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「トランプの壁」建設の入札に群がる企業の思惑 「FBIと大統領の喧嘩」の悪夢 オバマの罪と罰
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/779.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 3 月 30 日 00:59:36: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

「トランプの壁」建設の入札に群がる企業の思惑

The Economist

登録企業の約1割はヒスパニック系オーナー
2017年3月30日(木)
The Economist


メキシコ国境の壁にペンキを塗ることで抗議する人々(写真:AP/アフロ)
 米大統領選のさなか、ドナルド・トランプ氏の支持者が何より熱狂的に叫んだスローガンは「国境に壁を!」だった。そして今、建設業界はそれに負けないくらいの熱気に包まれている。

 3月下旬、米国税関・国境警備局(CBP)はメキシコ国境に建設する予定の壁について、入札希望業者向けに2件の提案依頼書を公開した。この壁の建設費用は120億〜250億ドル(約1兆3300億〜約2兆7600億円)にのぼると見込まれている。設計案の提出期限は3月29日。

 依頼項目の1つは堅固なコンクリート製の壁、もう1つは強化コンクリートに代わる「代替資材」を使った壁だ。使用する建設材を何にするかについて、政府はどうやら最終的な決定を下していないようだ。

ヒスパニック系がオーナーの地元企業も参加へ

 この事業の請負契約を勝ち取ろうと、700を超える企業が登録を終えた。その範囲は大手ゼネコンから資材販売業者、照明・監視システムを扱うニッチな業者まで多彩だ。驚く向きもあろうが、入札している企業の約1割は、ヒスパニック系がオーナーの地元企業だ。提示された報酬額に惹かれて参加しているのだろう。

 国境の両側に工場を持つメキシコのセメント大手セメックスは、この事業向けにセメントは販売しないと言っているが、以前は入札に関心を示していた。他に小規模なメキシコ企業が1社、照明サービスの提供を申し出ている。

 この他、外国企業として南アフリカのSAフェンス&ゲートやスペインのクイックフェンスなどが入札に参加する。ただし、こうした外国籍の企業は選ばれない可能性がある。なぜなら政府の入札基準は「バイアメリカン法」を優先すると明記しているからだ。

 建設最大手のひとつ、スウェーデンのスカンスカはこの事業に冷淡な反応を見せている。CEOのヨハン・カールストローム氏は「我々はオープンであることと公平であることを重視している」と述べた。

政治信条とビジネスの微妙な関係

 入札に参加する米国大手企業は政治を重視しないという態度をとっている。ノースカロライナ州に拠点を置く資材大手マーティン・マリエッタのハワード・ナイCEOは、単に「大規模なインフラ事業に一般的興味を持っているだけだ」と主張する。

 トランプ大統領が全国のインフラ事業に1兆ドル(約111兆円)を投入すると公約した結果、同社をはじめとする建設業者の株価は上昇した。こうした事業の計画には遅れが出る可能性もあるが、国境の壁の建設に限ってそれはなさそうだ。

 比較的小さな企業の場合、経営者の個人的な見解が事業に反映することがある。サンディエゴ近くを拠点とする請負業者グリーンフィールド・フェンスのマイケル・マクローフリン氏は、メキシコ国境の壁は「危険な麻薬密輸業者」を米国に入れさせないために必要だと言う。

 壁に関する一般要求事項は、高さが5.5メートル以上で(できれば9メートルが望ましい)、人が登ったりトンネルを掘ったりできない仕様になっていること。そして、「見た目が美しいこと」(少なくとも米国側については)。

 選考過程の第2ラウンドに進む数十社は今後、詳細な図面と技術仕様書とともに、提供しうる最安値価格を提出することになっている。最終的に選ばれる企業の数はまだ不明だが、残った企業はそれぞれが最大3億ドル(約330億円)相当の事業契約を獲得する。

サブコンや付属品業者にもビジネスチャンス

 今回の選考規定は明らかに、大手のエンジニアリング会社や建設会社に有利な内容となっている。例えばキューバのグアンタナモ湾で収容所の建設に貢献したKBR(おそらく応札すると思われる)や、ネブラスカ州のキーウィットなどだ。こうした企業には最高の設計技術と一流の建設管理チームに加え、資材供給業者にごり押しできるだけの力がある。

 だが規模の小さな企業であっても、より大きな元請業者の下請けとなることで利益を得ることが可能だ。サウスダコタ州で家族経営の事業を営むマクダート・エクスカベーションのアンドリュー・ドーフシュミット氏は政府との契約を勝ち取った企業に掘削サービスを提供したいと考えている。

 そのほか、壁そのものの建設には関心がなく、「戦術的インフラおよび技術」として知られる国境の壁向けアクセサリーの販売機会を狙う企業もある。アクセサリーとは照明設備や監視台、遠隔ビデオ監視システムなどのことだ。

 こうした企業のひとつである2020サーベイランスは、完成した壁には60メートルごとに監視カメラが設置されると推測する。カメラ1台あたりの年間ライセンス料が数百ドルだとして、壁の全長分(1610km)に監視サービスを提供する場合、壁が活用される限り業者には毎年1000万ドル(約11億円)の収入が発生する。

立ちはだかる私有地の存在

 潜在的な応札者はこのように強い関心を示している。その一方で、建設のスケジュールについては予測が立たないことも考えられる。一例を挙げると、企業の経営者たちは国境の壁が多くの私有地を横切ることに気づいている。政府は私有財産を政府に強制的に譲渡させる土地収用措置を行使することもできるが、立ち退きを余儀なくされた地主と正当な補償で折り合いをつける作業は、法律面でしばしば頭痛の種となる。

 政府からの支払いを受け取るのにも期間を要するかもしれない。トランプ政権が立案した「スキニー・バジェット(やせた予算)」で予算措置が講じられているのは壁の建設費用のほんの一部分にすぎない。メキシコは建設費を出さないことを決めている。

 支払いの遅れを気にしない者もいるだろう。トランプ大統領が声高に叫ぶこの事業に参加することは、今後も続く巨額なインフラ投資の分け前にあずかる賢明な方法なのだ。壁の建設が実現すればの話だが。

© 2017 The Economist Newspaper Limited.
Mar 25th-31th | From the print edition, All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


このコラムについて

The Economist
Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。
記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/032800128

 


池上×手嶋対談「FBIと大統領の喧嘩」の悪夢

著者に聞く

ジャーナリスト2人がインテリジェンスを語る(前編)
2017年3月30日(木)
清野 由美

 プーチン政権下で帝国化を目論むロシアと、トランプ政権で好戦的な姿勢を強めるアメリカの対立は、ますます複雑、深刻になっています。その背後には海洋大国を目指す中国の存在があり、朝鮮半島では北朝鮮の挑発ぶりがエスカレートしています。緊張が高まるなか、大国に挟まれる日本が、とるべき外交戦略は何か? 手嶋龍一さんと池上彰さん、情報に通じた当代のジャーナリスト二人は、何を語るでしょうか。(文中敬称略)

『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』(マガジンハウス)
世界のVIPを震え上がらせた「パナマ文書」、告発サイト「ウィキリークス」の主宰者アサンジ、CIAの国家機密を内部告発したスノーデン、詐欺師の父を持ち、スパイからベストセラー作家に転身したジョン・ル・カレ、銀座を愛し、ニッポンの女性を愛した、20世紀最高のスパイ・ゾルゲ…古今東西、稀代のスパイはみな、人間味あふれる個性的なキャラクターばかり。人間味あふれるスパイたちが繰り広げるドラマチックなストーリーは、同時に、今の時代を生き抜くために欠かせない、インテリジェンスセンスを磨く最高のテキストだ。巻末には手嶋龍一氏が自らセレクトした、「夜も眠れないおすすめスパイ小説」ベスト10付。
池上:手嶋さんは最近、『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師 インテリジェンス綺人伝』を執筆されました。さすがインテリジェンスワールドを書かせたら右に出る者がいない、と言われるだけあって、大変面白く読みました。手嶋さんはNHK時代の同僚でもあるし、「インテリジェンスのいま」について、ぜひ一度語っておきたかった。いま、ちょうど、アメリカではトランプ大統領が、FBI(米連邦捜査局)やCIA(米中央情報局)ら、自分の国の情報機関と喧嘩していますよね。手嶋さんは、あれをどう見ているか、最初に聞いておきたいのですが。

手嶋:情報の世界は二重底、三重底になっています。トランプ政権の問題を見ていく前に、まず米大統領と情報機関の関係を知っておく必要があるのですが、それを簡潔に、明晰に説明するのがなんとも難しいのです。

そもそも、「トランプ大統領とFBI、CIAとの喧嘩」とは、どのようなものなのでしょうか。

池上:トランプとFBIとの喧嘩の発端は、昨年の米大統領選挙において、ロシアが民主党、共和党双方のメールシステムをハッキングしたことにあります。

 それによって、ロシアは両陣営の候補にとって不利な情報を握ったわけですが、アメリカの大統領選では、民主党候補だったヒラリー・クリントン陣営に不利な内容だけを拡散した。そうやってトランプ当選に恩を売りつつ、トランプが当選した後は、トランプに不利な内容を使って、アメリカの新しい大統領に圧力をかける意図だった、とされています。

 「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」といった、アメリカの有力紙が報じたことから、問題が表面に浮上しましたが、トランプは「フェイク(嘘)ニュースだ」と、いつものように激怒のツイートを発しました。ところが、3月20日の米下院情報特別委員会では、FBIのコミー長官が、トランプ陣営とロシアとの疑惑について、捜査を進めていることを認めてしまった。

それは異例なのですか。

池上:はい。アメリカのインテリジェンスを司る一角、FBIの長官が、公に、自らの国のリーダーである大統領の疑惑を語る。これは大変異例な展開といっていい。


手嶋 龍一(てしま・りゅういち)
外交ジャーナリスト・作家。1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。元NHKワシントン支局長。2001年の9.11テロ事件では11日間にわたる24時間連続の中継放送を担当。自衛隊の次期支援戦闘機をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て』、湾岸戦争での日本外交の迷走を活写した『外交敗戦―130億ドルは砂漠に消えた』(共に新潮文庫)は現在も版を重ねるロングセラーに。NHKから独立後の2006年に発表した『ウルトラ・ダラー』(新潮社)は日本初のインテリジェンス小説と呼ばれ、33万部のベストセラーとなる。2016年11月に書下ろしノンフィクション『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師-インテリジェンス畸人伝』を発表。(写真:大槻純一、以下同)


手嶋:いまさら池上さんを持ち上げる必要はないのですが、池上さんの説明は正確です。昔から、込み入った事態を前にすればするほど、明晰に解説しないではいられないジャーナリストでしたね(笑)。今日の対談も冒頭から本領発揮です。

池上:いやいや、なんですか、それは。褒めてもらっている気がしませんが。

「インテリジェンス」の訳語がない

手嶋:2010年に「BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)」が、メキシコ湾で原油の流出事故を起こした直後のことです。ふたりで環境外交に関する本を編んだのですが、ラジオでその解説を収録した際に、「手嶋さん、いまの説明には二つ傷があります」と、指摘されたことがあります。

 一つ目は、「手嶋さんはBPを英国企業と言いましたが、もはや多国籍企業です」と。二つ目は「『米大統領のオーバルオフィス』なんて言っても、一般の人には分かりません。『ホワイトハウスにある大統領執務室』と表現しなければ」ということで、お叱りを受けました。解説おじさん、畏るべし(笑)。

池上:いやいや、そうでしたっけ。

手嶋:池上さんの指導を受けてからは、ニュースの解説をするときには、「池上さんに合格点をもらえるかな」と自問してやっています。とはいっても、解説魔王のようにはなかなかいきません。

池上:話を本筋の「インテリジェンス」に戻しますと…。

手嶋:はい、でも、これがやっかい。そもそも「インテリジェンス」には、適切な日本語の訳語がないのです。ということは、「インテリジェンス」という考え方が、この日本に根付いていないわけですね。

手嶋:雑多で膨大な「情報」は、英語では「インフォメーション」。「インテリジェンス」とは、その雑多で膨大な情報の海から貴重な宝石の原石を選び抜き、分析し抜き、彫琢し抜いた、その最後のひと滴を指すのです。

 このように、「インフォメーション」と「インテリジェンス」は、似て非なるものですが、日本語にしてしまうと、ともに「情報」になってしまいます。

 「インテリジェンス」とは、一国の指導者が、最後の決断を下す拠りどころになるもので、新聞情報や噂を含めた「インフォメーション」とはその重みがまったく違います。国家の舵を右にとるか、左にとるか、最後は一国のリーダーが孤独のうちに決断し、その責任を取るわけですが、その判断の拠り所となる情報こそ「インテリジェンス」です。

 日本にそうした文化が根付いていなかったのは、戦後長く超大国アメリカに安易に頼ってきたことの、一つの証左なのです。

池上:ちなみにアメリカには17ものインテリジェンス機関があるといわれています。

手嶋:CIA、FBIが有名ですが、ほかにも電波傍受を担当するNSA(アメリカ国家安全保障局)、軍の情報部であるDIA(アメリカ国防情報局)と、様々な分野の情報機関が紡ぎ出す「インテリジェンス」が一つにまとめられ、アメリカ大統領の決断を支えてきました。


池上 彰(いけがみ・あきら)
フリージャーナリスト。1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。94年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説して人気に。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中。近著に『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』(佐藤 優氏と共著、東洋経済新報社)『池上彰の「経済学」講義1 歴史編 戦後70年 世界経済の歩み』(角川文庫)『書く力 私たちはこうして文章を磨いた』(竹内政明氏と共著、朝日新書)など。

池上:そのインテリジェンス機関の代表格、かつ、カウンター・インテリジェンス(機密の流出を阻止する)組織であるFBIのコミー長官が、アメリカ議会の下院情報特別委員会という重みのある場所で、トランプ大統領とロシアの関係について捜査していることを認めた。ということは、FBIは「トランプ大統領との対決」に本気になり始めているように見えます。

手嶋:確かにそう見えます。アメリカの情報機関は冷戦期から、対ソ、対ロ強硬路線をとってきた伝統がありますから、不明朗な形でアメリカの政権がモスクワとつながっているとすれば、鉄槌を下したい思いは底流にはあるでしょう。

すみません、FBIとCIAは、情報機関としてどう違うのでしょうか。

手嶋:FBIは、アメリカ国内にスパイやテロリストが浸透してくるのを防ぐカウンター・インテリジェンス機関です。対してCIAは、海外に情報要員を配して機密情報を収集し、分析して、国家の意思決定を支えるインテリジェンス機関です。

池上:所轄は違いますが、大統領の目となり、耳となる、という点では同じです。

マイケル・フリン辞任から歯車が狂いはじめた

手嶋:その通りで、いずれも情報機関の両雄にして重要な組織です。それらを統括し、自らの決断の目となり、耳となるものを、大統領が信用しないとなったら、どうなるか――情報機関の側では、命を賭けて情報を集め、分析しなくなってしまうでしょう。

としたら、どうなるんでしょう。

手嶋:トランプ船長が舵を操る、アメリカという名の巨大なタンカーは、羅針盤もレーダーも故障して、機能していない。極めて危険なことになってしまいます。

池上:そのタンカーとは、同盟国である日本も並走しているわけですから。

手嶋:国家安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリンが辞任したあたりから、歯車が狂い始めましたね。彼が与えられたポストは、ホワイトハウスの側から情報機関を統括する要だったのですが。

池上:トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任する前に、駐米ロシア大使と電話でやりとりをしていたことが、メディアにリークされて、フリンは就任早々に辞任という、ばたばたの結果になりました。

メディアに機密情報をリークしたのは誰なんですか。

池上:普通に考えればFBIでしょうね。FBIが駐米ロシア大使の電話を盗聴しているということは、これはいわば公然の秘密ですから。

 しかし、いくら公然の秘密とはいえ、ロシアに対して「オレたちはお前のところの電話を盗聴しているぜ」と暴露するような振る舞いは、建前としてやってはいけないことです。
 ところが今回、彼らはその禁忌を破り、明らかに盗聴していることを認める形で、フリンとロシアとの接触をメディアにリークした。ということは、トランプをそこまで危険視する人たちが、大統領の目と耳である機関の中にいることを意味しています。

手嶋:アメリカ政府の情報機関が関与していたことは間違いありません。フリンといえば、昨年の11月18日に、安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーにトランプを訪ねました。この日にトランプ次期大統領は、大統領補佐官にフリンを起用し、「我がホワイトハウスの外交・安全保障はこの人が取り仕切る」と、安倍首相に紹介しました。

池上:このときは当然、トランプはまだ大統領に就任していません。これも建前になりますが、次期大統領が政権の座に就く前に、外交、安全保障に触るやり取りをすることは、これまでになかった。あり得ない行為です。


手嶋:ええ、あくまで建前ですが、そのとおりです。アメリカの情報機関は、電話やメールの傍受に手を染めていることは公然の秘密でしたが、その情報をプレスにリークするなど、ぼくらもほとんど聞いたことがない。まさしく異例の事態です。

池上:あきらかに政権中枢に、「トランプが大統領では大変なことになる」と思っている人たちがいるということですよね。だいたい、トランプは大統領選挙の最中に、ヒラリーの私用メール問題でFBIの対応を相当、攻撃しています。ツイッターでFBIのことを、あれだけあしざまに言っていたら、自分がいざ大統領になったとき、内部からの信頼を得るのは難しくなります。

 それなのに当選後も、ホワイトハウスの重要な日課であるインテリジェンスのブリーフィングを、「そんなのは時間のムダだから、週に一度か二度でいい」と切り捨てた。あれでは大統領に対する忠誠心、モラルは落ちますよね。

前大統領オバマの「罪と罰」

手嶋:そう、落ちてしまいます。そして国家を率いていく目と耳を自ら閉ざしていると言わざるをえません。その一方で、ぼくはトランプ当選を、なす術もなく見ていたオバマ大統領の犯した「罪と罰」はもっと問題にされてもいいと思います。

「オバマの罪と罰」とは、どういうことなのでしょうか。

手嶋:すべては選挙期間中から始まっていました。ロシアのGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がサイバースペースを通じて、選挙戦最中に民主党と共和党の中核にまで侵入していた。これはまぎれもない事実です。オバマ大統領は選挙期間中も毎日、インテリジェンスのブリーフィングを受けていたのですから、当然、ロシア関連の情報も受け取っていました。ならば、神聖であるべきアメリカの大統領選挙に、外国の情報機関が介入し、トランプ陣営を援護していることを、なぜ明らかにしなかったのでしょう。この件は、選挙の公正などという建前にこだわった、オバマ大統領という杓子定規な秀才の限界を露わにしてしまいました。

池上:トランプが次期大統領に決まった後にオバマは、ロシアのハッキングが大統領選の結果に影響を与えたと問題視して、国家情報長官に調査報告の取りまとめを命じましたよね。

手嶋:オバマは17年1月に25枚のペーパーを発表させました。ところが、この報告書には、大統領選で実際にロシアの介入があったエビデンス(証拠)が示されていないのです。「ロシアには先進的なサイバー攻撃体制がある」「ロシアはアメリカ政府、軍、外交など各方面で脅威となるサイバー空間の行為主体になっている」といった表現にとどまっています。

池上:それらは、当たり前のことですよね。

手嶋:ロシアのプーチン大統領の指示のもとでハッキングをしたと指摘するなら、その証拠を挙げなければいけないのに、「プーチンの指示と“思われる”」という自信なげな書きぶりです。

池上:記者が自信のないときに、よく「逃げ」で使う手ですが、それですね(笑)。

手嶋:情報世界では簡単に証拠を挙げるわけにはいかないのです。証拠を明示すれば、どんな手段で情報を集めているか、情報源を危険にさらしてしまう側面もある。そこも分かった上で、プーチン大統領のような情報のプロから見ると「ふん、しゃらくさい」と無視して終わりでしょう。

池上:プーチンにとっては痛手でも何でもなく終わった。

手嶋:アメリカという国が、とにもかくにも民主主義のリーダーとして国際社会に認められてきたのは、大統領が公正で開かれた民主的な選挙で選ばれてきたからです。その神聖であるべき選挙に、ロシアの情報機関が介入したのですから、オバマは証拠を挙げて、ロシア側を批判すべきでした。しかし彼は、選挙期間中にその決断ができなかった――オバマ大統領はいずれ歴史の審判を受けざるを得ないでしょう。

池上:ロシアにしてやられ続けた、という経緯も含めて、アメリカ政府の対ロ強硬派は、「このやろう」とロシアとトランプに恨みを溜めて、メディアにリークする。メディアが書き立てると、大統領とメディアとの関係は悪化する。そういう負のスパイラルになっています。

手嶋:いまは北朝鮮の緊張が高まり、軍事的なオプションを検討し始めています。まさに選り抜かれたインテリジェンスが求められる時期に、アメリカ大統領と情報機関の間が険悪化している。これは危険なことと言わざるをえません。

トランプ氏のリップサービスの空虚さ

池上:トランプはインテリジェンスのプロたちに敬意を示さないし、自らも意識が低くて、何かといえばツイッターで状況をダダ漏れにする。フロリダで安倍首相とゴルフをやったときに、「安倍さんから『F35(最新鋭ステルス戦闘機)を安くしてくれてありがとう』と、感謝された」なんてツィートしちゃうわけですからね。安倍さんにしたら、二人だけの話だったのに、それを垂れ流されてしまうと、日本の首相も立場がなくなりますよね。

FBIとうまく行っていないトランプ大統領。海外を司るCIAとの関係はどうなっているのでしょうか。

池上:CIAとトランプの間柄も大統領選から最悪でしたよ。CIAは対ロシア強硬派の拠点みたいなところですから、トランプが選挙期間中に唱えていたロシアとの融和なんて、到底受け入れがたい。CIAが、「トランプはロシアに弱みを握られている」といった情報を流すと、今度はトランプが「我々はナチスの時代にいるのか」と、また激烈にやり返す。

それでも大統領就任の翌日には、CIAを公式訪問して、「あなたたちを100%支持する」と、リップサービスをしていましたよね。

池上:突然CIA本部を訪ねて、入り口に幹部を集めて絶賛したのですが、それも実はハズしているんですよ。

どうしてですか。

池上:CIA本部の入口には、殉職した人に敬意を示す黒い星が飾ってあります。諜報機関だから名前を明かすことができないので、星で表す。一つの星が一人の殉職者なわけです。

手嶋:「国家のために命をかけた人々の名誉とともに」といった碑文が掲げられていてね。CIAにとっては極めて重要な精神の中枢。

池上:その殉職者たちの星を前にしながら、トランプはろくに敬意も払わないまま、「いかにして自分が大統領選で勝ったか」の自慢話をぶってしまいました。

手嶋:小さなことと思われるかもしれません。ですが、この手の機微に敏感なことは、指導者にとって、大変に大事なのです。たとえば国賓としてアメリカに招かれた人は、アーリントン国立墓地を訪れて、そこで必ず頭(こうべ)を垂れます。そうやってアメリカの歴史に敬意を払うことが、外交の重要な儀礼なのです。

 アーリントン墓地には無名戦士の墓もありますが、居並ぶ墓標には、戦争で亡くなった兵士たちの名前がそれぞれ刻まれています。CIAの黒い星は任務上、名前が入っていないのだから、その機関の人たちはなおさら強い帰属意識を共に持っているわけです。そこに鈍感な大統領ということであれば、これはもう、怒りをもって見つめるしかないでしょう。

池上:ですから、CIAは表敬訪問のときから、トランプに情報を出さなくなった、と言われています。これを聞いて、ぼくはウォーターゲート事件を思い出したんですけど。

手嶋:あれも盗聴でしたね。


池上:1972年、やはりアメリカ大統領選挙戦の最中でした。ニクソン共和党大統領の再選を目論んだ人たちが、民主党本部のあるウォーターゲートビルに盗聴器を仕掛けたのですが、盗聴器の具合が悪くて、再調整に行ったところで捕まった。当初は末端の小物によるコソ泥盗聴と思われていましたが、実は背後にはニクソンにつながる大物がいた。

 建前は別にして、インテリジェンスの世界では、盗聴はよくあることです。でも、この事件は、ワシントン・ポストのウッドワードとバーンスタインという二人の記者によって、広く世の中に知られることとなり、有権者の怒りを買ったニクソンは、大統領の任期途中で辞任という前代未聞の身の引き方をせざるを得なかった。ここでもメディアと大統領の緊張関係がありますね。

手嶋:当時、ワシントン・ポスト側に内部情報を提供した「ディープ・スロート」と呼ばれる人物が話題になりました。事件から30年以上たって、事件が「歴史」になったとき、「ディープ・スロート」は当時のFBI副長官だったマーク・フェルトだった、と本人が自ら名乗り出て、明らかになりました。

 要するに「FBIがニクソンのやり方に怒っていた」ということですが、内部情報をリークする際は、出所が絶対に分からない形でしていました。これも大統領と情報機関との関係を示す事件ですよね。

北朝鮮の姿勢は、アメリカのインテリジェンス不調の表れ

池上:いま、時代とともにリークの仕方も変わってきているでしょう。

手嶋:ジュリアン・アサンジが始めたウィキリークスと、元CIAでNSAの仕事もしていたエドワード・スノーデンの暴露、それからパナマ文書。そのいずれもが歴史を塗り変えました。とりわけウィキリークスは、告発する側にとっては極めて安全な装置です。だれがリーク者なのか、その足跡が分かった例はこれまで一つもありません。

池上:アフガンに行った米兵士のヘリ映像を明らかにして訴追された例はありましたが。

手嶋:ただ、あれがは「俺がやった」と、自分で自慢して仲間にチャットしてしまったのです。捜査当局がウィキリ―クスを対象に犯人を突き止めたわけではありません。

池上:ともあれ、インテリジェンスも、まったく新しい時代に入っていることが分かります。

手嶋:ええ。これはぼくの新刊にも書いたのですが、リークする者が安全な手法を手にして権力を告発する、というやっかいな時代に突入したことを意味します。

トランプ大統領とアメリカの諜報機関とのぎくしゃくした関係や、テクノロジーの変化とともにある「インテリジェンスのいま」は、日本にどう作用するのですか。

手嶋:「インテリジェンスのいま」を考えるうえで、現在の北朝鮮情勢は特に重要です。

 北の指導者は、アメリカ大統領の顔色を見ながら、中長距離ミサイルの発射ボタンを押すべきか否か、息をこらしてタイミングを図っています。

池上:その意味で、先日来の連続的なミサイル発射は、トランプ大統領とインテリジェンス機関とがちゃんと噛み合っていない、その悪影響を示す証拠、ということになります。

(後編に続く、進行・構成:清野 由美)


このコラムについて

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