守られていない小さな企業は山ほどあるはず。それを放置して大企業をたたき、社会全体に「とりあえず残業を減らしましょう」運動を起こしている。大企業を叩くとこんなに人気がでるんだと、監督官庁も味をしめてしまったし。
 でも、それにより問題の本質から目をそらすことにもなってしまった。労働改革を労働時間の短縮問題に矮小化することで、「労働時間さえ短くなれば(日本の労働制度には)なんの問題もない」という間違った考え方さえ広まってしまいそうで不安です。

フェルドマン そう考えていると、いつまでたっても成果で評価することができなくなりますよね。そしてそもそも、規制を作ろうとしている官庁は規制の対象外。それはあまりにも官尊民卑、独善だと思います。そうした「官」を利用して儲けている企業もたくさんありますから、どっちも悪いのですが。

ちきりん 官僚の力が強いことで、国全体の改革が遅れてしまっている部分もありますよね。

フェルドマン 公務員の給料が高すぎることも、問題の1つだと思っています。2014年の法人企業統計によれば、企業規模別の1人あたりの人件費は、大企業では平均で709万円。中堅企業では419万円です。これでも差が大きすぎると思うのですが、さらに公務員は1人あたりの人件費が884万円になります。これは2015年度の予算から算出しました。

ちきりん そんなに高いんだ!

フェルドマン 公務員の中でも職種別に差があって、警察官や消防士はそこまで高くないのですが、教員が高い。文科省の白書によると、2014年の公立小中高校の教員は82万人。人件費は8兆8000億円。細かく計算すると、教員1人あたりの人件費が1000万円を超えるんです。

ちきりん そうそう。教員って共働きの方も多くて、年金額もすごい高かったりするんですよね。

フェルドマン もちろん、よい教員に高い給料を払うのは大賛成です。でも、教員全員が中堅企業の従業員2倍の価値を出しているのかというと、ちょっと疑問だと思います。格差にもよいものと悪いものがあって、公務員でも官庁のトップを務める人たちの給料は、現状安すぎる。大きな仕事をしてもらうために、シンガポールや香港のように高くすればいい。一方で、国の機関が地方に構えている事務所などはそれ自体がもういらないでしょう。

ちきりん 中央官庁の地方事務所って、電話もネットも整備されていなかった頃は必要だったけど、今はもう不要というケースもたくさんあります。でも地方には、公務員以外にまともな職がないという地域もたくさんあるんだと思うんです。
 地方公務員の給料が高く据え置かれているのは、地方の消費底上げのためでもあり、優秀な若い人が都会に流出せず、地方にとどまって就職できるようにするためでもある。いわば地方振興費用として地方公務員の給与は払われている。そこには「仕事の価値に応じた価格」という資本主義のルールは適用されていません。


解決策はやはり道州制

フェルドマン その問題を解決するのに必要なのは、地方分権でしょう。

ちきりん やっぱりそうですよね! 私もさっさと道州制にすればいいのにと思います。チマチマしてみんなで衰退するのを待っていても仕方ない。

フェルドマン 道州制になると、今よりも規模の大きい地方政府ができて、効率がよくなるでしょうね。

ちきりん たとえば北海道。札幌以外は過疎化が進みすぎて、いよいよ鉄道も維持できなくなっています。でもそれって発想を変えたら、新しい交通システムを導入する大チャンスですよね。北海道の地方なんて、車が少なくて道もまっすぐなので、自動運転にはもってこいです。自動運転のミニバスをたくさん導入して各町の間をつなぐとか、国に先駆けてドンドンやればいいんです。
 ほかにも遠隔医療やネット義務教育など、「広すぎて人口密度が低すぎる地域」にこそメリットの大きな最新技術がたくさんでてきています。北海道の小さな町に生まれ、各学年の生徒が数人しかいない学校でも、ネットを通じて最先端の教育が受けられ、待ち時間や移動時間無しで高度な医療が受けられる。そうなれば、そういう地域からも世界レベルの才能が育ってくるし、若者も高齢者も住み続けられる。北海道って今、一番、新技術の恩恵が大きな地域だと思います。

フェルドマン そうですね。

ちきりん 本来、そうしたグランドデザインを描くのは、北海道知事ですよね? 東北だと県が複数あるから、道州制にしないと各県の意見の摺り合わせに時間がかります。でも北海道は1つですから、今だって知事さえリーダーシップを発揮すれば実現可能なはずなんです。なのに何も起こらない。不思議すぎです。もはや国からの補助金に頼っていられる時代じゃないのに。

フェルドマン それは、テキサス州の例が参考になるかもしれません。テキサス州は全米第2位の広さを持つ、メキシコに接した南部の州です。現在エネルギー省長官であるリック・ペリー氏が前の州知事で、彼が州知事を務めていた時期にアメリカの州の中で一番再生エネルギー分野の産業が伸びたんですよ。
エネルギー関係の規制は各州で決まっているので、いくつかの州が集まっている地域で大規模な送電網を管理していますが、テキサス州だけは自分たちだけで管理しています。しかも、テキサス州は風力発電に適した広大な土地をもっているので、州知事の独断で巨大な集合型風力発電所をつくることができます。これは原子力発電所20基分くらいの発電能力です。
(注:MIT Technology Review 2016年11月号によれば、テキサス州における風力発電の年間発電容量は2016年時点で18GWであり、近いうちにさらに数千メガワットを追加するという。原子力発電所1基の年間発電電力量は発電所によりバラつきがあるが、しばしば1 GWと言われる。)

ちきりん 原発20基分とはすごい。そういう改革が北海道でもできるはずですよね。

フェルドマン でも一方で日本は、知事がなにか新しい動きをしようとすると、中央官庁が許可をしないというケースもあります。中央官庁としては地方を弱くさせたほうが得なので。

ちきりん 鶏が先か、卵が先かという話になりますが、中央官庁は地方自治体なんてあまりに頼りないから予算も権限も任せられないと言うんです。たしかにその通りで、特に地方議会のレベルはヒドい。でも、まずは任せないと人は育たないです。失敗も愚策も含めて、任せて初めて成長が始まる。

フェルドマン 育てる意志があれば、任せると思いますけどね。そうでないのが問題です。

ちきりん 前回の、「国が国民を守るのは、いいことのように見えて実は自立させないようにしてしまっている」という話と同じですね。

フェルドマン そう。親だったら自分の子どもが「宿題が解けない」と言ってきたときに、自分で解いてしまうようなことはしないでしょう。中央官庁にとって、地方は子どもではなくペット。リーダーシップを発揮させないで、自分の力を強めようとしているのです。

ちきりん そうかー、前回も思いましたが、この「自立妨げ問題」は本当に根深い問題ですね。このままでは日本人は、益々「お上頼み」になってしまう。

「留学」による人材交流が、国も企業も発展させる

ちきりん 最後に、日本企業の姿勢についておうかがいしたいと思います。日本企業は、いいものを作ったうえで、安売り競争をしようとする。これが不思議だなと。アメリカは「エブリデー ロー プライス」とは言いますが、「いいものを安く」とはあまり言わないですよね?

フェルドマン 日本人は、いいものやいいサービスを提供することに対してプライドをもっていますよね。美徳、と言い換えてもいいかもしれません。それは、今かけているこのメガネを買ったときに実感しました。これは老眼鏡なんですけど、レンズをくるっと上にあげることができるんですよ。

ちきりん 便利ですよね。遠くを見たいときにもメガネを外さず、レンズを回転させるだけでいい。

フェルドマン そのメーカーに海外にも売ってくれるかどうか聞いたんです。そうしたら、海外では売ってないと言う。なぜか。壊れたら直せないから、だそうです。

ちきりん えー、この眼鏡、日本にしかないんですか? しかも、壊れたら直せないという理由で、海外では売らないというのもすごいですね。

フェルドマン これって、すごく日本的な感覚ですよね。

ちきりん ええ。海外だと、なんでいちいちメーカーが直さなきゃいけないの、って思いそう。メーカーは売るだけ、直すのは修理屋の役目と割り切ってる人も多いし。

フェルドマン あるいは、「壊れたなら、もう1つ売ればいいじゃないか」と言うでしょうね。だから、美徳とするところがぜんぜん違うのだと感じました。

ちきりん そうかー。でもその考え方でいくと、ビジネスが拡がらないですよね。

フェルドマン そうですね。また、この会社は海外の市場環境を知らないのだろうな、と思いました。自分の会社のメガネが海外で売れるというチャンスに気づいていない。こんなメガネ、アメリカでは見たことがありません。だから、出したら売れる可能性があるんですよ。

ちきりん そうなんです。先日もほんとに驚いたんですけど、私がツイッターで「京都は日本が世界に誇る古都だけど、実際に京都に行ってみたら「どのあたりが古い日本の町並みなの?」って探し回らないと見つからない。パリやフィレンツェなど、世界の古都とは全く違う」って呟いたんです。そうしたらフォロワーの方から「えっ、パリやフィレンツェって違うんですか? 探し回らなくても古い建物が見つかるんですか?」って質問が来て……。
世界を知らない人が多いのは島国ってこともあるし、移民など海外の人をあまり受け入れないのもその理由なのかな。どこもかしこも日本と同じだと思ってるというか。

フェルドマン そうですね。でも、受け入れるのではなく、送り出すという方向でも、グローバルな感覚を持つ人を増やすことはできると思います。サウジアラビアは、2005年に即位したアブドラ国王が賢明な王様で、その年から国の奨学金で年間約20万人の留学生を送り出してきたんです。これを10年続ければ、サウジアラビアの社会は変わりますよね。実際、かなり変わってきています。

ちきりん サウジアラビアって絶対君主制の保守的な国、という印象でしたけど、そんな取り組みをしてるんですね。

フェルドマン 日本は民主党政権時代に、2兆円を使って「子ども手当」を支給するなどの子育て支援策を実施しました。そのお金を奨学金に使えば、40万人は毎年留学生を送り出せますし、また外国からも受け入れることができるはずです。将来の日本のことを考えたら非常に安いものだと思います。先ほどのメガネメーカーにも留学経験のある人が入社し、「このメガネ、ニューヨークでも売れるかも」「私がインドに行って売ってきます」という展開になることがあり得るはず。

ちきりん たしかにたくさんの移民を受け入れるよりも、日本人をさまざまな国に送り出そうという話のほうが、社会の抵抗感は少ないですよね。それはいい案かも!

フェルドマン 留学生を増やすことは、アメリカにおいてもトランプ政権への対抗策にもなり得ると思っているんですよ。というのも、やはりトランプを支持した選挙区というのは、世界との接点が少ない地域なんですよね。だから、そういう選挙区に支社がある日本企業が、現地の若手従業員や近隣に住む高校生を、日本にホームステイさせる施策をこっそり進めたらどうかなと(笑)。

ちきりん そうかー。トランプ氏支持の人も、世界を知らないから「俺たちはソンばかりしてる。日本や中国がズルイからソンしているんだ」という理屈を信じてしまうのか……。それは興味深い説明です。

フェルドマン 企業が飛行機代を負担して、日本の社員がホームステイの受け入れ先となる。そうすると、受け入れ先の家庭にとっても、すごくいい経験になると思います。留学生を受け入れたり、送り出したりするというのは、即効薬となる施策ではありません。でも、漢方薬のようにじわじわ効果がでてくるはずです。

ちきりん 知らないということは人を保守的にさせますよね。知らないものは怖いですから。知ってしまえばなんてことないことでも、知らない間は近づきたくないと思う。だとすれば、1人ひとりが世界を知ろうとすることが、よりよい未来につながるってことですよね?
 今回は生産性の話から始まって、日本にはびこる「自立を妨げる甘やかし問題」まで、とても大事な気付きをいただけました。これからもぜひまた、いろいろお話させてください。今日はどうもありがとうございました!
http://diamond.jp/articles/-/123925


 


 
【第4回】 2017年4月20日 小西史彦

ビジネスにおいて、解決不能な問題はない。マレーシア大富豪の教え

NHKやテレビ東京、日経産業新聞などで話題の「マレーシア大富豪」をご存じだろうか? お名前は小西史彦さん。24歳のときに、無一文で日本を飛び出し、一代で、上場企業を含む約50社の一大企業グループを築き上げた人物。マレーシア国王から民間人として最高位の称号「タンスリ」を授けられた、国民的VIPである。このたび、小西さんがこれまでの人生で培ってきた「最強の人生訓」をまとめた書籍『マレーシア大富豪の教え』が刊行された。本連載では、「お金」「仕事」「信頼」「交渉」「人脈」「幸運」など、100%実話に基づく「最強の人生訓」の一部をご紹介する。

人生とは「想定外」のものである

 私は、平凡だからこそリスクを取るべきだと考えています。
 ただし、無謀なリスクを衝動的に取るようなことをしてはいけない。しっかりと自分の頭でリスクを量って、命までは取られない範囲でリスクを取らなければなりません。これが大鉄則です。

 とはいえ、人生には想定外のことが起きるものです。

 どんなに事前にリスクを量っても、そのとおりにいくなどということはありえない。いや、むしろ、「想定外」のことが起きるのが人生である、というのが正しいでしょう。特に、若いころは経験値がないからなおさら危うい。私も、ずいぶんと「想定外」の出来事で痛い目にあいました。

 私は、日本を飛び出してわずか2ヶ月で解雇の憂き目(うきめ)にあったのですが、その背景には国家レベルの異変があった。まさしく想定外。私の努力でどうにかできる問題ではなかった。いよいよ海外雄飛(かいがいゆうひ)と勢い込んでいるときに、とてつもないアクシデントに見舞われたのですから、大きなショックを受けたものです。

 ことのきっかけは、国立マラヤ大学留学中にさかのぼります。

 当時、ご縁があって、シンガポール在住の若い華僑の経営者と知り合いました。シンガポールまで会いにいくと、彼のマンションに泊まらせてくれたうえに、あちこち案内してくれるなど、ずいぶんと親切にしてもらいました。

 その後も、何度かシンガポールまで彼に会いに行って親交を深めるうちに、彼が「小西、お前うちにこないか?」と誘ってくれました。日本の有名なメーカーとシンガポールに合弁会社をつくって、新しいビジネスを立ち上げたので、そこの社員として働いてみないか、という誘いでした。

 これは、私にとっては願ったり叶ったりの誘いでした。なぜなら、マレーシアに住みたいと思っていましたが、日本の大企業の駐在員でもない私にワークパーミット(就業許可)が下りるはずがなかったからです。しかし、彼が日本メーカーとつくる合弁会社の社員になれば、シンガポールでのワークパーミットは取れると考えたわけです。

何事も「中途半端」に終わらせてはならない

 彼の誘いに乗った私は、国立マラヤ大学の留学を終えると日本に帰国。日本メーカーで技術研修を受けたうえで、シンガポールへ移住する準備を進めていました。ところが、当時は気づきませんでしたが、このころからすでに異変の予兆がありました。

 日本メーカー本社から、シンガポールの工場に送り込んだ機械がどうしてもうまく動かないという連絡が入ったのです。そして、私は、まだ正式に社員として採用されていたわけではありませんが、入社するという前提で、その機械を製造した和歌山の企業と調整をしてほしいと依頼されたのです。

 そこで、私はさっそく和歌山まで飛んで、機械をつくった会社の社長とともに、シンガポールから続々と届く「あれが不具合」「これが不具合」というクレームを受けながら、あれこれと調整を続けました。しかし、それでも機械はまったく動いてくれませんでした。

 弱り果てていると、日本メーカーの社長に呼び出されました。
 そして、こんな言葉を投げかけられたのです。
「小西君、機械が動かないのでは、君も進退きわまったな」
 つまり、機械が動かなければ、合弁会社は倒産させるしかない。私の就職先そのものがなくなる、というわけです。機械が動かないのは、私の責任ではありません。にもかかわらず、いきなり前途に暗雲が立ち込めたのですから、唖然(あぜん)としました。歯を食いしばって、黙っているほかありませんでした。

 すると、社長はこう問いかけました。
「どうする?」
 若かった私も、ピンと来ました。社長は、「シンガポールには行かない」という返事を求めている、と。しかし、私は仕事を中途半端に終わらせることに抵抗があった。それに、なんとしてもシンガポールに渡りたかった。だから、こう応えました。
「それでも行きたいと思います」

「自発性」を励ますものは「自発性」しかない

 社長のもとを辞したその足で、私はそのメーカーでトラブルになっている機械の輸出を担当した輸出部の部長に会いに行きました。すると、彼はこう言いました。
「小西君、これはマーケットクレームだよ」

 マーケットクレームとは貿易用語で、契約をしてからマーケット環境が不利になった場合などに、買い主が損害を少なくするために、通常なら問題とならないような些細なことにクレームをつけることを指します。実際に機械が動かないのだから、マーケットクレームには当たらないだろうと、私は怪訝(けげん)に思いました。しかし、これは慧眼(けいがん)だったと、のちに思い知らされることになります。

 ともあれ、私は和歌山の製造会社の社長にことの次第を報告。

 彼はたいへん意気地のある人物でした。話を聞いた彼は、こう熱く語ったのです。
「俺がつくった機械が動かないとは、こんな不名誉な話はない。必ず動かしてみせる。ただ、俺は英語ができない。だから、小西さん。頼むから、俺と一緒にシンガポールに行ってくれ」

 そのつもりだった私は、もちろん賛成。彼の意欲におおいに励まされました。自発性を励ますのは自発性しかないのです。すぐに準備を整えて、ふたりでシンガポールに飛びました。そして、機械を動かすために悪戦苦闘。私には機械のことがよくわかりませんから、通訳も一苦労でした。しかし、社長は一流の技術者だったし、なにより自分がつくった機械ですから、試行錯誤の末に機械は無事に稼働。これで局面が変わると疑いませんでした。

 しかし、その後すぐに工場の閉鎖が決定。私は、正式に採用されてはいましたが、給料はいっさい支払われないまま解雇されることになりました。

 何が起こっていたのか――。

 それを知ったのは解雇された後のこと。シンガポールがマレーシア連邦から離脱。マレーシアがシンガポールからの輸入品に高率の関税をかけることになったのです。これで、合弁会社が目論んでいたビジネスの最も重要なファンダメンタル(基礎的な条件)が消し飛んでしまったのです。

 シンガポールでつくった製品を、マレーシア全土で販売するはずでしたが、それに高額の関税を課せられるとなるとビジネスとしてまったく成立しません。機械が動いたところで意味がないわけです。そして、合弁会社をご破算(はさん)にせざるを得なかったのです。

 しかし、私にとっては青天の霹靂(せいてんのへきれき)。まったくの想定外でしたが、おそらくシンガポール現地では、その政治動向を察知していたのでしょう。だから、工場の稼働をできる限り先延ばしにするために機械のトラブルを利用した。マーケットクレームと指摘した輸出部長は、非常に洞察力があったということです。たいしたものだと、いまも思います。

ビジネスで「解決不可能」な問題はない

 当時は、暗澹(あんたん)たる思いでした。
 工場が閉鎖された1ヶ月後に、結婚したばかりの妻がシンガポールに来ることになっていましたが、解雇されたことは言うに言えませんでした。そして、当日、飛行場に迎えにいくと、妻は綺麗な和服を着てタラップを降りて来ました。その姿に、彼女の異国で生きていく決意を見る思いがして、「申し訳ない」という気持ちでいっぱいになったものです。

 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。合弁会社のシンガポール側の社長が「申し訳なかった」と謝罪したうえで、知人の華僑の経営者を紹介してくれました。その会社に日本の染料メーカーの代理権を取らせて、私にマレーシアでの日本製染料の営業をさせるように交渉してくれたのです。日本の染料メーカーも「小西がやるなら」と了解してくれました。こうして、私は「想定外」のアクシデントをなんとか乗り越えることができたのです。

 これが、私の人生の船出でした。

 このように、人生には想定外のことが起きるのです。未来のことは誰にもわからない。どんなに慎重にリスクを量っても、想定外の事態に巻き込まれるのが人生。だからこそ、先ほども言ったように、最悪の事態が生じても生き残る術を確保したうえで、リスクをとらなければなりません。私の場合であれば、当時はまだ若かったし、薬剤師の免許をもっていた。だから、いつでも海外から撤退できるという余裕がありました。

 ただ、想定外のことが起きたからといって、すぐに撤退しているようでは何事も成し遂げることはできません。 
 私にも、「進退きわまったな」と言われたときや、工場閉鎖が決まったときに、撤退する選択肢はあった。しかし、私はそんなことは考えもしませんでした。それよりも、「目の前」の問題を解決するために全力を尽くしました。これは、意地のようなものかもしれません。そういう性格なのでしょう。

 しかし、私は、だからこそ自分なりの人生を切り拓くことができたと思っています。
 想定外のトラブルに巻き込まれても、その不運を嘆いたり、将来を案ずるよりも、とにかく「目の前」の問題解決に全力を尽くすことが、未来を切り拓くことにつながると思うのです。将来を心配し始めればきりがない。そして、いくら心配したところで、事態は一向に変化しないのです。であれば、「目前の問題」に集中すべきです。

 私は、ずいぶん長くビジネスの第一線で生きてきましたから、数えきれないほどの想定外のトラブルに見舞われてきました。そうした経験を踏まえて断言できるのは、ビジネスにおいて解決不可能な問題はない、ということです。ビジネスは生易しいものではありませんが、しょせん人間同士の営みです。そこに、解決不可能な問題はないと思うのです。その証拠に、いまここに私はピンピンして生きている。「目前の問題」に全力を尽くせば、必ず解決策は見つかるのです。

「今」に集中すれば「未来」は拓かれる


小西史彦(こにし・ふみひこ) 1944年生まれ。1966年東京薬科大学卒業。日米会話学院で英会話を学ぶ。1968年、明治百年を記念する国家事業である「青年の船」に乗りアジア各国を回り、マレーシアへの移住を決意。1年間、マラヤ大学交換留学を経て、華僑が経営するシンガポールの商社に就職。73年、マレーシアのペナン島で、たったひとりで商社を起業(現テクスケム・リソーセズ)。その後、さまざまな事業を成功に導き、93年にはマレーシア証券取引所に上場。製造業やサービス業約45社を傘下に置く一大企業グループに育て上げ、アジア有数の大富豪となる。2007年、マレーシアの経済発展に貢献したとして同国国王から、民間人では最高位の貴族の称号「タンスリ」を授与。現在は、テクスケム・リソーセズ会長。既存事業の経営はすべて社著兼CEOに任せ、自身は新規事業の立ち上げに采配を振るっている。著書に『マレーシア大富豪の教え』(ダイヤモンド社)。
 もちろん、解決策を見出しても敗北に終わることもあります。
 あのときの私がそうでした。動かない機械をなんとか動かすことに成功したにもかかわらず、シンガポールがマレーシア連邦から離脱したがために、その努力は「無」に帰してしまった。

 しかし、だからこそ、私には次の「道」が与えられたのです。私に染料営業の仕事を用意してくれた華僑経営者は、私に対する「申し訳ない」という気持ちだけで手を尽くしてくれたわけではない。私が、窮地(きゅうち)に陥っても、逃げずに問題解決に全力を尽くした。その姿勢に信頼を寄せてくれたからこそ、手を差し伸べてくれたのです。それは、私が、知人に紹介された若者をサポートするようになって、よくわかるようになったことです。

 たしかに、知人の紹介であればむげにはしません。しかし、それだけで全面的なサポートをすることはできない。なぜなら、サポートした人物に“いい加減”な仕事をされれば、私の信頼までも傷つけられるからです。そのリスクは背負えない。だから、私は必ず、その人物をじっくりと見極めます。

 そして、人物を見極めるひとつの指標が、窮地に陥ったときに、「目の前」の問題解決にどれだけ誠実に向き合うか、ということです。多少、不器用でも構わない。トラブルから逃げずに、全力を尽くす人間は信頼できる。そして、そのような人物には、自然と支援の手が差し伸べられる。人生が切り拓かれていくのです。だから、想定外のトラブルに巻き込まれたことを嘆くのではなく、「目の前」の問題解決に集中すること。これが、「不確実な人生」を生きる基本なのです。

 ちなみに、このことがあって10年ほどたってから、「進退きわまったな」と口にした社長にお目にかかる機会がありました。そのとき、彼はポロッとこう言いました。
「小西君、あのときは君に非常にすまないことをした。君を引き受けるくらいの体力は、当社にもあったんだよ」
 私は、この発言を謝罪だと受け取りました。そして、「いえ、そんなことありませんよ」と軽く受け流しました。これは、本心でした。たしかに、あのとき社員として会社に残してもらえれば、生活は安定したかもしれません。しかし、サラリーマンになるつもりはなかったのだから、それは私の望むところではなかったからです。でも、そう言っていただけたのは、ありがたいことだと思いました。
 いま考えると、あのとき、あのシチュエーションがあったからこそ、私は強靭(きょうじん)になれたのだと思います。「若いときの苦労は買ってでもせよ」と言います。あのときは、苦汁(くじゅう)をなめさせられたと思いましたが、実は、人間として成長するために必要な「苦労」をさせてもらえたということなのかもしれません。

 苦しい状況が人間をつくる――。
 それを、私は身をもって学ばせてもらったのです。
http://diamond.jp/articles/-/124428


 
【第1回】 2017年4月20日 『日本の人事部』編集部

「新卒社員の3割が3年で辞める」はなぜ30年間変わらないのか

大学4年生の春になると企業の合同説明会に足を運ぶ学生が多く見られる
 アベノミクスやトランプ景気の影響で日本経済は好調な様子だ。同時に新卒採用は学生による売り手市場が続いている。少子化による人口減少という環境変化も採用の活況を下支えする。企業の採用意欲の高まりは、採用計画に関する各種調査結果を見ても顕著で、かつてのバブル景気並みの採用難を思い起こさせる。しかしその一方で、せっかく採用した新入社員(大卒者)の3割が3年で辞めているという事実がある。人材不足の状況にあって、どうしてこのような「ミスマッチ」が起きているのだろうか。(『日本の人事部』編集部)

“自社色に染められる”
企業が新卒採用を行う理由

 そもそも、日本ではなぜ多くの企業が新卒者の定期一括採用を行っているのか。その理由は、大きく分けて三つある。一つ目は、企業が成長・発展し続けていくためには、組織の新陳代謝を図らなくてはならないこと。二つ目は、年次管理がベースとなっている日本では人員構成上、ピラミッド組織の維持が必要であること。三つ目は、新卒採用なら安いコストで人材を調達できるうえ、まだ何物にも染まっていないので、自社の価値観(経営理念・組織風土)をしっかりと共有できること。そのため、毎年4月に大量の学生が労働市場に供給されることを前提として、多くの日本企業が計画的な採用活動を行っているのだ。

 しかし世界的に見ると、日本のように新卒一括採用システムを確立している国はまれだ。欧米の大企業では「職種別採用」が基本。また、欠員があった時に募集するケースが大半であり、応募する人材には、募集した職務をこなす能力・スキルをすでに備えていることが求められる。職務未経験の新卒者を一括採用する日本とは、その方針が大きく異なるのだ。

 いずれにしても新卒採用を行う際は、将来の事業展開を踏まえた「計画性」が重要である。経営戦略から導かれた要員計画の下、計画が策定されなければならない。特にベンチャーや中小企業などでは、新卒採用がきっかけで、経営戦略がより具体性のあるものとして言語化され、実践へと結び付いていくことがある。そういう意味でも新卒採用は、経営トップ自らが取り組むべき重要課題の一つと言えるだろう。

入社3年で「3割」が辞める
バブル期から変化がないミスマッチ

 一方で、厚生労働省が発表している「新規学卒者の離職状況」によると、新入社員(大卒者)の3割が、入社後3年以内に最初の会社を辞めている。この状態はバブル時代から変わることなく、1987年以降、「新卒3年目までの離職率」は概ね25〜35%の範囲で推移している。キャリア採用の浸透とともに転職に対する抵抗感が少なくなったことや、転職手段が増え、転職自体が容易になったことなどがその理由として考えられる。その他にも、近年の「ゆとり世代」「さとり世代」と呼ばれる若者の志向の変化や時代背景など、さまざまな見方がある。

 「新卒3年目までの離職率」がバブル時代から現在まで変わらないという事実は、入社した企業が構造的な問題を抱えていること、また、採用選考のあり方に問題があることも同時に示している。なぜこのような採用の「ミスマッチ」が起きてしまうのだろうか。

 実は3年で3割が辞めると言っても、従業員規模によってその状況は大きく異なる。厚生労働省が発表した「新規大学卒業就職者の事業所規模別離職状況」(平成25年3月卒)によると、「新卒3年目までの離職率」は、以下の通りだ。

新卒3年目までの離職率(平成25年3月卒)
採用人数(人)
3年以内離職率
5未満
約6割(59.0%)
5〜29
約5割(49.9%)
30〜99
約4割(38.6%)
100〜499
約3割(31.9%)
500〜999
約3割(29.2%)
1000以上
約2割(23.6%)
 従業員規模が小さいほど「新卒3年目までの離職率」が高い。大企業志向(安定志向)は依然として強く、「待遇の良さ」を求める傾向は今も昔も変わらない。

本音の退職理由は「キャリアの成長が望めない」
就職情報サイトを鵜呑みにする学生

 しかし1000人以上の大企業でも、新規学卒者の2割が3年以内に辞めているのは事実。この問題を解決するには、「ミスマッチ」が起こる原因を追求しなくてはならない。まずは、新入社員の退職理由の“本音”を聞く必要があるだろう。

 企業の口コミサイト「Vorkers」が発表した、新卒入社で3年以内に退職した平成生まれの若手社会人の「退職理由ランキング」(2007年〜2015年に新卒3年目までに退職した元社員から投稿された回答・全627件)を見ると、退職理由で最も多かったのは「キャリアの成長が望めない」25.5%。その後を僅差で「残業・拘束時間の長さ」24.4%が続き、以下、「仕事内容とのミスマッチ」19.8%、「待遇・福利厚生の悪さ」18.5%、「企業の方針や組織体制・社風などとのミスマッチ」14.0%などが上位に挙がっている。

 この結果から分かるのは、「キャリア成長が望めない」「残業・拘束時間が長い」「企業の方針や組織体制・社風などが合わない」など、採用選考の段階で学生に企業の内実をきちんと伝えきれなかったことが退職の大きな理由になっていること。これは明らかに、企業側の「情報開示」の姿勢に問題がある。

 特にインターネットによる就職情報サイトが普及したことで、より顕著になった。就職情報サイトに掲載されている情報は基本的にPRであり、いくら眺めてもその企業の良いところしか見えてこない。企業側が良いところしか出していないのだから当然だが、そのような状況では「自分に合った優良企業」を探し出すことは難しい。

 仮に就職情報サイトで同じように見えても、A社は経営がしっかりしていて社員がイキイキと働いているホワイト企業で、B社は職場にハラスメントが蔓延していて、仕事にやりがいを感じられずに社員がどんどん辞めているブラック企業かもしれない。さらには相性の違いなど、実際に会って本音で話し合わなければ分からないことが、他にもたくさんある。そのような事実を学生に知らせなくて、本当の意味でのマッチングなど望むことはできない。

 人材不足が深刻化する中、企業は学生のエントリー数を増やす必要がある。そのために知られたくない事実を隠したうえで学生のエントリーを煽り、採用選考を進めていくことになる。企業側が情報開示に関してこのような姿勢を取る限り、いつまで経ってもミスマッチが解消されることはないだろう。

 ところで、下記の「新聞広告」を読んだとき、あなたは何を感じるだろうか。

求む男子。至難の旅。
わずかな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。
成功の暁には名誉と称賛を得る。
アーネスト・シャクルトン

 これは、三度にわたりイギリスの南極探検隊を率いた極地探検家のアーネスト・シャクルトンが、南極探検のメンバーを募集するために出した伝説の新聞広告のコピーだと言われている。今ならとても考えられない内容であり、ほとんどの人はエントリーすることもないだろう。しかし、当時はこの小さな求人広告に対して、実に5000人もの応募があったという。あえて、ネガティブな情報を出しているのに、である。このような情報開示の持つ意義と効果・効用を、経営者や人事担当者は、いま一度、考えてみる必要があるのではないだろうか。

(4月25日更新予定の次回に続く)

※次回は採用の「ミスマッチ」を起こさないために、どのように人材を採用し、定着させていけばいいのかを考える。

『日本の人事部』とは
人事に関するあらゆる情報が集まるナレッジコミュニティサイト。全国の経営者や管理職、人事担当者など、人材の採用・育成・マネジメントに携わる方々に向けて最新の企業事例やノウハウを発信することで、HR領域の変革をサポートしている。上場企業・大手企業を中心とする全国の企業が利用しており、月間訪問者数75万人、人事正会員数10万人に及ぶ日本最大のHRネットワークを形成している。
https://jinjibu.jp/
http://diamond.jp/articles/-/125389

 

【最終回】 2017年4月20日 中原 淳 :東京大学大学総合教育研究センター准教授
海外赴任者が帰国後に退職してしまう理由 2年以内に辞める割合は25%


帰国後に退職してしまう海外赴任者は何割?

 企業がグローバル人材育成を行っていく上でのゴールとは、若手や中堅を海外に送り出すところにあるのではありません。海外赴任から戻った帰任者たちが、帰国後もその経験を活かし、グローバルリーダーとして活躍できるようにするところにあります。

 グローバル人材育成とは、採用を含めた初期の育成、そして途中の実務担当者時代のフィードバックや海外赴任の準備、そして海外赴任中と帰任後のフォローまで、人事のプロセスを総動員して人を育てること。

 その意味では、海外赴任者の帰任後というのも、グローバル人材育成を考えるうえでは、重要なポイントとなります。

 みなさんは、海外勤務で大活躍をした方が、帰任後すぐに会社を辞めてしまった、転職してしまった、といった話を耳にしたことはありませんか?

 実は帰任後すぐに会社を辞めてしまう例は、海外でもよくあることのようで、アメリカの研究者 (Lazarova and Caligiuri 2002)が調査を行っています。

 では、ここで問題です。

Q.海外赴任帰任者が、帰任後2年以内に辞める割合は何%でしょうか?
(1)5%
(2)10%
(3)25%

海外帰任者が辞めてしまう理由とは?

 正解は(3)の25%です。

 海外の調査ではありますが、実に4人に1人の割合で海外赴任者が帰任後2年以内に辞めてしまっているというわけです。日本人はそこまで高い割合ではないかと思われますが、同じような傾向は確かにあるのではないでしょうか。

 実は、海外赴任の帰任後というのは、キャリア論では中立圏(ニュートラルゾーン)という時期に当たります。中立圏とは、簡単に言うと「何かが終わる時」と「何かが始まる時」の間の「宙ぶらりんの時期」ということです。

 この時期を過ぎるとまた、新しい環境への再適応ができるようになってくるわけですが、この「宙ぶらりんの時期」というのは、空虚感に包まれ、アイデンティティを喪失し、場合によっては退職の可能性が高まってしまう、人事的には極めて危険な時期なのです。

 海外帰任者は、なぜ辞めてしまうのでしょうか。

 先ほどの調査研究(Lazarova and Caligiuri 2002)によると、「海外に比べて挑戦性のない仕事が割り当てられた」、「海外で培った獲得したスキルが生かせなかった」、「海外に出ている間に昇進機会がなくなった」、「海外のように自立的な仕事を行うことができなくなった」「キャリアが不透明になった」「同僚、本社の人的ネットワークからの離脱」「本国文化への逆適応への失敗」といった理由が挙げられています。また、「同僚からのやっかみ」といった理由もありました。

 どれも、本国で働き続けている人からすれば、「やむをえないこと」ではあるのですが、帰任者にとっては、それがどうしても我慢ならないこととなってくるようです。

帰任者は「自分が小さくなった感じ」になる?

 実際、ダイヤモンド社と中原研究室との共同調査によると、帰任者の60%は裁量の低下を感じ、53%は役職が低下したように感じるという調査結果が出ています。多くの方から出る言葉は「自分が小さくなったような感じ」というもの。

「結果的に離職はしなかったものの、帰任後に『このままでいいのか』という思いが沸き上がった人も入れると、相当数が離職を考えたと思います」と言う方や、「本社に戻ったらいきなり一マネジャーに戻ってしまって、何かガクッていう感じなんだよね」と話す方もいました。

 海外赴任者は、海外でのタフな仕事経験を通して、知識やスキルだけではなく、「新しい視点」を持つようになります。そこで獲得した「新しい視点」は、これまでの慣れ親しんだ「元の職場の風景」を、まったく別の「色あせた風景」に変えてしまう可能性をはらんでいます。

 海外赴任によって、「新しい視点」を身につけることは、有意義なことではありますが、それが帰任後の違和感、失望感につながってしまうこともあるのです。

 また、当然のことながら、「損得勘定してみると、海外赴任をせず、国内で仕事をしていた方が早くいいポジションへ昇進ができてお得だった」という人事システムが出来上がってしまっていたとしたら、人は「合理的選択」の結果として、わざわざグローバルな舞台で活躍しようとはしません。

 人事の仕事として「グローバル人材育成」を行う場合は、帰任後にどれだけ魅力的なキャリアを積めるのか、といったところまできちんと整備しておく必要があります。

 そして、実際に帰任した後には、個別のキャリア面談を施すなど、丁寧なコミュニケーションを図ることが重要です。

 海外赴任は、リーダーシップ開発においても、重要な職務経験の一つとなります。海外帰任者を、将来のグローバルリーダー候補として大切にするという視点も、大事なところではないかと思います。

個人に甘え過ぎていた日本企業

 ここまで5回にわたって、グローバル人材育成のあり方について、様々な視点でお話ししてきました。

 結論として申し上げたいのは、「グローバル人材育成というのは、単に教育研修を行うことではなく、人事の全てのプロセスをかけた試みである」ということです。

「人事の全てのプロセスをかけた試みである」ということは、採用時の見極め、新人育成など初期の育成、そして中堅、実務担当者時代の育成やモチベーション維持のためのフィードバック、海外赴任前の準備、そして渡航中、帰任した後のフォロー…といった一連のプロセスを全てグローバル人材育成の観点で再構築していく、ということです。

 アメリカにおいて、グローバル人材育成の観点で、人事プロセスを再構築していくことが注目されたのは、1980年代のことでした。帰任者の退職という問題が深刻化したためです。

 日本では、なぜこうした問題が大きくならなかったのでしょうか。少し挑戦的な言い方をすると、日本企業は長らく、個人の持つ(1)高度で勤勉な適応学習能力、(2)会社が発動する強力な人事権への諦め、(3)配偶者と家族の献身的な努力、といったものに甘えてきただけなのではないでしょうか。私にはそう思えて仕方ありません。

 グローバル人材育成は人事のプロセスを総動員して人を育てることに他なりません。新たな教育研修を企画する前に、まずは一つ一つの人事プロセスを、グローバル人材育成の観点で見直すところからはじめていただきたいと思います。

(東京大学大学総合教育研究センター准教授 中原 淳、構成/井上佐保子)
http://diamond.jp/articles/-/125453

 

 

【第17回】 2017年4月20日 澤 円 :日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター センター長
グローバル仕事人は「本・Web・会話」をどう活用しているか


知的好奇心を鍛錬するにはうってつけの「読書」。グローバル仕事人は雑誌を読む時に、同じテーマを扱った複数の雑誌を読み比べすると言います
 皆さん、こんにちは。澤です。

 4月も後半を迎えましたが、皆さんは何か新しいことを始めましたか?新生活に戸惑っている方もおられるのではないでしょうか。

 春は変化の時期、ぜひそんな状況も含めて楽しんでください。さて、今回のテーマは、前回に引き続き「自己鍛錬」です。

 今回の鍛錬ポイントは「知的好奇心」です。

 いかにして知性を磨いていけばよいのか、澤なりの考えをお伝えしたいと思います。

「読書」でファン心理や
多様な価値観を理解する

 知的好奇心を満たす代表的な行動は、なんといっても読書ですね。本を読む習慣のある人は、すでに本の取捨選択術はご自身でお持ちでしょうから、こちらは参考までにということで…。

 まずは、紙媒体の「本」を読む場合についてです。私は、紙の本を読む場合、リズムや書籍の選択に非常にムラのある人間です。「月に平均的に何冊読む!」というタイプではなく、気が向いたときはまとめ読みをすることもあれば、気乗りしないと数週間の間一冊も読まないという感じです。

 ただ、本から得る知識というのは他の媒体とは違うように感じています。ですので、まったく読書をしないという状態には陥らないように心掛けており、時間があるときはなるべく書店をぶらぶらと歩いたりします。そして、気に入った本があれば、まとめ買いをしたいすることもあります。その時、本を選ぶ観点にはこだわりがあるのでご紹介します。

・好きな作家の小説・エッセイは迷わず買う

 好きな作家の書籍を買うのは、心の滋養強壮・栄養補給であると思っています。恋愛小説でも推理小説でも歴史小説でもエッセイでも、なんでもOKです。自分が大ファンの作家が文字で紡ぐ世界は、脳内の隅々までを満たしてくれます。他人の書評などは関係ありません。自分が好きなら迷わず買ってしまいましょう(私に言われずとも、そうする人が多いとは思いますが)。

「好きな作家がいない…」という人もいらっしゃいますよね。そんな人は、ぜひ「自分が好きな人がファンである作家」の本を買ってみてはいかがでしょうか?そうすることで、「自分が好きな人が好きな世界観」を体験することができます。

 私は、「ファン心理」というものはビジネスの中でとても大事な要素であると思っています。ファンになれば、自分のモチベーションを上げる原動力にもなりますし、逆に相手のために無条件でサポートしたくなったりもします。こういった心理状態を認識・コントロールすることは、ビジネスにおける成功に大きく寄与すると思います。そのためにも、「好きな作家」に対して投資をする行為は、ビジネススキルアップのための投資と思うことにしましょう。

・いわゆる「自己啓発本」を買いすぎない

 私自身、自己啓発系にカテゴライズされる本を出版させていただいたことがあるので、こんなことを言うのははばかられるのですが…。自己啓発本というのは「即効性のある強壮剤」のようなものだと考えています。必要なタイミングで、必要とされるスキルを磨くために読むのであれば、ご自身の成長に大きく寄与することは間違いありません。ただ、あくまでも「補助的存在」として考えないと、自分の行動を自分の考えで決められなくなってしまう可能性があります。

「この場面で、あの本ではどうするって書いてあったっけ?」とか「こういう状況での行動パターンって、あの本で説明されていたな」とか、自分の考えよりも先に本に書いていることに意識が行ってしまう癖がつくと、自分の頭で思考する能力が衰退してしまうのではないかと思っています。ですので、自分の考え方や行動パターンを決めるための参考として、しっかり咀嚼・吸収することが大事になります。自己啓発本は、片っ端から読み漁って全部を身につけようなどと思わず、取捨選択しながら自分に合ったメソッドを取り入れる、くらいにしておくのがよいと思います。

・「名著」はとりあえず読んでおく

 ビジネスパーソンの共通語となっているような本は、とりあえず目を通しておくことをお勧めします。例えば、『マネジメント』(ピーター・ドラッカー)、『企業参謀』(大前研一)、『7つの習慣』(スティーヴン・コービー)、『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット)などです。内容の素晴らしさもさることながら、中で使われている用語がしばしば「ビジネス上の共通語」として使われたりすることもあるからです。

「マネジメント」という言葉が一般的にいう「管理業務」とは違うことはドラッカーが繰り返し本の中で語っていますし、双方にとってプラスとなる状況を「Win-Win」と表現するのは、『7つの習慣』を読んだ人であれば常識となっています。いずれの作品も最新事情を追加したり理解しやすく噛み砕いて再編集された「エッセンシャル版」が出ているので、こうした本を活用してとりあえず用語を押さえておくだけでもずいぶん違うと思います。なんとなく読む機会を逸してしまった…と思っている人は、何かを始めるのに最適な今の時期に、ぜひ書店で手を伸ばしてみてください。

・雑誌は選択肢の振り幅を大きくする

 世の中には、数多くの雑誌・週刊誌が出回っています。私も多くの雑誌を読みますが、なるべく幅広く読むようにしています。例えば、同じ政治や経済の同じトピックであったとしても、雑誌によってはまったく違う取り上げられ方をします。いわゆる「堅め」の媒体で政治の記事を読んだら、場合によっては下世話とも言えるような大衆紙で同じ話題の扱いを比べる、といった具合です。

 具体名で言えば、『選択』という通販のみで手に入るかなり硬派な政治経済系の雑誌があります。この雑誌でトランプ大統領に関する記事を読んだ後に、『週刊プレイボーイ』や『SPA!』などを読むわけです。記事中で扱う人物は同じでも、書かれる記事の詳細さや観点は全く違います。

 こうした思考の振れ幅を楽しむのも雑誌の読み方としてアリかな、と考えています。グローバル仕事人に必要なのは「多様な価値観の理解」ですから、様々な視点を雑誌という媒体を通じても感じ取るのが大事だと思っています。

 この記事を読んでくださっている主に男性読者の皆さんがひとつだけ気を付けるとしたら、大衆男性誌のグラビアページなどは電車内で決して開かないようにしましょう。そうするとグローバル仕事人以前の問題になってしまいますので(笑)。

「Web閲覧」は
責任の所在・記事の目的を見極める

 インターネットは、多くの人を情報発信者と変えました。世の中に出回っている電子データの90%以上は、この3年の間に生まれたとも言われるくらいです。多くの人々が情報発信者となり、結果としてWebの情報は玉石混交となっている状態です。ビジネスだけではなく、政治や教育、芸能などの情報が、数多く発信され消費・浪費されている毎日です。その中でいかにして情報を得て、自分の仕事に生かしていくのか。グローバル仕事人として非常に大事な振る舞いです。

 Webのライターという職業は、参入障壁が低い分、記事のクオリティには大きな差があります。私の知人には、とても緻密・丁寧な取材をしてかつ極めて正確・公平な記事を書いている人もたくさんいます。その一方で、最近問題なっているような盗作や思い込みによる記事を書き流している人々がいるのも事実です。ですので、Web上での情報収集は細心の注意を払う必要があります。どのように情報を選択していけばいいのか、澤なりの考えをお伝えします。

・「情報ソースは実名入りか」を確認するのは最低条件

「関係者によると」「詳しい情報筋によれば」という情報は、基本的に「参考情報」以上の扱いを決してしないようにしましょう。発信されている情報に実名が入っていない場合、誰もその記事に対して責任を持つことはありません。責任を持たれることのない情報はすべて「怪情報」と思った方がいいでしょう。そのような情報を目にしたときは、

「この記事に対して誰が責任を持つのか」
「どのような経緯でこのライターが記事を書いているのか」
「このような書き方をすることで、得をする人・損をする人は誰か」

 といった点に着目します。世の中の記事は何のために存在するかといえば、たいていの場合「PV(ページビュー)を稼ぐ」のが主目的であり「正しい情報を正しく伝える」ことをトッププライオリティに置いているかどうかは別問題だったりします。

 もちろん私が書いているこの記事についても「多くの人に読んでもらう」のが主目的です。そして、すべての記事は澤自身で考えたものや直接見聞きした事象を文字にして表すというスタイルです。つまり、私はすべての記事に対して責任を持つことができる状態です。となると「嘘でもいいのでキャッチーな言葉を使って人の耳目を集める」という行動を取ると、実名を出している私は信頼を落とすだけで、何一つ得るものはありません。

 そう考えると政治や芸能人のスキャンダルネタは、ほとんどが実名のない伝聞での記事であり、信ぴょう性が高いものはそれほど多くありません。そのような信用度が高くない記事に思考の時間を費やすのは、極めて非効率であると言わざるを得ません。

・SNSはさらに注意を

 特に信ぴょう性の問題が顕著に出るのは、FacebookやTwitterなどのSNSの投稿です。SNSは、デマやガセネタの宝庫です。そして、発信者の意図とは別に記事が解釈されて拡散していくという特徴もあります。SNSからの情報収集も同様に3つのポイントを押さえて読むようにしたいものです。

「この投稿に対して投稿者は責任を持つのか」
「どのような経緯でこの投稿しているのか」
「このような投稿をすることで、得をする人・損をする人は誰か」

 SNSは、グローバル仕事人が活用すると大きな得をするツールである一方で、リスクの高いプラットフォームにもなりえるものです。SNSをテーマに、別途記事を書いてみたいと思います。

「人との会話」でものの見方や理解のプロセスを磨く
年次で態度を変えるのは思考の浪費

 人は、人との会話によって最も知的好奇心が満たされる、というのが澤の持論です。本やWebの記事はもちろん価値があるものですし、効率的という点ではぜひとも活用したい媒体でもあります。その一方で人と会話をするというのは「時間と言葉を共有する」というとても手間とコストの掛かる行為であり、そこで得られるものは「大いなる体験」として心にしっかりと残るものです。ぜひ多くの人と会話を楽しんでいただきたいと思います。その際に、押さえておきたいいくつかの観点をお伝えしたいと思います。

・全く違うコミュニティーの人たちと会話する

 普段仕事をしていると、同じ人とばかり話をすることが多くなります。ホワイトカラーの職業の人であれば、上司や部下、席の近い同僚などと、朝から晩まで長時間一緒に過ごし、ほかに会話をした相手といえばコンビニの店員さんくらい…という経験がある人も多いことでしょう。接客業なら数多くの人と会話することになりますが、間に商品やサービスがあるため「価値の提供のための会話」が主となり、あまり自分の知的好奇心を満たすレベルまで深く話すことは少ない印象です。そうなると、「異なる価値観を持つ人たちから受ける刺激」が少なくなる傾向になりそうですね。

 そこで提案です。ぜひとも「異なる価値観が交じり合うコミュニティー」に積極的に参加しましょう。

 手段はたくさんあります。地域のボランティアに参加してもいいですし、オープンに人を募集しているサークルに入るのもよいでしょう。あるいは、テクノロジーの力を使って「オンライン英会話」などで異国の人たちと会話するのもいいですね。

 いずれにせよ、自分の行動パターンや思考パターンと全く違う人たちと多く触れ合うのが非常に効果的だと思います。私の場合も、いくつかのコミュニティーに属しており、様々な刺激を受けています。

・スキースクールのインストラクターの仲間
・空手道場の師匠や弟弟子(おとうとでし)たち
・茶道のコミュニティー
・スタートアップ企業のサポーター仲間
・琉球大学の学生たち
・マンションの理事会
・妻のアート関連の仲間たち(妻は現代アートの造形作家)

 こういった幅広い人たちと言葉を交わすことで、まったく違うものの見方や理解のプロセスが得られます。「おぉ、その発想はなかった!」という発見を楽しむかどうか、これがグローバル仕事人の会話術の秘訣ですね。

・なるべく幅広い年代とフラットに触れ合う

 日本における会話で日常的に聞くのが、

「今何歳?」
「何月生まれ?」
「何年卒?」
「入社は何年度?」

 といった「年次にかかわる質問」です。これはすなわち「一年ごとにヒエラルキーが存在している」ということを前提にした質問と言ってもいいでしょう。

 共通の知人や話題を探すための質問であればまだいいのですが、「あ、一年自分の方が早く入社しているからタメ口でいいな」とか「こいつは3年下か、ちょっと先輩として教えてやるか」となど、過ごした時間を何よりも重視して考える人もいますよね。

 グローバル仕事人として大事なのは「人材の価値は年次ではなく経験とアウトプットで決まる」という考え方であると私は思っています。年次が自分よりも下でも、優秀な人材であれば私を使う側に立ってほしいと思いますし、ずっと先輩でもパフォーマンスを高める努力をしない人に対しては、無条件で尊敬などしません(ちなみに、今のマイクロソフトの日本法人の平野社長は高校の後輩です。究極の年次逆転現象だと思ってよくネタにしています(笑))。

 私なりに気を付けているのは「相手の年次にかかわらず、フラットにお付き合いする」ということです。これは、誰に対してでも馴れ馴れしくするとかタメ口で話すということではありません。相手が若くても高圧的に出ることなく、相手が年上だからといって、やたらとへりくだった言葉遣いをすることもない、ということです。

 誰に対しても「フラットに尊敬の念をもって対峙する」という意識を強く持つように心掛ければ、つまらないコミュニケーションエラーを起こすこともありません。また、「誰に対してもフェアな人」というブランドを持つことができるようになります。これこそが、グローバル仕事人として必要不可欠な要素の一つです。

 そのために手っ取り早い方法を一つ。

 とりあえず誰に対しても必ず「さん付け」で呼ぶようにすることです。

 社内の規定で「役職名」で呼ぶことをルール化しているのであれば、それに従う方がスムーズでしょう。また「先生」と呼んだ方がいい相手であれば、そうするのも大人のたしなみですね。

 しかし、そのようなルールが存在しないのであれば、誰に対しても「さん付け」で呼ぶ習慣をつけるだけで意識はずいぶん変わります。「この人は年下だから『くん付け』でいいや」とか「ここは先輩の威厳を見せるために呼び捨てにしよう」とかいうことに意識を使うのは、思考の浪費だと思います。むしろ全員を「さん付け」にして、より近しい存在になったり親しみを込めて呼びたくなったら「〜〜くん」や「〜〜ちゃん」と変えてもいいでしょう。

 ただ、相手がどう思っているのかを確認せずに自分の「こうあるべき」だけで何かの行動を起こすのは、2月9日の私の記事『なぜ日本人は「べき論」を振りかざして衝突するのか』でもご紹介した通り、怒りによるコミュニケーションエラーの原因にもなります。違う価値観をフラットに受け入れる練習として、呼び方を変えてみてはいかがでしょうか。そうするだけで、年下の相手は胸襟を開いて会話をしてくるようになり、今までにはなかった若い人たちの視点を得ることができ、知的好奇心を満たす一助となることでしょう。

 私は最近「リバースメンタリング」という、若手の人たちにメンターをやってもらう取り組みを始めました。とても多くの学びがあり、刺激を大いに受けることができています。そこでの学びも、ぜひこの連載の中でご紹介したいと思います。

 (日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター センター長 澤 円)
http://diamond.jp/articles/-/125463


 


【第17回】 2017年4月20日 近藤宣之
社内を劇的に変えた「今週の気づき」とは

◎倒産寸前「7度の崖っぷち」から年商4倍、23年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロ!
◎「赤字は犯罪」&「黒字化は社員のモチベーションが10割」と断言!
◎学歴、国籍、性別、年齢不問! ダイバーシティで女性管理職3割!
◎「2-6-2」の「下位20%」は宝! 70歳まで生涯雇用!
……こんな会社が東京・西早稲田にあるのをご存じだろうか?
現役社長の傍ら、日本経営合理化協会、松下幸之助経営塾、ダイヤモンド経営塾から慶應義塾大学大学院ビジネス・スクールまで年50回講演する日本レーザー社長、近藤宣之氏の書籍『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』が話題。発売早々第4刷となった。
なんと、政府がこれから目指す施策を20年以上前から実践している小さな会社があった! 「7度の崖っぷち」からの大復活! 一体、どんな会社なのか?

「今週の気づき」は
自分が成長するための決意表明


近藤 宣之(Nobuyuki Kondo)
株式会社日本レーザー代表取締役社長。1994年、主力銀行から見放された子会社の株式会社日本レーザー社長に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで23年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。2007年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託社員が株主となる日本初の「MEBO」を実施。親会社から完全独立。現役社長でありながら、日本経営合理化協会、松下幸之助経営塾、ダイヤモンド経営塾、慶應義塾大学大学院ビジネス・スクールなど年50回講演。東京商工会議所1号議員。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、東京商工会議所の第10回「勇気ある経営大賞」、第3回「ホワイト企業大賞」など受賞多数。
【日本レーザーHP】 www.japanlaser.co.jp/
【夢と志の経営】 info.japanlaser.co.jp/
 社員のモチベーションを高めるためには、社長(あるいは上司)が、個々の社員と向き合う必要があります。

 そこで、2007年から、「今週の気づき」という仕組みを取り入れています。

 人が「気づき」を得るのは、多くは「トラブルに見舞われたとき」です。
 したがって、「今週の気づき」では、「どのようなトラブルがあったのか」「そのトラブルに対し、どう対処していくのか」を全社員が報告します。

 「今週の気づき」は全社員が毎週末(原則金曜夜)までに、「その週に自分が気づいたこと」について、自分の上司・担当役員にメールで報告をします(ほかの役員や同僚にもCCで同報)。

 業務上のトラブルだけではなく、日常生活での失敗、ミス、病気、ケガ、不快な出来事など、内容は何でもかまいません。

「今週の気づき」を受け取った上司・担当役員は、必ず返信し、フィードバックします。

「今週の気づき」の成果は、おもに「4つ」あります。

【成果1】社員の成長を促す

「今週の気づき」は、「どのようにトラブルを受け止めたか」「今後の成長にどのように活かすか」を考える思考ツールです。

「気づいたことを文章化する」「上司からのフィードバック(他人の意見)に耳を傾ける」といった作業が成長の糧になります。

「お腹を壊した」「二日酔いになった」など、内容は何でもいいのですが、「単なる業務報
告はダメ」というルールを設けています。

「今週の気づき」は、自分が経験したり、見聞きしたりした出来事に対して、評論的にコメントするのではなく、自分の「決意」を表明するものです。

「そうしたいと思います」と感想を記したものについては、「したい」ではなく、「そうします」と書き改めるように指示します。

×「年度末までに、1億円の受注を獲得したいと思います」
◯「年度末までに、1億円の受注を獲得します」

「そうします」よりもさらに成長につながるのは、「なりました」と過去形で書くことです。

◎「年度末までに、1億円の受注を獲得しました」

 事実、過去形で書くことで、「達成するまでのプロセス」をイメージしやすくなるため、実現の可能性が非常に高くなります。

【成果2】社内のコミュニケーションが円滑になる

 当社のような社員55人程度の企業でも、全社員の業務上のトラブルや家族の現状を知ることは結構難しい。

 でも、「今週の気づき」を読めば、「社員がどのような日常を送っていて、どんなことを考えているのか」を把握できます。

 こうした情報は、社員とのさりげない会話に役立てられます。

 社員に笑顔を見せて、会社の空気を明るく楽しくやさしくするのも、社長の大切な仕事。
上司がメールに書かれてあった話題を持ち出すことで、部下とのコミュニケーションを円滑にできます。

【成果3】次期経営者を見極める手段になる

 社員のメールとそれに対する上司・役員の返信は、社長の私にもCCで同報するルールなので、毎週100〜125通ものメールが私にも送られてきます。

 私はすべてのメールに目を通していますが、「部下にどのような返信をしたか」によって、役員の視点がわかります。

 経営者(次期経営者)には、次の3つの能力が必要です。

・「経営力/英語力」
・「担当事業での実績」
・「誰もがついていきたいと思うような人徳」

 部下への返信の内容を見ていると、「社員とどれだけ真剣に向き合っているか」がわかるので、役員の「人徳」がわかります。

 したがって、どの役員が部下から信頼されているのかを見極めることができるのです。

【成果4】企業理念や経営方針が浸透する

「今週の気づき」を開始して3年間は、私が土日のほとんどを費やして、すべてのメールに返信をしていました。

 現在は、業務が多忙になったこともあって役員が返信していますが、経営理念や経営方針に関わる内容については、社長からも対応するようにしています(全社員に同報)。

 そうすることで、「社長が大切に思っていること」が伝わり、会社の理念が浸透するのです。

近藤 宣之(Nobuyuki Kondo)
株式会社日本レーザー代表取締役社長。1944年生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、日本電子株式会社入社。28歳のとき異例の若さで労働組合執行委員長に推され11年務める。そこで1000名のリストラに直面した後、取締役米国法人支配人、取締役国内営業担当などを歴任。1994年、その手腕が評価され、債務超過に陥り、主力銀行からも見放された子会社の株式会社日本レーザー代表取締役社長に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで23年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。社員数55名、年商約40億円の会社ながら、女性管理職が3割。2007年、社員のモチベーションをさらに高める狙いから、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託社員が株主となる日本初の「MEBO」(Management and Employee Buyout)を実施。親会社から完全独立する。現役社長でありながら、日本経営合理化協会、松下幸之助経営塾、ダイヤモンド経営塾、慶應義塾大学大学院ビジネス・スクールなどでも講師を務め、年間50回ほど講演。その笑顔を絶やさない人柄と、質問に対する真摯な姿勢が口コミを呼び、全国から講演依頼が絶えない。東京商工会議所1号議員。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」を皮切りに、経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」「『おもてなし経営企業選』50社」「がんばる中小企業・小規模事業者300社」、厚生労働省の「キャリア支援企業表彰2015」厚生労働大臣表彰、東京商工会議所の第10回「勇気ある経営大賞」、第3回「ホワイト企業大賞」など受賞多数。
【日本レーザーHP】 http://www.japanlaser.co.jp/ 【夢と志の経営】 http://info.japanlaser.co.jp/
http://diamond.jp/articles/-/122253  

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コメント
 
1. 2017年4月21日 19:06:17 : C0CDFiDX8E : 0W5ley3lsOA[134]
勤勉も 弱味を突けば 枷になり

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